2015年4月号

● 診療所だより
日本クラブ診療所 2015年4月 ( P. 1 / 2 )
日 帰 り 手 術
-欧米と日 本の違い 日 本 ク ラブ 診療 所に 3 年間 勤務 して 、 イ ギリ スの 医療 事情 を垣 間見 てき まし たが 、
日本と大きく異なると感じることの一つに「日帰り手術」普及率の違いがあります 。
日 本 で は、 例 えば 私 の所 属 する 大 学病院 で は 大腸 ポ リー プ 切除 ( 内 視 鏡 治療 ) は 入 院 治
療が原則でした。もちろん最近では日本でも日帰りで大腸ポリープ切除を受けられ
る施設は数多くありますが、かたやイギリスではどの施設でも「日帰り手術」が標準
治療です。また、大腸ポリープ切除どころか腹腔鏡下胆嚢摘出でさえ、イギリス(や
欧 米 ) で は「 日帰 り手 術」 で 行う こと もあ るの です から 本当 に驚 きで す 。
「日帰り手術」とは
欧米と日本の「日帰り手術」実施状況
欧米でデイ・サージェリー(Day Surgery)と呼ばれるもので、
下の表は、「日帰り手術」の実施状況について、欧米諸国と日
これまで1週間から10日ぐらいの入院で行っていた手術が、当
本を比較したもので、代表的な「日帰り手術」である、白内障、
日あるいは翌日退院できるようにしたシステムです。これまで
扁桃切除術、腹腔鏡下胆嚢摘出術、鼠径ヘルニア術、心臓カ
は手術といえば手術の数日前から入院して綿密な検査を受け、
テーテル検査の5つの「日帰り手術」の実施状況を示しています
手術後も体力が回復するまでしばらく入院治療を行う入院手術
(簗取萌氏の集計による)。欧米では「日帰り手術」が普及してい
が一般的でした。手術前後の看護が行き渡る点では良い方法な
る一方、日本では普及が遅れている様子がわかります。
のですが、入院医療費が高額となるなどの欠点がありました。
例えば白内障では、日本とドイツを除く6か国では約9割が
一方、「日帰り手術」は、宿泊代や食事代などの出費がなく、
「日帰り手術」なのに対して、日本では「日帰り手術」の比率は約
患者さんの費用負担を最少限に抑えることができます。加えて、
4割に留まっています。また、扁桃切除術は日本での実施率は
拘束時間が大幅に短縮されるため、仕事や育児で忙しい患者さ
0%ですが、アメリカでは9割を超えています。アメリカでは
んでも、病状を放置せずに手術を受けることにつながります。
すべての術式で「日帰り手術」の比率が高いですが、ヨーロッパ
では国によってかなりバラつきを認めます。意外なのは、ドイ
ツが日本同様に入院して手術するシステムである点です。
(次ページへつづく)
国別「日帰り手術」実施状況
小田木 勲 先生
日本内科学会認定医、日本消化器内
視鏡学会専門医、日本消化器病学会
専門医、日本肝臓学会専門医
日本クラブ診療所に勤務して3年。
内視鏡検査は、多くのリピーターが
太鼓判を押す腕前で好評を得ている。
腹腔鏡下
鼠径
胆嚢摘出術
ヘルニア術
検査
94.8%
53.9%
89.3%
33.4%
94.4%
70.8%
3.3%
30.4%
不明
3.5%
0.1%
0.0%
0.3%
不明
スペイン
97.2%
29.8%
4.8%
42.5%
不明
フランス
84.7%
21.2%
5.9%
45.8%
不明
スウェーデン
98.0%
57.5%
25.0%
75.4%
不明
英国
98.1%
38.2%
35.1%
65.7%
不明
日本
41.7%
0.0%
0.0%
0.7%
4.0%
国名
白内障
扁桃切除術
アメリカ
99.8%
ベルギー
ドイツ
北診療所 TEL: 020 7266 1121 Email: [email protected]
南診療所 TEL: 020 8971 8008 Email: [email protected]
URL: nipponclub.co.uk/clinic
心臓カテーテル
● 診療所だより
日本クラブ診療所 2015年4月 ( P. 2 / 2 )
「日帰り手術」は医療の質が低くなる?
今後の展望
アメリカは「日帰り手術」の比率が非常に高い国ですが、決し
日本で「日帰り手術」の普及が低い背景には、病院経営という
て医療の質が低い訳ではありません。むしろアメリカでは医療
観点から、「日帰り手術」の実施が診療報酬に結びつかない事情
の質が病院の収益に直結する仕組みのため、「日帰り手術」後の
があります。術後にすぐに帰宅させずに入院させた方が、病院
患者さんの状態を、きちんと院内で確認した上で適切に帰宅さ
の収入が多くなるため、普及が進んでいない側面があります。
せていると考えてよいでしょう。「日帰り手術」だから医療の質
に問題がある訳ではなく、実際、高福祉で有名なスウェーデン
でも、アメリカの「日帰り手術」実施比率は高い傾向にあります。
普及率がアメリカで高く、日本で低い理由
2012年度と2014年度の厚生労働省の診療報酬改定では、こ
うした状況を改善するため、一部の手術や検査で、入院が長引
くと診療報酬が一気に下がるような改定が行われました。平均
在院日数を、現状の17日から9日に短縮するのが国の方針とも
アメリカでこれだけ「日帰り手術」の比率が高い背景には、保
険制度の違いによる事情が大きいと思われます。日本の医療は
言われていますので、今後は否応なしに日本にも「日帰り手術」
の導入が活発化していくと考えられます。
国民皆保険制度です。しかしアメリカは個人個人が医療保険に
近年の時代の流れにより患者さん自身のニーズも「日帰り手
加入しており、保険料の支払いに応じて受けられる医療が限定
術」を支持する方向へ向かっていますので、今後の日本の病院
されます。保険会社は入院期間が短い方が支払いが安くて済む
経営では、経済的な判断に偏ることなく、社会的な動向にも目
ので、患者さんの希望とは関係なく、「日帰り手術」が推し進め
を向けて進めていくことが望ましいと考えられます。
られてきた側面があります。このため退院した後に、病院の近
隣のホテルに滞在して通院が行われる場合もあるのです。
(おわり)
= 新任医師ご紹介 =
宮川 佳也 (みやかわ よしなり) 先生
このたび東京慈恵会医科大学より派遣され、2015年4月から
日本クラブ診療所で勤務させていただくこととなりました。
これまで胃潰瘍や胆石、腫瘍などの消化器疾患を中心とした
診療に従事してまいりました。
特に、早期胃癌、大腸ポリープなどをはじめとする胃腸疾患を
専門にしております。
日本クラブ診療所ではこれらの病気を中心に内科全般の診療を
通じて患者様の健康維持・管理のお役に立てればと考えており
ますので、どうぞよろしくお願いします。
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北診療所「婦人科検診」 のお知らせ
担当:デルフィン医師
専門:産婦人科
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北診療所「内視鏡検査」のお知らせ
担当:小田木医師
専門:消化器内科・内視鏡
火曜日(09:30~13:00)
木曜日(14:15~15:00)
月曜日(11:00~13:00)
水曜日(11:30~15:00)
お気軽にお問合せください
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北診療所 TEL: 020 7266 1121 Email: [email protected]
南診療所 TEL: 020 8971 8008 Email: [email protected]
URL: nipponclub.co.uk/clinic
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