Alice Corporation Pty. Ltd, Petitioner v CLS Bank

Alice Corporation Pty. Ltd, Petitioner v CLS Bank International
et al.の最高裁判決について
2014年8月19日
本文書は、抽象的アイデアを含むクレームに対する特許法101条の特許適格性が争われ
た Alice Corporation Pty. Ltd, Petitioner v CLS Bank International et al.の最高裁判決
(2014年6月19日判決(以下、Alice 最高裁判決))の内容及びその影響の紹介を目
的として、以下の内容を秀和特許事務所の所属弁理士1によりまとめたものです。
1.Alice 最高裁判決(シラバス)2
2.Alice 最高裁判決(本文)3
3.USPTOメモランダム(2014年6月25日予備的審査指示)4
4.判決の影響
1
岸健司、関誠之、高田大輔、本間博行、増渕敬、増渕浩美、矢澤広伸、山田修一
上記1~3は、判決ないしメモランダムの翻訳ではなく、その内容をまとめたもので
す。
3 上記1,2のシラバス及び判決本文は以下のリンクから入手可能。
http://www.supremecourt.gov/opinions/13pdf/13-298_7lh8.pdf#search='ALICE+CORPO
RATION+PTY.+LTD%2C+PETITIONER+v.+CLS+BANK+INTERNATIONAL+ET+AL.'
4 上記3のメモランダムは以下のリンクから入手可能。
http://www.uspto.gov/patents/announce/alice_pec_25jun2014.pdf
2
1
SUPREME COURT OF THE UNITED STATES
No. 13–298
ALICE CORPORATION PTY. LTD, PETITIONER v. CLS BANK
INTERNATIONAL ET AL.
2014年6月19日
<シラバス>
申立人 Alice Corp.(Alice 社)は、
「決済リスク」(つまり合意された金融取引の一方の当
事者だけがその義務を満たすという危険)を緩和する構想を開示する特許の譲受人である。
具体的には、特許のクレームは、第三者の仲介者としてコンピュータ・システムを使用す
ることにより、2つの当事者間の金融債務の交換を促進するようにデザインされている。
訴訟のクレームは、
(1)金融債務を交換する方法、
(2)債務を交換する方法を実行するよ
うに構成されたコンピュータ・システム、および(3)債務を交換する方法を行なうための
プログラムを記録したコンピュータ可読媒体、である。
CLS BANK(CLS 銀行)は申立人に対し、問題の特許のクレームは無効、強制できない、ま
たは侵害していないとして提訴した。申立人は、侵害を主張し、反訴した。Bilski 事件の判
決後、地方裁判所は、クレームのすべてについて、抽象的アイデアに向けられているため
特許法 101 条に基づいて特許適格性が無いと判示した。連邦巡回控訴裁判所大法廷は、(下
級審の判決を)支持した。
裁判所は、特許権保護の対象となる主題を定義する 101 条には「自然法則、自然現象お
よび抽象的アイデアには特許性がない」とする暗黙の例外が含まれると長い間判断してい
た。 101 条の例外適用において、我々は、
「人間の創意工夫における『基本的要素(building
block)
』をそのままクレームした発明」と、
「基本的要素を統合し、これらを特許適格のあ
る発明に変換したもの」とを区別する必要がある。
このフレームワークを使用して、裁判所は、まず争点のクレームは特許不適格なコンセ
プトに向けられているかどうかを判断しなければならない。もしそうであれば、裁判所は
その後、クレームの構成要素を個別および「順序づけられた組み合わせ」の双方で、特許
適格な出願にクレームの性質を変換するかどうかを問う。
争点のクレームは、特許不適格なコンセプト(仲介による決済の抽象的アイデア)に向
けられている。これまでの事例(特に Bilski)によれば、クレームは抽象的アイデアに向け
られている。それらは、仲介による決済、すなわち決済リスクを軽減する第三者の使用、
のコンセプトに結論付けられる。Bilski のリスクヘッジのように、仲介による決済のコンセ
プトは我々の商習慣において広く普及している基本的な経済活動および第三者仲介者(「手
形交換所」)の使用は、現代経済の経済慣習である。このように、仲介による決済は、リス
クヘッジのように、101 条の保護範囲を超える「抽象的アイデア」である。
2
Mayo フレームワークの第 2 ステップに移る。単に一般的なコンピュータの実装を必要とす
る方法クレームは、その抽象的アイデアを特許適格な発明に変換することができない。
(i) すでに「当該技術分野でよく知られている」方法に「従来のステップを、高い一般
性で特定しつつ単に追加すること」は、この変換で要求される「創造的コンセプト
(inventive concept)」として十分ではない。一般に、汎用的なコンピュータによる実装
は、
「プロセスは抽象的アイデア自体を独占することを目指した起案努力以上である実際的
な保証」をする種類の「追加的特徴」ではない。
(ii) 代表的な方法クレームは、単に汎用的なコンピュータで実行される仲介による決済
のコンセプトを述べている。特定されていない汎用的なコンピュータを使用して、仲介に
よる決済の抽象的アイデアを適用するための命令は、抽象的アイデアを特許適格な発明に
変換するために「十分」ではない。
申立人のシステムおよび媒体クレームが実質的には抽象的アイデアに何も加えないので、
それらもまた 101 条に基づいて特許不適格である。申立人は、その媒体クレームもその方
法クレームとともに敗北を認めた。システム·クレームは、方法クレームから実体的に違い
はない。方法クレームは、汎用コンピュータ上で実装された抽象的アイデアを述べている。
システムクレームは同じアイデアを実装するように構成された一般的で少数のコンピュー
タのコンポーネントを述べている。
THOMAS 裁判官は、裁判官全員一致の判決理由を述べた。SOTOMAYOR 裁判官は、同意
意見を提出し、GINSBURG 裁判官と BREYER 裁判官も同意した。
3
SUPREME COURT OF THE UNITED STATES
No. 13–298
ALICE CORPORATION PTY. LTD, PETITIONER v. CLS BANK
INTERNATIONAL ET AL.
2014年6月19日
<本文>
本件の争点は、クレームが101条における特許適格を有するか、又は特許不適格の抽
象的アイデアであるかである。クレームは、仲介による決済に関する抽象的アイデアであ
り、単に一般的なコンピュータ実装を必要とするだけである。よって、その抽象的アイデ
アを、特許適格を有する発明に変換することはできない。以上より、米国連邦巡回控訴裁
判所の判決を支持する。
I
A
申立人 Alice 社は、金融リスクの特定の形を管理する構想を開示するいくつかの特許の譲
受人である。争点のクレームは、
「決済リスク」――例えば一方の当事者のみが、承認され
た金融取引の債務を履行してしまうリスク――を軽減するためのコンピュータ制御された
構想に関するものである。仲介者は、取引機関(例えば銀行)における当事者の現実世界
の口座の残高を反映した「シャドウ」貸借記録(すなわち、帳簿)を作る。最終的に、仲
介者は、更新されたシャドウ記録に従って、相互の債務を履行する十分な資産のある「許
可された」取引を実行するように、関係する取引機関に指示する。要約すれば、クレーム
されているのは次の3点である。
(1) 債務を交換する前述の方法(方法クレーム)
(2) 債務を交換する方法を実行するように構成されたコンピュータ・システム(シス
テムクレーム)
(3) 債務を交換する方法を行うためのプログラムを記録したコンピュータ可読媒体
(媒体クレーム)
B
2007年、CLS 銀行は、争点のクレームの無効、法的強制力の欠如、非侵害の判決を
求めて申立人を訴えた。申立人は、侵害を主張して反訴を提起した。両当事者は、 Bilski
事件の判決後に、特許法101条の特許保護の適格性についての略式判決を申し立てた。
地方裁判所は、いずれのクレームも、「リスクを最小限に抑えるため、義務の同時交換を促
進する中立的な仲介を利用する」という抽象的アイデアに向けられたものであるので、特
許適格性がないとした。
4
米国連邦巡回区控訴裁判所のパネルは、地方裁判所の判決を覆した。しかし、米国連邦
巡回区控訴裁判所の大法廷の再審理では、そのパネルの判示を破棄し、地方裁判所の判決
を支持した。10名中の7人の裁判官は、方法及び媒体のクレームが特許適格性を有さな
いことに同意した。システムクレームに関しては、半数票(5名)によって地方裁判所の
判示が支持された。
Lourie 裁判官を含む多数派(5名)は、全クレームが特許適格性を有さないとした。多
数派は、Mayo 事件の判決の下、裁判所が、まず「クレームの中に表された抽象的アイデア
を識別し」
、次に「クレームの残りは著しく超えるもの(significantly more)を追加してい
るか」を決定しなければならないとする。そして、シャドウアカウントの維持等のために
コンピュータを利用することは、クレームの抽象的アイデアに対して実質的に何も追加し
ていないとした。
Rader 主席裁判官及び Moore 裁判官は、方法及び媒体のクレームについて特許適格性が
ないとし、システムクレームについては、複雑な問題を解決するために特別にプログラム
されたコンピュータハードウェアに関連するので、特許適格性があるとした。Newman 裁
判官、Linn 裁判官、及び O’Malley 裁判官は、全てのクレームが特許適格性を有すると主
張した。
II
特許法101条には、
「新規かつ有用なプロセス、機械、生産物、組成物、または、それ
らに対する新規かつ有用な改良を発明ないし発見した者は、本条文の定める条件および要
求事項を満たすことによって、特許を受けることができる」という、特許保護の対象と主
題が定義されている。
一方で、101条には、
「自然法則、自然現象、および抽象的アイデアには特許性が無い」
という暗黙の例外が存在する。
これは、
「自然法則、自然現象、及び抽象的アイデアは、科学技術研究における基本的な
ツールであるため、これらを独占させることは、技術促進よりも、技術革新を妨げる懸念
がある」という理由による。
しかし、全ての発明は、自然法則、自然現象または抽象的アイデアをある程度のレベル
において利用している。すなわち、発明は、「抽象的な概念を伴う」という理由だけでは、
特許の対象外にはならない。新規かつ有用なゴールを達成する、このような概念に関する
「応用(Applications)
」は、特許保護の対象となりうる。
従って、101条の例外適用においては、
「人間の創意工夫における『基本的要素(building
block)
』をそのままクレームした発明」と、
「基本的要素を統合し、特許適格のある発明に
変換したもの」を区別する必要がある。
III
5
Mayo 事件の最高裁判決では、特許適格性がないとされる自然現象、自然法則および抽象
的アイデアと、特許適格性を有するこれらの応用とを区別するためのフレームワークを定
めた。
具体的には、まず、対象のクレームが、特許不適格な概念(patent-ineligible concept)
を対象とするものか否かを判断する。そして、個別及び「順序付けられた組み合わせ(as an
ordered combination)」の双方において各クレームの構成要素を考慮し、追加の構成要素
がクレームの本質を特許適格性を有する応用に変換するかどうかを判断する。
我々は、
「創造的コンセプト(発明概念:inventive concept)
」-すなわち“実施におけ
る特許が[特許不適格な概念]自体の上にある特許を著しく超える状態であることを保証す
るに十分である”構成要素又は構成要素の組み合わせ-の探索として、当該分析のステッ
プ2を述べている。
A
争点のクレームが、特許不適格な概念の一つを対象とすると結論づけられた場合、これ
らのクレームは、仲介による決済という抽象的アイデアとされる。
Bilski事件における争点クレームは、価格変動による金融リスクの回避方法について述べ
ている。クレーム1は、リスク回避のための一連のステップであり、クレーム4は、クレ
ーム1で述べた概念を、簡単な数式に当てはめる。
Bilski事件において、裁判所は、“ヘッジ取引は、我々の商業システムで長い間広く普及
している根本的な経済活動であり、Benson事件で問題となったアルゴリズム同様、特許不
適格な抽象的アイデアである”と説明した。
申立人のクレームは、第三者の仲介により、二者間の金融債務交換を行うことで、決済
リスクを緩和する方法を含む。仲介者は、各当事者が実際に所有する「取引機関」の口座
の値を反映するために、シャドウ記録を生成、更新し、当事者が十分な資金を持つ取引の
み許可する。仲介者は、各日の終わりに、取消不可の命令を取引機関に発行し、許可され
た取引を実行する。
本件クレームは、仲介による決済という概念、すなわち、決済リスクを緩和するための
第三者の利用であると言える。決済リスクを軽減するための仲介者としての「手形交換所」
の利用は、近代経済の基本的要素(building block)でもあり、仲介による決済は、101
条の保護範囲を超える「抽象的アイデア」である。
申立人は、本件クレームが、仲介による決済を記載したものであることを認めているが、
本件クレームが「抽象的アイデア」を列挙したものであるとの結論を否認する。抽象的ア
イデアに関する判例の中で、数式が存在することを挙げて、申立人は、抽象的アイデアの
カテゴリは“人間の行為を離れた原理に存在する「既存の根本的真実(preexisting,
fundamental truth(s))」”に限られる、と主張する。
Bilski事件は、申立人の主張が誤りであることを示す。リスクヘッジの概念は、「既存の
6
根本的真実」として述べることはできない。ヘッジ取引は、人間の活動を体系化する方法
であり、常に存在してきた自然界についての「真実」ではない。Bilski事件のクレームの一
つは、リスクヘッジを数式に単純化しているが、裁判所は、その事実に対して何ら特別な
意義を与えない。裁判所は、リスクヘッジは「根本的な経済活動」であるという見解によ
り、論争中のすべてのクレームは抽象的アイデアであるという結論に達した。
Bilski事件におけるリスクヘッジの概念と、ここで問題となっている仲介による決済とい
う概念との間に、意義のある差異はなく、いずれも、「抽象的アイデア」の領域に含まれ
ることに間違いはない。
B
本件クレームは仲介決済という抽象的アイデアに関するので、Mayoフレームワークの第
2ステップに進む。当裁判所の結論は、抽象的アイデアを単に汎用コンピュータで実装して
も特許適格にならない、というものである。
1
Mayoの第2ステップでは、抽象的アイデアを特許適格な発明に変換するような「創造的
コンセプト (inventive concept)」がクレーム中に存在するか調べる。抽象的アイデアを
特許適確な応用に変換するためには、抽象的アイデアの独占を計画した起案努力以上のも
のであることを保証する「追加的特徴」が必要であり、Mayo判決では、「それを応用する」
という文言とともに抽象的アイデアを単に記載する以上のことが必要であると判示してい
る。
Mayo判決の係争クレームにおける代謝物レベル測定方法は当該技術分野において周知
(well known)であり、クレームされたプロセスは「患者を治療する際に利用可能な法則を用
いるという医者への指示以上」のものではない。すなわち、知られているステップを、高
度に一般的な方法で特定するだけでは、「創造的コンセプト」には値しない。
コンピュータをクレームに記載してもMayo第2ステップの解析に変更はない。
Benson判決でのアルゴリズムは抽象的アイデアであり、当該方法は既存の通常のコンピ
ュータによって実行されるものであった。そして、「数学的原理を、物理的機械(コンピ
ュータ)で単に実装することは、当該原理の特許可能な応用ではない」と判示している。
同様に、Flock判決では、数学的公式を用いて警告閾値を調整して危険を知らせるコンピ
ュータ化された方法について、公式は抽象的アイデアであり、コンピュータでの実装は周
知であるとして特許不適格と判断している。この際に、「抽象的アイデアを特定の様式で
実装」すれば特許可能になるという主張を当裁判所は退けており、抽象的アイデアの利用
用途を特定の技術環境に限定しても抽象的アイデアの特許化禁止の原則は回避できないと
いう命題に合致する。
Diehr判決では特許適格と判断されているが、それはコンピュータが用いられているから
7
ではない。クレームは、「周知」の数式を利用しているが、「熱電対」を用いてゴム用金
型内部の温度を定期的に測定・記録し、これに基づいてゴム形成時間を繰り返し算出して
いる。この追加的なステップがプロセスを数学公式(抽象的アイデア)の創造的応用
(inventive application)に変換すると判示している。
これらの事件は、汎用コンピュータの利用を単に記載するだけでは特許不適格な抽象的
アイデアを特許適格のある発明に変換するものではないことを判示する。「それを応用す
る(apply it)」という文言の追加や、抽象的アイデアの使用を特定の技術的環境に限定す
ることが、「抽象的アイデアをコンピュータ上で実行する」という単なる指示と等しけれ
ば特許不適格である。この判断は、我々の101条判例法を補強するプリエンプション関
連と調和する。
コンピュータは「純粋な概念領域ではなく、必ず物質界に存在する」という申立人の主
張は論点を外している。コンピュータが有形なシステムであることに争いはないが、それ
だけで特許適格と判断するならば、出願人は任意の物理的原理や社会科学的原理を特許適
格クレームにすることができ、したがって「自然法則、自然現象、および抽象的アイデア
は特許不適格である」という規定を骨抜きにしてしまう。
2
本件の代表的な方法クレームに関連する論点としては、クレームが、ただ単に実行者に
一般的なコンピュータ上での仲介による決済の抽象的アイデアを実行するよう指示を出す、
以上のことをしているか否かであるが、していない。
クレームの要素を分けると、プロセスの各ステップにおいてコンピュータで実行される
機能は全く平凡なものである。
これらの機能はすべて、十分理解され、ありふれており、平凡な活動であり、産業にお
いて既に知られている。
要するに、各ステップは、一般的なコンピュータの機能を一般的なコンピュータに実行
させる要求、以上のことをしていない。
「順序付けられた組み合わせ」と見なされた申立人の方法に係るコンピュータのコンポ
ーネントは何も加えておらず、各ステップを分割して検討すると何も存在しない。そして、
全体として、申立人の方法クレームは、一般的なコンピュータによって実行される仲介に
よる決済の概念を単に記載しているに過ぎない。また、この方法クレームは、コンピュー
タ自体の機能の改良、或いは、他の如何なる技術または技術分野における発展に影響があ
るとの主張をしていない。
それどころか、争点の方法クレームは、特定されていない一般的なコンピュータを使用
した仲介決済の抽象的アイデアを適用するための指示を著しく超えるものが何もなく、抽
象的アイデアを特許適格性のある発明に変換するために不十分である。
8
C
コンピュータシステムおよび記録媒体に関する申立人のクレームは、実質的に同じ理由
で失敗に終わった。申立人は、媒体クレームも方法クレームと共に敗北を認めた。
システムクレームについて、申立人は、特有のコンピュータ化された機能を実行できる
ようにした特殊なハードウェアがクレームに記載されていることを主張したが、システム
クレームは実質的に方法クレームと差異がないとされた。
方法クレームは一般的なコンピュータ上で実行される抽象的アイデアを記載しており、
システムクレームは同じアイデアを実行するように設定されたほんの一握りの一般的なコ
ンピュータのコンポーネントを記載している。
当裁判所は、101条における特許適格についての解釈が、起案者の技術に左右される
ということについて長らく警鐘を鳴らしてきた。システムクレームが特許適格性を有する
とする判決が厳密にその結果となる。
申立人のシステムクレームおよび媒体クレームは、実質的には根本的な抽象的アイデア
に何も加えないので、それらもまた101条の下で特許不適格である。
このような理由で、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の判決は支持された。
9
<参考>
争点となったクレーム33(方法クレーム)及び参考訳
A method of exchanging obligations as between
当事者間において債務を交換する方法
parties, each partyholding a credit record and
であって、各当事者は、取引機関におい
a debit record with an exchange institution,
て売掛記録と買掛記録とを有し、予め定
the credit records and debit records for
められた債務の交換をすべき売掛記録
exchange of predetermined obligations, the
と買掛記録とを有し、次のステップを含
method comprising the steps of:
む方法:
(a) creating a shadow credit record and a
(a)独立して保持されるシャドウ売掛
shadow debit record foreach stakeholder party
記録及びシャドウ買掛記録を、監督機関
to be held independently by a supervisory
が取引機関から利害関係当事者ごとに
institution from the exchange institutions;
生成し;
(b) obtaining from each exchange institution a
(b)各々のシャドウ売掛記録及びシャ
start-of-day balancefor each shadow credit
ドウ買掛記録ごとに、一日の始まりにお
record and shadow debit record;
ける残高を各々の取引機関から入手し;
(c) for every transaction resulting in an
(c)すべての取引債務をもたらす経済
exchange obligation, thesupervisory institution
活動について、監督機関は各取引結果で
adjusting each respective party’s shadow credit
各当事者のシャドウ売掛記録とシャド
record or shadow debit record, allowing only
ウ買掛記録を調整し、常に、シャドウ売
these transactions that do not result in the
掛記録の値がシャドウ買掛記録の値よ
value of the shadow debit record being less
りも低くならない取引のみを許可し、順
than thevalue of the shadow credit record at
に各調整を行い;
any time, each said adjustmenttaking place in
chronological order, and
(d)
at
the
end-of-day,
the
supervisory
(d)一日の終わりに、監督機関は取引
institution instructing on[e] of the exchange
機関に、許可された取引の調整に従っ
institutions to exchange credits or debits to the
て、各当事者の売掛記録及び買掛記録に
creditrecord and debit record of the respective
振込み又は引落しを交換するように指
parties in accordance with theadjustments of
示し、振込み及び引落しは取消不能であ
the said permitted transactions, the credits
り、取引機関における時不変の債務であ
and debitsbeing irrevocable, time invariant
る。
obligations placed on the exchangeinstitutions.
10
<USPTO特許審査部門に対する Alice 最高裁判決に基づく予備的審査指示>
2014年6月25日より施行
抽象的アイデアを有するクレーム分析のための予備的審査指示
ALICE CORPORATION PTY. LTD, PETITIONER v. CLS BANK INTERNATIONAL
ET AL (Alice Corp 最高裁判決、以下 Alice 判決)は、以下を定める。
1)裁判上の例外(自然法則、自然現象、及び抽象的アイデア)の全てのタイプのために
同一の分析が使用されるべきである。
2)クレームの全てのカテゴリ(例えば、製品及びプロセスクレーム)に対して同一の分
析が使用されるべきである。
主題適格性を決定する基本的方法は、以下の通りである。
最初に、4つの発明の法定カテゴリ,すなわち、機械,プロセス,製造物,及び化合物
の一つにクレームが向けられているかどうかを判定する。もしクレームが4つのカテゴリ
の1つに当てはまらないならば、クレームは非法定主題に向けられているとして拒絶する。
次に、クレームが法定カテゴリの1つに当てはまるならば、以下に詳述される Mayo の
2パート分析(two-part analysis)のパート1を用いてクレームが裁判上の例外(すなわ
ち、自然法則,自然現象,及び抽象的アイデア)に向けられているかどうかを判断する。
もし、クレームが裁判上の例外に向けられている場合には、パート2を用いてクレーム
が例外の特許適格応用かどうかを判定する。この2パート分析は、MPEP2106(II)(A)及び
MPEP2106(II)(B)に優先する。
この予備的審査指示においては、抽象的アイデアを含むクレームのみが対象となる。抽
象的アイデア以外の例外(自然法則、自然現象)については、既に出されたガイダンス(同
様の2パート分析を使用)に従って判断される。
抽象的アイデアのための2パート分析
Alice 判決を受け、Mayo にて説明された次の2パート分析を用いて抽象的アイデアを有
する全てのクレーム(製品及びプロセス)を分析する。
パート1:クレームが抽象的アイデアに向けられているかどうかの判断
抽象的アイデアは特許適格から除外される。但し、或るレベルで、全ての発明は、抽象
的アイデア及び他の例外を具体化,使用,反映,依存,又は応用しているので、発明は単
純に不適格とされない。実際、有意義な方法で抽象的アイデアを応用し、より良い何かを
人間の創造力の基本的要素(building block)に組み入れた発明は適格である。
Alice 判決において参照された抽象的アイデアの例は以下を含む;
11
・基本的な経済実務
・人の活動を組織する或る方法
・アイデアそのもの
・数学的な関係/公式
これらのような抽象的アイデアを含むクレームは、抽象的アイデアが適格のある方法で
応用されているかどうかを判定するために以下のパート2の下で審査される。
もしクレーム内に抽象的アイデアが存在していれば、以下のパート2へ進む。そうでな
ければ、特許性のための他の法定要件をクレームが満たすかの審査へ進む。
パート2:
抽象的アイデアがクレームに存在するのであれば、クレーム中のあらゆる構成要素、又
は構成要素の組み合わせが、クレームが抽象的アイデア自体を著しく超える(significantly
more)状態であることを保証するために十分かどうか、換言すれば、例えば、抽象的アイ
デアを応用するための単なる指示を超える、抽象的アイデアの特許適格のある応用を示す
他の限定がクレーム中にあるかどうかを判断する。このとき、個々の及び組み合わせの双
方において全てのクレーム要素を考慮することにより全体としてクレームを考慮する。
抽象的アイデアを有するクレーム中に記載されたときに“著しく超える(significantly
more)
”との資格を有するに十分であるかも知れない Alice 判決にて言及された限定は、非
限定の又は非排他的な例として、以下を含む:
・他の技術又は技術分野に対する改良
・コンピュータ自体の機能に対する改良
・特定の技術環境に対する抽象的アイデアの使用に一般的に結びつくものを超える有意
の限定
抽象的アイデアを有するクレーム中に記載されたときに“著しく超える(significantly
more)
”との資格を有するに十分でない Alice 判決にて言及された限定は、非限定の又は非
排他的な例として、以下を含む:
・抽象的アイデアとともに“それを応用する(apply it)”とのワード(又は同等のもの)
,
又はコンピュータ上に抽象的アイデアを実装するための単なる指示。
・良く理解されている一般的なコンピュータ機能,ルーチン,産業界にて既に知られて
いる既存の活動を行うための一般的なコンピュータに過ぎない要求。
もし、クレームが例外自体を著しく超える状態となるような、例外を特許適格のある応
用に変換するクレーム中の有意の限定がなければ、そのクレームは、非法定主題に向けら
れているとして101条の下で拒絶されるべきである(フォーム 7.05.01 を使用)。
12
2パート分析の実施後に、101条の拒絶がなされない限りにおいて、101条の他の
要件(有用性及び二重特許)
,非自明性二重特許,及び特許法112条,102条,103
条に従って特許性を判断するために、クレームの審査に進む。
<<予備的審査指示に基づく101条審査のフロー>>
13
<判決の影響>
Alice 最高裁判決では、争点の方法クレームに対し、Mayo 事件の最高裁判決で用いた特
許不適格な概念と特許適格性を有する応用とを区別するためのフレームワーク(2ステッ
プ分析)が適用された。
フレームワークは、以下の2ステップからなる。
(ステップ1)対象のクレームが特許不適格な概念(自然法則,自然現象,抽象的アイデ
ア)を対象とするか否かを判断する。
(ステップ2)クレームが特許不適格な概念を対象とする場合、個別及び「順序づけられ
た組み合わせ」の双方においてクレームの構成要素を考慮し、追加の構成要素がクレーム
の本質を特許適格性のある応用に変換しているか否かを判断する。
・第2ステップは、特許が特許不適格なものを著しく超える状態であることを保証するに
十分な構成要素又は構成要素の組み合わせ(「創造的コンセプト(inventive concept)」)
の探索である。
判決では、争点の方法クレームについてのフレームワークを通じて、クレームにおける
仲介による決済は抽象的アイデアである一方、クレームには一般的なコンピュータを用い
て仲介による決済の抽象的アイデアを応用するための指示を著しく超える「創造的コンセ
プト」がなく、抽象的アイデアを特許適格性のある発明に変換するものではないと判断し
た。さらに、争点のシステムクレーム,記録媒体クレームについても実質的に同様の理由
で特許適格性を認めなかった。
USPTOは、Alice 最高裁判決を受けて、2014年6月25日に、特許審査部門に対
する予備的審査指示として、101条に基づくクレームの特許適格性の審査において、製
品(プロダクト)クレーム及びプロセスクレームに対し、上記した2ステップ分析を適用
することを定めた。
予備的審査指示では、第1ステップ(パート1)で使用する抽象的アイデアの例示とし
て、Alice 最高裁判決にて言及された(1)基本的な経済実務、(2)人の活動を組織する
或る方法、(3)アイデアそのもの、(4)数学的な関係/公式、を挙げている。
また、予備的審査指示では、第2ステップ(パート2)に関して、Alice 最高裁判決にて
言及された(i)他の技術又は技術分野に対する改良、(ii)コンピュータ自体の機能に対
する改良、(iii)特定の技術環境に対する抽象的アイデアの使用に一般的に結びつくものを
超える有意の限定は、第2ステップで探索される抽象的アイデアを著しく超える
(significant more)ことを保証するに十分なものとされ得るとされている。
一方で、予備的審査指示では、Alice 最高裁判決にて言及された(A)抽象的アイデアと
ともに“それを応用する(apply it)
”とのワード(又は同等のもの)
,又はコンピュータ上
に抽象的アイデアを実装するための単なる指示、
(B)良く理解されている一般的なコンピ
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ュータ機能,ルーチン,産業界にて既に知られている既存の活動を行うための一般的なコ
ンピュータに過ぎない要求は、第2ステップ(パート2)にて探索される抽象的アイデア
を著しく超える(significant more)ことを保証するに十分なものとされ得ないとされてい
る。
Alice 最高裁判決の影響を鑑みると、2ステップ分析に照らして基本的な経済活動などを
一般的なコンピュータに単に実装ないし応用したと判断されるクレームは、クレーム形式
(発明のカテゴリ:プロダクト(装置、システム、記録媒体)、プロセス(方法))の相
違に関係なく、101条下での特許適格性のない発明と判断される。
既存の特許、特にビジネス方法の特許とされるものについては、その主題が経済実務(経
済プラクティス)のコンピュータ化にあるものが少なくないと思料されることから、2ス
テップ分析の下で特許不適格と判断されるものが少なくないと考えられる。従って、今後
の裁判において、2ステップ分析の結果、特許無効とされるケースが出てくることが予想
される。
また、予備的審査指示は、現在出願係属中のクレームに対して適用される。このため、
2ステップ分析に基づき特許不適格とされ、101条に基づく拒絶理由を受けるケースが
生じ得る。このような拒絶に対しては、論理的に、例えば、以下の対応が可能である。
(a)審査官の抽象的アイデアとの指摘に対し、指摘されたものが抽象的アイデアでない
との反論。
(b)クレーム中の構成要素又は構成要素の組み合わせが「抽象的アイデアを著しく超え
る」ものであるとの反論(例えば、上記(i)~(iii)のいずれかに該当するとの反論)を
行う。
(c)「抽象的アイデアを著しく超える」(例えば、上記(i)~(iii)のいずれかに該当
する)構成要素又は構成要素の組み合わせをクレームに追加する補正を行い、クレームが
特許適格を有する応用であると反論する。
さらに、米国出願においては、「抽象的アイデアを著しく超える」構成要素及び構成要
素の組み合わせがクレーム中に含まれているかの検討を行うこと、ひいては、第1国出願
において、出願の対象が「抽象的アイデアを著しく超えるもの」を含んでいるかの検討を
行うことが考えられる。
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