Znめっき鋼板ならびに溶融Zn-6%Al-3%Mg合金めっき鋼板

Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
9
レビュー
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
浦 中 将 明 * 清 水 剛 **
Corrosion Resistance Mechanism of Zn Coated Steel Sheet and Hot-dip Zn-6%Al-3%Mg Alloy Coated Steel Sheet
Masaaki Uranaka, Takeshi Shimizu
Synopsis
Zinc coating has a wide range of application, because its production cost is low and it has an effect to protect the steel substrate from
rust for a long term. In the early 2000s, a hot-dip Zn-Al-Mg alloy coated steel sheet was developed to improve corrosion resistance. It is
utilized for various purposes because of superior corrosion resistance.
In this report, we describe basic properties about corrosion resistance of zinc coated steel sheet. Furthermore, we review the corrosion
resistance mechanism of a hot-dip Zn-6%Al-3%Mg alloy coated steel sheet (ZAM) which is developed by nisshin-steel co.,ltd.
1.緒 言
2.Zn めっき鋼板の防食の基本特性
鉄鋼材料には防錆のための措置が不可欠であり,一般
的に表面処理が施されることで耐食性やその他機能が付
2.1 Zn による犠牲防食作用
与される。なかでも,Zn めっきは製造コストが安価で,
Zn めっき鋼板の防食の特徴として,図 19) に示すよう
かつ長期間,下地の鋼材を錆から護る表面処理として,
にめっき層に傷が付いた部分や打ち抜き端面など,下地
屋根,壁などの建材をはじめ,自動車,家電,土木など
の鋼板が露出した部分でもその周囲の Zn めっき層が溶
の幅広い分野で適用されている。
解することで鋼板が腐食することを防ぐ犠牲防食作用が
1930 年代に鋼帯に連続的に Zn めっきを施すセンジミ
様式 4
よく知られている。Fe よりも電位的に卑である Zn が
アタイプの連続式溶融亜鉛めっき技術 が確立され,産
優先的に溶解することで起こる現象であり,Zn めっき
業分野の発展とともに 1970 年代以降 Zn めっき鋼板の
が周囲に存在している間はその効果により鋼素地の腐食
使用量は躍進した。その間,さらなる耐食性の向上を目
が抑制される。
1)
的とした Zn-Al 系合金めっき鋼板や Zn-Ni 合金めっき鋼
板など種々の Zn 合金めっき鋼板が開発され,実用化に
腐食液
2+
いたっている 2) ~ 6)。2000 年に入ると,溶融めっきでは
Zn
工業化が難しいと考えられていた Mg を数 % オーダー
でめっき層中に含有する溶融 Zn-Al-Mg 系合金めっき鋼
Znめっき
板が開発され 7),8),その優れた耐食性から種々の用途へ
鋼素地
の展開が図られている。世界的にみると今後も Zn めっ
き鋼板や Zn 合金めっき鋼板の需要は増加傾向が続くと
みられている。
本報では Zn めっき鋼板の防食に関する基本的な特性
を述べるとともに,当社が開発した溶融 Zn-6%Al-3%Mg
合金めっき鋼板 (ZAM) の高耐食性機構について概説する。
2e
-
アノード反応:Zn→Zn +2e -
2+
カソード反応:1/2O 2+H 2O+2e - →2OH -
図 1 Zn めっき鋼板の犠牲防食作用イメージ
図 1 Zn めっき鋼板の犠牲防食作用イメージ
Fig.1 Sacrificial protection image of Zn coated steel sheet.
Fig.1 Sacrificial protection image of zinc coated steel sheet
*表面処理研究部 企画専門職
**表面処理研究部 チームリーダー
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
様式 4
10
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
Zn めっきによる犠牲防食範囲の調査結果の一例を図
Znめっき層
2 に示す。Zn めっき層の一部を溶解することで 10mm
10)
鋼素地露出部
以上の長さにわたって下地の鋼板を露出させた試験片を
Fe
用意し,その表面を水膜で覆ったときの水膜下での Zn
めっきと鋼素地境界部の電位分布をケルビンプローブ 11)
~ 13)
0.0
(a) 水膜厚み = 100μm
により測定することで犠牲防食範囲を推定してい
る。横軸の 0mm が Zn と鋼素地の境界を示しており,
電位 / V vs. Au
マイナス側が Zn(Zn めっき部)
,プラス側が鋼素地露
出部の領域である。水膜として純水を用いた場合,Zn
めっきとの境界から約 2mm 離れたところの鋼素地側の
電位が Zn の電位から Fe の電位に遷移している。すな
-0.5
純水
-1.0
5% NaCl 水溶液
わち,この条件下での Zn の犠牲防食距離は約 2mm で
あることがわかる。一方,水膜の厚みが同じ 100 μ m
でも 5%NaCl 水溶液を使用した場合には,Fe の電位に
-1.5
0.0
遷移する距離は約 4mm と長くなる。さらに,5%NaCl
(b) 5% NaCl 水溶液
水溶液で水膜の厚みを 1000 μ m にすると,Fe の電位
電位 / V vs. Au
に遷移する距離は 10mm を超える。このように,Zn の
犠牲防食作用の範囲はその表面に形成する水膜の厚みや
電解質濃度に依存し,その効果は水膜の電気伝導度で整
理できるとされている 10)。一般に大気環境下での犠牲防
食距離は 2mm 程度と考えられており 14),5%NaCl 水溶
-0.5
水膜厚み = 100μm
-1.0
1000μm
液を噴霧する促進腐食試験での犠牲防食範囲とは異な
る。促進腐食試験を用いる評価ではそのような点に気を
-1.5
つけなければならない。
-4
Zn めっき鋼板よりさらに優れた耐食性を有する表面
2
4
6
8
10
12
図 2 Zn/Fe 境界近傍における電位分布
使用される。しかしながら,図 3 に示すように Al めっ
き鋼板の鋼素地露出部(クロスカット部,切断端面部)
(a) 溶液の影響 (b) 水膜厚みの影響
図2
Zn/Fe 境界近傍における電位分布
Fig.2 Potential distributions near Zn/Fe boundary.
では Zn めっき鋼板とは異なり,赤錆の発生が目立つ。
これは,大気環境下で Al めっき表面に緻密な酸化皮膜
電位の逆転現象が起きるためである。緻密な酸化皮膜の
0
Zn/Fe境界からの距離/ mm
処理鋼板として,溶融 Al めっき鋼板も建材分野で多く
が生成し,Al めっき表面の電位が Fe よりも貴化する 15)
-2
溶液の影響
(b)
(a)(a)
Influence
of solutions 水膜厚みの影響
(b) Influence
Fig.2
solution filmnear
thickness
Potentialofdistributions
Zn/Fe boundary.
(a) Influence of solutions (b) Influence of solution film thickness
様式 4
Znめっき鋼板
Alめっき鋼板
クロス
カット部
10mm
切断端面部
2mm
図 3 大気暴露試験 1 年後における Zn めっき鋼板と Al めっき鋼板のクロスカット部お
図3
大気暴露試験 1 年後における Zn めっき鋼板と Al めっき鋼板のクロスカット部および
よび切断端面部外観(沖縄県宜野湾市,海岸から約
200m 地点)
切断端面部外観(沖縄県宜野湾市、海岸から約
200m 地点)
Appearance
of the and
cross-cut
cut
edge
ofsheet
Zn and
coated
steelcoated
sheetsteel
and
Al
Fig.3
Fig.3
Appearance
of the cross-cut
cut edge and
of zinc
coated
steel
aluminum
sheet
steel exposure
sheet after
atmospheric
exposure
test for a year.
aftercoated
atmospheric
test for
a year. (Okinawa-ken
Ginowan-shi,
about 200m spot from the
番
号
表(
) 図(
(Okinawa-ken Ginowan-shi, about 200m spot from the shore)
shore)
刷り上り希望大きさ
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
80mm
2
幅 170mm 幅
)
(写真は図に含める)
執筆者名
浦中 将明
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
11
生成がめっき面の高い耐食性を出現させる反面,犠牲防
ら,亜鉛腐食生成物は Zn の溶解反応(Zn → Zn2++2e -)
食作用を阻害することになる。一方,大気環境下で Zn
の抑制に与える影響は小さいといえる。したがって,
めっ
めっきの表面にも酸化皮膜が生成するが,
これが Zn めっ
き表面が亜鉛腐食生成物で覆われても犠牲防食作用は損
きの表面電位を著しく貴化させることにはならず,Zn
なわれない。
Zn めっき鋼板の表面に生成する腐食生成物と Zn めっ
めっき鋼板では鋼素地に対して安定した犠牲防食作用が
き鋼板の耐食性との間には密接な関係があることを述べ
示される。
たが,曝される環境により表 117),18) に示すような種々
2.2 腐食生成物による腐食抑制
の亜鉛腐食生成物が生成し,それにより耐食性への影響
Zn は Fe に比べて活性な金属であるにもかかわらず,
も異なることが知られている。中性環境において (1) 式
大気中で Fe よりも優れた耐食性を示す。長期大気暴露様式 4
の反応により生成する水酸化亜鉛〔Zn(OH)2〕は保護性
試験における Zn 板と鋼の腐食厚みを図 4 に示す。グ
の腐食生成物であるといわれており,酸素還元反応を抑
16)
ラフの傾きから求められる鋼の腐食速度の 62 μ m/ 年
500
に対し,Zn 板の腐食速度は 1/10 以下の 1.2 μ m/ 年に
抑制されている。長期耐食性でこのような違いが現れる
400
要因として,Zn 表面に生成する亜鉛腐食生成物が重要
鋼:平均 62μm/年
腐食厚み (μm)
300
な役割を果たしている。
大気暴露試験 3 年後の Zn めっき鋼板と冷延鋼板の腐
食状態の観察結果を図 5 に示す。冷延鋼板の表面には
200
ポーラスで下地との密着性に乏しい鉄さびが生成してい
100
Zn板:平均 1.2μm/年
るのに対し,
Zn めっき鋼板の表面は緻密で下地(Zn めっ
0
き層)と密着した亜鉛腐食生成物で覆われている。
0
2
4
大気暴露試験前後の Zn めっき鋼板のアノード・カソー
6
8
10
暴露期間(年)
ド分極曲線を図 6 に示す。暴露後の亜鉛腐食生成物で
図 4・
大気環境下での Zn 板および鋼の暴露期間と腐食厚みの関係
図 4 大気環境下での Zn 板および鋼の暴露期間と腐食厚みの関係
覆われた Zn めっき鋼板のカソード(酸素還元反応)電
・
流が著しく抑制されていることから,めっき表面に生成
・ (米国ノースカロライナ州キュアー海岸より
(米国ノースカロライナ州キュアー海岸より 270m270m
地点)地点)
Fig.4・
Corrosion・
of・low
Zn・carbon
sheet・
and・
low・
carbon・environment.
steel・
Fig.4
Corrosion
rate of Zn rate・
sheet and
steel
under
atmospheric
した亜鉛腐食生成物が,酸素還元反応(1/2O2+H2O+2e -
(270m
spot from the Kure Beach, North Carolina in United States)
under・atmospheric・environment.
-
→ 2OH )を抑制することで Zn の腐食速度を減少させ
・
ていることがわかる。それに対し,アノード分極曲線か
様式 4
・
(270m・spot・from・the・Kure・Beach,・North・Carolina・in・
United・States)
Znめっき鋼板
冷延鋼板
表面外観
2mm
表面形態
(SEM)
20μm
亜鉛腐食生成物
Znめっき層
鉄さび
断面形態
鋼板
20μm
番
200μm
号
表(
) 図(
4
)
(写真は図に含める)
図 5・ 大気暴露試験 3 年後における Zn めっき鋼板および冷延鋼板の腐食状態
図 5 大気暴露試験 3 年後における刷り上り希望大きさ
Zn めっき鋼板および冷延鋼板の腐食状態
80mm
幅 170mm 幅
執筆者名
・ ・ (大阪府堺市,臨海工業地帯)
(大阪府堺市、臨海工業地帯)
Fig.5 Corrosion・ appearance・ of・ Zn・ coated・ steel・ sheet・ and・ cold-rolled・ steel・ after・
浦中 将明
Fig.5 Corrosion appearance of zinc coated steel sheet and cold-rolled steel after atmospheric exposure test
atmospheric・exposure・test・for・3・years.
・
・
for 3 years. (Osaka-fu Sakai-shi, coastal industrial zone)
(Osaka-fu・Sakai-shi,・coastal・industrial・zone)
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
12
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
様式 4
暴露5年後
暴露前
0
10
10
2
2
2
2
電流密度
Current
density
) )
(A/m(A/m
-1
10
電流密度
)
(A/m(A/m
Current
density
)
2+
Zn → Zn + 2e -
(Znの溶解反応)
1/2O2 + H2 O + 2e - → 2OH-
(酸素還元反応)
10-3
-1.4
-3
10
-1.4
-1.2
-1.0
10-1
10-2
-2
10
0
-0.8
-0.6
電位 (V vs. S.C.E)
Potential
(V vs. S.C.E.)
-1.2
-1.0
-0.8
-0.6
電位 (V(V
vs.vs.
S.C.E)
Potential
S.C.E.)
・測定溶液:雨水模擬水溶液(0.02%Cl- +0.02%SO 4
・走査速度:1mV/sec
2-
、25℃、空気飽和)
図
図66 大気暴露試験前後における
大気暴露試験前後におけるZn
Znめっき鋼板のアノード・カソード分極曲線
めっき鋼板のアノード・カソード分極曲線
(群馬県桐生市,海岸より約
100km の田園地帯)
(群馬県桐生市、海岸より約
100km の田園地帯)
Polarization
curves
of
Zn
coated
sheet before
andtestafter
Fig.6
Fig.6 Polarization curves of zinc coated steel sheet before andsteel
after atmospheric
exposure
for 5 years.
atmospheric
exposure
test
forzone
5 years.
(Gunma-ken
Kiryu-shi,
rural
of about 100km from the shore)
(Gunma-ken Kiryu-shi, rural zone of about 100km from the shore)
表 1 亜鉛腐食生成物とその特徴
Table1 Zinc corrosion products and properties
亜鉛腐食生成物
酸化亜鉛
ZnO
環境因子
-
水酸化亜鉛
Zn(OH)2
塩基性塩化亜鉛
塩基性炭酸亜鉛
硫酸亜鉛
硝酸亜鉛
Zn5(OH)8Cl2・H2O
Zn5(CO3)2(OH)6
ZnSO4・6H2O
Zn(NO3)2・2H2O
特徴
保護効果小。素地との密着性悪く,酸素還元反応抑制効果なし(n 型半導体)
保護効果大。緻密で素地との密着性良好,酸素還元反応抑制,pH 緩衝作
-
用で自らが安定な pH に環境を維持
Cl -の存在
水酸化亜鉛と類似の保護効果あり
マイルドな中性環境 水酸化亜鉛と類似の保護効果あり
SOx の存在
可溶性で保護性なし
NOx の存在
不溶性で保護効果あり
制する効果がある。しかし,(2) 式に示すように脱水反
鋼板と同付着量の Zn めっき鋼板との耐食性を比較した
応が進行すると酸化亜鉛〔ZnO〕に変化する。ZnO は n
結果をそれぞれ示す。耐食性試験は 35℃,5% 塩水噴霧
型半導体の特性を示すことから酸素還元反応を抑制する
× 2h → 60℃乾燥× 4h → 50℃,95% 湿潤× 2h を 1 サ
効果に乏しいといわれており,防食の観点から ZnO の
イクルとする複合サイクル腐食試験(CCT,JIS H8502
生成はあまり好ましくないとされている。一方,Cl -イ
中性塩水墳霧サイクル試験)で行った。
オンを取り込んだり,水溶液中に溶け込んだ CO2 ガス
Zn めっき鋼板に対し,いずれの Zn 合金めっき鋼板
を介して (3),(4) 式にしたがい生成する塩基性塩化亜鉛
とも赤錆の発生,すなわち鋼素地の腐食が抑制されてお
〔Zn5(OH)8Cl2・H2O〕や塩基性炭酸亜鉛〔Zn5(CO3)2(OH)6〕
り,耐食性が優れている。CCT20 サイクル後の電気 Zn
の腐食生成物は絶縁性で,Zn(OH)2 と同様の保護効果が
めっき鋼板,電気 Zn-12%Ni 合金めっき鋼板上に生成し
得られる。
番
号
表(
) 図(
Zn2++2OH -→ Zn(OH)2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
刷り上り希望大きさ
80mm
6
幅 170mm 幅
ていた亜鉛腐食生成物の X 線回折強度を図 919) に示す。
)
(写真は図に含める)
電気 Zn めっき鋼板に対して電気 Zn-12%Ni 合金めっき
執筆者名
浦中 将明
Zn(OH)2 → ZnO+H2O・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (2)
鋼板は保護性を有するとされる Zn5(OH)8Cl2・H2O が多
5Zn2++8OH - +2Cl -→ Zn5(OH)8Cl2・・・・・・・・・・・・・・・ (3)
く生成し,保護効果に乏しい ZnO の生成が抑制されて
5Zn2++10OH - +2CO2 → Zn5(CO3)2 (OH)6+2H2O・・・・ (4)
いるのがわかる。同様に,溶融 Zn-5%Al 合金めっき鋼
2.3 Zn 合金めっき鋼板の耐食性
板も ZnO の生成が抑制されている 20)。
岡ら 21) は亜鉛の擬似さびを用いた実験で,Zn(OH)2 の
Zn めっき鋼板の耐食性向上を目的に種々の Zn 合金
沈殿結晶生成時に表 2 中に○で示している元素を共沈
めっき鋼板が開発されている。図 7 および図 8 に電気
させた場合,その後に 150℃の加熱を与えても ZnO に
Zn-12% Ni 合金めっき鋼板,溶融 Zn-5% Al 合金めっき
変化せず,Zn(OH)2 として安定に存在することを確認し
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
様式 4
□:電気Znめっき鋼板
■:電気Zn-12%Ni合金めっき鋼板
電気Zn-12%Ni
合金めっき鋼板
電気Znめっき鋼板
6
X線回折強度 (kcps)
5
4
3
2
1
0
20mm
ZnO
Zn5(OH)8Cl2・H 2O
図 9 CCT20 サ イ ク ル 後 の 電 気 Zn め っ き 鋼 板 と 電 気 Zn図 9 CCT20 サイクル後の電気 Zn めっき鋼板と電気 Zn-12%Ni 合金めっき鋼板上に
図 7 CCT30 サ イ ク ル 後 の 電 気 Zn め っ き 鋼 板 と 電 気 Zn合金めっき鋼板上に生成していた亜鉛腐食生成
図 7 CCT30 サイクル後の電気
Zn めっき鋼板と電気 Zn-12%Ni 合金めっき鋼板の 12%Ni
生成していた Zn 腐食生成物の X 線回折強度
12%Ni 合金めっき鋼板の表面外観
物の X 線回折強度
表面外観(めっき付着量:20g/m2)
Fig.9 XRD intensity of zinc corrosion products formed on zinc electroplating steel sheet and
(めっき付着量:20g/㎡)
Fig.9 XRD intensity of Zn corrosion products formed on
Fig.7 Surface
appearance
zinc electroplating
steel sheet and steel
zinc-12%nickel
alloy zinc-12%nickel alloy electroplating steel sheet after CCT for 20 cycles.
Surfaceofappearance
of Zn electroplating
sheet
Fig.7
Zn electroplating steel sheet and Zn-12%Ni alloy
2
electroplating
sheet after
CCT
for 30 cycles.steel
(Coating
weight:
andsteel
Zn-12%Ni
alloy
electroplating
sheet
after 20g/m )
electroplating steel sheet after CCT for 20 cycles.
CCT for 30 cycles.
式4
図8
13
様式 4
(Coating weight: 20g/㎡ )
ている。このことから,亜鉛腐食生成物中に Zn めっき
溶融Zn-5%Al
合金めっき鋼板
溶融Znめっき鋼板
層中の合金成分が取り込まれることにより,保護性の高
い亜鉛腐食生成物〔Zn(OH)2 など〕が安定化すると考え
られている。
2.4 注意すべき使用環境
Zn めっき鋼板はめっき表面に保護性を有する亜鉛腐
食生成物が生成することで優れた長期耐食性が得られ
る。言い換えれば,保護性を有する亜鉛腐食生成物が生
成しにくい環境では Zn めっき鋼板本来の長期耐食性が
得られない場合がある。
Zn の腐食速度は図 1022) に示すように接触する溶液の
pH に依存する。中性から弱アルカリ性の pH 領域では
20mm
Zn(OH)2 の溶解度が小さく,めっき表面が Zn(OH)2 で覆
われることで腐食速度は抑制されるが,それ以外の pH
図 8 CCT20 サ イ ク ル 後 の 溶 融 Zn め っ き 鋼 板 と 溶 融 ZnCCT20 サイクル後の溶融 Zn めっき鋼板と溶融 Zn-5%Al 合金めっき鋼板の表面外観
領域になると腐食速度は増大する。
5%Al 合金めっき鋼板の表面外観
(めっき付着量:90g/m2)
中性の水溶液中でも Zn の腐食速度は水温の影響を大
(めっき付着量:90g/㎡)
g.8 Surface appearance
hot-dip galvanized
steel
sheet and
hot-dip zinc-5%aluminum
alloy
coated
きく受ける。図
1123) に示すように Zn を水溶液に浸せ
appearance
of hot-dip
galvanized
steel sheet
Fig.8of Surface
番
2
番after
) 号
steel sheet
CCT for
20 cycles.
(Coating
90g/m
andafter
hot-dip
Zn-5%Al
alloy
coatedweight:
steel sheet
刷り上り希望大きさ
80mm
幅 170mm 幅
執筆者名 浦中 将明
する。この理由として,めっき表面に生成する亜鉛腐食
CCT for 20 cycles.
号
(Coating
))
表(
) weight:
図( 90g/㎡
7
刷り上り希望大きさ
80mm
表(
) 図(
9
)
(写真は図に含める)
きした時の腐食速度は,50℃付近で急激に腐食量が増大
幅 170mm 幅
生成物が粒状で密着性のない非保護的な腐食生成物に変
(写真は図に含める)
執筆者名
浦中 将明
表 2 擬似さび実験における Zn(OH)2 の安定化におよぼす添加元素の影響
Table2 Influence of additive elements on the stabilization of Zn(OH)2 in artificial rust experiment
Fe
×
Al
○
Mg
○
Ni
○
Cr
○
Co
○
Mn
△
< 150℃× 1h 加熱後の X 線回折結果>
○:Zn(OH)2 のみ検出 △:Zn(OH)2+ZnO 検出 ×:ZnO のみ検出
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
14
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
化するためと説明されている。なお,70℃以上で腐食量
腐食速度 (cm/年 )
る。また,水温が 20℃であっても水溶液中での Zn の腐
安定皮膜
酸:皮膜溶解
が減少するのは水中の溶存酸素量の低下に起因してい
食速度は 20 μ m/ 年であり,大気中腐食速度の 1.2 μ
m/ 年(図 4)に対し,腐食量は著しく増量する。これ
もやはり,大気中で乾湿を繰り返しながら生成する亜鉛
NaOH
希薄アルカリ:皮膜溶解
HCl
腐食生成物に比べて,水溶液中で生成する亜鉛腐食生成
物は緻密性に劣ることが原因である。したがって,常に
水と接触するような環境での使用は注意が必要である。
流出した鉄さびや飛来してきた鉄粉が Zn めっき表面
に付着すると,その部分の Zn の腐食が急激に進行する。
これは付着した鉄さびが (5) 式 24) のカソード反応を起こ
し,それにともないその周囲でアノード反応として Zn
の溶解反応 (Zn → Zn2++2e - ) が進行するためである。2.2
節で説明したように亜鉛腐食生成物は Zn の溶解反応に
pH
式4
対してはほとんど抑制効果がないことから,保護性に優
図 10 Zn の腐食速度におよぼす pH の影響
れる亜鉛腐食生成物が表面を覆っていたとしても,そこ
Fig.10 Influence of pH on the corrosion rate of Zn.
図 10
Zn の腐食速度におよぼす pH の影響
に鉄さびが付着すると Zn の溶出が進行することになる。
また,ステンレス製ボルトなどの Zn より貴な金属を直
Fig.10 Influence of pH on the corrosion rate of zinc.
平均腐食速度( mm/年)
接 Zn めっき面に接触させて使用する場合も,電位差腐
食により Zn めっきの消耗が促進される。
6FeOOH + 2e - → 2Fe3O4 + 2H2O + 2OH -… …… (5)
3.ZAM の高耐食性機構
2.1 節で溶融 Al めっき鋼板は Zn めっき鋼板より高い
耐食性を有する反面,犠牲防食性能に劣ることを説明し
た。溶融 Zn-Al 合金めっき鋼板においてもめっき層中の
温度(℃)
Al 濃度を高めていくと耐食性は向上するが,犠牲防食
図 11 Zn図の腐食速度におよぼす水温の影響
11 Zn の腐食速度におよぼす水温の影響
性能が低下するトレードオフの関係がある。ZAM は図
Influence
of water
temperature
on the rate
corrosion
Fig.11 Fig.11 Influence
of water
temperature
on the corrosion
of zinc.
rate of Zn.
12 のイメージ図に示すように Zn めっきとほぼ同等の
犠牲防食性能を維持させながら,かつ溶融 Zn-5%Al 合
金めっき鋼板より高い耐食性を目指して開発された表面
様式 4
高
処理鋼板である。
Alめっき
高
ZAM
ZAM
Zn-55%Al
めっき
表(
希望大きさ
) 図(
80mm
Zn-55%Al
めっき
Znめっき
耐食性
犠牲防食能
Zn-5%Alめっき
Alめっき
10
)
(写真は図に含める)
めっき層中Al濃度
高
Zn-5%Al
めっき
Znめっき
めっき層中Al濃度
高
幅
170mm 幅
執筆者名 浦中 将明
図 12 犠牲防食能および耐食性からみた各種めっき鋼板の位置付け(イメージ図)
図 12 犠牲防食能および耐食性からみた各種めっき鋼板の位置付け(イメージ図)
Fig.12 Position of various coated steel sheets judging from sacrificial protection
Fig.12 Position
of various coated steel sheets judging from sacrificial protection performance and
performance and corrosion resistance. (Image figure)
corrosion resistance. (Image figure)
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
3.2 めっき組織
3.1 耐食性能
ZAM,溶融 Zn-0.18%Al めっき鋼板(GI)ならびに溶
走査電子顕微鏡(SEM)により観察した ZAM のめっ
融 Zn-5%Al 合 金 め っ き 鋼 板(GF) の CCT 結 果 を 図
き層断面組織を図 1520) に示す。めっき層は主に初晶 Al''
1320) に示す。GI は 30 サイクル,GF は 100 サイクルで
と Zn/Al''/MgZn2 の三元共晶で構成されている。初晶
試験面全面に赤錆が発生しているのに対し,ZAM の試
Al'' 相は室温まで冷却されると図 15(b) に示すように Zn
験面は切断端面近傍も含め 100 サイクル後でも白錆の発
と Al に分離する。また Zn/Al''/MgZn2 の三元共晶部で
生しか認められない。
は図 15(c) に示すように Zn 相と MgZn2 相のラメラ組織
Zn-6%Al 組成を一定とし,めっき層中の Mg 濃度と
中に Al'' 相が微細に分散して存在している。このことか
CCT により赤錆が発生するサイクル数との関係を図
ら,Zn/Al''/MgZn2 の三元共晶が大半を占める ZAM で
14 に示す。耐食性能の著しい向上に Mg が寄与して
は,耐食性を向上させる Mg がめっき層のほぼ全体にサ
いることがわかる。
ブミクロンオーダーで存在しているといえる。図 14 で
20)
様式 4
15
ZAM
CCTサイクル数
30
GF
切
断
端
面
露
出
部
Mg 濃度が 2% から 3% に増加するときに耐食性の向上
GI
効果が大きくなるが,めっき層中に占める三元共晶組織
の増加と対応しており,単に Mg 濃度の増加だけではな
くめっき組織の構造も耐食性の向上に寄与していると考
様式 4
えられている 25)。
シール
Ternary
Eutectic
100
Coating
Layer
Primary Al ''
Steel
5μm
Primary Al''(=Zn/Al)
図 13CCT
CCT後の各種めっき鋼板の表面外観
後の各種めっき鋼板の表面外観(めっき付着量:90g/m2)
図 13 Ternary Eutectic
Zn
Primary Al ''
2
Fig.13
Surface
appearance of various coated steel sheets after CCT. (Coating weight: 90 g/m )
(めっき付着量:90g/㎡)
MgZn 2
Fig.13 Surface appearance of various coated steel sheets
Al ''
after CCT.
様式 4
1μm
(Coating weight: 90 g/㎡ )
1μm
赤錆発生サイクル数
図 15 ZAM のめっき層断面組織
図 15 ZAM のめっき層断面組織
(a) めっき層全体 (b) 初晶 Al'' 相 (a) めっき層全体 (b) 初晶 Al''相 (c) Zn/Al''/MgZn2 三元共晶
(c) Zn/Al''/MgZn2 三元共晶
Fig.15 Cross-sectional structure of coating layer of ZAM.
Fig.15 Cross-sectional structure of coating layer of ZAM.
(a) Whole of the coating layer (b) Primary Al'' (c) Zn/Al''/MgZn2 ternary eutectic
(a) Whole of the coating layer (b) Primary Al'' ・
(c) Zn/Al''/MgZn2 ternary eutectic
3.3 高耐食性機構
ZAM,GI および GF の CCT10 および 20 サイクル後
Mg濃度 (%)
CT における
Zn-6%Al-0 合金めっき鋼板の赤錆発生サイクル数
~ 3%Mg 合金めっき鋼板
図図
14 14 CCTCにおける
Zn-6%Al-0~3%Mg
の赤錆発生サイクル数
(めっき付着量:90g/m2)
Fig.14 Cycles
to red
rust occurrence on Zn-6%Al-0~3%Mg alloy coated steel sheets in CCT.
(めっき付着量:90g/㎡)
番
2
) red rust occurrence on Zn-6%Al-0 ~
(Coating
weight:
90g/mto
Cycles
Fig.14 表(
) 図(
13
)
(写真は図に含める)
号
3%Mg 80mm
alloy
刷り上り希望大きさ
coated
steel
CCT. 浦中 将明
幅 170mm
幅 sheets in
執筆者名
(Coating weight: 90g/㎡ )
の表面 SEM 観察結果を図 1624) に示す。促進腐食試験
環境下では GI の表面にはポーラスな腐食生成物が生成
する。GF では初期は微細で緻密な腐食生成物が生成し
ており Zn-Al 合金めっきの効果がみられるが,20 サイ
クル後になると亜鉛腐食生成物はポーラスな形状へ変化
する。一方,ZAM は 20 サイクル後でも微細で緻密な
腐食生成物の生成が観察される。
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
16
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
様式 4
GI
CCTサイクル数
GF
ZAM
10
20μm
2μm
2μm
2μm
2μm
20
20μm
図 16 各種めっき鋼板上に生成した CCT10 および 20 サイクル後の腐食生成物の形態
図 16 各種めっき鋼板上に生成した
CCT10
および
20 サイクル後の腐食生成物の形態
Surface morphology of corrosion
products
formed
on various coated steel sheets
Fig.16 様式 4
Fig.16 Surface
morphology
of and
corrosion
products formed on various coated steel sheets after CCT for
after
CCT for 10
20 cycles.
10 and 20 cycles.
□:GI △:GF ○:ZAM
500
1000
800
600
400
200
0
0
5
10
15
20
1600
(b) Zn5(CO 3)2(OH)6
X線回折強度(d=3.580Å)
(a) ZnO
X線回折強度(d=6.900Å)
X線回折強度 (d=2.814Å)
1200
400
300
200
100
0
0
CCTサイクル
5
10
15
(c) Zn5(OH)8Cl2・H 2O
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
20
0
5
CCTサイクル
10
15
20
CCTサイクル
・X線源:Cu管球 ・管電圧:40kV ・管電流:100mA
図図17
CCT において各種めっき鋼板上に生成した腐食生成物の
において各種めっき鋼板上に生成した腐食生成物の
X 線回折強度の経時変化
17 CCT
X 線回折強度の経時変化
Fig.17 Changes
XRDintensity
intensity of
of corrosion
corrosion products
coated
steel
sheets
in CCT.
Fig.17
Changes ininXRD
productsformed
formedononvarious
various
coated
steel
sheets
in CCT.
様式 4
ZAM,GI および GF 上に生成した腐食生成物の X 線
回折強度を図 1720) に示す。GI では腐食の初期段階から,
2
Epoxy resin
1
GF も 20 サイクル後には保護性に乏しいとされる ZnO
の生成が多く認められる。それに対し,ZAM は 20 サ
Al"/M gZn2
イ ク ル 後 で も Zn5(OH)8Cl2・H2O の 生 成 だ け で あ り,
ZnO の生成が抑制されている。
Zn/Al"/MgZn2
ternary eutectic
CCT20 サイクル後の ZAM 表面の断面組織と腐食生
成物の SEM ‐ EDX による組成分析結果を図 1820) に示
す。めっき表面には Al と Mg を含む緻密な亜鉛腐食生
Primary Al ''
1μm
SEM-EDX分析結果(分析箇所:上記写真1,2)
成物が生成していることが確認できる。
上述の結果をまとめると,ZAM
や GF 16
番 号
表( の表面では
) GI図(
)
に比べて微細で緻密な亜鉛腐食生成物が長期間安定に存
刷り上り希望大きさ
80mm
幅 170mm 幅
在し,かつ保護性に乏しいとされる ZnO の生成が抑制
Zn
Analysis
Al
position
1
0.10
(写真は図に含める)
2
0.14
Mg
0.14
0.15
執筆者名
将明
* (Al or 浦中
Mg)% / (Zn
+ Al + Mg)%
図 18 CCT20 サイクル後に ZAM 上に生成した腐食生成物
されている。これらの挙動は,腐食生成物中に取り込ま 図 18 CCT20 サイクル後に ZAM 上に生成した腐食生成物の断面組織と
の断面組織と SEM-EDX 組成分析結果
SEM-EDX 組成分析結果
Fig.18 Cross-sectional structure and SEM-EDX analysis
Fig.18
structure and SEM-EDX analysis results of corrosion products formed on
このような亜鉛腐食生成物の挙動により,GI や
GF Cross-sectional
に
results of corrosion products formed on ZAM after
ZAM after CCT for 20 cycles.
比べて ZAM では図 1920) に示すようにカソード(酸素
CCT for 20 cycles.
れた Al と,とくに Mg の作用によるものとされている。
還元反応)電流が低く抑えられることで,高耐食性が発
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
様式 4
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
17
様式 4
3
10
2
GI
1
10
2
腐食減量 (g/m )
電流密度 (A/㎡ )
10
0
10
GF
-1
10
-2
10
ZAM
Zn
-3
10
-2000
-1700
-1400
-1100
-800
Zn1%Mg
Zn2%Mg
Zn4%Mg
Zn6%Mg
ZnZnZn8%Mg 16%Mg 32%Mg
Mg
-500
図 20 Zn-Mg 合金の腐食減量
図 20 Zn-Mg 合金の腐食減量(20℃、80%RH にて 28 日間暴露)
(20℃,80%RH にて 28 日間暴露)
Fig.20 Corrosion
of zinc-magnesium
alloys.
Fig.20 Corrosion
loss of loss
Zn-Mg
alloys.
電位 (mV vs. S.C.E)
・測定溶液:5%NaCl水溶液(25℃、空気飽和)
・走査速度:1mV/sec
to humid
air at 80%
RH20℃
and atand
20℃
days)
図 19
CCT20
サイクル後の各種めっき鋼板のアノード・カソード分極曲線
図 19 CCT20
サイクル後の各種めっき鋼板のアノード・カ
(Exposed
(Exposed
to humid
air at
at for
80%28RH
for
Fig.19 Polarization
curves of various coated steel sheets after CCT for 20 cycles.
ソード分極曲線
28 days)
Fig.19 Polarization curves of various coated steel sheets
after CCT for 20 cycles.
状の腐食生成物が局部的に観察される。それに対し,
現すると考えられている。
耐食性におよぼす Mg の効果を調べることを目的とし
ZAM では緻密で平滑性のある腐食生成物が生成してい
て,Prosek ら は 種 々 の 組 成 の Zn-Mg 合 金 を 20 ℃,
る。CCT で生成する腐食生成物とは形態が異なるが,
80%RH 雰囲気中で 28 日間暴露後にそれらの腐食減量を
ZAM で最も緻密な腐食生成物が生成するといった点は
測定している。その結果を図 20
26)
に示す。合金中の
同様の傾向である。また TEM-EDX 組成分析および電
Mg 濃度の増加とともに腐食減量は減少するが,Mg 濃
気化学測定から,ZAM の表面に生成する腐食生成物中
度 8% を境にそれ以上の濃度では増加傾向を示し,Mg
に Mg と Al が存在し,GI,GF と比較してカソード電
濃度 32% の Zn-Mg 合金はむしろ純 Zn の腐食量より大
流を抑制する効果が高いことを確認している 24)。
き な 値 を 示 す。 腐 食 量 が 少 な い Mg 濃 度 8% 以 下 の
促進腐食試験と同様,ZAM では緻密で微細な亜鉛腐
Zn-Mg 合金では X 線回折で亜鉛系の腐食生成物しか検
食生成物が長期間安定に存在することで大気環境下でも
出されなかったことから,Mg 含有 Zn めっき鋼板の高
優れた耐食性が発揮される。
耐食性は Mg の作用により保護性の高い亜鉛系腐食生成
物が生成するためと考察しており,Mg 系腐食生成物の
4.結 言
生成による効果ではないことを述べている。
番
号
ここまで ZAM の防錆機構について述べてきたが,そ
Zn めっき鋼板の防食に関する基本的特性についての
の高耐食性はめっき表面に生成する亜鉛腐食生成物によ
知見を述べた。Zn めっき鋼板の耐食性とその表面に生
り出現するものであり,基本的には Zn めっき鋼板の防
成する腐食生成物との間には密接な関係があり,表面に
錆機構と変わらない。したがって,ZAM においても
生成する腐食生成物の特性が重要となる。ZAM でも
表(
) 図(
19
)
(写真は図に含める)
Zn めっき鋼板と同様に,2.4
節で示したような環境での
Zn めっき鋼板と同様,腐食生成物の特性によって耐食
刷り上り希望大きさ
80mm
幅 170mm 幅
使用には注意が必要となる。
執筆者名
番 号
浦中 将明
表(
刷り上り希望大きさ
3.4 大気環境下での耐食性
) 図(
20
)
(写真は図に含める)
性が左右されるため,その特性を把握した上で ZAM の
80mm
幅 170mm 幅
執筆者名
浦中 将明
高耐食性が活かせるような部位に適用していく必要があ
る。
大気暴露試験における ZAM,GI および GF の腐食減
Zn めっき鋼板の使用量は今後も世界規模で増加する
量を図 21 に示す。大気暴露環境においても ZAM は
ことが予想されるが,Zn の資源としての寿命は 20 年前
GI や GF より優れた耐食性を示す。
後であるといわれており 27),Zn の枯渇を懸念した対策
24)
ZAM,GI および GF の大気暴露試験 5 年後の SEM
を検討する動きがみられる。そうした中で,同付着量で
による表面観察結果を図 2224) に示す。GI の表面には粒
GI,GF よりも優れた耐食性を示す ZAM は Zn の省資
状でポーラスな腐食生成物が生成しており,GF でも粒
源化を可能とするめっき鋼板であり,今後さらに種々の
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
18
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
様式 4
○:GI △:GF ◇:ZAM
120
120
(a) 海岸環境(沖縄県宜野湾市)
80
80
2
2
腐食減量 (g/m )
100
腐食減量 (g/m )
100
60
40
20
(b) 田園環境(群馬県桐生市)
60
40
20
0
0
0
2
4
6
8
0
暴露期間(年)
2
4
6
8
暴露期間(年)
図 21 大気暴露試験後の各種めっき鋼板のめっき層腐食減量
図 21 大気暴露試験後の各種めっき鋼板のめっき層腐食減量
Corrosion loss of various coated steel sheets after atmospheric exposure test.
Fig.21
様式
4
Fig.21 Corrosion loss of various coated steel sheets after atmospheric exposure test.
GI
GF
ZAM
2μm
図 22 大気暴露試験 5 年後の各種めっき鋼板上に生成した腐食生成物の形態(海岸環境)
図 22 大気暴露試験 5 年後の各種めっき鋼板上に生成した腐食生成物の形態(海岸環境)
Fig.22 Surface morphology of corrosion products formed on various coated steel sheets
Fig.22 Surface morphology of corrosion products formed on various coated steel sheets
after atmospheric exposure test for 5 years. (Marine environment)
after atmospheric exposure test for 5 years. (Marine environment)
用途への展開が期待される。その一方で,耐食性におよ
9) 市田敏郎:ふぇらむ,1(1996)
,868.
ぼす Mg の効果について現象論的には種々報告されてい
10)
,721.
田原晃,小玉俊明:Zairyo-to-Kankyo,46(1997)
るが,直接的な作用に関しては不明な点が多く,その解
R. Gomer,G. Tryson:J. Chem. Physics,66(1977),4413.
11)
明が進むことを期待したい。
12)
M. Stratmann:Corros. Sci.,27(1987),27.
S. Yee,R. A. Oriani,M. Stratmann:J. Electrochem. Soc.,
13)
138(1991),55.
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14)
,10.
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Apr.,30.
番
号
表(
刷り上り希望大きさ
) 図(
80mm
771.
7) 森本康秀,黒崎将夫,本田和彦,西村一実,田中暁,高橋彰,
新頭英俊:鉄と鋼,89(2003),161.
8) 清水剛,吉崎布貴男,三吉泰史,安藤敦司:鉄と鋼,89(2003),
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)
21
幅 170mm 幅
6) 渋谷敦義,栗本樹夫,是川公毅,野路功二:鉄と鋼,66(1980),
166.
浜田秀樹,出口武典:防錆管理,12(1994)
17)
,453.
18)
28 回鉄鋼工学セミナーテキスト(材料・圧延コー
) 安藤敦司:第
(写真は図に含める)
ス),日本鉄鋼協会,
(2002)
,6.
執筆者名 浦中
将明
19)
亜鉛系表面処理鋼板の防錆機構フォーラムの活動記録:社団
法人日本鉄鋼協会,材料の組織と特性部会,(2001),181.
,328-335.
20)
清水剛:防錆管理,53(2009)
岡襄二,朝野秀次郎,高杉政志,山本一雄:鉄と鋼,68(1982),
21)
A57.
22)
B. Roethibi,G. Cox,W. Littreal:Metals and Alloys,3(1932),
Zn めっき鋼板ならびに溶融 Zn-6%Al-3%Mg 合金めっき鋼板の防食機構
19
73.
23)G. Cox;Ind. Eng. Chem.,23(1931),902-904.
24)福沢秀刀:防錆管理,46(2002),106.
25)T. Tsujimura,A. Komatsu,A. Andoh:Proc. of 5th Int.
Conf. on Zinc and Zinc Alloy Coated Steel Sheet
(GALVATECH01),(2001),145.
26)T. Prosek,A. Nazarov,U. Bexell,D. Thierry,J. Serak:
Corrosion Science,50(2008),2220.
27)安谷屋武志:金属,79(2009)
,275.
日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)