フラックスによるアルミニウム溶湯処理について

NIKKIN FLUX INC.
日本金属化学株式会社
フラックスによるアルミニウム溶湯処理について
工
場 , 営 業 部 : 〒 356-0051
埼玉県ふじみ野市亀久保1651
TEL:049-262-1234 FAX:049-264-9554
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1.はじめに・・・・・フラックスの必要性
アルミニウム合金は軽量であること、耐食性・加工性に優れていること、スクラップ化された屑などのリサイク
リング(再資源化)による省エネルギー効果が大きいことなど多くの特徴に恵まれており、使用分野は多方面に
わたっています。
今日のように、省エネルギー化及びコスト低減が叫ばれる中で、原材料を大切に使用し、より高い製品歩留まり
の向上を推し進め、リサイクリングの強化を図る事が、今後の重要課題の1つと言えます。また、製品歩留まり
の向上と合わせ、より高品質の製品が要求される中でアルミニウム鋳物の第一工程である、溶解作業用のフラッ
クス処理が重要な役割を担うと考えられます。
特にアルミニウム合金は合金成分だけでなく、溶解された溶湯の性質が鋳物の良否に重要な影響を及ぼします。
鋳物の良否は溶湯の良否と鋳型の良否によって大きく左右され、いかに鋳物方案が良く鋳型の設計製作が完全で
あっても、これに鋳込まれる溶湯に欠陥が有れば良質な鋳物は得られません。したがって、鋳物の良否は溶湯の
良否によって決まると言っても過言ではありません。このため、良質なフラックスを選択する事が必要不可欠と
言えます。
フラックスは、メーカーにより配合原料及び配合率が異なりますので、自社の熔解条件に合ったものを選ぶ必要
があります。
フラックスの選択に際しては以下の点にご留意下さい。
1)使用目的(除さい・脱ガス・改良処理・組織微細化・不必要成分の除去等)
2)使用地金(Na系・非Na系)
3)使用温度(溶湯処理温度)
4)低公害・発煙・発生ガスの有無
ご使用に当たっては、処理時の温度及び使用量をご確認下さい。また、フラックスは化学薬品ですので、溶湯と
の化学反応を効率的に行わなくてはなりませんので、フラックスとの溶湯の接触面積をなるべく大きくさせる事
が必要で、フラックスを溶湯中に添加後、撹拌を充分に行って下さい。
また、フラックスと同様に溶湯の品質管理という点で、現場作業において溶湯には、下記の事項にご留意下さい。
1)必要は合金成分が維持されていること。必要以外の成分で汚染されてないこと。
2)合金の性質を劣化させるような有害ガス(水素)や酸素が除去されていること。
3)溶湯作業の過程において、必要以上の高温(設定温度が正確に保たれているか)、あるいは長時間作業が行
われ無いこと。
その他にも、経済的要因として、溶解作業中の地金の減耗が少ないこと、燃料消費量が少ないこともご確認下さ
い。
これらの諸事項をご認識の上、御社の作業標準に見合った製品をお選びいただき、良質な製品んお製造にお役立
て下さい。
2.フラックスの原料とその性質
アルミ合金フラックスは、主としてアルカリ金属(ナトリウム・カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム・
バリウム・マグネシウム等)、及びアルミニウム、珪素等の塩素化合物・フッ素化合物等を主成分として、混合
し製品とします。
主な原料の性質を次に示します。なお、既番とは、経済省が指定する既存化学物質番号を示します。
2-1フッ素化合物
物質名
化学式
分子量
比重
融点
沸点
既番
備考
フッ化アルミニウム
AlF3
83.89
2.88
1040
フッ化ナトリウム
NaF
41.99
2.79
992
1704
332
フッ化マグネシウム
MgF
62.31
3.15
1260
2260
328
フッ化カルシウム
CaF
78.08
3.18
1360
2500
179
ケイフッ化カリウム
K2SiF6
220.28
3.08
分解
324
ケイフッ化ナトリウム
Na2SiF6
188.06
2.68
分解
334
ホウフッ化カリウム
KBF4
125.91
2.5
分解
51
ボロン添加用
チタン弗化カリウム
K2TiF6
240.09
3.01
780
1097
チタン添加用
ジルコンフッ化カリウム
K2ZrF6
283.41
3.48
分解
1098
ジルコン添加用
クリオライト
Na3AkF6
209.94
2.90
1000
332.14
氷晶石
カリクリオライト
K3AlF6
14
ホタル石
1096
2-2塩素化合物
物質名
化学式
分子量
比重
融点
沸点
既番
備考
塩化アルミニウム
AlCl3
133.34
2.44
190
183
12
潮解,昇華,煙
塩化ナトリウム
NaCl
58.45
2.16
800
1413
236
食塩
塩化カリウム
KCl
74.56
1.98
776
1500
228
塩化カルシウム
CaCl2
110.99
2.15
772
1600
176
潮解性
塩化マグネシウム
MgCl2
95.22
2.32
712
1412
233
潮解性
沸点
既番
備考
2-3炭素塩、硝酸塩、硫酸塩、その他
物質名
化学式
分子量
比重
融点
炭酸カリウム
K2CO3
138.21
2.43
891
炭酸ナトリウム
NaCO3
105.99
2.53
851
400
164
炭酸カルシウム
CaCO3
100.09
2.93
1339
825
122
硝酸カリウム
KNO3
101.11
2.10
330
449
硝酸ナトリウム
NaNO3
84.99
2.26
308
484
硫酸カリウム
K2SO4
174.27
2.66
1069
454
硫酸ナトリウム
Na2SO4
142.05
2.69
500
501
ナトリウム
Na
22.99
0.97
97.5
880
赤リン
P4
123.90
2.20
400
752
153
3.フラックスの分類と目的及び作用
3-1分類
(1)除さい、酸化物除去、脱ガス用
(2)共晶、亜共晶Al-Si合金改良処理用
(3)結晶粒微細化用
(4)ヒドロナリウム合金用
(5)高珪素アルミニウム合金微細化用
(6)発熱性除さい用(アルミ分回収処理用)
(7)アルミ用特殊フラックス
3-2目的及び作用
(1) 除さい、酸化物除去用
アルミニウム合金の溶湯は酸素との結合力が多く、これと強力的に反応する為、アルミニウムの溶解炉や手
許炉等の溶湯は常に酸化物の皮膜で覆われています。また、鋳物の溶解でリターン材等の原料を増やして溶
解する場合は、インゴットに比べ表面積が大きいことと付着物などが影響して、溶解炉及び溶湯に多量の酸
化物が発生します。これらの酸化物は、そのままの形でアルミ溶湯から製品に巻き込まれることがあり、加
工の際に不良原因となる為、溶湯中から除去しなければなりません。酸化物は主にAl2O3ですが、他に合
金元素である、Mg・Si・Fe・Cu・Ti等も酸素と結合して酸化物を生成します。
4Al + 3O2 → 2Al2O3
Si
+ O2
→ SiO2
Cu
+ O2
→ CuO2
2Mg + O2
→ 2MgO
4Fe + 3O2 → 2Fe2O3
Ti
+ O2
→ TiO2
主な酸化物の比重は、およそAl2O3-3.5~3.9、MgO-3.65,Al2O3・MgO-3.55、
SiO2-2.2~2.65でAl及びAl合金は2.65~2.98でSiO2を除いて酸化物は全て重いの
ですが、酸化物は水素ガスの吸着などにより溶湯中に大部分、浮遊懸濁していると考えられます。
この浮遊している酸化物を物理的(吸着)或いは、化学反応させて取り除くフラックスが除さい、脱酸用の
フラックスです。
*フラックスによる溶湯中の酸化物分離機構について
フラックスの主成分は、ハロゲン化合物で塩素化合物(NaCl・KCl)、弗素化合物(NaF・Na2
SiF6)の混合塩である。ハロゲン化合物は化学的に非常に活性であるため、フラックスの主成分として
使用されます。
塩素化合物は、アルミニウム溶湯中では、ぬれ性のよい溶融塩を形成し、この溶融塩が微細酸化物を吸着し
ながら拡大し、多孔質の酸化物として、比重差により溶湯表面に押し上げる働きを行います。(溶融塩の比
重は2~2.2)それと同時に、溶湯表面に集合した酸化物の層を溶湯から分離させる事が必要であるため、
固体の酸化物と溶湯との界面をぬらし、界面エネルギーを低下させ酸化物を溶湯から分離させやすくする作
用があります。
弗素化合物は酸化物の凝集作用及び凝集された酸化物及びフラックス層
(ドロス)
から発熱反応を起こさせ、
ドロス中より金属アルミニウムを分離させやすくし、乾いた(ドライ状)ドロスを形成させます。
2NaF
4NaF
6NaF
Na2SiF6
Na2SiF6
+
+
+
+
Al2O3
2Al2O3
Al2O3
2Al
→
→
→
→
→
NaAlO2
3NaAlO2
2AlF3
2Na
2NaF
+
+
+
+
+
NaAlOF3
NaALF4
3Na2O
Si+2AlF3
SiF4
(除さい)
(除さい)
(発 熱)
(発 熱)
(分 離)
(2)共晶・亜共晶 Al-Si合金改良処理
1)ナトリウム添加剤
Siを5~12%程度含むアルミニウム合金は、ナトリウムを添加することにより組織が改良され機械的
性質(引張り強さ・伸び)、鋳造性が向上します。また、凝固中の収縮が、改良しない合金では集中せず
分散するので巣の生成は少ないです。
組織改良機構については諸説があり、いまだに定説はありませんが、その一説によると凝固組織に大きな
Siの初晶結晶が現れたり、改良組織のようにAl-Si共晶の微細な組織となるのは、Al-Si合金
の融液からAlが先に核化して晶出し始めるか、
Siが先に晶出し始めるかによって起こります。
そこで、
ナトリウムの添加によって。このSiの晶出する温度が下がりAlが先に晶出して発達するためと言われ
ています。
フラックスによるアルミニウム合金のNa(ナトリウム)導入反応
3NaCl + Al
→
AlCl3 + 3Na
3NaF
+ Al
→
AlF3
+ 3Na
共晶、亜共晶Al-Si合金の改良処理に必要なNa(ナトリウム)量はおよそ20ppm以上とされていま
す。
2)ストロンチウム添加剤
ストロンシウムは、ナトリウムと同様にAl-Si合金の合金組織(針状あるいは薄板状の形態をなす共
晶Si)を改良し、繊維状共晶組織に変化させ、機械的性質、特に伸びを改善します。
ナトリウムと比較しストロンチムは融体中で安定しており、改良効果時間は長いです。しかし、ナトリム
とは凝固形態が異なるため、鋳物に生じる巣の分散効果はナトリウムの方が大きいと言えます。
(3)結晶微細化用
アルミニウム合金において結晶粒を微細化する事の利点
a)製品中の巣の分散
厚肉部分は急冷されにくいため、微細化剤を添加することにより、均一凝固させ機械的性質が向上し巣が
分散されます。
b)熱間割れの防止
結晶粒の粗合金では、その内部に局部的なひずみを持つ領域が多く発達しているため、凝固中に熱間割れ
を生じ易いですが、結晶粒が微細化されていると、これを防ぐ事が出来ます。
c)耐圧性の向上
結晶粒が粗大な場合、吸収ガスの放出による気孔などが粒界に大きく発生して、これが連続すると耐圧性
を損なうようになりますが、結晶粒が微細化されていると気孔は平均的に分散して耐圧性が向上します。
*フラックスによる微細化機構について
アルミニウム合金の結晶粒に及ぼす元素(Ti・B・Zr等)を添加することによる、結晶組織の微細化(微
細化機構)については、諸説がありますが、いまだ詳しくは判明していません。その微細化機構の説の1つに
結晶核生成説があり、最近では1番有力とされています。
これは、添加元素(Ti・B・Zr等)を添加すると、TiAl3・AlB2・TiB2・ZrAl3が生成され、
これが結晶核になりα晶を微細化すると言われています。
フラックスによるアルミニウム合金のTi・B・Zrの導入反応
3K3TiF6 + 13Al → 3TiAl3 + 4AlF3 + 6KF
3K2TiF6 + 4Al
→ 3Ti + 4AlF3 + 6KF
3KBF4
+ 3Al
→ AlB2 + 2AlF3 + 2KF
3K2TiF6 + 6KBF4 + 10Al → 3TiB2 + 10AlF3 + 12KF
3K2ZrF6 + 13Al → 3ZrAl3 + 4AlF3 + 6KF
(4)ヒドロナリウム用
Al-Mg合金の特徴は良好な機械的性質、
機械加工性ならびに優れた耐食性を有することです。
しかし、
この合金はMgが多量に含まれているので、溶湯の酸化が著しく、溶融状態において極めてドロスを生成
しやすいので、溶解精錬は十分に行う必要があります。
溶解中の酸化防止には微量のBeが極めて効果があります。特にMgの多いヒドロナリウム合金には、欠
かすことが出来ない成分です。
AC7Aは非熱処理合金でF材を用いられていますがAC7Aは鋳造のままではMg2Al3が析出し、機
械的性質や耐食性を害するので必ずT4処理を施して用います。
ヒドロナリウム合金で特にMg量が多い場合は、モールド・リアクションのために鋳造の表面層が酸化す
ることがあるので、砂に硼沸素アンモンを1~2%添加するか、鋳型表面に硼沸素アンモン水溶液をスプ
レーします。
フラックス使用上の注意点としては、ヒドロナリウム合金(AC7A・7B)等、5%以上マグネシウム
を含む合金の処理には、ナトリウムを含んだフラックスは使用出来ません。
合金中にナトリウムは入るとマグネシムの酸化が進み、最終凝固の粒界にAl2O3・MgOなどが析出し、
粒界エネルギーを低下させるため、機械的強さや耐食性を要求される製品に影響を与えます。
フラックスの成分としては、KCl・MgCl2・K2SiF6などのナトリウムを含まないものを使用し
ています。
(5)高珪素アルミ合金微細化用
珪素を15~25%含む過共晶Al-Si合金は初晶珪素の粗大な結晶が析出し切削が極めて困難になり
機械的性質を劣化させるため、隣(P)を添加して結晶粒微細化処理を行います。
微細化機構は、Pを添加することによりAlPを生成させ、結晶核として初晶Siを微細化させます。微
細化処理する際に注意すべき点として、Naの存在は禁物で絶対に避けなければなりません。溶湯中にN
aが入るとAlPの発生を妨害し、Na3Pを生じ、微細化効果を生じなくさせてしまいます。
(6)発熱性除さい用(アルミ分回収処理用)
ドロス中の金属アルミ分を少なくし、溶解損失を減らします。
*発熱反応によるアルミ分の回収機構
このフラックスの成分は熱分解により酸素を放出する化合物を含み、これがドロス中のアルミの細かい粒
と反応し、燃焼・発熱・テルミット反応を起こして温度を上昇させ、さらに空気中の酸素が加わります。
この反応が繰り返され拡大し次第に高温となりアルミ粒が溶融して合体し、大きい粒から湯溜まりに溜ま
るまでに発展し、ドロス中の金属アルミを回収します。
(7)その他の特殊フラックス
二次合金製造の際、合金元素を調整するフラックス
1)脱Mg(マグネシウム)用
2)脱Ca(カルシウム)用
ドロス発煙防止用フラックス
押し湯保温剤
4.アルミ合金溶解・鋳造フローチャート
溶
湯
準
備
材料挿入・溶解
脱 ガ ス 処 理
除
さ
除さい・酸化物除去
い
脱 ガ ス 処 理
微 細 化 処 理
静
除
い
脱 ガ ス 処 理
定
鎮
静
除
鋳 造 【 1 】
改
理
鎮
い
炉
定
鎮
炉
前
判
さ
良
除
炉
処
さ
前
判
鋳 造 【 2 】
【1】改良処理・微細化処理を特に必要としない鋳造
【2】改良処理を必要とする鋳造
【3】微細化処理を必要とする鋳造
【4】改良処理・微細化処理の両方を必要とする鋳造
さ
い
改
静
除
定
鎮
鋳 造 【 3 】
炉
前
判
良
処
さ
理
い
静
前
判
定
鋳 造 【 4 】