Researches using Polarization in CV

CV における偏光を用いた研究
宮崎 大輔
池内 克史
東京大学 生産技術研究所
あらまし 偏光は古くから知られている物理現象であり,これまでに様々な研究がなされてきた.偏光
は,物質の構造を知るような物理学的な応用のみならず,立体視スクリーンなどのようなエンターテ
インメントへの応用もあり,幅広い応用が考えられている.偏光に関する研究は主に光学の分野で行
われているが,近年,他の分野でも偏光に関する研究は増えてきている.その中でも,本論文では,コ
ンピュータビジョンの分野でなされている偏光に関する研究を紹介する.
Researches using Polarization in CV
Daisuke Miyazaki and Katsushi Ikeuchi
Institute of Industrial Science, The University of Tokyo
Abstract Polarization is a well-known physical phenomenon, and there are variety of researches proposed
until now. Polarization has a wide area of application not only in physics which for example analyze the
material structure but also in entertainment which for example uses stereo projecting screen. Researches
about polarization are performed mainly in the field of optics, but recently, they are also performed in other
fields. In this paper, we introduce some researches about polarization which are performed in the field of
computer vision.
1. 執筆にあたって
Incident
Reflected
光は波であり,振動している.振動方向が偏る現象
Air
を偏光という.これまでに偏光を用いた様々な研究が
Light
発表されている [42].本論文では,コンピュータビジョ
Unpolarized
(ρ = 0)
ンの分野における偏光を用いた研究をいくつか紹介し
Polarizer
Object
Perfectly polarized
(ρ = 1)
Transmitted
Partially polarized
(ρ = 0~1)
つつ,そこで使われている偏光の基礎理論を中心に説
明する.
図 1: 偏光
2. 偏光とは
偏光には直線偏光と円偏光があるが,まず直線偏光
部分偏光した光を直線偏光板を通して観測した場合
について説明する.ある一方向にだけ振動している光
を考えよう.偏光板は観測方向に対し,垂直に設置す
を完全直線偏光と言い,等方的に振動している光を非
る.偏光板を回転させるごとに,透過光の輝度が高く
偏光と言う(図 1).その中間状態にある光を部分偏光
なったり低くなったりする.偏光板を回転させたとき,
と言う.偏光度とは,光の偏光状態を表す尺度の一つ
最も高い輝度を
で,0 から 1 の値を取り,完全偏光は 1,非偏光は 0 の
る.任意の2次元の正規直交座標系( 軸と 軸)を
値で表す.直線偏光板を通過した光は,完全直線偏光
偏光板の平面上に定義し,偏光板を回転させたときの
になる.完全直線偏光の前にもう一つ直線偏光板を置
角度,偏光角,を定義する.なお,本論文では特に断
いたとき,2つの直線偏光板が同じ向きにあると光は
りの無い限り,座標系はデカルト座標系を用い,右手
2つの直線偏光板を透過し,2つの直線偏光板が異な
系を採用する.ただし,法線については極座標系また
る向きにあると光は透過しない.
はデカルト座標系上の単位ベクトルで表現する.偏光
1
,最も低い輝度を
と表記す
Linear
polarizer
Linear
polarizer
Polarized
light
Polarized
light
Unpolarized
light
Specular
reflection
Diffuse
reflection
(a)
(b)
(c)
図 3: 位相のずれと円偏光
図 2: 直線偏光板2枚による鏡面反射成分と拡散反射成
角 は,偏光板の速い軸と
され, 軸から
(3)
ここで, は直線偏光板の透過率を表す.理想的には
軸に向かう角度である.なお,速
この値は 1 であり,市販の偏光板も一般的には 0.99 以
向きを表す軸のことである.偏光板は
で,偏光角も
軸のなす角として定義
い軸とは,直線偏光板において光が透過して偏光する
Æ
はカメラのカラーバンド(例えば
)を表すが,以降では記述を省略する.
ここで,添え字
分の分離
から
Æ
Æ
上である物が多い.
周期なの
この分離方法は単純で効果的であるため,反射解析
までの値を取る.最小輝度
では前処理でよく使われる [6, 13, 41, 44].
が観測されたときの偏光角 を位相角 と定義す
3.1.1. 直線偏光板一枚による分離
る.以上の定義のもとでは,偏光板を回転させたとき
一般的な光は非偏光である場合が多い.完全直線偏
に観測される輝度 は以下のように表すことができる.
Æ
光を物体に照射するような能動的な方法よりも,一般
(1)
的な光源を使った受動的な方法のほうが広い応用分野
が考えられる.そこで,非偏光な光を物体に照射した
ときに,カメラの前に設置した直線偏光板を使って鏡
3. 鏡面反射成分と拡散反射成分の分離
面反射と拡散反射の成分を分離する手法も多数提案さ
3.1. 直線偏光板による分離
れている [20, 27, 45, 50].
物体の見えは一般的に二色性反射モデルで表現でき
3.2. 円偏光板による分離
る.すなわち,物体表面での反射には2種類存在し,そ
偏光には直線偏光と円偏光の2種類がある.円偏光
の二つとは鏡面反射と拡散反射のことである.
は位相板(波長板)を用いて発生させることができる.
直線偏光板を光源の前とカメラの前に設置して,鏡
直線偏光が図 3 のような配置で位相板を透過する様子
面反射と拡散反射の成分を分離する方法をまず説明す
を考える.図 3(a) は位相の変化がない状態であり,直
る(図 2).直線偏光板を光源の前に配置したとき,偏
線偏光のままとなる.図 3(b) は光の位相が 波長ず
光板を通過した光は完全直線偏光となる.鏡面反射は
れた状態であり,円偏光となる.図 3(c) は光の位相が
波長ずれた状態であり,向きの異なる直線偏光と
物体表面で即座に反射するため,鏡面反射光はこのと
き完全直線偏光となる.拡散反射は物体内部で乱反射
なる.円偏光には右円偏光と左円偏光があり,図 3(b)
するため,様々な方向に偏光した光が混ざり合い,
(光
は右円偏光を表している.図 3(b) が
の波長よりも十分大きい)ある面積あたりある時間あ
状態だとすれば,
たりの拡散反射光は非偏光となる.そこで,カメラの
左周りが左円偏光と定義されており,一般的な物理学
すれば,鏡面反射と拡散反射の成分を分離することが
の定義(右ねじの方向)とは逆なので注意してほしい.
できる.
直線偏光板と位相板を貼り付けた物が円偏光板として
,拡散反射光の強度を とす
市販されている.
るとき,偏光板を回転させたときの観測光の最大輝度
,最小輝度
光源の前に右円偏光板を配置すると,偏光板を通過
との関係は以下の通りとなる.
(2)
波長ずれた状態では左円偏光
が発生する.光の進行方向から見て右回りが右円偏光,
前にも偏光板を設置し,偏光板を回転させて光を観測
鏡面反射光の強度を
波長ずれた
した光は完全右円偏光となる.拡散反射は物体内部で
乱反射するため,非偏光となる.鏡面反射は物体表面
2
Incident light
Surface normal
Reflected light
Incidence Reflection
angle angle
n1
Material 1
θ1 θ'1
Material 2
n2
Transmission angle
θ2
Transmitted
light
図 4: 極座標系
で即座に反射するため,鏡面反射光は円偏光となる.
図 5: 反射,透過,屈折
ここで,光源とカメラは大体同じ位置であるように配
5. フレネルの公式と直線偏光度
置する.このとき,鏡面反射光は位相が反転して完全
左円偏光となる.カメラの前に右円偏光板を配置すれ
物体表面が光学的に滑らかで,材質は等方的で透明
ば,左円偏光の鏡面反射光をカットすることができる.
な誘電体であるとしよう.図 5 に示すように,媒質1
宮崎ら [26] は反射解析の前処理としてこの分離方法を
から媒質2の表面に非偏光が照射された場合を考える.
用いた.
表面法線と光源方向のなす角を入射角 とし,表面法
線と視線方向のなす角を反射角 とする.十分滑らか
な界面を考えているので,
4. 反射と振動方向
と透過角の間には以下のスネルの法則が成り立つ.
,天頂角を で表す.物体表面に非偏光を照射したと
き,鏡面反射光は部分偏光する.鏡面反射光を観測し
Æ
(4)
ただし, は媒質1の屈折率, は媒質2の屈折率
の曖昧性を除き
一致する.この導出は次節で説明する.すなわち,
過光の方向と法線のなす角を透過角 とする.入射角
物体表面法線は図 4 の極座標系で表現し,方位角を
たとき,位相角 と方位角 は
となる.また,透
である.
が観測されるときの偏光角から物体表面の方位角を決
入射光を表すベクトルと法線を表すベクトルが張る
定することができる.一つの視点・光源からでは方位
平面を入射面と定義する.十分滑らかな界面を考えて
角のみが決定されるだけであり,法線を一意に決定す
いるので,反射光を表すベクトルも透過光を表すベク
ることができない.そこで,別の視点・光源からの情
トルも入射面に含まれる.強度反射率を ,強度透過
報も使えば法線が決定されることを Wolff と Boult [50]
率を とし,入射面に平行な成分を添え字 ,垂直な
が示した.
成分を添え字
で表すとき,強度反射率と強度透過率
は以下のようにフレネルにより導出された.
3.1 章では拡散反射光は非偏光であると仮定したが,
実際は若干部分偏光する.このとき,位相角 と方位
角 は直交する.これについては 6 章で説明する.す
なわち,
(5)
である.この性質を
Æ
Æ
利用すれば,2視点から不透明物体を観測することに
(6)
より,その形状を計測することが可能となる [30–33] .
しかし,それは物体表面上で同一点で,2視点の偏光
(7)
データを解析する必要がある.そこで,対応点の初期
値を適当に与え,それに基づき物体形状を計算し,そ
(8)
これをグラフで表したのが図 6 である.この図では,
が 1.5
の形状に基づき再び対応点を計算することを繰り返す
媒質1に対する媒質2の相対屈折率 方法を Rahmann と Canterakis [32] は提案し,不透明物
のときのグラフを示している.横軸が入射角 (
体の法線を推定した.
ˇ ara [7] は,そのような偏光の性
また,Drbohlav とS´
Æ
) を表し,縦軸は強度反射率と強度透過率を
Æ
表す.
質と photometric stereo 法を組み合わせて物体形状を計
このグラフからも想像がつくと思うが,任意の相対
),任意の入射角 ( 屈折率 ( 算する手法を提案している.
3
1
T⊥
T//
Ratio
R⊥
0
R//
Incidence angle
90°
図 6: 強度反射率と強度透過率
に偏光度と記述する.この章では,鏡面反射光のみを
(10)
なお,特に断りがない限り,直線偏光度のことを単純
(9)
図 7: 反射光の偏光度
) に対し,以下の性質が成り立つ.
Æ
観測しているので,式 (9) の性質から以下が成り立つ.
となる角度をブリュースタ角 と言い,以
下の数式で表現できることをブリュースタは示した.
(11)
ここで,
先にカメラを配置することにする.カメラ座標系とし
のデカルト座標系 を採用する.カメラの前に
は直線偏光板を配置し,入射光は非偏光とし,物体表
としてここでは記述
を省略する.このとき,物体の相対屈折率 は物体の屈折率 に一致する.またこのとき,入
射面角度 と法線の方位角 は一致する ( ) かま
たは正反対の角度 ( ) になる.
の屈折率 は 1.0 なので,
(15)
とするとき,解として2つの候補が出てくることが分
かる.一方の天頂角は正しい天頂角であり,もう一方
が観測
を得
は間違いである.一方の天頂角はブリュースタ角より
小さい値であり,もう一方は大きい値である.偏光度
が 1 のときは,ブリュースタ角が天頂角として一意に
求まる.この性質は任意の屈折率
).観
に対し
て成り立つ.天頂角に対する曖昧性を除去するために
測光の直線偏光の度合いを表す直線偏光度は以下のよ
る.式 (16) と図 7 より,偏光度から天頂角を求めよう
観測されることになり,それはすなわち,位相角 が
面反射光を,直線偏光板を前に置いたカメラで観測す
る.偏光角が入射面に一致しているときに最小輝度が
されている [21,23,34].非偏光を物体表面に照射し,鏡
また,式 (9) より,偏光板を回したとき,入射面に対
うに定義される.
偏光度から法線の天頂角を推定する方法が多数提案
Æ
入射面角度に一致することを表している (
(14)
5.1. 形状計測
面上の一点から出てくる反射光のみを観測する.空気
され,垂直な成分を観測したときに最大輝度
今回の場合,反射角 は法線の天頂角 に一致する
( ).屈折率 1.5 のときの偏光度のグラフを図 7 に
示す.
ては,反射光の進む向きの逆方向を 軸とした右手系
して平行な成分を観測したときに最小輝度
(13)
で表すと偏光度は以下のように表現できる.
(16)
今,媒質1を空気とし,媒質2を物体とし,反射光の
Æ
式 (5),式 (6),式 (4) を式 (15) に代入し,反射角 軸に向かう角度として
定義する.
軸とのなす角を,入射面角度 と定
義する.これは, 軸から
は反射光の輝度を表す.式 (13) と式 (14)
カルト座標系 を考える.入射面と 平面
が交わる線と
を式 (12) に代入すると以下の式が導かれる.
反射光の進む向きの逆方向を 軸とした右手系のデ
は,さらにデータが必要となる.Miyazaki ら [23] は,
2視点から物体を観測することによりこの曖昧性を除
(12)
去する方法を提案した.
4
図 9: 熱放射光の偏光度
図 8: 放射
と観測輝度は以下のようになる.
5.2. 見えの改善
Schechner ら [36] は偏光を解析することにより,ガ
ラス面での反射と透過を分離する手法を提案した.
Schechner ら [37, 38] はまた,霧がかった日や水の中
のシーンにおいて,偏光を使って見えを改善する手法
を提案した.
ここで,
(17)
(18)
は放射光の輝度を表す.式 (17) と式 (18)
を式 (12) に代入すると以下の式が導かれる.
6. 放射光の直線偏光度
(19)
式 (7),式 (8),式 (4) を式 (19) に代入し,放射角
で表すと偏光度は以下のように表現できる.
物体を熱すると赤外線を放射する.これは熱放射(黒
体放射)と呼ばれる現象である.物質内部の分子が振
今回の場合,放射角 は法線の天頂角 に一致する
体内部で発生した光は,界面で透過して外界に出てく
( ).屈折率 1.5 のときの偏光度のグラフを図 9 に示
す.この熱放射光の偏光解析は Sandus [35],Nicodemus
[28,29],Jordan ら [16,17],Wolff ら [52] によってなさ
れた.
る.この熱放射光の偏光状態を観測してみよう.
図 5 において,媒質1が物体内部で媒質2が空気の
場合を考えればよい.この図をそのように描き直した
ものが図 8 である.物体の外部を向いている表面法線
図 9 は屈折率 1.5 のグラフであるが,任意の相対屈
と観測方向のなす角を放射角 とし,表面法線と入
折率
射光のなす角を とする.媒質1(空気)の屈折率を
とし,媒質2(物体)の屈折率を とす
着目し,透明物体の形状計測を行った.
6.1. 拡散反射光の直線偏光度
熱放射光は物体内部に所々でランダムに発生し,内部
拡散反射光も物体内部からの放射と見なせるため,
の分子で乱反射するため,様々な方向に偏光した光が混
熱放射光と同じ理論が成り立つ.すなわち,表面が滑
ざり合い,ある面積あたりある時間あたりの光は非偏光
らかな物体の拡散反射光の偏光度は式 (20) で表される.
となる.図 8 における入射光が非偏光であり,界面を透
また,表面が粗い場合は,物体表面で光が拡散し,その
過する際に部分偏光する.その偏光状態は式 (7) と式 (8)
偏光度は式 (20) よりも低くなる.Miyazaki ら [22] は,
で与えられる強度透過率によって決定される.この強度
拡散反射光の偏光度を利用して,不透明物体の形状を
透過率のグラフは図 6 に示す.ここで,式 (10) の性質が
計測する手法を提案した.
成り立つので,偏光角が入射面に一致しているときに最
7. ミュラー計算,ジョーンズ計算とコヒーレンス
行列
大輝度が観測されることになり,位相角 と入射面角
).なお,今
回の場合,入射面角度 と方位角 は の曖昧性を
除き一致する ( または ).
Æ
Æ
Æ
Æ
で,熱放射光の偏光度と天頂角は1
対1の対応関係がある.Miyazaki ら [21] はその性質に
る.このとき,スネルの法則(式 (4))が成り立つ.
度 は直交する(
(20)
動し,高まったエネルギーを光として発生させる.物
光の偏光状態を計測する手法としては大きく分けて4
Æ
種類存在する.その一つはこれまで説明したような方法
で計算するものである [1,15,42].その他に,コヒーレン
放射光を直線偏光板を前に設置したカメラで観測する
5
図 10 は方位角が である場合を表している.この
ときの反射光のストークスベクトルは,方位角を
Æ
に
変換した入射光のストークスベクトルに反射ミュラー
行列 をかけることによって計算できる.すなわち,
まず,入射光のストークスベクトル
図 10: ミュラー計算の例
にかける.最後にストークスベクトルを角度 だけ回
ス行列を使った計算法 [1],ミュラー計算法 [15,42],と
転して元の座標系に戻す.透過光についても同様であ
ジョーンズ計算法 [15,42] がある.これら四つの計算法
る.図 10 では観測光は反射光と透過光の和であるの
の機能はほぼ同等であるため,ある計算法での全ての計
で,観測光のストークスベクトル
算は他の計算法に対しても適用可能である.Kagalwala
スキー微分干渉顕微鏡の構造をシミュレートした.
されており, と
この章ではミュラー計算法について説明する.ミュ
偏光の強さを表し,3番目の要素 はその座標系の 軸と 軸との間の斜め
Æ
の直線偏光の強さを表し,
4番目の要素 は右円偏光の強さを表す.ミュラー計
Æ
のときの反射と透過を表すミュ
(24)
(25)
Æ 行列を反射ミュラー行列の代わりに用いる:
Æ Æ
Æ Æ
(26)
ただし,Æ は位相のずれを表し,全反射の場合は以下
(21)
全反射においては反射光の位相がずれるため,以下の
ラー行列, と ,は以下のように表される:
臨界角 は以下のように計算できる.
この章でも,滑らかで等方的な誘電体に対して説明
と で表
角が臨界角より大きいと,光は透過せず,全反射する.
行列である.
する.入射面角度が
(23)
物体内部の光が空気との境界で反射するとき,入射
算法では,物質が光の偏光状態をどのように変化させ
るかをミュラー行列 で表す.ミュラー行列は
はそれぞれ反射する前の光と透過
番目の要素 はある座標系における 軸方向の直線
は以下で表される:
で表す.ストークスベクトルは四次元
ベクトルであり,最初の要素 は光の輝度を表し,2
する前の光を表している.また,回転ミュラー行列 ラー計算法では光の偏光状態をストークスベクトル
は以下のように計
ただし,入射光のストークスベクトルは
7.1. ミュラー計算
算される:
と Kanade [18] はジョーンズ計算法を使って,ノマル
だけ
を角度
回転する.次に を,変換したストークスベクトル
で与えられる.
Æ (27)
また,入射角がブリュースタ角以下のときは,反射
光の位相が反転するため,反射ミュラー行列の左から
行列 (22)
ここで, と はそれぞれ入射角と相対屈折率である.
をかける.
Æ
直線偏光板によって光を観測した場合,右円偏光の強
さを表すストークスベクトルの4番目の成分 を計測
5 節で記したとおり,, , , は入射角と屈
折率から計算できる.
することはできない.ストークスベクトル 6
と
, , とは以下の関係にある:
8. その他の研究
Cula ら [5] は偏光を用いて,複数光源のもとで撮影さ
れた画像を,それぞれの光源一つで照らされた画像に分
解した.Clark ら [4] と Wallace ら [46] は,不透明物体
(28)
の形状を計測するためのレーザーレンジセンサを,偏光
解析により改良した.Wolff と Boult と Chen [2, 49, 50]
偏光度は以下の式で定義されている:
は,偏光解析を用いて対象物体を金属か誘電体である
(29)
かを区別する手法を開発した.
しかし,直線偏光板で計測できる直線偏光度は以下の
値となる:
9. まとめと今後の展望
本論文では,コンピュータビジョンの分野で発表さ
(30)
れた偏光についての研究についての研究動向をまとめ
た.偏光の原理自体はすでに確立されているものの,
偏光を用いた研究は様々な種類のものがあることが分
Koshikawa と Shirai [19] は,ミュラー計算法を用い
かったかと思う.偏光はあくまで強力なツールとして
て鏡面物体の表面法線を求める手法を提案した.
使用し,アイディア一つで様々な研究に応用が可能な
7.2. PLZT と計測装置
のである.使い方次第で,今後も興味深い研究が数多
く提案されるだろう.
PLZT という透明なセラミックスの偏光特性を用いて,
参考文献
様々な応用が考えられている [12].PLZT の偏光特性の
理論的な解析は Shames ら [40] が詳しい.Miyazaki ら
[1] M. Born and E. Wolf, Principles of optics, Pergamon Press, 1959.
[2] H. Chen and L. B. Wolff, “Polarization phase-based method for
material classification in computer vision,” Int’l J. Computer Vision, vol. 28, no. 1, pp. 73–83, 1998.
[3] R.A. Chipman, “Mechanics of polarizaiton ray tracing,” Opt. Eng.,
vol. 34, no. 6, pp. 1636–1645, 1995.
[4] J. Clark, E. Trucco, and L.B. Wolff, “Using light polarization in
laser scanning,” Image and Vision Computing, vol. 15, no. 2, pp.
107–117, 1997.
[5] O.G. Cula, K.J. Dana, D.K. Pai, and D. Wang, “Polarization multiplexing for bidirectional imaging,” Proc. IEEE Conf. Computer
Vision and Pattern Recognition, pp. 1116–1123, 2005.
[6] P. Debevec, T. Hawkins, C. Tchou, H.P. Duiker, and W. Sarokin,
“Acquiring the reflectance field of a human face,” Proc. SIGGRAPH,
pp. 145–156, 2000.
ˇ ara, “Unambiguous determination of shape
[7] O. Drbohlav and R. S´
from photometric stereo with unknown light sources,” Proc. IEEE
Int’l Conf. Computer Vision, pp. 581–586, 2001.
[8] H. Fujikake, K. Takizawa, T. Aida, H. Kikuchi, T. Fujii, and M.
Kawakita, “Electrically-controllable liquid crystal polarizing filter for eliminating reflected light,” Opt. Rev., vol. 5, no. 2, pp.
93–98, 1998.
[9] J.S. Gondek, G.W. Meyer, and J.G. Newman, “Wavelength dependent reflectance functions,” Proc. SIGGRAPH, pp. 213–220,
1994.
[10] C. Gu and P. Yeh, “Extended Jones matrix method. II,” J. Opt.
Soc. Am. A, vol. 10, no. 5, pp. 966–973, 1993.
[11] S. Guy and C. Soler, “Graphics gems revisited: fast and physicallybased rendering of gemstones,” ACM Trans. Graphics, vol. 23, no.
3, pp. 231–238, 2004.
[12] G.H. Haertling, “PLZT electrooptic ceramics and devices,” Am.
Chem. Soc., pp. 265–283, 1981.
[13] K. Hara, K. Nishino, and K. Ikeuchi, “Light source position and
reflectance estimation from a single view without the distant illumination assumption,” IEEE Tran. Pattern Analysis and Machine
Intelligence, vol. 27, no. 4, pp. 493–505, 2005.
[14] C.K. Harnett and H.G. Craighead, “Liquid-crystal micropolarizer
array for polarization-difference imaging,” Appl. Opt., vol. 41, no.
7, pp. 1291–1296, 2002.
[25] は,PLZT を用いて,観測光のストークスパラメー
タを計測する装置を開発した.Wolff ら [51],Fujikake
ら [8],Harnett と Craighead [14] は,液晶を用いて,観
測光の偏光度を計測する装置を開発した.Schechner
ら [39] は,広い視野の偏光データを取得する装置を開
発した.
7.3. 偏光レイトレーシング法
偏光を用いたレイトレーシング法を本論文では偏光
レイトレーシング法と呼ぶ.偏光レイトレーシング法は
商用のソフトウェアにも実装されている.Gondek ら [9]
は古典的なレイトレーシング法とフレネルの式を使っ
て光の偏光状態を計算した.Wolff と Kurlander [48] は
レイトレーシング法とコヒーレンス行列を使って光の
偏光状態を計算した.のちに,Tannenbaum ら [43] と
Guy と Soler [11] がこの手法を拡張した.Gu と Yeh [10]
はジョーンズ計算法を拡張した.Chipman [3] もまた
ジョーンズ計算法を拡張し,レイトレーシング法と簡単
に組み合わせることができるようにした.Wilkie ら [47]
はレイトレーシング法とミュラー計算法を使って光の
偏光状態を計算した.
Miyazaki ら [24] は,偏光レイトレーシング法の逆問
題を反復計算で解くことにより,透明物体の形状を計
測する手法を提案した.
7
[15] E. Hecht, Optics, 2002.
[16] D.L. Jordan and G.D. Lewis, “Measurements of the effect of surface roughness on the polarization state of thermally emitted radiation,” Opt. Lett., vol. 19, pp. 692–694, 1994.
[17] D.L. Jordan, G.D. Lewis, and E. Jakeman, “Emission polarization
of roughened glass and aluminum surfaces,” Appl. Opt., vol. 35,
pp. 3583–3590, 1996.
[18] F. Kagalwala and T. Kanade, “Computational model of image formation process in DIC microscopy,” Proc. SPIE, vol. 3261, pp.
193–204, 1998.
[19] K. Koshikawa and Y. Shirai, “A model-based recognition of glossy
objects using their polarimetrical properties,” Adv. Robo., vol. 2,
no. 2, pp. 137–147, 1987.
[20] S. Lin and S. W. Lee, “Detection of specularity using stereo in
color and polarization space,” Comp. Vis. Image Understanding,
vol. 65, no. 2, pp. 336–346, 1997.
[21] D. Miyazaki, M. Saito, Y. Sato, and K. Ikeuchi, “Determining
surface orientations of transparent objects based on polarization
degrees in visible and infrared wavelengths,” J. Opt. Soc. Am. A,
vol. 19, no. 4, pp. 687–694, 2002.
[22] D. Miyazaki, R.T. Tan, K. Hara, and K. Ikeuchi, “Polarizationbased inverse rendering from a single view,” Proc. IEEE Int’l
Conf. Computer Vision, pp. 982–987, 2003.
[23] D. Miyazaki, M. Kagesawa, and K. Ikeuchi, “Transparent surface
modeling from a pair of polarization images,” IEEE Trans. Pattern Analysis and Machine Intelligence, vol. 26, no. 1, pp. 73–82,
2004.
[24] D. Miyazaki and K. Ikeuchi, “Inverse polarization raytracing: estimating surface shape of transparent objects,” in Proc. IEEE Conf.
Computer Vision and Pattern Recognition, pp. 910–917, 2005.
[25] D. Miyazaki, N. Takashima, A. Yoshida, E. Harashima, and K.
Ikeuchi, “Polarization-based shape estimation of transparent objects by using raytracing and PLZT camera”, Proc. SPIE, pp. 1–
14, 2005.
[26] 宮崎大輔, 柴田卓司 , 池内克史, “Wavelet-texture 法:Daubechies
ウェーブレットと反射モデルと円偏光板による BRDF 圧縮,”
画像の認識・理解シンポジウム, pp. 269–276, 2006.
[27] S.K. Nayar, X.S. Fang, and T. Boult, “Separation of reflection
components using color and polarization,” Int’l J. Computer Vision, vol. 21, no. 3, pp. 163–186, 1997.
[28] F.E. Nicodemus, “Directional reflectance and emissivity of an opaque
surface,” Appl. Opt., vol. 4, pp. 767–773, 1965.
[29] F.E. Nicodemus, “Reflectance nomenclature and directional reflectance and emissivity,” Appl. Opt., vol. 9, pp. 1474–1475, 1970.
[30] S. Rahmann, “Inferring 3D scene structure from a single polarization image,” Proc. SPIE, vol. 3826, pp. 22–33, 1999.
[31] S. Rahmann, “Polarization images: a geometric interpretation of
shape analysis,” Proc. Int’l Conf. Pattern Recognition, pp. 542–
546, 2000.
[32] S. Rahmann and N. Canterakis, “Reconstruction of specular surfaces using polarization imaging,” Proc. IEEE Conf. Computer
Vision and Pattern Recognition, pp. 149–155, 2001.
[33] S. Rahmann, “Reconstruction of quadrics from two polarization
views,” Iberian Conf. Pattern Recognition and Image Analysis,
pp. 810–820, 2003.
[34] M. Saito, Y. Sato, K. Ikeuchi, and H. Kashiwagi, “Measurement
of surface orientations of transparent objects by use of polarization in highlight,” J. Opt. Soc. Am. A, vol. 16, no. 9, pp. 2286–
2293, 1999.
[35] O. Sandus, “A review of emission polarization,” Appl. Opt., vol.
4, no. 12, pp. 1634–1642, 1965.
[36] Y.Y. Schechner, J. Shamir, and N. Kiryati, “Polarization and statistical analysis of scenes containing a semireflector,” J. Opt. Soc.
Am. A, vol. 17, no. 2, pp. 276–284, 2000.
[37] Y.Y. Schechner, S.G. Narashimhan, and S.K. Nayar, “Polarizationbased vision through haze,” Appl. Opt., vol. 42, no. 3, pp. 511–
525, 2003.
[38] Y.Y. Schechner and N. Karpel, “Clear underwater vision,” Proc.
IEEE Conf. Computer Vision and Pattern Recognition, pp. 536–
543, 2004.
[39] Y.Y. Schechner and S.K. Nayar, “Generalized mosaicing: polarization panorama,” IEEE Trans. Pattern Analysis and Machine Intelligence, vol. 27, no. 4, pp. 631–636, 2005.
[40] P.E. Shames, P.C. Sun, and Y. Fainman, “Modeling of scattering and depolarizing electro-optic devices. I. Characterization of
lanthanum-modified lead zirconate titanate,” Appl. Opt., vol. 37,
no. 17, pp. 3717–3725, 1998.
[41] T. Shibata, T. Takahashi, D. Miyazaki, Y. Sato, and K. Ikeuchi,
“Creating photorealistic virtual model with polarization based vision system,” Proc. SPIE, 2005.
[42] W.A. Shurcliff, Polarized light: production and use, Harvard University Press, 1962.
[43] D.C. Tannenbaum, P. Tannenbaum, and M.J. Wozny, “Polarization and birefringency considerations in rendering,” Proc. SIGGRAPH, pp. 221–222, 1994.
[44] N. Tsumura, N. Ojima, K. Sato, M. Shiraishi, H. Shimizu, H.
Nabeshima, S. Akazaki, K. Hori, and Y. Miyake, “Image-based
skin color and texture analysis/synthesis by extracting hemoglobin
and melanin information in the skin,” ACM Trans. Graphics, vol.
22, no. 3, pp. 770–779, 2003.
[45] S. Umeyama and G. Godin, “Separation of diffuse and specular
components of surface reflection by use of polarization and statistical analysis of images,” IEEE Trans. Pattern Analysis and Machine Intelligence, vol. 26, no. 5, 2004.
[46] A.M. Wallace, B. Liang, E. Trucco, and J. Clark, “Improving
depth image acquisition using polarized light,” Int’l J. Computer
Vision, vol. 32, no. 2, pp. 87–109, 1999.
[47] A. Wilkie, R.F. Tobler, and W. Purgathofer, “Combined rendering of polarization and fluorescence effects,” Proc. Eurographics
Workshop on Rendering, pp. 197–204, 2001.
[48] L.B. Wolff and D.J. Kurlander, “Ray tracing with polarization parameters,” IEEE Comp. Graph. Appl., vol. 10, no. 6, pp. 44–55,
1990.
[49] L.B. Wolff, “Polarization-based material classification from specular reflection,” IEEE Trans. Pattern Analysis and Machine Intelligence, vol. 12, no. 11, pp. 1059–1071, 1990.
[50] L.B. Wolff and T.E. Boult, “Constraining object features using a
polarization reflectance model,” IEEE Trans. Pattern Analysis and
Machine Intelligence, vol. 13, no. 7, pp. 635–657, 1991.
[51] L.B. Wolff, T.A. Mancini, P. Pouliquen, and A.G. Andreou, “Liquid crystal polarization camera,” IEEE Trans. Robotics and Automations, vol. 13, no. 2, pp. 195–203, 1997.
[52] L.B. Wolff, A. Lundberg, and R. Tang, “Image understanding
from thermal emission polarization,” Proc. IEEE Conf. Computer
Vision and Pattern Recognition, pp. 625–631, 1998.
8