新農薬:殺菌剤「ザンプロDMフロアブル」

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植 物 防 疫 第 68 巻 第 8 号 (2014 年)
新農薬の紹介
殺菌剤ザンプロ DM フロアブルの特徴
―疫病とベと病をダブルブロック―
BASF ジャパン株式会社
岡田 健一(おかだ けんいち)
よびべと病に特異的な抗菌活性を有するピリミジンアミ
は じ め に
ン系の殺菌剤である。イニシウムⓇは,ミトコンドリア
ザンプロ DM フロアブルは,BASF 社が開発したピリ
での電子伝達系複合体 III(ComplexIII)におけるスチグ
ミジンアミン系の新規殺菌剤成分イニシウム Ⓡ(一般
マテリンサブサイトに結合し菌のエネルギー合成を遮断
名:アメトクトラジン)とカルボン酸アミド系の殺菌剤
する。これまで,電子伝達系複合体 III を阻害点とする
ジメトモルフ(商品名:フェスティバル )を混合した
殺菌剤は,阻害点によって,Qo 部位と Qi 部位の二つ
疫病・べと病用殺菌剤である。平成 19 年より試験番号
の作用機作に分類される。イニシウムⓇ は,Qo 部位や
BAF―0701 フロアブルとして(一社)日本植物防疫協会
Qi 部位とは異なる部位スチグマテリンサブサイト(QoS)
Ⓡ
を通じ全国の農業試験機関等で委託試験が実施され,優
を阻害し,QoS 阻害剤に分類される。この作用機作に
れた効果が確認された。平成 26 年 4 月 24 日付で,ザン
分類される殺菌剤はイニシウムⓇが初めてである。この
プロ DM フロアブル(アメトクトラジン 27.0%,ジメ
作用機作は,殺菌剤耐性菌対策委員会(FRAC)へ提案
トモルフ 20.3%)で登録を取得した(表―1)。以下に本
され受理されている(2014 FRAC code : 45)
。また,イ
剤の作用特性および特徴を紹介し,今後の防除薬剤選択
ニシウムⓇは卵菌類に活性のある殺菌剤グループとの交
の一助となれば幸いである。
差耐性は確認されていない。
植物防疫
イニシウムⓇは,①低薬量で疫病,べと病に高い活性
I 有効成分とその特徴
1
を持つ,②遊走子の遊泳を速やかに阻害する(遊走子の
Ⓡ
新規殺菌成分イニシウム (一般名:アメトクト
破裂)
,③葉のワックス層へ速やかに吸着され,水分に
ラジン)
よって再分散する,等の特性を持っている。
Ⓡ
イニシウム は,卵菌類(Oomycetes)に属する疫病お
イニシウムⓇ を含む製品は 2010 年にルーマニアで初
表− 1 登録内容(2014 年 4 月 24 日現在)
農薬登録番号:第 23455 号 一般名:アメトクトラジン・ジメトモルフ水和剤 商品名ザンプロ DM フロアブル
作物名
適用
希釈倍数
病害虫名
ばれいしょ
疫 病
トマト
ミニトマト
使用液量
1,000 ∼
1,500 倍
100 ∼ 300 l/
10 a
250 倍
25 l/10 a
1,500 ∼
2,000 倍
たまねぎ
2,000 ∼
3,000 倍
本剤の
使用回数
使用
方法
アメトクトラジン
を含む農薬の
総使用回数
3 回以内
100 ∼ 300 l/
10 a
ジメトモルフ
を含む農薬の
総使用回数
3 回以内
散布
3 回以内
収穫 7 日前まで
ベと病
大粒種ぶどう
収穫前日まで
1,500 倍
きゅうり
小粒種ぶどう
使用時期
200 ∼ 700 l/
10 a
収穫 60 日前まで
収穫 30 日前まで
2 回以内
― 70 ―
2 回以内