北海道における乳牛の代謝プロファイルテスト

北海道草地研究会報 25:2
7-3
1(
19
9
1
)
シンポジウム『高泌乳時代の土ー草一家畜の問題点』
北海道における乳牛の代謝プロファイルテスト
飼養管理、健康および生産性の実態
ま
[
田
克
木
弥 ( 北 海 道 NOSAI 家 畜 臨 床 講 習 所 )
じ め
北海道 NOSAIでは,昭和 62年度より家畜診療巡回車を導入し, 全道各地で,乳牛群を対象に飼料給
与診断,ボディコンディションスコアおよび多くの項目の血液検査からなる検診,即ち代謝プロファイル
テスト実施している白
5.000頭余の検診を実施し,
現在までに約 600牛群, 血液検査だけで 1
牛乳の生産調整から増
この間,
産という大きな変革の流れを「乳牛の栄養,血液成分値(健康状態),乳生産」という視点から観察する
ことが出来た。
今回,本シンポジウムにおいて,発表する機会を与えられたので,代謝プロファイ Jレテストからみた北
海道酪農,乳牛の健康状態の現状について紹介する。
エネルギー代謝に関わる項目
1)ボディコンディションスコア
ボディコンディションスコア( BC S )の乳期別推移をみると,分娩後,泌乳初期の聞はかなり急速に
痩せていくが,泌乳最盛期以降(分娩後 10
t!J
週以降)は次第に増加している(図 1)
。
また, ACM乳量により層別した牛群能力
4
.
0
一
回l国 弘 司
3
.
5
一方,個体毎に乳量,乳期別の BCSをみ
ると(図 3),高泌乳牛はそうでない牛に比
"
3
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0
回匝四;
回 因 。
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I
回
国
II回 ~I
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EJ:
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~CCl国】
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別では,高泌乳牛群の牛は,低泌乳牛群に比
べ肥っていることが明らかである(図 2)
ロ
j
司
回 国 語E可
a=o I
:
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:
l
EJ
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2
.
0
べ必ずしも肥っていない。肥っているのはむ
5
0
1
1
0
2
2
0
しろ泌乳中,後期のあまり産乳量の多くない
ま(日)
回
回
牛であった。このことは,現在の高生産が濃
:mean
:
m
e
a
n
:
:
!
:
S
D
図1. ボディコンディションスコアの
厚飼料(即ち穀類〉の多給により達成されて
分娩後日数別推移
いること, さらに泌乳中,後期で, 乳量低下
を抑えようと必要以上に濃厚飼料を給与されていたり, また,盗食などによって, もたらされていること
による変化ではないかと思われる。
次に,牛群の生産性に多大の影響をおよぽす繁殖障害と分娩前後の病気,即ち周産期病の発生の多い牛
t
円
白
つ
J
.HokkaidoGrassl
.S
c
i
.2
5
:2
7- 3
1(
19
9
1
)
群の特徴をまとめると(図 4,
)
繁殖障害(特に分娩後無発情)
4.0
牛群では, 全般に痩せているこ
+SD
とが多く,泌乳中期のスコアが
最低になっていることが多い。
mean
このような牛群では,乳蛋白率
もかなり低くなっており,血液
2.5
"
"
S
D
検査でも栄養不足に起因した変
化が多く認められる。また,泌
D~II~I
2.0
乳末期,乾乳期にも十分な栄養
蓄積が認められない口
一方,分娩後間もない時期に
初期
図
最盛期
中期
後期
乾乳期
2 乳量階層別,乳期別ボディコンディションスコア
ケトン症,第四胃変位など指肪肝を伴
う代謝障害の発生の多い牛群では,泌
乳末期に既に過肥に陥り,分娩後は,
採食量の低下によって急速に削痩して
いることが特徴である。血液検査では
判
也、乳期
同丹
市
占
,
υ
4Ja
較的良好であるが, 牛が急速に痩せて
期
回目の検定では,乳量,乳成分とも比
成且
な牛の乳検成績をみると分娩後の第 l
期目取
中
目円引
た病的な変化が認められる。このよう
fよ'
私久
泌乳初期に,まさにケトン症に類似し
乳 量 (Kg)
図3
. 乳期別,乳量別ボディコンディションスコア
いく結果,第 2回目の検定ではかなり
低下していることがしばしば観察される。ちな
みに,この BCSの低下は,極端な場合には,
乾乳期間中に既に観察されていることもあり,
周産期病
4
.
0
3
.
5
乾物摂取量の低下から第一胃容積の縮小も併せ
て認められた。このような牛では,特に分娩後
第四胃変位の発生が多くなっている。
2
.
5
表1. ボディコンディションスコアの診断の要点
.5以上であること
①泌乳最盛期であっても 2
②泌乳最盛期〈中期〈後期のように推移していること
③泌乳末期には 4程度に到達していること
④乾乳期間中,低下が起きていないこと
玄μ腕
2
.
0
要点を表 1に示す。
la
ボディコンディションスコアについて診断の
~ili 繁殖障害
3
.
0
50
1
1
0
2
2
0
(日)
図4
. 繁殖障害および周産期病多発牛群の
ボディコンディションスコア
-28ー
北海道草地研究会報 2
5
:2
7-3
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19
9
1
)
2
)血
糖
(
mg/d
l
)
血糖は,重度のエネルギー不足によって低
7
0
下するといわれており,反対に,高い場合は
65
エネノレギ一過剰,あるいは栄養と関係なくス
トレスに対する反応である場合がある口分娩
6
0
l
I
i
I
i
回
後日数別の推移をみると(図 5),泌乳初期
55
は低下しており,乳牛は分娩後かなり強烈な
エネルギー不足に陥っていることが伺われる。
E
5
0
t
E
J
r
牛群能力別では(図 6),泌乳中期以降は
圃
図5
. 血糖値の分娩後日数別推移
十分なエネルギー給与がなされていることが
わかる白ところが,個体別にみると(図
:
m
e
a
n
国:mean:
tSD
高泌乳牛群で高い傾向,即ち高泌乳牛群では
7)
高泌乳牛の血糖値は高くな
く,泌乳初期は,乳量が多
い牛でむしろ低下していた口
70
........i+SD
さらに, 泌乳中期,後期で
はむしろ低泌乳牛で血糖値
mean
が高かった。このことは,
現在の北海道酪農には,高
-SD
泌乳牛(時)のエネルギー
不足と低泌乳牛(時〉のエ
日~II~I
50
ネノレギ一過剰というふたつ
初期
の問題が混在していると考
中期
最盛期
後期
乾乳期
図6
. 乳量階層別,乳期別血指値
えられる。
3) 遊離指肪酸
遊離脂肪酸は,摂取エネノレギーの不
足により体指肪が動員されて増加する。
分娩後日数別の推移をみると(図
8
),泌乳初期,最盛期の聞は猛烈に脂
肪動員が起きていることがわかる。泌
乳末期までに体脂肪として蓄えたエネ
由
同
4446
fω
よ
〆
H
明刀
正﹄'
R 円山
協乳期
所以であると思われる。
成
且
l
期目取
て高生産をしている,乳牛が乳牛たる
RJ
f よ〆
る時期に効率よく利用することによっ
後
ノレギーを,分娩後の採食が低下してい
図7
. 乳期別,乳量別血糖値
ところが,乾乳に入ると,遊離脂肪
-29ー
乳量
(Kg)
J
.Hokkaido Grassl
.S
c
i
.2
5
:2
7-3
1(
19
9
1
)
酸が際だって増加している。この原因として乾
t
:
.
l
μEq/L ) 回
乳期間中のエネルギー不足が考えら
300-
期間中も牧草,特に乾草だ貯でなく,若干の穀
2
口
国 国 '
lE;;:
同
o
I
E
I
類を給与 している牛群ではこういうことはなく,
1
5
0
I
乾乳牛の遊離脂肪酸の増高は,
己~fZ:l
1
f
Z
:
l
国
~
圃
圏
,
t
:
:
!
l
どちらかといえ
f
Z
:
l
1
0
0
ば乾乳中,粗食にしている牛群でよく観察され
ている。
, - f i 3 図 回1
国四回国自主回国国~司
ロ ア
1
5
0
2
. 蛋白代謝に関する項目
議
1)へマトクリット(血球容積)
5
0
1
1
0
事(
2
2
0
子
じ
園
ヘマトクリット値は, 種々の疾病,長期間に
図
肪酸値の分娩後日数別推移
図8
.
及ぶ蛋白不足により低下(貧血〉し, また, 飲
:
m
e
a
:
m
e
a
n土S
D
水不足などにより増加(血液濃縮)する。
牛群能力別では(図 9),泌,
(%)
乳初期を除き, 高泌乳牛群ほど
高い傾向がある口これは, 高泌
+
s
o
34
-f• • • • • • • • • • • •
乳牛群ではア jレフアルファなど
良質な粗飼料が充分に給与され
mean
32
ていることによるものと推察さ
s
o
れる。しかしながら,個体乳量
との関係をみると(図 10,
)
日~II~I
泌乳初期,最盛期の高泌乳時で
も特に産乳量との関係は認めら
初期
最盛期
れず,むしろ泌乳中期において
図
中期
後期
乾乳期
低 一 高
9
. 乳量階層別,乳期別へマトクリット値
低泌乳牛で若干高い傾向が認められて
いる。これは,血糖,ボディコンディ
ションと同様の変化であり,穀類過剰
摂取による lレーメンアシドーシスに伴
う変化とも考えられる。高血糖, 血液
濃縮は,濃厚飼料を多給されている肥
育牛と同様の変化であり,この問題が
4J1
判
υ
也、乳期
期
成
且
されなかったアンモニアが第一胃壁か
期
最
2) 尿 素 窒 素
尿素窒素は,第一胃で徴生物に利用
期
中
RHW
JZ7
ある。
弘久
全道各地に共通して起きているようで
乳量
図 1
0
. 乳期別,乳量別ヘマトクリット値
-30ー
(Kg)
北海道草地研究会報 2
5
:2
7- 3
1(
19
9
1
)
ら直接吸収され, 肝臓において合成されたも
(
mg/d
l
)
のであるロ従って,尿素窒素の高値は, 飼料
2
0
の蛋白過剰, あるいは徴生物に対するエネノレ
ギー源の不足を意味し,低値は, 蛋白不足,
日明両~~回JF ロ~
1
5
ー"置
l
エネノレギ一過剰を意味する白
乳期毎の動きをみると(図 1
1),泌乳期は
民九~~~~?,戸回『「
1
0
ー一軒守F
唱
概ね飼料摂取に比例した変化ということが出
戸~d'相
E
J
V
来るが,乾乳を境に,極端な低下が認められ,
'
1
0
.
2
2
0
ま(日)
先ほどの遊離脂肪酸の変化と同様,乾乳期の
国
飼料給与に問題があるように思われる白
:
m
e
a
n土S
D
図 11
. 血液尿素窒素値の分娩後日数別推移
牛群能力別にみても(図 1
2
),泌乳期にお
ける高泌乳牛群ほど高い傾
(mg/dL) r...
向と対象的に,乾乳期では,
22
牛群能力別の差が全く認め
1
9ト...............................• ....i+SD
られないロ即ち,乾乳期の
管理は,高泌乳を達成して
mean
いる牛群においても平均的
f
乙
は
.
,
まだまだ組末な管理
S
D
であるということを意味し
D~II~I
ており, これも全道的な間
題点として注目される口
乾乳期間中に,尿素窒素
が低くなるような管理では
初期
図
最盛期
中期
後期
乾乳期
12 乳量階層別,乳期別血液尿素窒素値
第一胃徴生物にとっても窒素源が不足していることが考えられ, このような牛で,第一胃容積の縮小が観
察されることも多い。
ま
と
め
高泌乳を達成しながら,事故が少ない牛群では, ここに紹介したような問題点は殆ど認められず, 一方,
なんらかの問題を抱えている牛群では,結局,酪農の基本技術と言われるものに,欠陥がある場合が多い。
乳量が増えれば,事故が増えるということは本来ありえず,牛を「健康に飼う」ということが,
「安定し
た高生産を達成する」ことに他ならないことを確信する。そして,これを実現するための,必要条件とし
て,組飼料,特に牧草の栄養的品質の向上が最重要課題であると考える白
-31-