1. 構造解析の基礎

1. 構造解析の基礎
1.1 結晶構造
1.1.1 結晶(crystal):「単位構造」が空間的に繰り返されたもの。
結晶構造=単位構造+空間格子
空間格子は3つの基本並進ベクトルa, b, cによって定義される。
r' = r + xa + yb + zc
単位構造中にj種類の原子があれば、
r j' − r j = x j a + y j b + z j c
と書ける。
1.1.2 格子型:対称性により分類される。
※対称性とは、対称操作によって元の形と変わらないこと。
1.1.3 単位格子内の原子位置
rj = x j a + y j b + z j c
(0 ≤ x j , y j , z j ≤)
例:体心立方格子
単位格子における原子位置は、(0 0 0)と(1/2 1/2 1/2)
1.1.4 結晶面の指数(Miller index)
(1) 面と軸の切片を、格子定数を単位として表す。(u, v, w)
(2) これらの数の逆数を求めて、同じ比の整数に簡約する。
⎛1 1 1⎞
⎜⎝ , , ⎟⎠ → (h, k, l)
u v w
(3) 負の側で交わる時は上にバーをつける。
(100)
(4) 対称性により等価な面には{ }をつける。
(5) 結晶中で方向を表す数の組には[ ] をつける。
1.2 逆格子
1.2.1 Braggの法則
光路差:2dsinθより、回折条件は2dsinθ=nλ
1.2.2 Fourier解析
結晶中の電子雲はrの周期関数なので、
n(r + T) = n(r)
1次元で考える。n(x)をFourier展開すると、
n(x) = n0 + ∑ ⎡⎣C p cos(2π px / a) + S p cos(2π px / a) ⎤⎦
p>0
ここで格子定数はaなので、n(x+a)=n(x)。この式は次のようにも書ける。
p ⎞
⎛
n(x) = ∑ n p exp ⎜ i2π x ⎟ (n-p*=np)
⎝
a ⎠
p
(*)
3次元の場合には、
n(r) = ∑ nQ exp(iQ ⋅ r)
(**)
Q
(*)のFourier係数npは、
np =
p
1 a
n(x)exp(−i2π x)dx
∫
a
a 0
で与えられる。ここでnpは2πp/aを単位とする格子点(逆格子点)である。なぜなら右
辺に(*)を代入すると、
1 a
p'
p
n p' exp(i2π x) exp(−i2π x)dx
∑
∫
0
a
a
a
p'
=
a
p'− p
1
n p' ∫ exp(i2π
x)dx
∑
0
a
a p'
ここで積分は p' ≠ p のとき0になるので
右辺=np
となる。同様に(**)については
nQ =
1
n(r)exp(−iQ ⋅ r)dV
Vc ∫Vc
(ここでVcは結晶の単位格子の体積)となる。
1.2.3 逆格子ベクトル
逆格子ベクトルを次のように定義する。
2π
b×c
Vc
2π
b* =
c×a
Vc
2π
c* =
a×b
Vc
a* =
ここで、Vc = a ⋅(b × c) 。すると、これらのベクトルが張る空間(逆空間)上の格子点(逆
格子点)へのベクトル
Q = ha* + kb * + lc*
は結晶の周期性の条件n(r+T)=n(r)(ただしT=xa+yb+zc)を満たす。なぜならFourier展開
(**)を考えると、
n(r + T) = ∑ nQ exp(iQ ⋅ r)exp(iQ ⋅ T)
Q
= ∑ nQ exp(iQ ⋅ r)exp(i(ha* + kb * + lc* )⋅(xa + yb + zc))
Q
= ∑ nQ exp(iQ ⋅ r)exp(i(hx + ky + lz)2π )
Q
= ∑ nQ exp(iQ ⋅ r)
Q
= n(r)
またQ=ha*+kb*+lc*は(hkl)面の法線ベクトルである。なぜなら(hkl)面のa, b, c軸方向の
1 1 1
切片が : : なので
h k l
1
1
a− b
h
k
1
1
v = a− c
h
l
u=
は独立で、かつ(hkl)平面内にあるベクトルである。これとQとの内積を取ると、
2π
2π
h−
k=0
h
k
2π
2π
Q⋅v =
h−
l=0
h
l
Q⋅u =
ゆえに、Qは(hkl)面の法線ベクトルである。また(hkl)面の面間隔d(hkl)は
d(hkl) =
2π
Q
であることが証明できる。
Q
kf
ki
θ
π
Q ⋅ k = Q k cos( + θ )
2
= − Q k sin θ
X線回折では¦ki¦=¦kf¦なので、Bragg条件を書くと
λ = 2d(hkl)sin θ
4π Q ⋅ k
=
Q −Q k
ここで¦k¦=2π/λなので整理すると
Q + 2Q ⋅ k = 0
2
(***)
dVにおけるeiki ⋅r の光路差はr sin ϕ なので位相差は2π
r sin ϕ
= k i ⋅ r になる。一方散乱波に関
λ
する位相差は−k f ⋅ r なので、散乱波の位相因子はexp ⎡⎣i(k i − k f )⋅ r ⎤⎦ となる。従って散乱波
の合成振幅は、
F = ∫ n(r)exp ⎡⎣i(k i − k f )⋅ r ⎤⎦dV
= ∫ n(r)exp [ iΔk ⋅ r ]dV
ここにn(r)のFourier展開を代入すると、
F = ∑ ∫ n(r)exp [ i(Q − Δk)⋅ r ]
Q
すなわちΔk=QのときFは大きな値を持つ。X線の場合は一般に¦ki¦=¦kf¦なので、
ki + Q = k f
k + Q = k2
2
2k ⋅Q + Q 2 = 0
となり、(***)と同じ式が得られる。
1.2.4 構造因子
回折条件が満たされるとき(Δk=Q)、N個の単位格子を持つ結晶の散乱振幅は、
FQ = N ∫ n(r)exp(−iQ ⋅ r)dV = NSQ
cell
となる。この時SQを構造因子と呼ぶ。単位格子中の各原子について考えると
s
n(r) = ∑ n j (r − r j )
j=1
よって、
s
SQ = ∫ ∑ n j (r − rj )exp(−iQ ⋅ r)dV
j=1
= ∑ exp(−iQ ⋅ r)∫ n j ( ρ )exp(−iQ ⋅ ρ )
j
ただし、ρ=r-rj。ここで原子形状因子(atomic form factor)を次のように定義する。
f j = ∫ n j ( ρ )exp(−iQ ⋅ ρ )
すると構造因子は次のように書ける。
SQ = ∑ f j exp(−iQ ⋅ rj )
j
= ∑ f j exp [ −2π i(hx + ky + lz)]
j