液滴蒸発 - 日本大学生産工学部

ISSN 2186-5647
−日本大学生産工学部第47回学術講演会講演概要(2014-12-6)−
4-24
基板上でのパターン形成を伴う液滴蒸発の数値シミュレーショ
ン
日大生産工(院) ○関谷 駿
阿南工業高等専門学校 山田耕太郎
日大生産工
野々村 真規子
広島大学
小林 亮
1 まえがき
溶液を蒸発させた後、基板上に放射状、同心
円状、ドット状などの様々なパターンが形成さ
れる。これらのパターンは蒸発と対流によって
形成される。1)2)
文献3)ではこのパターン形成について、数理
モデルを作成、空間1次元で数値計算を行って
いる。本研究では文献3)のモデルを空間2次元
で数値計算を行い、どのようなパターンが形成
されるかを調べる。また、数値計算にGPGPU
を用いて数値計算速度の向上を目指す。
2 数理モデル
液滴の厚みをhሺ‫ܚ‬, tሻという変数を用いて表
す。‫ = ܚ‬ሺx, yሻは位置、tは時間を表す。次の式
でhは時間発展する。3)
ப୦
ப୲
= ∇ ∙ ൜ଷ hଷ ∇ ൤−γχሺhሻ∇ ∙ ൬
χ′ሺhሻ ൬γ
ଵ
ଵ
∇୦
ඥଵାሺ∇୦ሻమ
൰+
ඥଵାሺ∇୦ሻ
式(1)の右辺第1項は表面張力、右辺第3
項は重力項である。右辺第2項は溶液と基板
が接触しているところでのみ値を持つ。図1
に示すように、溶液と基板との接触角θと、
界面張力ߛ௟௩ 、ߛ௦௩ 、ߛ௟௦ の間にはヤングの関係
式が成立している。cos ߠが1 ⁄ √ሺ1 + ሺ∇hሻଶ ሻ、
ߛ௟௩ = γ、ߛ௦௩ − ߛ௟௦ = Γであることを考慮する
と、この右辺第2項の括弧の中はヤングの式
そのものであることがわかる。式(1)のfୣ は
蒸発を表しており、次のように書ける。
fୣ = e[p଴ expሺAΦሻ − p୴ ](2)
ただし、
Γ൰ (3)
∇୦
ඥଵାሺ∇୦ሻమ
൰ + χ′ሺhሻ ൬
ஓ
ඥଵାሺ∇୦ሻమ
χሺhሻ = ቊ
tanh ቀஔቁ h > 0
୦
(4)
0h ≤ 0
を用いた。
液滴内に含まれる物質が基板上に析出する
と過程は、溶質の量sሺ‫ܚ‬, tሻ、析出物質の量qሺ‫ܚ‬, tሻ
を用いて次のように表している。3)
பୱ
ப୲
= ∇ ∙ ൜ଷ hଶ s∇ ൤−γχሺhሻ∇ ∙ ൬
ଵ
χᇱ ሺhሻ ൬γ
−
ଵ
ඥଵାሺ∇୦ሻమ
Gሺh, s, qሻ(5)
ப୯
ப୲
∇୦
ඥଵାሺ∇୦ሻమ
൰+
− Γ൰ + h൨ൠ + Dୱ ∇ ∙ ቂh∇ ቀ୦ቁቃ −
ୱ
෡ ୯ ∇q൧ + Gሺh, s, qሻ(6)
= ∇ ∙ ൣD
෡ ୯ ሺh, sሻ =
D
− Γ൰ + h൨ൠ − fୣ (1)
మ
Φ = −γχሺhሻ∇ ∙ ൬
とした。関数χሺhሻはその場所が濡れているかを
表す指標関数で、数値計算では、
౩ష౞ౙభ
൰൨
ಌ౧
ୈ౧ ஧ሺ୦ሻ൤ଵା୲ୟ୬୦൬
ଶ
(7)
析出は関数Gሺh, s, qሻで表す。(図2)
Gሺh, s, qሻ =
ωଵ qሺs − hcଵ ሻs < ℎcଵ ቐωଶ s൫q − kሺh, sሻ൯s ≥ hcଵ , q ≥ kሺh, sሻ(8)
ωଷ qሺq − kሺh, sሻሻs ≥ hcଵ, q ≥ kሺh, sሻ
析出によりΓが変わる効果を入れるため
Γ = Γ଴ + Γ௤ tanh൫‫ݍ‬⁄ߜ௤ ൯とした。
図1 ヤングの式。ここでߛ௟௩ は液/気界面張力、
ߛ௦௩ は固/気界面張力、ߛ௟௦ は液/固界面張力である。
Numerical simulation of droplet evaporation with the patterning on the substrate
Shun SEKIYA, Kohtarou YAMADA, Makiko NONOMURA and Ryo KOBAYASHI
― 643 ―
図2 s-q平面でのダイナミクス
3 数値計算手法
空間2次元で計算を行う際に空間1次元と
同じように計算すると、膨大な計算時間が必要
となる。そこで、数値計算にGPGPUを用いる。
GPGPUとは画像処理用のGPUを汎用計算
に用いることである。CPUよりも安価に計算
速度を高速化できるというメリットがある。
GPGPUでの計算を行うために統合開発環境
CUDAを用いる。CUDAはNvidia社によって
無償で提供されており、Nvidia社のビデオカ
ードを搭載しているPCであれば利用すること
ができる。計算環境構築の容易さもメリットで
あるといえる。5) 6)しかし、計算が行われても
正しい値が出力されない等、プログラムのバグ
を探しにくいというデメリットがある。
図3 GPUでの計算結果
「参考文献」
4 計算結果
図3は空間2次元の計算をGPUで行った結
果である。空間は100×100。蒸発させた後の
析出物質qの空間分布を表示している。図を見
ると基板上にパターンが形成されていること
がわかる。
また、CPUでも同じ計算を行い同じ値が出
力されている事を確認した。この事からGPU
でCPUと同じように計算できるようになった
と言える。
5 まとめ
CPUで行っていた計算をGPUで行えるよう
にしたため、CPUで膨大な時間がかかってい
た計算を高速化することができた。この事から
CPUでは困難であった空間の大きい計算も実
行可能となった。現在より良い結果出力のため
計算の改善を行っている。
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1) O.Karthaus, L.Grasjo, N.Maruyama
and M.Shimomura,Chaos 9,308,(1990)
2) R.D.Deegan,Phys.Rev.E61,475,(2000)
3)
M.Nonomura,
R.Kobayashi,
Y.Nishiura and M.Shimomura, Periodic
Precipitation
during
Droplet
Evaporation on a Substrate,Jounal of
the Physical Society of Japan
Vol. 72, No. 10 (2003)
4) L.Frastia, A.J.Archer and U.Thiele,
Modelling the formation of structured
deposits at receding contact lines of
evaporating solutions and suspensions,
Soft Matter, 11363,(2012)
5) 青 木 尊 之 , 額 田 彰 , 初 め て の
CUDA[クーダ]プログラミング
6) 青山 幸也,CUDAプログラミング入
門 2012 年6 月1 日版