第十回 剛体の回転運動と慣性モーメント

第十回 剛体の回転運動と慣性モーメント
物理学講義 I
2014 年 6 月 24 日
¶
前回のポイント
³
• 外力の働かずに高速回転するコマは、角運動量が変化しないため姿勢が安定する。
µ
1
• 自転する物体に外力が働くとき、角運動量は外力のモーメントの方向に変化する。
´
慣性モーメントの導入
ω
v
O
l
θ
m
図 1: 回転軸まわりを回転する質量 m の物体。
図 1 のように回転軸のまわりを角速度 ω で、質量 m の質点が回転運動している。回転軸までの
距離を l とすれば、この質点の角運動量の大きさ L は、
L = ml2 ω
(1)
≡ Iω
(2)
となる。この I ≡ ml2 のことを質点の慣性モーメントという。慣性モーメントは物理的には、回
転しにくさ1 を表す物理量である。このおもりの運動エネルギー K は、たった今定義したばかりの
慣性モーメントを使えば
K=
1
1
mv 2 = ml2 ω 2
2
2
=
1 2
Iω
2
となる。
1 質量や回転軸までの距離が大きくなると物体をまわしにくいことは、直感的にもわかるだろう。
1
(3)
mi
li
y
yi
z
O xi
x
図 2: 剛体を微小な体積要素に分割する。
次に剛体の慣性モーメントを考えよう。回転軸を z 軸に取り、その軸まわりに角速度 ω で回転
している剛体を、微小な体積要素に分割する(図 2)。体積要素 i の x、y 座標を (xi , yi ) とし、回
転軸(z 軸)までの距離を li とすると、
li = (x2i + yi2 )1/2
(4)
vi = li ω = (x2i + yi2 )1/2 ω
(5)
mi li2 ω = mi (x2i + yi2 )1/2 ω
(6)
が成り立つ。この要素の速度 vi は、
となるので、角運動量は
となる。よって、剛体全体の回転軸まわりの全角運動量は、
L = m1 l12 ω + m2 l22 ω + · · ·
∑
= ω
mi (x2i + yi2 )
(7)
(8)
i
≡ Iω
と書くことができ、この
I≡
∑
(9)
mi (x2i + yi2 )
(10)
i
を剛体の慣性モーメントという。剛体の慣性モーメントは、物体の形状や質量、回転軸をどこに選
ぶかで異なる。
式(10)より剛体の回転運動の法則は、外力のモーメントを N とすれば
dL
dω
d2 θ
=I
=I 2 =N
dt
dt
dt
となり、剛体の回転運動のエネルギーは、
1∑
1∑
K=
mi vi2 =
mi li2 ω 2
2 i
2 i
1 2∑
ω
mi li2
=
2
i
=
2
1 2
Iω
2
(11)
(12)
(13)
(14)
となる。
2
平衡軸の定理
z
mi
li
O
G
h
y
x
図 3: 平衡軸の定理。
前章で述べたように、剛体の慣性モーメントは回転軸をどこに選ぶかで異なった値を取る。任意
の回転軸まわりの慣性モーメントを計算するのは面倒なこともある。しかし、もし重心を通る回転
軸まわりの慣性モーメントがわかっているならば、次の平行軸の定理を用いれば任意の回転軸まわ
りの慣性モーメントを計算するのは容易い。
¶
平行軸の定理
³
質量 M の剛体内の1点 O を通る回転軸(z 軸)まわりの慣性モーメント I は、
I = IG + M h2
(15)
となる。ただし、IG は重心の回転軸まわりの慣性モーメントであり、h は回転軸から重心ま
での距離である。
µ
(証明)
図 3 のような重心 G を持つ剛体を考える。重心の公式より、重心の位置 RG は
∑
mi ri
RG = ∑i
i mi
´
(16)
となる。ここで mi は剛体を構成する微小要素 i の質量、ri はその位置である。z 軸まわりの慣性
モーメントは、
I
li2
=
=
∑
i
x2i
mi li2
+ yi2
(17)
(18)
となる。ここで、(xi , yi ) は微小要素 i の x、y 座標、li は回転軸(z 軸)までの距離である。
重心の位置 RG の x、y 要素をそれぞれ xG 、yG とし、(xi , yi ) を
0
xi = xG + xi
0
yi = yG + yi
3
(19)
(20)
0
0
と書き表そう。xi 、yi は重心から見た i の相対位置である。すると xG は、
∑
mi xi
xG = ∑i
i mi
∴
∑
∑
0
mi (xG + xi )
∑
=
i mi
∑
∑
0
xG i mi + i mi xi
∑
=
i mi
∑
0
m i xi
i
= xG + ∑
i mi
i
(21)
(22)
(23)
0
mi xi = 0
(24)
i
∑
となる。同様にして、
0
mi yi = 0 も示すことができる。
剛体の慣性モーメントは、
i
I=
∑
mi li2
∑
=
mi (x2i + yi2 )
i
i
∑
=
mi x2i +
∑
i
(25)
mi yi2
(26)
i
となるが、右辺の最初の和に関して、
∑
mi x2i
=
i
∑
0
mi (xG + xi )2
(27)
i
=
∑
0
i
= (
0
mi (x2G + 2xG xi + xi2 )
∑
mi )x2G + 2xG
i
= M x2G +
∑
∑
(28)
0
mi xi +
i
∑
0
mi xi2
(29)
i
0
mi xi2
(30)
i
となる。y に関しても同様で、
∑
i
mi yi2 = M yG +
∑
i
0
mi yi2 を簡単に示すことができる。以上よ
り、式(25)は
2
M (x2G + yG
)+
∑
0
0
mi (xi2 + yi2 ) = M h2 + IG
(31)
i
となる。(証明終わり)
¶
この回のまとめ
³
• 剛体の回転しにくさを表す、慣性モーメントを導入した。
• 慣性モーメントは剛体の形状や質量、回転軸によって異なる値を取る。
• 平行軸の定理により、重心まわりの慣性モーメントの計算ができれば、任意の回転軸ま
わりの慣性モーメントを計算できる。
µ
´
4