リチウムイオン電池開発におけるXAFSと第一原理計算の利用 - SPring-8

第57回産業利用研究会
2014年8月5日
ニチイ学館 神戸ポートアイランドセンター
リチウムイオン電池開発における
XAFSと第一原理計算の利用
株式会社日産アーク
今井英人
電気自動車のキーテクノロジー:リチウムイオン二次電池
Liイオン二次電池:
電極活物質へのLiイオンの挿入脱離により充放電
エンジン:
燃焼のエネルギーを機械駆動力へ変換
内燃機関から電気化学デバイスへの転換:
化学反応のエネルギーを電気へ変換 (Zero emission)
2
電気自動車の利便性向上にむけて
環境車
電気自動車
(EV)
ハイブリッド車
(PHV, HV)
電気化学デバイスの性能
(利便性の向上)
Liイオン電池
コスト
コスト
インフラ
インフラ
(利便性の向上)
低価格化
Ni、Coの使用量低減
電解液、添加剤の低価
格化
充電ステーションの整備
1億⇒500万
FCスタックの低価格化
Pt触媒
ガス拡散層
固体電解質膜
水素ステーションの整備
高容量化:航続距離の増大
200km→500km
長寿命化
5年→10年
燃料電池車
(FCV)
固体高分子形燃料電池
エネルギー密度・出力密度の向上
耐久性の向上
性能向上・コスト低減に向け、材料レベルのイノベーションが必要
3
放射光によるリチウムイオン二次電池の解析
①その場、非破壊、リアルタイム計測
電池性能は、コンポーネンツの物性だけは決まらない。
充放電に伴い、電極の状態が変化する。
表面被膜などの反応物が重要な役割を持っている。
充電前
充電後
②高精度分析
実用材料は、複雑。
材料の構造が複雑な上、構造欠陥(欠損、積層欠陥、サイト置換)、混合物。
セル越しの観測、バインダー、導電助剤などを含む電極など、遮蔽物込の計測。
4
産業界の放射光利用チャネル (バッテリー分野)
共用ビームライン
BL14B2(産業利用Ⅰ)
XAFS
BL19B2 (産業利用Ⅱ)
粉末回折、小角、イメージング
BL46XU (産業利用Ⅲ)
回折、HAXPES
専用ビームライン
BL16XU (サンビームID)
回折、HAXPES、XRF、マイクロ
BL16B2 (サンビームBM)
XAFS、イメージング
BL28XU (NEDO RISING-Pj)
時間空間分解能No.1
BL24XU (兵庫県BL)
産業支援充実
①蓄電池・燃料電池解析向け設備、サポートの充実
(大気非暴露測定、グローブボックス、ガス設備等)
②抜群の使いやすいさ:自動測定、簡素化
5
放射光によるLiイオン電池の評価
高精度分析:
in situ XAFSと第一原理計算によるLiイオン電池正極材料の充放電メカニズム解析
6
高容量・長寿命正極材料の開発
Li過剰層状正極材料
正極材料の可逆容量
複数の遷移金属、複数の構造を混ぜ合わせ
高容量、長寿命化を実現する狙い
5000
Spinel Mn
Li2MnO3-LiMeO2
LCO
LNO
LNMO
4000
LiNiO2
Energy density (Wh/cc)
LNCMO
LNCAO
Olivine
3000
O
Me
LiNiCoAlO2
LiCoO2
213
LiNi1/2Mn1/2O2
LiMn2O4
LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2
2000
Li
LiFePO4
1000
0
0
200
400
600
800
Energy density (Wh/kg)
1000
1200
xLi+ + xe- + LixMeO2 → LiMeO2
正極材料中のLiの動き、電荷補償(遷移金属からの電子放出)を理解すること
が、材料開発のキー。結晶サイト、遷移金属の種類を識別して理解することで、
高性能材料開発の指針が得られる。
遷移金属の価数変化はその指標となる。
in situ XASの活用が有力
7
X線収分光法による電池反応解析の利点と欠点
X線吸収分光法は、in situ 測定にも適し、
遷移金属の価数変化と局所構造変化を同時に捉えることができる。
advantage
disadvantage
XANES
-元素選択性がある
-価数の情報が得られる
⇒酸化還元種の決定
-価数評価ができない場合あり
EXAFS
-特定元素周りの局所構造
⇒構造安定性の評価等
-結合角の情報の欠如
-広いk範囲で測定することが難しい
8
XANESによる価数変化識別と定量評価
価数をモニターすることで触媒反応、電池反応を追跡することができると期待!
8330
8330
8340
8350
energy / eV
8340
8350
energy / eV
8360
8360
Reference
Sample (Co)
7710
7710
7720
7730
energy / eV
7720
7730
energy / eV
Mn K-edge
Expt.
Mn2O3
β-MnO2
Normalized Intensity / a.u.
CoO
LiCoO2
Normalized Intensity / a.u.
Reference
Sample (Ni)
Co K-edge
Expt.
Normalized Intensity / a.u.
LiNiO2
NiO
Ni
Normalized Intensity / a.u.
Ni K-edge
Expt.
Normalized Intensity / a.u.
Normalized Intensity / a.u.
吸収端(XANESスペクトル)と価数の関連付けと定量評価
変曲点? エッジジャンプの半分?
プリエッジ? XANESの立ち上がり?
参照物質との比較?(すべての価数状態困難)
7740
7740
Reference
Sample (Mn)
6540
6540
6550
6560
energy / eV
6550
6560
energy / eV
6570
6570
第一原理計算によるXANESスペクトルシミュレーションを併用して
XANESスペクトルから価数変化情報の詳細を読み取る
9
層状3元系正極材料 LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2 への適用
LiCoO2
LiNiO2
LiNi1/2Mn1/2O2
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2
200 mAh/g
150 mAh/g
200 mAh/g
@5.0V
○
○
×
×
○
△
△
△
R3m
容量
安定性
サイクル特性
コスト
150 mAh/g
×
高電位での脱酸素反応
×
高電位での構造変化
×
×
高電位での脱酸素反応
各遷移金属や酸素の充放電挙動への役割を理解することは高性能正極材料の
材料設計に重要である。
10
in-situ XANES(Ni, Co, Mn K-edge) ex-situ XANES (O K-edge)
in-situ XANES測定
ex-situ 軟X線XANES測定
LIBセル
負極: リチウム金属 正極: LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2 (NMC)
2cycleエージング後
Rate: 0.05 C
in-situ XANES測定
Mn K-edge Co K-edge Ni K-edge
透過法 @ SPring8 BL16B2
上記3吸収端を15分かけて測定。
11
ex-situ XANES測定
O K-edge @立命館SR BL2
蛍光法
トランスファーベッセルによる大気非暴露測定
XANESシミュレーション
① 初期構造パラメータの決定
(リートベルト構造精密化で得た値)
放射光XRD@BL19B2(SPring-8)
② Liを引き抜いた上で構造最適化
VASP:
③ 電子構造計算
PBE
Core: Li-1s, T.M.-1s to 3p,
O-1s
Cutoff: 875 eV
④ 励起状態、および双極子遷移確率の計算
(XANESスペクトルの再現)
⑤ 測定スペクトル と比較・検討
価数状態および微細構造の解析
12
WIEN2k:
GGA
RMT: Li 1.90, T.M. 1.85,
O 1.65 Å
Core: T.M.-1s , O-1s
RMTKmax: 5.0
実験結果(in-situ XAFS)
8330
8340
8350
energy / eV
8340
8350
energy / eV
8360
8360
7710
7720
7730
energy / eV
7720
7730
energy / eV
7740
0
13
1
Jahn-Teller効果
2
3
4
5
r/Å
⇒構造不安定化
6
0
1
2
3
r/Å
6540
7740
5
6
6550
6560
energy / eV
6550
6560
energy / eV
6570
6570
⇒ 0.33)
Mn K-edge
Expt.
Transform magnitude / a.u.
(Li 1.00
4
Reference
Sample (Mn)
6540
Transform magnitude / a.u.
2) k3フーリエ変換で得られた動径分布関数
Co K-edge
Ni K-edge
Expt.
Expt.
Mn2O3
β-MnO2
Normalized Intensity / a.u.
Reference
Sample (Co)
7710
Mn K-edge
Expt.
Normalized Intensity / a.u.
Reference
Sample (Ni)
CoO
LiCoO2
Normalized Intensity / a.u.
Normalized Intensity / a.u.
LiNiO2
NiO
Ni
8330
Transform magnitude / a.u.
0.33)
Co K-edge
Expt.
Normalized Intensity / a.u.
Normalized Intensity / a.u.
1) XANES(Li 1.00 ⇒
Ni K-edge
Expt.
0
1
2
3
r/Å
4
5
6
in situ XANES シミュレーション結果
Li1.00
Li0.67
Li0.34
8340
8350
energy / eV
7720
7730
energy / eV
7740
Co K-edge
Li1.00
Li0.67
Li0.33
Normalized Intensity / a.u.
8360
14
7710
8360
6540
Li1.00
Li0.67
Li0.33
Normalized Intensity / a.u.
Calculation
Ni K-edge
8370
8380
energy / eV
8390
Li 1.0
Li 0.67
Li 0.33
7730
6550
6560
energy / eV
Mn K-edge
6570
Li1.00
Li0.67
Li0.33
Normalized Intensity / a.u.
Normalized Intensity / a.u.
8330
Mn K-edge
Normalized Intensity / a.u.
Co K-edge
Li1.00
Li0.67
Li0.34
Normalized Intensity / a.u.
Experiment
Ni K-edge
7740
7750
energy / eV
7760
7770
6560
6570
6580
energy / eV
6590
充放電に伴う価数変化の見積
電荷移行による電荷分布の変化
SOC ->
O
Ni
電子密度積分 (WIEN2k aim)
Mn
2.25
Li 0.67
2.25
Li 0.33
2.25
(±0)
(±0)
Co
1.68
1.73
1.76
(+0.05)
(+0.08)
Ni
1.54
1.65
1.75
(+0.11)
(+0.21)
SOCに対する価数変化。Niの価数変化は
比較的大きい。Coの価数変化は、小さく、
Mnの価数変化はほとんどない。
Li1.00
Li0.67
Li0.34
Normalized Intensity / a.u.
Ni K-edge
Li 1.00
吸収端が高エネルギー側にシフトした原因は、
Ni酸化状態による変化であることが確認できる
8330
8340
8350
energy / eV
8360
CoおよびMn XANESのピークトップシフトの原因
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2 4p PDOS
Co
Mn
Ni
Li
Li 1.00
Li 0.67
Ni, Co および Mn 4p軌道の混成がみられた。
Li 0.33
酸素原子の寄与: O-K edge XANES
Calculation
O K-edge
Li1.00
Li0.67
Li0.33
525
Li1.00
Li0.67
Li0.33
Normalized Intensity / a.u.
Normalized Intensity / a.u.
Experiment
O K-edge
530
535
energy / eV
540
-5
545
0
5
10
energy / eV
遷移金属3d軌道の混成
Valence
Number of
electron
Li1.00
-1.39462
9.39462
Li0.67
-1.33125
9.331254
Li0.33
-1.21289
9.212893
15
20
電子数減少に起因する遮蔽効果の
減少
O原子周囲の電子数は、Li脱離に伴っ
て、減少する。
Redox反応への寄与を強く示唆してい
る。
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2 の電気化学反応
O2-→O-
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2→
xLi+ + xe- + LixNi1/3Co1/3Mn1/3O2
Cell voltage/V
5.0
Co4+→Co3+
4.5
Ni4+→Ni2+
4.0
Li 1.00
3.5
Li 0.33
Li 0.67
3.0
2.5
Li 1.00
Li 0.67
Li 0.33
0
50
100
150
200
Charge Capacity /(mAh/g)
250
(充放電曲線,実験値)
in situ XANESと第一原理計算を組み合わせることで、充放電時
の正極材料の電荷移動量を正確に把握することが可能。
高性能材料設計に重要な指針。
複雑な固溶体正極材料や格子欠陥を含む材料の挙動解析等に
応用中。
18
Summary:
次世代電気自動車向け電極材料の開発が佳境。国際的な競争、元素戦
略といった観点からも材料の重要性は高まっている。
実用材料は、必ずしも「きれいな系」ではなく、多種元素の化合物であった
り、構造欠陥が重要である場合が多い。そういうところまで把握した材料
設計・開発が重要になっている。
In situ 計測、非破壊計測、高精度解析が得意である放射光利用はこれ
からも重要性を増すと考えられる。
第一原理計算の併用により、スペクトル解析から得られる情報が格段に
上がる。(電気化学反応の定量的計測、複数サイトの区別)
次世代材料の開発に必須の解析手法になると期待。
19