Document 604383

「ぬれ」と表面自由エネルギー
• 接触角はぬれの尺度ではあるが、本質をあらわす
ものではない。(マクロな量)
• なぜ、接触角を測るのか?
→ 表面自由エネルギーを知りたいから!
• どうすれば、自由エネルギーが求まる?
→ どう接触角を利用するかがポイント
接触角
表面自由エネルギー
ぬれ性の別の定義 =>
固体表面の分子と液体分子の間に働く力
固体と液体の相互作用
WSL= φ WS ∗WL
=
2
φ γ S ∗γ L
WS:固体表面分子間に働いている相互作用 (= 2γs)
WL:液体表面分子間に働いている相互作用
(= 2γL)
φ:物質の種類で決まる定数(0.8~1.0)
WS、WLは各々の分子の凝集力
ぬれ性は固体および液体分子の凝集力の幾何平均に
比例すると考える。(Berthelotの幾何学平均法則)
分子間相互作用については以下のような
ものが知られている。
• 双極子-双極子相互作用
(Keesomの相互作用)
• 双極子-誘起双極子相互作用
• 誘起双極子-誘起双極子相互作用
(Londonの分散力)
その他に
• 水素結合
• 酸ー塩基
Girifalco & Goodの取り扱い
界面エネルギーγ12は次式で表せる。
γ 12 = γ 1 + γ 2 − 2Φ12 γ 1γ 2
これをYoung式に代入して
cos θ = −1 + 2ΦSL
γ SV
γ LV
Fowkesの取り扱い
• 表面自由エネルギーγはvan der Waals力
(London分散力)に基づく成分(分散力項) γd
と、その他に基づく成分(極性項)γpの和により
表されるとした。
γ=γd +γp
• 「分子間力の同じ成分のみが相互作用する」
と仮定 (ここがGoodより進んだ仮定)
相互作用に分散力(d成分)のみが寄与
する場合には、成分1と成分2の界面エネ
ルギーγ12は以下のように表せる 。
γ 12 = γ 1 + γ 2 − 2 γ γ 2
d
1
d
(例) 液体が炭化水素
オクタン 21.8 mN/m 水 72.0 mN/m
オクタン/水 界面張力 50.2 mN/m
γoctane=γoctaned
→
水 γd=21.8 mN/m、 γp=50.2 mN/m
OwensとWendtによる拡張
相互作用に分散力(d成分)のみではなく、極性力
(p成分:水素結合も含む)が寄与する場合に、
Fowkesの取り扱いを拡張した。
成分1と成分2の界面エネルギーγ12は以下のように
表せる 。
γ 12 = γ 1 + γ 2 − 2 γ 1d γ 2 d − 2 γ 1 pγ 2 p
一般に、拡張Fowkes式と呼ばれる。
どう利用するか
WA = γ LV (cosθ +1) = γ SV + γ LV − γ SL
= γ SV + γ LV - (γ SV + γ LV − 2 γ SV d γ LV d − 2 γ SV p γ LV p )
= 2 γ SV d γ LV d + 2 γ SV p γ LV p
2種類以上のγLVd、γLVpの分かった液体で接触角を
測定
⇒ 連立方程式を解く ⇒ γSVd & γSVp
PTFE
PE
PP
PStt
PMMA
PVA
PET
洗浄から見た表面改質
ローリングアップ機構は、基質/油よごれ/洗浄液の
3相の境界線の問題であり、油よごれの除去の難易は
基質表面の性質(親水性-疎水性)に大きく依存する
soil repellent 加工
SR加工
空気中
疎水化→油汚れの付着制御
soil release 加工
水中
親水化→油汚れの除去を
容易にする
もう一つの表面の評価
ぬれと洗浄
基質/汚れ界面を水や界面活性剤水溶液により
2つの界面に分離する過程
S/
/O + D → S(/
/D) + O(/
/D)
洗液(D)
汚れ
(O)
繊維基質(S)
状態1
汚れ
(O)
洗液(D)
繊維基質(S)
状態2
洗浄の平衡論による取扱い
S/
/O + D → S(/
/D) + O(/
/D)
γSD,γOD,γSOをそれぞれ繊維/洗液,よごれ/洗液お
よび繊維/よごれ界面の界面張力とすると,この過程の
起こりやすさは付着仕事あるいは洗浄仕事(WA)であ
らわされる
WA =γSD + γOD -γSO
油汚れの除去メカニズム
1.ローリングアップ
液体油汚れ
2.乳化
3.可溶化
固体油汚れ
4.液晶形成
極性油汚れ
ローリングアップ:
基質とよごれの界面が基質と洗剤水溶液の界面に置換
され、油よごれが球滴状になって基質から離脱する現象
∆j
∆j
油置換の張力( =γSO - γSW)を△jと定義する
親水性基質
の油汚れ
疎水性基質
の油汚れ
①△jỉ γOWの場合:
R は あらゆる接触角で常に正
油滴は自発的に球状(θ=180°)にまで巻き上げ
られ洗浄液により完全に置換される
②△jỈ γOWの場合:
R=0となる接触角θ0で巻き上げは停止する
θ0は洗浄液が前進し、油よごれが後退するときの
平衡接触角である。
− cosθ 0 =
∆j
γ OW
γ SO − γ SW
=
γ OW
洗浄は非常に実際的な表面評価法といえる。
表面を疎水化すると
油は取れにくくなる?!
テフロン表面を想定(単位は全てmJ/m2)
γS=17.0 γSd=16.0
γSp=16.0
油汚れ: γO=25.0 γOd=25.0 γOp=0
水
: γW=72.0 γWd=22.0 γWp=50.0
空気中
水 中
γSO=2.0
γSO=2.0
θ= 55 °
θ= 45 °
界面活性剤溶液中では!
γS=17.0 γSd=16.0 γSp=16.0
γO=25.0 γOd=25.0 γOp=0
γD=30.0 γDd=22.0 γDp=8.0
拡張Fowkes式
γ SD = γ S + γ D − 2 γ S d γ D d − 2 γ S pγ D p = 3.9
γ OD ≅ γ O − γ D = 5
θ=35°!
表面を親水化すると
油は取れやすくなる!
綿(セルロース)表面を想定(単位は全てmJ/m2)
γS=72.0 γSd=32.0
γSp=40.0
油汚れ: γO=25.0 γOd=25.0 γOp=0
水
: γW=72.0 γWd=22.0 γWp=50.0
空気中
水 中
γSO=40.0
γSO=2.0
θ= 0 °
θ= 145 °
固体/油/水の三相系
親水化表面の評価に
適している
γ H − γ W + γ WH cos θ = 2 γ S d  γ H d − γ W d  − 2 γ S p iγ W p

Y

X
Y-Xプロットする。
傾きから γSd
切片から γSp
ポリエステル繊維に対する
アクリル酸グラフトによる親水化
PETフィルム
1)三態系での接触角測定
2)FTIR-ATR測定
COONaに中和後の測定
3)ESCA測定
COONaに中和後の測定
アクリル酸グラフトによる親水化
PETフィルム
1)グラフトは表面を
高自由エネルギー化
2)分散力成分(γFd)
は一定
これが重要!
3)極性力成分(γFp)
が増大
ある程度のグラフト率で
一定になる
アクリル酸グラフトしたPET表面の分光学解析
表面情報の深さ
接触角
~10 Å
ESCA
FT-IR
30~50 Å
~3000 Å
表面 COOH
COONa
に変換
織物の表面自由エネルギーはどう決める?
表面自由エネルギ-変化が洗浄性に及ぼす影響
モデル汚れによる洗浄実験
洗浄仕事
WA =γSD + γOD -γSO
WA’=γS’D + γOD -γS’O
ΔW= WA’ - WA
(グラフト後)
~0
= 2( γD d- γO d )( γS d- γS'd )
+ 2( γDp - γOp )( γSp - γS'p )
= 2( γDp - γOp )( γSp - γS'p )
グラフト率3.5%時の洗浄率
SR効率=
グラフト率 0%時の洗浄率
表面COOH基
と汚れの間に
極性相互作用
が存在する
北崎・畑の取り扱い
表面自由エネルギーγを、
①分散力項 γd
②極性項 γp
③水素結合項 γh の和により表されるとした。
γ=γd +γp +γh
γ 12 = γ 1 + γ 2 − 2 γ 1d γ 2 d − 2 γ 1 pγ 2 p − 2 γ 1hγ 2 h
北崎・畑 法による高分子の表面エネルギー値
γSd
γSp
γSh
γS
γC
19.4
2.1
0.0
21.5
18.5
22.1
7.8
1.3
31.2
22.0
27.6
9.1
3.5
40.2
25.0
42.3
0.2
1.0
43.5
28.0
43.0
1.9
0.9
45.8
40.0
43.7
0.1
0.2
44.0
39.0
35.5
0.0
0.0
35.6
31.0
29.8
0.0
0.0
29.8
29.0
42.4
0.0
0.8
43.2
39.0
26.5
15.1
10.7
52.3
-
36.5
3.3
-
-
37.0
33.8
6.8
0.0
40.6
33.0
42.7
0.6
0.5
43.8
43.0
Nylon 66
42.0
1.4
3.1
46.5
46.0
Paraffin
24.4
0.0
0.0
24.4
23.0
Polymer
Polytetrafluoroethylene
Abbrev.
PTFE
Polytrifluorethylene
Polyvinylidenfluoride
PVDF
Polyvinylfluoride
Polyvinylidenechloride
Polyvinylchloride
Polyethylene
Polypropylene
Polymethylmethacrylate
Polyacrylamide
Polyvinylalcohol
Polystyrene
Polyethyleneterephthalate
PVDC
PVC
PE
PP
PMMA
PAAm
PVA
PSt
PET
Wuの近似式
Wuは、相互作用について幾何平均ではなく
調和平均を仮定して以下の式を提案している。
4γ γ 2
4γ 1 γ 2
γ 12 = γ 1 + γ 2 − d
− p
d
p
γ1 + γ 2
γ1 + γ 2
d
1
d
p
p
高分子では、拡張Fowkes式よりも合うという論文
もあるが、一般に計算が面倒。
van Ossの取り扱い
• 相互作用を、van der Waals(LW)成分と酸ー塩
基(AB)成分に分離し、幾何平均則を適用した。
γ 12 = γ 1LW + γ 2 LW − 2 γ 1LW γ 2 LW + 2 γ 1+γ 1− +
2 γ 2 +γ 2 − − 2 γ 1+γ 2 − − 2 γ 2 +γ 1−
上添字のLW、+および-はそれぞれ表面自由
エネルギーのLifshitz-van der Waals成分、酸成分
および塩基成分を表す。
Zismanプロット
接触角測定結果を
γLV vs. cosθ
プロットし、cosθ=1と
なる仮想液体の
γLV=γc
臨界表面張力 とする
単位は mN/m
Zismanプロットの注意点
• 測定は容易
• 経験的に γc ~ γSV
• 同族系の液体でプロットする必要
(分子間相互作用の様子を等しく)
• 理論的ではない
γ SV
(本当は曲線 → cos θ = − 1 + 2Φ SL
γ LV