硫化銀および酸化ニオブの発色メカニズムの研究

1PS-1301
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
硫化銀および酸化ニオブの発色メカニズムの研究
東海大学大学院 工学研究科光工学専攻
1.
諸言
銀を硫化物水溶液に浸漬させることにより、Fig.1
に示すような様々な色に発色させる研究を行ってい
る。しかし、この発色のメカニズムの解明には至っ
ていない。一方金属における薄膜干渉の例としてニ
オブが挙げられる(Fig.2)。ニオブは陽極酸化反応に
よって形成された酸化ニオブ薄膜による薄膜干渉が
主な発色の要因とされている。
(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
Fig.1 Ag films; (a) made by silver mirror reaction,
(b) dipped 30 sec in a 1.0 w/w%, 50 °C Na2S
solution, (c)-(e) dipped 15, 45, 90 sec respectively
in a 1.0 w/w%, 40 °C aqueous solution of lime
sulfur solution which is the mixture of CaS and
CaS5
(a)
(b)
○青木 逸、前田 秀一
印加電圧 100V で作製した酸化ニオブサンプルを
FIB で切削し、SEM を用いて酸化ニオブ層の膜厚
を測定した。測定した膜厚を薄膜干渉の式に代入し、
実測値との比較を行なった。同様の比較を浸漬時間
5 秒で作製した硫化銀サンプルの硫化銀層において
も行った。
4. 結果と考察
ゴニオフォトメーターによる酸化ニオブサンプル
(100V)の反射スペクトルを Fig.5(a)に、硫化銀サン
プル(5s)の反射スペクトルを Fig.5(b)に示す。酸化ニ
オブ、硫化銀どちらのサンプルにおいても、入射角
を変化させることによって、反射スペクトルの吸収
のピーク値が短波長側にシフトしていることが確認
できた。このことから色の見え方には視野角依存性
があることが確認できた。
(c)
Fig.2 Nb films; (a) made by sputtering, (b), (c)
respectively 60V and 100V anodizing with in a
5.0% ammonium borate solution
2. 目的
薄膜干渉によって発色している酸化ニオブの分析
を行い、これを参照して硫化銀の発色メカニズムを
薄膜干渉の面から探ることを目的とした。
3. 実験
3-1. 酸化ニオブサンプルの作製
酸化ニオブのサンプルは陽極酸化反応(0~100V、
60s)によって作製した(Fig.3)。
Fig.3 Color of Nb films by 0~100V, 5.0%
ammonium borate solution solution
3-2. 硫化銀サンプルの作製
銀鏡反応によって作製したサンプルを濃度 1.0%、
50℃の石灰硫黄混合溶液に 5 秒,10 秒,20 秒浸漬させ,
それぞれ黄,赤,青に発色したサンプルを得た(Fig.4)。
Fig.4 Color of Ag films by (a) 0 sec, (b) 5 sec, (c)
10 sec, and (d) 20 sec in a 1 w/w%, 60 ℃ sulfide
solutions
3-3. 作製したサンプルの分析
酸化ニオブ、硫化銀のサンプルの分光反射率を、
ゴニオフォトメーターを用いて入射角 0~60°の範
囲で測定した。
3-4. 膜厚の測定
(a) Nb sample
(b) Ag sample
Fig.5 Reflectance measurement by
Goniophotometer
SEM を用いた観察から求めたニオブサンプルの
酸化ニオブ層の膜厚 d=246nm、屈折率 n=2.4 を薄
膜干渉の式に代入した。計算値と実測値とを比較す
ると吸収のピーク値が一致していることが確認でき
た(Fig.6(a))。これらのことから酸化ニオブの発色は
薄膜干渉によるものであることが確認できた。
また、銀サンプルにおいても硫化銀層の膜厚 d=
207nm、n=2.9 を用いて得られた計算値と実測値と
を比較すると吸収のピーク値が一致した(Fig.6(b))。
酸化ニオブにおける分析の結果と同様の結果が得ら
れたことから、硫化銀の発色の要因の一つとして薄
膜干渉が考えられた。
(a) Nb sample
(b) Ag sample
Fig.6 Shift of the reflection spectra when
changing the viewing angles
5. 結論
ニオブ/酸化ニオブの系、銀/硫化銀の系について、
色の見え方に角度依存性があることが確認できた。
また、実測値と計算値とが一致したことから、ニオ
ブ、銀ともに薄膜干渉が発色の大きな一つの要因で
あると考えられた。
1PS-1302
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
導電性ナノインクの合成、分析、応用
東海大学大学院 工学研究科光工学専攻
1.
諸言
プリンテッドエレクトロニクス技術への関心の高
まりにともなって、その主材料である導電性インク
に対する関心も集まっている。これらの導電性イン
クは一般に、銀や銅などの金属粒子を主成分として
いるが、バイオ、医療分野などにプリンテッドエレ
クトロニクスの技術を応用する場合には、金属では
なく生体適合性に優れた有機系の導電性インクが必
要になる。特に、有機系の導電性材料の中でも生体
適合性に優れているポリピロールをインク化する意
義は大きい。
2.
目的
ポリピロールを、コロイド分散によってインク化
させるために、水中で分散安定化しているコロイダ
ルシリカと複合化させる。複合化のための合成条件
を検討し、得られた有機導電性インクのモルフォロ
ジーや物性を評価する。
3.
○杉浦 泰斗、庄司 拓眞、前田 秀一
3-3. ポリピロール-シリカ複合体の応用
合成したポリピロール-シリカ複合体をインクジ
ェットで使われるインクとして使うことができるか
を確かめた。従来のプリント用紙(High Grade Paper:
アルプス電気社製)を、ステージが X 軸方向、Y 軸
方向に動くインクジェットシステムに載せた。そこ
に水溶中に分散させておいたポリピロール-シリカ
複合体をインクジェットシステムのノズルを通し印
刷用紙の上に打ち出した。
4.結果と考察
シリカと複合化されていないポリピロール(a)
と、得られたポリピロールーシリカ複合体(b)の
分散性の比較を Fig.2 に示す。TEM で撮影されたポ
リピロール-シリカ複合体 Fig.3 に示す。
実験
3-1. ポリピロール-シリカ複合体の合成
コロイダルシリカの存在化におけるポリピロール
-シリカ複合体の合成の概略図を Fig.1 に示す。蒸
留水(25℃、90ml)に塩化鉄 FeCl3・6H2O(9.10g)を
溶した。そこへシリカコロイド(スノーテックス-XS、
直径 4nm~6nm、固形分濃度 20%:日産化学工業社製、
10ml)を入れた。シリカを溶媒中にまんべんなく分
散させるため 20 分間撹拌し続けたのち、シリンジを
使いピロール(1.00ml)を注入した。すると 1 分以
内に溶液が黒色に変化した。この重合は 2 時間進行
させ続けた。反応後の混合物を遠心分離機 4,500rpm
で 30 分間回した。この工程を余分なシリカ粒子を取
り除くために 3 回繰り返した。
Fig.2 Comparison of the colloid stabilities of the bulk
polypyrrole (a) and polypyrrole-silica nanocomposite
particles (b).
Fig.3 TEM image of PPy-SiO2 nanomonposite particles.
(b)は(a)と比べて分散安定性が高いとわかる。
その理由として、シリカが外、ポリピロールが内と
いう形態による、コロイダルシリカの分散力によっ
て複合体全体が分散安定しているものと考える。
ポリピロール-シリカ複合体を、静電インクジェッ
トシステムでインクとして使用した結果を Fig.4 に
示す。
Fig.1 Schematic diagram showing formation of
polypyrrole-silica nanocomposite particles from the
original small silica particles whose diameters are in 4-6
nm.
3-2. ポリピロール-シリカ複合体の分析
Fig.4 Inkjet imaging of a PPy-SiO2 nanocomposite
particles using the electrostatic inkjet system.
5.結論
希釈されたポリピロール-シリカ複合体を炭素コ
ーティングされた銅のマイクログリッド上で乾燥さ
せ、透過型電子顕微鏡(TEM)を使い分析を行った。
シリカコロイドとの複合化によって、従来産業上
の利用が制限されていたポリピロールのインク化に
成功した。
1PS-1303
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
薬剤投与時の皮下浸透観察及び針開発
東海大学工学研究科機械工学専攻 ○川田健人,東海大学工学部精密工学科 槌谷和義
東海大学医学部医学科基礎医学系分子生命科学 梶原景正,木村穣
Maker
Gauge
Diameter[mm]
Length[mm]
Nipro Inc.
27
0.4
13
IVIS LuminaⅡ庫内に寝かせたヌードマウスを入れ,皮
下注射を行いやすくするためヌードマウス背部の皮膚を摘
み,垂直方向に注射針を刺して穿刺時間 1 [sec],穿刺深さ
約 1 [mm]で,約 10 [μL]を投与する.露光時間は 0.5 秒間で
撮影を行い経過時間毎の蛍光具合の観察を行う.また,本
動物実験は,東海大学動物実験委員会の審査承認を受けて
いる(承認番号:133046).
3. 皮下浸透観察実験及び結果
図 1 に背部に投与した際の IVIS LuminaⅡでのヌードマ
ウスの観察像を示す.
(A) Just after infusion.
(B) 10 [min].
(C) 20 [min]. (D) 30 [min].
Fig.1 FITC labeled Insulin dosage nude mouse.
また,図 1 に対応する時間経過ごとの蛍光強度をそれぞ
れ表 2 及び図 2 に示す.これらの結果より,丸で示した部
分においての投与した部位の蛍光強度は(A)では約 5.0×
109 程度だったものが (D)では約 1.9×109 程度と時間経過
に伴い,数値が小さくなっており(C),(D)間で収束傾向が
みられた.また,時間経過に伴い,ヌードマウス全身の蛍
光反応が強くなっていることを確認した.これは時間経過
に伴い,全身に広がり注入部分に滞留していた FITC 標識
インスリンが拡散した結果,単位面積当たりの量が減少し
たことが示唆される.
Table2 FITC labeled Insulin fluorescence intensity.
FITC labeled Insulin
Fluorescence intensity
FITC labeled Insulin
Fluorescence intensity
(A) Just after infusion
(B) 10 minutes later
5.0×109
(C) 20 minutes later
3.0×109
(D) 30 minutes later
2.0×109
1.9×109
FITC labeled Insulin
Fluorescence intensity [10^9]
1. 緒言
近年,日本国内における糖尿病患者数は年々増加傾向に
ある[1].糖尿病患者は 1 日に数回インスリン投与を行って
おり,その際には薬効が持続する皮下注射が用いられてい
る[2].
しかし効率的に薬剤を浸透させる薬剤投与専用の注射針
の設計は未だになされていないため,皮下注射時の薬剤の
浸透過程を明らかにする必要がある.
そこで,本研究では薬剤投与専用の注射針の設計を目的
とし,浸透傾向の確認を行った.特に本研究では,蛍光反応
の確認を目的としヌードマウス背部に蛍光試薬を投与した
際の浸透過程を観察し,蛍光試薬の注入手法,測定時の観
察手法,及び投与後の経過時間毎の浸透具合について比較
検討を行った.
2. 試薬の選定及び観察手法
本章では皮下浸透過程の観察に用いる試薬及びその試薬
を注入した試料の具体的な観察手法について述べる.
2.1. 試薬の選定
本研究では生きている状態のヌードマウスで浸透過程の
観察を行った.インスリンの投与を行うため,アミノ酸等
の蛍光標識に適したフルオレセインイソチオシアネー
ト(FITC) [3]で 2 本のアミノ酸の鎖の構成からなるインスリ
ン[4]を標識したものを用いて観察を行った.
2.2. 観察方法
本実験では生体内の発光と蛍光を高感度に観察するこ
とが可能な発光・蛍光 in vivo イメージングシステムで
ある株式会社パーキ観察を行った.蛍光試薬の投与には,
ニプロ株式会社製の注射器[6]を使用した.その仕様をまと
めたものを表 1 に示す.
Table1 Specification of the needle used in the experiment [6].
6
5
4
3
2
1
0
(A) Just after
infusion
(B) 10
(C) 20
(D) 30
Time [min]
Fig.2 Fluorescence intensity graph.
4. 考察
FITC は,体内に吸収されやすいインスリンを含めた
蛍光試薬であるため,毛細血管やリンパ管を経由して
全身に広がった事から時間経過に伴い,マウス全体が
蛍光したものと考えられる.また今回,蛍光強度に収
束傾向がみられ,蛍光強度が一定となったことから測
定時間の指針となると考えられる.
5. 結言
薬剤投与専用の注射針の設計を目的として,皮下浸透の
過程を確認するため,蛍光試薬を投与したヌードマウスの
背部の皮膚を観察した結果,以下の知見を得た.
(1) 時間経過に伴い,全身に浸透する傾向を示した.
(2) 蛍光強度は約 1.9×109 程度に収束した.
以上より蛍光試薬を用いることで体内における薬剤の浸
透過程の観察が可能であることを確認した.
参考文献
[1] 厚生労働省平成 23 年度国民・栄養調査概要 第 6 章
[2] 注射の種類と特徴,
http://www.geocities.jp/variousgender/info/injection.html
[3] 同仁化学研究所 ホームページ,
http://www.dojindo.co.jp
[4] ノボノルディスクファーマ株式会社 ホームページ,
http://www.novonordisk.co.jp
[5] 株式会社パーキンエルマージャパン ホームページ,
http://www.perkinelmer.co.jp
[6] ニプロ株式会社 ホームページ,
http://www.nipro.co.jp/
1PS-1304
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
スパッタリング法を用いた多角形状断面を有するマイクロ無痛針の剛性検討
東海大学工学研究科機械工学専攻 ○木本 英明,東海大学工学部精密工学科 槌谷 和義
2.針の反力評価
針剛性の評価方法としてまずマイクロ天秤とマイク
ロマニュピレータを設置した曲げ試験装置を図 1 に示
す.マイクロマニュピレータのアームの先端にマイク
ロ針を接着剤で固定し,マイクロ針に生じる反力を計
測した.またマイクロ針のスパンは 5 [mm]に設定した.
𝐸=
!!!
!!"
・・・ (2)
(2)の式が成り立つ.次に P/y を先程算出した傾き Δ に
置き換える.
𝐸=
!!!
!!
・・・ (3)
となりヤング率を算出することが出来る.
本実験では,以下に示す(4)の式から銅のヤング率は
82.1 [GPa]とする.今後の展望としては, 本報で求めら
れた銅のヤング率を元に汎用有限要素法解析ソフト
ANSYS Workbench を用いて多角形状断面を有する中空
針のヤング率の算出を行なう.
𝐸=
Reaction forece [N] 1.緒言
マイクロ無痛針は雌蚊の口を模倣しており,内径寸
法 25 [µm], 外形寸法 50 [µm]を有している.また,材
料は生体適合性を考慮し,Ti を採用している.マイク
ロ無痛針の創製には既存の機械加工では創製が困難で
あるため, 薄膜創製手法であるスパッタリング法を用
いて創製を行う [1].しかし,針の寸法減少に伴い剛性
の低下が問題点として挙げられる.
既報 [2]では,針穿刺時において痛みを伴わない寸法
は,針の剛性,生体接触面積を考慮した結果,全長 4
[mm]の外径 95 [µm]の円に内接する正 5 角形状断面を
有する Ti 製マイクロ無痛針が最良であると報告され
ている.また,治具の回転速度制御[3]を行なうことで,
多角形状断面を有する針の創製が可能であると報告さ
れているが,創製した針の剛性が測定されていないの
が現状である.
そこで本報では, 多角形状断面を有する針の剛性を
確認するため,マイクロ天秤とマイクロマニュピレータ
を用いた曲げ試験[4]によりヤング率の算出を目的とす
る.
(!!!!)! ! ∗!.!"#$
!∗!.!"!!!" [!! ]
=82.1 [GPa]
・・・ (4)
0.0005
0.0004
0.0003
0.0002
0.0001
y = 0.6045x 0
0
0.0005
0.001
0.0015
Applied deflection [m] Fig.2 P-Y diagram.
Fig.1 Experimental setup for bending of microneedle.
3. 多角形状断面のヤング率の算出
マイクロマニュピレータを用いて計測された反力 P
を X 軸,アームを降下させた距離を Y 軸としたグラフ
を図 3 に示す.また降下させる距離は 0 [µm]から 50
[µm]刻みで 1000 [µm]までとする.
さらにヤング率を算出する上で弾性領域内の応力を取
らなければならないため,0 を通る線形近似を取り線
形を満たしているプロットを応力とし今回は,荷重が
0 を含め 5 点としその線形近似から傾きを取り Δ とす
る.次に以下の図 3 に示すマイクロ針の境界条件から,
を降下させた距離 y [m],計測した反力 P [N], 距離 L
[m],ヤング率 E [GPa],断面 2 次モーメント I [𝑚 ! ]と
すると
𝑌=
!!!
!!"
・・・ (1)
Fig.3 Boundary condtions for bending of microneedle.
参考文献
[1] 槌 谷 和 義 他 The Japan society of Mechanical
Engineers p437-438 (2006)
[2] 井上毅彦・槌谷和義, 2009 年度精密工学会秋季
大会 pp255 (2009)
[3] 首藤友弥・槌谷和義, 精密工学会大会学術講演
会 講 演 論 文 集 Vol . 2013 , 秋 季 (CD-ROM) ,
PageROMBUNNO.K38 (2013.09.12)
[4] 槌谷和義 他 日本機械学会論文集(A 集) p111-117
(2006)
1PS-1305
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
中空管マイクロポンプの仕事量向上を目的とした溝付加型圧電アクチュエーターの設計
東海大学工学研究科機械工学専攻 ○鈴木宏昌,東海大学工学部精密工学科 槌谷和義
大阪工業大学工学部機械工学科 上辻靖智
2. 解析条件
本研究で用いる中空管マイクロポンプであるチタン管上に溝
付加したPZT を取り付けた解析モデルを図1,およびその寸法
を表1 に示す[3].図1 より溝幅は軸心からの角度 θ として定義
され,同様に溝底部の形状は軸心からの円弧状とする.したが
って溝深さは元となるリング型 PZT 外周からの径方向の距離
h と定義する.ここでモデルは断面が円筒形状であり,円周方
向に対称性を有することから,計算コスト低減のため,1 / 4 を
用いる.また拘束条件としては,内面の発生力を確認するため
図1 より,内面に全自由度拘束を行う.しかし変形量の解析に
おいては,剛体移動モードの発生を防ぐため,さらにモデルを
軸方向に等分した1 / 8 モデルとし,図2 に示すように内面の全
自由度拘束を解き,Y-Z 平面をX 軸拘束,X-Z 平面をY 軸拘束
し,X-Y 平面にZ 軸拘束を追加する.PZT およびチタン管の物
性値は,マイクロポンプの流動実験[3]で用いられた富士セラミ
ックス社製圧電材料 C-9 材[5]ならびに純チタンの物性値を用い
る.使用する要素タイプとしては,構造解析に用いる要素
SOLID226 を解析モデルに定義し,要素長さは0.27 [mm],節
点数は約200,000 とする.また,PZT への電圧印加条件として
既報[4]よりPZT 外周面に0 [V],内周面に40 [V]の電圧を定義
とする.PZT に付加する溝の条件として,円周部に占める溝の
割合を検討する.ここで,PZT 周方向に対して,溝部が占める
角度の比を溝割合と定義する.用いる溝の形状は溝幅 θ=0.9
[°],溝深さ h=0.25 [mm]とする.よって,溝割合として30,
40,50,60,75,90 [%]の溝を有するモデル,ならびに溝を付
加しないモデル,全体が溝部最下端と同様の薄さを有するモデ
ルを作成する.このとき,前者を溝割合 0 [%]モデル,後者を
100 [%]モデルと定義する.以上の条件より,各モデルに対して
の変形量,ならびに発生力を確認し,仕事量を算出する.
PZT
Y
l
Y
Ti
PZT
h PZT
θ
P
ZZ
X
X
Z
T
Fig.1 1/4 ring type PZT and Titanium analytical
model.
P
Z
l/2
T
Y
Y
PZ
T
Z PZ
X
X
Z
T
Fig.2 1/8 ring type PZT and Titanium analytical
model
Table 1 Dimension of PZT and titanium tube
PZT
13.5
12.5
10
5
Outer diameter [mm]
Inner diameter [mm]
Length 1 / 4 [mm]
Length 1 / 8 [mm]
Ti
12.5
10
10
5
3. 解析結果
チタン管が行う仕事量を評価値としてチタン管内径面
の変形量とチタン管内径面の発生力の求めた結果を図 3
に示す.図 6 より溝割合 56.6 [%]において,仕事量-249
[nJ]を確認した事から,ポンプ性能が最大となる最良な
溝割合は 57 [%]であることが示唆される.
-249 [nJ]
-260
-250
Work volume [nJ]
1.緒言
近年,マイクロ流体システムの開発が盛んに行われている[1]
が,一般的なマイクロ流体システムは流路部とポンプ部が別離
されているため小型化が困難であった.そこで,流路部とポン
プ部を一体化することが可能な中空管マイクロポンプの技術[2]
を応用し,
針上へリング型PZT を配置することで針自体をポン
プとして稼働させる[3].しかし,中空管マイクロポンプを用い
た液体輸送は確認されたが[3],流量が微量であるためリング型
PZT の変形量増加など,ポンプ性能向上が必要である.
既報[4]よりリング型PZT の表面に溝を付加することで,変形
量が増加することが解析上で確認された.しかしながら変形量
に寄与する溝条件の最適化は行われていないといった問題が存
在する.
従って,本研究では更なるポンプ性能の向上を目的として,
溝付加を行ったリング型 PZT に対する汎用有限要素法解析ソ
フトANSYS Workbench を用いた静的構造解析を行う.その
際,中空管マイクロポンプの流路およびポンプ部となるチタン
管上にPZT を付加したモデルを対象とする.
そしてチタン管内
径面の変形量及び発生力を評価することで,最もポンプ性能が
向上する最良な溝条件の探索する.
-240
-230
100 [%]
-220
0 [%]
-210
-200
-190
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
Trench [%]
Fig 3 Titanium tube work volume
参考文献
[1] 鈴木孝明,秦秀敏,新宅博文,神野伊策,小寺秀俊,
日本 AFM 学会誌,Vol.13,No.4,
(2005)
,pp.310-315
[2] 槌谷和義,中西直之,米田泰一,上辻靖智,森幸治,
仲町英治,日本機械学会論文集(C 編)71 巻 716 号,
pp249-255(2005-2).
[3] 有賀 裕也,槌谷 和義,2011 年度機械工学会
(2011).
[4] 相澤英一,槌谷和義,上辻靖智,2012 年度 神奈川
県ものづくり技術交流会
[5] 富士セラミックス「圧電セラミックテクニカルハン
ドブック」http://www.fujicera.co.jp/product/jp
1PS-1306
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
カーボンナノチューブのカイラリティ別生体適合性評価方法の提案
東海大学大学院 工学研究科機械工学専攻
東海大学 医学部基礎医学系分子生命科学
東海大学 工学部精密工学科 槌谷 和義
Chirality
Armchair
Zig-zag
Chiral
HOMO energy LUMO energy
ε HOMO [eV]
ε LUMO [eV]
-5.12
-5.01
-5.48
-5.15
-5.41
-5.21
Hardness
η [eV]
0.058
0.165
0.098
Chemical potential
μ [eV]
-5.06
-5.32
-5.31
3.2
カイラリティ別の全エネルギ
カイラリティ別の全エネルギ値を図 1 に示す.これよ
り全エネルギ値はアームチェア型,キラル型,ジグザグ
穣
型の順に低くなっている.アームチェア型は CNTs の中
で最も全エネルギ値が低いことから,最も安定な CNTs
であることが示唆される.
-345950
Total energy
[eV]
1. はじめに
産業分野で応用が期待されるが人体への悪影響も懸念
される,カーボンナノチューブの生体適合性評価法の確
立を目的とする [1-2].カイラリティ別の量子化学計算を
用いて HSAB 則による評価を行った.
2. 解析条件および評価値
CNTs のカイラリティによる生体適合性評価を行うた
め,汎用量子化学計算ソフトウェア Gaussian09 による量
子化学計算を行った.まず,アームチェア型,ジグザグ
型,キラル型の 3 種類のカイラリティ別に最小構成単位
でモデル化し,周期境界条件 (Periodic Boundary Condition,
PBC)で構造最適化した.エネルギ計算の比較では原子数
を同一にする必要があり,カイラリティ別に構造最適化
された 3 つの最小構成単位モデルから,それらの原子数
の最小公倍数である 336 の原子で構成されるクラスター
モデルを作成した.このようにして構造最適化された
CNTs のエネルギをその後,算出した.尚,計算には密
度汎関数理論(Density Functional Theory,DFT)を用い,本
研究では解析の傾向を確認することに注力したため,コ
ストの比較的少ない交換相関汎関数 PBE1PBE,
基底関数
3-21G を選定し計算を行った.
最後に,Hard and soft acids and bases (HSAB)則[3]を
CNTs 同士に適用し,カイラリティ間の相互作用エネル
ギを計算した.Gaussian09 でのエネルギ計算で得ること
のできる,最高被占軌道 HOMO エネルギ εHOMO はイオ
ン化エネルギ I に近似可能であり,最低空軌道 LUMO エ
ネルギ εLUMO は電子親和力 A に近似可能である.それら
から算出される Lewis の酸・塩基に関する硬さ η と化学
ポテンシャル μ より,ある物質 A と B の相互作用エネル
ギ ΔE が得られる.ΔE は負の値を示し,値が小さいほど
物質同士の関与性は高いとされる.
3. 解析結果
3.1 カイラリティ別の HOMO・LUMO エネルギ
表 1 に εHOMO,εLUMO,η,µ を示している.アームチェ
ア型は,他のカイラリティのものよりも HOMO・LUMO
エネルギ εHOMO・εLUMO,化学ポテンシャル μ が高く,硬
さ η においては値が最も小さくなることが示唆された.
これらより,ジグザグ型やキラル型とは異なるエネルギ
形態を示しているといえる.
Table1 Comparison of each value by chirality of CNTs.
○飯森 祥子
梶原 景正、木村
Armchair Zig-zag
Chiral
-346000
-346050
-346100
Fig.1 Comparison of total energy by chirality of CNTs.
3.3 CNTs のカイラリティ間の相互作用エネルギ
表 2 はカイラリティ間の相互作用エネルギを計算した
ものである.アームチェア型と他のカイラリティが関与
すると,そのエネルギ値が小さくなっていることから,
それらの物質同士が結合する可能性が高くなることが考
えられる.
Table2 Interaction energy between each chirality of CNTs.
Interaction energy ΔE [eV]
Chirality
Zig-zag
Chiral
Armchair
-7.27.E-02 -9.64.E-02
Zig-zag
-8.64.E-05
4.結言
CNTs のカイラリティに着目した生体適合性評価を
Gaussian09 による量子化学計算によって検証し, 以下の
知見を得た.
(1) HOMO エネルギ εHOMO, LUMO エネルギ εLUMO,
硬さ η,化学ポテンシャルの各値より,アームチェア型
CNTs はジグザグ型やキラル型の CNTs とは違うエネル
ギ形態を示すことが示唆される.
(2) アームチェア型 CNTs は,全エネルギ値が最も低い
値であることから,
最も安定な構造であると考えられる.
(3) アームチェア型 CNTs は他のカイラリティの CNTs
と関与する可能性が高いことが相互作用エネルギの結果
より示唆される.
[1] Pulickel M. Ajayan, Otto Z. Zhou. Applications of Carbon
Nanotubes. Topics in Applied Physics 2001; 80: 391-425
[2] Jessica P. Ryman-Rasmussen, Mark F. Cesta, Arnold R.
Brody, Jeanette K. Shipley-Phillips, Jeffrey I. Everitt, Earl W.
Tewksbury, Owen R. Moss, Brian A. Wong, Darol E. Dodd,
Melvin E. Andersen & James C. Bonner. Inhaled carbon
nanotubes reach the subpleural tissue in mice. Nature
Nanotechnology 2009; 4: 747 - 751
[3] Baeten A. et al. Use of the HSAB Principle in Quantitative
Structure Activity Relationships in Toxicological Research:
Application to the Genotoxicity of Chlorinated Hydrocarbons.
International Journal of Quantum Chemistry 1999; 74: 351-3
1PS-1307
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
シミュレーションを用いた薄膜の内部応力検討
東海大学大学院
工学研究科機械工学専攻 ○伊藤 慶
東海大学工学部精密工学科
大阪工業大学工学部機械工学科 上辻 靖智
1. 緒言
近年,MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の需要
が拡大しており,アクチュエータ,センサ部において低
電圧で起動する圧電材料薄膜の高機能化が求められてい
る.そこで,薄膜の結晶の状態が機械的性質に影響[1]及
ぼすため,エピタキシャル成長を用いて,結晶成長の制
御を行う必要がある.
エピタキシャル成長は基板の原子配列に影響を受けて
薄膜の結晶を制御するため,薄膜と基板の材料に組み合
わせ次第では,格子定数や結晶の違いから界面にひずみ
が生じ,目的の結晶が得られないという問題がある.そ
こで,基板上における薄膜の結晶状態を把握することは
重要とされている.
そこで本研究では,基材と薄膜の格子定数から 2 層の
適合性を算出する格子不整合シミュレーションを使用す
る.シミュレーション算出した結果と実際に成膜した薄
膜の結晶構造を比較し,検討することで,結晶成長の予
測が可能な格子不整合シミュレーションの開発を目的と
する.
2. 格子不整合シミュレーションの概要
本研究で使用する格子不整合プログラムは,基材とそ
の上に成膜する薄膜材料の原子配列を面内の 2 次元座標
で定義し,2 層の原子配列の各原子間のひずみを算出す
ることで 2 層の原子配列の適合性を予測するシミュレー
ションである.原子配列は基材材料を(Sx,Sy),上に成膜
する薄膜材料を(Tx,Ty)の 2 次元座標で定義する.2 次元
座標上に定義した原子配列を図 1 に示す.これを用いて
原子間の格子不整合を測定することで,2 層の原子配列
の適合性を予測する.格子不整合を算出するにあたり,
全原子で総当たり計算をさせ,1 つの基材原子に対して
最も近い 1 つの薄膜原子を探索する.次に,1 つの薄膜
原子の周辺で基材原子と原子間距離が最も近い 1 つの薄
膜原子を探索する.そして,基材原子同士の原子間距離
a [Å]を基準とした x 軸,y 軸方向のひずみを算出する.
ひずみεx,εy の式を式 1,式 2 に示す.
x 
y 
S1x - S2x - T1x - T2x
a
S1y - S 2y - T1y - T2y
a
(1)
槌谷 和義
3. 薄膜と格子不整合シミュレーションの評価方法
成膜実験の条件を表1 に示す.
Table1 Optimum sputtering condition of thin film.
Si 基板は成膜する前に,干渉計を用いて表面の凹凸を
解析する.上記の条件で薄膜を創製した後,再度干渉計
を用いて試料表面の凹凸の解析を行う.その後 Stoney
の式[2]を用いて応力を算出する.
シミュレーションの条件を表2 に示す.
Table2 Condition of lattice mismatch simulation.
上記の条件で x 軸,y 軸の格子不整合を測定し,最も
格子不整合が低い角度の値を評価値として用いる.
4.シミュレーションと成膜実験の比較結果
x 軸,y 軸方向の成膜実験の結果と格子不整合シミュレー
ションの解析結果を表3 に示す.
Table3 Result of strain.
実験結果とシミュレーション結果の相関係数を算出した
結果,0.87 と非常に高い正の相関が確認された.よって,シ
ミュレーションで算出した応力は薄膜の創製における応力
と関連性があると考えられる.
(2)
Fig.1 Atomic arrangement of coordinate definition
参考文献
[1] Takehiro Sato,Kazuyoshi Tsuchiya,2010 年度精密工学
会春季大会学術講演会講演論文集,(2010),pp507-508.
[2] 山寺秀哉,
豊田中央研究所R&D レビュー,
Vol.34 No.1
(1999.3).
1PS-1308
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
RF マグネトロンスパッタリング法によるマイクロ pH センサの創製
東海大学工学研究科機械工学専攻
○金子大樹,
1. 緒言
既存の pH センサは大型であり,ビーカ内の試料
全体のマクロな pH を測定している.そのため,細
胞など微小物の pH を測定するためには μm サイズ
まで小型化した pH センサが必要である.
pH センサの小型化においてガラス管や内部液が
必要なガラス電極法では構造が複雑であることから
pH センサの小型化が困難である.そこで,簡易構
造を有する銀ヨウ素酸銀(Ag/AgIO3)電極法[1]に着目
し,本研究室で確立されているマイクロ無痛針の創
製手法[2]を模倣することでマイクロ pH の創製が可
能となる.既報[3]では,作用電極と比較電極を同心
円状に配置したマイクロ pH センサを創製したが直
径は約 150[μm]であるため,pH センサの更なる小
型化が必要である.
そこで本報では,直径 125 [μm]の銅線の先端を電
解研磨によって尖らせた後マイクロ pH センサの創
製を行う.
2. 銀ヨウ素酸銀電極法の原理
銀ヨウ素酸銀電極法は内部液やガラス管が不要で
あるため簡易な構造をしており,小型化が可能であ
る.作用電極にはアンチモン電極を用い,一般的に
使用される比較電極を用いた pH 測定において重要な
因子であるCl に類似した性質を持つI を含んだ銀ヨウ
素酸銀(Ag/AgIO3)電極を比較電極として用いる.
3. マイクロ pH センサの創製手法
3.1 電解研磨手法
陽極には試料の銅線,陰極には均質なテーパ加工
が可能となることから銅線をリング状にしたものを
用いる[4].また,電解質液には KOH 水溶液を用い,
印加電圧は 10 [V]として研磨時間は 60 [sec]とする.
3.2 マイクロ pH センサの製作手順
銀ヨウ素酸銀電極法は,作用電極と比較電極を一
本化させることで pH センサの小型化が可能である.
図 1 に示すように始めに,冶具に銅線の先端が尖
っていない方の方端を固定し,冶具に等速回転を与
え,銅線(図 1(i))上に均一に Sb2O3 薄膜,SiO2 薄膜,
Ag/AgIO3 薄膜を成膜し軸部分である銅線部分と
Ag/AgIO3 薄膜部分の 2 箇所に導線を溶接すること
でマイクロ pH センサを創製する(図 1(ii~iv)).また,
実験に使用するスパッタリング条件を表 1 に示す.
Table1 RF magnetron sputtering condition[5].
Factor
Condition
Substrate
Cu wire
Diameter of copper wire [μm]
50
Flow rate of Ar gas [sccm]
50
Sputtering time [min]
240
Substrate distance [mm]
40
Microwave power [W]
100
東海大学工学部精密工学科
槌谷和義
Fig.1 Creation process of a micro pH sensor.
4.マイクロ pH センサの創製結果
3.1 節で述べた条件を用いて直径 125 [μm]の銅線
先端を電解研磨によって加工を行い,レーザー顕微
鏡を用いて観察した結果を図 2(a)に示す.電解研磨
によって銅線先端の直径を約 25 [μm]とすることが
可能となった. また,成膜結果を図 2(b)に示す.図
2(b)より先端部分が成膜されていることを確認した.
また,成膜後の先端部分の直径は 44 [μm]となって
いることを確認した.今後は研磨時間を増やし,銅
線先端直径を更に小さくした上で成膜を行い,直径
30 [μm]以下のマイクロ pH センサの創製を行う.
(a). After electrochemical
(b). After sputtering.
polishing.
Fig.2 Creation of micro pH sensor.
5. 結言
微小領域の pH を測定可能なマイクロ pH センサ
の開発を目的とし,電解研磨によって先端を尖らせ
た銅線上に薄膜の成膜を行った結果以下の知見を得
た.
(1). 電解研磨によって銅線先端のを尖らせ,先端直
径を約 25 [μm]とすることが可能となった.
(2). 電解研磨によって銅線先端を尖らせスパッタリン
グを行い,先端部分が成膜されていることを確認
した.
参考文献
[1] 槌谷和義,大濱和正,日本機械学会,関東支部,
第 52 回学生員卒業研究発表会,p.423-424.
[2] 神人智,山本英毅,槌谷和義,上辻靖智,仲町
英治
学術講演会講演論文集,神人,年:2005,巻:54,
頁:319-320.
[3] 精密工学会大会学術講演会講演論文集,巻 2014,
ROMBUNNO.G19
[4] 佐藤 雄一・山田 隆一・山下 健,電気加工技術
35(111), p29-34, 2011-07-15
[5] 野地哲平,槌谷和義,関東学生会 50 会学生員卒
業研究発表講演前刷集 (2011)
1PS-1309
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
C 型圧電 PZT の多重配置による変形挙動の均一化
東海大学工学研究科機械工学専攻 ○鳥潟昂志,東海大学工学部精密工学科
大阪工業大学工学部機械工学科 上辻靖智
1.緒言
近年日本国内において生活習慣等の乱れから,心疾
患患者は増加傾向にある[1].特に重傷者に対しては人
工心臓が用いられているが,血液凝固などのリスクが
発生する[2].このリスクを低減するには流路を血管の
みで構成する必要があるため,本研究室では中空管マ
イクロポンプ[3]の技術を利用し,血管を傷つけずに着
脱が可能な C 型形状 PZT の開発を行っている.
しかし,既存のポンプを用いて血液循環を行うには
流量が微小である.また, C 型形状 PZT の変形はス
リットを付加したことで不均一であるため,大変形か
つ均一に近い変形を行うための制御が必要である.
従って本研究では汎用有限要素法解析ソフト
ANSYS Workbench を用いて静的圧電解析を行い,
複数個のモデルを用いた際の変形挙動の確認を行う.
そして変形挙動が均一となる条件の探索を行う.
槌谷和義
3.解析結果
スリットが左右交互に設置されているモデルの解
析結果を図 3, 90 [°]回転した形で設置されている
モデルの結果を図 4 に示す.なお評価には絶対値を用
いる.図 3 より,変動係数は C 型形状 PZT を 2 つ取
り付けた際に最も低い値を示し,その後は増加傾向を
示した.次に図 4 より PZT を 3 個用いた際の変動係
数は 2 個や 4 個の結果に比べ高い値を示した.これら
の解析結果より最も低い変動係数は 2 つの配置方法
共に C 型形状 PZT を 2 個使用した際に確認された.
加えて装着個数が増加すると血管への装着可能個数
が減少してしまう事から 1 つのユニットを組む個数
としては 2 個が適切であると示唆される.以上の結果
より適切な組み合わせとしては 2 つが良いと示唆さ
れる.また,同じ装着数の場合でも値が異なることか
ら今後は配置角度の検討が必要になると示唆される.
0 [V]
PZT
80 [V]
Ti
Y
X
40 [°]
Z
Y
Z
X
Fig.1 1/2 C type PZT and Ti analytical model.
Variation coefficieny
-2
-2.5
-3
25 [mm]
-3.5
30 [mm]
-4
35 [mm]
-4.5
40 [mm]
-5
0
1
2
3
4
Number of C shaped PZTs
5
Fig.2 Variation coefficient
0
-0.2
Variation coefficieny
2.解析条件
本研究で用いる PZT の物性値は,マイクロポンプ
に使用されている富士セラミックス社製圧電材料
C-9 材の物性値[4]を解析に使用する.そして中空管部
分にはマイクロポンプ[3]の条件と同様のものとし,従
来の物と比較検証を容易にする目的で Ti を使用する.
次に本解析で用いる解析モデルを図 1 に示す.まず,
C 型 PZT は対称性を有するため,Y 方向を半分にし
た 1/2 モデルを使用する.PZT の寸法は,心臓直下に
位置する直径約 35 [mm]の下大静脈[5]に装着するこ
とを考慮し,内径 35.0 [mm],外径 36.8 [mm],幅 5.0
[mm]の寸法[6]を採用する.電気的負荷としては,PZT
外径面に 0 [V],内径面に 80 [V]を印加する.PZT の
スリットの開き角度は 40 [°]で解析を行う.また、PZT
の設置方法としては図 2 に示すようにスリット部分
が左右交互に配置されるように配置を行い,1 個から
4 個のパターンで行う.さらに中空管部分は長さを
25.0 [mm]から 40 [mm]で変化させる.評価値は中空
管中心部分の 5 [mm]の内径面を評価範囲とする.そ
して評価範囲の全節点の径方向変位から平均変位及
び標準偏差を求め、変動係数を算出する.また,基本
的な解析条件は同様のものを用いて隣り合う PZT が
それぞれ 90 [°]回転した形で配置を行うパターンで
の解析も行う.その際はフルモデルを用いて解析を行
い,拘束条件としてはスリットが横向きの PZT は Z
軸方向に延びる上下の 2 辺を X 軸拘束,スリットが
縦向きの PZT は Z 軸方向に延びる左右の 2 辺を Y 軸
拘束し,解析を行う.
-0.4
-0.6
25 [mm]
-0.8
30 [mm]
-1
35 [mm]
40 [mm]
-1.2
-1.4
0
1
2
3
4
Number of C shaped PZTs
5
Fig.3 Variation coefficient(geometry of stir 90 degrees).
4.結言
C 型形状PZT の変形挙動均一化を目的に有限要素法に
よる静的圧電解析を行い,以下の知見を得た.
(1)
(2)
2 通りの配置方法においてC 型形状PZT を2 個使用した際に最
も低い変動係数を確認.
配置角度を変更することで変動係数の値が大きく変化するこ
とを確認.
参考文献
[1] 厚生労働省,平成 22 年人口動態統計.
[2] 木本 誠二,人工臓器,コロナ社,p65.
[3] 有賀 裕也,槌谷 和義,2011 年度日本機械学会
[4] 富士セラミックス,圧電セラミックス,材料特性表.
[5] 小城 武彦,トートラ人体の構造と機能,第 3 版(原
書 12 版),丸善株式会社,p824.
[6] 鳥潟 昂志,槌谷 和義,2013 年度精密工学会秋季
大会
1PS-1310
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
熱分解によるマイクロ無痛針の中空化手法の開発
東海大学大学院 工学研究科機械工学専攻 ○深谷雄大 東海大学工学部精密工学科 槌谷和義
1. 緒言
本研究室ではスパッタリング法を用いた極細管創製
手法により,穿刺時に痛みの軽減が可能なマイクロ無痛
針[1]の開発を行っている.マイクロ無痛針の寸法および
形状は雌蚊の口を模倣し,内径 25 [μm],外径 50 [μm]の
中空管形状である.
現在,マイクロ無痛針の中空化処理工程の際に長時間
を要することから,針創製時間の短縮を目的とし,針創
製過程の熱処理工程を利用する新規中空化手法を用いる.
新規中空化手法は中間層として高分子材料を用いること
で高分子材料の熱分解を利用する.中間層は高分子材料
のターゲットを用いたスパッタリング法によって成膜を
行うが,高分子材料のターゲットを用いる際,ターゲッ
トへのダメージが問題となる.また,中間層を利用する
ことから針の組成変化についても確認が必要となる.
そこで,本報ではスパッタリングターゲットに高分子
材料を用い,スパッタリング時間によるターゲットへの
ダメージを確認する.更に創製される針の組成を確認す
ることで,中間層による針の組成への影響を確認する.
2. マイクロ無痛針の創製及び中間層の成膜
中間層の及び針の成膜には図に示すようにスパッタリ
ング法を用いる.直径 25 [μm]の銅線を固定した冶具を等
速度回転させ,銅線上に中間層,Ti の順で均一に成膜を
行い層状の試料を作成する.また,実験で用いるスパッ
タリング条件を表 1 に示す.実験条件には短時間での薄
膜の成膜を目的とした既報の最良創製条件[2]を用いる.
中間層の成膜の際には PP ターゲットを用いるが,PP
ターゲットへのダメージはマイクロ波電力とスパッタリ
ング時間に依存する[3].従って,中間層の成膜時にはマ
イクロ波電力の出力を抑え,更にスパッタリング時間の
確認が必要となる.
3. 実験条件
表 1 のスパッタリング条件を用いて試料を作成する.
基材には成膜状態の確認時,試料の観察が容易であるこ
とから Si 基板を用いる.更に基板への成膜時,基板の一
部にマスキングを行うことで成膜部と非成膜部を作成し,
成膜状態の確認を行う.また,スパッタリング時間によ
るターゲットへのダメージを確認するため 20 [min],25
[min],30 [min]以上の 3 通りの時間でスパッタリングを
行った後,ターゲットの表面および形状の確認を行う.
4. 実験結果
スパッタリング時間を 20 [min],25 [min],30 [min]以
上の 3 通りで実験を行い,その時の各ターゲット状態を
図 4 に示す.図 4 より,25 [min]からターゲットへのダメ
ージとしてターゲットの変形および炭化が確認できる.
更に 30 [min]以降ではターゲット全体が炭化し,ターゲ
ットへのダメージが顕著であることが確認できる.また
SEM による基材の成膜状態の確認画像を図 5 に示す.図
5 よりマスキングの有無によって成膜部,非成膜部の境
界が確認できる.更に成膜部,非成膜部それぞれで拡大
して観察したところ表面性情の差異を確認した.以上の
ことから PP ターゲットを用いたスパッタリング法によ
る中間層の成膜を確認し,また成膜時間として最大 20
[min]を閾値とする.
a) 20 [min]
a) SEM image
Fig.1 Creation method of interlayer.
Table1 RF magnetron sputtering condition[2].
Factor
Condition
Substrate
Cu wire
Target
PP
Flow rate of Ar gas [sccm]
Sputtering time [min]
20
25
Substrate distance [mm]
Microwave power [W]
Ti
50
30
240
40
50
100
b) 25 [min]
Fig.4 Target damage
b) No Mask
Fig.5 SEM image
c) 30 [min]
c) Masked
参考文献
[1] 槌谷和義,仲町英治,神人智,上辻靖春,山本英毅,
Bio-MEM 用チタン合金マイクロ無痛針のスパッタ創製
と評価,日本機械学会論文集(A 編)72 巻 716 号(2006-4)
[2] 野地哲平,槌谷和義,関東学生会 50 会学生員卒業
研究発表講演前刷集 (2011)
[3] V. Stelmashuk,H. Biederman,D. Slaviınska,M. Trchova,
P. Hlidek,RF magnetron sputtering of polypropylene,Vacuum,
Vol.75,p207-215,(2004-3)
1PS-1311
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
第一原理計算によるチタン酸バリウム添加元素の影響評価
東海大学大学院 工学研究科機械工学専攻 ○八十田
大阪工業大学 工学部機械工学科 上辻 靖智
東海大学 工学部精密工学科 槌谷 和義
1. 緒言
近年 MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)機器の
アクチュエータ用途等において,圧電材料が非常に重要
な地位を確立している.また,その圧電性の高さ,生産
性の高さから,チタン酸バリウムや PZT(チタン酸ジル
コン酸鉛)等が広く用いられているが,いずれにおいて
もその性能は十分なものとは言いがたい.よって,圧電
材料のさらなる高機能化を実現するため,現在に至るま
で様々な手法により圧電性向上が試みられている.
ここで,チタン酸バリウム,BaTiO3 を始めとする圧電
材料は,多くが ABO3 型のペロブスカイト構造を取り,
その構造の非対称性に起因した自発分極により高い圧電
性が発現する.図 1 にチタン酸バリウムの正方晶型ペロ
ブスカイト構造を示す.図 1 より c 軸方向が他の等価な
2 軸と比較して伸び,また,内部 B サイトの Ti およびそ
れをとり囲む 6 つの O 原子もまた,c 軸方向にシフトし
ている.よって,この c 軸方向の異方性より生じる内部
電荷の偏りが自発分極を生じさせ,
さらにその大きさは,
c/a 軸比等の異方性の増加により増大する[1].このような
特徴から,ペロブスカイト型圧電材料の圧電性はその B
サイト原子により大きく影響される.従って B サイトに
添加元素を加える事による機能向上が広く試みられてい
るが,経験的手法が主流であり,結果の定量性に欠ける
と言った問題がある.
よって,本研究においては最も単純な一元系の材料で
あるチタン酸バリウムを対象として,B サイト添加元素
の定量的評価を試みる.その際,圧電性の評価基準とし
て,上述の c/a 軸比変化に伴う自発分極の増大に着目す
る.そして,非経験的な評価手法として第一原理計算を
用いた構造評価により,添加元素がチタン酸バリウムの
B サイトを置換した際に,ペロブスカイト構造の異方性
に与える影響を評価する.
c/a > 1
c
b
a
A site :
Ba
B site :
Ti
O
Fig. 1 Perovskite unit cell of BaTiO3
2. 添加元素によるチタン酸バリウムの構造変化
添加元素でチタン酸バリウムB サイトを置換したモデ
ルを作成し,構造の変化を評価する.モデル構造として
は,実在の系における置換を考慮する観点から,表 1 に
示す,既報[2]のリートベルト法による実験値を用いる.
さらに,計算コストの関係から unit cell が 2×2×2 よりな
るクラスタモデルとする.ただし,表面の影響を可能な
限り低減し,空間的な異方性を排除するため,周期は
2×2×2 であるが, B サイトの Ti を原点に取る事で,モ
穣
デル中心に B サイトが位置し,また,計 27 の B サイト
を有するモデルとする.
さらに添加元素の候補として,既報[3]において,第一
原理計算による凝集エネルギ,またイオン半径による許
容因子から,チタン酸バリウム B サイトの置換が示唆さ
れる,V,Zr,Nb,Mo を選定する.そして,B サイト
が添加元素候補で置換された 2×2×2 モデルを作成し,全
エネルギによる安定格子定数を求める.また,置換する
対象はモデル中心の B サイト一箇所のみとし,
3.7 %の添
加状態とする.加えて,基準として用いるため,置換を
行っていないチタン酸バリウムのモデルも対象として,
a,
c 両軸の格子定数を変化させ,応答曲面法により最安定
となる極値を算出する.さらに,計算条件は Gaussian 09
による DFT 法,LanL2MB / PBE1PBE を用いる.
以上の条件により,計算を行った結果を表 2 に示す.
表 2 より,
解析上による BTO の c/a 軸比 1.003 を V,
Nb,
Mo において上回り,異方性が増大する事を確認した.
したがって,自発分極の増大が示唆されることから,B
サイトへの V,Nb,Mo の添加により BTO の圧電性が向
上可能である事を確認した.
Table1 Fractional coordinates of BaTiO3
Element
X
Y
Z
Ba
0.0
0.0
0.0
Ti
0.5
0.5
0.5021
O1
0.5
0.5
− 0.0153
O2
0.5
0.0
0.5130
Table 2 BaTiO3 structure by additive element
Element
Ti4+
V4+
Zr4+ Nb3+ Mo4+
Lattice
a 3.837 3.838 3.852 3.847 3.841
constant
c 3.848 3.854 3.865 3.876 3.855
[Å]
c/a
1.003 1.004 1.003 1.008 1.004
3. 結言
第一原理計算により,チタン酸バリウムの B サイトに
対する添加元素の評価を行った結果,構造変化による異
方性向上より, V,Nb,Mo の B サイト添加により BTO
の圧電性が向上可能である事を確認した.
参考文献
[1] Ricinsch, D., 金島岳,奥山雅則,“BaTiO3 および
PbTiO3 の自発分極の結晶異方性と単位胞体積
依存性の第一原理解析”,材料,Vol. 55, No. 2
(2006), pp. 169-172.
[2] Xiao, C.J., Jin, C.Q. and Wang, X.H., “Crystal structure of
dense nanocrystalline BaTiO3 ceramics”, Materials
Chemistry and Physics, Vol. 111, (2008), pp. 209-212.
[3] 八十田穣,上辻靖智,槌谷和義,“第一原理計算に
よるチタン酸バリウム圧電性向上を目的としたB サ
イト添加元素の評価”,精密工学会 2014 年度春季大
会,2014.
1PS-1312
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
溶融含浸法による炭素繊維強化超耐熱セラミックス複合材の試作
東海大学 ○和田 寿也,矢野 友規,岩森 暁
宇宙航空研究開発機構 青木 卓哉,小笠原 俊夫
早稲田大学 梅津 信二郎 1. 緒言 新たな航空宇宙システムの実現には軽量な超耐熱構造
材料が必要です.シャトルではノーズコーンやリーディ
ングエッジに炭素繊維強化炭素複合材料(C/C)が使用
され,高温酸化対策として表面に SiC コーティングが施
されました.SiC は酸化により低酸素透過性の SiO2 を形
成するものの,耐熱温度は 1600℃程度であり,これ以上
の温度域では溶融や昇華が懸念されます.一方,炭化ハ
フニウム(HfC,融点:3950℃)は融点が高く,酸化して
も高融点の HfO2 を形成するため,超高温域での酸素遮
断に有効と考えられます.本研究では C/C の表面や内部
に HfC を形成する手法として溶融含浸(MI)法を検討
しています.これは多孔質な C/C に溶融合金を毛細管現
象により含浸し,C/C 内部の炭素と反応させて HfC を形
成するものです.本講演では MI 条件と得られるマトリ
ックス組織について報告します.
2. 実験方法 2.1 供試材料 MI 処理を行った多孔質 C/C は以下の手順で作製しま
した.平織炭素繊維クロス(CO6343,T300 繊維,東レ)
を 15 枚積層した織物に,エタノールで希釈したフェノ
ール樹脂(UG-9363-HV,DIC(株))を真空含浸しまし
た.その後,40℃で 24 時間乾燥し,190℃で硬化,Ar
ガス中 1000℃で炭化をしました.この樹脂含浸/炭化処
理を 2 回行うことで多孔質 C/C を得ました.アルキメデ
ス法により測定した本出発材料の開気孔率は約 30%で
した.この多孔質 C/C 材を 40mm×30mm×3.6mmt
に切り出し,MI 処理を行いました.
2.2 溶融含浸(MI)条件 C/C 内部に HfC を形成するためにハフニウムダイシ
リサイド(HfSi2)粉末を溶融含浸しました.MI 処理は
黒鉛坩堝内で C/C をシリサイド粉末に埋め,黒鉛ヒータ
炉により減圧中で加熱することで行いました.
3. 実験結果および考察
HfSi2 の MI 処理を行った C/C の断面写真とマトリック
ス部の拡大写真を Fig.1 に示します.図示の通り,気孔
が残るものの,C/C 内部全体に合金が含浸され,マトリ
ックスが形成されていることがわかります.アルキメデ
ス法により測定した開気孔率は約 5%と比較的小さな値
でした.これは HfSi2 融液の粘性が低く,C/C との濡れ性
も良いため C/C 内部に十分に含浸できたためと考えられ
ます.XRD 分析および EPMA 分析を用いてマトリックスの
構成材料を評価しました.その結果,Fig.1 中の橙色部
は HfC,灰色部は SiC,黄色部は未反応の残留 HfSi2 と同
定されました.それぞれの体積割合を画像解析により求
めた結果,HfC は約 50%,SiC は約 5%,残留 HfSi2 は約 45%
でした.ここで,SiC が約 5%と少量なのは耐熱性の観点
からは好ましいと言えます.Si を約 66at.%含む HfSi2 を
含浸しているにも関わらず,C/C 内部には少量の SiC し
か形成されていません.この原因は HfSi2 と炭素間の反
応を詳細に評価した結果,以下のように考えられます.
HfSi2 と炭素間の反応初期では,HfC と SiC の両者が生成
されるものの,SiC はその後に Hf を含む溶融合金と更に
反応して HfC となる二次反応が生じることを確認してい
ます[1].
この二次反応により C/C 中の SiC 体積割合は小
さくなったと考えられます.しかし,マトリックスには
融点が 1543℃の HfSi2 が約 45%と多量に含まれており,
これ以上の温度域においてはマトリックスが溶融し,剛
性低下やガス透過性の増加等の問題が生じると考えられ
ます.多くの HfSi2 が残留するのは出発材料である C/C
中の空隙サイズが大きすぎることが原因だと考えられま
す.今後はマトリックス中の HfC の体積割合を増加させ
るため,含浸性を維持しつつ C/C の空隙サイズを小さく
することを計画しています. 4. 結言 C/C の表面や内部に HfC を形成する技術の確立を目
指し,多孔質な C/C に HfSi2 の溶融含浸処理を行いまし
た . そ の 結 果 , HfSi2 を 溶 融 含 浸 す る と 緻 密 な
HfC-SiC-HfSi2 マトリックスが C/C 内に形成されるこ
とを確認しました.
参考文献 [1] 和田寿也,矢野友規,青木卓哉,小笠原俊夫,梅津
信二郎,大森整,茨城講演会 2013 講演論文集,711. 500µm
(a) Low magnification
Residual
HfSi2
HfC
100µm
SiC
(b) High magnification
Fig.1 Cross-sectional images of HfSi2-infiltrated
C/C composite.
1PS-1313
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
湾曲したシリコーンゴムの歪み測定および膜厚依存性の検討
東京工業大学 資源化学研究所 ○小池 泰徳, 赤松 範久, 藤川 茂紀, 宍戸 厚
【序論】ディスプレイやウェアラブル端末など幅広い分野での活用が期待されているフレキシブル材料はその性能が
材料の湾曲によって変化することが課題となっている。フレキシブル材料の活用に向けた湾曲現象の解明には微視的
かつ定量的な歪み測定が必要である。しかし, 一般的な歪み測定では歪みを巨視的にしか捉えられない。また微視的
な測定には大掛かりな装置を要する。従って簡便で微視的・定量的な湾曲特性の解析には至っていない。これまでに
われわれは, 回折光を用いた簡便な歪み計測法を開発し, 高分子材料の変形挙動について解析を行っている 1)。本研究
では膜厚や硬さの異なる PDMS(polydimethylsiloxane)フィルムを作製し, 湾曲に伴う表面歪みの変化を解析した。
【実験】 SILPOT と catalyst (SILPOT 184 W/C, Dow Corning
(a)
Toray) を 10 : 1 の重量比で混合し, 30 分間撹拌した後, 脱気処理
を行った。その後 4.0 µm の格子周期を有する深さ 720 nm のシリ
コン基板上にスペーサーをガラス基板と挟むことでセルを作製した。
セルに溶液を室温で浸透させたのち, セルを 75 °C で 2 時間加熱す
ることで, 表面にグレーティングを導入した無色透明の PDMS フ
ィルムを作製した。原子間力顕微鏡 (AFM) によりフィルム表面
(b)
に 4.0 µm の格子周期を有するグレーティングが形成されたことを
確認した。触媒の量やスペーサーの厚さを変えることで硬さや膜厚
の異なるフィルムを作製できる。5 : 1 の重量比でも同様に作製し,
膜厚 360 µm と 550 µm の硬さのそれぞれ異なるフィルムを作製し
た。得られたフィルムをグレーティングを形成した面を外側に向け
て両端から押し込み屈曲させた。それと同時にプローブ光を入射し
各々の回折光の角度変化を観察することで, フィルムの表面歪みを
評価した。(Figure 1)。
Figure 1. Optical setup for evaluation of
surface strain ( a ) and schematic illustration
of the bending PDMS film and diffraction of a
probe beam ( b ) .
【結果と考察】
Figure 2 に硬さの異なる (soft・hard) 膜厚 360 µm
と 550 µm の PDMS フィルムの表面歪み解析結果を示す。グラフ
の横軸は押し込み量から求まる印加歪み,縦軸は回折光間隔変化か
ら求まる表面歪みを表している。これより, フィルムの押し込み量
の増加, およびフィルムの膜厚の増加に伴い, 表面歪みが大きくな
ることがわかる。一方, フィルムが柔らかくなると表面歪みが若干
大きくなったが, 全体の傾向は変わらなかった。これらは図中に示
した, 固体力学に基づく理論曲線と同様の湾曲挙動を示すことがわ
かる。固体力学において曲率半径の等しい屈曲を考えた時, フィル
ムの表面歪みは中立面からの距離に応じて大きくなると解釈できる。
フィルムの屈曲挙動を固体力学と比較した結果, 既存の方法では
測定が難しい柔軟な PDMS フィルムでも曲率半径に基づく湾曲特
Figure 2. Strains at the outer tensile
surface of mechanically bent soft and
hard PDMS films with thicknesses of
360 µm and 550 µm.
性を示すことがわかった。
1) Akamatsu, N.; Tashiro, W.; Saito, K.; Mamiya, J.; Kinoshita, M.; Ikeda, T.; Takeya, J.; Fujikawa,
S.; Priimagi, A.; Shishido, A. Sci. Rep. 2014, 4, 5377/1-5377/6.
1PS-1314
平成26年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
電子部品における化学物質の調査
電子技術部 生産システムチーム
三 岩 幸 夫
企業における製品の最終納入先が大企業や海外の場合,全ての部材において,REACH 規則による高懸念物質の
非含有証明と原材料物質の把握をしなければならない.今回,環境情報取得が困難な電子部品について,標準化さ
れたグリーン調達調査回答ツールの運用と簡易な化学分析機器による電子部品の分析を実施した.
キーワード:IEC/TC111,IEC62474,国内 VT62474,グリーン調達調査回答ツール,RoHS,REACH
1 はじめに
表 1 ASIX 製 AX88796BLF の化学物質構成
最近では自社製品を構成する全てに関して全責任を要求
されることが多く,その 1 つとして環境面での全責任も
要求され,他社製の部品やモジュールに関しても,含有物
質や原材料に関する説明責任が要求されるようになってき
ている.
2 環境情報取得と化学分析
2.1 標準化された環境情報取得
IEC62474 の環境情報は,サプライチェーンの上流から
下流に順番に流していくので環境情報の依頼先は正規代理
店となり,一般の小売店からでは,環境情報取得は不可能
である.
国内の正規代理店からは標準化された環境情報が取得で
きたが,海外の場合は独自形式の環境情報であり,この場
合,グリーン調達調査回答ツールの入力項目に該当する部
分は全て漏れなくツールに入力しなければならない.
海外製半導体では,表 1 の独自形式の環境情報をグリ
図 1 コンデンサの蛍光 X 線分析結果
ーン調達調査回答ツールに入力する作業を行った.
2.2 電子部品の化学分析
代表的な電子部品としてコンデンサ,抵抗を対象として,
エネルギー分散型蛍光 X 線分析とフーリエ変換型赤外分
光(FTIR)分析を実施した.
エネルギー分散型蛍光 X 線分析の分析結果は図 1 と図
図 2 抵抗の蛍光 X 線分析結果
2 となった.
コンデンサや抵抗の組成は,メーカー等の公開情報によ
り,ほぼ組成は事前に特定はできるが,実際に分析をする
ことにより,確認をすることができた.
する問題点を把握することができた.
また,エネルギー分散型蛍光 X 線分析機器などによる
分析では部品を構成する物質の特定がある程度できること
3 おわりに
環境対応の標準化に取り組むことによって,高懸念物質
の動向や,グリーン調達調査回答ツールの習得と取得に関
がわかった.
本調査による知見を基に当センターでは,電子部品にお
ける化学物質に関する技術相談に対応していく.