PS-30 離島航路のためのシームレス小型船研究開発

PS-30
離島航路のためのシームレス小型船研究開発
運航・物流系
*宮崎恵子、松倉洋史、吉村健志、三宅里奈、田村兼吉
環境・動力系
1.はじめに
平田宏一
うことを目標として いる。そのため、 2 章の日 本国内
離島の高齢 者比率は急速に高まってお り、 そのよう
の離島調査結果に基 づき、当該離島の航路及び その 航
な地域において、高 齢者の移動の負担がより少 ない形
路へ就航している船 舶について調査を実施し、 シーム
態での公共交通を維 持していく必要がある。ま た離島
レス実験船の社会実 験を行うための航路 の候補 を選定
地域の観光振興も離 島の活性化のために重要で あると
した。複数の候補地 について、現 行で定期航路 を運航
考える。そこで、海上技術安全研究所では、平成 25 年
している事業者、関 係自治体等に対するヒアリ ング調
度から 3 年間の計画で、離島航路の生活基盤の維持・
査を行い、瀬戸内海の 1 箇所の地域(平水海域、 航路
観光業の活性化を目 的として、船が装備してい る昇降
長約 4 マイル)を社会実験の場として選定した。
装置を使って搭載す る車両(バス)が旅客室と なり、
3.2
シームレス実験船の設計・開発
乗客が交通機関の乗 り換えをせずに目的地に移 動でき
社会実験の 地域・航路として 選定した 場所をさらに
るピギーバック型の シームレス小型船システム を開発
詳細に調査し、当該 航路の気象・海象状況、離 着岸の
している。
桟橋の天端高さ等を 設計条件として、シームレ ス実験
本稿では、 シームレス小型船システム の離島航路既
存船舶との代替可能 性等につき調査研究を行い 、これ
船の設計を行った。 一般配置図を図 - 1 に、主 要目を
表-2 に示す。
らの結果を踏まえた 同システムの実験船のシス テム設
計及び開発状況につ いて述べる。また、同 実験 船の事
前検討での安全性評価について述べる。
2.シームレス小型船システムの適用性に関する検討
シームレス小型船システムの適用を検討するため
に、日本国内の離島 の状況を調査した。具 体的 には、
離島の人口規模、航 空路線の有無、観光客数、 老年人
口割合等を調べ、事前検討として、人口規模が 1 万人
以上もしくは航空路 線または既存航路が多数設 定され
ている島は除外した。さらに、人口が 500 人以上の島
を地域交通型、年間観光客数が 1 万人以上の島を観光
型、これら両者が当 てはまる島を地域交通兼観 光型と
して分類すると、表 1 の通り、地域交通型が 24 島、観
光型が 31 島、地域交通兼観光型が 51 島存在すること
が確認された。
表-1
シームレス小型船システムの適用可能性対象の抽出
平水海域
平水海域外
地域交通型
9
15
観光型
17
14
地域交通兼観光型
28
23
図-1
3.シームレス小型船システムの実験船の設計・開発
3.1
社会実験航路の選定
本研究では、シームレス小型船システムの実験船(以
下、シームレス実験 船と言う) を建造し、社会 実験に
より、同システムの 評価並びに社会受容性の検 証を行
表-2
シームレス実験船一般配置図
シームレス実験船の主要目
長さ(全長 )
16.50m
深さ(型)
長さ(垂線間)
14.90m
喫水(計画)
幅(全幅 )
4.60m
総トン数
1.50m
0.75m
約 17 トン
なお、シー ムレス実験船 では、小型バ スがシームレ
4.2
避難経路解析による非常時の脱出 時間の評価
ス実験船の FRP 製の艇体に乗下船するため、可動甲板
非常時の脱出につ いては、乗客全員がバスか ら脱出
とランプドアからな る乗下船装置を設け ている 。車両
し、シームレス実験 船の暴露甲板まで退避する ことと
が乗下船する際の船 全体や車両の挙動について は、模
し、その安全性につ いて検討した。この検討に は、海
型等による検討を行 い、シームレス実験船に反 映して
上技術安全研究所が 保有する避難経路解析シミ ュレー
いる(図-2 参照)。
ションプログラムを 用い、シームレス 実験船と 同等の
大 き さ の 実 在 す る FRP 小 型 旅 客 船 の 避 難 時 間 と 比 較
し、脱出時間が同程 度であることを確認した。 また、
シームレス実験船搭 載のバス の非常口が使用で きない
場合でも、脱出時間 及び滞留時間の点で、避難 経路の
機能を保持している ことを確認した。図- 4 に は、同
避難経路解析 シミュレーションの状況を示す。
なお、シー ムレス実験船の社会実験で は、実験 担当
者が各所に待機して、脱出に至る前に、各事象(火災、
浸水等)を早期に防ぐ 体制を取っている。
図-2
1/16 模型によるバスの乗下船に関する実験
4.シームレス実験船の 事前安全性評価
4.1
シームレス実験船のリスク評価
5 秒後
EU の SAFEDOR プロジェクト(RoPax)のハザード等
をベースとして、シ ームレス実験船の運航に伴 うハザ
初期配置
ード(潜在的に危害 となるもの)のうち、リス ク(頻
10 秒後
度と深刻度の積)の 高いものを同定し、これら のシナ
15 秒後
リオを踏まえて必要な安全対策を確認した。図-3 に、
船体動揺によるリスク検討事例を示す。
必要な安全 対策のうち、ハードウエア に関するもの
20 秒後
は、既存の安全基準 (小型船舶安全規則及び小 型カー
フェリー特殊基準)で対策が対応された内容を確認し、
図-4
シームレス実験船の避難経路解析の状況
不足があれば、追加 して要求することと した。 なお、
ソフトウエアに関す るものについては、運航マ ニュア
ル等に反映することとした。
5.まとめ
以上の通り、シームレス小型船システムの開発とし
て、既存航路・船舶への同システムの適用性の明確化、
Bow-tie diagram 4
社会実験の地域・航路の選定、 当該航路に適合したシ
ームレス実験船の設計、同船の運航時に想定されるリ
events
E
1
重心、動揺
周期、バス
揚陸等
船速、船首
方位(波向
き)、急旋回
時外方傾斜
E
2
E
3
C
1
船体
動揺
C
2
major accident
C
3
打ち込
み、浸水
スク評価等を行った。この他に実施した復原性確保や
転
覆
バス移
動・乗客
偏り、船
体傾斜
C
4
沈
没
consequences
強風、波高、
周期等
車両の固定方法等の要素技術の調査研究も調整・統合
し、平成 26 年度前半に、シームレス実験船の建造が完
了する予定である。その後、安全基準審査、試運転、
シームレス実験船の運航を担当する運航事業者の習熟
運転等を経て、平成 26 年度後半には、地域交通として
の社会実験を実施し、 シームレス小型船 システムの有
Barriers
Barriers
E1:運航条件の設定
E2:重心を下げる工夫、バス揚陸時の
復原性計算
E3:横波、追い波の排除、船速の調整
C1:十分なブルワーク高さ、排水機能、開口閉鎖
C2:十分な復原力(想定波高、周期、風圧側面積等)
C3:バス固縛マニュアル、滑り止め塗装、適切な固縛、
シートベルト着用
C4:予備浮力、退船、救命胴衣、救命浮器
効性等を検証する予定である。
謝辞
本研究は、 国土交通省交通運輸技術開 発推進制度に
図-3
船体動揺によるリスク検討事例
おける「離島の交通 支援のためのシームレス小 型船シ
ステムの開発」で実 施しております。 関係各位 に深く
感謝申し上げます。