心臓サルコイドーシスの活動性病変評価に18F

PETによる心臓サルコイドーシスの活動性病変評価
〔総説〕
心臓サルコイドーシスの活動性病変評価に 18F-FDG PETは役立つのか?
諸井雅男 1, 5),宇野公一 2),山田嘉仁 3),山口哲生 3),諸岡
都 4),窪田和雄 4),廣江道昭 5)
【要旨】
Fluorodeoxyglucose(FDG)は糖のアナログであり,18F-FDG PETは細胞の糖代謝を画像化する.近年,心臓サルコイ
ドーシスの活動性病変を評価する方法として,18F-FDG PETが有力であることが示された.しかしながら心臓におけるマ
クロファージなどの炎症細胞へのFDGの取り込みを評価するためには,正常心筋細胞への取り込みを抑制する必要がある.
そのためには18時間以上の絶食と検査前の低炭水化物食(5g以下)による前処置が重要である.また,長時間絶食の確認
には血中遊離脂肪酸濃度が役立つ.長時間絶食によっても不全心筋細胞はFDGを取り込む.実際の心臓サルコイドーシス
病変部位では不全心筋細胞と炎症細胞が混在すると考えられる.瘢痕病巣との区別は重要で,心筋血流SPECT,心筋脂肪
酸代謝SPECTが参考となる.18F-FDG PETは臨床的には治療の評価および心内膜下心筋生検のガイドとしての活用が期待
される.
[日サ会誌
2014; 34: 1]
キーワード:炎症細胞,心筋細胞,糖代謝,グルコーストランスポーター,脂肪酸代謝
Can We Evaluate Active Lesions of Cardiac Sarcoidosis with 18F-FDG PET?
Masao Moroi1, 5), Kimiichi Uno2), Yoshihito Yamada3), Tetsuo Yamaguchi3), Miyako Morooka4), Kazuo Kubota4),
Michiaki Hiroe5)
Keywords: inflammatorycells,myocardialcells,glucosemetabolism,glucosetransporters,freefattyacidmetabolism
はじめに
質ステロイドホルモン薬(以下ステロイド)や免疫抑制
グラム陽性の嫌気性細菌であるアクネ桿菌(Propioni-
薬が有効であるからである. 逆に線維化・ 瘢痕形成に
bacterium acnes)に対する過敏性免疫反応がサルコイドー
至った心臓にはこれらの治療は無効であるばかりか副作
シスの本体とする説が有力であるが,未だに確定されて
用が目立つことになりかねない.病理所見は重要である
いない
.アクネ菌は常在菌であり,通常状態では病変
が,心筋に巣状に形成される病変を心内膜下心筋生検で
を形成しない.宿主の状況によってマクロファージが活
的確に捉えるのは容易ではない.さらに病変部位によっ
性化され,これに捕食されても殺菌されず細胞内で増殖
て進行は異なるかもしれない.近年,心臓サルコイドー
する.活性化されたマクロファージは組織への病変の拡
シスの活動性炎症性病変を評価する方法として,18F-FDG
散を防ぐためにサイトカインを分泌しリンパ球を動員す
PETが有力であることが示された 3).しかし,条件によっ
る. こうして炎症病変が形成されると考えられている.
ては 18F-FDGは正常心筋細胞にも取り込まれるため(生理
心臓サルコイドーシス病変の初期にはリンパ球やマクロ
的集積),必ずしも炎症性病変に集積しているとは限らな
ファージを主体とした炎症細胞や障害心筋細胞などが混
いことも指摘されている.本稿では 18F-FDG PETを中心
在し,類上皮細胞の出現から時間の経過とともに線維化・
に心臓サルコイドーシスの活動性炎症病変の画像診断に
瘢痕形成に至ると考えられる.この病変形成における経
ついてその有用性と限界について述べる.
1, 2)
時的変化のどの時期に心臓サルコイドーシス患者の病変
が相当するのかを判断することは治療に重要である.線
維化・瘢痕形成に至る前の活動性炎症に対しては副腎皮
1)東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科
2)外苑東クリニック
3)JR東京総合病院 呼吸器内科
4)独立行政法人国立国際医療研究センター 核医学科
5)同 循環器内科
著者連絡先:諸井雅男(もろい まさお)
〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6
東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科
E-mail:[email protected]
Ga SPECTと 18F-FDG PETについて
67
SPECTとは,singlephotonemissioncomputedtomog1)Division of Cardiovascular Medicine, Toho University Ohashi
MedicalCenter
2)GaienHigashiClinic
3)D epartment of Respiratory Medicine, JR Tokyo General
Hospital
4)D ivision of Nuclear Medicine, Department of Radiology,
NationalCenterforGlobalHealthandMedicine
5)Department of Cardiology, National Center for Global Health
andMedicine
日サ会誌 2014, 34(1)
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PETによる心臓サルコイドーシスの活動性病変評価
〔総説〕
ATP
ADP
Glucose(ブドウ糖)
CH2OH
H
OH
H
OH
H
Glucose
O
H
OH
H
OH
H
Fru-6-P
CO2
CO2
OH
FDG
hexokinase k3
FDG
TCA
cycle
×
FDG-6-P
phosphatase k4
O
H
Glu-6-P
OH
F-FDG
H
Glucose
phosphatase
18
CH2OH
Glycogen
hexokinase
×
滞留
OH
: Glucose transporter(GLUT)
F
18
正常心筋細胞:GLUT4 インスリン依存性
炎症細胞:GLUT1 GLUT3 インスリン非依存
Figure 2. FDGの集積機序
影上の対策が必要になる.検査直前の血中遊離脂肪酸濃
取り出して表示する方法である.Figure 4aはサルコイ
度が高ければ高いほど生理的集積は抑制されるので読影
ドーシス患者のMIP像である.心臓への集積の他に肺へ
に際して生理的集積かどうか判断に迷う場合には検査直
の集積も確認できる.サルコイドーシスは全身性疾患で
前の血中遊離脂肪酸濃度が参考になる.自験例では血中
あるので心臓以外の臓器への集積は診断の重要な根拠と
遊離脂肪酸が0.8 mEq/L以上では生理的集積は抑制され
なりうる.心臓のどの部位にFDGが集積しているのかを
ている可能性が高い 10).また,左室心筋への集積パター
確認するには前額断(Figure 4b)や横断像(Figure 4c)
ンによっても生理的集積かどうかはある程度推察可能で
を利用する.この症例では,横断像で心室中隔への集積
ある(Figure 3).心臓の大きさがほぼ正常で左室にびま
を認める.この症例では認めないが,右室自由壁にFDG
ん性にFDGの集積が認められる場合は,生理的集積の可
の集積を認める場合もある.
能性が高い(Figure 3A)
.また左室の側壁および心基部
左室心筋への集積が認められる場合には,斜断層法に
のリング状集積(Figure 3B)も健常人で認められるので
よる再構成(短軸像,垂直長軸像,水平長軸像)を行う.
生理的集積の可能性がある.さらに不全心筋ではGLUT4
Figure 5はFigure 4の 症 例 の 201TLと 123I-BMIPP SPECT
ではなくてSGLT1によりFDGが取り込まれることが報告
および 18F-FDG PETの斜断層法による再構成(短軸像,
されており 12),不全心筋では 長時間絶食によってもFDG
垂直長軸像,水平長軸像)をまとめたものである.201TL
の取り込みを抑制できない可能性もある.不全心筋細胞
では欠損像を認めないが,123I-BMIPPでは側壁のみ集積が
と炎症細胞によるFDGの取り込みを区別するのは困難で
目立ち,その他の部位への集積は低下している.18F-FDG
あるが, 炎症部位には不全心筋と炎症細胞は混在する.
では前壁,下壁および心室中隔への集積が目立つ.左室
このことが炎症部位にFDGの集積が明瞭になっている可
側壁へのFDGの集積は認めない.この所見を参考とし右
能性も否定できない.注意しなければならないのは,炎
室中隔側への心内膜下心筋生検を行ったところ,類上皮
症細胞が存在せず,不全心筋細胞のみの場合でもFDGは
細胞と非乾酪性肉芽腫を認め,心臓サルコイドーシスと
集積するということである.FDG集積が活動性炎症では
診断された.このように 18F-FDG PETは心筋生検のガイ
なくて不全心筋を反映しているかどうかを検討するには,
ドとなり得る.
心エコーや心筋血流SPECT,心筋脂肪酸代謝SPECT,心
臓MRIなどの他の方法が有用である 13,14).
F-FDG PETの心臓の適用疾患
18
F-FDG-PET検査の心疾患での保険適用(2012年4月改
18
F-FDG PETの実際の読影方法
訂)には以下の2つがある.
まずはじめに, 全身のMIP像で心臓を含め全身の臓
1.虚 血性心疾患による心不全患者における心筋組織の
18
器へのFDGの集積の有無をみる.MIP像とはmaximum
intensity projectionの略で最大値輝度投影法と訳される.
三次元データ(二次元データの重ね合わせでもよい)を
ある方向から投影し,その投影線上で最も強い信号だけを
バイアビリティ診断(他の検査で判断のつかない場
合に限る.)
2.心 臓サルコイドーシスにおける炎症部位の診断が必
要とされる患者
日サ会誌 2014, 34(1)
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PETによる心臓サルコイドーシスの活動性病変評価
Tl
〔総説〕
I-BMIPP
201
F-FDG
123
18
前壁
短軸
中隔
側壁
下壁
前壁
垂直長軸
心尖部
下壁
心尖部
水平長軸
中隔
側壁
Figure 5. 斜断層像
治療前
治療3 ヵ月後
Figure 6. 心臓サルコイドーシス患者のステロイド治療前後の 18F-FDG PET画像
こ の 保 険 適 用 に よ る と 18F-FDG-PETは 心 臓 サ ル コ イ
ドーシスと診断された患者にしか使用できないことにな
る.心臓サルコイドーシスは診断が難しい疾患の1つであ
心臓サルコイドーシスで 18F-FDG-PETが特に有
用な場合
ステロイド治療の評価として有用と考えられる.Figure
る.心臓サルコイドーシスは早期のステロイド使用が有
6は治療前とステロイド治療3 ヵ月後の 18F-FDGPET画像
効であるので,早期診断が重要である.この観点からは,
である.改善しているのが一目でわかる.この所見はス
心臓外のサルコイドーシスと診断された患者において心
テロイド減量の参考になる.また心内膜心筋生検施行に
臓病変が疑われた場合に活用できることが望まれる.
際して盲目的に行うよりも,FDG集積部位をターゲット
として行う方が生検の陽性率が上がる可能性がある.今
日サ会誌 2014, 34(1)
19
〔総説〕
PETによる心臓サルコイドーシスの活動性病変評価
までの報告では心臓サルコイドーシスにおける心内膜下
magnetic resonance imaging in assessing cardiac sarcoidosis.
心筋生検の陽性率は20%以下であるので,18F-FDG PET
SarcoidosisVascDiffuseLungDis2005;22:234-5.
画像をガイドとした生検は期待される.
5)OkumuraW,IwasakiT,ToyamaT,etal.Usefulnessoffasting
18
おわりに
F-FDG PET in identification of cardiac sarcoidosis. J Nucl
Med2004;45:1989-98.
心臓サルコイドーシスは診断が困難な疾患の1つであ
6)Langah R, Spicer K, Gebregziabher M, et al. Effectiveness of
る.臨床症状は多彩で,バイオマーカーなどの血液検査
prolongedfasting 18F-FDGPET-CTinthedetectionofcardiac
も診断項目としては絶対的なものはない.完全房室ブロッ
sarcoidosis.JNuclCardiol2009;16:801-10.
クを来した中年女性でペースメーカーが留置されて安心
7)Ohira H, Tsujino I, Yoshinaga K. 18F-Fluoro-2-deoxyglucose
し,5年後に心不全で再入院したケースもある. このと
positron emission tomography in cardiac sarcoidosis. Eur J
きはすでに左室駆出率は10%であり,左室心筋は瘢痕形
NuclMedMolImaging2011;38:1773-83.
成となっていた.肺サルコイドーシスで経過観察されて
8)ChengVY,SlomkaPJ,AhlenM,etal.Impactofcarbohydrate
いた患者で新たな右脚ブロックが認められ,最終的に心
restriction with and without fatty acid loading on myocardial
臓サルコイドーシスと診断された場合もある.肺サルコ
18
イドーシスと診断された患者では自覚症状がなくとも年
NuclCardiol2010;17:286-91.
F-FDG uptake during PET: A randomized controlled trial. J
に1度は心電図を評価し,新たな右脚ブロックの出現や心
9)Wykrzykowska J, Lehman S, Williams G et al. Imaging of
機能の低下といった変化があれば積極的に心臓サルコイ
inflamed and vulnerable plaque in coronary arteries with
ドーシスを疑ってもよいかもしれない.そのときにどの
18
ようにして心臓病変の有無を評価したらよいのであろう
uptake using a low-carbohydrate, high-fat preparation. J Nucl
か.心エコー,67Gaシンチグラフィ,心臓MRIなどに加
えて 18F-FDG PETも有力な検査法となりうると思われる.
そのためには 18F-FDGPETを正確に評価する必要がある.
引用文献
F-FDG PET/CT in patients with suppression of myocardial
Med2009;50:563-8.
10)石田良雄,汲田伸一郎,吉永恵一郎,他.心臓サルコイドーシ
スに対する 18F-FDG PET検査の手引き.心臓核医学 2013;15-3:
35-47.
11)Morooka M, Moroi M, Uno K, et al. Long fasting is effective
1)I shige I, Usui Y, Takemura T, et al. Quantitative PCR of
ininhibitingphysiologicalmyocardial 18F-FDGuptakeandfor
mycobacterial and propionibacterial DNA in lymph nodes of
evaluating active lesions of cardiac sarcoidosis. EJNMMI Res
Japanesepatientswithsarcoidosis.Lancet1999;354:120-3.
2)AgostiniC,AdamiF,SemenzatoG.Newpathogeneticinsights
intothesarcoidgranuloma.CurrOpinRheumatol2000;12:71-
novelcardiacglucosetransporterthatisperturbedindisease
6.
states.CardiovascRes2009;84:111-8.
3)YoussefG,LeungE,MylonasI,etal.Theuseof18F-FDGPET
inthediagnosisofcardiacsarcoidosis:asystematicreviewand
metaanalysis including the Ontario experience. J Nucl Med
2012;53:241-8.
4)I shimaru S, Tsujino I, Sakaue S, et al. Combination of
18
20
2014;4:1.availableonlinedoi:10.1186/2191-219X-4-1.
12)BanerjeeSK,McGaffinKR,Pastor-SolerNM,etal.SGLT1isa
F-fluoro-2-deoxyglucose positron emission tomography and
日サ会誌 2014, 34(1)
13)KimJS,JudsonMA,DonninoR,etal.Cardiacsarcoidosis.Am
HeartJ.2009;157:9-21.
14)YoussefG,BeanlandsRS,BirnieDH,etal.Cardiacsarcoidosis:
applications of imaging in diagnosis and directing treatment.
Heart2011;97:2078-87.