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有機反応の基礎(第5回)
薬化学教室
伊藤 喬
8 アルケンの反応と合成
アルケンを用いる
付加反応
極めて多くの化合
物の合成に使用
することができる。
生成物は多様だ
が反応機構には
共通性がある。
二重結合のπ電子
アルコール
アルカン
ハロヒドリン
1,2-ジハロゲン化合物
ハロゲン化物
1,2-ジオール
アルケン
エポキシド
カルボニル
化合物
シクロプロパン
8 アルケンの反応と合成
アルケンを用いる
付加反応
極めて多くの化合
物の合成に使用
することができる。
生成物は多様だ
が反応機構には
共通性がある。
二重結合のπ電子
アルコール
アルカン
ハロヒドリン
1,2-ジハロゲン化合物
ハロゲン化物
1,2-ジオール
アルケン
エポキシド
カルボニル
化合物
シクロプロパン
有機化学における酸化と還元
1)酸化:炭素の電子密度が減少する反応
1 炭素と、より電気陰性度の大きい原子(O, N, X)間の結合生成
2 炭素と、より電気陰性度の小さい原子(H)の結合開裂
2)還元:炭素の電子密度が上昇するような反応
1 炭素と、より電気陰性度の大きい原子(O, N, X)の結合開裂
2 炭素と、より電気陰性度の小さい原子(H)の結合生成
変化する結合の種類:
酸化 C-O、C-N、C-X結合の生成 or C-H結合の切断
還元 C-H結合の生成、 C-O、C-N、C-X結合の生成
酸化還元の例(1)
H
Cl
C
H
H
H
メタン
+ Cl2
+ HCl
H
H
H
クロロメタン
Cl
C
C
酸化:C-H結合が切れて
C-Cl結合が生成
H
1. Mg,エーテル
+
O
2.
H
H
3
H
H
クロロメタン
C
H
H
H
メタン
還元:C-Cl結合が切れて
C-H結合が生成
酸化還元の例(2)
H
H
C
C
H
Br
+ Br2
H
エテン
H
C
H
+ H2
H
H
エテン
C
H
H
H
H
C
C
H
+ HBr
H
エテン
酸化:炭素とより電気陰性度が
大きい元素との間で二つの新し
い結合が生成
H
H
還元:炭素とより電気陰性度が
小さい元素との間で二つの新し
い結合が生成
エタン
H
C
C
H
H
H
C
1,2-ジブロモエタン
H
C
H
H
Br
H
H
Br
C
C
H
H
ブロモエタン
酸化でも還元でもない:新しい
C-H結合とC-Br結合が各1個ずつ
生成
酸化と還元が同時に
起こって相殺される
§8.6 アルケンの還元:水素化
触媒(金属)
alkeneをalkaneに変換する
触媒 (catalyst)とは
1)反応の活性化エネルギーを下げる
2)反応の前後で消費されない
Ni (ニッケル),
Pd/C (パラジウムカーボン),
PtO2 (酸化白金) 等
水素化反応の立体化学
1,2-ジメチルシクロヘキセン
cis-1,2-ジメチルシクロヘキサン
2つのHは二重結合の同じ側から付加 = cis付加
(環状のアルケンを用いることで立体化学を検証できる。)
なぜシス付加なのか
分子状水素H2とアルケンが触媒表面に吸着されて反応
金属表面
H2分子
触媒に
結合したH2
触媒に結合した
H2とアルケン
Pd,Pt等は水素ガス
を吸着する性質が
ある
(H2はH原子になる)
部分的に還元
された中間体
アルカンと
再生した触媒
反応機構に基づく選択性
金属表面で反応するため、立体障害の小さい側からのみ
水素付加が起こる。
メチル基が存在するため二重結合の
上側では金属表面に吸着できない
α-ピネン
空いている下面から反応
生成しない
水素化の合成への応用

アルケンに対する選択性が高いことを利用
O
H2-Pd/C
O
ethanol
O
O
OMe
H2-Pd/C
OMe
ethanol
アルケンのC=C二重結合を選択的に還元
(C=O,ベンゼンは反応しない)
水素化の応用:植物油からマーガリンを作る

植物油を還元すると融点が上がる
→ マーガリンとして利用
O
OMe
リノール酸メチル 融点mp -35℃(液体)
H2-Pd/C
O
OMe
ステアリン酸メチル 融点mp 41℃(固体)
還元が上手くいかずtrans脂肪酸が生成することがある。
悪玉コレステロール(LDL)を増加させる。
問題1
次の反応生成物を与えるアルケンの構造を示しなさい。
正解は複数存在する。
(a)の解答
非対称に置換基が入っているので、C-C単結合を二重結合に変えればよい。
赤で示した2つの結合は等価(どちらに二重結合を入れても同じ構造)
以下の5種類。途中から置換基の位置番号が異なる(アルケンの位置が優先)。
(b)の解答
CH3
CH3
H2C
H2C
H2
C
C
H2
CH3
C
CH3
CH2
水素を持たない炭素(赤印)
は二重結合にはならない。
二重結合となれる4つの結合のうち、2つずつ
等価なものがある(青とピンク)
そのため、可能性のあるアルケンは以下の二種類。
H2C
H2C
H2
C
C
H
CH3
C
CH
CH3
CH3
CH3
H2C
HC
H2
C
C
H
CH3
C
CH3
CH2
CH3
CH3
8.7 アルケンの酸化(1)エポキシ化
H
CH3
Cl
CH3
+
C
OOH
O
O
CH2Cl2
Cl
+
C
OH
O
H
m-クロロ過安息香酸
反応機構
O
H
Me
O
Cl
H
O
O
Cl
O
H
Me
協奏的:
同時に起こる
O
H
協奏的な電子
移動によるシン
syn付加
エポキシドを合成するもう一つの方法
1 アルケンからハロヒドリンを合成
2 ハロヒドリンと塩基の反応によるHXの脱離
ClとOHの付加反応
ではラセミ体が生成
オキシランはメソ化合物
となり単一物質
エポキシドの酸触媒開裂
エポキシドからtrans-1,2-ジオールを合成できる。
CH3
CH3
H+
+ H2O
O
OH
OH
H
H
H 2O
H
H
H3C
H
O
H
H2Oの付加はブロモニ
ウムイオンの場合と同じ
位置に起こる。
問題2
cis-2-ブテンとm-クロロ過安息香酸の反応で得られる生成物
の立体化学を示しなさい。
解答
cis-2-ブテンの二重結合の上側と下側から反応して(A)と(B)が生成?
(A)と(B)は同じ構造(メソ化合物)なので生成物は1種類。
(A)と(B)は上下逆だが
同じ構造である。
メソ化合物
trans-2-ブテンをエポキシドにすると鏡像異性体の混合物になります。
各自確認してみて下さい。
§8.7 アルケンの酸化(2) ジヒドロキシ化
C
OsO4
C
H
H
H
OsO4
C
OH
OH
O
O
Os
pyridine
O
1,2-diol
C
O
ヒドロキシ基が同時
に2個同じ側から導
入される
H
H
OH
+ Os
NaHSO3
OH
NaHSO3 : 亜硫酸水素ナトリウム=還元剤
H
反応機構
..
:O
:O
..
Os
..
O:
: O : .. : O :
O
.. :
:O
..
Os
NaHSO3 /H2O
水酸基の酸素原子は
両方ともオスミウムから
導入される
Os + 4H2O
O:
..
オスミウムに
矢印が入って
Osは二電子還
元を受けている
hydrolysis
酸化されている
更に還元される
NaHSO3
H O
O H
HO .. OH
Os
還元されている
O
O
: ..
.. :
四酸化オスミウムを触媒量にする工夫

四酸化オスミウムは毒性が高い
→ 量を減らす工夫
H
O
H OsO
4
R
HO
Os
H
R
+
Me
H 2O
H
O
N-メチルモルホリン
N-オキシド
O
+
O
O
Os
+
HO
OH
O
O
Os
O
H
R'
R
O
N
OH
HO
H
R'
O
O
OH
O
O
R'
O
Os
O
N
Me
+
H2O
四酸化オスミウム再生の反応機構
O
Me
O
N
O
HO
Os
O
O
OH
OH
Me
O
N
Os
O
O
H
電子移動で説明できること
を示しています。無理して
憶える必要はありません。
O
+
N
Me
O
O
Os
O
O
O
H
問題3
次の化合物を合成するにはどんなアルケンから出発したらよいか。
解答
(a)
(b)
(c)
8.8 アルケンの酸化:
カルボニル化合物への開裂


アルケン → 構造決定難しい (bp, mpが低い)
ケトン、アルデヒド → 誘導体として構造決定が容易
CH3
CH3
CH3
1) O3
2) Zn-CH3CO2H
C, Hのみの化合物
→構造決定困難
O
+
O
CH3
両方ともカルボニル化合物
→構造決定容易
Zn (亜鉛)+酸 は還元剤。中間体のオゾニドを還元する。
使用法:二つのカルボニル化合物から元の
アルケンを推定する
H
O3
Alkene
O
+
+
Zn, H
O
(A)
(B)
H
H
O
CH2CH3
CH2CH3
O
CH2CH3
(C)
A, Bのような化合物が得られたとき、原料のアルケンはCの構造
と分かる。
オゾン分解の反応機構(参考)
O
O
R
1
R
3
R
R
R2
R3
R2
O
R
3
R2
O
Zn
O
R4
R3
R3
R1
O O
O
オゾニド
O
R1
R4
2
R1
O
R4
O
モルオゾニド
O
1
O
1
R
R4
2
R
O
O
O
O
R3
R4
R2
自分で書けると、より有機化学が理解できるようになります。憶える必要はありません。
R4
1,2-ジオールの開裂反応

オゾン分解(一般に収率が悪い)と同様の反応を
二段階で行う
CH3
H
CH3
1) OsO4
OH
2) NaHSO3
OH
H
CH3
I
H
H2O
CH3
OH
O
O
HIO4
O
O
O
O
HIO3
H
問題4
オゾン分解によってシクロペンタノンとプロパナールを与える
アルカンの構造を示しなさい。
シクロペンタノン
プロパナール
解答
1 シクロペンタノンとプロパナールのカルボニル基同士が接近
するように構造式を書く。
2 酸素原子を無視して二重結合をつなぐ
2種の1,2-ジオールの作り分け
CH3
OH
1) OsO4
cis-1,2-diol
OH
CH3
2) NaHSO3
H
H
CH3
CH3
mCPBA
O
H
H+
OH
H2O
OH
H
trans-1,2-diol
8.9 アルケンへのカルベンの付加
カルベンcarbene:二価で最外殻電子を6個しか持たない不安定分子
アルケンに付加してシクロプロパンを生成する。
シクロプロパン
アルケン
カルベン
クロロホルムと塩基からのジクロロカルベンの生成
ジクロロカルベン
カルベンの反応:立体特異的
カルベンはアルケンの立体化学を保持する
立体特異的
シス体のアルケンからシス体のシクロプロパン
トランス体のアルケンからトランス体のシクロプロパン
が生成
一般に
出発物質と生成物ともに立体異性体が存在する場合に成り立つことがある。
無置換カルベンの生成:
Simmons-Smith反応
ジヨードメタン
カルベノイド:ヨウ化(ヨードメチル)亜鉛
カルベノイドcarbenoid
-oid (接尾語):~のようなもの、~に似たもの
Zn(Cu) : 亜鉛と銅の合金
問題5
次の反応で得られる生成物の構造を示しなさい。
解答
(b)の場合、シス、トランス異性体が存在するので、2つの可能性がある。
cis-アルケンからはcis, trans-アルケンからはtransに置換した
シクロプロパンが生成(立体特異的)