吸光光度法によるppbレベルヨウ化物イオンの触媒酸化

Kogakuin University
工学院大学研究報告第 112 号 平成 24 年 4 月
吸光光度法による ppb レベルヨウ化物イオンの触媒酸化反応について
下 瀬 雅 人a,菊 地 修b,奥 田 尚 美b,
長 島 珍 男c,釜 谷 美 則d
A reaction mechanism in flow analysis of ppb level concentration of iodide ion
using the catalytic method
Masato SHIMOSEa, Osamu KIKUCHIb, Naomi OKUDAb,
Kunio NAGASHIMAc and Minori KAMAYAd
Abstract
The method for the determination of ppb level concentration of iodide ion has been developed by means of flow
−bis (dimethylamino) diphenyl methane (tetrabase).
analysis based on the catalytic oxidation reaction of 4,4’
A sample solution was pumped (1.6ml min−1) into a reaction solution which was a mixture of 0.4g dm−3 chloraminT (0.8ml min−1) and 0.1g dm−3 tetrabase (0.8ml min−1). The absorbance (604nm) of mixture via reaction coil (14s)
was measured by flow absorption spectrometer. A linear relationship was obtained between the peak height (absorbance) and the concentration of iodide ion in the range 0 ∼20ppb. The detection limit (S/N=5.1) was 1.0ppb iodide ion.
In this study, it was found that the relative response of I−, Br− and Cl− were 2.32×104,1.38×102 and 1.00, respectively.
The oxidation potential of I2, Br2, Cl2 and ClO− are 0.54, 1.06, 1.36, 0.89V, respectively. We concluded that those
oxidation reaction ratios were depend on the hydrophobic property of the oxidizing species because the hydrophobic
oxidizing species are easy to reach the hydrophobic reduction group of tetrabase. On the other hand ClO− are hard to
reach the reduction group.
The cycle number of the reaction (2I−→ I2 → 2I−) in this method was estimated as 57.7 using the ε of oxidant of
tetrabase(ε=1.21×105).
The iodide ion forms the precipitants with some heavy metal ions (Ag+, Pb2+, Hg2+). It was found that the decreased absorbance were proportional to the concentration of the heavy metal ion when the concentration of iodide ion
added was constant.
1.緒 言
1.1 目的
イオン及びヨウ素の標準酸化還元電位は,0.89V 及び
0.615V と次亜塩素酸イオンの方が高く,かつ,[ClO−]/
[Cl− ]の値の方が,[I2]
[I
/ − ]の値よりも大きいのにもか
テトラベースは,クロラミン T により直接酸化される
かわらず,テトラベースはヨウ素によって酸化されてい
ことはないが,ヨウ化物イオンが共存すると,クロラミ
る.この現象を考察した.
ン T によりヨウ化物イオンがヨウ素に酸化され生成した
又,比較のために酸化還元電位の異なる同族の臭化物
ヨウ素によりテトラベースが酸化される.クロラミン T
イオン及び塩化物イオンについても比較検討した.
は水溶液中で徐々に分解して次亜塩素酸イオンを生成
ヨウ素→ヨウ化物イオン→ヨウ素の循環反応はなぜ迅
し,これがヨウ化物イオンを酸化している.次亜塩素酸
速に進み,測定時間内に何回行われているのかを検討し
た.この循環反応中は,ヨウ素とヨウ化物イオンの合量
a
b
c
d
化学応用学専攻修士 2 年
化学応用学専攻修了
化学応用学専攻教授
化学応用学専攻准教授
は一定である.よって,クロラミン T 又はテトラベース
がある濃度以下になるまでこの酸化反応は進んでいく.
この反応の進行状況は,テトラベースの酸化体の呈色
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(λ=604nm)から,吸光光度法により酸化体の濃度が分
かる.しかし,生成した酸化体は化学的に安定でないこ
2.実験装置
とから時間とともに減少していくことが吸光度の変化か
本研究における実験装置を Fig. 2 に示した.送液はペ
らも確認し,その結果についても記載した.
リスタリックポンプと内径 2 mm のシリコンチューブを
この反応はヨウ化物イオンの濃度が ppb レベルにおい
用いた.反応コイルには内径 0.8mm のポリ四フッ化エ
ても化学量論的に進行していることから,低濃度ヨウ化
チレンチューブを使用した.吸光光度計には Ocean Op-
物イオンの分析法として報告 されている.さらに,こ
tics 社製スペクトロメータ SPECTRASUITE を使用した.
の方法を用いて,尿,食物中のヨウ化物イオン定量のた
モル吸光係数(以下εと略)既知の呈色液(メチレンブ
めの前処理法を検討し適用している .しかし両論文と
ルー)を用いて,本実験の測定系の光路長(cm)を求
もフローインジェクション分析法を用いているため,こ
めたら,1.00cm であった.反応時間は反応チューブの
の反応の機構についてはほとんど考察できるデータが記
長さを変えることにより調整が可能である.
1)
2)
載されていなかった.
本論文は,本反応機構の詳細を検討するために,フ
ローインジェクション分析法の代わりにフロー滴加法
と,バッチ法の両法を用いた.
さらに本法の応用例として,ヨウ化物イオンと不溶性
の化合物を形成する銀,鉛,水銀イオンの間接定量につ
いても検討したので合わせて報告する.
1.2 反応機構
本研究におけるテトラベースとクロラミン T 及びヨウ
化物イオンの反応機構を Fig. 1 に示した.
Fig. 2 実験装置
3.結果及び考察
3.1 最適定量条件の検討
3.1.1 極大吸収波長の測定
100ppb ヨウ化物イオン溶液 5 mL を,純水で 50mL に
うすめた.このとき酢酸緩衝液を用いて pH5.5 とした.
調製した 10ppb ヨウ化物イオン溶液及び,0.1g/L テトラ
ベース溶液,0.4g/L クロラミン T 溶液をそれぞれ Fig. 2
の実験装置(反応コイル 150cm)で反応させ,テトラ
Fig. 1 反応機構
ベース酸化体の吸収スペクトルを測定した(Fig. 3)
.こ
の結果から,測定波長を 604nm とした.
クロラミン T は水溶液中で加水分解によりわずかに次
3.1.2 各クロラミン T の濃度における反応時間の影響
亜塩素酸イオンを生成する.この次亜塩素酸イオンが試
2.0g/L クロラミン T 溶液 0 ∼30mL を 5 mL 間隔にとり,
料中のヨウ化物イオンを酸化しヨウ素に変える.生成し
それぞれ純水で全量 50mL とした.調製したクロラミン
たヨウ素によりテトラベースがテトラベース酸化体(青
T 溶液及び 10ppb ヨウ化物イオン溶液(pH5.5),0.1g/L
色呈色体)に酸化される.テトラベース酸化体の濃度は
テトラベース溶液をそれぞれフロー分析装置(反応コイ
ヨウ素の濃度に比例しているため,この呈色体の吸光度
ル10cm及び25cm,50∼400cmを50cm間隔)で反応させ,
を測定することによりヨウ化物イオン濃度がわかる.こ
吸光度(604nm)を測定し反応時間の検討を行った.こ
の反応はヨウ化物イオンがクロラミン T,テトラベース
の結果を Fig. 4 に示した.反応コイルの長さが 10cm 以
間の酸化還元反応を触媒し,ヨウ素とヨウ化物イオンが
下であるとクロラミン T の濃度に応じて吸光度は増加し
繰り返し循環することより進む反応である.
た.しかし,コイルを長くすると呈色体の次の段階への
酸化反応がクロラミン T の濃度に応じて増加し,吸光度
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とした.このテトラベース溶液と 10ppb ヨウ化物イオン
溶液(pH5.5)及び 0.4g/L クロラミン T 溶液を Fig. 2 の実
験装置(反応コイル150cm)で反応させ,吸光度(604nm)
を測定しテトラベース濃度の検討を行った.この結果を
Fig. 5 に示した.この結果からテトラベース濃度 0.1g/L
で吸光度が最も高かったため,テトラベースの最適濃度
とした.
3.1.4 最適 pH の検討
酢酸緩衝液で pH5.0∼5.8 に調整した 10ppb ヨウ化物イ
オン溶液,0.4g/LクロラミンT溶液及び0.1g/Lテトラベー
Fig. 3 呈色体の吸収スペクトル
試料溶液中のヨウ化物イオン濃度:10ppb
クロラミン T 濃度:0.4g/L
テトラベース濃度:0.1g/L
pH:5.5
反応時間:14 秒
Fig. 5 テトラベースの濃度と吸光度の関係
クロラミン T 濃度:0.4g/L
pH:5.5
反応時間:14 秒
Fig. 4 クロラミン T の各濃度における反応コイルと吸光度の関係
テトラベース濃度:0.1g/L
pH:5.5
は減少していった.Fig. 4は,クロラミンT濃度が0.8g/L,
反応コイルの長さが 50cm で最も高い吸光度を示してい
る.しかし,再現性が良いとは言えないため,吸光度の
安定な反応コイルの長さ 150cm(反応時間は 14 秒に相
当する),クロラミン T 濃度 0.4g/L を以降の測定で用い
ることとした.この時の吸光度の値は,最高値の 70%
であった.
3.1.3 テトラベースの最適濃度
1 g/L テトラベース溶液を 0 ∼20mL とり,全量 100mL
Fig. 6 pH と吸光度の関係
クロラミン T 濃度:0.4g/L
テトラベース濃度:0.1g/L
反応時間:14 秒
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ス溶液を Fig. 2 の実験装置(反応コイル 150cm)で反応
させ,吸光度(604nm)を測定し pH の検討を行った.
この結果を Fig. 6 に示した.この結果から pH5.5 で吸光
度が最も高く,反応効率及び呈色体の吸光度は pH に大
きく影響を受けると考えられた.吸光度の最も高い
pH5.5 を測定の最適 pH とした.
3.1.5 結 論
最適定量条件を Table 1 に示した.
Table 1 最適定量条件
クロラミン T 濃度
テトラベース濃度
pH
反応時間
0.4g/L
0.1g/L
5.5
14 秒
Table 1 の条件下で直線性,再現性ともに良好なヨウ
化物イオンの検量線が得られた(Fig. 7)
.εは 6.98×106
で検出下限は 1.0ppb であった.
1.0ppb の応答を S,1.0ppb の応答値のエラーバーの幅
を N とおくと,S/N 値は 5.1 であった.
Fig. 8 臭化物イオンの検量線
クロラミン T 濃度:0.4g/L
テトラベース濃度:0.1g/L
pH:5.5
反応時間:14 秒
Fig. 7 ヨウ化物イオンの検量線
Fig. 9 塩化物イオンの検量線
クロラミン T 濃度:0.4g/L
テトラベース濃度:0.1g/L
pH:5.5
反応時間:14 秒
クロラミン T 濃度:0.4g/L
テトラベース濃度:0.1g/L
pH:5.5
反応時間:14 秒
3.2 ハロゲン化物イオンの応答
答として扱うことには少し問題が残るものの,これらの
ヨウ化物イオンと類似なイオンとして,臭化物イオン
データから次のことを考察した.
及び塩化物イオンの応答について検討した(Fig. 8,9).
Table 2 に示すように,ハロゲンの中でヨウ素は標準
いずれも濃度に比例した応答が見られたが,3 者のεは
酸化還元電位(E0)が最も低いが,吸光度が最も高いこ
6.98×106,4.15×104,3.01×102 と 大 き な 差 が あ っ た.
とから,最も有効にテトラベースを酸化していることが
この実験条件は,ヨウ化物イオン定量のための最適条件
わかる.この不可解な現象を理解する一つとして,各ハ
であることから,この結果をそのまま 3 種のイオンの応
ロゲン化物イオンの酸化体(X2)の水への溶解度に着目
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した(Table 2).この結果,水への溶解度の低い程,疎
水性の高いテトラベースの還元基に近づくことができ,
酸化反応がスムーズに進むものと考えた.
Table 2 ハロゲンの標準酸化電位,溶解度及び電子親和力
E0(V) 溶解度×10−3(mol/dm3) 電子親和力(eV)
I2
Br2
Cl2
0.54
1.06
1.36
1.35
22.4
90.1
3.06
3.36
3.62
クロラミン T から生成した次亜塩素酸イオン(E0=
0.89V)は,ヨウ化物イオンよりも大過剰の濃度で存在
している.しかし,親水性が高いことからヨウ化物イオ
ンを容易に酸化できるが,親水性の低いテトラベースの
還元基には近づけないことが酸化できない理由の一つで
Fig. 10 テトラベース酸化体の経時変化
あるといえる.また,酸化力は,酸化体/還元体の濃度
ヨウ素の濃度
−
比により大きく左右される.I2 の場合,還元体の I はイ
オン性であることから,テトラベースの還元基付近では
I2 のみが存在する状態となるので,I2 による酸化反応が
迅速に進むと考えられた.Br2,Cl2 は I2 程ではないが
ClO−よりも疎水性なので,ClO−よりもテトラベースの
酸化反応が進んでいることがわかった.
テトラベース濃度:0.3g/L
pH:5.5
テトラベース酸化体のεから,測定時間内に見かけ上,
3.3 テトラベース還元体と ClO の反応
-
酸化反応が何回行われたかを算出した.6.98×106/1.21
ヨウ化物イオンの存在しない時での,本実験条件にお
×105=57.7,その結果,57.7 回であることがわかった.
けるテトラベース還元体と ClO−の 14 秒後の反応量を吸
ここでの酸化反応の回数は,次の段階(消色)の分を差
光度で示すと 0.16 であった.この値はヨウ化物イオンの
し引いて算出されているので実際はもっと多くの回数で
2.7ppb に相当した.
ある.テトラベース酸化体の分解反応の半減期は Fig. 10
−
テトラベース還元体の ClO のみによる酸化反応は進
みにくいが,酸化体は還元体よりも陽イオン性が増し,
−
ClO が近づきやすくなるために,次の段階の酸化反応
(消色)が進みやすくなると考えられた.
より,約 20 秒であった.
3.5 重金属イオンのフロー間接定量
極微量の Ag+,Pb2+,Hg2+の間接定量について検討し
た.測定原理は,金属イオンとヨウ化物イオンの沈殿反
3.4 テトラベース酸化体の安定性
応によって減少するヨウ化物イオンを測定することで間
ヨウ素による酸化反応によって生成したテトラベース
接的にこれらの金属イオンを測定した.本法は,従来の
酸化体の生成後の経時による安定性について検討した.
ICP 発光分析や原子吸光分析では定量不可能な金属イオ
本反応は,酸化反応後に生成したヨウ化物イオンがただ
ンのみの定量が可能か検討した.
−
ちにテトラベースから離れ,ClO により酸化されてヨ
3.5.1 Ag+の定量
ウ素となり再びテトラベースに近づくため,この項にお
20ppb(1.576×10−7mol/L)ヨウ化物イオン溶液を 20mL
ける実験では,ClO− を添加せず I2 のみでテトラベース
と り,1.576×10−7mol/L AgNO3 溶 液 を 0 ∼20mL 加 え,
の酸化を行い,フロー法ではなくバッチ法で行った.I2
純水で全量 50mL とした.Fig. 2 の実験装置を用いて,
の濃度を 0 ∼ 5 ppm と変化してテトラベースを酸化後の
吸光度(604nm)を測定した.この結果を Fig. 11 に示し
経時とテトラベース酸化体の吸光度の関係を Fig. 10 に
た.直線性の良好な検量線が得られ,0 ∼ 7 ppb の範囲で
示した.反応時間 0 秒の値は,外挿法により求めた.そ
測定可能であり,ヨウ化物イオン検出により間接的に
の値は I2 濃度とよく比例していた.テトラベース酸化体
Ag+が検出できることがわかった.また,用いたヨウ化
1 mol は,ヨウ素 1 mol から 100%の収率で生成すると仮
物イオン溶液濃度,金属イオン濃度,検量線の傾きから
定すると,テトラベース酸化体のεは,1.21×10 であ
+
[I−]
[Ag
/
]
=1.6 となった.このことから 1 つの Ag+に対
5
ることがわかった.
して 1.6 の I− が反応していることがわかった.通常 1 価
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Fig. 11 ヨウ化物イオン検出法による Ag+の検量線
ヨウ化物イオン 8 ppb 一定
Fig. 12 ヨウ化物イオン検出法による Pb2+の検量線
ヨウ化物イオン 8 ppb 一定
の銀イオンに対してヨウ化物イオンは 1 つ結合する.そ
のことから Ag++I−→ AgI が生成する他にも,一部 AgI2−
などの形で存在し,このイオンは ClO− によって酸化さ
れないと考えられた.
3.5.2 Pb2+の定量
20ppb
(1.576×10−7mol/L)ヨウ化物イオン溶液を 20mL
とり,0.788×10−7mol/L Pb
(NO3)
2 溶液を 0 ∼25mL 加え,
純水で全量 50mL とした.Fig. 2 の実験装置を用いて,
吸光度(604nm)を測定した.この結果を Fig. 12 に示し
た.直線性の良好な検量線が得られ,0 ∼ 8 ppb の範囲で
測定可能であり,ヨウ化物イオン検出により間接的に
Pb2+が検出できることがわかった.また,用いたヨウ化
物イオン溶液濃度,金属イオン濃度,検量線の傾きから
2+
[I−]
[Pb
/
]=3.6となった.これは1つのPb2+に対して3.6
の I−が結合している.そのことから Pb2++2I−→ PbI2 が
生成する他にも,一部,PbI4 などの形で存在し,この
2−
Fig. 13 ヨウ化物イオン検出法による Hg2+の検量線
ヨウ化物イオン 8 ppb 一定
イオンは ClO−によって酸化されないと考えられた.
3.5.3 Hg2+の定量
Hg2++2I− → HgI2 が生成する他にも,一部,HgI42− など
20ppb(1.576×10−7mol/L)ヨウ化物イオン溶液を 20mL
の形で存在し,このイオンは ClO− によって酸化されな
とり,0.788×10−7mol/L Hg
(NO3)
2 溶液を 0 ∼25mL 加え,
いと考えられた.
純水で全量 50mL とした.Fig. 2 の実験装置を用いて,
吸光度(604nm)を測定した.この結果を Fig. 13 に示し
4.まとめ
た.直線性の良好な検量線が得られ,2 ∼ 8 ppb の範囲で
クロラミン T とテトラベースの反応を利用したヨウ化
測定可能であり,ヨウ化物イオン検出により間接的に
物イオンのフロー分析において,1 ∼10ppb の範囲で定
Hg が検出できることがわかった.また,用いたヨウ
量可能であることがわかった.テトラベースは次亜塩素
化物イオン溶液濃度,金属イオン濃度,検量線の傾きか
酸イオンによっては酸化されず,E0 の低いヨウ素によっ
2+
ら
[I−]
[Hg
/
]=3.5 となった.これは 1 つの Hg2+に対し
て酸化される理由として,テトラベースの還元基の疎水
2+
−
て 3.5 の I が結合していることである.そのことから
性に依存していると考えられた.テトラベース酸化体は,
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吸光光度法による ppb レベルヨウ化物イオンの触媒酸化反応について
親水基が増すことから,次の段階への酸化が進みやすく,
経時の安定性が低かった.本測定系においてテトラベー
ス酸化体のεは約 12 万であり,さらに 2I− → I2 → 2I− の
測定時間内の見かけ上の繰り返し回数は 57.7 回であるこ
とがわかった.また,重金属イオンとヨウ化物イオンの
沈殿反応によって減少するヨウ化物イオンを測定するこ
27
参考文献
1 )Norinobu Yonehara ; Shuji Kozono ; Hayao Sakamoto. Analytical Sciences 7, 229−234(1991)
2 )Takashi Tomiyasu ; Misa Nonaka ; Makoto Uchikado ; Katsuro
Anazawa ; Hayao Sakamoto. Analytical Sciences 20, 391−393
(2004)
とで,Ag+,Pb2+,Hg2+ の定量が可能であることがわ
かった.
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