労働者の過不足感に関する分析

労働市場分析レポート
第 45 号
平成 26 年 12 月 26 日
労働者の過不足感に関する分析
雇用情勢の改善に伴って、経済活動における労働者の不足感が指摘されることが多く
なっている。
このレポートでは、厚生労働省「労働経済動向調査」を用いて、労働者の過不足感の
推移を分析するとともに、現在における労働者の不足感の特徴について考察する。
1.相対的に強まったパートタイムでの労働者不足感
厚生労働省「労働経済動向調査」では、事業所における、労働者の不足感と過剰感
を調査しており、労働者を不足とする事業所の割合と過剰とする事業所の割合を計算
することができる。
労働者過不足判断 D.I.は、不足事業所割合から過剰事業所割合を差し引いた値であ
り、その数値が正の値をとれば、過剰事業所に比し不足事業所が多いことを示し、そ
の値の大きさは労働者の不足感の社会的広がりを示していると考えられる。
雇用形態計でみた労働者過不足判断 D.I.は、前のピークの平成 19 年 2 月調査で 33
であり、平成 26 年 11 月調査では 30 と、最近では平成 19 年の労働者不足感の大きさ
に近づいている(図 1)。
労働者過不足判断 D.I.を雇用形態別にみると、パートタイムについては、平成 26
年の値は平成 19 年の値にほぼ等しい水準にまで高まっている。また、平成 26 年では
雇用形態の中でパートタイムの労働者過不足判断 D.I.は正社員よりも高い。平成 26
年の労働者不足感では、パートタイムで相対的な強まりがみられるという特徴がある
(図 2)。
2.建設業等にみられる労働者不足感
労働者過不足判断 D.I.を産業別にみると、平成 26 年では、「医療・福祉」、「運
輸業、郵便業」、「サービス業」、「建設業」等で大きい。また、この値を前のピー
ク時の平成 19 年と比べると、建設業では、すでに平成 19 年の値を大きく超過してい
る(図 3)。
また、平成 26 年の労働者過不足判断 D.I.が大きかった産業について、雇用形態別
にみると、建設業では全体的に平成 19 年に比べ不足感が強く、その中でも正社員の
不足感が特に強い。運輸業、郵便業では、平成 19 年に比べてパートタイムと臨時・
季節の不足感が強い。医療・福祉では、正社員とパートタイムの不足感がともに強い
(図 4)。
1
なお、職業別にみた平成 26 年の労働者過不足判断 D.I.では、管理や単純工で平成
19 年の値に近づいているものの、平成 19 年の値を超えている職業はない(図 5)。
3.中小企業にみられる労働者不足感
労働者過不足判断 D.I.を企業規模別にみると、平成 19 年では不足事業所割合は企
業規模が大きいほど高かったが、平成 26 年では、300 人未満規模で不足感が相対的
に高く、平成 26 年の労働者過不足判断 D.I.は、300 人未満規模で、すでに平成 19 年
よりも大きな値となっている(図 6)。
今回の雇用情勢改善局面では、中小企業で特に労働者の不足感が高まっていると
考えられる。
4.特定の分野に偏在がみられる労働者不足感
「労働経済動向調査」における労働者の過不足感は、「不足」、「適当」、「過
剰」に大きく区分され、「不足」については、さらに、「おおいに不足」、「やや
不足」に区分されている。
過不足感の区分の内訳をみると、適当とした事業所割合は、平成 19 年に 55%であ
ったのに対し、平成 26 年は 64%と 9%ポイント上昇し、平成 26 年には不足事業所
割合も過剰事業所割合もともに低下している。また、不足事業所割合の低下には「や
や不足」とした事業所割合の低下が寄与している。一方、平成 26 年に「おおいに不
足」とした事業所割合は 4%で、全体の中では少ないながらも平成 19 年の値にすで
に並んでいる(図 7)。
「おおいに不足している」とした平成 26 年の事業所割合を平成 19 年と比較する
と、雇用形態別にはパートタイムで、産業別には「建設業」、「卸売・小売業」等
で、企業規模別には 30 人以上 100 人未満の中小企業と 300 人以上 1000 人未満の中
堅企業で大きい。(図 8)。
おおいに不足とする事業所は全体の中では少ないが、特定の分野でその割合の高
まりが見られることは、労働者不足が、特定分野に偏在して現れていることを示し
ているものと考えられる。
問い合わせ先
職業安定局雇用政策課
宗得貴之 直通:03-3502-6770
2
図1 労働者過不足判断 D.I.の推移(調査産業計)
労働者過不足判断D.I.の推移(調査産業計)
(%ポイント:DI(不足-過剰))
40
30
雇用形態計
33
正社員等
29
パートタイム
30
26
22
26
20
10
0
-10
-20
-30
ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣ
平成11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26年
資料出所:厚生労働省「労働経済動向調査」
(注) 1) 図中の正社員等には平成19年Ⅳ(11月調査)以前の「常用」(雇用期間を定めないで雇用されている者
でパートタイムを除く)、平成20年Ⅰ(2月調査)以降の「正社員等」(雇用期間を定めないで雇用されて
いる者または1年以上の期間の雇用契約を結んで雇用されている者でパートタイムを除く)を用いた。
2) 図中の雇用形態計には平成19年Ⅳ(11月調査)以前の「全労働者」(常用、臨時・季節、パートタイムの
計)、平成20年Ⅰ(2月調査)以降の「常用労働者」(正社員等、臨時、パートタイムの計)を用いた。
3) 平成20年Ⅳ(11月調査)以前は「医療・福祉」を調査産業としていない。
4) 平成19年Ⅰ(2月調査)と平成26年Ⅳ(11月調査)について数値を示した。
3
図2
労働者の過不足状況(雇用形態別)
(%、%ポイント)
45
平成19年
40
平成26年
35
30
25
20
15
10
5
0
雇
用
形
態
計
正
社
員
等
パ
ー
ト
タ
イ
ム
不足事業所割合
臨
時
・
季
節
雇
用
形
態
計
正
社
員
等
パ
ー
ト
タ
イ
ム
過剰事業所割合
臨
時
・
季
節
雇
用
形
態
計
正
社
員
等
パ
ー
ト
タ
イ
ム
臨
時
・
季
節
労働者過不足判断D.I.
資料出所:厚生労働省「労働経済動向調査」
(注) 1) 平成19年値及び26年値はそれぞれの年の4調査時点(2月調査、5月調査、8月調査、11月調査)の値
の平均値とした。
2) 図中の正社員等には平成19年11月調査以前の「常用」(雇用期間を定めないで雇用されている者で
パートタイムを除く)、平成20年2月調査以降の「正社員等」(雇用期間を定めないで雇用されている者ま
たは1年以上の期間の雇用契約を結んで雇用されている者でパートタイムを除く)を用いた。
3) 図中の雇用形態計には平成19年11月調査以前の「全労働者」(常用、臨時・季節、パートタイムの計)、
平成20年2月調査以降の「常用労働者」(正社員等、臨時、パートタイムの計)を用いた。
4) 平成20年11月調査以前は「医療・福祉」を調査産業としていない。
4
図3
労働者の過不足状況(産業別)
(%、%ポイント)
60
平成19年
平成26年
50
40
30
20
10
0
建 製 情 運
設 造 報 輸
業 業 通 業
信 、
業 郵
便
業
卸
・
小
売
業
金
融
業
、
保
険
業
不
動
産
業
、
物
品
賃
貸
業
学
術
研
究
、
専
門
・
技
術
サ
ー
ビ
ス
業
宿
泊
業
、
飲
食
サ
ー
ビ
ス
業
不足事業所割合
生
活
関
連
サ
ー
ビ
ス
業
、
娯
楽
業
医
療
・
福
祉
サ
ー
ビ
ス
業
建 製 情 運
設 造 報 輸
業 業 通 業
信 、
業 郵
便
業
卸
・
小
売
業
金
融
業
、
保
険
業
不
動
産
業
、
物
品
賃
貸
業
学
術
研
究
、
専
門
・
技
術
サ
ー
ビ
ス
業
宿
泊
業
、
飲
食
サ
ー
ビ
ス
業
生
活
関
連
サ
ー
ビ
ス
業
、
娯
楽
業
過剰事業所割合
医
療
・
福
祉
サ
ー
ビ
ス
業
建 製 情 運
設 造 報 輸
業 業 通 業
信 、
業 郵
便
業
卸
・
小
売
業
金
融
業
、
保
険
業
不
動
産
業
、
物
品
賃
貸
業
学
術
研
究
、
専
門
・
技
術
サ
ー
ビ
ス
業
宿
泊
業
、
飲
食
サ
ー
ビ
ス
業
生
活
関
連
サ
ー
ビ
ス
業
、
娯
楽
業
医
療
・
福
祉
サ
ー
ビ
ス
業
労働者過不足判断D.I.
資料出所:厚生労働省「労働経済動向調査」
(注) 1) 平成19年値及び26年値はそれぞれの年の4調査時点(2月調査、5月調査、8月調査、11月調査)の値
の平均値とした。
2) 図中の運輸業、郵便業の平成19年値には運輸業の値を用いている。
3) 図中の不動産業、物品賃貸業の平成19年値には不動産業の値を用いている。
4) 図中の宿泊業、飲食サービス業の平成19年値には飲食店、宿泊業の値を用いている。
5) 図中の生活関連サービス業、娯楽業の平成19年値には生活関連サービス業の値を用いている。
6) 「学術研究、専門・技術サービス業」及び「サービス業」については平成19年値に接続できる産業分類
の表章がない。
7) 平成20年11月調査以前は「医療・福祉」を調査産業としていない。
5
図4 労働者過不足判断 D.I.(産業別・雇用形態別)
(%ポイント)
60
平成19年
平成26年
50
40
30
20
10
0
雇
用
形
態
計
正
社
員
等
パ
ー
ト
タ
イ
ム
臨
時
・
季
節
雇
用
形
態
計
建設業
正
社
員
等
パ
ー
ト
タ
イ
ム
臨
時
・
季
節
雇
用
形
態
計
正
社
員
等
パ
ー
ト
タ
イ
ム
臨
時
・
季
節
学術研究、
専門・技術サービス業
運輸業、郵便業
60
50
40
30
20
10
0
雇
用
形
態
計
正
社
員
等
パ
ー
ト
タ
イ
ム
宿泊業、
飲食サービス業
臨
時
・
季
節
雇
用
形
態
計
正
社
員
等
臨
時
・
季
節
パ
ー
ト
タ
イ
ム
医療・福祉
雇
用
形
態
計
正
社
員
等
パ
ー
ト
タ
イ
ム
臨
時
・
季
節
サービス業
資料出所:厚生労働省「労働経済動向調査」
(注) 1) 平成19年値及び26年値はそれぞれの年の4調査時点(2月調査、5月調査、8月調査、11月調査)の値の平均値とした。
2) 図中の運輸業、郵便業の平成19年値には運輸業の値を用いている。
3) 図中の不動産業、物品賃貸業の平成19年値には不動産業の値を用いている。
4) 図中の宿泊業、飲食サービス業の平成19年値には飲食店、宿泊業の値を用いている。
5) 図中の生活関連サービス業、娯楽業の平成19年値には生活関連サービス業の値を用いている。
6) 「学術研究、専門・技術サービス業」及び「サービス業」については平成19年値に接続できる産業分類の表章がない。
7) 平成20年11月調査以前は「医療・福祉」を調査産業としていない。
6
図5
労働者の過不足状況(職業別)
(%、%ポイント)
45
平成19年
平成26年
40
35
30
25
20
15
10
5
0
管 事 専 販 サ 輸 技 単
理 務 門 売 ー 送 能 純
ビ ・ 工 工
・
技
ス 機
術
械
運
転
不足事業所割合
管 事 専 販 サ 輸 技 単
理 務 門 売 ー 送 能 純
ビ ・ 工 工
・
技
ス 機
術
械
運
転
過剰事業所割合
管 事 専 販 サ 輸 技 単
理 務 門 売 ー 送 能 純
ビ ・ 工 工
・
技
ス 機
術
械
運
転
労働者過不足判断D.I.
資料出所:厚生労働省「労働経済動向調査」
(注) 1) 平成19年値及び26年値はそれぞれの年の4調査時点(2月調査、5月調査、8月調査、11月調査)の値
の平均値とした。
2) 図中の輸送・機械運転の平成19年値には運輸・通信の値を用いている。
3) 平成20年11月調査以前は「医療・福祉」を調査産業としていない。
7
図6
労働者の過不足状況(企業規模別)
(%、%ポイント)
45
平成19年
40
平成26年
35
30
25
20
15
10
5
0
1000人 300~
以上 999人
100~ 30~99
299人
人
不足事業所割合
1000人 300~
以上 999人
100~ 30~99
299人
人
過剰事業所割合
1000人 300~
以上 999人
100~ 30~99
299人
人
労働者過不足判断D.I.
資料出所:厚生労働省「労働経済動向調査」
(注) 1) 平成19年値及び26年値はそれぞれの年の4調査時点(2月調査、5月調査、8月調査、11月調査)の値
の平均値とした。
2) 平成20年11月調査以前は「医療・福祉」を調査産業としていない。
8
図7
おおいに不足
労働者過不足感の内訳
やや不足
適当
やや過剰
(%)
0
20
平成19年
4
平成26年
4
40
60
35
80
55
28
不足
100
6
64
5
適当
過剰
資料出所:厚生労働省「労働経済動向調査」
(注) 1) 平成19年値及び26年値はそれぞれの年の4調査時点(2月調査、5月調査、8月調査、11月調査)の値
の平均値とした。
2) 過不足の内訳は「おおいに不足」、「やや不足」、「適当」、「やや過剰」、「おおいに過剰」となっている
が、平成19年及び平成26年の「おおいに過剰」の値は0である。
3) 図中に示したデータラベルは小数点第1位を四捨五入し整数で示した。
4) 平成20年11月調査以前は「医療・福祉」を調査産業としていない。
9
図8 「おおいに不足」とした事業所の割合
(%)
12
平成19年
10
平成26年
8
6
4
2
0
正
社
員
等
パ
ー
ト
タ
イ
ム
臨
時
・
季
節
雇用形態別
建 製 情 運 卸
設 造 報 輸 売
業 業 通 業 ・
信 、 小
業 郵 売
便 業
業
金
融
業
、
保
険
業
不
動
産
業
、
物
品
賃
貸
業
学
術
研
究
、
専
門
・
技
術
サ
ー
ビ
ス
業
宿
泊
業
、
飲
食
サ
ー
ビ
ス
業
生
活
関
連
サ
ー
ビ
ス
業
、
娯
楽
業
医
療
・
福
祉
サ
ー
ビ
ス
業
管 事 専 販 サ 輸 技 単
理 務 門 売 ー 送 能 純
ビ ・ 工 工
・
技
ス 機
術
械
運
転
職業別
産業別
千
人
以
上
三
百
人
以
上
千
人
未
満
百
人
以
上
三
百
人
未
満
三
十
人
以
上
百
人
未
満
企業規模別
資料出所:厚生労働省「労働経済動向調査」
(注) 1) 平成19年値及び26年値はそれぞれの年の4調査時点(2月調査、5月調査、8月調査、11月調査)の値
の平均値とした。
2) 図中の正社員等には平成19年11月調査以前の「常用」(雇用期間を定めていないで雇用されている者
でパートタムを除く)、平成20年2月調査以降の「正社員等」(雇用期間を定めないで雇用されている者
または1年以上の期間の雇用契約を結んで雇用されている者でパートタイムを除く)を用いた。
3) 図中の運輸業、郵便業の平成19年値には運輸業の値を用いている。
4) 図中の宿泊業、飲食サービスの平成19年値には飲食店、サービス業の値を用いている。
5) 図中の輸送・機械運転の平成19年値には運輸・通信の値を用いている。
6) 「学術研究、専門・技術サービス業」及び「サービス業」については平成19年値に接続できる産業分類
の表章がない。
7) 平成20年11月調査以前は「医療・福祉」を調査産業としていない。
10