どうする?

2号連続 特別企画〈前編〉
どうする?
制度改正
への対応
制度改正の概要と施設・
事業所がとるべき対応
小濱道博
小濱介護経営事務所 代表
一般社団法人日本介護経営研究協会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
制度改正は,新たな事業展開と拡大のチャンス
である。硬直化した組織を活性化させ,リフレッ
今回の特別企画では,2015年
度に予定されている介 護保険
制度改正の最新情報をお伝え
すると共に,改正により考えら
れる影響や今後求められるで
あろう事業展開,国の意向など
について解説します。
こはま みちひろ◆小濱介護経営事務所代表。
全国各地で介護経営支援を手がけ,介護経
営セミナーの講師実績は北海道から沖縄ま
で全国で年間200件以上。全国の介護保険
課,各協会,地域包括支援センター,社会
福祉協議会,介護労働安定センターなどの講
師実績多数。著書には『よくわかる実地指導
への対応マニュアル』
『まるわかり! 介護報
酬改定』
『これならわかる〈スッキリ図解〉介
護ビジネス』ほか多数。専門誌連載は『日経
ヘルスケア』
『月刊シニアビジネスマーケット』
ほか多数。寄稿や講演DVDも多数。
『会計王
15介護事業所スタイル』監修など。
自己負担2割の該当基準と取り扱い
シュさせる好機でもある。事業所が持つ財(人,
2015年8月1日,利用者の年収に応じて自己負担
もの,資金)を有効に活用して,できることから
が2割となる法律が施行される。よって,2015年
早期に実施していくことが大切である。変化する
8月のサービス提供分より,所得基準に応じて一
ために残された時間は思う以上に少ない。座して
部の利用者の自己負担が2割となる。
いては,気がついたときには浦島太郎である。
制度導入当初の基準は,合計所得金額160万円
「最も強い者が生き残るのではなく,最も
賢い者が生き延びるでもない。唯一生き残る
のは,変化できる者である」
チャールズ・ダーウィン
以上(控除後所得)である。年金収入で言えば独
居世帯280万円以上,夫婦世帯346万円以上がこ
れに該当する。自己負担が2割となることで,対
象となる利用者の全員の負担が倍増されるのでは
なく,一般的には高額介護サービス費37,200円,
本稿では,2015年度の介護保険制度改正につい
現役並みの所得相当の場合は44,400円が月額上限
て,下記のポイントを踏まえて解説する。制度の
金額となる。
流れに沿った事業展開の参考になれば幸いである。
・事業規模の拡大(統合,合併,事業連携)
・認知症,機能訓練への対応
特定入所者介護(予防)
サービス費の見直し
・重度者,医療行為,医療との連携
特定入所者介護(予防)サービス費の判定にお
・介護報酬への依存体質からの脱却
いて,これまでの年収が基準とされる所得要件
・介護保険外サービス プロの自覚
(市町村民税非課税世帯であること)と共に,資
産要件を2015年8月のサービス提供分より導入
真・介護キャリア
◆
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することとなった。具体的な対象資産は「預金・
有価証券」とされ,単身者で1,000万円。夫婦で
2,000万円以上の預貯金などを有していた場合は,
居宅介護支援の指定権限を
都道府県から市町村に移譲
年間所得金額が基準以下であっても補足給付の対
2018年4月1日より,保険者(市町村)機能の
象とはならない。また,支給の判定においては世
強化という観点から,居宅介護支援事業所の指定
帯分離ができなくなり,2016年8月より,遺族
権限を都道府県から市町村に移譲する。同時に,
年金や障害年金といった非課税年金の額も年金収
実地指導や監査の実施も市町村の指導に移行する。
入および合計所得金額に含めて判定される。
特別養護老人ホームの入居制限
介護支援専門員実務研修受講試験の
受験要件の見直し
2015年4月1日より,介護老人福祉施設(特別
介護支援専門員(ケアマネジャー)実務研修受
養護老人ホーム)に入居できるのは要介護3以上
講試験の受験要件は,介護福祉士などの法定資格
という制限が設けられる。ただし,要介護1や2の
者が受験対象者となり,従来は受験が可能であっ
要介護者であっても,認知症,精神障害,家庭内で
たホームヘルパー資格者等が受験することができ
の虐待などの,やむを得ない事情により特別養護
なくなる。また,2015年度の介護支援専門員実務
老人ホーム以外での生活が著しく困難な場合に
研修受講試験から解答免除の特例が廃止される。
は,市町村の適切な関与の下,施設ごとに設置し
※実施時期は未定
ている入所検討委員会を経て特例的に入所を認め
ることとなっている。
サービス付き高齢者向け住宅の
住所地特例の適用
有料老人ホームであるサービス付き高齢者向け
主任介護支援専門員への更新制の導入
主任介護支援専門員に更新制を導入し,一定の要
件を満たした者を対象とした更新研修を実施する。
※実施時期は未定
とする。これによって2015年4月1日以降の入居
小規模通所介護の
地域密着型通所介護への移行(図1)
者から,有料老人ホームに該当するサービス付き
2016年4月1日より,許認可における届出定員
高齢者向け住宅の「賃貸借契約」に対しても住所
が18人以下の通所介護は,新設される地域密着
地特例の対象となる。ただし,すでにサービス付
型通所介護に移行する。予防通所介護は地域密着
き高齢者向け住宅に入居している入居者は住所地
型サービスに移行しない。小規模通所介護の移行
特例の対象とならない。
先として地域密着型通所介護と共に,他の選択肢
住宅について,特定施設として住所地特例の対象
住所地特例対象者の
地域密着型サービス等の利用
として大規模型/通常規模型のサテライト型事業
所と小規模多機能型居宅介護事業所のサテライト
型事業所を移行先として位置づけている。いずれ
住所地特例対象者は,地域密着型サービスや地
の場合も,同一法人がサテライトとしての移行先
域支援事業を利用できることとされた。
である通常規模以上の通所介護事業所を運営して
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真・介護キャリア
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図1 小規模型通所介護の移行
現行
見直し案
通常規模型
通常規模型
大規模型/通常規模型の
サテライト型事業所
【届出定員数 19人以上】
地域密着型通所介護
【届出定員数 18人以下】
市町村
が指定
※
地域密着型
サービス
︵市町村が指定︶
小規模型
都道府県が
指定
都道府県が指定
大規模型
大規模型
【前年度1月当たり平均利用延人員数:750人超】
小規模多機能型居宅介護の
サテライト型事業所
認知症対応型
認知症対応型
※地域密着型サービス
●地域密着型サービスとした場合の市町村の事務等
事業所の指定・監督 事業所指定,基準・報酬設定を行う際,住民,関係者からの意見聴取 運営推進会議への参加 等
●地域密着型サービスは,市町村の判断で公募により事業者を指定できる。
全国介護保険担当課長会議資料,2014年7月28日
いるか,小規模多機能型居宅介護を運営している
ビス全体が外部からチェックされる。書面での届
必要があり,小規模の単独事業所には,その選択
け出内容に関して,実地指導での確認項目とな
の余地はない。
り,届け出内容が実際と異なる場合は,虚偽・偽
地域密着型通所介護に移行した場合の事業経営
装の届け出を行ったとして,行政処分の対象とな
への影響は,地域密着型サービス独自のルールの
るので注意されたい。
違いに起因する。公募制の適用などの許認可制限
域の利用者制限,定期的な運営推進会議の開催な
介護予防・日常生活支援総合事業
への移行
どが考えられる。地域密着型通所介護において
2015年4月1日より,予防訪問介護と予防通所
は,地域密着型サービス独自のルールである運営
介護を予防給付から切り離して,市町村事業であ
推進会議の開催が義務化される。運営推進会議は
る介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)
外部チェック機能としても位置づけられる。
に移行する(図2)
。予防サービスの事業者認定は
や,その市町村の住民しか利用できないという地
お泊まりデイの届け出・公表制の導入
2018年3月末日まで有効であるが,総合事業開始
後も予防サービスを利用する要支援認定者は,要
いわゆるお泊まりデイサービスについては,
支援の認定更新までに限り予防サービスを継続し
2015年4月1日より届け出制となる。また,市町
て利用できるが,要支援の認定の有効期間は最大
村への事故報告を義務化し,宿泊サービスの情報
で1年であるため,総合事業の開始から1年で,
を都道府県に報告して,情報公表制度を活用した
特例者を除いてすべての要支援者は総合事業に移
お泊まりサービス情報の公表を行う。これにより
行する。従来の予防訪問介護と予防通所介護の事
保険者が,お泊まりサービスの実態を把握し,管
業所は,2015年4月1日よりみなし指定として総
理し,利用者や介護支援専門員に情報が提供され
合事業の指定を自動的に受ける。
る仕組みとなる。運営推進会議に参加する第三者
総合事業の新規の対象者は,要支援認定は必要
によって,宿泊サービス部分も含めた事業所のサー
なく,新たなチェックリスト方式で簡易認定され
真・介護キャリア
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図2 総合事業への円滑な移行
ティアサービスへの移行も考えられるため,
訪問介護,通所介護(予防給付)から訪問型サービス・通所型サービスへの
移行(イメージ)
:予防給付
経過措置期間
(訪問介護・通所介護)
:新しい総合事業
2015,2016年度は市町村の
選択で移行(エリアごとも可)
法改正 2015年
2016年
2017年
予防サービスに依存しない経営への転換が急
務となる。
2018年
総合事業の事業内容
既にサービスを受けている者については事業移
行後も必要に応じて既存サービス相当のサービ
スを利用可能とする。
介護予防・生活支援サービス事業として,
掃除,洗濯等の日常生活上の支援を提供する
保険者数
「訪問型サービス」
,要支援者等に対し機能訓
新しくサービスを受ける者については多様なサー
ビスの利用を促進(必要に応じて既存サービス相
当のサービスを利用可能とする)
練や集いの場など日常生活上の支援を提供す
る「通所型サービス」
,栄養改善を目的とした
配食や一人暮らし高齢者等への見守りを提供
全ての保険者・エリアで導入
する「その他の生活支援サービス」を実施する。
総合事業の利用は予防給付サービスと同様
要支援認定期間
→最大12か月
全国介護保険担当課長会議資料,2014年7月28日
図3 総合事業の上限の設定(イメージ)
制度改正
2013年
の
給付
予防
5.6%
よる介護予防ケアマネジメントは,従来の介
護予防支援と同様,地域包括支援センターが
間
4年
近
(直
予測
増
自然
予防ケアマネジメント」と呼ぶ。総合事業に
後期高齢者数の近年の
伸び率の平均は3.7%
予防給付
制度見直し
後の費用
費用額
介護予防事業
(総合事業含む)
2015年
アプランに基づいて行われる。これを「介護
現行制度を維持した場合
2018年
に,地域包括支援センターが作成する予防ケ
)
(C)2014 小濱介護経営事務所 無断転載不可
要支援者等に対するアセスメントを行い,ケ
アプランを作成する。
総合事業のガイドライン
厚生労働省は,介護予防・日常生活支援総
合事業の適切かつ有効な実施を図るため必要
た場合に利用できる。介護給付との大きな相違点
なガイドラインを公表する。サービス内容,単価,
は,財源に上限が設定されることにある(図3)
。
自己負担割合などの基準を明確にすることで市町
その上限を超えた場合の費用は全額が自治体負担
村間の均衡を図る。市町村はガイドラインを最低
となるため,市町村にとっては,ボランティアス
基準として,市町村は,地域の状況に応じた独自
タッフのサービスの利用促進などで利用総額の伸
の多様なサービスを構築していく。ただし,指針
びを抑える必要が生じる。既存の予防サービス利
はあくまでも指針であって制度上の強制力はなく,
用者は,特例措置として従来の介護事業所のサー
従わない市町村があっても罰則規定はない。
ビスを継続利用できるため,事業所にとって利用
者減の心配は当面はない。しかし,財源の上限規
介護事業参入の好機到来
定があるため,近い将来は新規利用者の獲得が難
過去最大の制度改正である。しかし,これは序
しくなると考えられる。既存の利用者のボラン
章に過ぎない。これまでは「介護」を行っていれ
※今後の動きに関する提言も紹介
➡続きは本誌をご覧ください