Title 貿易政策の効果 Author(s) 小島, 清 Citation 駿河台 - HERMES-IR

Title
Author(s)
Citation
Issue Date
Type
貿易政策の効果
小島, 清
駿河台経済論集, 3(1): 77-131
1993-09
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/16663
Right
Hitotsubashi University Repository
貿易政策 の効果
論 文
貿易政策 の効果
小
Ⅰ 課
島
清
題
前稿 「自由貿易の静態理論」(
駿河台経済論集,第 2巻第 2号,1
9
9
2
.3
)に
おいては次のことが解明された。
1
) 貨幣的部分均衡分析 によると,輸入可能財 における消費者余剰の増加の
方が輸出可能財 におけるそれの減少を上回 るので, ネッ トの消費者余剰の増加
が実現す るo)。他方,生産可能性曲線 と効用無差別曲線群 とを使 う純粋一般均
衡分析では,貿易 によってより高次の無差別曲線へ移行 しうる。 このように貿
易利益 は 2つの異なった表現 (
一方消費者余剰の純増,他方無差別曲線の上昇)
をとるが, ともに国民経済的効用 (
厚生)水準の向上或 いは効用所得の増加を
もた らすのである。それ故 自由貿易が推奨 される。
2
) 貨幣的部分均衡分析 と純粋一般均衡分析 とは完全にコンシステ ントに行
いうることがわか った。資源 (
労働 と資本)が完全競争条件をみたすように常
に最適配分 され,完全雇用が保たれ,稼得所得がすべて消費 される (その条件
の一部 として輸出額 -輸入額が保たれる) という条件の下では,両分析 はコン
システ ントになるのである。 この条件をみた して導出される生産可能性曲線上
のすべての点 において,稼得 (
貨幣)所得 は一定であるということが明 らかに
なった。他方,部分均衡分析における 「
生産者余剰」 というものは,国民経済
全体 としては,存在 しないということもわか った。
3
) 両分析 は同 じ国民経済的効用関数を用いる。 したが って, 2財への需要
曲線が ともに右下が りの正常なものである限 り,或 いは原点 に向 って凸型の正
常な (
s
t
r
i
c
t
l
yc
onve
x)無差別曲線群である限 り, 効用 (厚生) 水準 の上昇
という貿易利益が必 らず得 られる。
数量的貿易制限或 いは q
uot
a
さて本稿では輸入関税,生産補助金,Q.氏 (
r
e
s
t
r
i
c
t
i
on) といった狭義の貿易政策の効果を検討 してみたい。 為替 レー ト
ー7
7-
駿河台経済論集 第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
調整 とか総需要 (
内需)の引締め (
拡張) とかのマクロ政策 も貿易に多大な影
響を与えるのであるが (したが ってそれ らは広義の貿易政策 であ る), それ ら
マクロ政策 は輸出入 されるすべての財 (
およびサー ビス) に対 し一様な影響を
与える。 これに対 し関税,補助金,Q.R などは,対象 となった個々の財 だ け
go
ve
r
nme
nt
a
li
nt
e
r
v
e
nt
i
o
n)
に, また財 ごとに違 った影響を与える政府介入 (
である。そ ういう意味で狭義の貿易政策 というのである。
代表的な貿易政策手段たる関税 (
t
a
r
i
f
f
s
) に関す る理論的 ・実証 的文献 は
まことにおびただ しく,研究 し尽 くされているかの観がある。それにもかかわ
らず私 は従来の見解 (
通説 と言わ う) に対 しい くつかの重大な疑念を懐 く1
)
。
その第 1は,貨幣的部分均衡分析 において,関税賦課 により輸入可能財 におい
て生ずる消費者余剰減少分か ら,生産者余剰増分と関税収入を差引 く (したがっ
てネ ット貿易利益損失 はその差額だけ) という手法についての疑問である。
第 2は,純粋一般均衡分析では,生産者余剰 と関税収入がどのように取扱わ
れているか,或いは取扱われるべ きかという点である。 そ して結局,関税を含
んだ貨幣的部分均衡分析 と純粋一般均衡分析 とのコンシステ ンシイが問い直さ
れなければな らないということになる。
そ して第 3に,関税収入 とか補助金支給額 とかを取扱 う公共 (
或 いは政府)
部門 といったものを民間経済部門 とは別建てに設 ける方がよいのではないか,
という一応の結論 に達 している。
もう 1つ本稿の重大なね らいがある。輸入関税 に くらべて生産補助金の方が
い くつかのメ リット (
利点)をもつ ことを明確に したい。 この点が確立 されれ
ば,経済発展促進 目的のためには,その主要政策手段 としては生産補助金を活
用 した方がよいという,重要な論点に到達す る。それが自由貿易の動態理論へ
の出発点 ともなるのである。
I
I 不変生産費ケースの部分均衡分析
先ず 自国 も外国 (
爾余 の世界) ち, 自国 の輸入可能財 Yを, 不 変生 産 費
c
ons
t
antc
os
tで供給するケースを考えよう。図 1が これを示す。 (これ は前
稿の図 1(
i
)
における単純交換の場合 と類似す るが,若干意味が異なる。)DD′
は需要曲線で,右下が りであ り,通常の価格弾力性 を もつ。 自国 の国内生産
-7
8-
貿易政策 の効果
費 はAP
水平線の高 さであるのに外国の供給価格 (-自国の輸入価格) はβW
水平線であ り, 自国よりも低廉であるとしよう。 自由貿易が行なわれれば・0
Bの単価でOy'量が輸入 される。輸入額 は面積④ +⑦ となる (
単純交換 の場合
は⑦ だけが輸入額 となる点で異なる)
。 この際 O
Aの単位 コス トを要求す る国
内生産 Oyは放棄 されるoつ ま り完全特化 に至 る (したが って もう一 つの財
(
輸出可能財Ⅹ) において④ +⑦ と等額の輸出がなされねばな らない)。 この貿
易 によって (
輸出側を無視す ると),面積① +④ なる消費者余剰C・Sの増加 が
得 られる。 これが自由貿易の利益である。
さて, i
-AB/OB(
2
5
%とせよ)の率の輸入関税が課せ られたとしよ う○
)つまりO
Aに,国内価格 は高め られる。 そ こで, この輸入
輸入価格 ×(1十 王
関税の下で,国内生産 は引合 うようになるか ら,Oy量の国内生産 が復活 し,
輸入 は全部排除 されることになる。そうすると,消費者余剰① +④ を失 うこと
になる。 これが第 1種関税効果 (
小島説)である。
Py
y
y
図 1 輸入関税(
1
)
(
輸入可能財Y)
-7
9-
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第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
上の tという関税率 は輸入禁止的高関税であるが,内外 ともコンスタン トコ
ス トの場合に関税が所期の効果 (
か りに保護効果 と呼ぼう)を もつためには禁
止的関税 にな らざるをえない。 そ して以上のことは, 自由貿易の利益① +④が
そっくりそのまま関税賦課 によって失われることを意味す る。言 いかえれば,
関税賦課 による貿易利益
(
-厚生)損失 は,輸入可能財 において生ずる消費者
余剰の減少 (
っまり① +㊨)で計測 してよいということである。 これが記憶 さ
れねばな らない最 も重要なポイ ントである。
以下の議論 との関連で次の 3点を指摘 しておきたい。
i
mpac
t
) がい
1
) この輸入可能財Yへの関税効果が経済全体 に及ぼす衝激 (
かなるものであるか という点である。 この Y財 ともう 1つ輸出可能財Ⅹとか ら
成立つ経済においては,図 1に示 したのとち ょうど逆の変化がⅩ財部門 にお い
て生ず る。図 2を見 られたい。 そこでは国内生産 コス トOaの方が世界価格 Ob
より低 く, 自由貿易の下ではⅩ財が輸出されていたわ けであ る。 図 2で d
d
′
線 は国内の需要曲線であ り, これに外国の需要を追加 した総需要 曲線が d
td
t
線である。
Px
dI
∼▲
・
■
一▲
■
■ー
r
n
I■
■
■
-
-
q
w
:
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:
5
.
,P:
;
;
;
:
;
:
;⑤
0
α
bd
②
‥
;
‥
;
;
;
;
@!
:
;
注)㊨口rx′x/
x
一α一
′ dt \
x"
貿易政策 の効果
Ⅹ財輸出額 は面積㊥ (-□ r
x′
xn)+㊨ (-□ nxx〝q) にな り, この合計 が
図 1のY財輸入額 たる⑦ +④ と等 しくなるように, 自由貿易が行なわれていた。
輸出額のうち㊥ は, このⅩ財の価格騰貴 に伴い国内需要が減 った分 (x'
x量)
が輸出に向け られた ものである。そ して この輸出額㊥ が,図 1の輸入額のうち
の⑦ と等額 になる。 したが って, 自由貿易による貿易利益 は,輸入による消費
者余剰の増分① +④ と,輸出によるその減少分② +⑧ との差額であった。 しか
⑨)
>0
であることが分 った。 したが って輸入部門で
も必ず (
① +④)-(
②+
消費者余剰の増加が生ず るな らば,それだけで判断 して (
つまり輸出部門を無
視 して), ネットの貿易利益が生ずると考えてよか った。 これが前稿 での 1つ
の重要な結論である。
輸入可能財に関税が課せ られて,輸出額 -輸入額 -0になり, アウタルキー
状態に戻 るということは,上 とち ょうど逆 に,Y財部門で① +④ だけの消費者
余剰の減少が,他方Ⅹ財部門で② +⑧ なるその増加が生 じ, しか も (
① +㊨ )
>(② +⑧)であるか ら,消費者余剰のネ ットの減少を来たすわけである。す
なわち関税賦課 は必ずや国民経済的効用 (
厚生)水準の低下を導 くのである。
2
) 輸入 は (
輸出 も)ゼロになるのであるか ら関税収入 もゼロになる。 この
不変生産費ケースでは,関税収入の問題 (
後の議論の一つの焦点 になる) は発
生 しないのである。
3
) 自由貿易均衡 に達するには,図 1の任)
+(
重なる輸入額を生産 していた資
蘇 (
労働 ・資本)が,図 2の㊤ +⑥ なる輸出額を生産するように移動す る。輸
入額 -輸出額 なる貿易均衡が達成 されている限 りアウタルキー時 と自由貿易
下 とで, ともに完全雇用が保たれ,同一の稼得 (
貨幣)所得を実現す る。つま
り生産者余剰 はいささか も発生 しない。逆に,禁止的輸入関税を課 して, 自由
貿易均衡か らアウタルキー状態に戻す と,上の資源移動が逆方向に行なわれる。
9なる資源が,Y財の国内生産っ ま り図 1
輸出向け生産を していた図 2の㊥ +(
の⑦ +㊤ に移動す る。 (
㊨ +㊨) - (
⑦ +㊤) になるよう調整 され る限 り, 生
産者余剰 は発生 しない。 この点が重要である。後の議論の もう一つの焦点 とな
るか らである。
実際問題 としては,非常 に多 くの輸入品のうち, 1つ 2つに関税が課せ られ
,
0
0
0
億 ドルの輸入総額のうち1
,
0
0
0
万 ドル相当の輸入品 に関税が
る (たとえば1
課せ られる) といった場合には,上の三点,つまり輸出部門の調整,関税収入,
- 81-
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第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
および生産者余剰 といった問題 はネダ リジブルだとして無視 して もよい。そ し
て当該輸入可能財 における直接的効果 (とくにその消費者余剰の減少)だけに
注 目すればよいということになろう。ⅩとYの 2財だけで成立 っているとす る
本稿におけるような分析に くらべ,実際の関税効果 ははるかに小 さい問題であ
ることに留意 しなければな らない。 またすべての輸出入品に影響を与える為替
切下げにくらべれば, はるかに小 さな問題である。
他方,対象品 目の性格の違いによって,経済全体 に及ぼす効果が異なること
も留意 されねばな らない。たとえば,対象品 目が中間財であると,関税賦課 に
よってその価格が高 くな り,それを使用す る完成財 の コス トに大 き く影響す
f
f
e
c
t
i
ver
at
eofpr
o
t
e
c
t
i
o
nといった理論が展開 さ
る2
)
。 このため実効保護率e
れてきた。 また対象が保護 に値 しない衰退産業であるか,それ とも有望な幼稚
ke
y産業であるかによって も,経済全般 に及 ぼす効果 は 大 いに異 な る。 それ
らが貿易政策の動態理論の対象 になる問題である。
Ⅲ
通
説 (
部分均衡分析)
コンスタントな外国供給価格
関税効果の分析を行なった通説の代表 はキ ンドルバーガーのテキス ト3)であ
ろう。 日本の学界で もそれが広 く受 けいれ られている。以下それを批判の対象
としつつ私論の展開を試みよう。
先ず,輸入可能財 についての関税効果の部分均衡分析を行 う。 図 3のBW線
は外国 (
世界)のこの国 (自国)への供給が,不変の価格でい くらで も行なわ
れる (
無限大の価格弾力性) ものと仮定する。拙著 『
応用国際経済学』では,
外国供給曲線 も右上が りであるとして分析を進めたが,通説 と比較す るため,
またそれを不変価格 に した方が分析がわか り易いので,そうす ることに本稿で
は修正 したい。
日本では (とくに数学を多用す る学者 は)外国供給価格が コンスタン トであ
ることを, 自国を小国 (
s
mal
lc
o
unt
r
y) とす る仮定であるとす る。 つ ま り外
国の輸出供給条件,輸入需要条件 は所与で コンスタントである, したが って国
際市場の価格 (
国際的交易条件) は不変であって,小国たる自国はそれに対 し
いささか も影響を与えないものとみなすのである。
-8
2-
貿易政策 の効果
しか しなが ら,外国の不変供給価格 -自国の小国仮定 と見 るのはおか しい。
両者 は別々の仮定である。たとえば自国通貨 (
円とせよ)の為替 レー トが切下
げ られると,交易条件 は自国に不利化する。 またそういう交易条件の変化が起
こるか ら,貿易赤字 は均衡 にもどるのである。Ha
r
r
yJohns
on4)は,関税効果
分析を最適関税 (
opt
i
mum t
ar
i
f
f
s
)論 にもっていきたいとい う意図の下 で,
外国供給 も逓増費用でなされるとして展開 している。私の 『
応用国際経済学』
もそ うであった。
,
小国」仮定をとると大げさに言 うのでな く, 不変価格外
以下 においては 「
国供給線を分析の明瞭性のために仮定するのである。外国供給が逓増 コス トで
行なわれる場合 には,分析を容易に修正す ることができる (
拙著で行なってい
るように)
。 ただ外国の供給が逓減 コス トで行なわれる場合 には別 の分析が必
要 となって くるが,それは本稿の範囲外の動態問題 に属す る。
通説 -d
e
adwe
i
ghtl
os
s
図 3に輸入可能財Yについての国内市場が措かれている。DD'は通常の弾力
S′ はやはり通常 の弾力性 を もっ逓増限界費用 の
性を もつ需要曲線である。S
Py
Q
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9
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3
)
供給曲線である。 これをコンスタントであるとした既述第 1種ケースとこの点
だけが異なる.BW線 は外国の不変価格供給線である。
自由貿易の下では,08なる価格で,消費量がOC 国内生産量がOQであり,
その差額たるQC量が輸入 されていた. したが って自由貿易下 の消費者余剰 は
三角形D
BRであった。
2
5% とせよ)の関税が課せ られたとしよ う。
ここで,i-AB/BOなる率 (
外国が提供する価格 (-自国の輸入価格) はBOで変わ りがないが, 国内販売
価格 は tだけ高いAOになる。 そこで次の変化が起 こる5)。
(
1
) 消費量 はC′
Cだけ減 る。
(
2
) 国内生産量 はQQ′だけ増える。 これをとくに 「保護効果」 と呼んでいる
場合がある。
(
3) 輸入量 は自由貿易下のQC
量より少 いQ′
C′量 に減 る。
(
4) それに応 じて輸入額 は面積ハ+ホだけ減少 して面積 ことなる。 これを貿
易 (
国際)収支効果 という場合 もある。
さて問題 は関税賦課の厚生 (
we
l
f
ar
e
)効果なのであるが,
(
5) 消費者余剰 は台形A
BRR′(或 いは
a+b+C+d+e) だけ自由貿易
下 にくらべ減少す る。
(
6) しか し生産者余剰が台形A
BPF (或いは a+b) だけ増加す る。
(
7
) また四角形F 12R′(- d) なる関税収入 (t
ar
i
f
fr
e
ve
nue
) が政府 の
手に入 る。関税収入効果 という。
(
8) そこで生産者余剰 (
a+b)と関税収入 (d)とが,何 らかの意味で国民
ns
であるとみな しうるな らば (そうみな して よいか ど うかが以
経済全体のgai
5
)
の消費者余剰減少分か ら差引 くと, 三角
下で問題 となるのだが),それ らを(
形 C と eだけが純損失 として残 る。 これをde
adwe
i
ghtl
os
s(
死重) とい う。
この C
+eだけを関税賦課 による厚生の減少である, と見 るのが通説である。
これを第 2種関税効果 と呼ぼ う。
(
9
) 外国供給価格 はBW線の高 さで不変であるか ら,交易条件効果 は生 じな
い。
小島説 一消費者余剰減少全額がロス
5
)の消費者余剰減少額 (a+b+C+d
後 に若干の修正を必要 とするが,(
-8
4-
貿易政策 の効果
+ど) がすべて関税賦課 による厚生の損失を導 く, と見 るのが小島説である。
それは既述の第 1種関税効果 に他な らない。 このことを,結論を先 どりして指
摘 しておきたい。
他財 との一般均衡的関連
(
9) 通説 は再検討 してみなければな らないい くっかの問題を含んでいる。そ
の第 1はこうである。関税が課せ られる当該Y財が多数の財の うちの ほんの一
つであ り,重要な財でないな らば,以上のようなY財への直接的効果 だけを検
討すればよ く,他財或いは国民経済全体への効果 はネグ リジブルだとして,無
視 して もよい (
既述)。だがそ うでない場合には以下のよ うな一般均衡的考察
が不可欠である。通説では外国供給直線βWの上方部分 についてのみ考察 しそ
の下方部分を無視 しているが,下方部分 こそ一般均衡的考察 にとって不可欠で
ある。それを無視 してはな らない。
(
9
a
)通説では当該Y財生産 において雇用増がある (
雇用効果) と指摘する。
だが雇用効果がどれだけであるかは明示 しない。 自由貿易下の国内生産に基づ
く稼得所得 は四角形B
OQPつまりイ+ロであった ものが,関税下 で は四角形A
OQ′F に増加する。 これに対応 して このY財部門で資源
(
労働 ・資本)の雇用
増加があったわけである。だがその資源増分 はどこか らいかに して調達 された
のであろうか。
経済全体が不況で失業があふれている場合には,それが動員 されるわけであ
るか ら,雇用の純増加 となる。
完全雇用を前提においている通常の分析の場合には, このY財部門での雇用
(
増 は,他の部門Ⅹか ら転換 して くる Ⅹ部門で生産 と雇用の減少 が起 って) と
見ざるをえない。 しか もそれは, 自由貿易下の資源の最適配分 に くらべ,能率
の劣 る,資源の浪費を伴 う,歪曲された (
d
i
s
t
o
r
t
e
d)資源配分 にな らざ るを
えない。
QQ′量 という国内生産増加 は,それだけの輸入量 と,面積ハなる輸入額 とを
減 らす ことになる。 これが 「
保護効果」 と言われた。だが,Q
Q′量のY財 は自
S′
線のように逓増費用 を
由貿易輸入によれば面積ハなる費用で入手できた.S
仮定するので,Q
Q′量 は今や面積
C(三角形P′pl) な る余分 の コス トを必要
とする6)。 これは 非効用の増加 -効用の減少 と言 え る。 関税賦課 による消費
-8
5-
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第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
者余剰の減少分 (
a+b+C
+d+e) に, さらに もう一度 C を加 えた もの7)
が,Y
財部門で生ず る貿易利益の損失だと,計算 しなければな らない。 この こ
とをとくに注意 しておきたい。
(
9
b)消費支出所得 は, 自由貿易下では四角形BOCRであったものが,今や
R′に変わ った。両者の差額の うち, 四角形AB2
R′(
っ ま り a+
四角形AOC'
b+C+d) はそれだけ余分の支出を しなければOC′(
-AR′
)量 の消費がで
きないという,明白な消費者余剰の損失を意味す る。
輸 出可
面積 ホはY財消費量減に伴 う輸入額の減少である。それだけ他部門 (
能財Ⅹ)の輸出額を減 らし,Ⅹ財の消費量を増す ことができる。 先 のハ とこの
ホの合計 たる輸入額 に等 しいだけの輸出額の縮小がなされて貿易均衡が保たれ
るな らば, このホも (
先のハ も)損失ではない。 ただそ う言えるためには,貿
易均衡が維持 されることが前提条件であることに留意 しなければな らない。
残 りの三角形 eは,関税賦課によって自由貿易か ら離れたという市場の失敗
(
mar
ke
tf
ai
l
ur
e
) に伴 うもう一つの浪費 (
de
adwe
i
ghtl
os
s
) という,消費者
余剰の減少である。
(
9
C
)完全雇用 と貿易均衡が常 に達成 されるとの前提の下で は, 結局 (
α+
b+C
+d+e)+Cなる消費者余剰の減少を来す というのが小島説の結論であ
る。正確 にはそう言 うべ きである。 ただ し最後の C は小額であるとして,議論
を混乱 させないため,無視 して もよいと,考えている。
そうす ると,輸出可能財Ⅹ部門では,輸出額を減 らして もよい (
貿易均衡維
持のため) ということになる。 これにつれ,Ⅹ財の価格が低下 し,消費量 が増
え,消費者余剰が増加す る。 この輸出可能財Ⅹ部門での消費者余剰の増加 の方
が,先の輸入可能財Y部門で生 じた消費者余剰の減少分 (
a+b+C+d+e)
"∵- I -:
: ∴
∴
∴
L
∴
_
:
>
曇1
_ ∴
∴
賦課 によりネットの消費者余剰の減少が必ず生ずると言える。 また,正確 には
このような輸出可能財部門 との比較を しなければな らないのであるが,それは
必ずネ ットの損失をもた らす ものとして比較を省略 し,輸入可能財部門で消費
者余剰の減少を来すな らば,関税賦課など貿易障害の設定 は,貿易利益の損失
を来す と判定 してよいのである。 このような判定基準 (
第 1種関税効果) を小
島説 は提案 しているのである。
-8
6-
一貿易政策 の効果
(
1
0
) 国内生産量がOQであった自由貿易下では,生産者余剰 は面積 イであ っ
たが,関税賦課 により価格が騰貴 し生産量がQQ′だけ増えると,生産者余剰 は
面積 a+bだけ増す。それだけ,消費者余剰減少分 (
a+b+C+d+e
)か
ら 相殺することがで きる, とす るのが通説である。だが前稿 で詳論 したよ う
に, そうす ることは余剰 という利益を二重計算 していることにな り,誤 ってい
る。む しろ,a+bだけでな くそれに C を加えた余分 の所得 を支 出 しなければ
OQ′
量の入手 (
消費)が不可能であったわけであるか ら,(
a+b+C)は消費
者余剰の減少その ものであると解すべきである。生産者余剰なる概念をここへ
もちこむべ きではない。 (なお Cが資源の浪費であるか ら, もう一度損失 と し
て加算 されねばな らないことは,上述のとお りである。)
(
l
l
) 面積 dは, 消費者 が関税 と して支払 った分 であ り, 政府 の関税収 入
(
c
us
t
omsr
e
ve
nueo
rpr
o
c
e
e
ds
) となる。 この関税収入 は国民経済全体 と し
ては何 らかの利益 (
ga
ins
)であるとして,消費者余剰減少分 (
a+b+C+d
+ど
) か ら差引 く,とす るのが通説である。 したが って通説 によれば, 先 の生
a+b)と, この関税収入 dとを差引 くと,三角形 C+三角形
産者余剰の増分 (
eだけが,関税賦課 による厚生損失 (
第 2種関税効果)だということになる。
C′を購入す るために負担 した余
だが面積 dはあさらかに消費者が輸入量 Q′
分の支出であり,消費者余剰の減少を来す。そ う見 るのが正 しい。
後 に検討するように,関税収入が消費者 に還付 されそれだけさらにY財輸入
を増 しうるとか,或 いは政府 自らが関税収入分だけY財を輸入するとかい う議
論がある。それ故に消費者余剰減少分か ら関税収入を差引 きしうると通説 はい
うのである。
だがそ うな らば第 1に,図 3に示 した輸入量のほかに,dな る関税収入 を支
出 して可能 になる輸入分が追加 されなければな らない。だが通常そういうこと
は部分均衡図では行なわれていない。私の知 る限 り,それを試みているのは山
本繁緯教授 8)のみである。
第 2に,政府が関税収入分だけY財を輸入す るとした時, この政府輸入 もま
た関税を支払 うのであろうか。そ うするとそこで生ず る関税収入をさらにどう
す るかという問題が繰 り返 される。政府輸入 は無関税で行 なわれると仮定せざ
るをえないとするのが天野明弘教授 9)であるが,関税を負担する民間輸入 と,
無関税の政府輸入 とが併存す るとす るのは,論理 の一貫性 を欠 くことになろ
-8
7-
第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
駿河台経済論集
う。
したが って関税収入をどう取扱 うべ きかという問題を再検討 しなければな ら
な くなるのであるが,図 3のごとき部分均衡図には,関税収入相当分の追加輸
入 は表れて こない,それ故面積 dは消費者余剰 の減少であ る, と私 は解 した
い。
(
1
2
) 外国が コンスタント価格でな く逓増 コス トで供給 して くる場合 には, 自
国 (
関税賦課国)の輸入量が減 るので,外国の提供価格 (自国の輸入価格) は
低下 し, したが って交易条件がそれだけ自国に有利化す ることになる。そ うい
う追加的変化がある。交易条件を最大 に有利化 しうる関税率が求め られる。 そ
o
pt
i
mum t
a
r
i
f
f
s
) 論 10) であ り, さい きん
ういう議論をするのが最適関税 (
s
t
r
at
e
gi
ct
r
ad
epo
l
i
c
y)
論 11)の出発点になっている。
の戦略的貿易政策 (
逓増費用的外国供給曲線の場合の関税効果を示すには,本稿の図 3よりはる
かに複雑な ものになる。それは拙著 『
応用国際経済学』,p.
1
6
3の図 4・1のよ
うになる。外国提供価格 (自国の輸入価格)がどう決 まるかを示す輸入可能財
の輸入 (
対外)市場図を先ず描かねばな らない。そ してそれに対応す る国内需
要 ・供給曲線か らなる国内市場図を もう 1つ描 くべ きである。後者では,需要
曲線DD′よりも関税率だけ下回る外国品需要曲線FF′を追加するのがよい。 こ
のFF′
線 と,輸入市場図できまる外国提供価格線 (
水平) とが交 る点で,均衡
が きまることになる。 そうすると,本稿図 3とは若干違 って,輸入価格低下 (交易条件有利化)の効果が示 され,それだけ消費者余剰の自由貿易時比減少 は
少な くなることがわか るのである。
I
V 関税効果の純粋一般均衡分析
以下の課題
これまで試みてきたのは,輸入関税賦課の効果, とくにその厚生効果を,那
分的均衡分析 によって検出することであった。それでは,純粋一般均衡分析 に
よっては同 じ効果 はどうとらえ られるであろうか。 もとより両分析 は同一結果
に到達 しなければな らない。純粋一般均衡分析 に進むと,関税が賦課 される当
該輸入可能財Yにおける変化 と,他の輸出可能財Ⅹ,或いは国民経済全体 にお
ける変化 との一般均衡的関連 (
部分均衡分析では推論の域を出なか った問題)
-8
8-
貿易政策の効果
が明示 されることになるo他方,部分均衡図には表現 されなか った関税収入の
支出による追加的輸入を・純粋分析ではどう取扱 うべ きか という問題が,詳 し
く検討 されねばな らないことになる。
通
説
図 4を見ようoBJ
点は自由貿易下の生産点,C点 は消費点 であ り,CI
Bな る
貿易三角形であ らわされる均衡貿易が行なわれていたとしよう。交易条件っま
り国際価格比率 はPP僧 の傾斜であり,U3
無差別 曲線 の厚生水準 が達成 され
ていた。
この時・何 らかの貿易政策措置を講 じて,輸入可能財Yの生産を増や し, 坐
Y
駿河台経済論集
第 3巻第 1号 (
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9
3
)
産点をA点へ もっていきたいと欲 したとしよう。 アウタルキー的均衡状態 に近
づ くことになる。 それを可能 にす る国内価格比率 は,A点で生産可能性曲線 と
緑の傾向が示す国内価格比率である。 いま,
接するDD′
国際価格比率 P-Px
/P,
国内価格比率
(
1
)
p-px
/py
とあ らわす ことに しよう。輸入に となる率の関税を課 して,上記 目的を達成 し
ようとしたとしよう。そ うす ると,px-Px
,p,
-P,(1+i
) となるか ら
P>p o
r Px
/P,
>Px
/P,(1+i
)
(
2)
となる。つまり輸入関税率分だけPF 線 にくらベDD′
線が緩やか (
Y財が割高)
になる。そ して,両価格線の格差が輸入関税率に相当するのである。
Aなる貿易三角
輸入関税賦課により,生産点 はA,消費点 は C に決 まり, C2
形で示 される縮小均衡貿易が行なわれる, というのが通説の結論である。 この
国 は輸入関税賦課 によって国際価格比率Pに影響を及ぼす程の大国で はない と
すると,国際価格比率 は不変でpA線で示 される。 この国の厚生はUSにくらべ,
低下す るのである。
だが,消費点が C点 に決 まるとういことを説明するのは必ず しも容易で はな
い。 たとえばキ ンドルバーガーは次のように言 う。「国内生産者 は,両財 の限
界生産者が関税込み価格比率に一致するようになるA点で生産する。一方消費
者 はまた,両財の限界効用が国内価格比率 と一致するようになる C点に消費 を
」
1
2
)こう言 うだけで,なぜ C点 に決 まるか も, また関税収入が どれだ
きめる。
けであるか も,明 らかに していない13)。
以下生
私が試みている説明はこうである.A点で兄 量 とYa量を生産す る。 (
産量を大文字,消費量を小文字で示す。) その所得 は国際価格で評価す ると,
Px・Xa
+P,・Ya
(
3)
となる。つまり国際市場で国際価格比率で交換す るとこれだけの所得 になる。
それがpA線 (それは予算線で もある)であ らわされ る. つ ま りpA線上 で は
どの点で も等価の稼得所得があ らわされている。だが消費 は,Y財の価格 が関
税分だけ国際価格 よりも高い国内価格比率に従 って,最高の厚生水準を達成す
-9
0-
貿易政策 の効果
るように,選択 されねばな らない。 それが pA線上で d
d′という国内価格比率
線が無差別曲線の 1つ Ul
に接する C点なので ある。 この C点 は, 国内価格比
率の下での所得 一消費曲線 (ェンゲル曲線)上の一点で もある。そこで C点 で
pA 線の傾斜)で評
の消費量を xc, ycであ らわす と,それを国際価格比率 (
価 した支出所得 は,次式 となる。
(
4
)
Px・ x
c-P,
・yc
輸出量 は (
Xa-x
c
)
,輸入量 は (
yc-Ya
) である.次式のように,輸 出額 輸入額 という貿易均衡が達成 されねばな らない。
Px (
Xa- x
c
)-P,(
yc-Ya)
(
5)
この(
5)
式が成立するな らば, (
3)
式 -(
4)
式であることはす ぐに計算で きる。すな
わちA点 と C点の所得 は国際価格比率で評価すると等価である。 ただ しこのよ
うな C 点での最適消費点の達成 ということは, 後 に究 明す るよ うな, 関税収
入が経済全体 としては所与の選好 マ ップ (
社会的無差別曲線群) に したが って
支出されるという擬装的メカニズムを前提 に してのみ成立っ ことに注意 しなけ
ればな らない。
2)
式のように,輸入関税賦課 によ り, 国内価格比率 (
p -Px/Py
次に, (
(1+i
)となった。民間部門はこの国内価格比率の下で等価の交際をする。 そ
れが点Sである。点3
での消費量を x3
,y3と示すな らば,民 間部門の輸 出量 は
(
Xa
- x3
) --ただ しE3-Xcである一一, その輸入量 は (
y3-Ya
) とな るO
え.
そ して両者 は国内価格比率で評価 して等価である。すなわち
Px(
Xa
- x3
)-Py(1
+i) (y3-Ya)
(
5)
ただ しこれは民間部門が何 らかの最適を求 めて行動 したというわけではな く,
単 に等価の両財交換 ということを示す。要するに民間は等価交換分 としては,
Y財の (
y3-Ya
)っまり図示の32量を輸入することになる。
そ うすると,総輸入が C
2量であり,民間の等価輸入分 が32量 であ るか ら,
3/3
2が輸入関税
その差額たる cS量が関税収入である。 またY財ではかつて C
率 とということになる。(これははぼ3
0
0
%という高関税率になるが,図を明瞭
にするための止むを得ない措置である)
0
-9
1-
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)
国内価格比率に従 って民間部門だけが行なう輸出入 は対価を求めての交換で
あり,民間部門の貿易均衡 は有償の等価交換である。そういう貿易均衡を成立
させ る価格比率 (この場合 は輸 入 関税込 み国 内価格 比 率) を純 交 易 条件
(
n
e
tt
e
r
mso
ft
r
a
d
e
) と言 って,次のものと区別 している。
全輸入 C
2量 は,関税収入 C
3量 という公的部門の無対価の支出 (それを トラ
ンスファーという)を含んでいる。 そういう無対価分を も含み入れた輸出額 と
g
r
o
s
s
)交易条件 と呼ぶ。 したが っ
輸入額の均衡を成立 させる交換比率を粗 (
て この場合には,国際価格比率 (
pA線の傾斜) は粗交易条件であるわ けであ
る。
以上のように,純粋分析 によって,輸入関税賦課 といった保護措置が, 自由
貿易に くらべ厚生水準の低下 というロスをもた らす ことが明示 された。以上の
説明を純粋分析 による通説 とみなそ う。 またこの通説 によるものを第 3種関税
か らUl
へ低下す
効果 と呼ぶ ことに しよう。それは厚生水準が自由貿易下の Ua
ることであるが,それは関税収入分を も含めて支出 して,最高の消費点 C を,
所与の民間選好マ ップの下で達成するという見解である。簡単に 「
関税収入再
支出モデル」 と名づけてお こう。なお C点 になるかどうかについて通説の問で
もい くつかの異論があることについては,後 に検討す る。
小
島 説
ここで敢えて以下のような新 しい見解を 「
小島説」 として提供 してみたい。
既 に検討 したように,部分均衡図 (
図 3のごとき) には関税収入再支出分の輸
入 はあ らわれてこない。 ということは,図 4では,民間は関税込み国内価格比
率DD′
線の下で,最高の消費均衡点 C
′を求める。 C
′点で無差別曲線 の 1った
るUoがDD'に接 しているOつまり4A量なるⅩ財の輸出を して,関税を支払 っ
て,関税分だけ国際価格比率 よりも輸入財Yが割高になった,国内価格比率 で
C
′
4量のY財の輸入をするのである。 したが って厚生水準 は,通説 のい うよ う
にUlになるのでな く,それよりはるかに低いU。に下降す る。
だが,4A量なるⅩ財輸出は,国際市場で は国際価格比率 (
pA線 の傾斜)
で 評価 して,Y財の 54
量 に相当す る。 そこで民間輸入量 たる cJ
4と差額 は S
c
′となる. この 5C
′のY財相当額が政府の手 に入 る関税収入である.ただ し関
税率 は前 と同 じで, i-Sc
′
/C′
4-C3/32である。つまり国際的価格比率
-9
2-
貿易政策 の効果
と国内価格比率の差が 5C
′なる関税収入であ る。 さ らに, 関税収入 は民間部
政府)部門の手 に入 り, 民 間部 門 に戻 され るわ けで はな
門 とは独立の第 3 (
′相当額 は,輸入 されないので, それだけ この国の輸 出
いとすると,Y財の 5C
超過 となるのである。
こうして,一方,Ⅹ財Y財の 2部門か らなる民間の他 に第 3部門 (ここで は
政府部門) を追加 した 3部門モデルが形成 される。他方,貿易 は出超 とうい不
均衡貿易モデルになる。 こういった新 しいモデルが構築 され るのである。 (こ
れについては最後 に再論す る。)
この純粋一般均衡分析で検出できる以上のような結果を第 4種関税効果 (
小
島説) と呼ぶ ことに しよう。それは貨幣的部分均衡分析 において検出された罪
1種関税効果 と対応 し,それと完全 に一致するのである。純粋分析で生産点が
Bか らAへ移 るというように, どれだけの生産調整が生ず るかが明確 にされたo
これが純粋一般均衡分析のメ リッ トである。
関税収入の再支出
いったん政府の手 に入 った関税収入がどう支出され,貿易 と厚生 にいかなる
効果を もつかにつ いて は, 詳 しい検討 があ る。 若干異 な る展開をMe
t
z
l
e
rと
Bal
dwi
nが行い, Jo
hns
onが包括的なまとめを書いた。 日本 で は天野 明弘教
授 による優れた整理があり, 山本繁綿,池間誠教授 な どが前進 をはか ってい
る。 14)
その中で先ず,Jo
hns
o
nが,関税収入が輸入可能財に支出されないケース も
指摘 している1
5
)ことに注 目したい。それが私の言 うよ うな独立 の政府部門を
もつ システムを構想 させ ることになるのである。
次に,関税収入が再支出されるとする新 しいアプローチには大別すると 2種
がある。すなわち(
1
)
政府 自身 によって関税収入が,Ⅹ,Y2財 か らなる民間部
2
)
関
門の体系 (システム) に沿 って,X,Y2財 に支出される, と仮定す る。(
税収入 は民間へ トランスファー (
還付) され,民間が自らの選好マ ップに従 っ
てⅩ,Y2財 に再支出す る。
(
2)
についてさらに 3つのサブ ・ケースに細分 して論証が進め られる。すなわ
ち (2 ・a) 関税収入が一般的な所得補助金 として民間の可処分所得 に加 え ら
れる場合,(2・b) 関税収入が一定の割合でそれぞれの生産要素 の所得者 に
-9
3-
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1
9
9
3
)
配分 される場合,および (2 ・C
) 関税収入が一様な所得補助金率 によ って各
要素の所得補助 に用 いられる場合, これである。
これ らのケース毎に厳密な方程式 システムが建て られ関税効果が検討 されて
いる。だが結局,(
1
)
の場合に,政府が関税収入を民間部門が行な うのとまった
2
)
の場合には民間へ遠付 された関
く同 じパ ターンで消費支出す るな らば,また(
税収入 は当然所与の民間支出パ ター ンで支出されるので,閲税収入の再支出分
を含めた消費点 は図 4の C 点 に到達する。それが通説の結論であった。
だが,関税賦課 によっていったん政府の手 に徴収 された関税収入がそっくり
そのまま再びⅩ,Y2財の消費 に,所与の選好パ ター ンに従 って支 出 され ると
す ることは, いかにも不可解である。その結果,厚生水準 は低下 した。つまり
いかなる目的のために関税収入を徴収 したのかが分か らな くなる。 これでは厚
i
s
t
or
t
i
o
nを惹起 させるために敢えて関税収入を徴収 した とい う
生低下 というd
ことにな りかねない (
生産効果を別 にす ると)。
関税収入のかか る不可解な取扱いに陥 った原因は 2つある。一 つ は, Ⅹ,Y
2財 という民間選好 マ ップ (
無差別曲線群) システムの枠内で問題をすべて処
理 したいとしたことである。 もう一つは,純粋分析 は常 に貿易均衡 (
輸出額 輸入額)が成立 していることを前提 に して有意義な分析が果たせるとしている
ことである。 このことは,そ ういう特性を もっているオファー曲線の分析 に,
Johns
o
nはじめ多 くの論者が直進 していることに了 よ く示 されている。 この 2
つの制約を打破 しようとするのが小島の新モデルに他な らない。
Ⅴ 生産補助金
課
題
生産補助金 (
s
ubs
i
d
y)の効果の検討 に移 ろう。 ここで生産補助金 とい うの
は,特定輸入競争産業 に対 し,そのコス トの何%かを補助金 として政府が支給
し,それだけコス トよりも安 く市場 に供給できるようにすることである。後 に
明 らかにす るように, この生産補助金を企業が活用 して生産性を改善するな ら
ば,やがて補助金な しで も国際競争力をもち,輸出できるようになる。つまり
真正幼稚産業育成の最 も有効な手段 となる。国際競争力を もつに至れば生産補
助金 は当然廃止 される。 したが って輸出補助金 ということは発生 しない。他方,
-9
4-
貿易政策 の効果
国際競争力を備えることができないような不実幼稚産業或 いは衰退産業の場合
には永久に生産補助金を支給 しっづけねばな らないか ら,そ ういう産業には,
補助金或 いは輸入関税などの保護措置をとるに値 しない。む しろ, より有望な
産業へなるべ く早 く転換するための促進策 を与 えた方が よい とい うことにな
る。
以下の課題 は 2つある。 1つは生産補助金の効果を,貨幣的部分均衡分析 と
純粋一般均衡分析 とによって解明 し,両分析でコンシノ
ステン トな結果が得 られ
ることを明 らかにす ることである。 もう 1つは,輸入関税 による保護 に くらべ
生産補助金の方がい くつかの利点を もち, より有効 (
e
f
f
e
c
t
i
ve
)な手段である
ことを検出 したい。
不変生産費ケース
最初 に,図 1のごとき,国内生産が不変生産費 (ただ し輸入価格 より高い)
でなされるケースを取上げよう。図 1の場合 は関税率 t
-AB/BOが2
5
%であ
るとした。比較のためこれとe
qui
va
l
e
nt(同等)な生産補助率 Sなる補助金が,
輸入可能財 Yの企業 に支給 されるとしよう。販売価格 を輸入価格 と同 じBOに
5
%のS が必要 であ
す ることがね らいである。 したが って販売価格 に対 しては2
るが, これは国内生産費AOに対 しては2
0
%のSであるOすなわちS-AB/A0-
0
.
2ということになる。以下,後者のあ らわ し方を採用す ることにする。
さて,かかる補助金が支給 されると,国内生産費がAOの高 さであ って も,
それより補助金率S だけ低 いBOの価格で企業 は販売す ることがで きる。 そ う
O
すれば y
′-BR量の輸入を排除することがで きる。 したが って, 消費者余剰
は三角形DBRであって, 自由貿易の場合 と同一 に保 たれ る。 言 いかえれば,
輸入関税の場合 に失 う消費者余剰たる① +(
参を,補助金の場合には失わずに済
むのである。 これが両者の大 きな相違点である。
いま図 1で,AP線の延長線 とy'
R 線のそれ とを措 くとその交点 Q が定 ま
り,三角形PQR が求 まる。 これを⑦ と呼ぼ う。そ うす ると, 補助金率 は S-
AB/AO であり,国内生産量 (
輸入 にとって代わ った) はBRであるか ら,捕
助金総額 は① +④ +⑦ となる。
そこで 2つの検討すべ き問題が生ずる。 1つは,補助金支給の故 に失われず
に済んだ消費者余剰,つまり補助金支給 によるb
e
ne
f
i
t
s(
利益) は, ① +④ で
-9
5-
第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
駿河台経済論集
あるのに,補助金 という社会的 コス トは① +④ +⑦であって,後者の方が⑦ だ
e
a
d
we
i
g
htl
o
s
s(
死重損失)である。 なぜ このよ うな
け大 きい。⑦ は一種のd
損失が発生するのであろうか。
これを明 らかにす るには,他の輸出可能財Ⅹとの一般均衡的関連を考えねば
な らない。
O
自由貿易下では y
′-BR量のY財 は,㊨ +⑦ なる輸入額 で まかなわれた。
この輸入額 と等 しい輸出額 (
次の図 2の6)
+㊨)の生産に投入 された資源 (
労
働 と資本) によって購入 されたわけである。 ところが補助金 を支給 して同量
(
oy'-BR)のY財を国内生産す ると,先の④ +⑦ の他 に補助金総額① +④ +
⑦ だけ余分のコス トがかかる。そ うす ることによって① +④ なる消費者余剰の
衰矢を防いだわけである。 したが って差額たる(
丑は最適資源配分 の歪曲 (
d
i
s
-
t
o
r
t
i
o
n
)か ら生ず る資源の浪費或 いはその能率低下 というロスに他な らない。
∴
- ∴
二
∴
∴ 二
二
二
∴
∴
∴
=::
_
の繰返 しになるので省略す る。
e
n
t(
補助金 レン ト
もう1つの問題 は,補助金総額① +④ +⑦ は企業の得 るr
と呼ぼ う)であって,民間部門にとってはg
a
i
n
s(
利益) で ある。 だがそれ は
国民経済全体 としては社会的 コス トであり損失 16)なのであろ うか。 通説 で は
損失 とされた。 この点で,同 じく通説によると,関税収入 は経済全体 としては
何 らかのg
a
i
n
s
であるとされたことと対照的である (ただ しこの不変生産費ケー
スでは関税収入 はゼロである)
。だが私 は,関税収入 も補助金 レン トも, 政府
部門で評価すべ き問題であるとして,当面棚上げ しておきたい。
か くて,正確 には6)
の問題をも計算 に入れねばな らないが,それはネグ リシ
ブルだとして無視す ると,民間部門に局限 して厚生効果を見 ると次のようにな
a)
輸入を排除 し国内生産 に置 きかえるに足 る程度の補助金が支給されると,
る。(
① +④ なる消費者余剰を失 うことな く, 自由貿易下 と同 じ消費者余剰を獲得で
きる。 これに対 し(
b)
禁止的高関税 によると① +④ なる消費者余剰を失 うことに
なる。 この差が補助金政策の重要な利点である。
逓増生産費ケース
輸入可能財 Yの国内供給が逓増生産費で行われる場合の検討 に移 ろう。図 5
-9
6-
貿易政策 の効果
Q g
C
注)--口PQg l
図 5 生産補助金
(
輸入可能財Y)
のS
S
′線がそのような国内供給曲線である. いま輸入関税率 (
2
5%) とe
qui
v-
a
l
e
nt
な生産補助金率S
-AB/A0-2
0
%なる補助金が支給 されるものとす る。
s
s
'線 よりも20%だけ下回るSS"線をひけばよい。 これが補助金込 み国内供
限界)生産費 はF Q′であるが,企業 は
給曲線 となる.たとえばQ′単位 目の (
F lなる補助金を得 るので1
Q′なる輸入 と同 じ価格で販売することができる。
自由貿易下 とくらべた変化 は次のとお りである。
(
1
) 消費量 はOC-BRであって, 自由貿易下 と同 じである。 したが って実現
する消費者余剰 も,三角形DBRであって, 自由貿易下 よ り減少す るわ けで は
ない。 この点が,関税賦課 によると消費者余剰が減少する (
図 3, 図 5のα
+
b+C+d+e
) ことと大 いに異なる。保護措置 としては,生産補助金の方が関税
よりも優れている (
利点を もつ) とする所以である。
(
2) 国内供給量がQ
Q′だけ増すので,輸入量 はそれだけ減 り,Q′
C量 とな
る。 この ことは超過需要 (
e
x
c
e
s
sd
e
ma
n
d
)曲線を描 いてみると明白にわかる。
-9
7-
駿河台経済論集
第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
補助金前のそれは,DD′需要曲線 とS
S′供給曲線 との差額であ った。それが,
DD′線 と補助金込み供給曲線S
S" との差額 に変わるわけであるか ら,超過需
要曲線 (-輸入曲線) はそれだけ小 さくなるのである。
かかる輸入量 (
貿易規模)の減少 につれ,輸入価格が不変であって も,貿易
利益つまり貿易に基づ く消費者余剰の増加 は,減 るはずである。それは関税賦
課によって失 う消費者余剰のタームで言 うと,図 5のb+ Cである。
なお関税賦課の場合 には, この他 にY財価格の騰貴 に伴 う消費量 の減少分だ
け余計に輸入量が減 り (
図 3のC′C 量), それ によって消費者余剰 e が損失
となる。 この消費減 に基づ く輸入量減 と消費者余剰 e の減少 とは, 補助金支
給の場合 には生 じない。
もう 1つ,図 3のd と した関税収入分 は, 補助金 の場合 には輸入価格 -国
内販売価格 となるので,発生 しない。つ ま りd だけ補助金 の場合 の貿易利益
が,関税賦課 に くらべ,大 きくなるのである。
結局,関税賦課の場合 と比べると,以上の分 については,図 3のd+e だけ
補助金の方の貿易利益が大 きくなる。
(
3
) 補助金総額 は図 5のa+b+Cであ る。 これ は企業 の得 る補助金 レン ト
である。 この レン トが政府か ら支給 されるので企業者 は80 という低 い価格 で
OQ′量を販売 しうる。消費者の支出する所得 は四角形BOQ′1 である. それ
だけの支出によってa
+b+Cなる消費者余剰を実現す ることがで きる。結局,
a+b
+Cなる政府か らの移転
(トランスファー) 所得 (-補助金 レン ト) に
よって,関税賦課の場合 に失われるべ き消費者余剰 a+b+Cが, 失 われず に
済むことになる。 この補助金 レントが社会的 コス ト或 いは社会的損失であるか
どうかという問題 は,前 と同様,棚上げ してお く。
+b+Cなる消費者余剰の獲得には, もう1つのC
ただ,補助金支給 によるa
なる資源の浪費が含 まれていることに注意 しなければな らない。 自由貿易下で
は ハ
なる輸入額,それ と同額の輸出額を生産するのに投入された資源によっ
て,Y財のQQ′量が入手できた。だが今 や補助金下 で はC だけ余分 の資源 の
投入を必要 としているのである (
既 にもっと詳 しく説明 したよ うに)。 ただ こ
の C は小額であり,関税賦課の場合 に も同様 に発生 す る資源 の浪費 であるの
で,比較の議論を混乱 させないために,無視 して もよい。
(
4) 結局,関税賦課の場合 は,輸入量 (
貿易規模)の縮小 も大 きく,消章者
-9
8-
貿易政策の効果
余剰a+b+C
+d+eの真矢を釆たす。補助金支給 の場合 には, 消費量減少 を
来たさないことか らその分だけ輸入量減 は少ない。輸入可能財 Yの国内供給量
増加 といういわゆる保護効果 は,関税率 と補助金率がe
q
ui
v
a
l
e
nt
であ る限 り同
じである。 したが って補助金 による国内価格の引上 げ (
関税の場合にはそ うな
る)の回避 によってa+b
+Cなる消費者余剰が失われずに済む. またd+eな
る消費者余剰 も輸入 によって,失われずに済む。 したが って(
a+b+C+d+e
)
なる消費者余剰が関税賦課の場合には減少するというl
os
s
を伴 うのに, 補助金
支給があればそれが失われずに済む ことになる。
そのような違 いが発生す る最大の原因は,前者の場合には,関税分だけ割高
になる国内価格 に従 って消費パ ター ンが決め られるのに,後者の場合には低 い
国際価格 に従 ってそうするか らである。 この他 に,一方では閲税収入が政府の
手 に入 るのに,他方では政府が補助金を支給 しなければな らない, という違 い
が生ずる。 この相違 は,民間部門外の政府部門の問題であるとして別に論ずる
ことに したい。
(
5)
外国か らの供給が逓増価格でなされる場合には,若干の追加的考慮を必
要 とする。 この場合 には自国の国内生産量が増え,その分だけ輸入量が減ると,
外国の供給価格 (自国の輸入価格)が低下す る。そ うす ると自国の需要量 は増
加 し,全消費量が反 って増加することさえありえる。そうなれば勿論消費者余
剰 は保護措置前 よりも増加す る。 こういう状況を,拙著 『
応用国際経済学』pp.
1
7
2
-1
7
4では解明 しておいた。だが こういう効果 はきわめて限 られ るであろ
う。 けだ し,全消費量がふえれば,輸入量が増加 し,外国供給価格 はかえ って
逓増 に転ずるか らである. このようなケースは,最適関税論 において,相手国
のオファー曲線の上で, 自国の無差別曲線を高め うる範囲があるが,そ ういう
場合に限 られるであろう。
純粋一般均衡分析
さて,純粋一般均衡分析では生産補助金の効果 はどのように表現 されるであ
ろうか。繰返 しになる点があるが,輸入関税の効果 と比較 しつつ検討 してみよ
う 。1
7
)
前掲図 4を見よう。
(
1
) 自由貿易下では,B 点で生産 し,C 点 で消費す る。 国際交易条件
-9
9-
(
p
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第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
F 線の傾斜) -生産の限界変形率 -消費 (
効用) の限界代替率 となる。 アウ
タルキー均衡 (
図示 してないが,A 点 より左側 にな る) 下 の無差別 曲線 に く
らべ,U3の水準にまで大幅に厚生水準が高 まる。
(
2) 生産補助金下ではA 点 に生産串が移 る。輸入関税 (
関税率3
0
0%) の場
合 にもA に移 るとした.A はDD′というⅩ, Y財の限界生産費比率が国内価
格比率 (
関税込み) と等 しくなる点である。PF 線 とDD′線 とのスロープの
差が関税率に相当す る。 したが って,PF 線 とDD' 線 とか ら成 る欽状定規 を
カ
ナメ
作 り,その要を生産可能性曲線TT′ の上をスライ ドさせて行 くことによって,
A 点を求めることができる。生産補助金 の場合 に も, そのt
a
r
i
f
fe
q
ui
va
l
e
nt
を同率 (
3
0
0%) にす るな らば (これは比較のためであ るが), や は りA 点 に
特化
生産点が定 まる. このB 点か らA 点への生産点の移行 とい う生産調整 (
の後退) に伴 って,消費点がC か らC′点へ移 り,厚生水準 が U3か らU2へ低
下す るという効用所得の低下が生ず る。それは関税や補助金 という貿易障害 に
基づ く貿易利益の減少 (
生産上の損失)である。
(
3
) 上の生産の変動が生ずるだけでな く,貿易障害 により消費パ ターンも変
容を こうむ り,消費上の損失が生ず る。 しか しこの点で輸入関税 と生産補助金
とでは違いが発生す る。関税の場合には,(
通説ではな く)小 島説 によると,
消費点 は国内価格比率 -消費の限界代替率 となるC
′に決 ま り, 厚生水準 はU。
にまで大幅に低下する。Y財の5
C
′相当量が関税収入 として, この民間部門の
t
r
ans
f
e
rされ)政府部門の手に入 る。 これに対 し,
システムか ら取上げ られ (
補助金の場合 には,消費点 は国際価格比率 (
交易条件) -消費の限界代替率 と
国際価格比率)上のC
′点 にきまる。厚生水準 はU2になる. これ
なる,pA線 (
7
は自由貿易下のUaにくらべ,上の生産上の損失分だけ低 くなる。 これ はC′
なる補助金が政府部門か ら民間部門へ供与 されることによって達成 されるわけ
である。 ここで補助金率 S-C′7
/C′6 は関税率t
-C′7
/7
1
6 とe
q
ui
va
l
e
ntで
ある。i-3
0
0% とすれば,S-i
/ 1+i
-7
5
% ということになる。 このよ うに
消費上の損失が関税 と補助金では大 いに異なって くる。関税の場合 には,関税
収入分だけ民間部門 システムか ら流出す るので国内価格比率に従 って消費点を
決めねばな らない。 これに対 し,補助金の場合 には補助金 レントだけ民間部門
へ流入するので国際価格比率 に従 って消費点を決めることができるか らである。
したが って輸入可能財 Yの国内生産を拡大 したい
-1
0
0-
(
B,
点とA点 の垂直距離 た る
貿易政策 の効果
Aβ量) と同 じ目的を達成するには厚生水準の低下 の少 ない生産補助金 の方 が
輸入関税 よりも優れている (
p
r
e
f
e
r
a
b
l
e
である) と結論せざるをえない。
部分均衡分析 との対応関係
図 4の純粋分析 と,図 3の輸入関税および図 5の生産補助金の部分均衡分析
との対応関係を吟味 してみよう。部分均衡分析 は本来 はもう 1つの輸出可能財
Ⅹにおいて生ず る変化を考慮 にいれねばな らない。それが純粋一般均衡図では
明確 に示 されるわけである。
最初に生産側の損失 について見 よう。図 3で も図 5で も,輸入可能財 YのQ
Q'量の増産が可能 になるとしたo これに対応 して, 完全雇用 と輸 出額 -輸入
顔 (
貿易均衡)を維持す るよう,輸出可能財Ⅹにおいて減産が行われるわけで
ある。 このことが図 4のβ 点か らA 点への生産点の移行 と して正確 に表現 さ
れる。つまり図 3,図 5のY財増産量 Q
Q′が,図 4で はA8
量 と示 され るわけ
である。ただ し後者の方がはるかに大 きくなっているのは,部分均衡図では関
q
u
i
v
a
l
e
nt
な補助金率)を2
5
%としたのに,純粋分析図で は, そ
税率 (それとe
れを3
0
0
% とおいたか らである。 これは図を明白にす るための便法 にす ぎない。
このため純粋分析図における諸効果が著 しく誇張 されたものになっていること
に注意 されたい。
図 3について も同様だが)では, (
1
)
a+b+C な る補助金 レン トが要
図5(
るとした。 これは国内生産量O
Q′を実現 す るために必要 とす る総 コス トの増
分である。総 コス トの増加 ということは, それだけ限界非効用が増加 したこと
であり,逆 に言えばそれだけ限界効用が減少 したことである。図 4には,総 コ
0
Aに相当す るとあ らわれる。それに伴 い限界効用 (
厚生)
ス トの増分がY財1
へ低下すると表現 されるのであるo
の水準がU3 か らU2
もう少 し詳 しく言 うとこうである。(
前稿で解明 したことだが)。 図 4におい
B量を輸出すれば, 自由貿易時には国際価格比率
て,Ⅹ財の8
(
PP'線のスロー
0
8
量が入手 (
輸入)できる。 ところがB 点 か らA 点へ生
プ)の下でY財の1
産調整す ると, しば しば強調 したように貨幣稼得所得 は不変 だが, Y財 のA8
●●
量 しか得 られな くなる.つまりY財入手平均 コス トは点線 のAB線 のス ロープ
に割高になった。 したが ってY財の1
0
A相当量の,生産調整による損失 が生ず
るのである。
-
101-
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第 3巻第 1号 (
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9
3
)
結局,図 4の1
0
A 量のY財 は,図 5のa+b+Cな る,Y財国内生産増 のた
めに要する総 コス ト増に等 しい。 したが ってそれだけ補助金が支給 されなけれ
ば,消費者余剰の減少っまり厚生水準 の低下 を釆 たす。 事実輸入関税 の場合
(
図 3) にはそ うなるのである。
(
i
i
) もう 1つ図 5 (
図 3で も)で指摘 した もう一度損失 として計算すべ きC
という問題 (
或 いは図 1の⑦ という問題)がある。 これは輸入代替生産 に伴 う
,QQ′なるY財を自由輸入 で調達すれば
資源の浪費である。つまり (
図 5で)
労
- なる支出で済んだ ものが,国内生産に代替すると,Cなる余分の資源 (
働 と資本) の使用を必要 とす ることである。 これは図 4でY財の A9量 と表現
される。 ただ し点線9
Bは国内価格 (
関税込 み)線DD′と平行 であ り,A点 で
●●
β量 という代価 (
輸出)によっ
の限界生産費比率 と同 じである。つまりⅩ財のβ
て入手 しうるY財の量 は僅かに98であ り, Y財のA別こ相当す る資源 の浪費が
生 じている。 このA9
量が図 5 (
或 いは図 3)では三角形Cであった (
図 1で は
6)
であった)のである。
0
1
9
相当量が補助金 レントとして支給 されな
そこで,図 4で見 ると,Y財の1
B量 と6
A量 とが等 しいよ うに描
ければな らな くなる.図 4はたまたまⅩ財の8
0
9
量 と等額のC′7量が補助金支給額 になるのである。
かれているo それ故1
そ こで次 に,消費調整の損失を検討 しよう。 これは単純交換の場合の貿易利
益の検討 と全 く同 じである。それは交易条件が有利である程貿易利益が大 きく
なる (
或いはその損失が小 さくなる)
。 そ して貿易額が拡大す る (
或 いはその
縮小が少な くなる) ということである (ただ しオファー曲線の正常な範囲内で)
0
(
a
) 図 4で,Y財のC′
7量相当の補助金支給 があ る限 り, 国際交易条件pA
線 に沿 って最高の厚生水準を実現 しうるC′点 に消費パ ター ンを決 め る ことが
できる。 したが って貿易三角形 はC′6
Aとなる. これは自由貿易下 よ りは小規
模の貿易であ り, 自由貿易 より低 い厚生水準を達成 させる。その差 はもっぱ ら
生産調整か ら生ずる損失であり,消費側の利益 は同一である。
図 5の部分均衡図では,消費者余剰 はa
+b+C
+d+eであって,補助金支給
があれば, 自由貿易下 と同 じ利益が得 られることになる。必要 とされる補助金
総額 は (
a+b+C
)である。 これによって面積- (図 4ではY財のA8
量) に相
当す る輸入量の減少が生ず る。 この貿易規模の縮小に応 じて,国際交易条件 は
同 じだが,厚生水準が自由貿易下 より低下す るのである。
-1
0
2-
貿易政策 の効果
(
b) 輸入関税の場合には (
図 4で), Y財が関税率だけ国際価格 よりも割高に
DD′のスロープ) に従 って消費パ ター ンがC
′点 にきめ ら
なる国内価格比率 (
れるので,厚生水準 はUoに著 しく低 くなる。Y財の5C
′量 に相当する額が関税
収入 として政府部門へ トランスファーされる。民間部門 は4
A量 のⅩ財 を輸 出
′
4量のY財を入手することになる。4
A量 のⅩ財 の輸 出によっ
して,僅かにC
て国際市場では6
4量のY財の輸入が本来 は可能である。だが閲税収入相 当額
(
Y財の5C′量) は実際に輸入 に支出されないので, それだけの輸 出超過 とな
る。
図 3の部分均衡図で見 るとこうである。i%の関税賦課 によ り国内価格が国
+b+C
+d+e
なる消費者余剰を失 うだけでな く, 国内
際価格 より高 くなり,a
生産増加 に伴 う資源浪費たるもう 1つのC なる損失をこうむ る。 この うちα
+
b+C
+Cは生産調整に基づ くロスであって,補助金の場合 と同 じである。
d は関税収入であるが,それが民間部門に還元 されるわけではないか ら, d
も民間部門の消費者余剰の損失 になる。残 りのeは,関税 の場合 にはC′C 量
(
図 3)のY財の消費量減少,それだけの輸入量減少 に基づ く消費者余剰 の減
少である。 このe という損失 は補助金の場合には生 じない. したがって図 4で,
4 量だけ関税の場合 には補助金の場合に くらべ貿易規模 が
輸出量ではかつて6
図 3) に相当す る消費者余剰 も,補助金 の場合 に
縮小する。 また閲税収入 d (
は減少 しない。 したが ってd+eだけ,関税の場合の方が消費者余剰の減少分
が補助金の場合に くらべ多 くなるのである。
こうして,図 4で見 ると,補助金の場合にはU2という厚生水準が達成 され
るのに,関税の場合 にはU。という低い厚生水準に至 らざるをえない。 その差
は,d +eという消費者余剰を関税の場合 には失 うのに補助金の場合には失わ
ないこと,な らびに前者では関税収入が民間部門 システムか ら流出するのに後
者では補助金 レントだけ民間部門へ流入す るという二つの相違か ら生 まれるの
である。
補助金の もう1つの利点
輸入関税 と生産補助金ではその効果 において もう 1つ重要な相違が発生する。
た しかに図 3と図 5が示すように両者 はともに QQ′量 という国内生産の拡大
(そ ういう保護 目的)を可能 にす る。だがその次のステ ップと しての動態効果
-1
0
3-
駿河台経済論集
第 3巻第 1号 (
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3
)
においては大 きな違 いが生ず るのである。
輸入関税 (
後述の数量的輸入規制 Q.Rなども) という水際輸入制限措置は,
外国か らの競争を減殺ない し遮断 して,それだけ国内生産 に市場 (
需要)を保
●●●
証す るという,間接的国内生産振興策である。だが この間接的保護措置によっ
て本当に国内生産が拡大するかどうかはわか らない。拡大する保証 はない。或
るターゲ ットを達成す るには,それに直接 に役立つ手段を採 るべ きであると言
われる。生産補助金支給 は,生産拡大への,イ ンセ ンティヴを与え,かつ補助
金だけ低い価格で販売 し需要を拡大 しうるという保証を与える。生産補助金 は
●●●
より効果的に働 く直接的国内生産振興策である。
もう一歩進めて,一時的に (
数年 にわたり)補助金を もらえば,その間に企
業の生産性が改善 されて,その後 は補助金な しで も, 図 5のS
S" 曲線 に沿 っ
て市場へ供給できるようになるとしよう。生産性改善がいっそう進んで供給曲
線がR を通 る,或 いはさらにR より右側を通 るということになれば, 輸入 は
不必要 にな り, さらには輸出可能になる。 このように,生産性改善を もた らす
PAP) と呼ぶ ことがで きる。
産業 に補助金を出すのを積極的構造調整政策 (
また,輸入代替そ して輸出にまで伸びていけるような産業を選んで補助育成杏
はか るのが幼稚産業育成論であるr
,
図 4の純粋一般均衡 モデルで言 うとこうである。補助金が輸入可能財生産 に
おいて有効に活用 され,その生産性を高めコス トを引下げさせたとしよう。補
助金 はそういう構造調整の直接的促進手段である。かかるY財生産の能率化 に
成功すれば,図 4の生産可能性曲線TT′ は縦軸 に偏 った形で上方 に拡大す る。
この拡大生産可能性曲線 はPF 線 に,B 点 とC 点の中間のどこかで, 接す る
ようになる。 そうなれば もはや補助金 は不必要 になり自由貿易に移 ることがで
きる。つまり補助金 は自由貿易に到達するための積極的構造調整を促進す る重
要かつ不可欠な手段である。補助金 はかか る動態的効果を もっ限 り,それ自体
ポジチブな貢献を果たす ものであって,NTB (
非関税障害) と して一概 に否
定 されるべ きではないのである。
これに対 し輸入関税 は,関税分だけ外国の競争を弱めそれだけ市場を国内生
産者 に与えることになるにす ぎない。国内生産者 は国内価格が関税分だけ高 く
なるのでそれに応 じてい くらか生産量を拡大するであろう。 しか しこれは国内
企業の間接的保護 にす ぎない。生産性改善, コス ト引下げといった積極的構造
-1
0
4-
貿易政策 の効果
調整のための誘引とか資金 は何 も与えない。 けだ し関税収入 は消費者 にい くら
か還元 されるか もしれないが,生産者 (
企業) に給付 されるわけではないか ら
である。
Q.R は,外国の競争を遮断する効果においては輸入関税よりも直哉 的でか
つ大 きいか もしれない。だが構造調整への誘引 とか手段を与えないことにおい
ては, Q.R も輸入関税 と何 ら違 いがないのである。対米 自動車輸 出 自主規制
VER について も同様であって, 米国が 自 らの自動車産業 を再生化r
e
v
i
t
a
l
i
z
e
す るためには,VERの他 に何 らかの補助政策 による積極的構造調整 を行 うこ
とが不可欠である。
Ⅵ
Q.
R (
輸入数量規制)の効果
関税 とQ.
Rの同等性
Q.
R(
q
u
a
nt
i
t
a
t
i
v
eo
rq
u
o
t
ar
e
s
t
r
i
c
t
i
o
n ) とい うのは,輸入可能 財 Y
(たとえば乗用車)の年間輸入数量を一定のクォータ量 (たとえば1
6
5
万台) に
d
i
r
e
c
tc
o
n
t
r
o
l
)である。1
8
) この直接統制 を輸 出国政府
限るとする直接統制 (
の責任にお しつ けたのがVER (
v
o
l
u
n
t
a
r
ye
x
po
r
tr
e
s
t
r
a
i
n
t
)すなわち輸 出 自
L
9
)Q.
氏(
或いはVER)の実施 により, 自由輸入の場合にくらべ,
主規制である。
輸入量が減少 し,それだけ消費量が減少するので,国内価格 は騰貴する。その
ため国内生産量が増加する (そういう保護効果が もた らされ る)。 これ らは輸
入関税賦課の効果 と同 じである。ただ後者の場合 は,関税率だけ国内価格が騰
貴す るのに応 じて消費者 (
および国内生産者)が需要量 (
生産量)を調整す る
という市場 (
価格) メカニズムを通 じたいわば間接的輸入規制であるのに対 し,
Q.
Rは直接的数量統制であるという点が異なる。Q.
Rが多用 されるよ うにな っ
たのは,輸入国政府当局者 にとって輸入削減 という効果を,関税 に くらべ, よ
り確実に実現 しうると期待 されるか らであろう。 しか し日本 の対米 自動車VE
R の経験 に見 られるように,米国の輸入数量 は確実 に減少 す るが, 高級化,
高単価化を伴 うと,輸入額 はかえ って増加す るということにもな りかねない。
図 6を見よう。 これは図 3の輸入関税ケースと同 じである。ただ一点だけが
違 う。国内供給 (
限界費用)曲線S
S′に平行 なq
S〝が追加 されて いる。2
0
)両線
5%の関税
の差たるPq-F R′ がクォータ量である。それを比較のため t -2
-1
0
5-
駿河台経済論集
第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
Py
Q
g
C' C
注)d-DF1
2
R′
図 6 Q,R
(
輸入可能財Y)
率の下での輸入量たるQ
′C′ (図 3)と同 じになるように した。つま りこのQ.
Rのt
a
r
i
f
fe
q
u
i
v
a
l
e
n
t
は2
5
%である。
Pq
S〝となる。すなわ
こうす ると, この輸入可能財 Y市場への供給曲線 は,S
ち,S
P線 に沿 って先ず国内生産で,OQ量が供給 され, つ いでPq
量が クォー
タ輸入 され (自由輸入の場合にはPR量 になるのだがそれより少ない量にクォー
タ制限 される)
, さらにq
R′(-PF ) に沿 ってQQ′量が国産供給 されるので
ある。 このクォータ下の供給曲線S
Pq
S〝が需要曲線DD′と交 わ る点R'で均衡
がきまるo こうして図 3の輸入関税ケースと全 く同 じ結果に到達するのである。
ということは,図 3と同様 にQ・
Rによって も (
a+b+C
+d+e
)+C な る消費
者余剰の減少 という損失を こうむることになる。
クォータ ・レント
ただ次の一つの差が発生す る。d は関税収入 であ り, 明 らか に政府部門が
-1
0
6-
貿易政策 の効果
入手する。Q.
Rの場合にこのdが誰 に帰属するのか明 らかではない.それは こ
のQ.
R制のや り方 (
a
d
mi
n
i
s
t
r
a
t
i
o
n
)に依存す るといわれる. このdを クォー
タ ・レン トと呼ぶ ことに しよう。
(
1
) 対象 Y財 の輸入許可 (
l
i
c
e
n
c
e
)権が政府の手で公開競売 (
a
u
c
t
i
o
n) に
付 されるものとすると,輸入価格 と国定販売価格の差をめどに して輸入許可権
の値段が決まり,その差たるクォータ円 レントは政府の手 に入 る. それは関税
収入 と全 く同 じ結果 になる。
(
2) 日本の小麦や牛肉の輸入のように,政府機関 (
食糧庁 とか畜産振興事業
団)が介入 して国内販売価格を決める場合には,輸入価格 との差額たるクォー
タ ・レントはやはり政府の手 に入 ることになる。
(
3) 貿易商社 (
多数)のごとき輸入業者或いは販売業者
(
d
e
a
l
e
r
)にクォー
タ量が割当て られる場合 には, レントは輸入業者の手 に入 る。その際輸入権を
政府当局か ら獲得するため贈賄 などの不正行為が発生 しがちである。
(
4) 日本の対米 自動車輸出自主規制 (
VER)のよ うな場合 には, 外国 (日
本)の輸出割当てをうけたメーカーの手 にクォータ ・レン トが入るといわれる。
またこの点で輸入数量規制を行 う自国に レントが入 る通常のQ.
Rと異なって く
るといわれる。 だが, 日本の輸出メーカーが米国のd
e
a
l
e
r(
販売業者)にリベー
トす るとなると, レントの一部或いは大部分が米国 (自国) に帰属することに
なる。
このほかいろいろいなケースがありうるわけであるが, クォータ ・レントは
関税収入 と類似 して,ⅩとYの 2財 についての生産者 と消費者か ら成 るわれわ
れの固有 システムとは違 う第 3部門に流出するものと取扱 った方がよい。 この
第 3部門は政府であることが多い。そうでなければ,輸入業者 とか販売業者 と
か (しか も自国のかそれ とも外国のか という違いも伴 う) という,生産者 ・消
費者以外のものに帰属す る。少な くともこのクォータ ・レントが消費者 (
購買
者) に戻 されるわけではない。 そういう意味でクォータ ・レントを,関税収入
と同様 に,第 3部門の問題であるとして棚上げす ることに したい。
独 占的行動 と癒着
Q.
R制下であると輸入数量が一定量 に固定 されるので, クォータ輸入量 を除
いた国内市場 (
需要) は国内生産者 に確実 に保証 されることになる。そこで こ
-1
0
7-
駿河台経済論集
第 3巻第 1号
(
1
9
9
3
)
の保証 された (
s
he
l
t
e
r
e
d) 市 場 を め あて に国 内生 産者 は独 占的価格 づ け
(
mo
no
po
l
ypr
i
c
i
ng)を行 い易い。つまり限界生産費 と保証 された需要か ら得
られる限界収入 とが一致す る点での生産 (
供給)量 にとどめ,その限界生産費
よりもはるかに高い価格で販売 して,独 占利潤を極大 に しようとするのである。
こうなると,国内価格 は関税賦課の場合 よりも高 くな り,Q.
Rのt
ar
i
f
fe
qui
v-
Rとは, 最初 に解明 し
a
l
e
ntはより高率のものとなる。 したが って,関税 とQ.
たこととは異なって,同等ではな くなる。
2
1
)っまりQ.
Rの方 が よ り大 きな消費
wo
r
s
e
)貿易障害であるとい うことにな
者余剰の損失を もた らす,より悪 い (
る。
vERの場合,外国
(日本) の輸 出者 も米国の生産者 の独 占的行動 に同調
(
或いは結託) して,割当て輸出量をより高い価格で販売 し,より多 くのクォー
タ ・レントを稼 ぐ (それが 日米 いずれに帰属するにせよ) ことを好むことにな
りがちである。22)
純粋一般均衡図
Q.
Rの効果を純粋一般均衡図 (
図 4) にはどう表現 した らよいのであろうか。
生産補助金効果の作図においても同様な困難があるわけであるが,一定量のクォー
タ量が与え られただけでは,生産可能性曲線 TT′上のどこへ新生産点を位置 さ
a
r
i
f
fe
qui
val
e
nt
がわか った上で,
せてよいかが決め られない。結果 としてのt
初めて新生産点が決め られるか らである。
拙著 『
応用国際経済学』p.
1
8
9の図 4・5およびその説 明たるpp.
1
9
8
2
0
0に
Rが導入 されるものと仮定 し, 本稿 図 4のβ
おいては, 自由貿易状況の下でQ.
点が依然 として均衡点であるとして作図 した。 しか しこれは間違 いであるとし
Rの結果,輸入可能
て, ここで撤回 したい。 けだ し本稿図 6に示すように,Q.
財 Yの増産が行われ,それに対応 して輸出可能財Ⅹの減産が生ず るものとすれ
ば,新生産点 は図 4のB 点ではな くA 点でなければな らない。Q.
Rの結果 と
a
r
i
f
fe
q
ui
va
l
e
nt
が既述の関税率3
0
0
%のケースと同一 な らばそ う
して生ず るt
なると見ざるをえないのである。
Q.
Rの結果,生産点がA に移 るな らば,そ してt
a
r
i
f
fe
q
ui
v
al
e
nt
が3
0
0
%で,
国内価格がDD′線の傾斜 になるな らば,関税賦課 と全 く同 じにな る. すなわ
′
4量のY財が クォータ輸入量であり,5C
′量が クォー タ ・レン
ち (
図 4の)C
-1
0
8-
貿易政策 の効果
トとして第 3部門へ流出する。 したが ってU。なる低 い厚生水準 しか達成 で き
ない, ということになるのである。
だが逆に, クォータ輸入量がC
′
4量 と与え られたか らとして,そのことだけ
か ら純粋分析図にQ・
R効果を明示す ることは, きわめて困難なことである。 図
6のごとき部分均衡分析の助 けを必要 とす るのであ る。 それによ ってt
a
r
i
f
f
が判明 した上では じめて図 4のA 点が決め られ うるのである。
e
q
ui
va
l
e
nt
Ⅶ 三部門モデル
通
説
三種の レン トをどう取扱 うべ きか という問題が残 っている。すなわち(
a)
関税
b)
生産補助金 レン ト, (
C)
クォータ ・レン ト, これであ
収入 という公的 レント, (
る。
(
a)
の関税収入の通説による取扱 いにつ いて は, 天野教授 の整理 に従 って,
(al
)政府 自身 によって支出される場合 と,(a2
)何む勺 の方法で民間の可処
分所得 に加え られ,民間の需要関数 に従 って支出される場合 とに大別 されるこ
とを,既 に触れておいた。
(a2
) についての最 も単純な取扱いは,通説の代表 と言 え るコ-デ ンの も
di
r
e
c
t
のである。 いわ く 「
政府の手 に入 った関税収入 は, 即座 に, 直接税 (
3
) というものである。
t
a
xe
s
)の引下げによって,社会 に還付 される」2
この場合 には,た しかに還付 された直接税分だけ,関税負担によって失 った
消費者余剰 (
図 3の面積 d) が回復 されることになる。 したが って通説 の結論
(
第 2種関税効果)のように,関税負担分 (
関税収入) は消費者余剰 を減少 さ
せないと取扱 うことになる。
だが これは理論的論弁 にす ぎないと思われる。関税が課 された数種の輸入可
能財の購買者 (
消費者)を見出 し,それに対 して関税負担分 と等額の直接税を
還付するのでなければな らないが,そのようなことが実際に可能だとは思われ
ない。政府予算の均衡 は保たれるであろう。 そのための論弁 にす ぎないように
疑われる。
また,か りにコ-デ ンの案が実施 されるとして も,還付 された直接税 によっ
て輸入を増すわけではない。還付直接税つまり関税収入分 に相当す る輸入 は行
-1
0
9-
駿河台経済論集 第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
われない。 したが ってその分だけ輸出超過 になると解 した方がよい。
次 に(
b)
補助金 レントについては, コ∼デ ンはこう言 う。 「政府 による補助金
支給額 は直接税の追加徴収 によってカバーされる.」
2
4
) これ も政府予算 は影響
をこうむ らないとする理論的論弁にす ぎない。直接税の増徴が(
i
)
補助金を受取
i
i
)
利益を享受する購買者 (
消費者) に課 さ
る生産者 に課 されるのか,それとも(
れるのか も明 らかでない。(
i
)
の場合には,補助金分だけ低 い価格で販喜 してお
り余分の もうけを得ているわけでないのに,直接税を増徴 されることになる。
それでは補助金をもらうイ ンセ ンティヴは失われて しまう。また(
i
i
)
の場合には,
直接税増徴の対象 となる購買者 (
消章者)を特定化す ることは実際上殆 ど不可
能であると言 う他 はない。
(
C)
のクォータ ・レン トについては, コーデ ンは何 も明言 していない。 しか し
(
i
)
それが政府の手に入 る場合には,関税収入 と同様 に取扱 う (その分だけ直接
税を軽減する) とい う回答になろう。(
i
i
)
クォータ ・レン トが自国民 に しろ或 い
は時には外国人に しろ民間に帰属す る場合には,それは政府予算 に無影響であ
るか ら,究明する必要 はない, ということになろうか。
輸
しか し伍)
の場合で も,われわれが想定 しているⅩ,Y2財の生産 と消費 (
出と輸入を含む)の均衡 システムの外部 に属す る流通業者の手 にクォータ ・レ
ン トは帰属す ることになる。 したが ってⅩ,Y2部門の他 に第 3部門 を想定 し
p
r
od
uc
t
i
o
n
て検討 した方がよいということになる。 そ して これは,生産費 (
c
os
t
)だけでな く各種流通販売経費 (ここでのクォータ ・レン トの他 に,運送
費,宣伝費,マーケティングコス ト, さらに関税など)或いは取引費用 (
t
r
a
ns
-
ac
t
i
onc
os
t
)をも取入れて,比較生産費その他 の貿易理論 を再構築 しなけれ
ばな らない, という大 きな問題 にも連なってい くのである。
第 3部門
要するに, コ-デ ンのような取扱 いは,政府財政が均衡するということ,従 っ
て第 3の政府 (
或 いは公共)部門は導入 しな くて もよいということのためであ
ろう。 また,関税収入 は政府の歳入になる (
他の租税 と同様 に)のに,補助金
は逆 に政府の支出になるか ら,政府の立場か らは,通常,関税の方が補助金 よ
2
5
)だが コー
りも好 ま しい,或いはや り易い保護手段であるとされがちである。
デ ンのように,閲税収入相当分 は直接税の軽減 (
つまり減税) によって民間に
-1
1
0-
貿易政策の効果
遺付 されるし,他方,補助金 レント相当分 は直接税の増徴 (
増税) によってカ
バーされる, とするのであれば,政府の立場か らは,関税 と補助金 とは無差別
であって, どち らかがより好 ましい保護手段だとは言えな くなる。
だが,「
均衡財政の乗数効果」が問われたように,関税賦課 と補助金支給 と
いう二種の政府介入 は, たとえ均衡財政が保たれるとして も,民間部門の厚生
には既述のように違 った効果を もた らす。その観点か ら関税 と補助金 との選好
が決め られねばな らないということになる。
そこで,Ⅹ財部門 とY財部門 という,民間 (
pr
i
vat
es
e
c
t
o
r
) の二部門の他
に政府部門 という第三部門を設定す る必要がある。 その上で,(
1
に れは既 に行
なってきたところであるが,民間部門にとっての関税 と補助金それぞれのc
o
s
t
とb
e
ne
f
i
tを検出す る。 (
2)
政府部門において,関税収入が他の政府歳入 とな ら
んでいかに決め られるか,他方,補助金が他の政府支出 (
人件費,国防費,福
祉費など) とな らんでいかに決め られるかを問 う。 それは具体的には政府予算
ubl
i
cc
ho
i
c
eの問題 である。
の歳入 と歳出をどう決めるかということである。p
理論的には,各歳入の もつ限界 コス トが均一 になるように諸財源を決める, ま
た各歳出のもっ限界効用が均一 になるように諸支出を決め,かつ歳入 と歳出の
均衡を得 るようにするということである。われわれはⅩ,Y二財についてのフ
ル均衡を明 らかに したが,それと同 じことを政府部門 につ いて考 え る のであ
る。
さらに(
3)
一国の資源 (
労働 ・資本)が民間部門 と政府部門を通 じて,最適
に配分 され,かつ最大の厚生を もた らすよう活用 されることを考究 しなければ
な らないのである。
この(
2)
の問題 についてはここで究明する余裕 もない し,その能力 もない。わ
q
ui
va
l
e
nt
な補助金 とが与 え ら
れわれは,最適均衡予算の下で,関税 とそれとe
れたものとして,両者の民間部門への厚生効果 の違 いを明 らか に したのであ
る。2
6
)関税 と補助金の比較問題 はこの程度 にとどめておき,(
3
)
の問題にアプロー
チする方法を少 しく検討 しておきたい。
非貿易財モデル
(
3)
の問題へ のアプ ローチを可能 に したのが S
al
t
e
rや Co
r
d
e
n2
7
)が開拓 した
「
貿易財 -非貿易財図」である.図 7を見 よう。それは図 4の ごとき純粋一般
-1
1
1-
駿河台経済論集
第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
D
Z H
G
非貿易財
図7
均衡分析図の拡張応用であるが,内容 は大 いに違 う。 図 7の秘訣 は縦軸 に採
る貿易財 (
t
r
adabl
egoods
)T というコンセプ トである。 われわれ は輸 出可
能財 (
e
xpor
t
abl
e
s
) Ⅹと輸入可能財 (
i
mpo
r
t
abl
e
s
) Yという 2部門を分析 の
対象 としてきた。 この両財を合成 したものが貿易財 という概念である。
その合成がいかに して行われ うるかをコ-デ ンは詳論 していないが,私の解
釈 はこうである。拙著 『
応用国際経済学』p
p.
81
8
6において明かに したように,
オファー曲線或いはそれ と同 じ性格をもっ相互需要曲線 というものは,Ⅹ財 と
Y財の交易条件 (
相対価格比率)の変化につれ,一つの国の立場か ら見て,常
に輸出額 -輸入額なる貿易均衡を達成す るようにオファーする時の均衡貿易額
或 いはⅩ財の量)の変化 としてあ らわ した ものである。 この均衡
をY財の量 (
貿易量を除いた,輸出可能財Ⅹと輸入可能財 Yとの合計の国内生産量を図 7の
縦軸 に貿易可能財 (
略 して貿易財)T として表現す るのである。
-1
1
2-
貿易政策 の効果
縦軸 にはもう 1つ, Ⅹ財 とY財への合計消費支出額を T 財ではか って示す。
したが ってⅩ,Y両財生産か ら得 られる稼得所得 と,両財への支出所得 に差が
生ずる場合 には,その差が出超あるいは入超 という貿易インバ ランスを示す こ
とになる。
次のように解釈 した方がわか り易いか もしれない。縦軸 にとる貿易可能財 T
の量 はⅩ財の輸出分を含む生産量 と,Y財の輸入分を除いた国内生産量 との合
計である。両財の国内生産分については最適資源配分 に従 って資源 (
労働 ・資
本)が使われている。輸入分 は, Yの輸入額と等 しい輸出可能財Ⅹの輸出によっ
て支払われている。 このⅩ財の輸出分の生産 に使われた資源量 と, Y財の国内
生産 に使われた資源 との合計が,貿易可能財部門 Tに配分 される資源量 という
ことになる。そういう意味において,Ⅹ,Y2部門を合成 した貿易可能財部門
Tなのである。その中には,輸出額 -輸入額 となり,最大の貿易利益を実現す
るようなⅩ部門 とY部門 との間の資源配分が含み こまれている。そ して第 3部
門 Zと比較 して,最適資源配分 になるようどれだけT部門に資源が配分 される
かを問 うのである。他方,最高の厚生を達成す るように,T部門と Z部門にど
れだけ消費がなされるかを求めるのである。
このように して,輸出可能財Ⅹと輸入可能財 Yとの 2部門であった ものを,
貿易可能財 Tという 1部門に統合す ることがで きる。 これは 1つの優れた便法
(
de
vi
c
e
)である。そうできるともう 1つの部門 Zを導入 して, T と Zの 2部
門にいかに最適資源配分をするか, またいかに最適消費配分をす るか,そ して
貿易を含んだ一国経済のフル均衡を明 らかにす ることがで きるようになるので
ある。そこにはこれまで使 ってきた 2部門純粋分析の方法をそのまま適用する
ことがで きるわけである。
横軸の第 3部門 Zとして何をとるかはf
l
e
xi
bl
e
である。 そ うであ るか ら, こ
のモデルをい くつかの問題の解明に応用できる (
次第に明 らかにするように)
のである。 コ-デ ンはこの Z部門を非貿易財 (
nont
r
adabl
e
s) と名づけ, そ
の代表 は国境を越えて移動 しないサー ビスであるとしている。だがそ う限 る必
要 はない.X,Y2財以外の第 3財であればいかなる財 (
サー ビスも含む)で
あって もよい。それは解明 したい問題のいかんによる。 また,すでに縦軸のT
について もそうであったが,横軸の Zも財の量である必要はなく,貨幣額であっ
てよい。そうす ることによって,物々交換 (
バーター)を対象 としている伝統
-1
1
3-
駿河台経済論集 第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
的純粋分析を転 じて,貨幣的マクロ分析 に連なるものにす ることができる。 こ
れが このモデルの重要な貢献である。事実 コーデ ンは図 7のごときモデルを,
貨幣的国際収支調整 メカニズムを解明する基礎 に しているのである。
そうす ると,貿易可能財 Tと公共財 Zへの最適資源配分が行われれば,両財
生産の生産可能性曲線TZが描 き出せる。他方両財 の組合 わせ消費 か ら同一 の
効用 (
厚生)水準が得 られる無差別曲線が措 きうるものとす る。生産可能性曲
線TZと無差別曲線の 1つU3とが外接す るB 点が求 まる. このB 点が最高 の効
用水準を達成 させるこの経済 (自国)のフル均衡状態である。
このβ点ではZ財の生産量 -需要量 となる (
稼得所得-支出所得であるか ら)
。
他方,T財の供給量 -需要量 となるのであるが, この均衡量の中には,一部分,
Ⅹ財の輸出額 -Y財の輸入額 という均衡貿易が含 まれていることに注意 しなけ
ればな らない。すなわち,Ⅹ,Y財 についてそれぞれ国内生産量 -需要量であ
るわけではないのである。
公共財, よ り一
β 点における両曲線への接線 たる〆 のスロープは,Z財 (
輸出可能財Ⅹと輸入可能財 Y) との交換比
般的には国内財) と貿易可能財 T (
率である.A 点での生産可能性曲線への接線GG′ に くらべ るとB点での接線
,Z財
p+はより急な傾斜になっている。 ということは
(国内財) の価格 が相
対的に高 くな り,T財 (
輸出可能財 と輸入可能財)の価格が相対的に安 くなる
ことを意味する。 こういう変化 は為替 レー トがa
p
p
r
e
c
i
a
t
eされる (た とえば 1
ドル-1
2
5円か ら 1ドル-1
0
0円に円高化す る) と生 ず る。 したが って〆 線 の
GG′線 も) は,そのスロープが為替 レー トをあらわすと受けとっ
ごとさもの (
てよい。 また上のような相対価格の変化が生ず るので,A 点 か らB 点へのよ
うに,割高 になるZ財の生産が増加 され (それへの資源配分 が増 され), 割安
になるT財の供給,それへの資源配分が減 らされることになる。
この間に貿易 はどう変わるであろうか。輸出可能財Ⅹと輸入可能財 Yとの相
対価格比率或いは交易条件 は国際的に決まり不変であるとす る。 それにもかか
わ らず,為替 レー トが引 き上 げ られる (円高になる) と,輸出財価格 も輸入財
価格 もともに国内財価格 に くらべ割安 になる。そこで輸入可能財 Yの国内生産
量を減 らし輸入量をふやす刺激が与え られる。 また輸出可能財 Ⅹの生産量 と輸
出量を減 らす ことになる。 したが ってA 点か らβ 点へのよ うに,Y財 とⅩ財
もともに国内生産量が減 るか ら,貿易可能財 T部門への資源配分が減 らされ,
-1
1
4-
貿易政策 の効果
それだけ国内財 Z部門への資源配分が増やされるわけである。貿易 は,輸入量
が増 し輸出量が減 るのであるか ら,今 まで出超であったな らば貿易均衡 にもど
るという変化を来たす。その正確な輸入額 と輸出額の変化額 は,両財それぞれ
の超過需要の価格弾力性 に依存するということになる。 これが為替 レー ト調整
wi
t
c
hi
n
g (転換) 効果 とい う
の もっ,貿易財か ら国内財への生産 と需要 とのs
問題である。
関税の効果
われわれは, これまでの問題の解明のため,図 7の横軸 Zを公共財 (
p
u
b
l
i
c
go
o
d
s
)とし,その生産 と消費を取扱 う政府部門を想定す ることに しよう。28)
図 7において,B 点 はこの国 (自国)の自由貿易下のフル均衡状態であ った
としよう。 そこではⅩ財の輸出額 とY財の輸入額 とは均衡 してお り,為替 レー
相対価格比率)
トたる〆 線 のスロープは一定のⅩ, Y財の国際的交易条件 (
と対応 している。 そ してU3という最高の厚生水準を達成 している.
,
国内財) と くらべた Y財 の相対
さて輸入可能財 Yに関税を課す ると Z財 (
価格が高 くなる。のみな らず Y財 と一定の交易条件で交換できる輸出可能財 Ⅹ
のそれ も高 くなる。つまり貿易可能財 Tの対 Z財相対価格 は騰貴す る。か くて
関税下の相対価格比率PT
/Pzは,GG′線 のよ うに,為替 レー ト線 p'よ り
d
e
p
r
e
c
i
a
t
e
)
もスロープが緩やかなものになるo自国通貨の価値が切 り下がった (
一円安化 した-為替 レー トになるの と e
q
ui
v
le
a
n
tな結果 を もた らす ことにな
る。
GG′線 はA 点で生産可能性曲線TZと接す る。B点か らA点へ生産点が移 る。
国内財 Zの生産が減 り,貿易可能財 Tの生産 が増 す。 GG′線 は稼得所得 を も
あ らわす。A 点での生産 は Z財ではかればOG (T財 で はかればOG′) の稼
得所得 を生み出すのである。
GG′線 と平行なHH′線を引 こう。無差別曲線の 1ったるUl
がC点でHH′
線 に接す る。 このC点が関税下の消費点であり,HH′線 は支出所得 をあ らわ
す (
同時にそのスロープはT,Z両財の相対価格比率を示すが). C点がA点
の垂直下 にあるように括いたが, これは説明を簡単 にす るためである (
C点が
図示よりもHH′線上で左側 に来 る場合には,その点 とA 点 との差で あるT財
量 と等 しくなる)
0
とZ財の量の合計の価値が図示のAc
-1
1
5-
駿河台経済論集
第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
T財ではかってAc
量なる差額が生ずる。稼得所得がA 点なのに支出所得 はC
点であるので,Ac
なる輸出超過 (出超)を来たすのである。 このAcは関税収
量 と等価 た る Z
入で もある。横軸の Z部門を政府であるとす ると, T財 のAc
財のc
l量が, Ⅹ,Y財を生産 し,貿易 し,消費 している民間部門か ら,政府部
門に,関税収入 として, トランスファーされることになるのである。政府財政
はそれだけの歳入超過 (
黒字財政) になるのである。だが このような関税賦課
効果のため,経済全体の厚生水準 は,Ul無差別曲線が示す よ うに, 自由貿易
下のU。にくらべ大幅に低下するのである。
Q.
氏(
輸入数量規制) について一言触れてお こう。Q.
R は関税賦課 と同 じ
性格の効果を発揮する。唯一異なるのはクォータ ・レントは,関税収入のよう
に明白に政府部門に トランスファーされるわけでないという点である。輸入権
が競売 されて差益が政府歳入になるという場合 には,上 と全 く同 じに取扱 って
よい。そうでな くクォータ ・レントが民間部門に帰する場合 (それが外国に流
出する時にはこのモデル外 になるが) には,後 に検討するように,Z部門を狭
く政府部門 とするのでな く, より一般化 した 「
貯蓄 ・投資部門」 にするとうま
く取扱 いうるようになろう。
2
9
)
生産補助金の効果
生産補助金の場合には,関税 と同様,貿易可能財 Tのコス トは相対的に高 く
なり,GG′線上のA 点 に生産点が決 まる。 しか し消費 は, 自由貿易下 と同 じ
p+線 のス ロープと同-) つ ま りそ うい う PT/
為替 レー トp線のスロープ (
Pz価格比率に従 って決め られる。p線 に無差別 曲線 の 1つ U2が C 点で接 す
る。 このC 点が補助金下の消費点 となる。 こ7
2 なる厚生水準が達成 され る。 そ
れは自由貿易下のU3 よりは低いが,関税下のUl
よりはかな り高い厚生水準 で
ある。
既 に図 4で明 らかに したように,補助金下では輸出額 -輸入額 とな り貿易均
衡 は保たれる。 これは,図 7で,稼得所得 はA 点 での T財 と Z財 の生産か ら
得 られるが,それはβ 線で示 される相対価格P
T
/Pzで評価するとC 点 での支
出所得 と同 じであるか ら,対外的な貿易 アンバ ランスも生 じえない, というこ
とに示 されている。
だが国内的には一つのギ ャップが生 じている。T財のC2量っ ま り国内生産
-
116 -
貿易政策の効果
量を上回 る消費量 というのは,それだけの補助金が政府か ら民間部門へ トラン
スファーされることによって可能 となった輸入 (
貿易均衡を達成 している総輸
入量のうちの一部) にはかな らない.T財で はか ったC2量相 当額 とい うのが
A量 とな る。 それだ け政府 は歳
補助金 レントである。それは Z財ではかると2
出超過 (
財政赤字) に陥 るわけである。
関税賦課 は自由貿易下 に くらべ厚生水準を大幅に低めるのに,補助金支給 は
厚生水準を少 ししか低めないという,後者の利点があることは明 らかである。
ただ政府部門にとっては,関税収入 は財政黒字をもた らすのに補助金支給 は財
政赤字 に陥 らせ るという問題が残 る。補助金支給の方が厚生水準を高 く保つ と
いうのは財政支出の一つの貢献である。 これにくらべ関税収入分だけの財政の
余裕がいかに支出され, どれだけの厚生効果をあげるかが問われねばならない。
それはたとえば国防費 として支出されることになるか もしれない。 その比較 は
むつか しいのであるが,補助金支給の厚生効果の方が,他の財政支出よりも大
きいと期待で きるな らば,関税賦課ではな く補助金支給を選ぶべ きである。補
助金の もっ生産性改善効果を加味すれば, この選択 はいっそう好 ましいものに
なるのである。
マネタリー ・アプローチ
図 7は,縦軸 と横軸に採 るものをより一般化す ることによって,国民所得循
環のマネクリ- ・アプローチに拡張す ることができる。
Y(国民純生産 -国民所得) は,I(
投資財生産)
,X (
輸出向け生産), お よ
びC (
消費財生産) によって生み出される。そ して このY は,S(Y)-貯蓄,
M(
n -輸入,およびC(
Y)-消費に支出されるものとす る
(これまで符号 Y
は輸入可能財を示 していたのであるが,本節 に限 り国民純生産NNPの意味 に
用いることに注意 されたい)
。 これ らはすべて金額 (
貨幣額)であ らわされる。
そこで次式が成立つ。
Y-I+X +C-S(
n +M(
Y)+C(
y)
(
1
)
ここでC-C(
Y) とする。C(
y)をA -a
bs
o
r
pt
i
o
n(
消費支出) と呼びかえ る。
す ると
Y -A-S II
-X IM
(
2
)
という恒等式が導 ける。(
Y-A)は稼得所得 と支出所得の差である。 (Y-A)
-1
1
7-
駿河台経済論集
第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
<Oであることは稼 ぎ以上の くらしをする (
s
pe
ndbe
yo
ndo
ne
′sme
a
ns
)こ
とをあ らわす.それは一方,(
S-1
)< 0,つまり貯蓄 を上回 る投資 をす るこ
X-M)< 0, つ ま
と (
投資超過,貯蓄不足)の結果である。 と同時に他方, (
り輸入超過 (
貿易赤字)をもた らす。 そ して超過投資額 -貿易赤字額 という関
係 に到達す る (
現在のアメ リカ経済のごとき状態である)
0
-NNP) とA (-消費支
これ らの関係を図 7によって示 したい。縦軸 にY (
X-M) と等 しくなる
出額)をはかる. この両者 に差があると, (Y-A) は (
か ら,縦軸 に貿易バ ランスも示 されることになるo他方,横軸 にはS (-貯蓄
-投資額)を採 るのである。
額) とJ(
さて,為替 レー ト (
T財 とZ財の相対価格比率) が GG′ 線 やHH′ 線 のス
ロープである時に,稼得所得 はA点 に支出所得 はC点 に決 まっていたとしよう。
(これは日本経済の現状に相当するが,上のように稼 ぎ以上 の くらしをす る場
合には,C点がA 点の上方に来 る).T財 はAD量生産 されるが国内消費 はcD
量であるか ら,Ac
量だけ内需不足になる.それだけ輸出超過を生み出す。
他方 Z財 はOD量生産 されるが, これが投資額 (
D である。 貯蓄
(
S)はO
D量を上回 り,それにcl
量を加えたものにな る。cl量 が過小投資 -超過貯蓄
(
T財のAc
量) と等価である。
2
)
式をゼロにす るにはどう
そこでこの経済のフル均衡を達成 させ る,つまり(
である。そ してそれは出超額
した らよいか.それが国際収支均衡化 メカニズムで もあ るo 為替 レー トをp'
のスロープにまで切上げ (
a
ppr
e
c
i
at
e
つまり円高化) し,生産 も消費 も同一 の
β 点 にもって くるようにすればよい。
これが コ-デ ンの示唆の基本命題である。 これを出発点 として,広汎かつ精
ne
t
a
r
ya
pp
r
oac
h(
op
e
ne
c
o
no
mymac
r
o
e
c
o
細 に展開 されているいわゆるmo
nomi
c
sといわれる) にわれわれの純粋一般均衡分析 を接続 してい くことが可
能になるのである。
3
0
)
貿易の動態的貢献
s
t
at
i
c
)分析 に徹 して きた。
これまで (
前稿 と本稿) は,国際貿易の静態 (
そこでの結論 は, 自由貿易がベス トであ り,それは国民経済の厚生水準を最高
の ものにする。逆 に関税,Q.
R ,補助金など保護貿易 は, その三者 の間で も
若干の差があるとは言え,厚生水準を自由貿易下 よりは低めるので好 ま しいも
ー1
1
8-
貿易政策 の効果
のではない, と言 うことであった。 ここで究明できなか った問題であるが, さ
いきん,独 ・寡 占理論か らs
t
r
at
e
gi
ct
r
adepo
l
i
c
y(
戦略的貿易政策) が急速
に展開 され,政府介入 により自国の独 占 レントをより多 く獲得 しうる余地のあ
ることが明示 され,新 しい保護主張の リーズンを提供 しているo これは,最適
関税論 (
opt
i
mum t
ar
i
f
f
)を出発点 とする駆 け引 き (
ba
r
gai
ni
ng) の理論 で
あ り,かつ独 占レン トを容認 している点において,私 は正当でないと判断 して
いる。 これは残 された重要課題の一つである。
より重大な残 された課題 は,貿易 (
投資を含む)の経済発展への動態的貢献
(
dynami
cc
ont
r
i
but
i
o
n)である。従来か らいろいろなことが指摘 されてきた。
たとえば,
(
i
) 貿易 (それに投資)を通 じて外国の優れた技術,製品さらには制度,文
化 といったものがは じめて自国にもた らされる。 それ故,鎖国主義 (c
l
o
s
e
d
s
ys
t
e
m)であってはな らず開放経済 (
o
pe
ne
c
o
no
my) に移 るべ きである。
(
i
i
) 自国で全 く生産で きない財 (
石油 とか新製品の ごとき)が,貿易によっ
て,安 い国際価格で入手できるようになる。その貢献 は効用 (
厚生) といった
尺度では計 りえないものである。
(
i
n
) 中間財 (
i
nt
e
r
me
d
i
at
egoods
)(
原材料,半製品だけでなく技術,知識一
生産,経営,販売の諸側面 における-といった情報i
nf
o
r
mat
i
o
nも含 む) が,
輸入 によって国内で自己生産す るよりも安 く入手できるようになる。 その輸入
中間財を使 うことによって,国内生産 と輸出が可能 にな りかっ低廉に行いうる
ようになる。
(
i
v
) 一国民の趣味噂好,つまり需要のパ ター ンは,所得水準の向上 と,多様
の便利な外国諸商品の流入 につれ多様化 し高度化 してい く。よく似た商品でも,
種類が多 くな り,選択の範囲が広がるほうが効用が高 まるといわれる。社会的
効用無差別曲線群 といったもの も変容 してい く。
まだ他 にもあるが,経済発展 に対す る貿易 (
含国際的資本移動) の動態的貢
献を体系的に考察す る必要がある。その検討を今後の課題 としたいが,それに
ついて以下四つのアウ トライ ンをかかげておきたい。
(
1
) 一国経済の発展 コースを明 らかに しなければな らない。経済発展 は,存
在する何 らかの余剰を うま く動員することか ら始 まる。 その余剰 とは, 貯蓄
(
S
)であり,貿易出超或いは対外借入であ った り,遊休労働力や眠れ る天然
-1
1
9-
駿河台経済論集
第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
資源である。貯蓄を用いて,R&D (
研究開発)を通 じて新製品や新生産方法
という技術革新をはかることも,その一つである。
初期余剰をいかに発展 に結びつけるかは,一つのb
l
ac
kbo
x (取 り付 け ・取
り外 し可能な種々の電子回路装置)である。 これについてGr
o
s
s
ma
nandHe
L
pmanとか石川城ガ 1
'によって新分野が開拓 されつつある. その方法論 はⅩ,
Y2財のはかにbl
ac
kbo
xたる新部門 Zを導入することにある。 このモデルが
大いに参考 になるであろう。
(
2) 後発国の追付 き (
c
at
c
hu
p)の理論が確立 されねばな らない。 いわゆ る
幼稚産業育成論が中核 となる。次っ ぎに起 こる多数のキイ産業の継起 プロセス
を明 らかにす るものが,わが恩師赤松要博士の 「
雁行形態的経済発展論」であ
る。32)
望 ま しいキイ産業を育成 (または再生)す るためには,輸入関税やQ.
氏 (
輸
入数量規制)でな く生産補助金の方が有効である, とするのが私の主張である。
また,海外直接投資を順を追 った経済発展のためにタイム リーに受 けいれるこ
とが, きわめて有効である, というの も私の もう一つの主張である。
(
3) 一方,先進国は次つ ぎに新製品を開発 してその経済発展をはかるし,他
方,後発国は先進国 と同 じ産業 ・貿易構造を もとうとキ ャッチアブする。そ う
すると,世界全体の国際分業 (-貿易)のパ ターンは一体 どう変化 してい くの
か。補完的調和が保たれるのか。敵対的競争国の関係に陥 って しまうのか。前
者な ら自由貿易が繁栄 し,後者な ら保護主義の分裂世界に至 るか もしれない。
EC (欧州共同体)やNAFTA (
北米 自由貿易協定)のごとき大地域経済統合が
何 らかのこの問題への貢献を もつのか。私 は 「
合意的国際分業原理」を一つの
解決策 として用意 している。
(
4) 中間財貿易の理論の確立が望 まれる。多数の文献 はあるが満足すべ きち
のでない。 日本の貿易 はいまだに大部分が 「
製品輸出対中間財輸入」である。
従来の貿易理論 は対等な完成消費財たるⅩ財 とY財を分析対象 としていた。そ
うでないとす ると,貿易理論の根本的な改訂を必要 とす るのである。輸入中間
財を Zとす ると,それを投入 ・産出関係を通 じて使用する輸出可能財Ⅹと輸入
生産費) とが大 いに左右 されること
可能財 Yとの生産 と貿易の可能性 と能率 (
になる。中間財 Zを全部輸入するのでな くその一部を国内生産 した方がよいと
いう問題を も伴 う。原材料か ら完成財 に至 る立体的生産構造を前提に して立論
-1
2
0-
貿易政策の効果
しなければな らない。そこで中間財 Zの在 り方が経済の動態的発展 に対 し重要
な影響を もつのである。
Ⅷ
結
論
(
1) 本稿 は輸入関税 と生産補助金 という狭義の保護貿易措置 (
Q.
R -輸入
数量規制 一について も触れたが,それは議論の本筋 にははいらない)の厚生効
果,つまり負の貿易利益を,貨幣的部分均衡分析 と純粋一般均衡分析 とのコン
システ ンシイを配慮 しなが ら,明確にす ることをね らいとした。その結果,2
つの小三角形たるd
e
ad
we
i
ghtl
o
s
s(
死重損失)だけを保護措置の もた らす貿
易利益の減少分だとす る通説が誤 っていることを,明示することになった。
通説 と小島説の相違 は 2つの要因か ら生 まれる。小島説 は,消費者余剰の減
少分の全てが損失であると見 る。 これに対 し通説 は,消費者余剰減少分か ら,
(
a)
生産者余剰増加分 と(
b)
関税収入 とを差引いて, 残 りのd
e
ad
we
i
ghtl
o
s
sだ け
を損失だとみなすのである。
(
2) 輸出可能財Ⅹ部門 と輸入可能財 Y部門 とか らなる経済を対象 とするとき,
常 にフル均衡条件 (
資源の最適配分,完全雇用,利潤極大化の企業者行動,効
ud
ge
tc
o
ns
t
r
ai
nt
および貿易均衡) が満 た されてい
用極大化の消費者行動,b
る限 り,生産者余剰の増加 は生 じえない。む しろ,輸出可能財Ⅹの生産を減 ら
し,保護措置により歪曲された輸入可能財 Yの生産 を増す よ う, 資源 の ma
1
-
di
s
t
r
i
but
i
onを行わねばな らないので,む しろ資源の浪費 という損失が生ず る。
小島説ではこの資源浪費分 と消費者余剰減少分全額 との合計を保護措置による
損失だとみるのである。 またこの資源浪費 という損失 は,関税の場合で も生産
補助金の場合で も等 しく生ず る。なお,生産者余剰が発生するとの通説の誤認
は輸入可能財 Yについてのみの部分均衡分析 によって立論することに基づ く。
そ うでな く,純粋一般均衡分析を行えば,資源浪費に陥 ることが明示 されるの
である。
(
3) 関税収入の取扱 いについては,部分均衡分析 (
輸入可能財Y についての)
では,関税収入分が何 らかの形で民間部門へ還元 され, それだけ輸入がさらに
増加 されるといったことは示 されえない。関税を負担 した分 は明 らかに消費者
余剰の減少 となる。 したが って通説 は誤 っている。関税収入がいかに輸入に支
-1
21-
駿河台経済論集 第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
出されるかについては精細 なケース分 けの分析があるが,私 は関税収入 は輸入
に向け られ るわけではな く,民間部門 とは別 の政府部門の歳入 になると取扱 い
たい。 そ こで純粋一般均衡図 において は,一方,通説 によると関税収入分 によ
る輸入が追加 された ものと して消費点が決 まるが (それは誤 りである),他方,
小 島説 によると, そ ういう追加輸入分 を含 まない消費点 に決 まる。 それは,潤
費者余剰全額 +資源浪費を損失 とみなす部分的均衡分析 とコシステントである。
(
4
) 生産補助金 の場合 には,小島説 によると,消費者余剰 の減少 はいささか
も生 じない。 ただ上述 のよ うに,関税 と同様,資源の浪費 は釆 たす。 それ故,
純粋一般均衡図では,補助金受領分だけ民間の輸入需要分が追加 され るので,
消費点 は関税 の場合 よりもはるかに高 い厚生 を達成す ることになる。補助金が
支給 されれば企業の生産性改善が刺激 され るという動態的効果 (
関税の場合 に
はそれが無 い) を別 に して も,補助金 の方が関税 よりも厚生水準を高めるとい
う点 において,利点を もっ ことは明 らかである。
(
5) Ⅹ, Y財 という貿易関連民間部門のほかに政府部門 Zという第 3部門を
モデルの中に設定 した方がよい。関税収入分 だけ直接税が減税 され るとか,逆
に補助金分 だけ直接税が増徴 され るとかす る (コーデ ンらの通説) のは,財政
の均衡,政府部門の中立性 を保つための儀装 にす ぎない。 む しろ,関税収入分
だけ歳入超過 にな り,その分だけ輸 出超過 になる。逆 に,補助金支給分だけ歳
出超過 になるが,貿易 は高 い水準で均衡す る。 このように取扱 った方が リア リ
ステ ィックである。
,
政府部門を追加す るとい う方法 は 「
貿易可能財 一非貿易可能財」 とい うモ
デルに一般化す ることがで き,国際収支調整 メカニズムなどの貨幣的アプロー
チに純粋一般均衡分析 を接続す ることを可能 にす る。 さらには貯蓄 とか貿易不
dy
na
mi
c
)分析への道 をひ らく
均衡を活用 して経済発展 をはか るとい う動態 (
ことになるのである。
0
) 貨幣的部分均衡分析において,
「
輸入によって生ずる消費者余剰の増加は,輸出に
よって生ずる消費者余剰の減少を必 らず上回り,ために貿易によってネットで正なる消
費者余剰の増加がもたらされる。これがこの分析方法による貿易利益である」 という命
題は重要である。だがこの命題は,前稿 「自由貿易の静態理論」(
駿河台経済論集 2の2,
1
9
9
3・3)においては,その図 2を用いて証明を試みたが,なお十分なものでなかった。
この証明について,本稿起草後に,小樽商科大学の佐竹正夫教授より,以下のごとき優
-1
2
2-
貿易政策 の効果
p
格
価'
l
L
①
①
ー
D1
2 ㊨㌧
3
-
.
.
.
P′
p
△
4
.
xl
C「 .姦豆→
PZ
@
D
\
2
格
価2
@
:
≡
至
蔓
珍財
;
妻
室
;
;
且
C
漸
;x2
5
性)㊥-㊨+⑧+
"
⑧′
敷島
れた納得のい く証明が
図0
(
i
j
) 輸出可能財
C2
生産 (
或 いは手持量)の調整
示唆 された。
は行われない
よって ここに紹介 してお きたい。
可能財では価格がplか らpl
′へ,Aplだけ下
i
)
の よ うに,輸入
単純交換を取扱 う。図 0(
この Xl-Clか らCl
落 し,需要量が
する。pl
′の価格でXICl
′量が輸入 される ことになるO
′へ増加
④ 他方図
だけ増加す
0(
n)
のように,
る。
輸出可能財では価格がp
ため消費者余剰が面積① +
要量がX2
-C2か らC2′へ減少す る.p2′の価格で
2
か らp2
′へ ,△p2だ け騰貴 し,その需
このため消費者余剰 は面積② +(
診だけ減少す ることになる.
,C2
′x2量が輸出され る ことにな るo
(
① +④) - (
②
となることが
十
⑧)
>0
そ こで
第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
駿河台経済論集
①+(
参
l
+
‡(pl-PIノ)
- (
pl
-P
l
′
)x
(
Cl
,-Xl
)
-AptXl
+‡Apl(Cl
′
-Xl
)
(
△plXl
+△plCl
′
)
-‡Apl(Xl
+Cl
′
)
(
2
)
′3 (-Xl
) にpl
′
2(-Cl
′
)を足 したも
これは図 0(
i
)
で見 ると次のとおりである。pl
′
4となる. この三角形plPl
′
4の面積が① +④ の面積 と等 しいのである.
のはpl
②+⑧
′
) C2
′・1-(p21P2
′
)(X2
- C2
′)
- (p2
1P2
-△p2C2
′
・1△ p2(x2
1 C2
′
)
(
△ p2C2
′+△ p2x2
)
-
3)
(
与△ p2(x2+ C2
′
)
(
前 と同 じ様 に図示できるが,繰返 さない。)
か くて(
1
)式のネットの消費者余剰 は,
(
① +(
参)- (
②+⑧)
-‡Apl(Xl
+Cl
′
)- ‡△ p2(x2+ C2
′
)
-i
-(
ApIXl
-△ p2x2+AptCl
,-△ p2C2
′
)
(
4
)
ここで,両財の生産量 (
所持量)たるXlとx2とか ら得 られる貨幣所得は,各財 の価格
udge
tc
ons
t
r
ai
ntを導入する。すなわち
が変 っても,不変であるというb
pIXl
+p2x2-Pl′xl
+p2′x2
そ うすると,
l
′
)xl
+(p2-P2′) X2-0
(
pl
-P
あるいは
-△p2X2-0
△plXl
これは図では,① -② +⑧ +⑧′ ということである。
(
7
)式を(
4)式に代入すると,
-1
2
4-
貿易政策の効果
(
①+④)- (
②+⑧)
(
8)
A p ュC
l
′-Ap eC2
′
)
-‡ (
′-Xl
+ (Cl′- Xl)
ここで Cl
C2
′-X2- (
X2-C2
′
)
であることを利用すると
1 21一
2
二 二
(
① +㊨)- (
② 十⑧)
(
△pIXl
+ △pl(
Cl
′-Xl
)-△p,x2
+ △p2 (
X2
-C2
′))
(
(
AptXl-△p2x2+△pl(
Cl
′-Xl
)+△p2(
X2-C2
′
)
)
-△ p2X2-0であるので,
(
7
)
式のように,Ap I Xl
-÷ (
Apt (
Cl
′-Xl
).△ p2(
X2
-C2
′
)
)
(
9)
となる.輸入量 Cl
′- Xl
> 0,輸出量 X2- C2
′
> 0であるか ら,(
9)式は正になる。
l
'
-
2(
(
9)式の‡Apl(C
Xl
)は図の三角形④であり,‡Ap X2
- C2
′) は三角形
⑧′である。以上のことは,2つの需要曲線がともに右下 り (
そのスロープの違いを問わ
ず)である限 り,つまり限界効用が逓減する限 り,必ず成立する。
④ 十⑧′のネットの消費者余剰の増加が必ず生ずるということを,実際的 にはどう解
釈 した らよいであろうか。貿易前 と後で同一貨幣所得を維持するのである。つ ま り(
5)
式の貿易前後の貨幣所得一定 ということは,図 0では,まず貿易前の所得 は,
pI
Xl+p2
x2
- (
① +①) + (
⑧ +㊨)
(
1
0)
貿易後のそれは
pl
′xl十p2
′x2-① + (② +⑧ 十㊨ +⑧ + ⑨′
)
(
l
l
)
であり,両者 は等 しい,とあ らわせる。差引き計算すると,
(
1
2
)
①- (
② +⑧ +⑧′
)
となる。ネットの貿易利益は
(
① +④) - (
② 十⑧)
1
2)式を代入すると,
であるが,これに(
(
@ +@ +@'+@)- (
@+@)
-㊨+⑧′
>0
(
1
3)
となるのである。
結局輸入可能財での所得減少額 (
①の面積) は輸出可能財での所得増加額 (
② +⑧ +
-1
2
5-
駿河台経済論集 第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
③′の面積) と等 しい。 この同一貨幣所得額の支出によって,(
(
① +④) - (
② +⑧))
なるネットの消費者余剰の増加を貿易によって もた らしうるのである0
輸入可能財では,稼得所得が①だけ減 るが,それによって① +④ だ けの消費者余剰 を
実現できる.つまり(
参だけ余分の消費者余剰を得 ることができる.
他方,輸出可能財では,② +⑧ +⑧′の稼得所得を得 るが,消費者余剰は② +⑧ だけ減
少するにすぎない。そこで⑧′だけの差額を生ずる。 この⑧′は経済全体 と しての消費者
余剰を実現するのに節約 しえた稼得所得である。節約 しえた貨幣所得は,言 いかえれば
消費者余剰の純増にはかな らないのである。
以下のような別の解釈 (これは小島の解釈であるが) も可能であろう。 すなわち,稼
得所得は貿易後の支出所得 と同一でなければならない。
pIXl
+p2x2
-pl
′(Xl
+ (Cl
′-Xl
)) +p2
′(X21 (X2- C2
')) (
1
4)
輸入額 -輸出額 という貿易均衡が達成 されねばならない。すなわち
pl
′(Cl
′-Xl
) -p2
′(X2
-C2
′
)
(
1
5
)
これを(
1
4)式に代入すると,
(
pl-Pl
′
) xl
+ (
p2
-P2
′) X2
-0
(
1
6
)
これは既述の (
6
)
式にはかな らない。つまり輸入額-輸出額 という貿易均衡の下で,
貿易前の稼得所得 -貿易後の稼得所得 -貿易後の支出所得
が成立する (
貿易前の稼得所得 はもとより貿易前の支出所得 と同一である)0
図で見 るとこうである。影を付 した面積⑦が輸入額であり,それが影 を付 した㊥ の全
域 (
㊨ +⑧ 十⑧′
) という輸出額 と均衡するのである。つ ま り貿易前後 の貨幣所得額が
同一であるためには,輸入額 -輸出額 という貿易均衡が保たれねばな らない. そ うなる
ように貿易により,輸入可能財の価格が低下 し,輸出可能財の価格が騰貴す ることによ
り,これまで検討 してきたように,④ +⑧′なるネットの貿易利益 (
消費者余剰の純増)
が実現されるのである。
なお生産調整を伴 うフル交換貿易の場合には,以上の単純交換貿易 よ りはい くらか複
雑になるが,貿易利益の性格 は全 く同一であることがわかる。
図 0の点 Jを通 る右上 りの第 1財供給曲線 S
l
を描 く。また点 5を通 る同様な第 2財供
を描 く。貿易後の価格たるpl
',P2
′の下で実現す る第 1財 の生産減 に伴 う輸
給曲線 S2
入額 と,第 2財の生産増に伴 う輸出額 とが,等 しくならなければな らない - 貿易均衡
の条件。 ということは完全雇用を保ちつつ資源 (
生産要素)が第 1財生産か ら放 出 され
て第 2財生産に吸収されるわけである。そうであれば稼得所得の増減は生 じない。
貿易前後の貨幣所得を同一に保ちつつ,かつ生産調整を も含んだ輸入額 -輸 出額 を見
出すには,図 0の需要曲線の代 りに,点 1を通 る第 1財への超過需要 曲線 EDlと,点 5
-1
2
6-
貿易政策の効果
を通 る第 2財へのそれ 且D2
を描けばよい。
かかる生産側の調整の結果,どれだけの消費者余剰の追加的増加が生ずるかは,前稿p.
5
4の図 8によって明 らかにした通 りである。すなわちその図の⑦ + ⑨′な る純増がえ ら
れるのである。
そうすると,生産調整をも含めた経済全体の純貿易利益 は,同園 において,輸入可能
財では④ +⑦であり,他方輸出可能財では⑧′+⑨′となる。
前者は,輸入可能財における消費者余剰の増分たる③ +⑦ + ①′+④ か ら,生産者余
剰の減少分たる ③ +⑦′を差引いたものに等 しい。他方,輸 出可能財 における生産者
余剰の増分たる ②+⑧ 十⑧′+⑨′か ら消費者余剰の減少分たる② +⑧を差引いた もの
に等 しい。つまり通説の第 4種貿易利益 (
de
adwe
i
ghtgai
n)と同 じことになる。 経
済全体の純貿易利益が こうなることは今や認めざるをえない。ただ通説 が,両財 の一般
均衡関連を考慮 した上で,そのような結論を得ているとは思えない。一般均衡的関連 を
明確にした点で,われわれの貢献があると言えよ う。
む しろ輸入可能財だけについて見ると,前稿で繰返 し指摘 したように,③ +⑦ 十 ⑦′
+④なる消費者余剰の増分に,もう一度生産調整か ら生ずる消費者余剰① を追加 した も
のが,輸入可能財 において発生する貿易利益であるということになる。
他方輸出可能財では,消費者余剰の減少分たる② +⑧か ら,de
adwe
i
ghtgai
n たる
⑧′+⑧′を差引いたもの (
前者の方が大 きい)だけのl
os
s
が発生すると見 るべきである。
1
) 小島清 『
応用国際経済学 - 自由貿易体制- 』文展堂 ,1
9
9
2の第 4章 「貿易政策
の手段」ならびにその補論 は,そういう問題意識の下に書かれている。 ただ問題 を投
げかけただけで十分な解決にまでは到達 していない点があった。 これを もう一度詳 し
くやり直 してみようというのが,本稿の目的である。
2
) 次を見よ。小島清 「
経済発展 と輸入 コンテント」上,下,世界経済評論
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)
. 相原光 ・志田明 ・秋 山憲治共訳
『
国際経済学』評論社 ,1
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9.
5
) 拙著 『応用国際経済学』p.
1
6
3では,国内需要線を関税率だけ下回るFF'なる補助
線を追加 した。 これは外国品需要曲線である。本稿の図 3では見に くくす るので省 い
線 は,点 P'と点2をっな ぐ緑 (
その延長線を含む) となり,点 2が き
たが,その FF′
まることを明示する。
6
) キン ドルバーガー邦訳書 p.
1
2
5にはこの点が正 しく指摘 されている。
7
) この点 は,需要 と供給の差額たる超過需要曲線を用いて正確に示す ことができる0
8
) 山本繁縛 『
貿易政策の理論』東洋経済 ,1
9
7
4
.
pp.
3
1
3
3
0
9
) 天野明弘 『貿易 と成長の理論』有斐閣,1
9
7
4
.
p.4
2.「政府 自身は関税に服すること
な く輸入品を購入できる。
」
-
127
-
駿河台経済論集 第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
1
0
)小島清 『応用国際経済学』補論 4・3 「
最適関税論」(
pp.
2
0
4
21
0
)を見 られたい。
l
l
) わが国での最新の研究 として,池間誠 『国際複 占競争への理論』 文展堂 ,1
9
91があ
げられる。だがそこでは欧米での議論と同様に,関税のウエルフェア効果はde
adwe
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sだけで計 りうるとの通説が採用 されている。それ は誤 りであると思 う。 それを
小島説のように修正 して,生産者余剰 と関税収入 はgai
ns としないとするな らば,戟
略的貿易政策論 はどう変 って くるであろうか。興味ある問題である。生産補助金 や独
占レントの取扱いについて も池間教授の展開については疑問が残 る0
1
2
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7,訳書 ,p.
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8,p.
21
4.において も同様
であるO「
Y財輸入への関税賦課 は,生産をA 点に,消費をC点に移 らせる。A 点 と
C 点 は,国際(貿易)収支均衡制約を保証する世界価格比率によって
リンクされてい
るoA 点 とC 点 とはまた,効用の限界代替率 -生産の限界変形率<国際価格比率 と
いう方程式をみたす ものである。」
1
4
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3(
Augus
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).
6. 天野明弘 (
1
9
6
4
),
『
貿易 と成長の理論』有斐閣,第 3章 関税の純粋理論
7
. 天野明弘 (
1
9
81
)
,『貿易 と対外投資の基礎理論』有斐閣,第 5章 関税 の一般均
衡分析。
8. 山本繁縛 (
1
9
7
4
),
『
貿易政策の理論』東洋経済,第 2章 関税のコス トについて。
9. 他聞誠 (
1
9
6
6
)「関税についての一考察」一橋論叢 5
5の 5 (5月)0
1
5
)「関税理論への昔のアプローチでは,政府を一般大衆とは別の独立なものとして取扱っ
t
た。政府が関税を課す ことは大衆 に税 を課すのと同 じであ りいかなる直接 のne
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tも大衆にはもたらされない。つまり課税で徴収された実質資源 は この シス
テムの中か ら影 も形 もな く消散するものと単純に仮定 された-
こうい う政府観 は
北米の一部で今で もポピュラーである。
」上掲Johns
on (
1
9
6
9
)
,
p.
3
3
5.
1
6
)経済全体か ら見れば,関税収入は利益であり,逆に補助金 は損失であるとい う通説
の立場か ら,法政大学の洞口治夫教授より私信により,拙著 『応用国際経済学』 へ
-1
2
8-
貿易政策の効果
のコメントがあった。感謝 したい。
1
7)生産補助金を取扱 っているのはオース トラリアの学者 コ-デ ンである。W.Max
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4,Aug.1
9
5
7.
である。ただ しコ-デンは通説の立場であるo R.
E.ケイブス,氏.W.ジョーンズ著,小田正雄 ・江川育志 ・田中茂和訳 『国際経済
9
8
7,ではP.
2
5
7にコーデ ンか ら借用 した図をか
学入門 ・国際貿易編』多賀出版 ,1
かげて約 2ページにわたって関税 との差を説明 しているだけである。
その他の米加での代表的テキス トブック (Ki
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r な ど) では補助
金問題を全 く取扱 っていない. これは一つの不思議である。 これはアメ リカで は貿
易政策 とはもともと関税政策であるとしてきたこと,そ して幼稚産業育成 (或 いは
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y) とか,その手段 となる生産補助金 といった問題 には関心 がな
かったことの反映であろう。
関税 と補助金の相違をコ-デ ンの通説に沿 って最 も詳細に吟味 しているのはむ し
9
7
2,pp.
ろ日本の文献である。小宮隆太郎 ・天野明弘 『国際経済学』岩波書店 ,1
1
5
0
1
5
2,1
9
0
1
9
6.
1
8
)Q.Rの取扱いについて も前注1
7
) とほぼ同様なことが言え る。 W.M.Cor
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1.の Chap.
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"が最 も詳 しい。 だが純粋一般均衡
Rを措 くかを提示 していない。本稿 はキンドルバーガー 『
国際経済学』
図にいかにQ.
訳書 ,p.1
5
6の部分均衡図を借用す ることに した。 なお米加 のテキス トでは最近
vER (
輸出自主規制)を漸 く取上げるようになってきた。
1
9
)米国が自らQ.R制を実施する場合には,世界すべての国を対象に してクオータを割
当てねばならない。 しか し日本に対米輸出自主規制 (
VER)をとらせると,日本だ
けに輸出制限を求めることができる。対象国を特定化 しうる点でVER が好 まれ る
と言われる所以である。
2
0
)Q.Rのもう1つの表現方法は,需要曲線 DD′か らクオータ量だけ差引いた DD′
に平行な線をその左側に描 くことである。 これが国内生産への需要 スケジュールを
示す.それは図 6ではP'点か ら発 Lq 点を通 ることになる。
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7.Chap,1
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にな らない場合 (6ケース)を詳細に検討 しているoその要点を ,Ki
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5「
付録 E」割当制の独占効果,が解説 しているo
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n の前掲書 ,pp.2
3
8
2
4
0が,需要曲線 (図 3,図 6の
なおMar
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9-
駿河台経済論集 第 3巻第 1号 (
1
9
9
3
)
DD′線)が右へ シフ トしたとき,つまり国内需要がov
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meに増加 したときには,Q.
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ntの方が高 くなることを指摘 している。 けだ し関税 の場合 には
Rのt
国内需要増分だけ輸入量が増え,国内価格 は前 と同 じに保たれるのに,Q.
Rの場合 に
は輸入量が増えないので需要増加に伴い国内価格 は騰貴するか らである。
2
2
)そういうケースについては次を参照されたい。小島清 『応用国際経済学』 補論 4・
1 「輸 出自主規制」,pp.1
8
0
1
8
7
。
2
3
)W.MaxCor
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8
5,p.
2
9.
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,p.
2
9.
2
4
)W.MaxCor
2
5
)政府の立場か ら補助金よりも関税の方が好まれる事情については,拙著 『応用国際
経済学』pp.1
7
7
1
7
8で論 じておいた。経済発展の低い段階では,関税収入 は最 も徴
収 し易い政府財源であるのに,補助金を支給する余力が政府にないことも事実である。
他方,高度に発展 した経済にとっては関税収入はネグリジブルな重要性 しか もたない
(日本の関税収入額が租税総額 に占める割合は,1
9
9
0
年では,僅かに1
.
6%である)0
2
6
)関税率 tとe
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な補助金率 Sであって も関税収入額 と補助金総額 とが等 しく
なるとは限 らない.図 3において関税収入額は面積 dである。他方図 5に示す よ うに
必要な補助金総額は面積a+b + C である. この場合には,t
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nt
な率の
補助金の下で,関税収入額<補助金総額 となっている。 しか し必ずそ うな るとは限 ら
ない。その逆になる場合 もありうる。問題は,補助金の方が多額の政府負担 になると
いうことか ら,補助金が好ましくない政策だと決めっけられてはな らない,とい うこ
とである。
2
7
)W.E.G.Sal
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7,p.
2
0.岡部光明訳 『国際マクロ経済学』東洋経済新報社 ,1
9
8
6,p.2
3.
sM.Buc
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2
8
)次のものが代表的文献である。Jame
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,RandMc
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ago,1
9
6
8.
山之内光窮 ・日向寺純雄訳 『
公共財の理論』文展堂 ,1
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8
1.
Jos
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8
8.薮下史郎訳 『
公共経済学』上,下,マグロウヒル,1
9
8
9
.
また次のものは公共財の供給が貿易パターンにいかな る影響 を与え るかを究明 して
9
91.
いる。阿部顛三 『国際公共経済学の展開』有斐閣 ,1
2
9
)先の保護政策 との関連で言えば,関税収入 とかクオータ ・レントは貯蓄 (S) の一
部である,逆に補助金支給 は投資 (
I
)に相当すると,一般化 して解釈することがで き
よう。
3
0
) さいきん次のものが非貿易財モデルをマネタリー ・アプローチへの橋渡 しと して う
まく使 っていることを発見 した。Ri
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3
0-
貿易政策 の効果
,pp.4
01
4
3
4.これはこの新版で追加 された部分である。
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1
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),pp.
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)赤松要 『
世界経済論』国元書房 ,1
9
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5.同 『
金廃貨 と国際経済』 東洋経済新報社 ,
1
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一1
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1-