在宅酸素療法:HOT 在宅人工呼吸器:NPPV の看護

在宅酸素療法:HOT
在宅人工呼吸器:NPPV
の看護
松江赤十字病院
7西呼吸器センター
慢性呼吸器疾患看護認定看護師
野津栄子
呼吸不全患者の予測される軌跡
禁煙、退職
急性増悪時
(通常入院加療を必要とする)
寝たきり
全介助
在宅酸素導入
NPPV導入
人工呼吸器装着
今後は医療依存度の高い方が在宅や地域で療養
されることが増えてくる
在宅酸素療法:HOT
Home Oxygen Therapy
HOTの適応
適応基準
1)高度慢性呼吸不全例

ただし、動脈血酸素分圧(PaO2)が55torr以下の者、およびPaO260torr以下で睡眠
時または運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす者であって、医師が在宅酸素療法
を必要であると認めた者、適応患者の判定にパルスオキシメーターによる酸素飽和
度から測定しPaO2を用いることは差し支えない。
2)肺高血圧症
3)慢性心不全の対象患者
ただし、医師の診断により、NYHAⅢ度以上であると認められ、睡眠時のチェーン
ストークス呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸数および低呼吸
数をいう)が20以上であることが睡眠ポリグラフィー上で確認されている症例。
4)チアノーゼ型先天性心疾患
チアノーゼ型先天性心疾患に対する在宅酸素量法とは、ファロー四徴症、
大血管転移症、三尖弁閉鎖症、総動脈幹症、単心室症などのチアノーゼ型
先天性心疾患患者のうち、発作的に低酸素または無酸素状態になる患者に
ついて、発作時に在宅で行われる救命的な酸素吸入療法をいう。
HOTが有用である根拠
Aさんの医療費の実際は・・・
70歳以上 COPD 医療保険が1割負担の場合
在宅酸素療法指導管理料:その他の場合:2500点
酸素濃縮装置加算:4000点
酸素ボンベ加算:携帯用酸素ボンベ:880点
呼吸同調式デマンドバルブ加算:300点
合計7680円+診察+処方+α/月
これに電気代 約900円~約5000円
助成制度

高額療養費制度
1ヶ月の自己負担限度額を超えた分が後日償還される

身体障害者手帳
助成を受けられる範囲は都道府県によって異なる
手帳の取得には申請が必要となる

特殊疾患治療研究事業
都道府県から特定疾患医療受給者証の交付を受けている
場合、1ヶ月の限度額を超えた分が公費助成される

都道府県から
都道府県から特定疾患医療受給者証の交付を受けている場合、
1ヶ月の限度額を超えた分が公費助成される
酸素濃縮装置の仕組み
外気を取り込む
窒素を吸着して
取り除く
酸素を供給
空気から高濃度酸素をつくるため器械の
故障以外で酸素がなくなることはない
携帯酸素ボンベ
酸素ボンベの持ち時間

酸素ボンベ使用時間の計算(連続流の場合)

ボンベ容量〔L〕÷処方流量〔l/分〕


例 処方流量1.0 l/分 560Lボンベ使用の場合
560÷1.0=560分 (約9時間20分)
呼吸同調器の使用で使用時間が約3~4倍程度長
持ちします
注意事項

火気厳禁
2m以上離す
酸素を使用しない理由
息苦しさを感じない。吸入しても息苦
しさが変わらない
 延長チューブが邪魔になる→転倒の危
険
 トイレのドアが閉められない
 入院中に入浴しなかったので、必要と
思わなかった
 人目が気になる。携帯酸素と荷物の両
方は重たい
→なぜできないかを知り、解決策を一緒
に考える

HOT患者のアドヒアランスへの支援

患者の思いを知る
・病いの経験を共感をもって聴き理解する
・患者のアドヒアランスの障害となるものを見極めて、
サポートする

視覚的アプローチ
どういった行動でSPO2が下がるのか、労作時のSPO2の
値を実測し、患者が意識できるように指導する

自己効力感
・患者が自信をもてるように、できていることに対しては
「できていますね」と伝える。
・患者の「できた」という思いを大切にし、それを見守
っていくことが大切。
SpO2モニター
(パルスオキシメーター)
息苦しさは主観的症状
呼吸困難感は主観的なもの
呼吸に伴う不快感を指す
↓
高度の低酸素血症でも呼吸困難を訴えない場合も
ある
SpO2が保たれていても呼吸困難感を訴える患者
もいる
不安感も呼吸困難感の自覚に影響している

サチュレーションに頼ってはいけない
日常生活動作のポイント
①息を吐きながら行う動作をする
息を吐くことで息こらえをさせない。
呼気に合わせることでその動作がゆっくり行
われる。
吸気に比べ呼気の方がエネルギー消費が少な
く、呼気に労作業を行う方が効率的
日常生活動作のポイント
②上肢で体幹を支持す
る体位を用いる
体幹に近い腕の筋肉
は呼吸運動にも関与
して胸郭を拡張させ
る作用がある。上肢
運動により呼吸運動
に関与する筋群への
負担が増える
過度の体幹前屈を防
ぐことができる
生活に視点を置いた指導




退院後の生活について一緒に考えること
特に酸素機器の設置場所について
ケアマネージャーに酸素使用する情報を提供し、
退院後の状況によって、ケアプランの見直しを行
ってもらえるように連携する
訪問看護により、症状が出るADLは何か、酸素を
適切に使用しているか、生活の中での問題は何か
などの情報を病院と共有する
患者会の紹介
継続看護



退院後も機器を継続して使用するため、自宅
に戻ってから出現した不安やトラブルの相談
に対処できるよう、相談相手を明確にしてお
くこと
家族、ケアマネージャー、外来看護師、訪問
看護師など、さまざまな角度から患者を支え
ること
そのために、お互いに連絡を取って、患者を
サポートしていく
退院前準備
1.病状が理解されているか
2.吸入量が理解されているか
3.使用機器の操作方法(設置型・携帯型)は
4.日常点検の方法
5.異常時(体も含めて)の対応方法の確認
*患者だけでなく、家族も理解していることが
必要
・身体障害者手帳の確認
・介護認定の有無の確認
退院後のケア
1.症状が安定しているか
2.処方された吸入量、吸入時間が守られているか
3.危険なところはないか
4.ADLが低下していないか
5.社会的役割が維持できているか
6.サービスなどを適切に利用できているかなど


実際の生活を見ている訪問看護師からの情報
外来受診時の看護相談
酸素機器で起こりやすいトラブル
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




酸素が出ていない(加湿器蓋の緩み・接続部が
外れている・電源が入っていない)
携帯酸素機器の使用方法が分からない
喫煙者:鼻カヌレで吸入中に、タバコの火が
引火し、自分の鼻腔を火傷
線香の火を吹き消そうとして、火が引火して
火傷
液体酸素:子器への充填時に凍傷
カヌレの問題:折れ・硬くなったカヌレで皮
膚(特に耳)に潰瘍形成
酸素延長チューブの工夫①
酸素延長チューブの工夫②
トイレやへや部屋の扉に穴を空けている
酸素チューブ管理の工夫
カーテンレールを使用し
て天井から延長チューブ
をつりさ下手いる
入浴時のちょっとひと工夫

お湯は少なく入れて、仰向けに寝るように肩
まで湯に浸す。そうすると水圧が少ないため
か呼吸が楽なように感じる。

浴槽の中に椅子を入れて座ると、湯から体が
出やすいし、浴槽の中での姿勢も安定する。

肩にタオルをかけたり、シャワーで暖めなが
ら入る。体の冷えが防げる。
在宅人工呼吸療法
非侵襲的陽圧呼吸療法:NPPV
Noninvasive Positive Pressure Ventilation
NPPVとは


鼻マスクや口鼻マスクを使用し、気管切開や
気管挿管などを行わずに非侵襲的に人工呼吸
を行う方法
バイレベル陽圧人工呼吸 吸気圧と呼気圧の
二相の圧差による換気方法
NPPVの適応

適応基準
1)高度慢性呼吸不全例
2)Ⅱ型呼吸不全(PaCO2が55mmHg以上)
3)神経筋疾患
4)心原性肺水腫

施行上の適応
・意識がよく協力的であること
・循環動態が安定していること
・気管内挿管が必要でないこと
気道が確保できていること
痰の喀出ができること
・マスクをつけることが可能であること(皮膚炎・アレルギー等がない)
・消化管が活動していること(閉塞がないこと)
NPPVの有用である根拠
NPPVの保険制度
70歳以上、COPDで、医療保険が1割負担の場合
在宅人工呼吸療法指導管理料:その他の場合:
2800点
人工呼吸療法使用料加算:6480点
陽圧式人工呼吸療法使用料加算:7480点
(気管切開口を介した陽圧人工呼吸器)
合計9280円+診察+処方+α/月
プラス電気代
月に一度以上の受診(往診)で保険適応
NPPVの主な設定項目






IPAP…吸気時の気道内圧(PSV時の最高圧)
EPAP…呼気時の気道内圧(PEEP)
Rate…バックアップ換気回数
Timed Insp…バックアップ時の吸気時間
Rise Time…吸気時の立ち上がり時間(0.1秒
位の場合が多い)
%O2…酸素濃度設定値
IPAPとEPAPについて
IPAP・・・吸気時にかかる圧力
EPAP・・・呼気時にかかる圧力
各モードについて
Sモード
患者の吸気努力に応じて呼吸を繰り返す
自発モード
S/Tモード
患者が設定時間に呼吸を行わない場合に
人工換気を行う自発・時限モード
Tモード
設定された時間内で人工換気を行い、
さらに患者の自発呼吸運動を重ね合わせる
ことができる
CPAPモード
持続的に陽圧をかけた状態
人工呼吸器のPEEPに準ずる
AVAPSモード
STモードのベースでIPAPが2つの設定で、換
気量に応じてIPAPを設定範囲内で自動調整する
IVAPSモード
圧力サポートを調整したりバックアップ呼吸を
自動的に提供したりして設定された目標肺胞換
気量を維持する
マスクの種類
鼻マスク
口鼻マスク
トータルフェイス
マスクフィッティング維持のコツ
1.患者のNPPVへの理解
装着初期の強い不快の経験は、以後に長期
NPPV導入となった時の受け入れを困難に
させる
→必要性や効果の保証・見通しを患者に説明
→患者の努力への労いを与え続ける
2.マスクの種類の選択
呼吸パターンやフェイスラインの個人差、リ
ーク音や患者の希望を元に不快感が少ないも
のを選択する
3.サイズの選択
サイズ測定ツールを購入して活用
ディスポーザブルの測定ツールをマスク
ごとに同包しているものを使用
装着時のチェック項目
・鼻根部のマスクの位置が適切か
・目の方向へ過剰なリークがないか
・睡眠中に口が開いても唇がはみ出ないか
・顔とマスクの接触部分がゆがんでいないか
・エアクッションの膨らみは十分か
・自発呼吸の吸気、呼気に器械が同調している
か
・リークの量は許容範囲を超えていないか
マスクフィッティングの手順
装着時、額との角度に合
うように調節されます。
両サイドをつまんで上下にスライ
ドさせることで4段階の角度
調節が可能 目頭部分の漏れ
を調整
360度回転する為ホースの
向きを変えることが可能
手順1


マスクの着脱は二箇所
あるボールの部分で行
います。
二箇所のうちのどちら
かを 外して取り付け
の確認をしてください
手順2



ボール部分を一箇所外し
てヘッドギアをかぶりま
す。
左図のようにマスクの鼻
と額にあたる部分を顔に
合わせます。
ボール部分を装着します
手順3



ヘッドギアとマスクは4
箇所のマジックテープで
固定されています。
現時点でゆるすぎない程
度に調整する。
左右のマジックテープ部
分の長さが均等になるよ
う調整します。
手順4


ヘッドギアは、横から見
ると、左図のように2本
が並行になるように装着
します。
後頭部は、ヘッドギアが
たるまないように左図の
ようにのばします。
手順5


ベッドに横になった状態
で、マスクは顔に軽く乗
るような感覚で、締める
。
ゆる過ぎたり、きつく締
め付け過ぎたり、しない
ように再度、マジックテ
ープで微調整します。
手順6


ホースを接続し、風が送
られている状態でマスク
周囲から空気の漏れがな
いか、指を当てて確認し
ます。
確認する箇所はマスクの
口に近い部分や左図のよ
うに目頭、鼻の付け根の
部分です。
手順7


マスク周囲から空気漏れ
があった場合、角度を調
節します。
調節方法は、左下図のよ
うに両サイドをつまんで
上下にスライドさせます
。
皮膚トラブル

原因
・マスクの過剰な締め付け
・マスク接着面での摩擦とズレ
・装着時間の長期化
・マスクのサイズ・種類が不適合
皮膚トラブルの好発部位
など
皮膚トラブルへの予防・対応策
・適切なマスクフィッティング
・皮膚保護剤の使用
皮膚に異常がない場合
なるべく薄い皮膚保護剤を使用します。
厚みがあるとその部分からの空気漏れが起
こりやすくなります
・異なる種類のマスクを交互に使用
・マスクのズレを直すときは、必ず顔から外し
て直す
・装着時間や設定圧の検討
・皮膚の清潔保持
・マスクの洗浄と乾燥
皮膚保護材
皮膚の保護材で安心していませんか?
保護材使用中の皮膚の評価をしていますか?
皮膚保護材
デュオアクティブ
ハイドロサイト
SIエイド
ブラバウエアー
シカケア
(NICUで使用
売店で1枚7000円くらい)

上気道の乾燥
原因
・送気ガスの湿度が低い
・送気ガスの流量が多い
・リークによる送気量の増加
・IPAP圧が高い
対応
・加湿、加温の調整
・口腔ケア、咳、保湿ジェル
・リークの調節
・換気量減少、IPAP圧低下
眼球の乾燥・充血
原因
・マスク選択、フィッティングが悪い
対応
・リーク部位の確認
・マスク位置の変更
・点眼
腹部膨満感や嘔吐への対応
原因
・送気ガスの食道や胃への流入
・NPPV導入直後は呼吸とのタイミングが
合わず含気しやすい
・大量の含気による、胃内容物の逆流
対応
・リークの調節と減少
・換気量減少、IPAP圧の低下
・排気(胃管挿入、ゲップを促す)
・腹部マッサージ、温罨法、便通調節
東日本大震災では
停電・災害時に備えて HOT
ボンベを全部空にせず
こまめに注文
酸素供給装置の周りに
懐中電灯を常備する
緊急用ボンベの確認:
1本が何時間持つか
操作方法の確認:
家族身近な人とも共有
物が落下しないなど
安全な場所にボンベを
保管する
処方流量の確認(安静時
労作時、就寝時)
呼吸法の習得
パニックコントロール
・急な息切れや呼吸困難など感じた場合
・災害時で電力に制限が生じた場合
絶対に焦らない
・口すぼめ呼吸
・椅子などにもたれかかり前傾姿勢をとり呼吸を整える
・壁などにすがり前傾姿勢で呼吸を整える
・ベッドで楽な体位をとり酸素消費を少なくする
停電・災害時に備えて HMV
人工呼吸器が作動しな
いときはBVMで
用手的人工呼吸
人工呼吸器のまわりに懐
中電灯を常備する
緊急用ボンベの確認:
1本が何時間持つか
BVM使用、緊急時対処
家族、身近な人とも共有
内部バッテリーだけで
なく外部バッテリーの
準備
避難場所の確認、電力会
社、市町村、業者などの
連絡先の確認
肺炎球菌ワクチンの勧め
5年間有効
65歳以上は
受けていただく
方が良い
業者さんとの連携
・酸素機器の取り扱い説明
・必要があれば、看護師が自宅へ訪問
(主に人工呼吸器装着患者)
・3ヶ月に1度は酸素機器の定期点検
・その際に、携帯用酸素ボンベの手技を確認
・カヌラの交換は月に1度
病棟での勉強会
ご清聴ありがとうございました
これからもよろしくお願いいたします