農産物市場流通論講義ノート ©有賀健高 1 第 10 回 畜産物市場の流通

農産物市場流通論講義ノート
第 10 回
©有賀健高
畜産物市場の流通
(2014/12/22)
文責:有賀健高
イントロ
食肉として飼養されている家畜としては牛、豚、鶏、綿羊、ヤギ、馬などがある。本講
義は主に牛と豚の流通について扱う。
1 食肉流通の特徴
1-1 商品形態の変化が大きい
生産段階と消費段階で商品形態の差が大きい
生体
→ 枝肉 → 部分肉
→ 精肉

生体:生きたままの牛、豚、鶏

枝肉:屠畜・解体され、頭、皮、内臓などが除かれた状態

部分肉:ヒレ、ロースなど部分別に分割し、骨や余分な脂肪が取り除かれ
た状態


精肉:部分肉を用途に応じてさらに小割りした状態
ぶどまり
歩留率:生体あるいは枝肉に対する精肉の割合。
例
精肉重量
牛では平均すると、
生体重量
精肉重量
豚では平均すると、
生体重量
精肉重量
=31%、
枝肉重量
精肉重量
=43%、
枝肉重量
=55%で、
=64%であるという。
1-2 自給率が低迷している

自給率=国内生産量/国内消費仕向量1

1971 年の輸入豚肉自由化、1991 年の輸入牛肉自由化以降自給率は低下傾
向だが、牛海綿状脳症(Bovine Spongiform Encephalopathy,BSE)2のよ
うな食品安全性の問題が起こると輸入量は減少する。
o
1985 年度の自給率 牛肉 72%、豚肉 86%、鶏肉 92%
o
2010 年度の自給率 牛肉 42%、豚肉 53%、鶏肉 68%
1 国内消費仕向量=国内生産量+輸入量-輸出量-在庫の増加量
2 BSE は、1986 年にイギリスの牛でみつかったのが最初であるが、日本では、2001 年 9 月に千葉県で感染の
可能性がある牛が発見されている。2003 年、アメリカでも BSE 牛が発見されたため、同年から 2005 年 12
月まで米国産の牛肉輸入が禁止されることになった。
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2 流通の仕組み(牛と豚)
2-1 基本的な食肉流通の諸段階
生産・出荷段階(生体流通)
肉、部分肉流通)
→ 屠畜場段階(枝肉流通)
→ 卸売段階(枝
→ 小売段階(精肉流通)
2-2 インテグレーション(Integration)(統合化)
畜産物の飼育が大資本の系列などに組み込まれて、生産・加工・販売に関わる川
上から川下までの部門が一貫した体系の中で行われる大規模生産・流通システム
のこと。
例
日本ハムグループでは畜産物の生産飼育、処理・加工、荷受け・物流、販売
までを全部自分のグループ内でやっている。
3 流通の担い手(牛と豚)
3-1 生産・出荷段階での担い手
① 生産者
② 農業団体
総合農協(JA)、専門農協、農協連合会、任意組合
③ 集出荷業者
 家畜商、総合商社、飼料会社、食肉加工業者、食肉問屋など。
 牛肉に比べて豚肉では、「飼料を海外からの輸入に依存し流通における飼料メ
ーカーの影響力が強い」ため、総合商社、飼料会社、食肉会社などの集出荷業
者による出荷割合が高い。
 牛肉と豚肉の生体出荷段階の担い手の割合
 牛肉:各種農業団体 49%、集出荷業者が 32%(家畜商 18%、総合商社・
飼料会社・食肉会社など 14%)、生産者 18%(1994 年時点)
 豚肉:各種農業団体 41%、集出荷業者が 42%(家畜商 17%、総合商社・
飼料会社など 25%)、生産者 17%(1987 年時点)
3-2 屠畜場段階での担い手
① 産地食肉センター
 設立の背景
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食肉センターは 1970 年代から 1980 年代以降政府による総合食肉流通体系整備
促進事業の一環で全国各地にでき始める。
 特徴
屠蓄解体処理施設、貯蔵保管施設、部分肉加工処理施設などを併せ持ち、近代
的な設備が持っている。
 抱えている問題
 畜産農家の減少
 従業者の高齢化
 小売店のニーズの多様化によるコストの上昇
 施設の老朽化や機械装置補修費の増大
 消費者の食品安全・安心ニーズに対応した施設への投資の増大
② 食肉卸売市場併設屠畜場
③ 一般屠畜場
3-3 卸売段階での担い手
① 食肉卸売市場
② 食肉加工業者
③ 仲卸業者(食肉問屋)
3-4 小売段階での担い手
① 外食店
② スーパー、デパート等の量販店
③ 食肉専門小売店
4 価格形成の仕組み
4-1 枝肉での価格形成
① 食肉卸売市場
格付けを参考にセリ取引で決まる。
 牛枝肉の格付け
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A、B、C、3 等級の基準のある「歩留等級」と1~5までの 5 等級で脂肪交
雑、肉の色沢、肉の締まり及びきめ、脂肪の色沢と質の4項目で判断される
「肉質等級」によって格付けされる。(詳しくは補足資料表 5-1 を参照)
 豚枝肉の格付け
半丸枝肉重量と背脂肪の厚さ、外観と肉質によって極上、上、中、並、等外の
5 等級の格付けがある。(詳しくは補足資料表 5-2 を参照)
② 食肉センターや一般屠畜場
相対取引。東京横浜、大宮の食肉中央卸売市場の平均価格、大阪も加えた 4 市場
の平均価格、さらにそれに地元の食肉卸売市場も加えた5市場平均価格を指標と
する。
4-2 卸売段階での部分肉の価格形成
食肉問屋や食肉加工会社は、屠畜場から仕入れた枝肉を部分肉や精肉に加工して
小売業、外食企業、中食企業などに卸売りするため、部分肉での取引が多い。
① フルセット取引とパーツ取引
部分肉取引は牛であれば 13 部位全部を 1 セットとして取引するフルセット方式
と、ロース、ヒレなどの部位毎に取引をするパーツ取引がある。最近の傾向とし
てはパーツ取引が多くなっている。
② 原価積み上げ方式
原価である枝肉の仕入れ価格をベースに加工費、資材や配送費などの経費を加算
し、それに独自の部位別係数を乗じて、販売価格である部分肉価格を形成する方
あらりえき
式。平均すると食肉卸売業者の粗利益率は 6%から 10%と言われている(藤島他,
2012, p.85)。
 粗利益率=粗利益/販売価格
粗利益
販売価格(卸売業者が小売業者
や外食店に売る部分肉の価格)
原価
(枝肉の仕入
れ価格)
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原価積み上げ部分
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4-3 小売段階での精肉の価格形成
食肉の売価は、各部位別に原価を算出し、それに粗利益を上乗せして決定する原
価計算方式が一般的である。平均すると粗利益が 25~35%になるように設定し
ていると言われている。一般に原価の高い牛肉の粗利は 20~25%で原価の安い
豚肉の粗利は 30%前後と牛肉よりも高くなっている。
5 これからの畜産物流通
5-1 家畜商・生体流通から卸売市場外・部分肉流通へ
卸売市場経由率が低下傾向にある。2006 年度の食肉の卸売市場経由率は牛肉
15.5%、
豚肉 7.3%。

低下の背景

産地食肉センターの設立など屠畜場の機能の高度化

運送技術の向上による運送時間の短縮

コールドチェーン(Cold chain)3に代表されるような冷蔵・冷凍技術
の高度化
5-2 生鮮食肉市場での食肉加工会社の伸長

伸長した背景

加工会社による直営牧場や畜産物処理施設の開設。

インテグレーションの進展。

円高による安価な食肉輸入の増大。

冷蔵・冷凍技術の発達で生鮮食肉の輸入がし易くなった。
5-3 量販店による食肉販売の活発化
3 コールドチェーンとは、生産地から消費地へ商品が輸送される過程で冷蔵、冷凍技術により低温状態を保
ったまま流通させる低温流通体系のことをいう。
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