Title 権利移転原因の失効と第三者の対抗要件 : 虚偽 - HERMES-IR

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権利移転原因の失効と第三者の対抗要件 : 虚偽表示、詐
欺取消および解除を中心として
松尾, 弘
一橋論叢, 102(1): 78-102
1989-07-01
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/11131
Right
Hitotsubashi University Repository
第1号 (78)
第102巻
一橋論叢
権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
−虚偽表示、詐歎取消およぴ解除を中心として−
松 尾
る対 抗 要 件 の 有 無 は ど の よ う な 意 味 を も つ で あ ろ う か 。
当該権利のAまたはCへの帰属決定をめぐって、いわゆ
る契約そのほかの権利移転原因が効カを失った場合に、
権利がA←B←Cと移転するに際して、AB間におけ
その根拠を考察する。そして、第三者の権利取得に関す
書︶の場合を取り上げ、第三者の対抗要件の要否および
詐歎取消︵九六条三項︶および解除︵五四五条一項但
者保謹規定が設けられている虚偽表示︵九四案二項︶、
本稿は、この問題について、まず、法偉に明文で第三
一方では、わが国の物権変動論における意思主義、有因
^2︺
主義およぴ対抗要件主義の理解と関連し、他方では、B
^3︶
の失権の遡及効の有無やその法的性質と関係する。
^ユ︶
どの場合に起こりうる間題である。そして、この問題は、
成就︵二一七条二項︶、契約の解除︵五四〇条以下︶な
取消︵四条、九条、二一条、九六条など︶、解除条件の
強行法規違反、民法九〇条、九三条ないし九五条など︶、
弘
これは、具体的には、意思表示の無効︵意恩無能カ、
はじめに
まとめと今後の課題
解除と第三者
詐歎による取消と第三者
虚偽表示と第三者
はじめに
五四三二一
㎎
(79)権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
も検討する。 、
現れた︵悪意の︶第三者などに対する適用規範について
適周範囲、とりわけ、取消後に現れた第三者、解除後に
る各規定の規範構造の異同を確認したうえで、それらの
を認めることによって、AC間が﹁対抗関係の問題﹂に
に、BからAへも﹁一種の権利を復帰させるべき関係﹂
受けたとする。登記必要説は、BからCへの譲渡ととも
装譲渡して移転登記が経由され、さらに善意のCが譲り
いては、争いがある。例えぱ、Aがその不動産をBに仮
なるとする。これに反して、登記不要説は、九四条二項
^1︺
︵1︶ そのほ。か、合意解除、再売買予約︵五五六条︶、貿戻
︵五七九条︶などの場合がある。なお、遺産分割︵九〇九
によりCにとってはAB間の譲渡が有効だったものとみ
なされることから、目的物がA←B←Cと移転した場合
^三
のAC関係は対抗問題︵一七七条︶にはならないとする。
B←Cの処分行為後に、Bが遡及的に権利者ではなかった
条但書︶およぴ相続放棄︵九三九条︶と第三者のケースも
利移転の効果が消滅した場合と関連させて理解できるであ
︵Aが権利者であった︶ことになると見れぱ、A←Bの権
目 これらの学説を踏まえて、以下に私見を整理して
では、本証書の効力を変更または滅却する﹁秘密二存シ
ω現行民法九四条の母体となった旧民法証拠編五〇条
合め、比較的広く捉えられていたことが注目される。
護されるべき﹁第三者﹂の意義ないし範囲が、償権者を
ω まず、立法経緯によれぱ、九四条二項によって保
みよう。
ろうか。
︵2︶ 滝沢奉代﹃物権変動の理論﹄︵一九八七年︶四〇頁以
下参照。
︵3︶ 四宮和夫﹁遡及効と対抗要件﹂新潟大学法政理諭九巻
三号︵一九七七年︶一頁以下参照。
二 虚偽表示と第三者
に引き直せぱ、﹁虚偽ノ意思表示﹂に反する当事者の内実
の意思の効カという側面から規定が置かれていた。すな
置ク可キ反対証書﹂の効カ、すなわち、現行民法九四条
わち、この反対証書は、﹁署名者及ヒ其相続人﹂に対して
O AB間の法偉行為の無効は、これを第三者Cに対
その一つの例外を設けて第三者を保護している。しかし、
しても主張できるのが原則であるが、民法九四条二項は、
その場合の第三者に対抗要件の具備を要するか否かにつ
鴻
一橋論叢 第102巻 第1号 (80)
のみ効カをもつとされ︵同一項︶、そして、その効カが及
果を忍容する償権者でさえ︵ごニハO条を見よ︶、契約し
3︶行われたの一でないときには、その債務者の行為の効
債務者の行為が債権者の権利の詐害において︵彗守彗−
られており、その制度的位置づけとしては、二般的には、
を害することを目的としてはいないかを案ずる﹂と述べ
すれぱ、ここでは当事者以外の利害関係人︵巨ま﹃窪急︶
注釈によれぱ、﹁法は、反対証書が第三者︵ま冨︶、換言
同条に対応するボアソナード草案二二八六条についての
定承継人﹂と規定された︵同二項︶。その理由については、
題と、その第三者がさらに具傭すべき資格ないし要件の
^6︺
問題とは、ひとまず分けて考えることも可能であり、ま
なら、保護されるべき﹁第三者﹂の意義ないし範囲の問
因ではあるが、その決定的根拠とまでは言えない。なぜ
えば、特定物債権者にとどまる者も保護されうると解す
?︶
る余地もある。もっとも、これは登記不要説に有利な要
は、絶対的に権利を取得した転得者にはかぎられず、例
から見るかぎり、九四条二墳によって保護される第三者
㈹このように、﹁第三者﹂の範囲に関する本条の沿革
者及ヒ法偉上之ト同一人ト看徹スヘキ者ヲ除ク外皆之ヲ
^5
第三者ト称スルヲ可トシタレハナリLとされた。
ヲ本案二単二第三者ト云ヘリ是他ナシ本案二於テハ当事
た時に反対証書を知らなかった場合には、反対証書の効
た、転得者には、物権変動の公示などの別個の理由から
ばない善意の第三者の範囲は、﹁当事者ノ償権者及ヒ特
果を忍容する義務はない。これは、三六〇条の文言にあ
登記などが要求されることも考えられるからである。
うる実質的な争点に即して、第三者の登記の要否を検討
る原則に対する著しい例外であるLとされ、廃罷訴権
債権者︵o民彗9宵︶が債務者の行為の効カを否定しうる
^3︺
例外的な制度として把握された。
ようになろう。第一に、登記がBにある場合、Cは、依
② そこで、以下、第三者が転得者である場合に生じ
ωついで、﹃法典調査会 民法主査会議事遠記録﹄九
然として占有しているAに引渡を請求しうるか。第二に、
︵彗弍昌まく8算oぎ︶︵同草案三六〇条以下︶のほかに、
二条︹現行民法九四条とほぽ同文︺では、﹁︹旧民法︺証
Aが登記を回復した場合、CはAに対して移転登記を請
してみよう。これは、具体的な事例に引き直せぱつぎの
拠編五〇条ニハ当事者ノ債権者及ヒ特定承継人ト云ヘル
80
(8り 権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
になった事例では、移転登記まで経たCに対して、Aが
ある。そして、九四条二項の適用ないし類推適用が問題
ω第一のケースについては、判例は見当らないようで
した場合、Cは登記なくしてDに権利を圭張しうるか。
^ヱ
以下、これらについて、順次検討してみよう。
求しうるか。第三に、Aが当該不動産をさらにDに譲渡
ない。そこで、私見としては登記不要説をとり、その根
張して登記なしに取り戻しうることは認めるものと解さ
条︶とみているが、Cが悪意の場含には、Aが無効を主
れる。また、登記必要説は、AC間を対抗問題︵一七七
善意の第三者Cに不測の損害を与えることになると恩わ
かし、登記必要説によれぱ、例えぱ、BからCに譲渡さ
いる︵後述︶。その意味では、九四条二項の第三者に対
これについで、第二および第三のケースが問題になって
その意思表示がBC間の譲渡前にされたとしても1の
どが認められないとすれぱ、虚偽表示の撤回1たとえ
第一に、もしAの登記回復後にはCの移転登記請求な
拠をつぎの点に求めたい。
れ︵九四条二項︶、このかぎりで不徹底とならざるを得
れた直後にBからAに登記が回復されたような事例では、
抹消登記ないし移転登記を請求したものが圧倒的に多く、
^8︶
そこではCの対抗要件の要否はとくに問題にならない。
のケースをどう処理するかに関わっている。そして、つ
抗要件を要するか否かは、実質的には、第二および第三
この第一のケースでも登記は不要と解すべきであろう。
ぎに見る第二のケースでCに登記が不要であるとすれぱ、
係でも認める結果になるが、これは、自ら虚偽の外形を
^皿︶
作出したAの帰黄性の強さに鑑みて、妥当でない。
効果を、虚偽の外形除去以前に現れた第三者に対する関
^o・︺
㈹第二のケースについて、判例には、CのAに対する
第二に、取消または解除のように、AB間の権利移転
︵対抗問題説︶は、Aにも登記名義を回復する正当な利
かつ取消権ないし解除権の成否についてAB間に利害の
原因の失効に際して取消ないし解除の意思表示が存在し、
^10︺
請求を認めたものがある。これに対して、登記必要説
益があること、Bからの二重譲受人の出現など、通常の
合には、当事者間の通謀に基づいて、第三者が虚偽表示
対立関係を生ずる場合と構造的に異なり、虚偽表示の場
取引活動における一般的な危険に鑑みれぱ、Cに登記を
^n︺
要求しても酷ではないこと、などを根拠に反対する。し
81
一橋諭叢 第102巻 第1号(82)
対応するような現実の法律関係が存在せず、AB間は、
第三に、通謀虚偽表示においては、AB間には外形に
した本条の立法趣旨に反するであろう。
三者に﹁不虞ノ損害ヲ蒙ラサラシメンコトヲ謀レリ﹂と
未登記を理由にして保謹を与えないとすれぱ、善意の第
記がBからAに戻される可能性が高い。その際に、Cの
ないものとして、Cの権利を確保するにすぎず、さらに
四条二項は、仮装行為の無効を善意の第三者に主張でき
までが実体化されることはないと考える。なぜなら、九
B間の有効な権利移転が擬制され、Bの地位ないし権利
九四条二項によってCが権利を取得しうるとしても、A
不要説の根拠づけ︵前述H︶には疑間がある。すなわち、
に、権利がA←B←Cと移転したことになるという登記
登記不要説が妥当であると考える。もっとも、この場合
親子、兄弟、夫婦、そのほかの親族ないし縁戚関係、内
進んで仮装そのものをーたとえ善意の第三者に対する
であることを認識する契機のないうちに、突如として登
縁、知人関係など、少なくとも当初は何らかの共同の利
関係にかぎってもー有効にするものではないと解され
^13︺
害を了解し合った特殊な人的関係であることが多い。そ
㈹ 第三のケースは、登記不要説と登記必要説︵対抗
るからである。これは、つぎの間題の理解と関係する。
^〃︺
に背く行為ではあるが、その人的関係の基礎はなお残っ
して、BからCへの処分などは、この共同の利害の了解
ており、場合によっては、それがAの登記回復にとって
その回復を、何らの制隈なく許容することは、敢引の安
隠された人的関係ないし利害関係に基づく虚偽の登記と
記を備えたときは、Aからの譲受人Dは無権利者からの
れに対しては、AB間に有効な物権変動があってBが登
一および第二のケースについて登記不要説をとる立場で
^〃︺
も、このケースは対抗問題になるとする見解がある。こ
るものとがある。学説では、対抗問題説はもちろん、第
^並︶
問題説︶との隈界事例である。判例には、対抗問題説を
^些
前提にしているとみられるものと、登記不要説とみられ
より有利に作用しうることも考えられる。ここでは、対
抗問題におけるようなAC間の対等な競争関係という基
全を著しく害することになる。
譲受人となることを根拠に、AB閲の譲渡が有効であっ
盤が欠けており、ザッハリヒな取引活動の場において、
したがって、先の第一および第二のケースについては、
鵬
(83) 権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
たのと同視される九四条二項の場合も、これと同様に解
釈すべきであるとして、登記不要説を維持する立場があ
^蝸︺
よって決定されるほかはないことになり、このようなC
D関係は、いわゆ合対抗関係になるものと解される。
^別︶
取得が認められるとしても、A←Bの権利移転やBの権
しかし、既述のように、九四条二項によってCの権利
ある第三者Cまでも保護している。これは、以下に見る
ることによって、移転登記手統を完了していない段階に
の無効を前提にしながらも、Aによる登記回復を制隈す
⇔ 以上のように、九四条二項は、AB間の権利移転
利取得までが有効になるものではないことから、不要説
九六条三項および五四五条一項但書による第三者保護の
るo
の論拠には凝問がもたれる。実際上も、不要説によれぱ、
^19︶
しくみとは基本的に異なっている。
勝つが︵一七七条︶、AもCも未登記のときは先に椀利を
き、A・かCの一方が登記を得たときは先に登記を得た者が
八六年︶ 一四頁以下は、対抗間魑に関する否認権説に基づ
抗不能の一般理論について﹂判例タイムズ六一八号︵一九
以下、とくに三一七頁︵およぴ注26︶。なお、加賀山茂﹁対
追悼・私法学の新たな展開﹄︵一九七五年︶所収三一四頁
︵1︶ 川井健﹁不動産物権変動における公示と公信﹂﹃我妻
登記がBからAに回復された後に登場したDが、移転登
^ 2 0 ︺
記まで備えたにもかか.わらず、Cからの移転登記請求に
応じなけれぱならないことになる。もっとも、登記必要
説に立つと、登記がBにある時点でDがAから譲り受け
て登記をしないでいる間に、CがBから譲り受け、その
直後に登記がB←A←DまたはB←Dと移転された場合
には、Cの保護が薄くなるようにも思われる。しかし、
取得した者−九四条二項の場合には、Bc閲の取引の方
がAB閲の物権の返遼よりも先に行われることから、つね
虚偽の外観を作出したAの登記回復は制隈されるべきで
あるとしても︵前述⇔ω㈹︶、Dが登記を得ることを制
にCIが勝つ︵一七六条︶、とされる。また、高島平蔵
Cに対して、その無権利を主張することを肯定される。さ
つつも、Cにのみ登記を要求し、未登記のAが、未登記の
九六八年︶二四頁以下は、AC間を﹁対抗関係﹂と把握し
﹁法律行為の無効・取消と対抗要件﹂民事研修二二六号︵一
限すべき理由は何ら存在しない。他方、このケースでC
が登記まで得た場合には、その権利取得が認められるこ
とにも問題はない︵九四条二項︶。その結果、CD間の
優劣は、CとDのうちどちらが早く登記を具備するかに
83
第1号 (84)
第102巻
橋論叢
︵4︶ 法務大臣官房司法法制調査都監修﹃法典調査会 民法
主査会議事速記録﹄︵日本近代立法資料叢書13、一九八八
らに、対抗問題説とは別個の観点から登記必要説をとるも
のとして、柳沢秀吉﹁登記の公信カと氏法九四条二項、九
の解釈としては、﹁第三者﹂には、特定承継人のほか、い
対して効カをもだないと構成するフランス民法ニニニ一条
︵5︶ ちなみに、旧民法と同様に、反対証普は﹁第三者﹂に
年︶︵以下、﹃主査会速記録﹄として引用︶六三九頁。
頁以下がある。
六条三項の意味﹂法学志林七〇巻一号︵一九七二年︶七一
︵2︶ 四宮和夫﹃民法総則﹄︵第四版、一九八六年︶一六六頁
わゆる一般債権者も合まれると解されている︵o−﹄雷目
注6。そのほか、登記不要説の理由づけとしては、第三者
を誤らせる虚偽の外観を故意に作出した真の権利者の帰責
○閏﹃げo目巳胃一UHo岸O才貝Hく㌔■鶉O巨荷葭ユo目9 N。Φま巨o目
無効を規定するにとどまり、その有効性を信頼した第三者
これに反して、ドイッ民法一一七条一項は、仮装行為の
︹;s︺目。ω鵯らL旨︶。
性が強い分だけ、第三者保護の要件を緩和させること・表
法総則﹄︹第二版、一九八四年︺二六〇頁以下、同﹁虚偽
を保護する規定を一般的には設けていない。しかし、第三
見代理の場合との権衡などが挙げられている︵幾代通﹃民
九六八年︺︹以下、幾代﹁虚偽表示﹂として引用︺二九員、
表示に対する善意の第三者と登記﹂民事研修二二二号︹一
者の保護は、八九二条以下、九三二条以下などの善意取得
者の保護規定をはじめ、仮装債権の譲受人︵四〇五条︶、
三一頁以下参照︶。
不存在または無効の債椛譲渡の通知を受けた償務者︵四〇
︵3︶田〇一詔昌邑9早o育箒Oao9く=毛胃一、向昌官冨旨
宗m向旨o冒宵=g昌勾8巨唖一吋︷.自一旨.>昌.︹εs︺㎝−a
﹄葭︸o=閏8o昌勺凹o目目耐ら、自目oo8昌仙目冨マ98昌oく︹Hooooo︺目o
HHf峯口篶巨竃H宍O目昌彗斤彗昌目団Ω坤田PH’N.>自P
九条︶、同じく賃貸地の所有椀移転の通知を受けた使用賃
る。■使務者が、その行為が償権者を害することになるこ
︹一凄企︺吻巨“射ρ老﹃.ま申︶。
旨少O■ごO。同草案三六〇条は、﹁反対に、債椀者は、そ
とを知りながら、積極財産を減少させ、または消極財産を
わが民法九四条二項の解釈としては、﹁第三者﹂には、
ている︵くo司−1向目目血ooo﹃自岨−z号勺0Ho①メ>=的o昌o巨g↓o箏
増大させるときに詐害が存在する﹂としていた。なお、第
仮装譲渡された目的物の譲受人、その目的物について制限
借人︵五七六条︶などに関する個別的規定によって図られ
三者の例としては、仮装債権が第三者に売却され、または
物権の設定を受けた者およぴ仮装債権の謹受人のほか・仮
の権利の詐害において行われた行為を除いて、その債務者
第三者によって差押さえられた場合が挙げられている
によって同意された債務、放棄および譲渡の効果を忍容す
︵巨q1一自。斥ナ℃﹂2︶。
(85) 権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
憤権者、仮装譲渡された土地の上の建物賃借人などは含ま
装譲受人の償権者のうち、目的物を譲り受けまたは賃借す
なお、その後の判例として、最判昭和四七年一一月二八日
項﹂判例タイムズニ七六号︵一九七二年︶二六頁以下参照。
︵8︶ 判例については、吉田真澄﹁仮装登記と民法九四条二
時七八一号六七員︵仮登記︶、最判昭和五二年一二月八目
民築二六巻九号一七一五頁、最判昭和五〇年四月二五日判
る債権契約をした者およぴ差押債権者が合まれるが、一般
代・前掲書二五二員以下、最判昭和五七年六月八日判時一
︵9︶ 登記名義がしぱらくBに残ウていたケースでも、緒局
判時八七九号七〇員など。
れないと解されている︵四宮・前掲書一六四頁以下、幾
〇四九号三六員参照︶。これに対して、﹁第三者﹂の範囲を
の仮処分仮登記が経由されるか、またはCに移転登記され
は、Aによって処分禁止の仮処分登記あるいは所有権移転
より広く解釈すぺきと主張するものに、木村常信﹁虚偽表
示と一般償椀者﹂産大法単五巻三号︵一九七一年︶一頁以
るかしており、最高裁は、両者が競合した事例では、それ
下、花村四郎﹁虚偽ノ意恩表示ト所謂第三者ノ意義﹂貝本
法政新誌一八巻五号︵一九二一年︶五七三頁以下がある。
判昭和三〇年一〇月二五目民集九巻一一号一六七八頁、最
らの登記の先後によってAC間の優劣を決定している︵最
判昭和四二年一〇月=二日民集二一巻八号二二三二頁、最
︵6︶ ﹁第三者﹂のカテゴリーと、その者が保護されるべき
判昭和四三年二一月四日民集二二巻一三号二八五五頁な
要件としての善意・悪意の問魍に関してであるが、池田真
九巻六号︵一九八六年︶二四頁以下参照。
最判昭和四八年六月二一日民築二七巻六号七二一頁。なお、
︵10︶ 最判昭和四四年五月二七日民集二三巻六号九九八頁、
ど︶。
朗﹁ボアソナードにおける﹃第三者﹄の概念﹂法挙研究五
︵7︶ 幾代﹁虚偽表示﹂二五貫以下、同﹁通謀虚偽表示に対
の課題と展望︵下︶﹄︵一九八二年︶所収︵以下、幾代﹁補
録二二輯二〇八九頁もこれに類する事例か。
事案の詳細は不明であるが、犬判犬正五年一一月一七日民
する善意の第三者と登記−補諭﹂﹃林還暦・現代私法学
論﹂として引用︶二員以下参照。また、第二のケースと関
七頁注7、幾代・前掲書二六二員、最判昭和四四年五月二
︵12︶ 虚偽表示の撤回の許容範囲につき、四宮・前掲書一六
員。
︵u︶ 川井健﹁判批﹂判例評諭一〇二号︵一九六七年︶九六
連して、登記は依然Aにあるが、AB間の虚偽の譲渡証奮
などを信頼してBから譲り受けたCが、Aに対して移転登
記などを請求しうるか、という問題については、本稿では
参照︶。ちなみに、この問題が背定されれぱ、登記不要説
七目︹前掲注10︺参照。
割 愛 す る ︵ 幾 代 ・ 前 掲 書 二 六 〇 員 、 同 ﹁ 補 論 ﹂ 三 五 頁 以 下
■に有利な諭拠になる。
85
︵13︶ ﹃主査会速記録﹄六三九員。
︵14︶ 仮装行為の無効は、隠匿行為の有効と表裏の関係にあ
り︵くO竈一.ω蔓巨⋮篭冨宍O・⋮O・葦昌昌■Ω貝塁L1一§
︵19︶ 幾代﹁補論﹂二一頁以下参照。商森﹁判批﹂民商法雑
誌九六巻六号︵一九八七年︶八四五負もこれを認めておら
からの有効な権利取得のみを主張し、かつ対抗要件を備え
︵20︶ 幾代﹁補識﹂一七員。もっとも、高森教授も、DがA
れる。
者に﹁対抗スルコトヲ得ス﹂とは、隠匿行為の有効を第三
た場合には、Dの優位を認められる︵前掲﹁判批﹂八四五
>昌。︹岩O.O︺㎜H5宛N8︶、仮装行為の無効をもって第三
者に対して主張することができなくなるにすぎず︵旧民法
頁︶。四宮・前注18も、この場合には例外を認める趣旨か。
︵21︶ もっとも、Cが悪意の場合には、Dは登記なくしてA
証拠編五〇条、フランス民法二一二二条参照︶、仮装行為
がただちに有効になることまでは意味しない。そして、九
ほか﹃氏法講義1・総則﹄︹改訂版、一九八一年︺二〇一
B間の虚偽表示をCに主張しうる︵九四条二項。五十嵐滴
Cに転売したケースで、AB閥の法偉行為が取り消され
O Aがその所有物をBに譲渡し、さらにBがこれを
詐欺による取消と第三者
員︹稲本洋之助執筆都分︺、幾代・前掲暫二五九頁参照︶。
四条二項によるCの椀利取得の実体法上の構成としては、
構成が提唱されている︵承継取得とするのは、時効取得や
AからーBを飛ぱしてーCへの法定の承継取得という
即時取得と異たり、Cは、A以前の取引段階における暇疵
から自由ではないと解されるからである。幾代﹁補論﹂一
三頁以下︶。なお、好美満光﹁物椀変動論をめぐる現在の
間魑点﹂奮斎の窓二九九号︵一九八○年︶︵以下、好美
︵15︶ 最判昭和四二年一〇月=二日︹前掲注9︺。
が、その際、Cに対抗要件を要するか否かについては、
謹するための例外規定が九六条三項であるとされている
立つとされている。これに対して、善意の第三者Cを保
^1︶
でき、Cの転得が取消後のときは、AとCは対抗関係に
取消前のときは、Aはその取消を登記なくしてCに対抗
たとする。この場合、判例・通説によれぱ、Cの転得が
一六七頁。
報四二巻六号︵一九七〇年︶一二五員以下、四宮・前掲暫
︵18︶ 高森八四郎﹁民法第九四条二項と第一七七条﹂法律時
号︵一九六八年︶三八七頁以下。
同﹁補論﹂一員以下、瀬戸正二﹁判解﹂法曹時報二〇巻二
︵〃︶ 幾代・前掲毯二六一頁、同﹁虚偽表示﹂二八員注5、
︵16︶ 大判大正九年七月二三目民録二六輯一一五一頁。 .
﹁物椀変動論﹂として引用︶二五頁以下参照。
三
第1号 (86)
第102巻
一橋諭叢
86
(8ア) 権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
^2︶
判例の態度は必ずしも明確ではなく、学説もつぎのよう
に分かれている。
ω 登記不要説は、九六条三項は取消の遡及効︵二一
ω 九六条三項は、旧民法財産編三二一条三項を承継
している。すなわち、−
^8︺
然レトモ当事者ノ一方力詐歎ヲ行ヒ英詐歎力他ノ一
方ヲシテ合意ヲ為スコトニ決意セシメタルトキハ葉一
^ 4 ︶
適用を認める見解がある。
取消後に出現した第三者との関係には九四条二項の類推
利害関係に入った第三者にのみ九六条三項。の適用を認め、
^3︶
か後で区別しない、九六条無差別適用説と、ω取消前に
項が﹁詐欺は、当事者の一方が行った術策が、それがな
すなわち、ボアソナードは、フランス民法一一ニハ条一
消の効果について非常に特色のある構成が採用された。
まま承継したものであるが、同草案においては、詐歎取
ωこれは、ボアソナード草案三三三条三項をほぼその
第三者ヲ害スルコトヲ得ス
方ハ補償ノ名義ニテ合意ノ取消ヲ求メ且損害アルトキ
一条︶をとくに制限したものであり、Cに対する関係で
回 これに対して、登記必要説には、ω取消によるB
けれぱ他方当事者が契約を締結しなかったであろうこと
ハ其賠償ヲ求ムルコトヲ得但其合意ノ取消ハ善意ナル
からAへのいわゆる復帰的物権変動を承認し、AC間を
が明らかであるような場合には、合意の無効原因であ
は、権利がA←B←Cと移転したことになる点を根拠に
対抗間題として処理する見解と、ωCがAの利益を犠牲
る﹂と規定するのに対して、詐欺︵o〇一︶が合意の無効原
する。しかし、この中にも、ω第三者の出現が取消の前
にしてまでも保謹されるべき実質的利害関係の深さある
^6︶
いはCの権利取得の高度の確実性を判断する指標として、
因としての同意の暇疵︵己838冨彗什冒彗芹︶に該る
における議論も参照しながら、以下に私見を整理してみ
⇔ 以上の判例および単説を踏まえ、本条の立法過程
^ 7 ︺
する見 解 が あ る 。
成せず、原則として詐歎者に対する損害の賠償︵H曾胃甲
がないことを批判する。そして、詐歎は同意の暇疵を構
者が詐欺を行った場合とで同条のように区別する合理性
とすれぱ、契約当事者の一方が詐歎を行った場合と第三
^5︶
または権利行使や権利保護の要件としてCに登記を要求
ようo
87
第1号(88)・
第102巻
一橘論叢
の効果として合意が無効となる一方、詐歎者には民事上
条以下、旧民法三〇九条以下参照︶、その場合には錯誤
れが同意の暇疵を構成することもあるが︵同草案⋮二〇
性質︵冨ざ冨︶および重大さ︵oq冨くま︶によっては、そ
っとも、詐歎は錯誤を生じさせることから、その錯誤の
ま昌き旧昼自生8︶の原因にとどまるものとした。も
そして、詐歎による賠償を求める訴権は、純粋に人的な
者︵㎝O富−彗一ま冨冒︶の利益に反して取り消され得ない﹂。
たならぱ、最初の譲渡が不動産の譲渡であっても、転得
る詐害または通謀のない第三者︵ま冨︶の手中に移転し
であり、そして、別の合意の効果により、物が、あらゆ
﹁もし詐歎によって決意された合意が譲渡︵寧豪畠ま昌︶
とは異なり、第三者には原則として及ぱない。すなわち、
^9︶
の違法行為︵ま享oζ−︶に基づく義務として、損害賠
以外の第三者が詐欺を行った場含、およぴ②当事者の一
㈹その際、詐欺に基づく損害の賠償方法は、①当事者
償︵ま目冒墨①ω−巨まH痒ω︶が要求されたのである。
㈲このように、詐欺取消の効果を人的ないし債権的な
^12︶
その債権者の担保︵oq晶Φ︶になりうる。
の詐欺を理由に取り消しても物の所有権は譲受人にあり、
︵唱轟o昌色︶、たんなる債権︵oa竃8︶であり、譲受人
^10︺
方が詐欺を行ったが、合意の形成それ自体に影響を及ぼ
第三者に対して再び拡張する意味をもつのが同草案三三
ものに限定するならぱ、第三者の権利は本来害されず、
償であ り 、 ③ 当 事 者 の 行 っ た 詐 欺 に よ っ て 合 意 が 行 わ れ
さなかった、いわゆる付随的ないし第二次的詐歎︵o〇一
た、いわゆる主要な詐欺︵ま一雫一昌号巴︶の場合には、
三条三項但書︹旧民法財産編三二一条三項但書︵前述ω
^旭︶
冒頭︶と同じ︺の規定である。
第三者の保護規定は不要になるが、取消の効果を悪意の
当事者を合意から解放して最初の状態︵睾量ま昌屑①昌−
ω ところが、その後の修正過程においては、詐歎の
一昌巨彗戸彗8窒o︷昌o自ω8昌3ぎ︶の場合には金銭賠
^ u ︺
討篶︶を回復させることである。
ハ ⋮補償名義ヲ以テスルニ非サレハ其結果ヲ得ル能
場合にも﹁意思表示ヲ敢消スコトヲ得ルモノトスル以上
喀;弍昌︶による合意の取消︵彗昌一算一冒︶によって行
ハストスルノ意ヲ解スルニ苦シムナリ﹂として、先の旧
㈲この賠償請求は、賠償︵補償︶の名義︵葦冨まま−
われ、その効果は、同意の蝦疵を理由とする取消の効果
(89)権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
れ、取消の効果は﹁畢寛一種ノ錯誤ノ効果二外ナラス敢
民法の規定︵前述⋮冒頭︶から﹁補償ノ名義﹂が削除さ
して明らかにしたとされる同項但書の﹁合意ノ取消ハ第
這︶
三者ヲ害スルコトヲ得ス﹂という規定︵前述ω冒頭︶は、
かわらず、この﹁補償ノ名義ニテ﹂と同じ趣旨をくり返
テ此点二付キ他ノ錯誤ト性質ヲ異ニスヘキ謂レナシ﹂と
された。
理由説明においても、この旧民法の﹁但書ノ規定ハ採テ
その後、﹃主査会速記録﹄九四条︹現行民法九六条︺の
^M︶
㈹ この修正段階においては、詐歎取消の性質およぴ
之ヲ本條三項二掲ケタリ﹂とされ、また、その際、同項
いった議論はないこと、第三に、そもそも現行民法一二
^帖︺
に取消の遡及効をとくに制隈する新たな意味を与えると
根拠が、詐欺者の違法行為に基づく損害賠償的なものか
ら、非詐欺者の﹁一種ノ錨誤﹂に基づく意思表示の効カ
の否定へと把握し直されている。では、このことは、旧
一条の↓取消シタル行為ハ初ヨリ無効ナリシモノト看徹
無能カ、詐欺などに基づく鋪除の効果を定めた旧民法財
民法における取消の効果の人的ないし債権的構成︵前述
うか。これについては、そのほかの取消原因との関係も
産編五五二条の﹁受取リタル総テノ物ヲ返還スル責二任
スLという文言は、取消の遡及効を認める趣旨ではなく、
含めて、別稿で一般的に検討するが、ここではひとまず
ス﹂という茎言では意味が狭く、必ずしも物の返還にか
ω㈹︶の放棄や遡及的無効の承認に直結するものであろ
否定的に解しておきたい。その理由としては、第一に、
ぎらず﹁金ヲ払フ償ヒヲ払フコトモァル﹂ことなどから、
、 、 、 、
当事者間の返還義務の範囲を一般的に規定しようとした
ボアソナード草案ないし旧民法における取消の効果の債
趣旨であること、などである。
^〃︶
ω 以上の理由から、詐歎取消の効果は、現行民法九
権的構成は、詐歎者に対して金銭賠償を請求する場合の
みならず、いわゆる主要な詐歎において当事者を合意か
効をとくに制限する意味をもたせる前述Hωの学説には
理解しうる可能性があり、この点で、本項に取消の遡及
^18︶
六条三項の解釈としても人的ないし債権的なものとして
ら解放し、原状回復を認める場合にも維持されているこ
と︵前述ω⑰︶、第二に、詐歎による取消の効果は﹁一
二条三項本文の﹁補償ノ名義ニテ﹂は削除されたにもか
種ノ錯誤ノ効果二外ナラス﹂とされ、旧民法財産編三一
一橋論叢 第102巻 第1号 (90)
構成によれぱ、移転登記がふさわしいと考えられる1
私見としてはつぎのように考える。
な地位も問題にされている。これらを手がかりにして、
観的要件と並んで、物に対する関係での第三者の客観的
している。これは、必ずしも明確な基準ではないが、主
のない第三者の手中に移転したならぱ﹂︵前述ωω︶と
ないし資格について、﹁物が、あらゆる詐害または通謀
さらに、この転得者が保護されるために具備すべき要件
前提として、所有権の帰属が問題になる。まず、取消の
場合の取り扱いである。この場合には、それらの講求の
的物返還講求をしたり、CがAに対して引渡請求をした
㈲問題は、登記がBにある段階で、AがCに対して目
はないと解されるからである。
示の場合のように原権利者の登記回複を制隈すべき理由
帰すべき行為を理由とする詐欺取消の場合には、虚偽表
隈されるべき理由は見出されず、②また、相手方の責に
した後には、CのAに対する移転登記請求などは認めら
疑問の余地がある。では、このような理解の下で、第三
㈹取消の効果の債権的構成は、第一に、A←B←Cと
効果の債権的構成によれぱ、BからAへの所有権移転時
れず、Aは所有権を完全に回復しうることをも意味する
移転した権利移転の連鎖が、AB間の意思表示の取消に
期が問題になる。これについては、BからCに登記が移
者の対抗要件の要否はどのように考えられるであろうか。
よっても切断されず、Cが登記などを経て完全に所有権
されるとAの所有権回復が不可能になることを前提にす
と解される。なぜなら、①第三者保護のために債権的権
を取得した段階においては、Cの地位は何ら影響を受け
れぱ︵ω参照︶、仮にAの登記回復以前の段階でAへσ
ωちなみに、ボアソナードは、、詐歎取消の効果から保
な い ことを意味する。
所有権移転を認めてもあまり実益はなく、登記を経たC
利へといったん制隈された取消権者の地位が、さらに制
㈲第二に、この構成は、AB間のみで、すなわち、A
から再び返還講求されうる。もっとも、実際問題として
ω㈲のように、転得者を念頭に置いているようであるが、
のBに対する償権的請求権によって実現しうる回復自体
は、Bから所有権を取り戻そうとするAは、Cへの所有
護され る べ き 第 三 者 の 意 義 な い し 範 囲 に つ い て は 、 前 述
には何ら制隈はなく、AがBから登記を回復−償権的
90
(91)権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
権移転を阻止するために、Bに対する処分禁止の仮処分
登記を得たうえで争うことになろうから、その場合には、
移転登記を待つまでもなく、本案訴訟でAが勝訴の確定
^19︶
判決を得た時に所有権はBからAに移転する、と解すぺ
一項、一四六条一項参照︶。
^20︶
㈹ところで、ここで検討している第三者の対抗要件な
どの要否は、物権変動の意思主義およぴ有因主義を前提
にしながら︵一七六条以下︶、原因行為の取消の効果か
て︵一七六条︶、CのAに対する引渡講求などを認めて
つぎに、仮にBC間の契約時に所有権が移転するとし
的に構成することによって、A←Bの権利移転自体は有
提にしながらも、詐歎取消の場合には取消の効果を償権
民法上の物権変動について意思主義およぴ有因主義を前
避的に生じる問題であると考えられる。すなわち、わが
ら第三者を保謹しようとする際に︵九六条三項︶、不可
も実益は薄く、第三者Cとしては、右のAB間の訴訟で
効に維持される結果、すでに権利を取得している第三者
きであろう。
A敗訴の判決が確定した場合のほかは、B名義不動産に
、 、 、 、 、
^趾︶
︵復帰︶原因になっていると解される。したがって、こ
合意されなくとも、すでに取消自体がB←Aの権利移転
下では、AB間であらためてB←Aの権利移転について
Aにはなお権利回復の余地があり、しかも、有因主義の
においては、A←Bの権利移転自体は有効であっても、
は保護される。しかし、.権利がBにとどまっている段階
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
、 、 、 、
対してAが処分禁止の仮処分登記を得る前に移転登記を
得てお か な け れ ぱ 、 後 に 登 記 を 回 復 し た A か ら の 返 遼 講
って、そのかぎりで、九六条三項によって保護される第
求に応じなけれぱならない︵㈹および㈲参照︶。したが
三者は登記を備えた者である必要があろう。
㈱しかし、また、Cが仮登記を得たにすぎない場合で
も、Cは、もはやAの債権的請求権による回復の対象外
に該ると解すれぱ、たとえAが登記名義を回復した場合
すべき、いわゆる対抗関係ではなく、有因主義の下で、
の物権行為相互間の優劣を登記または引渡によって解決
、 、 、 、 、
の場合のAC関係は、B←AおよびB←Cの対等な二つ
であっても、仮登記を本登記に改めることによってその
B←Aの原則的権利復帰を前提にしながら、法律の規定
である仮登記を取得した者として、九六条三項の第三者
権利を確保することができよう︵不動産登記法一〇五条
ω
一橘論叢 第102巻 第1号 (92)
︵九六条三項︶によって、とくにこの権利復帰が阻止さ
ぱ、Cには有効に権利を取得しうる根拠があり、Cはけ
、 、 、 、
っして無権利者Bからの譲受人ではない。そこで、私見
と考える。
^鴉︺
が適用され、前述Hωと同様に解釈するのが妥当である
としては、取消後に現れたCとAの関係にも九六条三項
れ、それを前提にしてはじめてB←Cの権利移転が認め
られる、いわぱあれかこれかの関係にあると解される。
、 、 、 、 、 、
したがって、ここでは、この法規によってとくに保謹さ
れるぺき第三者の範囲とその資楕要件が定められなけれ
のとした登記ないし仮登記は、九六条三項の解釈上、こ
ある。そして、前述㈲およぴ㈱で第三者に要求されるも
とが、物権変動の有因主義とも相侯って、九六条三項に
原状回復にも何ら制隈を加えていない。そして、このこ
対に、A←Bの権利移転の有効性を認める一方で、Aの
㈲ 以上のように、九六条三項は、九四条二項とは反
のいわぱ第三者資楕要件としての意味を付与されること
よって隈定的に保護されうる第三者の範囲規定と資楕要
ぱならず、九六条三項は、本来この点まで規定すべきで
になると考えられる。さらに、九六条三項は、悪意の第
件を設けることへと通じている。このような規範構造は、
登記﹂﹃於保還層・民法挙の墓礎的課題︵上︶﹄︵一九七一
︵1︶ 判例・通説の概観として、幾代通﹁法律行為の取消と
つぎに見る解除の場合と基本的に共通している。
三者への追及をとくに認め、詐歎取消の債権的効果を一
^22︶
部拡張する意味をももつと解される。
こうして、私見は、前述o②ωの対抗問魑説とは異な
るとともに、九六条三項の第三者資楕要件として登記ま
年︶所収︵以下、幾代﹁取消と登記﹂として引用︶五五頁
以下参照。なお、山田卓生﹁法偉行為の取消と登記﹂法学
たは仮登記を捉える点で、oωω説ともやや異なる。
⇔ つぎに、取消後に出現した第三者との関係につい
新報七九巻四号︵一九七二年︶ 一頁以下参照。
三〇日民集二一巻一六号九一一頁︵低当権登記と代物弁済
Aに対する損害賠償請求を認めた︶、大判昭和一七年九月
書の連続を欠く貨物引換証を所持する転買人Cから、売主
︵2︶ 犬判昭和七年三月一八日民集一一巻四量二二七負︵裏
て見てみよう。取消の効果の債権的構成を前提にすれぱ、
AB間の行為が詐歎によって取り消されても、A←Bの
権利移 転 が 失 効 す る こ と は な い 。 し た が っ て 、 C の 出 現
がたとえ取消後であったとしても、Aの権利回復前なら
㏄
(93)権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
予約などの仮登記を経た第三者Cに対する売圭Aの抹消登
︵6︶ 幾代﹁取消と登記﹂六九頁、須永醇﹁判解﹂ジュリス
立場を維持される︵二注−参照︶。
六条三項についても、それぞれ九四条二項におけると同じ
ト五九〇号︵一九七五年︶五八員︵Cは﹁その取得した権
記請求を棄却した︶、最判昭和四九年九月二六日民築二八
附記登記を得た転得者Cに対するAの抹消登記請求を棄却
巻六号二二三頁︵所有権移転諦求権保全の仮登記移転の
利を対世的に保全するため法律上なしうるだけのこと﹂を
していれぱ保護される︶、鎌困蕪﹃民法判例百選1﹄︵第二
し た ︶ 。
版、一九八二年︶六一員、川井健﹁契約の解除︵その5︶﹂
︵3︶ 川島武宜﹃民法総則﹄︵一九六五年︶三〇一頁、原島
重義﹃注釈民法㈹﹄︵一九六七年︶二八五頁以下、平井一
法学セミナー四一二号︵一九八九年︶九〇頁。
師寺米寿・民事法学の諸問題﹄︵一九七七年︶所収一一五員
下森定﹁﹃民法九六条三項にいう第三者と登記﹄再論﹂﹃薬
暴行︵三〇一竃oo︶およぴ強迫︵8巨曇旨訂︶が認められて
︹屋O。ω︺冒。NPラ8.同意の環疵としては、錨誤︵①冒①⋮︶、
︵9︶団o落o畠呈8.o戸ε目o月ま責序昌血&旨昌
︵8︶ ﹃主査会速記録﹄六五三員参照。
年︶八二一頁以下。
︵7︶ 星野英一﹁判批﹂法学協会雑誌九三巻五号︵一九七六
雄﹁遡及的無効と登記﹂法隼セミナー二一二号︵一九七三
年︶二二〇頁以下。
以下、加藤一郎﹁取消・解除と第三者﹂法学教室七号︵一
いる︵巨£O、β︶。なお、旧民法財産編三一二条一項は、
︵4︶ 四宮・前掲論文一一貫以下、同・前掲書一八七頁以下、
九八一年︶六五頁、幾代通﹁法律行為の取消と登記−再
頁以下、同﹃物権法﹄︵第二版、一九八二年︶一二八員以
昌﹃窪o邑g︶によウて主張され︵一一一七条、二二〇四条
きき︶であり、無効または取消訴権︵8ぎ目竃昌≡ぼ昌
一一六条に該当する詐歎の効果は、相対無効︵昌昌豪邑−
三三三条一項も同旨︶。ちなみに、フランス民法では、一
﹁詐歎ハ承諾ヲ阻却セス又其暇疵ヲ成サス﹂とする︵草案
論﹂民事研修三五九 号 ︵ 一 九 八 七 年 ︶ 八 頁 以 下 。
︵5︶ 広中俊雄﹁法律行為における取消と不動産取引におけ
下、鈴木禄弥﹃民法総則講義﹄︵一九八四年︶ 一三〇頁。
る第三者の保謹﹂法律時報四九巻六号︵一九七七年︶五六
もっとも、取消前のAに予め登記させることは不可能であ
0印勺岸竃グ↓鼻ま忌U﹃〇一けΩ三F乍︹6S︺目。N8︶。善意
の第三者の保護規定としては、動産については二二七九条
以下︶、その無効の遡及効は第三者にも及ぷ︵Oo−ま9
の即時取得が、不動産については二二六五条以下の敢得時
るとすれば、取消の意恩表示前には、第三者にのみ登記を
法﹄︵一九八三年︶九六頁、一〇二貢︶。なお、加賀山・前
要求することになろう︵我妻栄■有泉亭補訂﹃新訂・物権
掲論文一五頁以下および高島・前掲論文二一員以下は、九
93
(94〕
第1号
第102巻
一橋論叢
■ら.<昌一お−>=ol︹εooo︺吻−志一N︶。しかし、ドイツ民
り、原因行為の取消は処分行為ないし履行行為には影響を
法では、わが民法とは異なり、第一に、無因性の承認によ
効などがある︵雲彗巨g空潟﹃戸↓冒一思写算5毒ま
−︺﹃o岸O−く自 ︸﹃凹昌め巴9 旦里﹄男箒員δ ⑭O箒−OP H−− ︹−o㎞N︺ =畠
与えず−もっとも、両行為が一つのまたは時間的に接近
した行為によって行われた場合の瑠疵の同一性、両行為の
讐少N8g望︶。
︵11︶ ︸o家昌邑9毛1o芦目。o。ピ電.竃9岨.
︵10︶ 田o穿畠邑9毛.o戸目。o.Poや旨卑蜆1
︵12︶ ︸o−覇o目曽ogo?o旨’目。ooド、雫o︺9ソボアソナー
因の存続を認めることなどによって無因性の緩和が図られ
いる場合、また、とりわけ詐欺取消などについては取消原
経済的一体性、原因行為の有効が履行行為の条件にされて
ドは、﹁第三者﹂︵豪易︶の範囲については、とくに説明を
加えていないが、ここでの例示から見るかぎり、﹁転縄者﹂
舳ご吻−夷寄。。一睾昌彗一=鵯目鼻o目冒昌甘胃昌目田Ω貝
てはいる︵ω冨巨昌目o司亀m宍o昌冒−一向ヲーN巨吻吻Ho阜1−oo餉一宛N
二項において、取消の遡及効から善意・無過失の第三者を
田旦二一N.>昌。一吻H忘一射らZ﹃。O。︶1、第二に、一四二条
︵13︶ 柳沢・前掲論 文 八 二 員 参 照 。
が念頭に置かれていることに留意すぺきである。
︵15︶ 法務大臣官房司法法制調査部監修﹃法律取調委員会
並んで八九二条以下、九三二条以下など、個々の善意取得
保護する趣旨の一般的規定を設けており、第三に、これと
︵14︶ ﹃主査会遠記録﹄六五二頁以下。
叢書8、一九八七年 ︶ 四 九 頁 以 下 。
いことに注意する必要がある。したがって、条文の文言の
射o2﹃﹂津.︶、遡及効が貫徹される範囲はそれほど広くな
︹s轟︺吻H忘一夷ρ2﹃−二一峯饒目g−穴o目目−一N−>邑■吻軍“
宗“カ目ミ︷1一ωo胃o貝orω−oσgFωΩ兵由o.一HH一>目Φ.
の規定も存在することから︵くoqF望彗g目oqo易丙o目員一吻
民法草案財産編人権ノ部議事筆記一﹄︵日本近代立法資料
︵16︶ ﹃主査会速記録﹄六五三貫。
︵17︶ 法務大臣官房司法法制調査部監修﹃法典調査会 民法
議事速記録一﹄︵目本近代立法資料叢書1、一九八四年︶
︵18︶ ちなみに、ドイツ民法は二一三条で詐歎または強迫に
二二七頁︵梅謙次郎発言︶。広中・前掲書二一=員参照。
があろう。なお、わが民法一二一条の解釈として、取湘の
の規定とわが民法の規定とを同様に解釈することには間題
効果の債権的な構成を示されるものに、鈴木禄弥﹁法律行
類似性にもかかわらず、取消の遡及効に関するドイツ民法
これが遡及効︵宛目o斤三Hぎ目oq︶を認めたものであることに
よる意思表示の取消を規定し、一四二条一項で取消の効果
ついて争いはない︵ω片彗昌轟①富丙o昌昌。閉云♪犀N巨饒∴
為の無効と給付物の取戻し﹂犬阪市犬法学薙誌九巻三^四
を﹁法律行為は初めから無効とみなされる﹂としており、
峯旨旨−穴o目昌.、.>邑J伽宝“宛o2﹃1Hω葭∴吊巴昌鼻一︸Ω貞
躯
(95)権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
︵19︶ なお、解除に関してであるが、好美滴光﹁契約の解除
号︵一九六三年︶三八○頁がある。
︵20︶ なお、Cが目的物を占有するにすぎない場合には、A
の効カ﹂﹃現代契約法大系﹄第二巻︵一九七四年︶一八七
員注5参照。 ,
は登記を回復した後に、所有権に基づいて返還請求しうる
と解されるので、仮登記の場合とは異なる。
︵21︶ この点については、別稿でさらに検証するが、ひとま
ず、①無因主義は物権変動の形式主義と緊密に結ぴついて
四 解除と第三者
H AB間の契約がBの債務不履行によって解除され
た場合に、この契約の目的物をBから取得したCとAと
の関係について考察してみよう。
ω 判例は、AB間の契約の解除前にCが譲り受けて
いた場合でも、Cは対抗要件を備えていなけれぱ、五四
五条一項但書によって保護されないとする一方、AB間
^1︶
の契約の解除後にCが譲り受けて対抗要件を備えた事例
いることから、わが民法の解釈論上採用することは困難な
こと、②有因主義か無因主義かの問題は、物権変動の遡及
では、一七七条または一七八条により、Aは所有権復帰
をCに対抗できないとして、.AのCに対する抹消登記請
的消滅の肯否以外にも、原因関係の失効後、原権利者への
権利移転︵復帰︶のために、あらたに別個の物櫓行為を要
^2︺
求または引渡請求を退けている。
Cの出現が解除の前であっても後であっても、Cに対抗
② 学説は、ほぽつぎのように分かれている。ωまず、
が民法における物権行為の独自性と有因性O﹂法律諭叢二
するか否かの問題として現れることにつき、山本進一﹁わ
滝 沢 ・ 前 掲 書 四 六 頁 以 下 参 照 。
条一項但書に・よって特別に保護されるが、そのためには
つつ︵直接効果説︶、解除前に現れた第三者Cは五四五
ともに処分行為の効果も遡及的に消滅することを肯定し
二つの立場がある。①一つは、解除によって償権債務と.
要件の呉備を要求する見解がある。この申にも、さらに
九巻四11五号︵一九五六年︶五五員以下、六五頁以下、
︵22︶ 第三者の善意に関しては、第三者の悪意を主張する者
にその立証責任があるとの解釈が有カになっている。下森
定﹃注釈民法㈹﹄︵一九七三年︶二三三貫、四宮・前掲書
︵23︶ もっとも、取消後には、Cの善意とは、詐欺の事実お
一八五頁、一六三頁以下、幾代﹁取消と登記﹂六五頁参照。
よぴ詐歎による取消の事実を知らないことになろう。
対抗要件の具備が必要であるとし、また、Cが解除後に
95
第1号(96)
第102巻
一・橘論叢
現れた場合には、AとCとの関係は対抗問題になるとす
の前か後かにかかわらず、AC間は対抗問題であるとす
る見解である︵通説︶。②もう一つは、Cの登場が解除
ぴω︶と当事者間のみに隈定されるとみる、いわぱ相対
関係にまで及ぷとみる、いわぱ絶対的効果説︵ω①およ
に分かれ、さらに、遡及効肯定説は、遡及効が対第三者
及効の肯定説︵②ω①、㈹およびω︶と否定説︵ω②︶
る見解である。これは、解除の非遡及的構成−間接効
的効果説︵㈹︶に分かれる。しかし、遡及効の肯否につ
^3︶
果説、折衷説、原契約変容説など−に親しむものとさ
A←B←Cと移転した場合の前々主となるAに対して、
遡及的消滅に対する例外規定と解することから、権利が
ωつぎに、五四五条一項但書を解除による権利移転の
れている。
こともある︵ω①と②︶。
も、第三者の対抗要件については同一の結論がとられる
㈹︶、逆に、遡及効の肯否について反対の立場をとって
ついては正反対の結論に到達しうるし︵例えぱ、ω①と
いて同一の立場をとっても、第三者の対抗要件の要否に
^4︶
Cは登記なくして権利を主張することができると見る一
目 そこで、AC間の利益調整をめぐって、解除の効
ω 旧民法の法定解除は、一方当事者の義務不履行に
方、Cが解除後に現れた場合には同条但書は適用されず、
^ 5 ︶
るとする見解がある。
備えて双務契約に当然に包含された解除条件として構成
果の法的構成にどのような機能が期待されたのか、立法
㈲さらに、解除の効果は当事者AB間のみにおける償
されており︵財産編四二一条一項、四〇九条︶、物権的
AB間さらにはBC間の権利移転が遡及的に消滅するた
権契約および物権行為の遡及的消滅であって、この遡及
な効果をもつ。例えば、売買においては、売主は、買主
趣旨から再検討してみよう。
的消滅の効果は第三者にはまったく及ぱないとして、C
の義務不履行による解除を転得者に対して主張すること
?︶
めに、Cが対抗要件を備えていてもAの権利主張に敗れ
の登場が解除の前か後かを問わず、Cは対抗要件なくし
^6︺
てA に そ の 権 利 を 主 張 で き る と す る 見 解 が あ る 。
② これに反して、現行民法五四五条一項の起草過程
ができるものとされた。
倒これらの諸説は、解除の効果論との関係では、遡
96
(9ア) 権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
においては、解除権行使の結果は、﹁物権上ノ効果﹂で
はなくて、﹁人権上ノ効果﹂を生じさせるにすぎないも
のとされた。すなわち、解除は、当事者間に﹁原状回復−
ノ義務ヲ生ゼシメル﹂にとどまり、第三者が取得した
﹁権利自身ガ後トニ返ヘルト云フヤウナコト﹂はない。
また、第三者は、﹁仮令新ノ如キ解除権ガ行ハルルト云フ
コトガ或ハ分ツテ居リマシテモ其第三者ガ或場合二於テ
其目的物ヲ取得致シタトシマシテモ夫レガ為メニ知ルナ
ラバ損害賠償ノ責ニモ⋮・・又返還ノ責ニモ任ぜナイ﹂。
ところで、このような構成をとった理由は、一つは﹁第
三取得者ノ安全﹂を図ることであり、もう一つは当事者
間の原状回復を簡易にすること、すなわち、﹁第三者ノ
権利ガ中二加ハツテ居ルト原トニ復スルニハ色々ノ費用
ガ入ツタリ何カスル﹂からである。そして、このような
効果は、本項の但書がなくとも﹁本文丈ケデ以テ但書ノ
意味ニナル﹂のであり、但書は注意的規定に過ぎないこ
^8︶
とが明らかにされている。
側 ここでの起草者の意図は、解除者Aの請求権をB
に対する﹁人権上ノ﹂原状回復請求権に隈定することを
通して、﹁第三取得者ノ安全﹂を図ろうとしたものと解
される。ωこのことは、まず第一に、権利がA←B←C
︵9︺
と移転した場合に、AB間の契約の解除により権利移転
の連鎖が切断されてCがすでに獲得した﹁権利自身力後
トニ返ヘル﹂ことがない旨を規定したものとみることが
できる。ωしたがって、第二に、解除の効果竜﹁人権上
ノ効果﹂に隈定することが、前述H倒㈹説のように第三
者を無制限に保護することには直結せず、AのBに対す
る原状回復講求権と抵触しない範囲で第三者Cの権利が
保護されると解釈することも可能である。そして、私見
としては、①第三者保護のために﹁人権上ノ﹂原状回復
請求権へと隈定された解除権者の権能が、さらに制限さ
れる理由は見出し難いこと、および②相手方の債務不履
行を原因とする法定解除においては、解除権者の登記回
復について九四条二項におけるような制隈はないと解さ
れることからも、AがBから登記などを回復した後には、
CのAに対する移転登記請求などは認められる余地はな
いと考える︵前掲注1の判例参照︶。㈹それゆえに、A
B間の原状回復によって影響を受けないような地位︵登
記または仮登記︶をすでに獲得した第三取得者Cのみが
^珊︺
保護されるべきであると解する。そして、この場合にC
卯
第1号(98)
第102巻
一橋論叢
﹁
に要求される登記ないし仮登記の意義、登記がBにある
場合の問題の考え方、およびBからAへの所有権移転時
期については、取消について前述した三目ω⇔∼㈱と同
様に解釈すべきであると考える。
⇔ 以上のように、解除の効果が当事者間の﹁人権上
ノ﹂原状回復義務を生じさせるにすぎない以上、解除後
に目的物を譲り受けた第三者も一無権利者からの譲受人
ということはできず、解除前に現れた第三者と異なった
取り扱いをする理由は見出し難い。ところで、五四五条
一項但書は第三者に善意を要求していないが、このこと
は、解除後に現れた第三者Cが、^B間の契約が実際に
解除されたことを知ってBから譲り受けた場合にも保謹
される趣旨なのであろうか。この点につき、試論として、
解除後の第三者に、九六条三項を類推して、善意を要求
する可能性を検討してみたい。
ω まず、詐歎取消も解除も、それぞれ契約の成立段
階ないし履行段階における相手方Bの資に帰すべき行為
を原因とする点で共通性をもつ。
ω つぎに、五四五条一項但書が第三者の善意を要求
しない理由は、解除原因または解除権発生の事実があっ
ても解除されるとはかぎらないために、第三者がこれを
^u︺
知っても、解除を覚悟すべきものとは言えないからであ
ると解されており、実際に解除されたことを知る者をも
^旭︶
積極的に保謹しようとするものではない。したがって、
解除原因または解除権の発生から一歩進んで、解除の事
実が発生した後には、第三者に善意を要求することも可
能であろう。 一
副 さらに、取消は法偉行為の成立の当初からの原始
って第三者に対する関係でも−原状に近い状態に置く
的暇疵を原因とするがゆえに、可能なかぎり−したが
必要があるのに対して、解除は後発的な双務的均衡の喪
失を原因とするがゆえに、契約の効カを根底から覆す必
要はない、とする見解によれば、解除の場合にまで九六
^呈
条三項を類推し、第三者︵悪意︶への追及を肯定するこ
とは妥当でないとも考えられる。しかし、すでに見たよ
うに、詐欺取消の効果は当事者間の﹁人的﹂ないし﹁債
権﹂的な講求権の発生にとどまる、と解釈することも可
能であり、この点では解除の﹁人権上ノ効果﹂と異なら
ない。したがって、取消と解除の効果の相違︵遡及効の
有無︶を理由とする批判は、必ずしも当らない。
98
(99) 権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
ω 最後に、解除の場含も、無効または取消の場合と
し解除後に登記を得た第三者と原権利者との関係は、解除
て登記を要求するものと解釈される。なお、解除前に登場
後の場合と同様に対抗問題として処理される︵加藤・前掲
同様に、社会的類型としては、A←B←Cという権利移
転を前提とし、AB間の権利移転原因の失効に際しての
講義﹄︵改訂版、一九八七年︶一一七頁。なお、滝沢・前
義﹄︵第五版、一九七九年︶三二四頁、鈴木禄弥﹃債権法
︵4︶ 四官・前掲論文一八頁以下、広中俊雄﹃償権各論講
論文六八頁参照︶。
しては、九四条二項および九六条三項と同様に、悪意の
掲書四八頁注9参照。また、加賀山・前掲論文一八頁以下
AC間の争いという事例に属することから、価値判断と
^μ︶
由とする売主の解除は、買主のその他の債権者を害するこ
アル動産ノ売買﹂では、引渡後は、買主の代金不払いを理
さらに、第三者保護のための特則もあり、﹁弁済期限ノ定
また、この解除の講求は戴判上行われる︵同八一条一項︶。
︵田o家昌邑9毛.鼻ー二〇昌o■H︹轟o.o。︺目。8o。一〇1ω篭︶。
は、その十分な公示が必要であるとされたことによる
売主の解除が物権的な性質︵轟量o8sH置︶を保持するに
シタル﹂ことを必要とした︵財産取得編八二条︶。これは、
︵7︶ しかし、そのためには﹁売買契約証書二依リ登記ヲ為
年︶。
論集二六巻一号一〇八頁注5、二号七一頁以下︵一九七六
︵6︶ 高森八四郎﹁契約の解除と第三者HO﹂関西大挙法学
下。
︵5︶ 三宅正男﹃契約法︵総論︶﹄︵一九七八年︶二八五頁以
参照。
第三者Cに対する関係では原権利者Aの保謹をより重視
すべきであるとも考えられる。
以上のような理由から、解除後に現れた第三者には、
九六条三項を類推して、解除の瑛実についての善意をも
要求すべきであると解する。
︵1︶ 犬判大正一〇年五月一七日畏録二七輯九二九頁︵反対
ハ完金二英所有権ヲ回復シタルモノト謂フコトヲ得ヘシ﹂
に、AがCより先に﹁木材ノ占有ヲ有スルニ至リタルトキ
とする︶。
︵2︶ 犬判昭和ニニ年一〇月二四日民集一七巻二一号二〇一
二頁︵一七八条︶、大判昭和一四年七月七日民築一八巻一
一号七四八頁︵一七七条︶。
︵3︶ 我妻栄﹃償権各論一上巻﹄︵一九五四年︶一九一貢以
五六年︶二九八員以下。幾代通﹁解除と第三者﹂法学セミ
とができず、﹁弁済期限ノ定ナキ売買﹂では、売主の解除
下、一九八員以下、柚木馨﹃債権各諭・契約総論﹄︵一九
﹁第三者として保護を受けるための絶対的資楴要件﹂とし
ナー二ニハ号︵一九六六年︶四一頁は、これらの見解は
99
第1号 (100)
第102巻
一橋論叢
は、﹁善意ナル第三者ノ既得ノ物権ヲ害スルコトヲ得ス﹂
られているが、動産については、上]有を取得した善意の第
件的構成により︵一一八四条︶、契約の遡及的消滅が認め
三者は二二七九条一項︵﹁動産に関しては、占有は権原に
ついての先取特権︵二一〇三条︶を売買から二か月以内に
値する﹂︶により、また、不動産については、売買代金に
︵8︶ 法務大臣官房司法法制調査部監修﹃法典調査会 民法
とされていた︵同八三条︶。
議事速記録三﹄︵目本近代立法資料叢醤3、一九八四年︶
登記しておかなかった売主は、買主の代金不払を理由とす
八二一頁以下︵穗税陳重発嘗︶。なお、高森・前掲論文〇
る解除の訴権︵ニハ五四条︶を﹁不動産に対する権利を取
はできない﹂︵二一〇八条︶、といった規定などによって第
得し、かつ、それを公示した第三者を審して行使すること
︵9︶ 五四五条一項の起草過程においても、第三者の問題は
六九頁参照。
注12参照︶。そして、判例によれぱ、﹁第三者﹂とは﹁特別
転々譲渡の事例に焦点を当てて議論されている︵なお、三
−ひ寒∼Ha﹀自。血亀声︶。
三者保謹が図られている︵o︷.旨ま−Ω鶉詔膏Ω色一一彗け
他方、ドイツ民法においては、契約解除の効果︵三四六
付ノ物体二付キ或ル権利ヲ取得シタル者ヲ云フ﹂︵犬判明
ナル原因二基キ双務契約ノ一方ノ債権者ヨリ其受ケタル給
治四二年五月一四目民録一五輯四九八員以下︶とされてお
八条︶とは異なって物権的な効果はなく、そもそも処分行
条︶は、もっぱら債権法上のものであり、解除条件︵一五
為の解除はあり得ないと解されている︵ωO彗σqO−−ωざσO具
り、目的物の譲受人、抵当権者、質権者、賃借人は含まれ
れている︵稲本ほか﹃民法講義5・契約︹一九七八年︺八
■o■一吻ω傘p勾旦老﹃1α⋮巨饒目oゴ山︵oヨ昌’N−>冒p一くo﹃吻
るが、債権の譲受人、差押債権者などは含まれないと解さ
七頁︹中井美雄執筆部分︺参照︶。なお、仮差押憤権者は
の学説によれぱ否定的に解され、原契約関係の変更︵旨o−
室p局らz﹃・ミ︶。また、契約解除の効果の遡及効は、最近
2票峯昌︶ないし再構成︵ζ目㎝畠邑片冒op︶と捉えられて
﹁第三者﹂に含まれないとの裁判例がある︵名高判昭和六
︵10︶ なお、判例には、遡及的合意解除の事例について、仮
一年三月二八日判時二一〇七号六五貢︶。
いる︵峯箏目O−〒H︵O昌昌’N一>目P一くO﹃吻ω卓P射02﹃.い∼一
によって影響を受けず、第三取得者は権利者からの取得者
卑彗彗ふ宝9宛ρ岩・。阜︶。したがって、第三者の地位は解除
登記を具備したにすぎない第三者は保護されないとするも
のがある︵最判昭和五八年七月五日判時一〇八九号四一
月鼻>邑.︹宅ぎ︺吻ωま一カρ岩H、宝︶。しかし、目的物
であって、善意取得は問魑にならない︵団Ω甲射oヵ戸民旦■
員︶。ここでは、.判例は、対抗要件としての登記を要求し
ていると見るべきであろうか。また、前述三注2参照。
ちなみに、フランス民法においては、契約解除の解除条
100
(101) 権利移転原因の失効と第三者の対抗要件
を第三者に処分した解除の相手方は、負担のない所有権の
返還を義務づけられる一方︵竃旨91宍Oヨ冒。。。。>邑二<OH
吻ωましε乞﹁NO。︶、第三者が所有権を取得するためには、
動産では引渡︵九二九条︶、不動産では物権的合意︵>艮−
︵11︶ 星野英一﹃氏法概論W﹄︵一九七五年︶九一頁︵立法
一富蜆冒o目︶と登記が必要である︵八七三条、九二五条︶。
論としては、催告後に生じた第三者に善意などを要求する
ことが可能であるとされる︶、下森定﹁契約の解除と第三
者﹂法学セミナー三五四号︵一九八四年︶九五頁。
︵12︶ なお、原島・前掲薔二九〇頁参照回
︵13︶ 四宮・前掲論文五員、一九員、二五頁、幾代﹁取消と
登記﹂六二頁。
︵14︶ 好美﹁物権変動論﹂二二頁以下、下森﹁契約の解除と
第三者﹂九五頁参照。
すぺき事由︵前述二⇔②ω参照︶により、Aが登記など
を回復した後にも、なおCの移転登記講求などを認め、
A←Cの権利移転を承認すべきとする法的判断が、対抗
要件不要説を支える実質的な根拠と見られた。
ωこれに反して、九六条三項ならびに五四五条一項但
書においては、取消または解除の効果が原権利者の原状
回復講求権の発生に隈定され、A←Bの権利移転は有効
であることが前提にされる。したがって、すでに権利を
取得した第三者Cが、取消または解除によって権利を喪
が登記を回復したときには、権利の復帰が法的に承認さ
失することはない。しかし、九四条二項とは異なり、A
れる。そして、権利がBにある場合には、物権変動にお
かについて、各規定の構造との関係において検討してき
保謹する規定において、第三者に対抗要件を要するか否
H 以上、無効、取消およぴ解除の効果から第三者を
ぴ四⇔㈹︶、ひとまず登記ないし仮登記をこの第三者資
よぴ五四五条一項但書の解釈上︵前述三⇔ωω∼㈱およ
要件を定めた規定が必要になる。そして、九六条三項お
者をとくに保謹するためには、第三者保護の範囲と資格
いし解除を原因とするB←Aの権利復帰を阻止して第三
ガる有因主義をなお考慮に入れなけれぱならず、取消な
た。ωまず、.九四条二項では、虚偽表示の当事者間A←
格要件と解した。もっとも、ここには、法政策的価値判
五 まとめと今後の課題
Bの権利移転の無効は終始前提になっている。しかし、
断を容れる余地があろう。
^i︺
真の権利者Aが行った原状回復に対する法的承認を制限
101
第102巻第1号(l02)
一橋論叢
以上のことは、第三者の出現が取消ないし解除の前か
後かで 区 別 さ れ る べ き で は な い 。 ま た 、 解 除 後 に 現 れ た
第三者が保謹されるためには、その善意が要求されるぺ
きである︵前述三⇔およぴ四⇔︶。
H 本稿は、法偉によって第三者保謹規定が設けられ
ている虚偽表示、詐歎取消およぴ解除について考察した
^2︶
が、今後は、このような第三者保護規定をもたないその
︵1︶ なお、仮登記に関しては、Aが取消ないし解除をした
る実体的要件をも臭備していることを要するか否か、とい
時点において、仮登記権利者たるCが、本登記を請求しう
︵2︶なお、仮登記担保法一一条 滴算期間経過nBの所
う問題が残る。今後の課題としたい。
有権取得後、清算金支払前における、Aの受戻権行使と第
類似の法状況が生じるものと見うるであろうか︵ここで、
三者Cとの関係ーについても、取消ないし解除の場合と
九四条二項的な構成をとることが不適切であることを指摘
三〇九頁参照︶。
するものとして、高木多喜男﹃担保物権法﹄︹一九八四年︺
^ヨ︶
ほかの無効およぴ取消原因、解除条件成就、買戻、再売
︵一橘犬学大学院博士課穆︶
三〇三頁以下、幾代・前掲普二七七頁参照。
るものとして、我妻栄﹃新訂・民法総則﹄︵一九六五年︶
三二頁参照︶。これに反して、九六条三項の類推を示唆す
善意の第三者を傑護するぺきか︵広中.前掲﹃物権法﹄一
条二項を類推し、虚偽表示に準ずる要件が備わった場合に、
︵3︶ 例えぱ、錯誤無効については、同じく意思欠敏に関す
る規定に属し、A←Bの権利移転の無効を前提にする九四
買の予約、譲渡担保権消滅、含意解除などによる原因行
為の失 効 の 場 合 に つ い て 、 ど の よ う な 法 律 構 成 に よ っ て
第三者の保謹が図られるべきかを考察する。そして、そ
の場合に、第三者の善意、対抗要件などのもつ意味をあ
らためて整理してみたい。さらに、このことは、狭義の
対抗問題の領域においても悪意者排除説、公信カ説など
が唱えられている中で、対抗問魑の本来の領域を限界づ
け、その上で、対抗要件主義の意味を再検討するための
予備的作業として不可 欠 で あ ろ う 。
102