総論 設計センスの差は 空間認識力の差

総論
はじめに
設計センスの差は
空間認識力の差
ムに直角に取り付けられる構造である。
設計にかかわらず,業務を素早くスムーズに進
行するためには,情報交換,意見交換などコミュ
ニケーションが重要です。
皆さんは,隣の席に座っている同僚や上司,あ
るいは部下に対して電子メールだけで連絡を行い,
対面による連絡を怠ってはいないでしょうか?
電子メールは履歴が残ることで,口約束による
「言った,言わない」を防止する証拠として使え
るメリットがあります。しかしメールによる文字
だけのやりとりで明確に意思が伝わるかというと
疑問が残ります。
皆さんも,メールやチャット,掲示板などで言
葉の解釈の相違から喧嘩に発展したということを
よく聞くと思います。これは,言葉だけでは相手
の真意が伝わりにくいという結果から来るものだ
と思います。
言葉として丁寧に説明したつもりですが,かご
たとえば,「かご台車」と呼ばれる製品を第三
台車の知識を持たない者にとって,上記の言葉だ
者に説明する場合,言葉や文字だけで説明しよう
けで,かご台車の構造をイメージすることは難し
とすると,次のようになります。
いかもしれません。
・底板にキャスターが 4 個ついた商品移動用の手
同様に,設計作業の中で,まだ具現化できてい
押し車。
・パイプを U 字形に曲げたフレームが底板の上に
垂直に,3 面取付けられている。
・そのフレームには商品が落下しないように縦横
にワイヤーが等間隔に取りつけられている。
・商品を置く複数の棚を,三面に配置したフレー
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ないアイデア(構造や機構)を伝えようにも,形
の無いものは伝えることができません。
そのため,
「頭の中にあるアイデアは,CAD で
設計した後でないと見せられへんわ!」と言われ
るかもしれませんね。
しかし,エンジニアには言葉以上に意思を的確
機 械 設 計
総論
に伝達する 2 つの魔法の武器があります。
ポンチ絵の最大のメリットはサイズ(大きさ)
①図面…組立状態を表す組立図や,部品を加工す
の概念がないことです。CAD でラフな形状を作
るための情報を描き表わした部品図。
したイラスト,ラフスケッチ。
ならないことが多く,サイズに惑わされてポンチ
絵らしきものを描くのに余計な時間がかかってし
ポンチ絵を描くことで,次の能力が養われます。
細形状を検討しながらの作業になるため,多くの
・構想時に多くのアイデアを生み出すことができ
使ってイメージをフリーハンドによって描くだけ
なので,CAD 作業とは比較にならないくらい短
る創造力
・構造レイアウトや省スペース化に必要な空間認
識力
・第三者に意思を伝える表現力
チ絵が描ければ,文字を使わずして第三者にイメ
そう,ポンチ絵をストレスなく描くことができ
ージを伝えることができるのです。
れば,一人前のエンジニアに一歩近づくことがで
きるのです。
◇
筆者の新人教育での経験から,「形状を理解で
きない」あるいは「3 次元的な空間を把握できな
い」人に共通することが,
「人の話を聞かない」
「早合点して勘違いする」ということがわかりま
した。このような人に,
「話をよく聞け!」
「問題
をよく読んで理解しろ!」と言っても,全く効果
がありません。
本特集では,演習問題の出題に工夫を凝らし,
課題と問題の 2 点で簡潔に指示を出します。
課題
しなければいけないこと,ミッション
企業内で新人教育を担当していると面白いこと
問題
に気が付きます。それは機械系の学部を卒業して
結果の提示,クリアしなければいけな
いるのに「形状を理解できない人」
「3 次元的な
い制約条件
空間を把握できない人」が予想外に多く,ポンチ
絵を描く以前に形状を理解させることに苦労する
のです。
これからエンジニアとして工業界を担う皆さん
よく耳にする「設計センスがある,設計センス
が即戦力と成るべく,本特集を読んで空間認識力
がない」という言葉は,大きさや奥行きを把握し,
を得て,設計業務に対するモチベーションをさら
新たな形状を創造する力,つまり空間認識力の有
に向上させることを期待します。
無の差であると思います。
設計センスを磨くには,ポンチ絵を描くことが
よい練習になると確信しています。
第 59 巻 第 3 号(2015 年 3 月号)
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時間で作成できます。そう,先のかご台車もポン
ちちんぷいぷい! 設計センスを磨く 空
間認識力養成塾の巻
まいます。
製品や部品を設計するには,CAD を使って詳
作業時間が必要です。しかし,ポンチ絵は鉛筆を
特集
②ポンチ絵…アイデアや物体の概要を簡易的に表
ろうとすると,どうしても寸法を入力しなければ