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幼生加入量調査
幼生の同定や個体数量調査
1.目的
「厳しい環境条件下におけるサンゴ増殖技術開発実証委託事業」では、平成22年度から、
沖ノ鳥島以外の場所でも技術開発の事業を展開することとしており、対象海域のサンゴの
成育の制限要因を明らかにするとともに、その対策手法を検討し、他地域でも活用できる
サンゴ増殖技術を開発目指している。現地調査は、恩納村、阿嘉島、小浜島、伊江島が対
象となっており、これらの海域では、流れ・水温などの物理環境、水質や底質などの調査
に加え、サンゴの回復ポテンシャルを評価するためのサンゴ幼生の加入調査が必要である。
特に、幼生加入調査については、その海域に来遊・存在するサンゴ幼生の量ばかりでなく、
種(分類群)構成なども重要であるが、それには遺伝子解析による同定技術が必要である。
そこで、当研究室において、従来開発してきたサンゴ幼生の遺伝的組成解析技術を用いて、
石西礁湖およびその他の修復候補地における加入群の遺伝的組成を明らかにし、当該地域
における幼生加入の実態を把握することを目的とした。
2.調査内容と方法
1)石西礁湖におけるサンゴ幼生加入調査基盤の設置・回収の指導
石西礁湖小浜島周辺海域において八重山諸島周辺におけるミドリイシ類の大規模産
卵が予想される時期の前後にサンゴ幼生加入調査基盤を設置・回収する方法について現
地指導した。
石西礁湖小浜島周辺海域においては図-1 に示す8調査点を設定し、2枚一組のサン
ゴ幼生加入調査基盤を各地点5セットずつ、平成 22 年 5 月 14、15 日に設置した。サ
ンゴ幼生加入調査基盤の概念図を図-2 に示す。5 月下旬から 6 月上旬の間にサンゴの一
斉産卵がみられた後、6 月 17 日に基盤を回収した。回収した基盤は、顕微鏡下で着生
した幼体をカウントし、1 個体ずつ遺伝子解析用に採取・固定した。
2)遺伝子解析による種判別
上記により小浜島周辺海域の着生基盤から採取されたサンゴの幼体および、恩納村、
阿嘉島、伊江島で採取されたサンゴの幼体を対象にして遺伝子解析を行った。
まず、各幼体サンプルからフェノールクロロホルム法によって全 DNA を抽出した。
抽出された DNA から、PCR 法によって(詳細は Suzuki et al. 2008 参照)ミトコンド
リア調節領域の一部(約 500bp、以下 mtCR)を解読した。mtCR は、ミトコンドリア
遺伝子の中で遺伝的変異が生じる頻度が最も高く、クローニングの必要がないため、ミ
ドリイシ属サンゴの種の推定に適している(Suzuki et al. 2008)。mtCR の塩基配列の
違いから、複数のタイプを同定し、加入群の遺伝的多様性を明らかにするとともに、石
垣島浦底湾でのミドリイシ優占種の遺伝子データを参考に、「種グループ」を推定した
(ミドリイシ属サンゴは 100 種以上が含まれ、同じ mtCR 配列を持つ種が複数存在す
るため、現時点で種を完全に特定することは困難である)
。
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3.結果
1)ミドリイシ加入数
遺伝子解析用に採集されたサンゴ加入幼体数は、小浜島 10 個体(目視判定では、ミ
ドリイシ科 0、ハナヤサイサンゴ科 6、不明 4)
、恩納村 45 個体(ミドリイシ科 20、ハ
ナヤサイサンゴ科 25)
、阿嘉島 68 個体(ミドリイシ科 19、ハナヤサイサンゴ科 49)、
伊江島 23 個体(ミドリイシ科 13、ハナヤサイサンゴ科 7、不明 3)であった。これら
から、遺伝子解析によってミドリイシ属サンゴを特定すると、図-3 に示すように小浜島
1 個体、恩納村 13 個体、阿嘉島 21 個体、伊江島 14 個体であった。目視判定による誤
判定率は、ハナヤサイサンゴ科→ミドリイシ属が 12~18%、不明→ミドリイシ属が 22
~66%、ミドリイシ科→ミドリイシ属以外が 15~36%であった。
この加入数は、基盤 1 枚(100cm2)あたりに換算すると、0.012(石西礁湖)~0.26
(阿嘉島)個体であり、同時期の加入量の多い地域(例えば石垣島浦底湾)と比較する
と、0.005~0.1%程度の加入量であった(図-4 参照)。ただし、石西礁湖で極端に少な
かった原因として、基盤設置時期が 5 月の産卵期直後で全加入数を捉えきれなかったこ
とが考えられた(ちなみに同様の地点に 3 月に設置し 6 月に回収した基盤では、11 個
体(0.14 個体/100 cm2)の加入がみられた)
。従って、今後の調査では、石西礁湖に
おける基盤設置時期を 5 月の一斉産卵予想日の 1 カ月以上前にすることが望ましい。
2)加入群の遺伝的組成および種判定
各地域における加入群の mtCR タイプ数は、小浜島 1 タイプ、恩納村 4 タイプ、阿
嘉島 3 タイプ、伊江島 5 タイプであった。ただし、上記のように、石西礁湖のミドリイ
シ加入数は 1 個体であったため、事前に設置した基盤上の遺伝的組成を解析すると、最
多の 7 タイプが検出された。それぞれの地域で最も優占していた種グループ(G)は、
小浜島がトゲスギ・オヤユビ G(優占度 100%)
(ただし、事前設置基盤を考慮すると、
ウスエダ・ヤング G(25%)
、オオヅツ G(25%)であった)、恩納村と阿嘉島がとも
にコユビ・ハナガサ G
(それぞれ 38.5%、71.4%)、
伊江島がクシハダ・ハナバチ G
(28.6%)
であった(図5)。以上の結果から、枝状ミドリイシの加入は、ただでさえ少ないミド
リイシ加入量の一部に過ぎないことが示唆され、早期のサンゴ群集修復には幼生加入の
不足を補う必要があると考えられる。また、各地域で加入群の遺伝的多様性および組成
が異なることが示唆され、海域ごとに修復対象種の選定を進める必要があるかもしれな
い。
ただし、小浜島の調査地点周辺の枝状ミドリイシの mtCR 配列を予備的に解析した
ところ、枝状ではないコユビ・ハナガサ G やクシハダ・ハナバチ G と同じ配列の種が
含まれることから、今後これらの種判別を可能にする分子マーカーの開発が必要となる
かもしれない。
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参考文献
Suzuki G, Hayashibara T, Shirayama Y, Fukami H (2008) Evidence of
species-specific habitat selectivity of Acropora corals based on identification of new
recruits by two molecular markers. Marine Ecology Progress Series 355: 149-159
図1 小浜島周辺の調査地点(赤丸)
図2 基盤設置方法
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図3 各修復候補地における幼生加入量
図4 石垣島浦底湾におけるミドリイシ加入量
図5 各地域におけるミドリイシ加入群の遺伝的組成
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