PDF2 - 和歌山県

災害時のこころのケア
支援技術向上研修(2)
~緊急支援を中心に~
ストレス反応とケア/トラウマ反応(PTSD)とケア
)とケア
ストレス反応とケア/トラウマ反応(
和歌山県臨床心理士会 被害者支援担当理事
上 野 和 久
1 危機的出来事
「危機(Crisis)」
◇個人の危機
人が持つ通常の自己防衛の方法や問題解決の方略が
崩壊してしまった状態。
心身に何らかの不調や変調が生じている状態
◇集団や家族、コミュニティの危機
危機的な出来事により、集団や家族、コミュニティの
危機が破綻し、 その集団の成員全員が、混乱や
恐怖の渦の中に巻き込まれる
2 危機的出来事――トラウマ(外傷)体験
※予測できない
突然の被災体験
自然災害(地震・台風・洪水等)
※自分の力で制御不能
事故(交通事故、作業事故等)
病気・死別(本人・大切な人)
※強い恐怖を感じる
犯罪・暴力(強盗・殺人・テロ)
DV/家庭内暴力
※身の危険を感じる暴力
虐待・いじめ・ネグレクト
※大切な人の喪失体験
※自分の責任で起きた事故
性犯罪(強姦・強制わいせつ)
その他
3 トラウマ反応(1)
トラウマ反応――トラウマ体験により生ずる自然な反応
感情・身体症状、対人関係、PTSD症状など
※感情・身体症状の変化
○抑うつ、罪責、無力、悲哀感
○大切な人やものを失った喪失感
○社会や人間に対する基本的な信頼感の喪失
○対処できずに自己コントロールできなくなった
自分への基本的な信頼感の喪失
○サバイバーズ・ギルト・自責の念
○動悸、呼吸困難、発汗、睡眠障害、悪夢
4 トラウマ反応(2)
※対人関係の変化
○基本的な社会や人間に対する信頼感の喪失
周囲からの疎外感 → 孤独
○感情のコントロールが効かないために、怒りなどの
気持ちをぶつける&援助を拒絶する
→ 対人関係がうまくいかない
○被害者は援助を求めようとしない
→社会的にひきこもった生活を送る
→必要な情報や支援を受けることができない
→回復が遅くなる
5 トラウマ反応(3) PTSD症状
トラウマ体験による特徴的な症状(Post-Traumatic Stress Response)
●再体験
本人の意思とは関係なく、トラウマ体験の記憶がよみがえり(悪夢、遊び、
フラッシュバック)、その時と同じ気持ち・身体感覚がよみがえる。
●過覚醒
あらゆる物音や刺激に対して過敏になる。不安で落ち着くことができない。
いらだちやすい。眠れない。
●回避・麻痺
体験の記憶や実感が乏しくなる(麻痺)
事件現場や思い出すような場面を避け、近づかない(回避)
トラウマ体験 + 1ヶ月経過して上記3つの症状がある
PTSD(Post-Traumatic Stress Response) 心的外傷後ストレス障害
3反応への対応(スライド47へ)
6 トラウマ反応の変化
初期のケア
治癒力
中長期ケア
PTSD
症状
PTSD症状が
回復する
トラウマ反応
自然災害:8割
1ヶ月
7 ストレスの蓄積と症状
心
症状
ストレスの侵入
ストレスの限界線
↑
ストレス
↓
ストレスの排出、表現
(広義の言葉として)
8 継続するストレス反応の結果
適切なストレスの表現 → 適切な言葉、適切な行動
不適切なストレスの表現 → 攻撃性の身体、自己、対象への発散
身体化 : 頭痛、腹痛、風邪を引きやすくなる、その他
あらゆる身体表現性の症状 → 心身症
攻撃性が自分自身に向かう
行動化
: 自責、自傷、自殺 → 抑うつ
攻撃性が外側の対象に向かう
: 攻撃性の直接的な発散または依存
→ 問題行動、依存症
9 あたりまえの反応
予測できない大きな災害(自然災害、戦争、事件、事故)
こころの変化(こころの傷)
PTSR : post traumatic stress reaction
心の変化(傷)は特殊な状況に対する当たり前の反応で、
誰にでも起こる。(それが起こらないほうが心配)
PTSD : post traumatic stress disorder
PTSDは当たり前なら終息するはずのトラウマ反応がずっ
と持続する特殊な症状である
10 PTSDとPTSR、ASD
PTSR : 心的外傷後ストレス反応(post
PTSD : 心的外傷後ストレス障害(post
traumatic stress reaction)
traumatic stress disorder)
Acute stress disorder : (ASD)急性ストレス障害、初期に起こる治療の必要な状態
1~2ヶ月
事件
事故
災害
→ PTSR →
(ASD)
症状の終息
症状の持続=PTSD
誰にも起こる
→心のケアが必要
治療が必要
11 こころのケアの時間経過①
1~2ヶ月
災害の発生
こころの変化(PTSR)
トラウマ反応
症状の終息
症状が持続すると
・・喪失反応
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
・・・・継続するストレス反応
こころのケア
専門家の治療的対応が必要
(カウンセリング、薬物)
重いこころの傷
(ASD:急性ストレス障害)
12 こころのケアの時間経過②
1~2ヶ月
6ヶ月
1年
災害の発生
継続するストレスの蓄積
こころの変化
症状の終息
トラウマ反応
症状が持続すると
喪失反応
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
継続するストレス反応
こころのケア
重いこころの傷
治療的対応が必要
(心理療法、薬物療法)
13 学校での援助者の目的と役割
災害
Red zone
: PTSDや抑うつ、身体化
によって日常生活が困難
Red←医療
になっている児童生徒、医
療によるケアが必要。
被災した子供
Yellow←カウンセラー Yellow zone
: 単独でのセルフケア
教員
が難しくなっている児童
Green
生徒。カウンセラーの
関わりが必要。
Green zone
: 教員による心理教育に
教員は子供に心理教育を行い、そのセルフケ
よってセルフケアの可能な
アを援助し、GreenからYellowへの移行をくい
児童生徒。
とめる。カウンセラーは子供がどの領域にいる
かを見極め、適切な援助を提供するとともに、
カウンセリングやリラクゼーションなどによって
YellowからRedへの移行をくいとめる。
14 PTSDへの移行
PTSR : 特殊な事態に対する当たり前の反応
PTSD : 当たり前なら起こらない特殊な反応
次のような場合PTSDが起こりやすくなる
1 周りの無理解
→ 当たり前のことを特殊と認知される
2 そのときにすでにストレスが多く蓄積していた
→ トラウマに対処する主体の力が少なくなる
3 類似の体験の重複
→ トラウマから回復することなくトラウマを受ける
(回復していても類似の体験には反応しやすい)
15 トラウマ反応への援助
トラウマ反応への援助の基本は、安全感、安心感の
保証ということ。
安全感の保証
トラウマ反応の終息
つらい体験=トラウマ(心的外傷)は無くなるわけではない。
トラウマを自分で抱えておける力が回復するということ。
十分に保証されないと(周りの無理解など)
症状の持続=PTSD
16 体験された恐怖と想像された恐怖
A 体験された恐怖(災害の被災者) → トラウマになりやすい
・ 無意識的、身体的反応が主
・ 症状は重い
・ 初期には表出よりもリラクセーションが有効
B 想像された恐怖(被災地の周辺)
・
・
・
・
Aに比べて意識的
Aに比べて症状は軽い
表出が有効
ただし、過去に類似の恐怖を体験しているときは、そ
の恐怖がよみがえり、Aに近い症状となる
17 3つの安全感
3つの安全感
① 大丈夫、二度とあなたはそのような危険な目に遭うことは ないと
いう安全。災害の場合の避難所の設置など速やかで確実な行政的
対応とともに、援助者の力強い働きかけも重要。
② あなたのそばにはいつも私がいますよ、という安全。子どもにとって
は親や先生の対応が重要。
③ あなたの辛さは、誰にでも起こる正常な反応なのですよ、という安心。
心の傷に対する周りの理解が重要。
トラウマについての
生理学的説明
トラウマについての生理学的説明
海馬と扁桃体
記憶 : 関連する一群の
神経細胞が賦活す
ること。
海馬(hippocampus)
: 神経細胞のセット
の情報を中期的に
何らかの形で保管
する。
扁桃体(amygdala)
: 情動反応の中枢。
記憶に付随する。
トラウマについての生理学的説明
扁桃体に至る二つの経路
A 視覚→視床→前頭葉(判断)
→扁桃体
B 視覚→視床→扁桃体
トラウマについての生理学的説明
扁桃体と海馬:情動と記憶に関する脳内機関
扁桃体:ストレスとなる出来事に対する感情と
反応を処理し蓄積する。恐怖やネガティブな
高負荷な感情と結びつく身体感覚と一緒に大
脳皮質において潜在記憶として記録される可
能性がある。
海馬:時間と空間の中に記憶を文脈的に時間
実的に位置づける機能を果たす。情報は海
馬を通じて処理された後に大脳皮質に顕在
記憶として記憶される。
トラウマについての生理学的説明
トラウマ記憶をどう考えるか
A トラウマ記憶は一般のエピソード記憶とは異なっている
・ 扁桃体からの過剰な情動信号の配給
思い出すと怖くなる、いやな気持になる
・ たえず発火の臨界点にある記憶
いつもフラッシュバックに怯えている
B トラウマ記憶の形成時の問題
・ 前頭葉を経由しない判断
判断する前に感覚が反応する=過覚醒
CBT(exposure)の有効性
リラクセーションの有効性
トラウマについての生理学的説明
ポージェスが唱える多重迷走神経理論
人を圧倒し症状を悪化させる生理学的、神経学的な生存メカニズ
ムは、近年目覚ましい脳科学の研究やポージェスが唱える多重
迷走神経理論で明らかになってきました。原因がなんであれ、脳
の中の扁桃体が警告を鳴らすと、連鎖反応のようにストレスホル
モンが分泌されます。血液中の血糖値を上げて、脳や筋肉の働
きを高め、ストレスと戦う態勢を整えます。さらに、心臓の心拍数
を上げたり、血管を収縮させて血圧を上げることでストレスに備え
ます。ストレスで緊張すると心臓がドキドキしたり、武者震いした
り、顔を紅潮するには、このストレスホルモンの働きによるもので
す。 ハコミや感覚運動心理療法はマインドフルネスを使うことに
よって、自己観察を可能にする前頭葉に血流が流れ、警告を鳴
らす扁桃体からの負の連鎖反応のラインに血流が行くことを抑え
ます。
まず、安全性を確保しながらゆっくりとリソースで満たします。安
心できる感覚を取り入れながら、耐性領域(耐える領域)を広げて
いきます。再トラウマ化やパニックや解離など、トラウマ的な症状
に落ち入らないように覚醒レベルが管理され、トラウマ体験の統
合と解決を可能にするのです。
単回性トラウマの反応への対処
3つの反応への対処
①再体験への対処
( 回復のひとつの道のり)
「思い出して苦しくなる」反応
この出来事を、心が一生
懸命受け止めようとしている。
※対処・・・○そのことに向かい合う
わき上がる気持ちに身を任せる。
○そのことを思い浮かべる
(そのことを「話す」「書き綴る」表現すること)
(子どもは遊びで表現する。)
○楽しいことに熱中する
×好ましくない対処・・・「考えないようにしよう、忘れようとしてア
ルコールを飲む」
②マヒ・回避への対処
(日常生活が狭められる)
その場を見たり事故のニュース
を聞いたりすることを避けたくなる。
少しずつ、避けていることに、
チャレンジすること
※対処・・・
○避けていることを、いくつか、書き出してみるこ
とで、避けていることの「苦さの度合い」の違いに
気づく。苦しさの小さなことからチャレンジする。
○チャレンジする苦しみの中に少し身をおいて、
苦しさが和らぐまで待つ。(自己回復力を信じる)
○落ち着く方法(漸進的筋弛緩法・呼吸法・イメー
ジ法)を試してみる。
③過剰な身構え
(身体の緊張を鎮める工夫)
(症状として)緊張したり興奮して、寝つかれない
お風呂にゆったり入る
落ち着く音楽を聴く
身体に一度力を入れ抜く
ゆっくり息を吐く
リラックスゼーション方法を学ぶ。
スライド6に戻る