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技術論文
紙と手作業による仕事の観察を通じた
「ドキュメントの受け渡し」のデザイン
Design for ‘Delivering Documents’ Based on the
Observation of Handwork with Paper
要
旨
【キーワード】
近年、ICTによって仕事の電子化が進む一方、オフィ
デザイン方法論、ワーク観察、ドキュメントワー
スでは依然として大量の紙が使われている。我々は、
ク、Human-Centered Design、人間中心設計、
電子化の進む中で、紙と手作業による仕事が存在して
エスノグラフィック・リサーチ、ユーザーエク
いる理由を知るため、ドキュメントに関するワークの
スペリエンス
実態を明らかにする探索活動を行い、そこからワーク
の支援方法を提案する企画活動を実施した。
ドキュメントを使ったワークは無意識的に行われ
ることが多いため、ワークの深い理解に基づいてソ
リューションを設計するHuman-Centered Design
(HCD)プロセスを実施した。HCD活動のリーディ
ングはデザイン部門が行い、企画部門、開発部門、お
客様に加え、ビジネス化を実現するために営業、シス
テムエンジニアとの協業を行った。その結果、幅広い
ワークを対象とした、人やシステムをつなぐ、電子の
文房具感覚の商品を生み出した。本稿では、HCDから
得られた現場の気づきと、そこからソリューションを
設計し、ビジネス化に至ったプロセスを報告する。
Abstract
【Keywords】
design methodology, observation, document
work, human-centered design, ethnographic
research, user experience
執筆者
Work processes are now being computerized and
automated using ICT, but office workers continue to
use a huge amount of paper. In order to learn why
they continue working with their hands on paper, and
to propose possible solutions for them, the authors of
this paper explored the document work in their office
based on the Human-Centered Design method. In the
process, the designers responsible for leading HCD
also organized participatory design involving users,
the business planning division, engineering division,
and field staff. As a result, we created a new service
for delivering documents visually using virtual trays.
These virtual trays, which are similar to physical
stationery, can be used flexibly and connect people
and systems. This paper describes the insights
obtained from observing office workers, and the
process of designing a solution into business.
北崎 允子(Masako Kitazaki)
蓮池 公威(Kimitake Hasuike)
商品開発本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部
( Human Interface Design Development, Product
Development Group)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
1
技術論文
紙と手作業による仕事の観察を通じた「ドキュメントの受け渡し」のデザイン
の検討活動を進めた。さらに、発案したコンセ
1. はじめに
プトのビジネス化を検討する段階で、営業、シ
近 年 、 情 報 通 信 技 術 ( ICT : Information
ステムエンジニアとの協業体制を作り、活動を
Communication Technology)によって仕事
行った。その結果、幅広いワークを対象とした、
の電子化が急速に進んでいる。一方で、オフィ
人やシステムをつなぐ、電子の文房具感覚の商
1)
スでは依然として大量の紙が使われている 。
品「DocuWorksドキュメントトレイオプショ
我々は、電子化が進展する中で、紙と手作業に
ン」を生み出すことができた3)。
よる仕事が存在している理由を知るため、さま
本稿では、HCD活動から得られた、現場の事
ざまなお客様の仕事の現場を対象にして、ド
実と背景、そこからソリューションの設計を行
キュメントに関するワークの実態と背景を明ら
いビジネス化に至ったプロセスを報告する。
かにする探索活動を行い、そこから新たなワー
クの支援方法を提案する企画活動を実施した。
ドキュメントを使ったワークやコミュニケー
2. 活動プロセス
ションは、人が子供のころから日常的に実施し
HCDの基本概念は、設計プロセス全体に渡っ
ている活動であり、無意識的に行われているこ
て「人を中心とした視点」を持ち、設計チーム
とも多いため、顕在化した課題を把握するだけ
全体がユーザーとそのコンテクスト*2の理解を
では、その本質を理解することは難しい。その
コアとしてプロジェクトを進めていく、という
ため、我々は、これまで社内外を対象に、現場
考え方である。また、①コンテクストの理解、
*1
のエスノグラフィック・リサーチ
をベースと
②仮説の抽出(ユーザー要求の特定)、③デザイ
したHuman-Centered Design(HCD:人間
ン案の生成、④現場での確認(ユーザー要求に
中心設計)活動を実施し、人々の活動状況
対する評価)を、何度も回すスパイラル型のプ
(Context of Use)の深い理解に基づいて、
ロセスにより、現場の理解を深め、本質的な価
商品コンセプトの策定や研究開発、将来デザイ
値を追究することが特徴である4)(図1)
。
ン活動を行ってきた2)。そして今回の活動でも、
本活動では、このHCDのスパイラルを繰り返
さまざまな現場での活動の観察/インタビュー
すことにより、現場の理解、コンセプトの生成
を基点としたHCDプロセスを実践した。
から、商品の具現化/ビジネス化までを実現し
本活動の全体は、企画部門がオーナーとなり、
HCDプロセスの立案とリーディングはデザイ
た。本活動におけるHCDプロセスは、大きく3
つのフェーズで構成されている(図2)
。
ン部門が行った。デザイン部門のステークホル
ダーとして、企画部門、開発部門、お客様や社
2.1
内の現場があり、そのインタラクションの中で、
ワークの実際とその背景を把握し、コンセプト
フェーズ1:探求(ワーカーの活動調査)
フェーズ1では、エスノグラフィック・リサー
チにより、30件を超える現場で、ワーカーのド
キュメントに関するさまざまな活動の探索を実
HCDプロセスの
計画立案
フェーズ1
フェーズ2
フェーズ3
探索
フォーカス
ビジネス化
①
ユーザー要求に
合致したデザイン
ソリューション
④
探索範囲
Context of Use
の理解と特定
適切な活動の
繰り返し
ユーザー要求
に対する評価
プロンプト
②
支援すべき
シーン
ユーザー要求
の特定
・オフィスワーカーへの
エスノグラフィック調査
(33件の現場観察および
インタビュー)
③
デザイン案の生成
図1
*1
2
HCDプロセス(ISO 9241-2104)を元に我々が日本語訳)
HCD process
エスノグラフィー(民族誌学)の手法を応用した調査
図2
*2
プロトタイプ
商品
支援シナリオ
・ソリューション案をスケッ
チ化したプロンプト作成
・ソリューション案を
動的プロトタイプに表現
・オフィスワーカーへの
プロンプトを用いた
エスノグラフィック調査
(21件のインタビュー)
・現場営業、SEとプロト
タイプを用いた議論
探索からビジネス化に至るプロセス
Process from observation to
commercialization
環境、関係する人や活動の流れ、背景にある価値観など
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
技術論文
紙と手作業による仕事の観察を通じた「ドキュメントの受け渡し」のデザイン
施した。オンサイトインタビュー*3と現場観察
ステムを導入して電子化を進めているにもかか
を基本にした探索活動を行い、仕事のパターン
わらず、その中で、
「紙と手作業による仕事」が
や、その背景にある視点、価値観を発見し、支
発生していることがわかった。また、その主な
援すべき4つのシーンを見出した。
理由として、システム間の「分断」と、システ
ム内の「変更」の2つを見出すことができた。
2.2
フェーズ2:フォーカス(仮説と視点
の深化)
フェーズ2では、フェーズ1で抽出した4つの
3.1.1
システム間の「分断」
多くの場合、組織の中には、複数のシステム
シーンの中から、「紙と手作業による定型業務」
が並行して動いていた。また、これらのシステ
にフォーカスし、さらなる探索活動を行った。
ムは、一度に導入されたわけではなく、ある部
フェーズ1で生成した仮説と視点を基に、より
分的/限定的な業務のシステム化が実施された
深い事実と背景を引き出すため、仕事のシーン
あとに、他の部分がシステム化されていた。
やソリューション案をスケッチ化したプロンプ
ト
5)*4
システム間の「分断」とは、このように、一
を用いて、フェーズ1とは異なる組織、
連の定型業務の中に、複数のシステムが存在し
ワーカーを対象としてエスノグラフィック・リ
ていることにより、業務の流れが分断されてい
サーチを行い、そこから抽出したメッセージに
る状態である。この中で、システム間をまたぐ
基づいて、4つの支援シナリオを創出した。
部分を「人が紙と手作業によってつなぐ」とい
う現象が起こっていた(図3)。
2.3
フェーズ3:ビジネス化
たとえば、基幹システムで管理されている受
フェーズ3では、支援シナリオの中から2つの
注案件に対して、必要書類をそろえ、承認印を
シナリオにフォーカスし、そのビジネス化に向
追加して、別の管理システムに登録するような
けた検討を行った。動的プロトタイプを用いて、
場合、基幹システムから案件情報を紙に出力し、
幅広くお客様との接点を持つ営業、システムエ
手作業で担当者間を回しながら、書類の追加や
ンジニアとともに、商品としてより具体性を
押印を行い、その結果を、次の管理システムへ
持った議論を行い、最終形態を設計した。
入力する。このような、システム間の「分断」
次にフェーズ1、フェーズ2については実例を
示しながら次の3章で、フェーズ3については4
をつなぐワークが、さまざまな現場で、紙と手
作業によって柔軟に実施されている。
章・5章で詳細を述べる。
3.1.2
3. 観察とインタビューからの発見
3.1
紙と手作業による定型業務
システム内部の「変更」
一方、1つのシステムを使った業務の中でも、
その内容の変化とともに、業務フローの「変更」
が起こっていた。このような「変更」は、シス
フェーズ1とフェーズ2で行ったエスノグラ
テムが導入されたあとに生じた取引先の多様化、
フィック・リサーチの結果、多くのオフィスで
法改正/社内ルールの変化、ある工程における
は、定型業務に基幹システムやワークフローシ
ミスの多発などの理由によって、追加処理や例
受注システム
受注システム
発注システム
紙と手作業による仕事
依頼
受注書
作成
帳票出力
台帳入力
請求書
添付
承認
システム
入力/保管
輸送手配書
発行
依頼
受注書
作成
請求書
添付
承認
輸送手配書
発行
・・・
・・・
保管
図3
システム間の「分断」をつなぐ業務
Manual work to bridge a gap between systems
紙と手作業による仕事
図4
*3
*4
ユーザーの活動現場で行うインタビュー
無意識的な活動や背景への気づきを促進するための情報
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
システム内部の「変更」で生じた追加作業をつなぐ業務
Manual work to manage additional tasks due to a work
process change, and bridge a gap in a system
3
技術論文
紙と手作業による仕事の観察を通じた「ドキュメントの受け渡し」のデザイン
図5
システムからの出力に紙で追加処理
Additional handling of paper documents
printed from a system
図6
業務の段階ごとに共有トレイで管理する
Work process management using shared trays
① 仕事の構造の視覚化…個人のデスクや共有ス
外的な処理が必要になったことから生じていた。
ペースなどのオフィス空間に、文書トレイを
システム内部の「変更」とは、このように、シ
工程順や五十音順に並べ、トレイに目的を書
ステム導入後に、システムが対象としている業
いたラベルを貼り、ひと目で仕事の流れ、工
務プロセスを変更する必要が生じた状態である。
程数や順序、分岐などをわかるようにしてい
このようなケースでは、システム自体の更新
る(図6)。
は行わずに、変更部分を、紙と手作業によって
② 進捗の視覚化…ワーカーは案件帳票がトレイ
吸収するという現象が起こっていた。システム
を出入りする様子を見て、確実に授受された
の更新には時間とコストがかかり、また、その
ことを確認し、蓄積される様子を見て、行程
後も業務の変化が予想されるためである。
全体の進捗を把握している。あるトレイに帳
追加変更された部分への対応として、システ
ムのワークフローの途中で、一時的に紙に書類
を出力し、手作業での回覧、押印など、追加変
票が高く積まれていれば、その工程に滞りが
あると認識している。
③ 現場での柔軟な変更…各工程の進捗のトレン
更されたフローの処理が実施され、その結果が、
ドや、一時的な仕事の増減に応じて、トレイ
もう一度システムに戻されて処理が継続される
の数や順序、対応するメンバーのシフトを柔
(図4、図5)
。このように、システム内部の「変
軟に変更し、日々、現場で業務プロセスを最
更」に対応して拡張された部分のワークが、紙
適化している。
と手作業によって柔軟に実施されている。
3.2.2
3.2
紙と手作業による定型業務の課題
組織/拠点をまたぐワークの特徴
一方、組織間/拠点間の取り引きなど、拠点
以上のような、システムの「分断」と「変更」
間をまたぐ業務で、拠点外の見えない相手に案
をつなぐために行われる「紙と手作業による業
件帳票が回される場合は、同一空間内で行われ
務」は、ある組織/拠点内だけで、同一空間内
ていたような実践とそのメリットは失われ、以
で行われる場合と、別フロアや別拠点、他社な
下のような問題が起きていた。
ど空間的に離れた複数の拠点間にまたがる場合
① お互いの工程が見えないため、確実に帳票が
渡ったことを証明する台帳の管理作業や、受
がある。
我々の観察によって、同一空間内では、その
メリットを活かしたさまざまな工夫が実践され
ている一方、空間的に離れている場合には、課
題があることがわかった。
ける仕事量をあらかじめ知るための電話確認
などの付帯業務が発生している。
② 物理的な送付は、コストや時間のロス、送付
過程での書類紛失のリスクがある。一方、電
子メールや共有フォルダー、ファクスなど電
3.2.1
組織内/拠点内でのワークの特徴
組織内/拠点内の同一空間内で工程が回る場
では、紙と手作業によるワークの実践の中で、
子的な手段で送付する場合は、帳票の再電子
化の手間が発生し、物理的な送付よりも案件
帳票の到着に気づきにくい。
下記のような工夫と特徴が見られた。
4
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
技術論文
紙と手作業による仕事の観察を通じた「ドキュメントの受け渡し」のデザイン
③ 他拠点を含めた全行程の見直しは、拠点間の
は定型業務だけでなく、
「より広いオフィスワー
合意が必要となり、トライアルアンドエラー
クを対象にして、文書の受け渡しに適応できる」
による改善がしにくい。
という形へと、企画活動の視点が拡張した。
これまで「紙と手作業による定型業務」に
4. デザイン/設計の方針
フォーカスして活動を進めてきたが、そこで見
出した価値をお客様に届けやすくする議論の中
以上のように、フェーズ1とフェーズ2の活動
で、適応できるシーンに汎用性を持たせたほう
を経て、システムの分断と変更をつなぐための
がよいという方針が導かれた。そのため、機能
紙と手作業による仕事の存在が明らかとなった。
をよりシンプルにし、ワーカー自身がどの仕事
また、一拠点内では、ワーカーの工夫と対処に
にも、自分のやり方に合わせて使える文房具的
よって柔軟な運用が実践されていたが、拠点を
な性格を、より強めることにした。
またぐ場合は、対処しきれない課題が生じてい
ることがわかった。
具体的には、文書の格納や移動には、新たな
専用システムを使うのではなく、すでにお客様
拠点間/会社間の取り引きなど、拠点をまた
環境に存在している共有フォルダーやサーバー
ぐようなより広い業務を考慮すると、システム
を活用し、その中のフォルダーを、電子のトレ
の分断と変更をつなぐ方法のベースとしては、
イとして定義・利用できる構成とした7)。この
電子的な受け渡しが適している。そこで、我々
構成により、お客様は、新たなハードウェア投
は、目指すべきユーザーエクスペリエンスとし
資やサーバー構築をせずに、既存の共有フォル
て、
「拠点外の見えない相手との間でも、拠点内
ダーやサーバーを使いながら、
「トレイに入れれ
で見られた3つの大切なことが達成できる」と
ば、相手に伝わる」
、
「誰かが文書を取り出せば、
いう方針を設定した。
保存場所から文書が消える」という紙のような
つまり、電子で作業をしながら、下記の3つ
直観的な受け渡しが簡単にできるようになる。
の特性を実現する方法を検討することにした。
① 仕事の構造が見える
② 進捗が視覚化される
③ 現場での柔軟な変更ができる
6. 商品化/ビジネス化と活用例
6.1
商品の概要
以上の指針に基づき、
「DocuWorksドキュメ
5. 商品化に向けた再デザイン
ントトレイオプション7)」を設計した。PC、サー
バー、複合機、クラウド(Working Folder® 8))、
上記の方針に従った環境を早期に商品化する
ために、我々の既存商品「DocuWorks®」をベー
スにした設計を検討することとした。
「DocuWorks」とは、机の上で紙を使う感覚
で、電子文書を扱えるソフトウェアである6)。
この電子の机の上に、業務プロセスに沿って文
書を受け渡せるよう、電子のトレイを配置する
ことを考案した。
次に、ビジネス化に向けて、よりお客様にとっ
て導入しやすい形態(既存システムとの関係や
販売方法)を探るために、日ごろから幅広くお
客様との接点を持ち、お客様の環境や利用状況
をよく理解している営業/システムエンジニア
トレイを作成する様子をご覧いただけます。
と、プロトタイプを用いた議論を行い、商品性
図7
の検討を行った。その結果、この電子のトレイ
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
DocuWorksドキュメントトレイオプションのトレイが表
示された画面例
Desktop displaying DocuWorks Document Trays
5
技術論文
紙と手作業による仕事の観察を通じた「ドキュメントの受け渡し」のデザイン
Working
Folder
DocuWorks
ドキュメント
トレイオプション
FAX
複合機
電子文書で
自動転送
FAX
外出先からでも、電子文書を
紙と手作業の感覚で振り分け
図8
電子化したトレイによる、受信ファクスの振り分け
Distribution of received fax using virtual trays
モバイルなどを経由して相手とつながる電子の
また、複数人の承認(合議)など、順序が必
トレイは、ユーザーが簡単に作成、配布でき、
要ない回覧で起こる時間ロスを改善したいと感
自分のデスクトップに自由に配置できる。
じていたワーカーは、承認印待ちの文書が入っ
また、
「トレイに電子文書を入れれば積み重な
たトレイを承認者全員が共有し、気づいた人か
り、誰かが取り出せばなくなる」といった表現
らランダム順に押印する方法を作り出した。ト
によって、各トレイを介した文書の授受や、進
レイに承認待ち文書が積み重なることで、承認者
捗把握を簡単に実施できる(図7)。
全員に対応を促すことができるなど、新しいグ
ループウェアのような使い方もされ始めている。
このような特長により、ワーカーが自分の手
でトレイと他のシステムやツールを組み合わせ
て仕事の流れを組み立て、仕事相手が自拠点で
7. おわりに
も他拠点でも、あるいは他社でも、あたかも目
本活動では、HCDプロセスによって、ワー
の前に実物のトレイをお互いが共有しているよ
カーの紙と手作業による仕事に潜在している課
うな感覚で、仕事を行えるようになった。
題の発見から、新たなソリューションの考案、
たとえば、自社内では社内の共有フォルダー
やサーバー上のフォルダーをトレイとして利用
商品化までを実施した。その中で、2つのポイ
ントを確認することができた。
し、社外とはクラウド上のフォルダーをトレイ
1つめは、ワーカーの紙と手作業の意味を捉
として利用することで、社内外を横断した一連
え、適切に電子の世界に応用したことで、ワー
の業務を、デスクトップ上にあるトレイへの文
カーの目的や感覚に適合する、電子での受け渡
書の出し入れという共通の操作で実施すること
しをデザインできたことである。2つめは、日
ができる。
ごろから幅広くお客様との接点を持つメンバー
の参画により、商品として適切な機能や商品性
6.2
活用事例
実際の活用例として、あるワーカーは、今ま
では、受注ファクスを即座に次工程に振り分け
を捉えることができ、早期に、ビジネス化につ
ながったことである。
今回のプロセスでは、HCD活動全般にわたり、
るために、常時ファクスが複合機から出力され
相手とフェーズによって、提示するプロンプト、
るのをチェックしなければならかなったが、ク
プロトタイプのレベルを調整することで、参加
ラウドを介して受信ファクスを電子のトレイで
メンバーとの深いコミュニケーションを図った。
受け取り、即座に次行程のトレイで受け渡すよ
フェーズ1、2のユーザー理解の段階では、無
う自ら仕事を組み替えた(図8)
。トレイを用い
意識の活動や潜在する価値観を引き出し、企画
て自ら業務プロセスを構築したことで、他の仕
者/技術者とは、利用者にとって望ましいイン
事も並行して効率的に行えるようになった。
タラクションと技術的実現性の追求を行った。
6
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
技術論文
紙と手作業による仕事の観察を通じた「ドキュメントの受け渡し」のデザイン
pp.419-428, (2013).
さらに、商品のビジネス化検討の段階では、営
業、システムエンジニアと商品性/お客様への
6) ドキュメントハンドリングソフトウェア
導入の議論を行った結果、企画活動の視点の拡
「DocuWorks」:
張が起こり、ビジネス化の促進につながった。
http://www.fujixerox.co.jp/product/s
oftware/docuworks/
このような視点の焦点化と拡張化は、HCDプ
ロセスの全体を通して、繰り返し生じさせる必
7) 中澤真介, 秋吉克己, 松尾剛典, 伊藤康洋,
要がある。そのために、多様なメンバーの参加
岡本清明, “DocuWorks ドキュメントト
タイミングと参加方法について、今後さらに検
レイオプションによる業務プロセス変革”,
討していく。
富士ゼロックステクニカルレポート第22
号, pp.14-20, (2013).
8) ドキュメント共有を支援するクラウドサー
8. 商標について
ビス「WorkingFolder」:
z DocuWorksおよびWorkingFolderは、富士
http://www.fujixerox.co.jp/solution/
workingfolder/
ゼロックスの日本およびその他の国における
登録商標または商標です。
z その他の商品名、会社名は、一般に各社の商
号、登録商標または商標です。
9. 参考文献
1) Abigail J. Sellen, Richard H. R. Harper
著 ; 柴田博仁, 大村賢悟訳, “ペーパーレス
オフィスの神話 : なぜオフィスは紙であ
ふれているのか?”, 創成社, (2007).
2) 蓮池公威, 田丸恵理子, 戸崎 幹夫, “HCD
の実践とエスノグラフィックアプローチ”,
日本デザイン学会誌, デザイン学研究特集
号, 通巻70号, pp.24-29, (2011).
3) 北崎允子, 田丸恵理子, 蓮池公威, “紙と手
作業による仕事の観察を通じた「ドキュメ
ントの受け渡し」のデザイン”, 日本デザイ
ン 学 会 第 61 回 研 究 発 表 大 会 概 要 集 ,
(2014).
4) ISO
9241-210:2010,
“Ergonomics
of
human–system interaction - Part 210:
Human-centred
design
for
interactive
systems”, (2010).
5) Daisy Yoo, Alina Huldtgren, Jill Palzkill
Woelfer, David G Hendry, Batya Friedman,
“A Value Sensitive Action-Reflection Model:
Evolving
a
Co-Design
Space
with
Stakeholder and Designer Prompts”, CHI
'13 Proceedings of the SIGCHI Conference
筆者紹介
北崎
允子
商品開発本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部に所属
専門分野:HCD、インタラクションデザイン、ユーザーインターフェ
イスデザイン
蓮池
公威
商品開発本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部に所属
専門分野:HCD、ワークプレイス研究、インタラクションデザイン、
ユーザーインターフェイスデザイン
on Human Factors in Computing Systems,
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
7
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