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特集
デジタル印刷の価値を高める画像処理技術
高画質の実現と維持・管理
Image Processing Technologies to Enhance the Value of Digital
Printing that Realizes, Controls and Maintains High Image Quality
要
旨
2003年、富士ゼロックスははじめて2400dpiの
【キーワード】
デジタル印刷、画質、画像処理、インライン画
光書き込み可能な高解像VCSEL-ROSを実用化し、
TM
これを搭載したDocuColor1256GAを市場導入し
像センサー、Color 1000 Press、Versant
た。これ以降、当社のデジタル印刷機には
2100 Press、リモート管理、EP-BB
VCSEL-ROSを搭載してきた。デジタル印刷機の市
場では、オフセット印刷に迫る高画質とその維持・管
理が要求される。これに応える画像処理技術として、
高解像度のデジタルスクリーン技術、線や画像のエッ
ジ部補正技術、線幅調整技術を開発し導入してきた。
画質の維持管理を支えるための新たな取り組みとし
ては、インライン画像センサーを開発し、2010年発
売のColor 1000 Pressに導入した。これにより、階
調再現特性や面内の色ムラ、表裏アライメントといっ
た画質の自動調整を実現した。さらに2014年発売の
VersantTM 2100 Pressでは、画像欠陥を判定して機
器管理に役立てる仕組みを導入した。これら画像処理
技術、自動画質調整技術、維持管理技術について述べる。
Abstract
【Keywords】
digital printing, image quality, image processing,
in-line
Versant
image
TM
sensor,
Color
1000
Press,
2100 Press, remote control, EP-BB
執筆者
浅野 和夫(Kazuo Asano)*1
石井 昭(Akira Ishii)*1
美斉津 亨(Toru Misaizu)*1
荒武 正幸(Masayuki Aratake)*2
*1
デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部
(Imaging Platform Development, Device Development
Group)
*2
商品開発本部 システム企画部
(System Platform Strategy & Planning, Product
Development Group)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
Fuji Xerox first applied VCSEL-ROS to the
DocuColor 1256GA in 2003. VCSEL-ROS is a
scanning-type light exposure system that realizes
2400 dpi resolution, and has been installed in our
digital printers since 2003. The digital printing market
requires high image quality comparable to that of
offset printing, as well as the control and maintenance
of image quality. In response to such demands, we
have employed digital screen technology, image
enhancement technology, and edge enhancement
technology. As a new approach to controlling and
maintaining image quality, we developed an in-line
image sensor that automates image adjustments and
installed it in the Color 1000 Press launched in 2010.
We also designed a system to inspect image defects
for product management and applied it to the
VersantTM 2100 Press launched in 2014. This paper
describes these image processing technologies, auto
calibration technologies, and other technologies used
to control and maintain high image quality.
1
特集
デジタル印刷の価値を高める画像処理技術 高画質の実現と維持・管理
印刷同様に滑らかな網点
1. はじめに
富士ゼロックスは、リアルな2400dpiの光書
き 込 み が 可 能 な 高 解 像 VCSEL ( Vertical
Cavity Surface Emitting Laser ) -ROS
( Raster Output Scanner ) を 搭 載 し た
(a)従来ROS
DocuColor1256GAを2003年に市場導入し
図1
た。これ以降、当社のデジタル印刷機には、高
(b)VCSEL-ROS
スクリーン成長パターンの比較
Comparison of the screen patterns
解 像 VCSEL-ROS を 搭 載 し て い る 。 ま た 、
は、図1(a)の模式図のような形状となり、ドッ
2010年に市場導入したColor 1000 Pressや、
トスクリーンの場合でも扁平な形状となる。
2014年導入のVersant
TM
2100 Pressには、
VCSEL-ROS が 初 搭 載 さ れ た DocuColor
自動画質調整を目的としたインライン画像セン
1256GA 以 降 の プ ロ ダ ク シ ョ ン 機 で は 、
サー(In-Line image Sensor、以下ILS)を搭
2400dpi×2400dpiの等方的な光書き込みが
載した
1), 2)
。デジタル印刷市場では、オフセッ
可能となり、スクリーンの形状は図1(b)の模
ト印刷に迫る高画質と、その維持・管理が要求
式図のようにオフセット印刷に近い形状が得ら
されている。本稿では、高画質を支える画像処
れる。その結果、スクリーン成長の過程で発生
理技術と、画質の調整・維持管理を支えるILS
する濃度階調段差の発生が抑制され、より滑ら
の機能について紹介する。
かな階調再現を達成している3), 4)。
またドット成長形状がオフセット印刷に近い
2. 高画質を支える画像処理技術
高 画 質 化 を 可 能 と し た の は 、 DocuColor
ことから、近年印刷業界からも要求の高まって
いる印刷シミュレーションスクリーンを実装す
るうえでも有利となっている。
1256GAにはじめて搭載されたVCSEL-ROS
によるリアルな2400dpi光書き込み技術によ
2.1.2
マスク型FMスクリーン
るところが大きい。このリアルな2400dpiの書
2014 年 9 月 に 市 場 導 入 さ れ た VersantTM
き込み解像度により、画像処理の制御解像度が
2100 Pressでは、高解像度性をさらに活かし
高まり、高画質を支える画像処理技術が向上し
たマスク型FMスクリーンを新規に搭載した。こ
た。ここでは、高画質を支える画像処理技術と
して、より滑らかな濃度階調を実現するための
スクリーン処理技術、より滑らかな線画像を実
現するためのイメージエンハンスメント
(Image Enhancement、以下IE)/エッジエ
ンハンスメント(Edge Enhancement、以下
EE)処理技術、線幅調整技術について詳しく述
べる。
2.1
2.1.1
通常網点
図2
スクリーン処理技術
FMスクリーン
原稿模様とスクリーンの干渉モアレ
Moire of the manuscript pattern and screen
均等点分散モデル
悪いモデル
粒状性:良
粒状性:悪
高解像度デジタルスクリーン
DocuColor1256GAが市場導入されるまで
のプロダクション機の書き込み解像度は、副走
査方向が1200dpiまでしか対応できなかった
ため、時分割変調技術により主走査方向の書き
込みパルスを細分し、9600dpi相当の記録で対
応していた。その結果、設計できるスクリーン
2
図3
マスク型FMスクリーンの成長パターン
Pattern of the mask-type FM screen
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
特集
デジタル印刷の価値を高める画像処理技術 高画質の実現と維持・管理
のスクリーンは、図2に示すように、原稿(例:
りも高解像度である必要があり、本例では、
モアレが発生しやすい細かい繰り返し柄)とス
1200dpi×600dpi以上であれば再現できる。
クリーンの干渉を発生しにくくしている。
従来のレーザーROSであれば、レーザー駆動
FMスクリーンを作成するうえで重要なのは、
パルス幅の変調により、図4の適用例のように
ドット配置が均等にばらついていることである。
主走査方向の高解像度化が可能で、図5(a)に
当社では独自の均等点分散モデルを用いて、前
示すような2400dpi×600dpiへの展開が考
述の原稿とスクリーンの干渉の発生を抑制し、図
えられる。
3に示すように、粒状性の良いFMスクリーンを
5), 6)
実現している
一方、Color 1000 Pressで採用されている
高解像度2400dpi VCSEL-ROSの場合、主・
。
副走査方向共に2400dpiの高解像度で画像補
2.2
IE/EE処理技術
2.2.1
正が可能となり、図5(b)に示すように、より
IE処理技術
滑らかなエッジ特性となるように変換が可能で
図4に、IE処理技術の適用例を示す。図4は、
ある7)。
画像処理解像度600dpiで作成された処理前画
像の斜め線左部に着目したもので、3×3ドット
の検知ウインドウを例に、IE処理技術を説明する。
2.2.2
EE処理技術
図6に、EE処理技術のフローを示す。図6は、
3×3の検知ウインドウに対応して、赤枠で囲
3×3のエッジ抽出フィルターを用いた例で、注
まれた注目画素周りの白・黒情報に応じたパ
目画素⑤が、その周りの白・黒情報からエッジ
ターン1~Nのパターンマッチングテーブルか
部かどうかを判定するものである。この処理フ
ら、該当するパターン(この例ではパターン2)
ローでは、注目画素⑤がエッジか否かを判定す
が選択され、注目画素データは、全印字から半
るエッジ判定部があり、エッジと判定するため
分印字のデータへと補正変換される。
の閾値が与えられる。エッジ判定の結果、非エッ
この変換によって、処理後画像の斜め線エッ
ジ部と判定された画素には通常画像用のスク
ジが元画像よりも滑らかに再現される。ここで、
リーン処理が施される。一方、エッジ部と判定
処理後画像の解像度は、処理前画像の解像度よ
された画素には、エッジ用スクリーンが割り当
◆RIP 解像度(低解像度)を書き込み解像度(高解像度)
にエッジをスムージング
<Image Enhance処理の概要>
<処理前画像>
1
1
1
1 1
1 1
青破線:検知Window
ピンク線:注目画素
パターン
0 1 1
0 1 1
0 1 1
1
2
0 0 1
0 1 1
0 1 1
3
0 1 1
0 1 1
0 0 1
・
・
N
図4
0: 白 ( 0)
1: 黒 (255)
マッチングした
場合の補正値
255
<処理後画像>
パターン
マッチング
・
・
1
1
1
1 1
1 1
注目画素の周辺含めたパターンマッ
チングにより、ヒットした注目画素
がテーブルに従い補正される
Image Enhancement処理技術の概要
Overview of Image Enhancement technology
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
3
特集
デジタル印刷の価値を高める画像処理技術 高画質の実現と維持・管理
Original Data
600dpi / 8bit
IE処理後
2400dpi ×600dpi の例
Original Data
600dpi / 8bit
IE
処理
IE処理後
2400dpi ×2400dpi の例
IE
処理
(a)従来ROS
(b)VCSEL-ROS
Example of ROS in the past
Example of VCSEL ROS
図5
IE処理技術の適用例
Application examples of Image Enhancement technology
2.3
てられる。
線幅調整技術
図7に、EE処理技術におけるエッジ判定と最
通常、ゼログラフィー技術では、転写でのト
終のスクリーン処理の概略を示す。処理前画像
ナー飛び散りや定着での画像つぶれにより、ポ
を先述例における3×3のエッジ検知フィル
ジ文字は太り、ネガ文字は細る傾向にある。こ
ターで判定し、エッジ判定結果をエッジTag情
の対策として、ゼログラフィー技術のサブシス
報として保持させ、スクリーン処理時にその
テムに対して、たとえば潜像形成時に線幅が細
エッジTag情報を基に非エッジ部は通常画像用
くなるように露光したり、現像条件の調整によ
スクリーン、エッジ部はエッジ用スクリーンで
り線幅を細くしたりすることも考えられる。し
おのおの処理される。
かし、そのようなサブシステムのパラメーター
図8に、EE処理の効果を示す。処理なしの場
での対処は、線画や文字部だけを制御すること
合、中間濃度(Cin=50%)パッチのエッジ部
は難しく、他の絵柄の再現特性も変化してしま
にジャギーが生じるが、EE処理によりジャギー
う。そこで、文字や線画のエッジであるといっ
7)
が解消していることがわかる 。
処理なし
処理あり
Video/Tag
非エッジ部
エッジ判定
閾値未満
閾値以上
エッジ部
エッジ画素
濃度調整
通常画像用
スクリーン
Video/Tag
図6
エッジ用
スクリーン
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
例)3x3エッジ抽出フィルター
⑤が注目画素
Video/Tag
0
0
128 128 128 128
0
0
0
128 128 128 128
0
0
0
128 128 128 128
スクリーン処理
0
0
0
0
128 128 128 128
0
0
0
128 128 128 128
0
0
図8
Edge Enhancement処理アルゴリズム例
Edge Enhancement technology algorithm
0
0
Cin
50
%
HT
エッジ
判定
0
1
1
0
0
Edge Enhancement処理前後の画像比較
Image comparison by Edge Enhancement
technology
0
0
0
128 128 128 128
0
0
0
128 128 128 128
0
0
0
128 128 128 128
0
0
0
128 128 128 128
0
0
0
128 128 128 128
0
0
0
128 128 128 128
0
0
0
1
1
0
0
0
0
0
1
1
0
0
0
0
0
1
1
0
0
0
0
0
1
1
0
0
0
0
0
1
1
0
0
0
128 128 128 128
:通常画像用スクリーン
1:エッジ判定部
0:非エッジ判定部
図7
4
:エッジ用スクリーン
Edge Enhancement処理技術の適用例
Application example of Edge Enhancement technology
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
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デジタル印刷の価値を高める画像処理技術 高画質の実現と維持・管理
<画像断面 8bitデジタルデータ>
<画像断面 模式図>
Color 1000 Press と VersantTM 2100
<画像正面 プリント
黒(255)
PressにILSを導入してきた1), 2)。読み取り対象
マーキングでの
つぶれ・太り
が発生
は、階調再現特性、面内の色ムラ、および表裏
トナー
白(0)
紙
デジタル
補正
アライメントである。これらのテストチャート
印字画質
改善
:画像断面
説明部
を100枚/分(A4換算)のプリント速度で読
エッジ部データ補正
み取り、色やアライメントなどの特徴量を抽出
マーキングでの
つぶれ・太り
を抑制
してプリンターの制御部に提供する。
トナー
本章では、ILSのために開発した技術と達成水
紙
図9
線幅調整技術の概略
Example of line width control technology
準、ならびに画像処理の構成について紹介する。
3.1
た画像情報に基づき、入力画像の文字や線画の
太さを所望のレベルとなるようにデジタル補正
装置概要
Color 1000 Pressでは図10に示すように、
する線幅調整機能を考案した。
ト ナ ー を 転 写 し た 用 紙 が 定 着 装 置 ( Fusing
図9に、線幅調整機能の概略を示す。この機
Unit)
、冷却装置(Cooling Unit)、カール矯正
能は、用紙上での線幅が所望の値となるように、
装置(Decurler)の順に通過し、ILSの読み取
入力画像の画像エッジ部データをデジタル補正
り部を経て排出部に出るよう各ユニットを配置
することにより、ゼログラフィープロセスにお
している。自動両面プリントでは、プリント用
けるトナー像の太りの影響を抑制し、印字品質
紙がILS通過後にリターンパスに回り、裏面プリ
を向上させるものである。
ントで再度ILSを通過する。これにより、1台の
Color 1000 Pressでは、「白抜き文字強調」
ILSで自動両面プリントの表裏の読み取りを可
機能としてプリントサーバーに実装し、この処
能にした。さらに、この場所では定着されたト
理を実施することで、オフセット印刷により近
ナーの熱が冷却装置で吸収されていることから、
7)
い文字品質を達成した 。
トナーの発色が安定する、カール矯正装置で用
紙先端、後端の曲がりが修正され用紙姿勢が安
定する、といったメリットがある。
3. インライン画像センサー(ILS)
一方、読み取り部の上流に配置された各装置
デジタル印刷機では画質維持性が大きな課題
は用紙を挟みながら稼働するため、ILSの読み取
であり、プリンター内で画像の濃度を読み取り、
りもマーキングプロセスの速度(A4換算100
マーキングプロセスを制御したり、画像情報を
枚/分の連続プリント)に対応して動作しなけ
8)
補正したり、という試みがある 。当社では、
ればならない。
Fusing Unit
Cooling Unit
ILS
Decurler
Return Pass
図10 ILSを搭載したColor 1000 Press
Fuji Xerox Color 1000 Press with In-Line Image sensor
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
5
特集
デジタル印刷の価値を高める画像処理技術 高画質の実現と維持・管理
で階調再現性を検出する。
(b)は単色、多次色
の色帯のチャートで画像の左右の濃度ムラを検
出する。(c)のチャートは自動両面モードで同
じ画像を表裏面にプリントしている。この表裏
の画像それぞれについて、用紙端から格子点ま
での距離を求める。
3.3
色読み取り精度
階調パッチの濃度を本センサーと濃度計を用
図11 ILSの構成
Construction of the In-Line Image sensor
いて計測し比較した結果を図13に示す。縦軸が
Color 1000 Pressの最大プリントサイズは
の出力で、2台のセンサー、それぞれ2条件で実
A3ノビなので、読取り幅は340mmが必要と
施し、良い再現性が得られた。また、外乱条件
なる。
を加味した本センサーの繰り返し精度を色差換
さらに、デジタル印刷市場の要求よりセン
サーの持つべき性能として、色の読み取り誤差
反射率を意味するセンサー出力、横軸は濃度計
算して評価した結果、表1に示すようにΔE=
0.7程度であった。
ΔEは1以内、アライメントの読み取り精度は
±0.2mm以内という要求から、必要な読み取り
解像度を250dpiとした。
3.4
画像アライメント
本センサーにて計測した用紙に対する画像ア
また、プリンターの用紙搬送性を確保するた
ライメントを、メジャーで計測した値を基準と
めに、読み取り部においても用紙搬送路の幅は
して図14に示す。計測精度は、±0.1mm程度
2mm以上確保することを設計条件とした。
であった。
これらの条件の下に開発したILSを図11に示す。
Green channel Outputs of Magenta
VersantTM 2100 Pressでは、白色LEDアレ
1
Output of CCD
イとライトガイドによるによる照明部に変更し
たが、光学系、用紙搬送路の設計はColor 1000
Pressの設計を継承している。
以下、Color 1000 PressのILS構成と評価
#1_0823_BJ
#1_0826_AJ
#2_0823_BJ
#2_0826_AJ
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
結果を中心に述べる。
1
1.5
2
Green channel Outputs of Black
プリンターキャリブレーション
1
Output of CCD
3.2
0.5
Magenta Density (Densitometer)
階調再現性、面内ムラ、用紙に対する画像アラ
イメントを検出する各チャートを図12に示す。
(a)はCMYK各色24階調のパッチチャート
#1_0823_BJ
#1_0826_AJ
#2_0823_BJ
#2_0826_AJ
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
0.5
1
1.5
2
Black Density (Densitometer)
図13 階調再現特性測定結果
Results of the gradation patch
表1
(a)
諧調特性
Gradation
(b)
均一性評価
Uniformity
繰り返し測色精度
Color measurement accuracy
(c)
画像アライメント
Alignment
図12 テストチャート
Test chart
6
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デジタル印刷の価値を高める画像処理技術 高画質の実現と維持・管理
Error (mm)
Data flow
Paper surface 1
Paper surface 2
ILS PWBA
CCD
PWBA
Power
PWBA
・LV
・ Lamp
・ Motor
・ Fan
FPGA
CCD Cont.
DAPDNA-IMX
Memory
IOT Cont
PWBA
Image Processing
ROM/
RAM
H8S CPU
IO Cont
Communication
CircLINK Cont
図15 画像処理ブロック図
Block diagram of the processing module
Average of 6 papers
Sensing point
図14 画像アライメント測定誤差
Image alignment measurement error
複数枚のテストチャートが排出されたときに
は、DAPDNA-IMXはすべての処理を終え、そ
の結果を、システム制御用CPUを通じてプリン
3.5
画像処理
ター本体の制御部に伝える。
ILSでは当社の複合機と同じCCDセンサーを
利用している。しかし、読み取り後の画像処理
においては、シェーディング補正などの基本的
な処理に加えて、テストチャートの代表値を算
出する処理などのILS独自処理があるため、複合
機用に開発した画像処理ASICまでは共用でき
ない。
4. VersantTM 2100 Pressにおける
技術の進化
4.1
照明光源の進化
ILSはプリンターの画質を長期にわたって保
証することが目的であるため、センサー自体の
ILSを装備するデジタル印刷機は、オフィス用
安定性を確保する必要がある。そのため、Xe蛍
複合機に比べると生産数が少ないことから、専
光管を使用していたColor 1000 Pressでは、
用ASICでは開発コストを回収することが困難
読み取り対向位置に配置されたキャリブレー
である。そのため、ASIC同等のハードウェア演
ションユニットに14色の基準色シートを貼っ
算が可能で、その処理をソフトウェアで実装で
た色基準面を設け、その基準面を定期的に読み
きるDSP(Digital Signal Processor)を検討
取ることで、Xe蛍光管の経時的な色変動を補正
し、当社で使用実績があるDAPDNA-IMXを採
する処理を組み込んでいた。
9)
用した 。DAPDNA-IMXはDRP(Dynamically
VersantTM 2100 Pressでは、照明光源を白
Reconfigurable Processor)と呼ばれる種類
色LEDに代えたことで、経時的な色変動は軽微
のプロセッサーで、ハードウェアの演算構成を
となった。一方、白色LEDは励起光源の青LED
稼働中に切り替えられる点が特徴である。この
の波長バラツキ、青LEDと黄色蛍光剤の発光強
プロセッサーを搭載したILS処理基板の構成を、
度比のバラツキといった要因で、白色度のバラ
Color 1000 Pressを例として図15に示す。
ツキが課題となった。これらを解決するため、
DAPDNA-IMXでは、複数枚連続プリントさ
14色の基準色シートに代えて均一な黄色シー
れる各種のテストチャートに対して、次の一連
トを配置した。これを読み取った値から白色度
の画像処理をリアルタイムで実行する。
のバラツキを補正する処理を組み込み、機差や
z CCD画像データ(R、G、B)メモリー格納
ライン照明内の色バラツキを抑えている。
z シェーディング補正
z 走行用紙の角位置検知
z チャートの指定位置から代表値を算出
階調チャート、面内ムラチャート
z 格子画像の座標演算
表裏アライメントチャート
4.2
調整・検出機能の進化
VersantTM 2100 Pressでは、階調再現性、
面内ムラ、表裏アライメントといった、これま
での調整機能に加え、二次転写電圧調整機能と
プリンター画質検出機能を導入した。
二次転写電圧調整機能:デジタル印刷機では、
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
7
特集
デジタル印刷の価値を高める画像処理技術 高画質の実現と維持・管理
多種多様な用紙が使われるため、トナー像を用
なり、それ以前より修復作業時間の短縮を図っ
紙に転写するときの二次転写電圧を適切に調整
てきた。課題としては機械が認識できる情報の
する必要がある。これまではその調整を、お客
みで故障診断を実施していたため、画質不具合
様、またはサービスエンジニアが目視で実施し
あるいは画質欠陥の故障診断が難しいという課
ており都度の調整に手間とスキルを要した。
題があった。
2100 PressではILSの読み取り機
VersantTM 2100 Pressでは、4.2で述べた
能を使って最適な階調再現を実現する転写パラ
画質調整結果や画質検出機能で直接画質を測定
メーターを自動調整できるようにし、多種多様
した情報を定期的に、あるいは任意のタイミン
な用紙を安心して使用できる価値を付加するこ
グでリモートセンタに通知する。この機能に
とができた。
よって、プロダクション市場に求められる画質
Versant
TM
プリンター画質検出機能:ゼログラフィープ
状態の監視を実現し、画質に関する問い合わせ
リンターでは感光体、帯電器、現像器、転写ベ
/画質起因の修理依頼時にカストマーエンジニ
ルト、など種々のマーキング部材の欠陥でプリ
アが効率的に対応できるよう進化した運用シス
ント画像に小さな点やスジが生じることがある。
テムを提供している。
これらが目視で判断できるような大きさになる
と画像欠陥となってしまうことから、
VersantTM 2100 PressではILSを利用した点
5. おわりに
スジ検出モードを設け、一定期間デバイスに情
デジタル印刷市場では、お客様に満足して
報を保持する機能を導入した。その手順は次の
使っていただける画質を達成するために、マー
とおりである。
キング技術の革新や部材精度の向上はもちろん
のこと、本稿で述べた画像処理技術が必須と
z 点やスジの検出感度が高いテストチャートを
プリントし、ILSで読み取る。
z DAPDNA-IMXプロセッサーで、点やスジを
検出し、欠陥のサイズや発生位置を分析する。
なっている。また、ゼログラフィープロセスの
複雑さに起因したさまざまな画像ディフェクト
や画質の不安定さも長年の課題であり、画質を
維持するための調整・管理技術も重要である。
z 分析結果をプリンター制御装置に送信する。
近年、これら画質の維持調整について、各社さ
以上の結果を、次節で紹介するEP-BBシステ
まざまな工夫をしており、このような技術を商
ムに連携させている。
品化することがお客様満足画質を得るために必
要と考える。
4.3
リモート診断機能の進化
さらに、お客様に満足していただけるデジタ
当社ではEP-BBというサービスを2008年
ル印刷環境を提供していくために、マーキング
から提供している。このEP-BBサービスでは、
技術と画像処理技術の両輪によりデジタル印刷
複合機やプリンター内の各種センサー情報やカ
の課題解決に挑戦し続けていく。
ウンター情報をインターネット経由で受信し、
それを処理することで、消耗品の自動手配、メー
ターカウントの自動通知、故障発生時の修理依
頼を自動で行うなど、リモートを活用してお客
様の複合機・プリンターの日常管理業務負荷低
減をめざしたものである。
従来、故障が発生すると機械がリモートサ
6. 商標について
z Versantは、米国ゼロックス社の登録商標
または商標です。
z その他の商品名、会社名は、一般に各社の商
号、登録商標または商標です。
ポートセンターに故障発生を自動通知するサー
ビスを実施しており、担当カストマーエンジニ
アはお客様先に行く前に故障診断結果を確認し
修理箇所を特定してから訪問することが可能に
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富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
特集
デジタル印刷の価値を高める画像処理技術 高画質の実現と維持・管理
7. 参考文献
1) 伊藤昌夫, 伊本善弥, 石井昭, 武部佳文, 風
間敏之; “Color 1000 Press向けインライ
ン 画 像 セ ン サ の 開 発 ”,
Imaging
Conference Japa予稿集, pp.123-126,
(2011).
2) 石井昭, 伊藤昌夫, 石崎直, 風間敏之, 中家
勝彦; “プロダクションプリンターColor
1000 Press用インライン画像センサの開
発 ”, Imaging Conference Japan Fall
Meeting予稿集, pp.57-60, (2013).
3) A. Ishii; “A Study of Harmonics Screen for
Four Color Reproduction”, IS&T’s NIP19,
pp.789-792, (2003).
4) 石井昭; “レーザービームプリンターの高画
質記録信号処理”, 日本画像学会誌, Vol.43,
No.2, pp.112-118, (2004).
5) K. Ishizaka; “New Spatial Measure for
Dispersed-dot Halftoning Assuring Good
Point Distribution in Any Density”, IEEE
Trans. on Image. Proccessing., Vol.18,
No.9, pp.2030-2047, (2009).
6) K.
Ishizaka;
Minimum
“Weak-Convergence
Energy
Measure
to
and
Dispersed-Dot Halftoning”, SIAM J. Imag.
Sci., Vol.7, No.2, pp.1035-1079, (2014).
7) 浅野和夫; “Production/GA機における画
質設計”, 第75回日本画像学会技術講習会
予稿集, pp.144-159, (2013).
8) 西田聡, 小林一敏, 大本哲子, 宮坂裕, 彭
有; “bizhub PRESS C8000における画
質安定化と信頼性向上技術”, コニカミノ
ルタ
テ ク ノ ロ ジ ー レ ポ ー ト , Vol.8,
pp.26-32, (2011).
9) 山田和雄, 内藤孝雄, 土渕清隆, 張臻瑞;
“DRP技術を活用したリアルタイム画像処
筆者紹介
浅野
和夫
デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部所属
専門分野:画質設計
理システムの構築”, 富士ゼロックステク
石井
ニ カ ル レ ポ ー ト , No.18, pp.99-111,
デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部所属
専門分野:記録信号処理
(2008).
美斉津
昭
亨
デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部所属
専門分野:画質設計
荒武
正幸
商品開発本部 システム企画部に所属
専門分野:プロジェクトマネジメント
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
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