FPD搭載型血管撮影装置の有用性(PDF:1.5MB)

特集 1
フラットパネルディテクタ 2015 臨床論文
FPD搭載型血管撮影装置の有用性
*1
*2
上杉道伯 /竹中和幸
*1
*2
大垣市民病院 循環器内科 /同 診療検査科中央放射線室
はじめに
ず応えることができる。これは従来の I.I. 搭載型
血管撮影装置で弱点であった部分であり、術者の
当院では最近までI.I.
(Image Intensifier)
搭載型
視野が開け、手技の向上およびそれに伴う手技時
血管撮影装置を有した血管造影室が 3 室、IVR-
間および透視時間の短縮にも大きな改善をもたら
CT 室が 1 室、従来稼働していた。しかし、I.I. の
した。
経年劣化や近年の FPD
(Flat Panel Detector)
搭
この装置は、正面側に東芝独自の 5 軸マルチア
載型血管撮影装置の技術進歩を踏まえ、2009 年
クセス C アームをもっており、長手動・横手動に
11 月より順次、血管撮影装置を更新している。ま
おいてワイドなカバー領域を有し、頭部から下肢
た、2014 年 7 月には当院が所在する岐阜県西濃地
まで全身を観察対象としてとらえることができ
域では初となるハイブリッド手術室を設置し、稼
る。C アームの床軸回転動作によりアームを患者
働している。
さんに対して斜め方向から挿入するなど任意の角
当院の更新された血管撮影装置は東芝メディカ
度からアプローチすることが可能で、術式に応じ
ルシステムズ社製の「Infinix Celeve-i」
シリーズで
て必要な作業スペースを確保することができ術者
あり、各血管造影室の更新がもたらした有用性を
の行動を制限しないメリットがある。バイプレン時
造影室毎に報告する。
においても患者頭側をフリースペースにすることも
できる。また、側面アーム側のX線管・FPDの上
第 2 血管造影室の更新(図 1)
下動を含む単独動作によって、患者さんを動かす
ことなく迅速で簡便な視野の位置決めが行える。
従来、この血管造影室では循環器内科による各
画質に関しては、東芝独自の画像処理コンセプ
種カテーテル検査から PCI
(Percutaneous Coro-
トPureBrain によって残像を生じることなくリア
nary Intervention)
が年間 2 ,500 件以上行われる
ルタイムにノイズ除去を行うことのできる SNRF
主力の血管造影室である。循環器内科のほか、小
(Super Noise Reduction Filter)
が組み込まれて
児循環器科の検査、インターベンションや糖尿
おり、コントラストを損なうことなく透視・撮影
病・腎臓内科のPTA
(Percutaneous transluminal
像における大幅なノイズ低減を実現している。こ
angioplasty)
も行われている。
れにより、冠動脈造影における動きの速い領域で
2009 年 11 月に正面側・側面側とも 8 ×8 イン
細かなワイヤ操作が求められる場面でも視認性に
チの FPD を搭載したバイプレン血管撮影装置
優れた手技を進めることが行えている。
Infinix Celeve-i/INFX-8000 Vを導入した。
8 インチ角というコンパクトサイズの FPD を搭
載したバイプレンシステムであり、循環器領域の
手技に求められる深い角度付けにも画質を損なわ
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映像情報メディカル 2015年2月
第 3 血管造影室の更新(図 2)
この造影室は 2010 年 3 月の更新時には脳神経外
図 1 第 2 血管造影室
(PCI施行)
図 2 第 3 血管造影室外観
科の検査・治療や末梢血管のインターベンショ
なっており、脳外科領域の治療においても安全に
ン、CAS 等が年間 150 件程度行われていた。導入
サポートしている。側面側に 12 ×16 インチ FPD
装置は第 2 血管造影室と同様のバイプレン血管撮
を搭載すると、角度によっては肩に視野がかかる
影装置 Infinix Celeve-i/INFX-8000 V である。た
ために頭部側面への近接が行えず画質の劣化と被
だし、対象となる部位が頭部や下肢血管であるた
曝の増大が懸念され、また 8 ×8 インチでは 近
め、正面側に 12 ×16 インチの長方形型 FPD を搭
接は可能だが視野が小さくなることが問題とな
載し、側面側に 12 ×12 インチ FPD を搭載したシ
り、12 ×12 インチを採用した。このように主使用
ステムを導入した。
目的に 応じたインチサイズを選 択 できる点も
正面側 FPD は大視野の長方形だが FPD および
Infinix Celeve-i シリーズの特 徴のひとつとい
絞りは ±135°の回転機構を有しているため、手
える。
技に合わせて縦長にも横長にも利用できる上、四
この部屋で稼動する装置には、頭頂から足先ま
肢の治療を行う際には対象部位に合わせた最適な
での血管を広くカバーすることが要求されるが、
角度での透視/撮影が可能である。アーム角を変
天井走行式の側面側アームだけでなく、正面側の
更しても視野は回転することなく画像観察するこ
アームでも前述の 5 軸式のマルチアクセスアーム
とが可能となっている。
は体 軸長手方向に 200 cm のアクセスが 可能で
側面側の 12 ×12 インチ FPD は頭部側面造影に
12 ×16 インチ FPD により全身を広くカバーする
求められる視野を十分にカバーできる大きさと
ことが可能となっている。
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血管造影室とは別棟に位置していたが、更新を機
に血管造影室と同エリアに設置された。
血管造影検査とCT 検査の両方を同時に行うこ
とができる組み合わせで、TACE
(Trancecatheter Arterial Chemo Embolization)
等のカテーテ
ル治療をメインに行っており、血管撮影装置によ
る高精細な透視画像表示と大視野 FPD により広
い視野での検査・治療を実現しており、1 度に得
られる情報が増えたことによる臨床価値は高まっ
たと思われる。
組み合わせている CT はガントリ自走式で、患
者さんを移動させることなくCT 撮影が行えるた
め検査を安全に実施することが可能である。血管
撮影装置のアームを退避させずに寝台のフロー
ティング移動だけで CT 撮影と血管撮影装置によ
る撮影/透視の切り替えができるため、検査の時
間短縮にも貢献している。
CT を退避させた状態では、血管撮影装置は制
限なく単独の血管撮影装置として稼働することが
可能であり、また CT 単独使用時は血管撮影装置
のアームを壁際への退避が可能で、
広いクリア
ランスによるCT透視等も可能となっている。
図 3 第 3 血管造影室
EVAR前の様子。
当院では、HCC
(hepatocellular carcinoma)
に
対する TACE 時に CT 撮影による CT アンギオ像
をリファレンスとして活用する運用を行ってお
り、最初に、Aorta に留置した pigtail カテーテル
から造影を行い、撮影画像から診療放射線技師が
2010 年末より2014 年のハイブリッド手術室稼
Work station 上で VR
(Volume Rendering)
画像
働までは当血管撮影室にて EVAR
(endovascular
を作成し、この VR 像をリファレンスとして Celi-
aortic repair)
、TEVAR
(thoracic endovascular
ac の走行確認、Feeder の確認、Working Angle
aortic repair)
も行っており、年間 40 例前後を実
の決定等に利用することで、マイクロカテーテル
施してきた
(図 3)
。
を栄養血管まで到達させるまでの位置確認のため
の DSA 撮影回数を減らせている。その結果、造
IVR-CT 室の移転更新(図 4)
影剤の使用量・被曝の低減へとつなげている。透
視ロードマップ機能の積極活用も行っており、
2012 年に 11 月には 12 ×16 インチのFPDを搭載
DSA による血管像をリアルタイム透視に重ね合
した天井走行式 シングルプレン血管撮影装置 In-
わせることでマイクロカテーテルを腫瘍の栄養血
finix Celeve-i/INFX-8000 Cと 64 列/128 スライス
管へと進める際の走行把握を行っている。より選
MDCT 装置 AquilionCX
(東芝メディカルシステ
択的な治療の実施が主流となってきている HCC
ムズ社製)
を組み合わせた IVR-CT システムを導
に対するカテーテル治療の中で、当院では CT 装
入し、消化器内科の腹部血管の検査・治療を主体
置・血管撮影装置それぞれの活用に留まらず、両
とした運用を開始している。旧検査室は第 1∼3
装置を同室に設置することでもたらされる「IVR-
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映像情報メディカル 2015年2月
図 4 IVR‐CT室外観
図 5 ハイブリッド手術室
(EVAR施行)
CT システム」
として、より患者さんにやさしい手
この組み合わせにより、導入以前まで第 3 血管
技を追求している。
造影室で行なっていた TEVAR、EVAR をはじ
め、今後対応を予定している経カテーテル的大動
ハイブリッド手術室の新設(図 5)
脈弁置換術:TAVR
(transcatheter aortic valve
replacement)
、経カテーテルにおける血行再建
2014 年 7 月 中央手術室内に、岐阜県西濃地域
術等を、年間 100 例程度を実施する予定である。
初となるハイブリッド手術室を導入した。
手術台は血管撮影用のテーブルトップと手術手
装置は日本のオペ室に適した血管撮影装置Infinix
技に対応した多目的テーブルトップを 置換する
Celeve-i/INFX-8000 Hに、高機能の手術台として
ことにより、通常のオペ室と同様に胸部外科、脳
世界的に採用されているドイツ・マッケ社製の
神経外科、整形外科等、各領域における外科手
MAGNUS 1180 を組み合わせたシステムとなって
術も実施可能となっており、同室には手術支援ロ
いる。
ボット「ダヴィンチ」
も配備しているため、腹部領
天井走行式支持装置は多目的対応として 12 ×
域の手技においても最新機器による手技に適応し
16 インチの FPD を搭載したシングルプレンシス
ている。
テムである。
オペ室の中に血管撮影装置、手術支援ロボット
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を導入したことにより、あらゆる手技に適応ので
プレン血管撮影装置Infinix Celeve-i/INFX-8000V
きる Multi-Purpose-Hybrid手術室 として活用し
が稼働する予定である。
ている。
この造影室で主に行われているアブレーション
Hybrid 手術室は、外科的な処置を伴うことか
治療では正確な治療位置の同定が必要であり、小
ら、通常の手術室と同様に高い清浄度を維持する
児循環器のカテーテル治療では成人以上に造影剤
ためのヘパフィルタを手術台上部の天井面に設置
量、被曝線量の減量を図る必要があるため、バイプ
することが求められるが、ハイブリッド手術室で
レンシステムが必要となるのはいうまでもない。
は天井走行式の血管撮影装置が天井に位置する
第 2 血管造影室の 8 インチ角というコンパクト
ことから、ヘパフィルタを設置する場所と重複す
サイズの FPD では、小児カテーテル治療・検査
るということが問題として考えられた。しかし今
では心臓だけでなく肺や大動脈を含んだ視野が望
回導入した東芝装置においては、天井面に設置さ
まれるためにやや小さく、また第 3 血管造影室の
れた血管撮影装置用の 2 本の平行したレール幅の
正面側 12 ×16 インチ FPD は本体が大きすぎるた
間隔が約 2 mあり、このレールの間にヘパフィルタ
め 12 インチ角の FPD が選択された。画質、操作
を設置することによりこの問題を解決している。
性に関してはこれまでの更新された他の血管撮影
これにより、室内の高い清浄度を維持するのは
室にて各診療科の術者より高い評価を得ており、
もちろんのこと、患部に清潔な空気を送ることの
今回の更新においても問題ないものと思われる。
できる通常のオペ室と同様な環境が実現となった。
また新しい仕様として、患者の表面線量をリア
手術室には、天井から吊り下げられた無影灯や
ルタイムで可視化できる機能DoseRite DTS
(Dose
モニタ、術中カメラ、シーリングペンダントが存
Tracking System)や、FPD 視野内のどこでも
在し、術中はこれらの機器を最適な位置に迅速に
設定可能な関心領域だけを X 線透視できる機能
移動させる必要があるが、天井走行レールの幅が
DoseRite SpotFluoro
(スポット透視)
も搭載され、
広すぎると必要な移動範囲が確保できず取り回し
被曝管理や低減が可能になると期待される。
が悪くなってしまうところだが、こちらもまった
く支障なく運用できている。
また 56 インチの大型モニタを天井走行式で設
まとめ
置しており、術中に高精細な X 線画像をリアルタ
以上より、当院では現在各診療科に最適と思わ
イムに表示するだけでなく、術者がその場で必要
れる FPD を搭載した血管撮影室が 2015 年初頭に
な周辺機器の映像情報を即座に表示することがで
すべて整備される。同一装置メーカということで
きる。表示したい画像も多くあるが、それらの画
術者の操作性や故障時の備品の互換性、改善点な
像も表示サイズやレイアウトを自由に選択するこ
どの要望も伝わりやすいといったメリットが生ま
とができるためとても有用である。術前 CT より
れている。
得られた VR 画像を基に 3 D ロードマッピングを
今後の要望としては、画質のさらなる改善、被
行うことによりステントグラフトの展開位置合わ
曝の低減と管理、より直観的な操作系、役立つア
せを大画面、高精細のモニタ上で行えることは術
プリケーション、高い安全性の確保、CT 装置・
者にとってハイブリッド手術室で手技を行う利点
MRI 装置・超音波装置等の他、モダリティとの
の 1 つである。
インテグレーション等々、血管撮影システムに求
める要望は尽きない。しかし、シネフィルムから
第 1 血管造影室の更新
I.I. 画像、そして今回の FPD 画像と大きく進化し
た器械の特性を活かした検査、治療技術を行って
執筆時の 2014 年 12 月現在で 16 年経過した直径
いくことが患者さんにとって望まれることである
9 インチ円形視野の I.I.システムが 2015 年 2 月に正
と思われる。
面側・側面側とも12 ×12 インチ FPD 搭載のバイ
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映像情報メディカル 2015年2月