「Sheetmetal ましん&そふと」2015年4月号

Sheet
now
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左:各工程に設置された端末で、作業完了後に帳票のバーコードを読み込み、進捗管理を行っている/右:小花弘樹社長や弟の小花和也工場長が最終の客先納期を
ベースに作成した生産計画を大型モニターに表示して共有する
ステンレスの加工ノウハウを武器に
食品機械・医療機器分野で積極開拓
フィリピンとのプログラム連携と、独自の進捗管理システム構築
こ
株式会社
ボトリングプラント・食品機械で 50 %超
㈱小花製作所は、1964 年の創業以来、ボトリングプラント向
けステンレス部品の溶接を中心に事業を発展させてきた。
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ば な
小 花 製作所
に踏み切ったことで「感覚的には半分以上の仕事が一挙になく
なった」
(小花社長)
という。2009 年に現在地へ本社工場を移
転し、2 台目のレーザマシンなどの設備を導入するといった大型
2000 年に小花弘樹社長が 29 歳で 2 代目社長に就任した頃
設備投資とも重なり、
「必死で仕事をかき集めて、なんとか 20
は、創業以来手がけてきたボトリングプラントメーカーからの売
∼30% の売上減でおさめましたが、大きなダメージを受けまし
上が全体の 70∼80%を占めていた。このままでは受注変動に
た」と小花社長は語っている。
対応できないと危機感を抱いた小花社長は、同社初のレーザ
それ以降は、強みであるステンレスの加工技術を活かして食
マシンを導入して板金加工能力を増強するとともに、食品機械
品機械、医療機器、医薬関連機器といった分野を中心に、年
や半導体・FPD 製造ラインの搬送装置などの新規開拓に乗り
2∼3 社の新規開拓を目標に、営業を強化してきた。現在の得
出し、2008 年頃までには売上を伸ばしながらボトリングプラント
意先は 100 社超、常時取引は 50 社程度まで増え、1 社あたり
メーカーの依存率を30∼40%まで引き下げることに成功した。
の依存率を最大でも10% 未満まで引き下げた。
しかし、リーマンショックの影響で、最大の得意先だったボトリ
現在の主力製品は、創業以来のボトリングプラント向け部品
ングプラントメーカーが工場移転。さらに、売上の 30% 前後を
をはじめ、食品機械、医療機器、医薬関連機器といったステン
占めていた FPD 製造ラインの搬送装置のメーカーも海外移転
レス製品。それ以外にも鉄道車両部品、産業機械・省力機械、
2015.4
代表取締役の小花弘樹氏
2009 年から操業を開始している群馬県佐波郡玉村町の本社・工場
映像・放送用機器など多岐にわたる。中でもボトリングプラント
され、レーザの切断面に研磨を施すとか溶接ビードを除去する
と食品機械の得意先は主要 8 社で売上全体の 50% 超を占め
といった具体的な加工上の諸注意が網羅されています。お客
る。また、鉄道車両部品は、同社にとって新たな分野にもかか
さまによっては、図面にいちいち記載するのではなく、標準仕様
わらず、得意先メーカーからQ,C,D すべての面で高く評価さ
れ、今では月によって売上比率 10%を超えるまでに成長してい
る。さらに映像・放送用機器については、3 次元 CAD による
架台・化粧パネルの筐体設計からアセンブリーまで一貫対応
する能力を備えている。
食品機械のモノづくり
“食の安全・安心”
に対する要求が強まる中、食品機械はサ
ニタリー性(衛生性)の確保が最重要テーマとなっており、それ
が同社のようなサプライヤーのモノづくりにも直結してくる。
会社概要
会社名
代表取締役
住所
電話
設立
従業員
事業内容
「例えば、脱落したボルトが食材に混入するおそれがある場
合はスタッドボルトではなく穴あけしてボルトを貫通・溶接する、
タンク・ホッパー・シュートといった食品が直接触れる部分はボ
ルトではなく溶接で接合し、両面バフ研磨で仕上げ、コーナー
部は半径 6 ㎜以上の R 面とする――といった仕様が標準的で
す。海外向けで欧米の衛生基準に則る必要がある場合など
は、お客さまから受け取る図面に『 HACCP 仕様』などと明記
URL
こ ばな
株式会社 小花製作所
小花 弘樹
群馬県佐波郡玉村町樋越 229-7
0270-64-1234
1989年(1964年創業)
29名
食品機械プラント部品、ボトリングプラント部
品、鉄道車両用部品、液晶搬送装置部品、
光学機械機器、医療機器、産業用機械部品、
放送・映像・音響機器の部品製作
http://kobana-flett.com/
主要設備
●レーザマシン(4 kW・棚付き)
● パンチ・レーザ複合マ
シン:APELIOⅢ- 357 V ● ベンディングマシン:HDS8025 NT、FBD- 1025 LD、RG- 80 S、RG- 25 ●YAG
レーザ溶接機(500 W) ● 3 次元CAD:SolidWorks ●
3 次元CAD/CAM:AP 100αなど ●生産管理システム
会社経歴
プログラム工程。前段階の3 次元モデル化の工程は、フィリピンのプログ
ラムセンターにアウトソーシングしている
1964年、現社長の父である小花昭氏が群馬県伊勢崎市で
個人創業。溶接を主としたボトリングプラント向けステンレス
部品の製作を手がけはじめる。1989年に㈲小花製作所を設
立し、1996年に伊勢崎市宮子町へ本社移転。2000年、
小花弘樹氏が 29歳で代表取締役に就任。レーザマシンを導
入し、板金加工事業を強化していく。2009年に㈱小花製作
所に改組するとともに現在地に本社工場を新築・移転、レー
ザマシンの 2号機、パンチ・レーザ複合マシンなどを導入し、
生産能力を強化。ボトリングプラント関連の仕事で培ったス
テンレス加工のノウハウを礎に、食品機械・医療機器・医薬
関連機器などへと業容を拡大している。
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自動倉庫MARSに材料を在庫し、 2 台のブランク加工マシンで加工する
書というかたちで指示をいただくケースもあります」。
「逆に、そうした標準的な仕様に反することが図面で指示さ
れていた場合には、お客さまに確認をとります。少しでもコストを
送り返され、それを社内のスタッフが受け CAD の SolidWorks
でチェックしてから、プログラム担当者へと受け渡す。
プログラム担当者は 3 次元 CAD/CAM で受け取り、材質・
下げようと、タンクはステンレス、タンクの脚部は鉄にメッキといっ
板厚といった要素を追加してバラシ・展開、ブランク加工マシン
た指示をいただくこともありますが、かえって溶接・塗装が難し
用の加工データを作成する。
くなったり横持ちが発生したりして、コストアップにつながることも
複雑形状や即日出荷の特急品であれば、社内のスタッフが
あります。そういうときに適切にフィードバックできるように、当社
3 次元 CAD/CAM ですべて対応する。食品機械に不可欠な
でも社内のプログラム担当者や現場のスタッフが一体となってノ
バフ研磨も、外部の協力を仰ぎながら、社内の専門スタッフも常
ウハウを蓄積しながら、提案できるようにしています」。
日頃から従事している。このアウトソーシングを活用しつつ社内
フィリピンのプログラムセンターとの連携
同社の生産形態は、受注アイテム数が月1,500∼2,500 アイ
テム、その大半がロット1∼2 個、リピート率は 20 %前後という典
でも対応できるというスタイルは技術・技能の醸成と柔軟な対
応力につながり、同社の大きな武器となっている。
事務処理を最小限におさえた進捗管理
型的な多品種少量生産。さらに食品機械業界は、食品のライ
もうひとつの取り組みが、スピードを重視し、事務処理を最小
フサイクルがますます短くなる中で食品生産ラインの垂直立ち
限におさえた進捗管理。ソフトウエアメーカーと連携し、既存の
上げに対応するため、納期 1 週間以内や即日出荷といった極
パッケージソフトをカスタマイズした独自のシステムを構築した。
端な短納期を求められる。しかもこうした多品種少量生産・短
納期の傾向はますます強くなっている。
「前の工場(現・宮子工場)は規模が小さく、工場内をひと
目で見渡すことができました。しかし新規・単品のアイテム数が
こうした課題に対応するための同社の特徴的な取り組みは
右肩上がりで増えていく中、本社工場の移転・拡張計画も決
大きく2 つ。プログラム工程のアウトソーシングと、事務処理を最
まっていたので、いずれ人手で管理することはできなくなること
小限におさえた進捗管理の運用である。
は確実でした。お客さまから問い合わせを受け、現物をさがす
「多品種少量生産・短納期でプログラム工程の負荷が増す
だけで多くの時間がかかり、本来の業務に支障が出てきていま
中、すべてを社内でまともに対応していたのでは納期も付加価
した。大口のお客さまの問い合わせには対応できるが、小口の
値も削られてしまう。そのため当社では、フィリピンのプログラム
お客さまの問い合わせには対応できないといった望ましくない
センターと業務委託契約を結び、図面化の工程をできる限りア
状況も生まれていました」。
ウトソーシングしています」。
「そこで私が求めたのは『今、どの製品がどこにあるのかが
得意先から受け取るのは基本的には紙図面、次いで DXF 形
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HDS- 8025NTによる曲げ加工
わかること』の 1 点だけ。既存のシステムをいくつか検討しまし
式の 2 次元データが多い。同社では受け取った紙三面図をフィ
たが、進捗を管理するためには、生産手配をかける際に工程
リピンのプログラムセンターへ送り、フィリピンでは 3 次元 CADを
をひとつひとつ入力する必要がありました。しかし当社の場合、
使って 3 次元モデルを作成する。DXF データの場合も、よほど単
1 件数百円から数百万円までと幅広い仕事を受けている中で、
純な形状でない限り、フィリピンへ送り、余計な情報を削除して
すべての製品の工程を指定して工数を厳密に管理する必要を
3 次元モデルを作成する。できあがった 3 次元モデルは同社へ
感じませんでしたし、正確な工程分割ができる人材も工数も限
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られていました。事実、それを実行できるだけのマンパワーがな
多い製品であれば板厚 3.0 ㎜程度まで APELIO で加工する
いからこそ、多くの企業で生産管理システムを導入しても進捗
が、そうでなければ板厚 2.0 ㎜以上は基本的にレーザマシンで
管理までは行えず、受注台帳としてしか使えてない実態がある
加 工 す る。曲 げ 工 程 には HDS-8025NT、FBD-1025LD、
のだと思います」。
RG-80S/20と4 台のベンディングマシンを設備している。
システムに入力するのは、それまでも納品書を発行するため
「ブランク工程は、APELIO がそろそろ更新時期。消費電力
に入力していた得意先名・注番・製番・個数・納期、そして
量を大幅に削減にできるファイバーレーザマシン、タップまでワン
単価のみ。工程は指定せず、納期は別途、小花社長や弟の
クランプで加工できる複合マシンに魅力を感じています。曲げ
小花和也工場長が最終客先納期をベースに管理する。図面
工程は、当社がほこる職人 2 人の技能が高く、それが付加価
と一緒に現場に流す管理用の帳票にはバーコードが印字され、
値にもなっていますが、今後は簡単な製品と難しい製品を切り
ミシン目が入っている。各工程の作業が完了すると、担当者が
分けて、簡単な製品であれば Dr.ABE_Bend のようなソフトを
現場の端末でバーコードを読み取ることで、システムをチェック
活用して負荷の平準化と稼働率アップを図ることも考えたい。ま
すればどの製品が今どこにあるのかがひと目でわかる。出荷時
た、製品を1 つひとつ完成させる必要はないので、とにかく最
には帳票をミシン目で切り取り、現品票として製品に添付する。
小限の金型交換で曲げを行えるような段取りを指示してくれる
加工難易度やロットサイズによって金額が大きい案件は、現
ソフト、あるいは金型を自動でセットしてくれるATC(金型自動
場のスタッフに各工程の所要工数を手書きで図面上に記入し
交換装置)付きのベンディングマシンのような、段取り工数を削
てもらい、見積り金額の検証を行う。
減できる設備も魅力です」。
「事務処理の手間は従来とほぼ変わらず、それでいて受注
今後の展望としては「積極的に営業していく分野は、やはり
台帳から単価・進捗状況が把握でき、CAD/CAM のデータと
食品機械と医療機器。お客さまが増えてくると、色々なことが見
も連動しているので形状確認もできるようになった。今の当社に
えてきます。当社に価値を見出してくださるお客さまを見つけ出
は最適なシステムができました」と小花社長は胸を張る。
すという意味でも、引き続き積極的な営業展開を続けていきた
食品機械と医療機器を中心に積極展開
使用材料は、ステンレスが 60%、鋼板が 40% で、アルミがわ
い。加工技術の面でも、まだまだ成長しなければならないところ
がたくさんあるので、従業員教育にも力を入れています。技術
面だけでなく、2009 年に玉村町に本社工場を移転してからは、
ずか。短納期の仕事が多いため、材料は可能な限り在庫して
近隣の方々への感謝を込めて、毎週月曜日に工場の半径数百
おき、そこから払い出すかたちで対応する。SS は板厚 0.5 ∼
メートルの範囲で清掃活動をしています。3月から11月の期間
16 ㎜、使用量が多い SUS304 は 14 ㎜以下のすべての板厚、
限定ですが、欠かさず活動を続けてくれている従業員には感
SUS304 は 6 ㎜ 以 下の各 種 表 面 処 理 材、アルミは A5052と
謝しきりです」。
A5052 のアルマイト材を板厚別に在庫している。
ブランク工程には棚付きで 24 時間稼働できるレーザマシンと、
パンチ・レーザ複合マシンAPELIOⅢ-357Vを設備。穴数が
取材の際は、すれちがうすべての社員が取材者に正対して
大きな声で挨拶をしてくださる様子が気持ちよく、印象的だっ
た。同社のさらなる発展が期待される。
長年培ったステンレスの加工ノウハウを活かして製作した食品機械向け部品の一部
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