経営者のための経済・市場環境 定点観測 (速報)

EY Institute
10th April 2015
シリーズ:経営者のための経済・市場環境
定点観測 (速報) vol.2-1
~主要企業の自己株式取得急増、海外M&Aも過去最高に~
主要企業の自己株式取得急増
執筆者
2014年度の東証一部企業による自己株式取得金額が前年比23%増の4兆47億円を記録し
た<図1>。好業績により得た資金の一部が株主に還元された格好だが、資金の行き先はそ
れだけではない。今回は、企業を巡る資金の流れに注目する。
まず、足元の業績を確認しよう。14年10-12月期の法人企業統計では、全産業(金融機関を
除く)の経常利益が前年比11.6%増の18兆651億円となり、比較できる1954年以降で過去
最高を記録した<図2>。フローで見た資金は潤沢と言える。
高垣 勝彦
EY総合研究所株式会社
未来経営研究部
エコノミスト
図1 主要企業の自己株式取得金額の推移
図2 全産業(金融機関を除く)の経常利益の推移
(季調値)
(兆円)
(兆円)
5
20
18
<専門分野>
► 経済・金融市場分析・解説
► 資本市場リレーションシップ
► 産業組織・ガバナンス
►
移転価格分析・コンサル
ティング
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2
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2012年度
2013年度
4-6月期
1.62
12
10
8
6
4
2
7-9月期
2014年度
10-12月期
出典:QUICKよりEY総合研究所作成
1-3月期
0
1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015
出典:法人企業統計よりEY総合研究所作成
海外M&Aも過去最高を記録
次に、企業の資金をストックで見てみよう。直近の日本企業(金融法人除く)の現金・預金残
高は243兆円と過去最高を記録した。リーマン・ショック以降、有事に備え内部留保を積み
上げてきた結果だ<図3>。企業の資金事情はフロー/ストックともに極めて潤沢と言える。
この資金の行き先として注目されるのが海外でのM&A(合併/買収)だ。金額が比較可能
な85年以来、1-3月期として過去最大の352億ドル(約4兆円)に達している<図4>。円
安は海外投資には逆風だが、日本企業のM&A投資の意欲がそれを上回っていると言える。
一方、国内に目を向けると、M&Aの金額は99年、05年をピークに減少が続いている<図
5>。また、国内の設備投資は底を打った感はあるものの、リーマン・ショック前の水準には
ほど遠く、90年代をピークに長期的な減少傾向を脱し切れていない<図6>。円安を受け
て生産拠点の国内回帰の動きも散見されるが、全体を押し上げるには至っていないと言え
る。 縮小する国内市場での設備・M&A投資を控える一方、成長が見込まれる海外市場へ
の進出を狙ったM&A投資に資金を投入し、それ以外は自己株式取得により株主に還元す
る、という構図が浮かび上がる。
図3 非金融法人企業の現金・預金金額の推移
(兆円)
250
240
230
220
210
200
190
180
170
160
150
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
出典:日本銀行よりEY総合研究所作成
図4 日本企業の海外M&A金額の推移
(円)
(百万ドル)
90,000
140
80,000
130
70,000
120
60,000
110
50,000
10-12月
7-9月
100
4-6月
90
1-3月
20,000
80
年合計
10,000
70
ドル円(右軸)
0
60
40,000
30,000
出典:Thomson ReutersよりEY総合研究所作成
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シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 (速報)vol.2-1
持続的な企業価値向上のための戦略
昨年公表された日本版スチュワードシップ・コードを受け、企業と機関投資家の対話が進ん
でいる。外国人投資家の日本株保有割合は約3割に達しており、日本企業の資金効率に
対する視線は厳しくなる一方だ。上述した構図の背景にこのような動きがあることは明らか
だろう。
経済協力開発機構(OECD)の統計によると2013年の日本の生産性レベルはOECD34カ
国中18位に止まっている。一方で現在の日本企業を取り巻く環境は、円安で海外事業に
よる利益が増加、原油安で原材料やエネルギーコストが低減され、金融緩和により低金利
が続いている。このような好環境下において、長期的な競争力強化に打って出ない手はな
い。アベノミクスのもと、こうした日本企業の積極的な姿勢を評価するかのように、株式市
場では、2月下旬から3月下旬までの4週間の海外投資家のネットポジションが約9,000億
円の買い越しとなり、日経平均は15年ぶりの高値を更新した。
図5 日本企業の国内M&A金額の推移
(百万ドル)
200,000
180,000
160,000
140,000
10-12月
120,000
7-9月
100,000
4-6月
80,000
1-3月
60,000
年合計
40,000
20,000
0
1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015
出典:Thomson ReutersよりEY総合研究所作成
図6 国内企業の設備投資金額の推移(季調値)
(兆円)
16
15
14
13
12
11
10
9
8
7
6
1985
1990
1995
2000
2005
2010
2015
出典:法人企業統計よりEY総合研究所作成
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シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 (速報)vol.2-1
持続的な企業価値向上のための戦略(続)
しかし、重要なのは継続と結果である。これらの投資によって、OECD34カ国中18位と低
迷している生産性や競争力を高めることができるかが、日本企業がさらなる高みを目指す
ためには重要であると考える。生産性が高まらなければ、株主還元や設備投資の源泉とな
る利益は先細り、持続的な企業価値向上は望めない。その上でも、過去の結果から得られ
た余剰資金を活用した自己株式取得などの財務戦略に加え、競争力を高めるための戦略
的M&Aや業界再編、研究開発などの積極的な投資戦略にも注目が集まるだろう。
EY総合研究所では、企業が資本市場との関係を「面」で構築するためのご支援するための
サービス・メニューをご用意しています。弊社担当者あるいは表紙の”Contact”までお問い合
わせください。
<サービス・メニューの例>
• コーポレートガバナンス強化
• IR戦略の策定・実行
• 被買収リスク対応
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