地元は大きく 訃報の扱い

地元は大きく 訃報の扱い
■新編集講座 ウェブ版
第26号
2015/4/15
毎日新聞大阪本社 副代表(元編集制作センター室長)
三宅 直人
上方落語の大御所で人間国宝の桂米朝さんが 3 月 19 日、89 歳で亡くなりました。新聞各紙は 1 面や社会面に追悼
の記事を掲載しましたが、地元の大阪本社発行紙面は、東京本社版より大きな扱いになりました。地元の文化人を
大切にして詳しく報道する傾向は、東京本社でも西部本社でもありますし、ライバルの他紙の紙面でも見られます。
■ 米朝師匠、大阪はトップ
右図は 3 月 20 日朝刊です。一目瞭然、大阪紙面はトップで掲
載していますが、東京本社版は2番手です。掲載は省略しますが、
西部本社版紙面では、東京よりもう一回り小さな扱いでした。
その下に掲載した社会
■ 新幹線がつなぐ二つの紙面
先日、仕事でお会いした方に聞いたので
すが、出張で東京に泊まった帰り、東京駅で
朝刊を買ったところ、米朝さんの訃報は1面
2番手でした。それが、大阪に戻って会社で
新聞を見ると、同じ題字なのに、こちらは米
朝さんがトップになっていました。「やっぱり
大阪の新聞やなあ」というのがご感想です。
面 も大阪と 東京で 扱いが
違います。大阪紙面はトッ
プ で大きく 米朝さ んの記
事を掲載し、(掲載は省き
ましたが)隣の第2社会面
に まで関連 記事が はみ出
していますが、東京紙面は、
社会面も2番手です。
ちなみに朝日も読売も、大阪紙面は「1面トップ+社会面と第
2社会面見開き」、東京紙面は「1面2番手+第2社会面」と、
図ったように同じ扱いでした。ライバル紙と扱いを相談している
わけではないのですが、編集者の気持ちは共通しているようです。
■ 梅棹忠夫さんも東西で違い
米朝さんの扱いの違いを見て、思い出したのが文化人類学者、
梅棹忠夫さんの訃報です(2010 年 7 月 6 日夕刊)
。
「文明の生態史観」などの独創的な著作で知られ、日本の民族
学・文化人類学研究をリードした「知の巨人」。京大人文科学研
究所(京都市)の教授や国立民族学博物館(大阪府吹田市)の館
長を歴任し、地元関西で大きな影響力を持った方でした。それだ
けに、大阪紙面の1面トップ扱いは当然と思います。
社会面に掲載の関連記事も、大阪紙面は「生涯『知の探検家』」
「民族学 常識破る」の大見出しで、堂々のトップ扱い。他方、
東京本社版の社会面は、
「自由な発想で業績」の冷静な(?)見出
しで、2番手の扱い。扱いの大きさだけでなく、見出し表現でも
大阪紙面に熱気があります。梅棹さんへの思いを感じるのです。
米
朝
さ
ん
の
訃
報
。
上
が
大
阪
紙
面
、
下
が
東
京
紙
面
。
米
朝
さ
ん
の
社
会
面
関
連
記
事
。
上
が
大
阪
紙
面
、
下
が
東
京
紙
面
。
梅
棹
さ
ん
の
訃
報
。
上
が
大
阪
紙
面
、
下
が
東
京
紙
面
。
■ 談志師匠では逆転現象
地元文化人への熱い思いは、大阪本社の専売特許ではありませ
ん。大阪が上方落語なら、東京は江戸落語。名手、立川談志師匠
が亡くなった時は、米朝師匠の時と逆に、東京紙面の方が大きい
扱いになりました。
右図は 2011 年 11 月 24 日の朝刊です。核燃料再処理をめぐる
大きなニュースがあったせいか、東京本社紙面での談志さんの訃
報は、トップでこそありませんが、それでも2番手の堂々たる扱
いです。一方の大阪本社版は、1面には掲載しているものの、2
番手ではなく、紙面中央、ややおとなしい扱いです。
社 会面 の関 連記
談
志
さ
ん
の
訃
報
。
上
が
東
京
紙
面
、
下
が
大
阪
紙
面
。
事でも、東京と大阪
の差が見られます。
いずれも2番手の
扱いという点では
共通していますが、
大阪紙面が通常の
■
円生とパンダが死んだ日
縦長見出しなのに
江戸落語の名人と呼ばれた噺家(はなしか)、六代
対し、東京紙面は横
目三遊亭円生(えんしょう)師匠と、1972 年の日中国
長の大きな見出し
交回復の際、「友好のシンボル」として中国から贈られ
で報じ、トップに準
たジャイアントパンダのメス「ランラン」。両者がともに
じた扱い。「戦後落
他界した日、ランランは 1 面に訃報が載り、関連記事
語の風雲児」の訃報
も社会面トップになったのに、円生の死は社会面2番
を、少しでも大きく
手でした(1979 年 9 月 4 日朝刊東京紙面、上図)。
扱いたいという、編
この扱いをめぐる騒動は、本連載 13 号から 15 号で
「円生とパンダが死んだ日」と題し、お伝えしました。
集者の熱い思いが
伝わってきます。
■ 九州では「健さん命」
大阪本社、東京本社の「地元愛」を取り上げてきたので、結び
に、西部本社(九州・山口・島根の一部で発行)の例をご紹介す
ることにしましょう。
右図は、昨年 11 月 18 日の夕刊、ご存じ国民的大スター、高倉
健さんの訃報が 1 面に掲載されています。
東京と大阪の紙面は、写真の掲載位置が違うものの、雰囲気は
そっくりです。これに対し西部本社紙面は、メインの見出しを横
長の大型にし、写真も出演映画の名場面集にする凝りようです。
高倉さんは福岡県中間市出身。西部本社のある北九州市のすぐ
お隣です。地元が生んだ不世出のスターの死を悼む気持ちが、ひ
しひしと伝わってくるようです。
発行本社ごとに編集者の思いや息遣いが伝わってくる。それが、
インターネットの速報とは一味違った、紙の新聞の魅力なのです。
談
志
さ
ん
の
社
会
面
関
連
記
事
。
上
が
東
京
紙
面
、
下
が
大
阪
紙
面
。
高
倉
健
さ
ん
の
訃
報
。
上
か
ら
、
東
京
紙
面
、
大
阪
紙
面
、
西
部
紙
面
。