1. Aiから死後画像学への展開

シーン別
画像診断の
いま
Scene
Vol. 7
オートプシー・イメージング(Ai)第四弾:黎明期から普及期に向けてさらなる展開
Ⅳ 医学教育におけるオートプシー・イメージング(Ai)の取り組み
1.Ai から死後画像学への展開
稲井 邦博* 1 , 5 / 法木 左近* 2 , 5 / 島田 一郎* 3 , 5 / 木村 浩彦* 4 , 5
西島 昭彦* 5 / 木戸 尚治* 6 / 内木 宏延* 1 , 5
* 1 福井大学医学部病因病態医学講座分子病理学領域 * 2 福井大学医学部病因病態医学講座腫瘍病理学領域
* 3 福井大学医学部国際社会医学講座法医学・人類遺伝学領域
* 4 福井大学医学部病態解析医学講座放射線医学領域
* 5 福井大学医学部オートプシー・イメージングセンター * 6 山口大学大学院医学系研究科応用医工学系学域
オートプシー・イメージング(Autopsy
に陥ってしまう。これは,生前実施され
imaging:Ai)が,死因究明に一定の有効
たマクロ解剖の代表である画像診断と,
性があると認知されてから 10 年余りを経
死後にミクロ解剖である病理診断を混在
た。時を同じくして,ヨーロッパ諸国やオー
させることによるものと,同じ病理医の筆
“死後画像学”への展開を考えるため
ストラリアからも,V i r t o p s y,v i r t u a l
者は想像する。
には,これまでの Ai 研究を確認する必
autopsy,postmortem imaging などの呼
近年,Ai は法医学や救急医療現場で盛
要がある。全体の傾向を俯瞰するには,
称で死因究明に関する論文が発表されて
んに実施されているが,死因究明 2 法成
Ai 学会学術総会の発表内容を確認する
Ai 研究のトレンド
いる。そもそも本邦の Ai は,一人の病理
立後は特に顕著な伸びを示している。こ
のが役立つ。図 1 は,Ai 学会学術総会
診断医が,生前 CT などの画像診断で評
の機をとらえて,オートプシー ・ イメージ
での演題数,発表内容,発表者の基本
価されていた腫瘍に対する放射線治療効
ング学会(Ai 学会)は“死因究明”を前面
領域を示したものである。第 10 回大会
果を患者の死後病理解剖で客観的に解析
に押し出し普及を推進している。実際,
の発表数が突出しているが,それを除い
する困難さから,死後にも同じモダリティ
司法解剖や来院時心肺停止患者の死体検
ても回を重ねるごとにおおむね演題数は
を活用して評価する着想を得て始めたも
案はマクロ解剖そのものであり,この分野
増えている。Ai と聞くと“死因究明”を
に Ai が活用されることは合目的である。
イメージされる方が多いが,死因に関す
学療法・放射線療法の治療効果を,摘出
ただし,死因究明率や解析精度を総合的
る報告は一貫して全体の 1 / 3 程度にと
標本の病理組織検査で判定することは珍
に鑑みると,Ai が剖検に及ぶことは不可
どまっている。第 6 〜 10 回にかけては
しくない。しかし,死亡症例の場合は,
能であり,
“死因究明”のみにこだわって
Ai 導入や運営,また,Ai を活用した医
放射線照射により壊死に陥った部分だけ
いては,Ai は解剖の補助という立場から
療安全に関する演題が目立った。当時,
に限って“治療効果あり”と判定しように
永遠に脱却できないであろう。そこで本稿
Ai 実施機関が急激に増加したことと関
も,患者は生物学的に治療抵抗性の進行
では,改めて Ai の学問的位置づけを整理
がんに罹患して死亡しているので,その評
し,Ai を活用した“死後画像学”と言うべ
価の妥当性に疑義が生じるというジレンマ
き新たな学問体系を提言してみたい。
のである
。実は,術前に施行された化
1),2)
表 1 死因究明実施組織が究明対象とする
死因と解析精度
死因究
明組織
40
35
30
25
20
15
10
5
0
発表者の基本領域
演題数
演題数
40
発表内容
35
その他
30
特別講演
25
教育・学会
医療安全
20
診断理論
15
施設・地域
10
死因・解剖
5
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12(回)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12(回)
図 1 Ai 学会学術総会における発表演題数と発表内容の年次推移
発表内容は,演題名と抄録内容を検討して分類した。
〈0913-8919/15/¥300/ 論文 /JCOPY〉
その他
看護師
外科医
内科医
医療安全
放射線技師
救急医
法医
病理医
放射線医
対象
実施数
データ
対象とする死因
ベース
データ
介在 直接
原死因
ソース
死因 死因
精度
わが国
の人口
厚生
全死亡
労働省
130 万人 動態
130 万人
WHO
死亡
◎
病理
学会
◎
診断書
剖検輯報
病死
約
110 万人 1 . 5 万人 剖検
対象外 対象外
◎
報告書
なし
法医
異状死
約 2 万人 死体検 限定的 限定的
学会
20 万人
案書
鑑定書
なし
全死亡 1〜2万人
Ai学会
Ai 報告書 限定的 限定的
130 万人 *3
Ai 鑑定書
◎
◎
◎
80 〜
85%*1
約 95%
約 80%
*2
30%
前後*4
* 1:入院の契機となった原死因と病理解剖における原死因の比較研究
(参考文献 4)からの推定)
* 2:福井大学医学部法医学教室の成績からの推定
* 3:警察による四半期の Ai 件数 2000 件からの推定
* 4:Ai 学会報告や発表論文からの推定
INNERVISION (30・1) 2015 47