大量・迅速・正確なDM業務を独自の工夫を取り入れた機器で克服 家族

インタビュー
大量・迅速・正確なDM業務を独自の工夫を取り入れた機器で克服
家族経営の持ち味を活かし創業者と二人三脚で事業を発展させる
福岡 道徳 株式会社フクシン代表取締役社長
の後、集中在庫管理とピッキング(注文や出
荷指示に対して品物を在庫から選び出すこ
と)
・梱包・発送やラッピングの設備も整え
て業容の拡大を図る。
「家族経営の持ち味を生かした経営を模索
しつつも、単なる仲良し集団ではなく、常に
チャレンジ精神を持って発送代行業務のスペ
シャリスト集団を目指したい」と、福岡社長
は語る。
ふくおか
みちのり
福岡 道徳 氏
1964年 埼玉県新座市出身
83年 高等学校卒業
85年 埼玉自動車大学校(旧埼玉工業専
門学校)卒業
同年 日産プリンス東京(旧東京日産
モーター)入社
母が宛名書きの発送代行業からスタート
子供が継げる事業とするために会社を設立
― 創業者は現会長様ですが、どんなきっか
けで発送代行業を始められたのでしょうか。
母である会長は私が幼少のころに編み機の
セールスレディとして働き始め、小学校入学
のころから中学生のころまで手芸店を営んで
86年 株式会社フクシン入社
いました。お店では編み物教室を開き、教室
2004年 同社代表取締役社長に就任
の卒業生数が日本でトップになったり、お店
の合間に化粧品のセールスをしたりと、母の
株式会社フクシンは、朝霞市に本社を置き
ダイレクトメールの企画・制作・管理発送業
務をコアとする会社である。
創業者の福岡初枝氏(現会長、社長の母)
は発送代行業に将来性を感じ、1975年に自
宅で宛名書き代行業をスタートする。
1986年同社を設立、同時に入社した現社
長道徳氏が整備士の経験で培った発想で工夫
を凝らした自動封入封緘機やラベリングマシ
ンを積極的に開発・導入する。
1980年代後半からのバブル期には、大量、
迅速、正確なDM発送業者として顧客の信頼
を獲得、大手企業との直接取引も始まる。そ
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働く姿をずっと見て育ち、将来的には助けて
あげたいという思いが強くありました。
しかし、手芸などの仕事にはまったく関心
がなく、自動車が大好きな子供だった私の将
来の夢はカーレーサーになることでした。成
長して夢の実現が難しいことを知り、それな
らば自動車の整備士になろうと専門学校で国
家資格を取得し、自動車会社の技術職として
就職しました。
会長と発送代行業との出合いは、知人から
「デパートの通信販売の宛名書きをやってみ
ないか」
と声を掛けられたのがきっかけです。
お店が暇なとき自分で書いたり、外に発注し
て取りまとめればいいと引き受け、この仕事
を続けるうちに、これからは通信販売が盛ん
になりダイレクトメール(DM)の仕事は増
えるという予感と、子供に継がせることがで
きる事業だと思ったようです。1975年に手
芸店を閉じる決断をして、自宅で宛名書きの
発送代行業を本格的に始めました。それが創
業となります。
会長は面倒見がよく、慕って付いて来てく
れる人がたくさんいたので多くの仕事を請け
ることができ、事務所を借りて会社を設立す
2004年 道徳社長就任パーティー時の初枝会長(中央)と
姉の川口専務の三氏
ることを決めました。それを聞いた私は「事
業としてやるならば手伝う」とそれまで1年
を分担して営んでいました。1980年代後半
半働いていた会社を辞めて入社、会長が47
にバブルがやってきて、どの業界も勢いがあ
歳で私が22歳の時のことです。
りましたが、DM業界も最高の盛り上がりを
会長と私がビジネスパートナーとしてス
見せていました。それまでは封入される書類
タートし、数年後にプログラマーの姉(現専
は簡単なカタログだったものが、立派な冊子
務)も入社して家族三人で力を合わせて築い
などになり、封筒は黒くて光沢のあるものが
ていきました。
使われるなど、DMにいくらでもお金をかけ
る時代が来たのです。中でも宝石店のDM発
バブル期に機械化を図り大量処理が可能に
大手印刷会社などと直接取引もスタート
― 会社設立後、事業を順調に拡大されていま
すが、そのポイントはどこにあるのでしょうか。
送は群を抜いていました。それまで高級で高
価な宝石がバブル経済を背景にファッション
として大衆化したと言われますが、それを仕
掛けた当時最大手の宝石店のコンペに参加
し、
「受けた仕事は、夜も寝ないでもやりま
本格的に発送代行業の世界に入って知った
す」とアピールして受注に成功しました。
のは、大量発送が可能となる発送用機械など
その仕事をこなすために、1993年に現在
がなければお客様から相手にされないという
本社の所在地に朝霞センターを開設してイン
ことでした。そこで、1988年にまだそれほ
サーター2台とラベリングマシン2台を導入
ど普及していなかった自動封入封緘機(DM
しました。毎日封書30万通、葉書100万枚
用の封筒などにカタログ類を自動的に挿入し
を発送する仕事が2年間続き、設備機器の充
封緘する機械のこと。「インサーター」とい
実と24時間作業体制が確立し、
「大量で短期
う。
)を、
1989年にラベリングマシン(住所・
間」の事業モデルができました。忙しいとき
宛名などを印刷しはがきや封書に貼る機械の
は土日も夜もなく集中して働きました。
こと。
)を1台ずつ導入し、機械化を図りま
また、宝石店の仕事は取引先の拡大にも繋
した。
がりました。宝石店の印刷物を運んできたの
会長が事務や人間関係などソフト面を、私
が、同じ市内にある大手印刷会社で、営業に
が整備士の資格を活かして機械などハード面
行こうと考えていた会社だったからです。ど
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れた用紙を必要枚数印刷し、裁断した時に上
から下まで重なっているように設定させて、
切断された札を上から取っていくだけの方法
を独自に開発しました。
このように一番速くて正確に作業できる工
夫を常に考えて行動に移す、このことは大量
作業の短期間化・効率化には大事なことです。
独自の最新鋭設備機器で量産体制を確立
何重もの検査体制で正確さと安全性を確保
ハガキ・定形・定形外の封筒に対応できるラベリングマシン
の部署に行ったらよいか迷っていたのです
が、毎日印刷物を運んでくるうちに信頼関係
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― 大量なDMを「安く、早く、正確」に発
送するために、どんな機械が使われているの
でしょうか。
ラベリングマシン、インサーター、メール
が出来上がり、商業印刷部門の発送代行業務
ロボなどですが、多様化したニーズに対応す
を直接請け負うようになったのです。
るためにセンサーや監視装置などが付いてい
― 「大量かつ短期間の処理」は機械導入だ
ます。
けで可能だったのですか。
具体的には、
「ハガキ・定形・定形外など
単に機械を導入するだけではだめです。簡
の様々な封筒に対応できるラベリングマシ
単で早く、そして正確で安全に作業するには
ン」
、
「間違った枚数のカタログ類が封入され
どうしたらよいかを常に考えて工夫していま
ていることを感知する厚みセンサーのついた
す。いかに無駄な労力を使わずに効率よく仕
定形封筒対応のインサーター」
、
「ログ監視装
事をするか、それにより余った時間と労力を
置のある定形・定形外封筒対応の高速イン
他のところに使うことができます。
サ ー タ ー」
、
「2枚取り検知ミス防止セン
例えば、印刷物の封入や宛名ラベルを貼る
サー、OCR窓部検査システム、トータル厚
などの処理をして単に郵便物を郵便局に持っ
み検査装置がついた和封筒自動封入封緘機の
て行くまでが当社の仕事ですが、郵便局に出
メールロボ」があります。
す際に郵便番号別に郵便番号の札をつけた束
こうした最新鋭機器が導入された処理セン
にすると切手代が減額されます。これはお客
ターでは、定型サイズのメーリングシステム
様にとっては大変な節約になるわけなので、
を使用すると、1日100万通の宛名データを
郵便番号別に仕分ける作業も当社で行うよう
超高速で正確にはがきや封筒にラベリングが
になりました。最初は大変な手間をかけて札
可能ですし、インサーターによる封入は1日
を1枚ずつ手書きして貼っていました。次
30万通を可能にしています。同様に定型外
に、データ入力して同じ郵便番号を印刷し、
サイズのメーリングシステムでは定型外和封
人手で切って貼る方法も採用しましたが、数
筒封入機・メールロボを4台保有しており、
が多いのであまり効率的ではありません。そ
1日15万通の高速処理も可能にしています。
こで、1ページに複数の郵便番号札が印刷さ
特に、機械メーカーと共同で開発した13
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ラベル全てを記録して、クレームがあった時
にすぐ対応できるようになっています。以前
は宛名ラベルを貼って出すだけで済んでいま
したが、今は食べ物と同じようにDMのト
レーサビリティが担保されなければなりませ
ん。DMを見ると宛名ラベルに住所、名前の
ほかに数字やローマ字が印刷されているかと
思いますが、それでDMの発送物の履歴がわ
かるようになっています。
定形・定形外の封筒に対応できる高速インサーター
― 個人情報保護という観点で、どのような
点まで同時封入できる独自のメールロボは業
お客様からお預かりするデータは外部と遮
界最多の封入数を誇っています。当社に設置
断されたクローズド状態のファイルサーバー
されている機械の多くは作業の効率化や短期
で管理されています。サーバー内ではすべて
間化のための独自の工夫が取り入れられてい
の情報を暗号化しています。USBなどのリ
取り組みをされているのでしょうか。
ます。それらの機械を活用した封入封
緘システムなどが当社の特徴・差別化
の源泉となっています。
複雑で特殊な仕事は当然当社に発注
されてきます。
― 機器にセンサーや監視装置がつい
ているのは、
「正確に」というために
必要なわけですね。
もし宛名台紙が二枚重なって封入さ
れたら、別の人に発送物が届くことに
なって個人情報が漏れてしまいます。
それを防ぐためにインサーターに厚み
センサーを連動させ、百分の一ミリの
厚さまで感知することで封入枚数に間
違いがないかをチェックしています。
また、高速オフラインメール検査装
置では、インサーターで処理されたも
のだけでなく、手封入も含め様々な発
送物の発送前最終検査を行います。郵
便番号、特定文字、連続番号などを検
査するだけでなく、発送物一つひとつ
のイメージ画像を保存するなど多彩な
処理機能を持つCCDカメラで、宛名
カタログ類を13点まで挿入できる和封筒自動封入・封緘メールロボ
(トータル厚みチェッカー装備付)
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発送先の個別属性別にカタログ類を封入できるラッピングシステム
ムーバブルメディアを使用制限するととも
新たな分野は集中在庫管理と梱包・発送
笑うゆとりのある雰囲気の良い職場に
に、万が一データが持ち出された場合でも、
データの暗号化によって第三者に情報を漏ら
さない対策を取っています。「持ち出させな
― 今後の事業展開についてはどのようにお
い」
、
「持ち出しても漏洩させない」をポリ
考えでしょうか。
シーにしています。
新たな分野として、集中在庫管理とピッキ
― 2001年以降、ラッピングマシンを続けて
ング・梱包・発送作業に取り組んでいます。
導入していますが、これはどんな機械ですか。
ピッキング・梱包・発送に関しては、大手
DMのほかに当社の事業の柱となっている
の通販会社がいかに早く届けるかなどいろい
ものにラッピング業務があります。通販カタ
ろな工夫をしていますが、当社はそうした大
ログや会報誌などが透けたポリプロ
ピレンフィルム(PPフィルム)に入っ
て送られてくるのをご存知だと思い
集中在庫管理 − 受注梱包 − 発送サービス
ご要望
ます。ラッピングの利点は、フィル
ム素材なので中身が見えて開封率が
アップすると同時に完全包装なので
フクシン
カスタマイズ
お客様
発送情報
在庫管理
システム
雨や汚れの心配がありません。
2003年に本社に大規模ラッピング
報告資料
在庫リスト
ピッキングリスト
出荷伝票
システムを設置し、手間のかかる物
流工程も徹底的にオートメーション
化することで作業時間の短縮とコス
トダウンを実現しています。
発 送
ピッキング
梱 包
●在庫、発送管理はすべてバーコード、番地で管理。当社オリジナル、バーコード照合
管理システムを使用し確実な発送管理ができます。
●専用管理倉庫保有、定温庫対応可能。重要なものは当社セキュリティ区画内に保管
可能。
新たな業務分野として取り組んでいるお客様の
替りに集中在庫管理とピッキング・梱包・発送
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商品・資材
インタビュー
また、紙ではないダイレクトコ
ミュニケーションということも視野
に入れています。これにはホーム
ページ作成やWEB管理からシステ
ム開発・コンサルタント業務までの
一括管理サービスなどが入ります
が、お客様に求められるサービスを
提供するだけでなく、こちらから創
意工夫のある企画を提案できるよう
にIT投資を充実させ、システム要員
の強化を図り、新しいDM形態を模
索していきたいと思っています。
― 従業員に対して期待するのはど
んなことですか。
自分の一挙手一投足がその先どん
な影響を与えるかを想像して行動す
るように、繰り返し言っています。
このやり方で大丈夫なのか、ミスが
起こる可能性がないのか、その結果
を想像してから取り組むようにと。
何十万通という発送を一挙にやるの
インサーターで処理されたものだけでなく、手封入も含め様々
な発送物の発送前最終検査高速オフラインメール検査装置
で、データを加工する段階で名前と
住所が一段ずれてラベルを作成する
と、郵便物が配達されずに全部戻っ
掛かりなものではなくニッチな分野に特化
てしまうことにもなります。日付が特定され
し、お客様のニーズに沿って商品を管理して
たフェアの案内状ならばリカバリーできず、多
います。
額な損害賠償が発生することになります。
例えば、お預かりする商品、パンフレット
しかし、そうしたことを想定したうえで従
等の特性、入出庫の状況などリアルタイムに
業員には仕事をしていただいています。ただ
把握し、不足在庫を的確に補充、また不要在
し、
「何かあったら責任は全部社長がとる。
庫の廃棄を考える際の資料の提供までを行っ
だから安心してやりなさい。
」とも言ってい
ています。そして、必要に応じてピッキング・
ます。その辺の信頼関係は構築できていると
梱包・発送を行います。
思っています。従業員と共に働き、何か悩ん
具体的には、アイドルのファンクラブ会員
でいることはないだろうかと顔色や声にいつ
向けグッズなどの在庫管理、梱包・発送です。
も気を配っています。そうしたことがミスを
在庫数はそう多くはありませんがファンがい
防ぐためにも重要なことです。
る限り確実に需要があり、安定しています。
また、
「苦しい時こそ笑え」とも言ってい
こうした分野にも力を入れています。
ます。紙の種類は何千種類もあって、硬い紙
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事業の拡大は経営者として当然の目標です
が、企業は従業員やお客様、金融機関など会
社を取り巻くすべての人の想いによって生か
され育てられて行くものです。ですから人を
大切にし、家族経営の持ち味を生かした安定
した事業のあり方を追求しています。とは
いっても単なる仲良し集団ということではあ
りません。仕事は真剣に、そして常にチャレ
毎日行われる全体朝礼の様子
ンジ精神を持って未来を開拓していけたらと
思います。
もあれば薄い紙もある。それを印刷の度に
また、大手のお客様のCSR(企業の社会的
セッティングするわけですが、紙によっては
責任)活動のガイドラインに従って、
当社も「品
機械の調子が悪くなってイライラしてきます。
質の維持・向上、適正価格、安定供給、製品
すると、セッティングがますます雑になり、
の安全、情報管理など」も協力しています。
機械の調子はまるでそれを嘲笑うかのように
― 最後にご趣味は何ですか。
さらに悪くなります。私もずっと経験してき
自動車は今でも好きですが、仕事が忙しく
ていることなので現場の苦しみはよくわかり
て乗る時間がなかなかありません。最近は健
ます。機械だから動いて当たり前と思うの
康のことを考えて自宅から会社までの片道5
は、違います。機械と対話しながら、機械と
キロを、今後の会社のありかたなどを考えな
わかり合わないとだめです。イライラしてい
がら歩いています。
いことはありません、周りの雰囲気も悪くな
― 創業から今に至るまでのお話は、まさに
ります。だから、「苦しいときこそ笑え」と。
もちろん仕事は真剣にやりますが、ちょっと
した瞬間に笑いがあるような雰囲気が大切だ
と思うのです。
DMの歴史そのもの。大量に早く安く、しか
も正確に、それを実現するのは最新鋭機器だ
けでなく従業員と密に接する職場の雰囲気が
大切であると知りました。
本日はありがとうございました。
創業者の想いを原点に、超えることが目標
チャレンジ精神を持って未来を開拓
― 経営理念についてお聞かせください。
「真正経営、信用第一、新起創造、親切協和、
心身健康」
。この五訓が会長の創業精神で、
創 業 1975年
設 立 1986年
資 本 金 3,000万円
売 上 高 12億7,000万円(2013年7月期)
入社した時から壁に貼ってありました。社名
従 業 員 35名(2013年7月期)
も姓のフクと五訓のシンを組み合わせてフク
本 社 〒351-0024
シンです。尊敬する人物は会長ですが、それ
を超えるのが私の役割で、そうなるように
日々努力を重ねて行かなければならないと
思っています。
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株式会社フクシン会社概要
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埼玉県朝霞市泉水3-8-6
電 話 048-462-7100
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取 引 店 朝霞支店