平成27年歌会始の御製・御歌・詠進歌

製
本
平成 二十七年歌 会始御製 御歌及び詠 進歌
御
かた
ふみ
皇 后 陛下 御 歌
いくど
夕やみのせまる田に入り稔りたる稲の根本に鎌をあてがふ
こ
来し 方 に本とふ 文 の林ありてその下陰に幾度いこひし
山あひの紅葉深まる学び舎に本読み聞かす声はさやけし
ふげつ
恩師より贈られし本ひもとけば若き学びの日々のなつかし
とし ひさ
年 久 しく風月の移ろひ見続けし一本の巨樹に思ひ巡らす
皇太子殿下
皇太子妃殿下
文仁親王殿下
文仁親王妃紀子殿下
日系の若人かたりぬ日本へのあつき思ひと移民の暮らしを
眞子 内 親 王 殿 下
佳子内親王殿下
呼びかける声に気づかず一心に本を読みたる幼きわが日
弟に本読み聞かせゐたる夜は旅する母を思ひてねむる
ペー ジ
正仁親王妃 華子殿下
新しき本の 頁 をめくりつついづく迄読まむと時は過ぎゆく
彬子女王殿下
寬 仁 親王 妃 信 子 殿 下
松山に集ひし多くの若人の抱へる本は夢のあかしへ
数多ある考古学の本に囲まれて積み重なりし年月思ふ
憲 仁 親王 妃 久 子 殿 下
しを り
承子女王殿下
来客の知らせ来たりてゆつくりと読みさしの本に 栞 入れたり
にほん
霧立ちて紅葉の燃ゆる大池に鳥の音響く日本の秋は
御
かた
製
ます。)
ふみ
皇 后陛 下御 歌
いくど
( なお、一部は根 付きの稲として、神宮の 神嘗 祭にお供えになり
みにな っ たも の。
この御製は、秋の夕 闇が迫る中、稲刈りをなさっている時のことをお詠
何日かに分けてお田植えになり、秋には同様にして稲を刈り取られます。
天 皇 陛 下 は 、 毎 年 、 春 に は 種 籾を お ま き に な り 、 初 夏 に は二 百 株 を
夕やみのせまる田に入り稔りたる稲の根本に鎌をあてがふ
こ
来し 方 に本とふ 文 の林ありてその下陰に幾度いこひし
丁度林の木陰で憩うように、過去幾度となく本によって安らぎ
を得 てこられてきたこと を思い起こされ、本に対 する 親しみと感
謝の 気持 ちを お詠 みに な った もの 。
皇太子殿下
山あひの紅葉深まる学び舎に本読み聞かす声はさやけし
皇太 子 殿下は 、 昨年 十月 、第 三十 八回 全 国育 樹祭 に御 臨席 に
な るた め、山 形 県に 行啓 に なりま した 。 この お歌 は、 その 折、
山 形県 最上郡 金 山町 の金 山 町立金 山小 学 校を 訪れ られ 、地 域の
読み聞 かせボランティア のおはなしサークル“き つね のボタン”
が 、小 学生た ち に絵 本( 泣 いた赤 鬼) を 読み 聞か せて いる 様子
を 御覧 になっ た 御印 象を お 詠みに なっ た もの です 。
皇太子妃殿下
恩師より贈られし本ひもとけば若き学びの日々のなつかし
皇太子妃殿下には、英国オックスフォード大学大学院生時代の
恩師か ら御著書を戴かれた 折に 、その御本を少しずつお 読みにな
り ながら 、オ ックスフォードでの学生 生活を懐かしく思い出され
ま した 。そ のお 気 持ち をお 詠み にな った もの です 。
とし ひさ
ふげつ
文仁親王殿下
年 久 しく風月の移ろひ見続けし一本の巨樹に思ひ巡らす
秋篠宮 殿下は、昨年 十月にグア テマラ国 とメキシコ 国を訪問されまし
た。メキシコ国オアハカ市では、「トゥーレの樹」という、樹周世界一と
し てギ ネス 世界 記録に 掲載 されて い る樹齢 千数 百年の 巨樹 を見 学さ れま
した。 以前 から ご覧 になり たい と思 われ ていた 樹を 実見 されて 、あ らた
めて その 巨大さ を感 じら れる ととも に、 長い 年月 にわた って その場 所 の
移ろ いを 見て きたこ の樹 に思 いを 馳せら れた こと をお 歌にお 詠み にな り
ました。
文仁親王妃紀子殿下
日系の若人かたりぬ日本へのあつき思ひと移民の暮らしを
秋 篠 宮 妃 殿 下 は 、 昨 年 一 月 か ら 二 月 に か け て ペ ル ー 国 とア ル ゼン チ ン
国 、十月 には グアテ マラ 国と メキ シコ国 を、 秋篠 宮殿 下と共 に訪 問さ れ
ま した 。これ らの ご訪 問の際 には 、日 系の 人々に お会 いに なる 機会が お
あ りで した 。そ の折に 日系 の若い 人 たちが 、日 本を思 うあ つい 気持 ちと
移住し てき た人 々の 暮らし を語 って くれ たこと を想 い出 されな がら 、お
歌をお詠みになりました。
眞子内親王殿下
呼びかける声に気づかず一心に本を読みたる幼きわが日
眞 子 内 親 王 殿 下 は 、 お 小 さ い 頃 か ら 読 書 が 大 変 お 好 き で し た 。お 食 事
の 時間も 忘れ 、両 殿下 が呼ば れて いる こと にもお 気付 きに なら ず、夢 中
で ご本 をお読 みに なっ てい たご幼 少の 日を 思い 出され て、 お歌 にお 詠み
になりました。
佳子内親王殿下
弟に本読み聞かせゐたる夜は旅する母を思ひてねむる
佳子内 親王殿下は、 お姉様の眞 子内親王 殿下が外国 にいらっしゃる最
近 では 、秋篠 宮同 妃両 殿下が 地方 や外 国を ご訪問 の折 に、 悠仁 親王殿 下
と ご一 緒に お過 ごしに なり ます。 夜 、お休 みに なる前 の悠 仁親 王殿 下に
正仁親王妃華子殿下
ご本の 読み 聞か せを なさっ て、 秋篠 宮妃 殿下の こと を思 い出さ れる とき
のことをお歌にお詠みになりました。
ペー ジ
新しき本の 頁 をめくりつついづく迄読まむと時は過ぎゆく
寬仁親王妃信子殿下
松山に集ひし多くの若人の抱へる本は夢のあかしへ
昨年、 日本青年会 議所第六 十三回全国 大会松山大会 お成りの折、ご公
務 にお 出まし 遊 ばされ 、大 勢の方 々に 迎え 入れ ていた だき まし た情 景を
詠まれたものです。
彬子女王殿下
数多ある考古学の本に囲まれて積み重なりし年月思ふ
昨年四 月、トルコの イスタンブ ール考古 学博物館に あるトルコの考古
学 の父 と言わ れる オス マン・ ハム ディ の図 書室で ご講 演を され ました 。
そ の図 書室 にト ルコが 歩ん できた 悠 久の歴 史と 、その 古代 から 連綿 と続
く時の流れを感じられて詠まれたものです。
しをり
憲仁親王妃久子殿下
来客の知らせ来たりてゆつくりと読みさしの本に 栞 入れたり
友 人 に 薦 め ら れ た 本 が と て も 面 白 く 半 ば 夢 中 で 読 ん で いた 折 、 来 客 の
承子女王殿下
報せを受け、現実に引き戻されたくないと思いつつも静かに本を閉じる、
そのような一瞬の感情を詠まれたものです。
にほん
霧立ちて紅葉の燃ゆる大池に鳥の音響く日本の秋は
秋、 大雨が上がっ て犬の散 歩に出ると 、大池に立 ち上る真っ白な霧と
深 紅の 紅葉 との コント ラス トが とて も美し く、 また 静け さの中 に響 く鳥
の羽音や声が大変印象的で、この歌をお詠みになりました。
い き
さき
召
選
人
者
選
者
者
者
(詠進者生年月日順)
三枝昂之
弘
春日真木子
篠
緑陰に本を繰りつつわが呼吸と 幸 くあひあふ万の言の葉
よ
選
送られし古本市のカタログに一冊を選るが慣ひとなりぬ
あ す
かさ
永田和宏
音読の声が生まれる一限目明日へ遠くへ本がいざなふ
ひとよ
者
内藤
吉樂正雄
伊藤嘉啓
明
今野寿美
本棚の一段分にをさまりし一生の 量 をかなしみにけり
選
ゆふげ
選
秋の気の音なく満ちて指先に起こしては繰る本こそが本
歌
開かれて卓上にある一冊の本を囲みて夕餉のごとし
選
奈良県
若き日に和本漁りぬ京の町目方で買ひし春の店先
新潟県
愛知県
森
明美
おさがりの本を持つ子はもたぬ子に見せて戦後の授業はじまる
ふとゐ
木下瑜美子
竹垣の露地に仕立てた数本の太藺ゆらして風わたりけり
長野県
平井敬子
大雪を片寄せ片寄せ一本の道を開けたり世と繋がりぬ
千葉県
「あったよねこの本うちに」流された家の子が言ふ移動図書館
埼玉県
森中香織
古川文良
五十嵐裕治
本棚に百科事典の揃ひし日に父の戦後は不意に終はりぬ
茨城県
二人して荷解き終へた新居には同じ二冊が並ぶ本棚
神奈川県
中川真望子
雉さんのあたりで遠のく母の声いつも渡れぬ鬼のすむ島
岡山県
神奈川県
小林理央
暑い夏坂を下ればあの本のあの子みたいに君はゐるのか
作
(詠進者生年月日順)
原澤曻司
この本に全てがつまつてるわけぢやないだから私が続きを生きる
佳
東京都
林 多惠子
初買ひは「フランダースの犬」ときめ孫に道みち粗筋きかす
愛知県
八木田順峰
子ら去りし本箱に差す月あかりミヤマクワガタ図鑑に眠る
青森県
有馬徹夫
図書館の三十万分の一の本「梁塵秘抄」を選りて読みだす
鹿児島県
藤沢庄吉
コンバイン後もどりさせ一本のたふれし稲をすくひ刈り取る
長野県
手締めする一本締めの皆揃ひ小さな村の役員決まる
東京都
齋藤洋子
大橋拾子
良しの説出づれば悪しの説もでて健康本は花ざかりなり
福岡県
埼玉県
の十 六 島心離さず東京住まひ
うつ ぷる い
功
中川八枝子
青木
かたまりて静かに絵本を見る園児どんぶらこつこで身体を揺らす
本籍は島根の
埼玉県
中村悦子
水糸の二本を夫と持ち合ひて声を掛けつつ畝作りする
ふみ
京都府
江尻惠子
離れ住む父は本音をふと洩らす用件だけの 文 の終はりに
岐阜県
丸森珠実
高橋武司
矢本郁郎
箱根知子
本州を内地と呼びし若き日の津軽海峡は荒れて横たふ
兵庫県
それぞれに本一冊を入れ終へて夫婦の旅の支度整ふ
北海道
古本のしをり代りの切符には夏の日付と学割の印
京都府
木もれ日は西條八十にとどきをり糺の森の古本市に
奈良県
花谷風薫
また今日も私は本に負けるのか君の視線を奪つてやりたい
滋賀県
本の虫私がすすめて読んでゐる君が上巻私が下巻
奈良県
安部風花
周囲から頑張れといふプレッシャーだから本心隠してしまふ