4-5-1 EnerNOC 事業所向け DR・省エネコンサル

電力システムシリーズ①シナリオ・市場分析とビジネスモデル総覧
第 4 章 重要プロジェクト・事例解説
4-5-1 EnerNOC 事業所向け DR・省エネコンサル
ビジネスモデル: デマンドレスポンス(DR)アグリゲーション、アンシラリーサービス、省エネコ
ンサル、バーチャルパワープラント(VPP)
国・都市: 米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、ドイツ、英国
時期: 2001 年~
主体: 米 EnerNOC 社
事業規模: 3 億 8000 万ドル(2013 年の DR 事業売上)
参加企業: C&I(Commercial and Industrial)約 9000 社
EnerNOC 社は、デマンドレスポンス(DR:Demand Response)アグリゲーターの最大手企業である。
売上高は、2012 年は 2 億 8000 万ドル、2013 年には 3 億 8000 万ドル、2014 年には「4 億 5000 万から
4 億 6500 万」
(同社)と毎年 2~3 割の高成長を続けている。
顧客需要家は大口の C&I
同社の顧客である需要家は、商業施設や産業施設などの事業所(C&I:Commercial and Industrial)
であり、2014 年 7 月時点で約 9000 社にのぼる。これらの需要家の施設約 3 万施設に「ESS(エナーノ
ック・サイト・サーバー)
」と呼ぶ無線通信機能と制御機能を持つゲートウェイを設置。ボストンにあ
るコントロールセンター「NOC(Network Operations Center)
」から 24 時間 365 日体制でモニタリン
グし、契約に基づいて需要を自動または通知による手動で削減している(図 1)
。同社が NOC からコン
トロールできるピーク電力需要は 2 万 5000MW にのぼり、
その約 1/3 の 9000MW を DR 資源として抑制可
能である。
他社では小口の一般家庭まで契約需要家を増やす動きもあるが、同社は小口分野に広げる計画はな
い。
「C&I にフォーカスするのは、総電力需要の 2/3 を占め、ダイレクトセールスが可能で、ピーク需
要制御や省エネ効果が得やすく、契約者 1 人当たりの電力消費量が大きいなど、さまざまな面で効率
的だからだ」と同社は言う。
同社のビジネスは米国中心だが、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、ドイツ、英国など
米国以外の国にも進出している。売上高で見ると米国市場が 80%で残り 20%が米国以外からだ。
図 1 米国ボストンにあ
る NOC
(出所:EnerNoc 社)
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電力システムシリーズ①シナリオ・市場分析とビジネスモデル総覧
第 4 章 重要プロジェクト・事例解説
顧客に対するインセンティブを工夫、エネルギーサービスまで拡大
同社のビジネスモデルは、需要家からアグリゲートした需要削減分(ネガワット)を電力卸取引市
場またはユーティリティーとの相対取引によって販売して対価を得て、需要家とシェアすることだ。
売上比率を見ると、70%が卸取引市場からと大きいが、ユーティリティー会社との相対契約も 20%を
占める。残り 10%は同社の顧客需要家に対するサービス対価だという。
同社のビジネスモデルでとりわけ重要なのが、DR 資源を提供する需要家が DR に参加するインセン
ティブの提供である。C&I といっても多くは自らユーティリティー会社と契約し卸売市場に参加する
ことは難しい。このため、同社の DR プログラムに参加し、他社の DR と合わせてアグリゲーションさ
れることにより対価が得られる。単独に市場に参加できても事前に入札した容量を緊急事態発生時に
提供できなかった場合はペナルティを払う必要があるが、DR プログラムに入っておけば EnerNOC 社が
リスクを回避してくれるメリットもある。
さらに、クラウドベースでは、1 分単位で需要家のエネルギー消費データをモニタリングし、集積
していることから、それらのデータを基にして、エネルギー関連のコンサルタントを行い、省エネや
燃料費のコストダウンを達成する。同社によると、サービスのポイントは、電力やガスなどのエネル
ギーを①どう買うか、②どう使うか、③いつ買うかを判断することであり、最適な調達を通じて省エ
ネと調達費削減を行うとしている。こうしたエネルギー関連のサービスに対する対価を月単位または
年単位で需要家は EnerNOC 社に支払う。ただし、DR として受け取る対価よりは少ないので、DR 対価か
らサービス料を差し引いて対価を需要家は受け取ることになる。
事前に DR の可能性を通知
EnerNOC 社はまた、DR プログラムに無理なく参加できるように、域内の電力需給状況を把握し、事
前に需要削減の要請の可能性を通知している。各種天気予報、米テネシー大学が提供している米国送
電網の周波数マップなどの電力に直接関係する情報のほか、メディアや SNS の情報に至るまでウオッ
チして NOC に情報を集めて、総合的に需給状況を常時監視している。とりわけ需給がひっ迫して、契
約しているユーティリティーや取引所から DR 指令が来る可能性を事前に判断し、
需要家にできる限り
早めに事前通知している。
このほか、周辺サービスとして、病院やデータセンターなど BCP 対応が重要な需要家向けに域内の停
電の予測情報を通知してより迅速な計画が立てられるようにし、CO2 排出の削減や各種データの収
集・整理などの温暖化ガス排出管理サービスを行っている。
さらに同社が強調するのは、地域価値(コミュニティー・バリュー)の向上である。DR に参加する
ことで、省エネで CO2 排出量が少ないことなどをアピールする意味があるとしている。
DER まで含めた総合サービス
今後需要家には、これまでの自家発電やヒートポンプ、冷蔵庫などに加え、蓄電池や燃料電池など
の新しいエネルギー機器が増えていく可能性が高い。EnerNOC 社としては、これらの分散型エネルギ
ー資源(DER:Distributed Energy Resource)を DR と共に総合的に管理する姿を構想しており、同社
の DR ビジネスをさらに発展させると共に、
より複雑化する需要家のエネルギー管理プロセスのコンサ
ルタントサービスの可能性がさらに増すと見ている。
※本レポートの一部をサンプルとして公開中。
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