9 フーリエ変換

フーリエ変換
9
超関数の「フーリエ変換」をある種のアレイとして定義し,アレイの「位
数」との関連を調べるのがこの章の目標である.
9.1
フーリエ変換
超関数 F ∈ D(T) の n 番目のフーリエ係数 Fˆ (n) とは,Fˆ (n) = F (e−n ) と
して定義される複素数のことであった.したがってすべての n ∈ Z に対する
フーリエ係数を並べれば,一つのアレイをつくることができる.それを「F
のフーリエ変換」といい,Fˆ で表す:
定義 9.1
超関数 F ∈ D(T) に対し,そのフーリエ変換 Fˆ とは
Fˆ = (Fˆ (n))n∈Z
(9.1)
で定まるアレイのことをいう.
したがって,フーリエ変換は D(T) から A への写像を与えている.これが線
形写像であることを示すのは容易である(⇐ 章末問題参照).この定義に基
づいて,フーリエ変換の例をいくつかみてみよう.
例 9.1. デルタ関数のフーリエ変換.
デルタ関数 δa (a ∈ T) の n 番目のフーリエ係数は δba (n) = a−n であった(⇐
第 8 章の例 8.1).したがってフーリエ変換の定義より
δba = (a−n )n∈Z
(9.2)
である.このアレイを両側に無限にのびた数列として
· · · , a2 , a, 1, a−1 , a−2 , · · ·
(9.3)
と書くこともできる.この各項はすべて絶対値が 1 の複素数だから,これは
有界なアレイであり,したがって
δba ∈ A0
であることもわかる.特に a = 1 のときは (9.3) の各項がすべて 1 になり,し
たがって
δb0 = 1 (⇐ すべての項が 1 であるアレイ)
である.
1
9.2
アレイの位数
この節の目標はアレイの空間 A をその「位数」とよばれる増大度で階層付
けすることである.
定義 9.2
アレイ a = (an )n∈Z ∈ A の位数が m 以下である,とは,ある正の定数
B が存在して,絶対値が十分大きな整数 n に対して
|an | ≤ B|n|m
が成り立つことをいう.そして,位数が m 以下のアレイの全体の集合を
Am と書く.
注意 この定義を一言でいえば「|an | が大体 |n|m 位で増える」ということで
ある.逆に厳密にいうと次のように表せる:
∃B > 0∃N ∈ N∀n ∈ Z; |n| ≥ N ⇒ |an | ≤ B|n|m
後に「超関数の位数」を考えるときにこのような厳密な考察が必要となる.
たとえば A0 はどのようなアレイの集合かを考えてみよう.定義によって
A0
= {a ∈ A; a の位数が 0 以下 }
= {a ∈ A; 定数 B が存在して,絶対値が十分大きな整数 n に対して
|an | ≤ B が成り立つ }
であるから,
「A0 は有界なアレイの全体の集合である」
ということができる.したがって第 3 章の 3.2 節で定義された記号がそのま
ま使えることになる.
例 9.2. Dδ0 のフーリエ変換
前章の命題 8.3 より
d0 (n) = inδb0 (n) = in
Dδ
である.したがって
d0 = (in)n∈Z
Dδ
2
となる.またこの両辺を i で割れば
\
Dδ
0 /i = (n)n∈Z
となり,これは公差 1 の等差数列 {· · · , −2, −1, 0, 1, 2, · · · } になっている.し
d0 ∈ A1 であることがわかる.同様にして
たがってその位数は 1 であり,Dδ
m δ ∈ Am であることも示すことができる(⇐ 章末問題参照).
\
D
a
9.3
フーリエ変換と位数
普通の関数のフーリエ変換として得られるアレイの位数を調べていこう.T
上の m 回連続微分可能な関数全体の集合を C m (T) と書くのであった.また
C 0 (T) は T 上の連続関数の全体を意味していることにも注意しておく.さて
f ∈ C 0 (T) に対してその「L1 -ノルム kf k1 を
kf k1 =
1
2π
∫
2π
|f (x)|dx
(9.4)
0
で定義する.このとき次の命題が成り立つ:
命題 9.3
任意の f ∈ C 0 (T) に対して
|fˆ(n)| ≤ kf k1 (n ∈ Z).
(9.5)
証明] フーリエ係数の定義 (8.3) によって
1
fˆ(n) =
2π
∫
2π
f (x)e−inx dx
(9.6)
0
である.したがって
∫ 2π
1
f (x)e−inx dx|
|
2π 0
∫ 2π
1
≤
|f (x)e−inx |dx
2π 0
∫ 2π
1
|f (x)|dx
=
2π 0
= kf k1
|fˆ(n)| =
(⇐ 絶対値と積分の関係)
(⇐ |e−inx | = 1 だから)
(⇐ 定義 (9.4) より)
となり,証明できた.
不等式 (9.5) の右辺は n に依存しない定数であるから,次の系が得られる:
3
系 9.4
任意の f ∈ C 0 (T) に対して fˆ ∈ A0 .
このことから,さらに次のきれいな命題も得られる:
命題 9.5
任意の f ∈ C m (T) に対して fˆ ∈ A−m .
証明] f ∈ C m (T) とすると,定義によって Dm f ∈ C 0 (T) である(⇐ m 回
微分すると連続になるから).したがって系 9.5 より
m f ∈ A0
[
D
(9.7)
が成り立つ.一方命題 8.3 より
d(n) = infˆ(n),
Df
(9.8)
m f (n) = (in)m fˆ(n)
[
D
(9.9)
そして
が成り立つから
|n|m |fˆ(n)| =
≤
m f (n)|
[
|D
(⇐ (9.9) の両辺の絶対値を取った)
B
(⇐ (9.7) より)
という正の定数 B が存在する.よってこの両辺に |n|−m を掛ければ
|fˆ(n)| ≤ B|n|−m
成り立つことになり,fˆ ∈ A−m であることがわかる.
ここでアレイの位数の定義 9.2 に出てくる不等式 |an | ≤ B|n|m の右辺につい
て,B|n|m ≤ B|n|m+1 が成り立つことに注意しよう.したがって
「|an | ≤ B|n|m ならば |an | ≤ B|n|m+1 」
も成り立つ.よって
Am ⊂ Am+1
4
という包含関係がすべての整数 m に対して成り立つことがわかる.そこで
A−∞ = ∩m∈Z Am
(9.10)
とおくと,次の系が得られる.
系 9.6
任意の f ∈ C ∞ (T) に対して fˆ ∈ A−∞ .
証明] f ∈ C ∞ (T) ならば,f はすべての非負整数 m に対して f ∈ C m (T) と
なっており,したがって命題 9.6 によって fˆ はすべての非負整数 m に対して
fˆ ∈ A−m をみたすことになるからである.
さらに (9.10) で共通部分を取ったのと逆に和集合を取って
A∞ = ∪m∈Z Am
(9.11)
とおく.
ここまででわかったことを図示すると,次のような包含関係ができあがる:
C¥H T LÌ ××× ÌC 2H T LÌC 1H T LÌC 0H T L
Ì
DH T L
A-¥Ì ××× Ì A-2 Ì A-1 Ì A0 Ì A1 Ì ××× Ì A¥ Ì A
(縦の矢印はフーリエ変換を表す.
)
この上の行の隙間にうまくあてはまるように超関数の階層付けを行うのが次
の節の目標である.
9.4
超関数の位数
前節でアレイのなす空間に階層付けを行ったが,それと平行して超関数の
なす空間にも階層を導入する.これは第 11 章でデルタ関数の特徴付けを行う
ときにも重要な役割を果たすことになる.
まず C ∞ (T) に属する関数の「(m)-ノルム」を次のように定義する:
5
定義 9.7
u ∈ C ∞ (T) に対し max0≤k≤m ||Dk u|| を u の (m)-ノルムとよび,||u||(m)
で表す:
||u||(m) = max ||Dk u||
(9.12)
0≤k≤m
(
)1/p
∫
1
p
注意 関数解析で重要な空間 L のノルム ||f ||p =
|f (x)| dx
と
2π
区別するためにカッコをつけて「(m)-ノルム」の記号とした.教科書 [] もこ
の流儀である.
p
例 9.3 指数関数 en ∈ C ∞ (T) の (m)-ノルム:
Dm en = (in)m en であるから,n 6= 0 ならば ||en ||(m) = |n|m である.
(n = 0
のとき e0 = 1(定数関数)であるから,その m-ノルムは 1 に等しい.
)
これを利用して,超関数の「位数(order)」を次で定義する:
定義 9.8
超関数 F ∈ D(T) に対して,非負整数 m と正の定数 c が存在して,すべ
ての u ∈ C ∞ (T) に対して
|F (u)| ≤ c||u||(m)
(9.13)
が成り立つとき,F は位数 m 以下である,という.そして位数が m 以
下の超関数の全体を Dm (T) で表す.
例 9.4 位数 0 以下の超関数:
不等式 (9.13) で m = 0 とおいた式 |F (u)| ≤ c||u||(0) ,すなわち
|F (u)| ≤ c||u||
がすべての u ∈ C ∞ (T) に対して成り立つとき「F は測度(measure)であ
る」という.したがってデルタ関数 δa (a ∈ C) は測度の重要な例を与えてい
る(⇐ 章末問題参照).
さてこのように定義された超関数の位数と,そのフーリエ変換として得ら
れるアレイの位数の間には次のように密接な関係がある:
6
命題 9.9
超関数 F ∈ D(T) の位数が m 以下であるならば,そのフーリエ変換とし
て得られるアレイ Fˆ の位数も m 以下である.すなわち
F ∈ Dm (T) ⇒ Fˆ ∈ Am
証明] 仮定によって不等式 (9.13) がすべての u ∈ C ∞ (T) に対して成り立つ
が,u として e−n を取ると
|F (e−n )| ≤ c||e−n ||(m)
が成り立つことになる.ところがこの左辺はフーリエ変換の定義 8.2 によっ
て |Fˆ (n)| に等しく,右辺は例 9.3 によって n 6= 0 ならば c|n|m ,n = 0 のと
きは c であるから,|n| ≥ 1 ならば
|Fˆ (n)| ≤ c|n|m
となる.したがって定義 9.2 によってアレイ Fˆ の位数も m 以下である. さらに,任意の超関数は必ず有限の位数をもつ,というのが次の定理の主
張であり,これが第 11 章で決定的な役割を果たすことになる:
定理 9.10
任意の F ∈ D(T) に対して,F の位数が m 以下となるような正の整数
m が存在する.
証明] 背理法によって証明する.すなわちそのような m が存在しないと仮定
して矛盾を導きたい.すると正の整数 m ごとに
|F (um )| > m||um ||(m)
(9.14)
をみたす um ∈ C ∞ (T) が存在することになる.(⇐ 定義 9.8 のなかの「非負
整数 m と正の定数 c が存在して」の部分を否定すると「任意の非負整数 m と
任意の正の定数 c に対して」となるが,その c も m とおいたのである.
)この
不等式から um 6= 0 であることに注意しよう.
(⇐ もし um = 0 なら,(9.14)
の両辺ともに 0 になってしまい,
「0 > 0」という不合理な式になるからであ
る.
)そこで
cm = ||um ||(m) > 0
(⇐ um 6= 0 だから)
7
(9.15)
とおく.したがって
vm =
um
mcm
(9.16)
とおくと,vm ∈ C ∞ (T) であり,
||vm ||(m)
um
||(m)
mcm
||um ||(m)
mcm
1
(⇐ (9.15) より)
m
= ||
=
=
となるから,C ∞ (T) において vm は 0 に収束することがわかる(⇐ 章末問
題 5 参照).したがって F の連続性によって
F (vm ) → 0
(9.17)
とならなければならない.しかし一方で
F (um ) |F (vm )| = (⇐ (9.16) と F の線形性より)
mcm |F (um )|
(⇐ 絶対値を分けた)
=
mcm
> 1
(⇐ (9.14) の両辺を mcm で割った)
であり,これは (9.17) に矛盾する.これで定理が証明された.
この定理から,超関数の空間が次のように簡潔に表されることがわかった:
D(T) = ∪m≥0 Dm (T)
したがって命題 9.10 と合わせれば 9.4 節の最後の図の隙間が埋められて次の
図が得られる:
C¥ Ì ××× Ì C 2 Ì C 1 Ì D0 Ì D1 Ì D2 Ì ××× Ì D
A-¥Ì ××× Ì A-2 Ì A-1 Ì A0 Ì A1 Ì A2 Ì ××× Ì A¥
(縦の矢印はフーリエ変換を表す.
)
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第 9 章 練習問題
1. 超関数 F にそのフーリエ変換 Fˆ を対応させる写像を F と書くことにする:
F : D(T) →
A
F(F )
Fˆ
=
この写像 F が線形写像であることを示せ.
m δ ∈ Am であることを示せ.
\
2. D
a
3. Am は A の線形部分空間であることを示せ.
4. デルタ関数 δa (a ∈ C) は測度であることを示せ.
5. 関数列 vm ∈ C ∞ (T) (m = 1, 2, · · · ) が ||vm || =
C ∞ (T) において lim vm = 0 であることを示せ.
m→∞
9
1
をみたすならば,
m