マンスリー・プロジェクト 演劇講座 シリーズ「世界の演劇の今」VI ―カナダ

マンスリー・プロジェクト 演劇講座
シリーズ「世界の演劇の今」VI ―カナダ―
2014 年 11 月 12 日
新国立劇場
吉原豊司
1
まずはカナダという国について
若い多民族国家
・英国の自治領として形ばかりの独立を果たしたのが 1867 年
・独自の憲法が生まれ、真の独立が達成されたのは 1982 年
・それまでは British North American Act という英国議会の条例で統治されていた
・カエデの葉をあしらった国旗が制定されたのは 1965 (それまではユニオンジャック)
・いまだに国家元首はエリザベス女王
カナダという国の特徴
― 多民族・多文化主義
・総人口 3400 万(1970 年には 2100 万、45 年で 1300 万、60%増)
・ヨーロッパ移民が Majority(白人の国) 1997 年以来有色人種、特に中国系が急増
・全人口の 20%が新移住者。
・新移住者は大都会に住む(トロント 46%、バンクーバー40%、モントリオ―ル 21%)
・公用語=英仏二国語、日常語 50 種類、英・仏・中・伊・独・プンジャビの順
・難民受け入れにも寛容で、中東・東ヨーロッパからも受け入れ
・もはや白人の国とは言えない(バンクーバーのリッチモンド地区、50%が中国人)
・黒人はほとんどいない(2%、米と違って)
。但し先住民3%がいる。
―
連邦政府の人種政策
・人種のモザイク(強いて同化を求めず、出身国の文化の温存を奨励、米とは対照的)
・80 万ドル(760 万円)以上の直接投資をする外国人は積極的に受け入れる
(中国人の急増、特に 1997 年以来)
― カナダを理解するためのキーワード
・
「サバイバル」
・
「インフェリオリティー・コンプレックス」
2
カナダ演劇の歴史と現状
1.
カナダは演劇の発展しにくい国
―
言葉の問題(移民の集合した多民族国家。公用語:英・仏、日常語:無数)
―
人口の問題(総人口 3,400 万。矮小なマーケット)
―
平和で豊かな社会(劇作の素地となる「葛藤」のネタが少ない)
―
美しい自然(人の足は劇場よりもアウトドアーに向かう)
―
植民地根性(何をやっても宗主国には敵わないと言う敗北主義。自主文化育成努力の放棄)
―
隣接する超大国・アメリカの存在(巨象と子ネズミ、米系大資本商業演劇の市場占拠)
歴史(悪条件を乗り越えての繁栄。いまやトロントは北米第 2 の演劇都市)
2.
―
60年代: 独自の演劇なし。英米演劇の巡業公演が専ら。地域劇場も出し物は DBA
―
70年代: 文化民族主義の興隆。建国百年=国威発揚のための国家援助急増(CC)
―
80年代: 固有文化の百花繚乱期(演劇のみならず文芸・美術・音楽すべてで)
―
90年代: 不況→官財界からの援助激減→地域劇場の衰退、商業演劇の進出
― 00年代: 世代交替。アメリカ演劇の影響を受けた新しい劇場・表現様式・作家の台頭
3.
カナダ演劇のインフラストラクチャー
―
劇場はあっても劇団はない(プロデュース制→演劇界内部交流→地域間格差の消滅)
―
人口 80 万以上の都市には二つ以上の劇場がある(レジョナル&オルタナティブ・シアター)
―
大都市:採算意識強く保守的・商業的。地方中小都市:ダメモト精神→意欲的・実験的
4.
国による芸術文化振興助成:カナダ・カウンシル
―
目的: 政治・経済面に続いて文化芸術面でもカナダを世界の一流国にする
―
2016 年の助成金支出総額 Ca$140M(日本円にして 135 億)
(vs.文化庁 11 億円)
― 特に演劇を重視(総助成額の 20%を配分。オペラを含む音楽に次いで 2 番目に多い)
―
商業化されやすい文化では米英大資本にかなわない。手作りの要素の多い演劇が最後の砦―
カナダの劇場の平均的年間運営費:国庫補助 1/3、民間寄付 1/3、入場料収入 1/3。
―
おかげで入場料が安い。PWYC などという粋な制度も可能になる
3
カナダ演劇の特徴
―
草創期: 固有演劇確立のための創作劇運動(自分達を主人公に、自分達の問題を、自分達
で書き、自分達で上演)
。写実的で骨太。明快・素朴なプロット・デベロップメント
―
世代交替後: アメリカ演劇・商業演劇の影響。カナダらしさの喪失(良く言えば国際化、
悪く言えば「もの真似」傾向。米国での受けを狙った創作姿勢→ブロードウエイ進出)
― ケベック演劇(非英語演劇)の存在:連邦・洲両政府からの手厚い庇護(泣く子に地頭)言
葉に頼らないビジュアルな表現形式の創出(例=シルクド・ソレイユ、ロベール・ルパージ)
― 多民族国家特有の創作テーマ: (人種間の軋轢。例=「リエル」混血先住民対白人、
「リタ・
ジョーの喜び」先住民対白人、
「やとわれ仕事」英国系対フランス系カナダ人)
― 日系演劇の存在: リック・シオミ「黄熱病」
、テリー・ワタダ「仮面物語」
、ミエコ・オー
ウチ「赤毛の司祭」
、ヒロ・カナガワ「マレーの虎」
、ダフネ・マーラット「かもめ」
― マイノリティー・グループの台頭: 新移住者の流入→人口構成の多様化→日系の他、中・
印・伊・アフロカナディアン演劇等がカナダ演劇の裾野を広げ、それに彩を添えつつある
4
カナダ演劇の対日紹介
―
1982 年に始まる。貝山武久氏の在加研修
―
1985 年、文化座公演「びっくり箱」
「千羽鶴」の大ヒット
―
4 回に及んだ「カナダ演劇祭」
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カナダ戯曲は当初、年に 1・2 回の上演
―
2005 年、2009 年には、それぞれ 11 公演
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もっとも多く上演している劇団はメープル・リーフ・シアター(8 本)民藝(5本)
流山児事務所(10 本、但し再演再再演を含む)文化座(6 本、再演を含む)
―
もっとも多く上演されている作品は「ハイライフ」(12 回)、「7ストーリーズ」(10 回)
モーリス・パニッチについて
―
今カナダで一番忙しい演劇人
―
バンクーバーのブリティッシュ・コロンビア大学演劇科、英国 E-15Acting School 卒
― 処女作は「ラストコール」
(1982 年、北村想「寿歌」との符合が面白い)
― バンクーバー・トロントを拠点に劇作家、演出家、俳優として活躍中
―
戯曲 25 本以上、舞台出演 50 回以上、テレビドラマでも活躍、最近はオペラの演出も
―
作風は型破り(英国の流れをくむ既成演劇への反逆と、カナダ固有演劇の創造を目指して)
―
代表作「7ストーリーズ」
「ご臨終」に見る、型破りな劇構造
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