業種間の裾依存関係を考慮した与信ポートフォリオの信用リスク評価

業種間の裾依存関係を考慮した与信ポートフォリオの信用リスク評価
三菱 UFJ トラスト投資工学研究所 (MTEC)
1.
川口宗紀
∗
はじめに
与信ポートフォリオの信用リスクを管理する場合には, 個社の信用状況の管理に加え, 与信先の分散化が重要
なポイントとなる. 例えば, 与信先が業種ごとに分散化が図られていたとしても業種間で強い相関構造を持って
いれば, その分散化は見かけ上のものとなり, 信用リスクは高いままとなってしまう. 本稿では Vine コピュラを
使ってこの業種間の相関構造をより詳細に表現し, 信用リスクを評価するためのモデルを提案する. Vine コピュ
ラによって業種ごとの相関構造の違い考慮したリスク評価が可能であることを確認した.
2.
業種間の相関構造
本稿では信用リスク評価のためのモデルとしてよく用いられていると思われる, 1 ファクターマートンモデル
を用いる. このモデルでは個社の信用力を, 互いに独立な共通要因 Zg と個別要因 εi の加重和として表現する. こ
の共通要因 Zg を業種要因と考え, 個社に対して 1 つの業種要因を対応させるモデル化がよく行われている. ま
た, 業種要因の間の相関構造の表現にはパラメータ推定やシミュレーションの簡便さなどの理由から多次元正規
分布が用いられることが多い.
しかし, 正規分布では業種間の分布の裾における依存関係が十分に表現できていない可能性がある. これを詳
しく見たものが表 1 である. 業種間の相関構造を多次元正規分布, t コピュラで表現した時のケンドールのτと,
データから直接計算したケンドールのτを表している. 正規コピュラと t コピュラとのケンドールのτの差が大
きい業種の組み合わせを表 1 に示した. 結果を見れば明らかなように t コピュラでモデル化した方が直接データ
から計算したケンドールのτとの小さく, 業種間の順位相関を精緻に表現できていることが分かる. また, 業種の
組み合わせによって順位相関の強さが異なることが分かる.
3.
与信ポートフォリオの信用リスク量評価
次に, この違いが計測される信用リスク量に与える影響について分析を行う. 業種間の順位相関構造の違い
を精緻に表現するため, Vine コピュラによるモデル化を行う. なお Vine コピュラについては, J. Dißmann et
al.(2013) が詳しい. Vine コピュラは, 2 変数に対するコピュラを階層的に用いることで 3 つ以上の変数の同時分
布を表現したものである. そのため, 表 1 のような複数のペアそれぞれに対して裾依存関係を個別に表現するこ
とが可能となる. 表 2 はサンプルポートフォリオの信用リスク量である. どの信頼水準においても Vine コピュ
ラでモデリング時の方が VaR の値は大きくなっている. この結果から, 多次元正規分布によるモデリングではリ
スクを過小評価していることが示唆される. また, Vine コピュラを利用することで各業種における相関構造の違
いを詳しく表現することが可能となる. その効果は, 与信ポートフォリオの最適化にもその効果が表れる.
参考文献
[1] J. Dißmann, E.C. Brechmann, C. Czado and D. Kurowicka(2013), ”Selecting and estimating regular vine
copulae and application to financial returns,” Computational Statistics & Data Analysis, 59, 52-69.
表 1: 業種間の相関構造の比較
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表 2: サンプルポートフォリオの信用リスク量
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