海外論文の紹介 - 日本IVR学会

IVR関連
海外論文の紹介
岡山大学医学部 放射線科
平木隆夫
(IVR 会誌編集委員)
紹介の理由
外科手術領域においてロボット技術は,主に前立腺
癌の手術に用いられている。ロボットは,人の手では
届かないような深部での操作が可能で,肉眼の 10 倍
もの視野のもと,手ブレのない精巧・精密な操作で,
低侵襲で安全な手術を実現可能にした。現在アメリカ
では前立腺全摘術の約 8 割がロボット手術で施行され
ているとのことである。日本においても前立腺癌のロ
ボット手術は 2012 年 4 月から保険適応となり,急速に
普及している。ロボット手術は消化管領域にも応用さ
れ始めており,将来的には全身の手術に適応されるで
あろう。非常に複雑な手術操作ですらロボットで代行
できるのであれば,IVR の手技操作もロボットで代行
できるのではないだろうか? IVR の基本手技操作は,
押す,引く,回すと非常にシンプルであり,手術より
もはるかに容易にロボット技術を応用可能な領域と思
われる。ロボットを遠隔操縦すれば,IVR の最大の欠
点である術者被ばくは大幅に低減できるであろう。ま
た人よりも精密な操作が可能になれば手技成績の向上
も見込める。私は IVR の領域も将来的にはロボットを
用いたロボティック IVR が普及していくのではないか
と考えているが,今回紹介する研究はその先駆けとな
るものである。
原 著
Rolls AE, Riga CV, Bicknell CD, et al. RobotAssisted Uterine Artery Embolization: A First- inWoman Safety Evaluation of the Magellan System.
J Vasc Intervent Radiol 2014 (in press)
目 的
Magellan ロボティックカテーテルを用いたロボット
支援子宮動脈塞栓術の安全性,実行可能性を評価する
こと。
対象と方法
この研究は前向きの feasibility study である。10 ヵ月
間に 5 名の女性(平均 48.8 歳)に Magellan ロボティック
カテーテルを使用したロボット支援子宮動脈塞栓術を
施行した。対象疾患は症候性の子宮筋腫が 4 例,子宮
腺筋症が 1 例であった。Magellan システムはマスター
スレーブ方式でロボティックカテーテル(NorthStar)
を遠隔操縦するもので,術者は放射線源から離れた操
作室で座ったままで手技を施行可能である。ワークス
テーションには,透視画面とともに親カテーテルの
ヴァーチャルイメージを表示することができ,カテー
テルの位置,曲がりや回転の角度をリアルタイムにモ
ニタリングできる。
NorthStar カテーテルシステムは,コアキシャルシ
ステムであり,9 F シースと 6 F 親カテーテルから成り
立っている。4 つの直行するプルワイヤを操作するこ
とにより,シースや親カテーテルの先端の角度を変更
することができ,シースと親カテーテルは,各々 90°
,
180°
の角度まで多方向に曲げることができる。ロボッ
トを用いたカテーテル挿入は,目的の血管の約 1~2 ㎝
離れた場所までカテーテルを進めた後,カテーテル先
端の角度を調整して行われる。Auto−retract 機能を使
えば,親カテーテルの前進を止め,元の軌道に沿って,
カテーテルを引き戻すことができる。親カテーテル内
には 0.014−inch と 0.035−inch のガイドワイヤと 2.7 F マ
イクロカテーテルが挿入可能である。
以下に典型的な手技を記述する。100 IU/㎏のヘパリ
ンを静注(現在著者らはヘパリン化の必要はないと考え
ている)
。通常の子宮動脈塞栓術に準じて局所麻酔と中
等度の鎮静をかけた後,US ガイド下に右総大腿動脈
から 9 F シースを留置。血管アクセスが得られ,ロボッ
トシステムの設定がなされた後,ロボティックカテー
テルを用いて大動脈・腸骨動脈領域の血管撮影を行っ
た。0.035−inch のテルモワイヤをロボットでコントロー
ルしながら,NorthStar カテーテルをワイヤに沿わせ
て右総大腿動脈に,そして外腸骨動脈に進めた。次に
ワイヤをロボットで操作しながら大動脈分岐部から対
側の総腸骨動脈へカテーテルを進めた。この段階は,
親カテーテルおよびシースの角度を形成したり,回転
させたり,進めたりするロボティックカテーテルナビ
ゲーションを用いれば容易になる。親カテーテルの先
端を左総腸骨動脈の分岐部のすぐそばにもっていった
後,ワイヤに沿わせて慎重に左内腸骨動脈の anterior
division に進めた。その後ロボティックシステムを用
いて血管造影し,ロードマップとした。次に術者は血
管撮影室内に入り,レネゲードハイフロマイクロカ
テーテルを用手で親カテーテルに通して,更に子宮動
脈内に挿入した。子宮動脈は 700 ㎛の Embozene もし
くは 300~500 ㎛の PVA で塞栓した。
次にマイクロカテーテルを抜去し,親カテーテルを
auto−retract 機能を用い右総腸骨動脈の分岐部まで引い
た。右内腸骨動脈へのカテーテル挿入を容易にするた
めに,造影剤を親カテーテルから注入し,ロードマッ
プを作った。親カテーテルを操縦し,先端を適切な角
度に曲げて,ガイドワイヤおよび親カテーテルを右内
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腸骨動脈,次に anterior devision に挿入した。先程と同
様にマイクロカテーテルを右子宮動脈に進めた後,塞
栓した。アクセスサイトは Angio-Seal vascular closure
device を用いて閉じた。
結 果
ロボットを用いた両側の内腸骨動脈および子宮動脈
へのカテーテル挿入は全例で成功した。右内腸骨動脈,
左内腸骨動脈へのカテーテル挿入に要した時間は中央
値でそれぞれ 3 分,2 分であり,合計透視時間の中央値
は 11 分であった。右子宮動脈,左子宮動脈へのカテー
テル挿入に要した時間は中央値でともに 11 分であった。
全手技時間の中央値は 80 分であり,技術的成功率は
100%であった。手技に関連した合併症はみられなかっ
た。患者は全て翌日に退院し,重篤な合併症はみられ
なかった。6 ヵ月後には全ての患者で症状は改善し,
health-related QOL score は中央値で 58%上昇した。子
宮体積および筋腫の減少率は中央値でそれぞれ 55%,
52%であった。
結 論
新世代の Magellan システムを用いた子宮動脈塞栓術
は実行可能であり,安全であるように思われた。ナビ
ゲーション機能の追加や NorthStar カテーテルの操縦
性を向上すれば,細い腸骨動脈への選択的なカテーテ
ル挿入が容易となり,複雑な動脈の選択が必要とされ
るような手技においても使えるであろう。
コメント
本論文で示されているように,現在のテクノロジー
を駆使すればカテーテルインターベンションもロボッ
トで実行可能である。本論文は子宮動脈塞栓術での結
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果であるが,以前の論文で,このシステムは大動脈の
ステントグラフト挿入における目的血管へのカテー
テル挿入や下肢動脈の造影やステント留置でも有用で
あったと報告されている。このシステムは 2012 年に
FDA の承認を得ている。
本ロボットを用いたカテーテルインターベンション
の最大の利点は術者被ばく低減と思われる。また,術
者は鉛エプロンから開放され,手技を座ったまま行
え,術者の疲労度は大幅に軽減できるであろう。また
カテーテルの先端の形状を血管内で任意に作成可能で
あり,目的とする血管へのカテーテル挿入が容易であ
る。一方,欠点はデバイスが太いこととロボティック
でマイクロカテーテルの操作が出来ないことであろう
が,どちらもすぐに解決されるであろう。実際,本シ
ステムも元々はもっと太かったものが改良されたもの
であるし,マイクロカテーテルも現在ロボティックで
操縦できるものを開発中とのことである。
IVR もロボットで行うロボティック IVR へという方
向性は決して間違っていないし,長い目でみれば確
実にその方向に向かって進むであろう。被ばくがな
く,鉛エプロンから解放され,座って手技ができるの
は IVR 医にとってとても大きなメリットである。また
テクノロジーの進歩の早さを考えれば,人の手で行う
場合より技術的に上回るのも時間の問題であろうし,
手技の自動化も進んでいくであろう。このようにロボ
ティック IVR には多くのメリットがあるが,唯一の懸
念はコストである。しかしダ・ヴィンチがそうであっ
たように,ロボティック IVR に保険加算がつくように
なれば,この問題もクリアされるであろう。すなわち
ロボティック IVR の普及のためには,より良いロボッ
トの開発のみならず,保険償還戦略が極めて重要と思
われる。