構造用鋼の破壊現象究明のための実験と それに基づく破壊靱性予測

2014 年度 工学部システム創成学科 PSI コース 卒業論文概要
構造用鋼の破壊現象究明のための実験と
それに基づく破壊靱性予測モデルの開発
03130955 根本義規
指導教員 柴沼一樹 講師
1. 背景
構造物に広く使用される鉄鋼材料において,脆性破
壊を防ぐことは非常に重要である.そのため近年進めら
れている高強度化とともに,脆性破壊の抵抗値である
靭性の確保も求められている.しかし実際に使用される
鉄鋼材料の破壊現象について未解明な部分は多く,
実用鋼に対する靭性を予測するモデルは存在してい
ない.そこで本研究は,最も広く使用される実用鋼であ
るフェライト・パーライト鋼を対象に,破壊現象とミクロ組
織との関係を明確にし,脆性破壊靭性を予測するモデ
ルを開発することを目的とする.
Ferrite grain
(Sphere)
Pearlite particle
(Spheroid)
Pearlite band
Fig 3 フェライト・パーライト組織モデル概念図
また結晶粒の割り当ては,以下の方法で行った.
パーライトの体積率からパーライト粒の割合を決
定し,モンテカルロ法を用いて,割り当てるフェラ
イト粒あるいはパーライト粒を決定する.同時に結
晶方位も割り当て,これを体積が満たされるまで繰
り返す.これにより組織全体におけるパーライト割
合のばらつきを再現している.Fig 4 にパーライト
体積率を 0.3 としたときの体積要素内パーライト体
積率のヒストグラムを示す.
Distribution
2. 組織のモデル化
まず本研究で対象とする 3 鋼種に対し,フェライ
トおよびパーライトの寸法を EBSD 計測および画
像処理を用いて計測した.フェライトは円相当径,
パーライトはバンド幅方向の長さを計測した.続い
て亀裂形状から組織を定量的にモデル化するため
に,円周切欠き付き丸棒引張試験により亀裂を生じ
させた試験片に対し,シリアルセクショニング法を
用いて 3 次元的形状計測を行った(Fig 1).従来は
2 次元的な形状計測のみで,長さのみが計測可能で
亀裂を円形で近似していた.しかし本計測の結果,
亀裂の形状はフェライトとパーライトの寸法によ
る楕円形に近似できることがわかった(Fig 2).
粒形の測定結果および亀裂形状の計測結果より,モ
デル上ではフェライト粒を球,パーライトを回転楕
円体として仮定し,それらが集合して層構造をなす
と仮定した(Fig 3).
Width
0
Length
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
Volume fraction of pearlite
Fig 4 体積割り当て結果の一例
Culumative probability
Fig 1 亀裂形状の 3 次元データ
Ferrite
Crack length
Length [mm]
Ferrite grain diameter
Pearlite thickness
Crack width
Length [mm]
Fig 2 亀裂形状と粒形の比較
3. 破壊条件の定式化
本モデルにおいて破壊発生機構は以下の 3 段階で
あると仮定した.
Stage-I :パーライト内におけるミクロ亀裂形成
Stage-II:隣接フェライト粒への亀裂伝播
Stage-III:伝播した亀裂のフェライト粒界突破
3.1 パーライト内におけるミクロ亀裂形成
まず亀裂の核生成確率を測定するため,切欠き付
き丸棒引張試験を行った.試験片内パーライトのミ
クロ亀裂を観察し,亀裂の核生成率 を測定した.
パーライト内亀裂核生成はせん断支配であること
がわかっているため,亀裂核生成確率を相当塑性ひ
ずみおよび最大せん断応力で整理した.その結果よ
り適切と間がえらっる最大せん断応力を用いて,以
下の式(1)のような定式化を行った.このとき広範
な温度条件下で成り立つよう,最大せん断応力を降
伏応力にて正規化した値
を用いた(Fig 5).
1
(1)
exp 0.015
0.15
0.10
0.05
0.00
0
0.5
1
1.5
2
Normalized shear stress
Fig 5 亀裂核生成確率
3.2 隣接フェライト粒への亀裂伝播
2.の計測結果により,パーライトに生じる亀裂は
楕円形に近似できることがわかった.そこで StageII において楕円亀裂に対する局所破壊応力を算定
するため,円形亀裂に対する Griffith の破壊応力,
円形亀裂の応力拡大係数および楕円形亀裂の応力
拡大係数を用いて,楕円形亀裂に対する局所破壊応
力を算出した.
1
1
sin
Fracture stress σ
5
a
4
b
2
b
1
b
a
a
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
1
0.1
0.01
Prediction results
Experimental results
0.001
-200
-180
-160
-140
-120
-100
Temperature [ºC]
(2)
6
3
4.2 破壊靱性試験とモデルの妥当性検証
本研究において提案したモデルの妥当性を検証
するため,切欠き付き 3 点曲げ試験を行うとともに
それを提案したモデルに適用した.本実験で靭性指
標値として用いた限界準 CTOD の,実験値とモデル
による予測値の比較結果の一例を Fig 7 に示す.予
測値は実験値と精度の高い一致を示した.
Fig 7 限界準 CTOD 比較
2 1
楕円形亀裂と円形亀裂の破壊応力の比較を以下に
示す.従来の円形亀裂に比べ今回の測定結果による
楕円形亀裂の方が破壊応力の値は低く,より実際の
現象に近づいたといえる.
0
4.1 モデル開発
2.および 3.の仮定を踏まえ,本モデルでは以下の
計算手順で靭性の予測を行う.
i.アクティブゾーンの定義,体積要素分割
ii.体積要素への結晶粒充填
iii.有限要素解析による応力・ひずみ分布の算出
iv.各破壊条件の判定(Stage-I~III)
すべての破壊条件を満たす体積要素が存在すれば,
巨視的な脆性破壊が発生したものと仮定する.これ
により最弱支配型の現象を再現している.
Critical quasi-CTOD [mm]
Cracking probability
0.20
4. モデル開発と妥当性検証
5. 結論
本研究では,フェライト・パーライト鋼を対象に,
破壊靭性予測モデルを開発した.亀裂形状を 3 次元
的に計測し,粒系との関係を明らかにした.パーラ
イト内の亀裂核生成確率を実験・計測を通し定量化
し,亀裂の核生成現象がせん断応力によって引き起
こされることを確認した.フェライト・パーライト
鋼の脆性破壊の発生機構を 3 段階と仮定し,それぞ
れの段階における限界条件を導いた.それらを組み
合わせ靭性を予測するモデルを開発し,それに対し
破壊靱性試験を行い,その妥当性を証明した.
参 考 文 献
1)
0.9
Aspect ratio (b/a)
Fig 6 破壊応力の比較結果
3.3 伝播した亀裂のフェライト粒界突破
Stage-III においては通常の Griffith の条件を用い
て評価した.
2)
3)
K., Shibanuma; et al. Prediction Model on Cleavage
Fracture Initiation in Steels having Ferrite-Cementite
Microstructures-Part II: Model Validation and Discussions,
Engineering Fracture Mechanics. submitted.
K.Shibanuma, et al. Prediction Model on Cleavage
Fracture Initiation in Steels having Ferrite-Cementite
Microstructures-Part I: Model Presentation. submitted.
平出隆志,他.フェライト・パーライト鋼のへき開破
壊靭性予測モデルの構築.鉄と鋼.2015.submitted