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心臓MRIと 18F-FDG PETが診断に有用であった心臓サルコイドーシスの1例
〔症例報告〕
心臓MRIと 18F-FDG PETが心病変診断に有用であったサルコイドーシスの1例
磯貝俊明 1),田中博之 1),二川圭介 1),上田哲郎 1),高森幹雄 2),藤田
明 3)
【要旨】
症例は41歳,男性.両側肺門リンパ節腫大の精査の結果,サルコイドーシスと診断.心電図で1度房室ブロックを認め
たが,心エコーと 67Ga citrateシンチグラムでは心臓に異常所見を認めなかったため,薬物治療は行わずに経過観察した.
4ヵ月後にPQ間隔の延長を認め,外来精査を予定していたが,高度房室ブロックによるAdams-Stokes症候群を合併し,
緊急入院.経静脈的に一時的ペーシングを開始した.心臓サルコイドーシスを疑い,安静臥位ではAdams-Stokes発作を認
めないことから,ペーシングリードをいったん抜去し,心臓magnetic resonance imaging(MRI)を施行した.その結果,
心室中隔基部にガドリニウムの遅延造影を認めた 18F fluorodeoxyglucose positron emission tomography( 18F-FDG PET)
でも同部位に異常集積を認め,心臓サルコイドーシスによる高度房室ブロックと診断し,副腎皮質ステロイドホルモン薬
(ステロイド)療法を開始した.本症例のように心エコーや 67Gaシンチグラムで心臓に異常所見を認めないサルコイドーシ
ス例でも,心臓MRIと 18F-FDG PETで心病変を同定し,治療につなげることが重要である.
[日サ会誌
2013; 33: 111-115]
キーワード:心臓サルコイドーシス,心臓MRI,18F-FDG PET,Adams-Stokes症候群
A Case of Sarcoidosis with Cardiac Involvement Detected by Cardiac MRI
and 18F-FDG PET
Toshiaki Isogai1), Hiroyuki Tanaka1),Keisuke Futagawa1), Tetsuro Ueda1), Mikio Takamori2), Akira Fujita3)
Keywords: cardiac sarcoidosis, cardiac MRI, 18F-FDG PET, Adams-Stokes syndrome
はじめに
●症例:41歳,男性
サルコイドーシスは一般的に生命予後が良好な疾患で
●主訴:めまい
あるが,心病変は予後に影響を与え,死亡原因の高率を
●現病歴:検診の胸部単純X線検査で両側肺門リンパ節
占める .このため,心臓サルコイドーシスを確実に診断
腫大を認め,当院呼吸器内科を受診.気管支鏡等による
することが重要である.しかしながら,従来診断に使用
入院精査の結果により,1臓器の組織診断と全身反応を
されてきた心エコーや核医学検査で異常所見を認めない
示す検査所見6項目中4項目を満たし,2011年7月,サ
場合には診断が困難であることが少なくない.今回,わ
ルコイドーシスと確定診断(組織診断群)した 2).このと
れわれは,心エコーや Ga citrateシンチグラムで心臓に
きの心電図で1度房室ブロックを認めたが,心エコーで
異常を認めなかったサルコイドーシス患者で,心臓mag-
壁運動や形態に異常はなく,67Gaシンチグラム(Figure 1)
netic resonance imaging(MRI)と F fluorodeoxyglu-
でも心臓に異常所見を認めなかったため,薬物治療は行
cose positron emission tomography( F-FDG PET)で
わずに外来で経過観察した.4ヵ月後に,さらにPQ間隔
心病変を同定しえた症例を経験したので報告する.
の延長を認め,循環器内科に紹介され受診した.外来精
1)
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18
18
症例提示
査を予定していたところ,浮動性めまいが出現した.心
電図で2:1の房室ブロックを認め,Adams-Stokes症候
群の診断で緊急入院となった.
1)東京都立多摩総合医療センター 循環器内科
2)同 呼吸器内科
3)東京都保健医療公社多摩北部医療センター 呼吸器内科
著者連絡先:磯貝俊明(いそがい としあき)
〒183-8524 東京都府中市武蔵台2-8-29
東京都立多摩総合医療センター 循環器内科
E-mail:[email protected]
1)Department of Cardiology, Tokyo Metropolitan Tama Medical
Center
2)Department of Respirology, Tokyo Metropolitan Tama Medical
Center
3)Department of Respirology, Tama-Hokubu Medical Center
日サ会誌 2013, 33(1) 111
〔症例報告〕
心臓MRIと 18F-FDG PETが診断に有用であった心臓サルコイドーシスの1例
●既往歴:特記事項なし.嗜好:喫煙歴なし.飲酒歴は
機会飲酒.
●入院時現症: 身長 167 cm, 体重 70 kg,BMI 25 kg/
m2 .脈拍 44回/分,整,血圧 133/76 mmHg,体温36.2℃.
胸部,腹部,眼,皮膚,神経を含む全身に異常を認めない.
体表のリンパ節に腫大はない.
●検査所見
血液検査:白血球 5,400/µL,ヘモグロビン 14.9 g/dL,
血小板 17.4×104 /µL,BUN 13.8 mg/dL,クレアチニン
1.0 mg/dL,Na 141 mEq/L,Cl 106 mEq/L,K 4.1 mEq/
L,Ca 9.6 mg/dL,CK 127 IU/L,AST 38 IU/L,ALT
66 IU/L,LDH 193 IU/L,IgG 1,272 mg/dL,トロポニン
T 0.004 ng/mL,高感度CRP 486 ng/mL,赤沈60分値 8
mm,NT-proBNP 317 pg/mL,アンギオテンシン変換酵
素(ACE)15.0 IU/L,リゾチーム 9.1 µg/dL,KL-6 192
U/mL,surfactant protein D(SPD)69.6 ng/mL.
12誘導心電図(Figure 2)
:2011年7月時は,PQ間
隔 248 msecの1度房室ブロックであるが,2011年12月,
今回の入院時は,心拍数44/分の2:1の房室ブロックを
認め,入院翌日朝のモニター心電図で5:1の高度房室
ブロックを認める.
経胸壁心エコー検査(Figure 3)
:心筋壁の菲薄化や壁
Figure 1.
Ga citrateシンチグラム.縦隔への集積は認めるが,心
臓への集積は認めない.
67
運動異常を認めない.左室収縮能正常(左室駆出率 70% )
で,そのほか異常を認めない.
●入院後経過:入院翌日より,経静脈的に一時的ペーシ
2011年7月
2011年12月
2011年7月
2011年12月
入院翌日朝のモニター心電図
Figure 2.
112
12誘導心電図.2011年7月時(上左):PQ間隔 248 msecの1度房室ブロック.2011年12月時(上右):
2:1の房室ブロック.入院翌日朝のモニター心電図(下):5:1の高度房室ブロック.
日サ会誌 2013, 33(1)
心臓MRIと 18F-FDG PETが診断に有用であった心臓サルコイドーシスの1例
〔症例報告〕
b)
a)
Figure 3.
経胸壁心エコー図.a)傍胸骨左室長軸断層像,b)四腔断層像.心筋壁の菲薄化や壁運動異常を認めない.
Figure 4.
心臓MRIの遅延造影像.短軸像.心室中隔基部にガドリ
ニウムの遅延造影(LGE, 矢印)を認めるが,同部位に
菲薄化や瘤化は認めない.
b)
a)
Figure 5.
F fluorodeoxyglucose positron emission tomography( 18F-FDG PET).
a)短軸像.b)四腔断層像( 18F-FDG PET/CT).Figure 4のLGEの部位に一致して異常集積を
認め(矢印),そのほかに左室前壁や側壁,心尖部にも集積を認める.
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日サ会誌 2013, 33(1) 113
〔症例報告〕
心臓MRIと 18F-FDG PETが診断に有用であった心臓サルコイドーシスの1例
ングを開始した. 血液検査ではACEやリゾチームを含
も示唆されている 13).心臓MRIの欠点は,一時的ペーシ
め異常所見を認めず,心エコーでも以前と同様に異常所
ング・ペースメーカ使用下では施行できないことである
見を認めなかったが,心臓サルコイドーシスを疑い心臓
が,2012年10月よりわが国でも条件付きMRI対応ペース
MRIが必要と判断した.安静臥位ではAdams-Stokes発作
メーカが使用可能となった.海外では,このペースメー
を認めないことを確認して,一時的ペーシング用リード
カのサルコイドーシス患者での使用報告もある 14).しか
をいったん抜去し,第4病日に心臓MRIを施行した(Fig-
し,このペースメーカでもMRI施行可能なのは,植込み
ure 4)
.その結果,心室中隔基部にガドリニウムの遅延
6週間以上経過後で閾値等の条件をクリアした場合のみ
造影(late gadolinium enhancement: LGE)を認めた.ま
である.また,MRI対応の一時的ペーシング用リードは
た, F-FDG PETではLGEの部位に一致して異常集積を
いまだなく,一時的ペーシングを挿入するとMRIは施行
認め,心病変の活動性があると判断した(Figure 5)
.一
できない.このため,不整脈合併例で急性期に心臓サル
方,心臓核医学検査では,201Tl像,123I beta-methyl-iodo-
コイドーシス診断に心臓MRIを用いるには,一時的ペー
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phenylpentadecanoic acid( I-BMIPP像)のいずれも心
シング挿入前,あるいは,本症例のように挿入後いった
室中隔に異常を認めず,心室中隔からの右室心内膜心筋
ん抜去する必要がある.18F-FDG PETは糖代謝をイメー
生検でもサルコイドーシスを示唆する所見は認めなかっ
ジすることが可能で,サルコイドーシスでは炎症部位で
た.以上より,診断の手引き上,心臓所見の主徴候1項
FDGが集積し,67Ga像よりも病変検出能が高く,活動性
目と副徴候1項目を満たすにとどまったが,診断に有用
評価にも有効とされる 15, 16).わが国では2012年4月より
な所見とされる F-FDG PETでも異常集積を認めたこと
心臓サルコイドーシスで保険償還されるようになった.
から心臓サルコイドーシスと診断した.
18
123
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F-FDG PETの欠点として,FDGの集積は心筋細胞の正
薬物治療として副腎皮質ステロイドホルモン薬(ステ
常糖代謝も検出するため集積が偽陽性となる危険性があ
ロイド)療法を開始し,房室ブロックに対して恒久的ペー
り,他の画像所見とあわせて慎重に診断する必要がある.
スメーカ植込み術の方針とした.植込み前に施行した電
本症例では,心臓サルコイドーシスでの保険償還前であっ
気生理検査でヒス束内(BH)ブロックを認め,心臓MRI
たが,患者同意の上,18F-FDG PETを施行し,LGEに一
でLGEを認めた部位がヒス束近辺であったことに合致す
致した部位に活動性のある病変の同定ができた.
る所見と判断した.植込み術後に退院とし,外来でステ
ロイドを漸減しながら継続している.
以上の各々の画像特性を踏まえ,本症例のように心臓
以外の臓器でサルコイドーシスと診断された例や,房室
ブロックや心室頻拍等の不整脈症例で,とくに若年例 17)
考察
では, 心臓サルコイドーシスを念頭におく必要がある.
心臓サルコイドーシスでは, 房室ブロック等により
そして,それらの症例では,心エコー,ホルター心電図
Adams-Stokes症候群をきたす以外に,心室頻拍や心室細
に加え,早期に心臓MRIや 18F-FDG PETを行い,活動性
動といった致死的不整脈を引き起こす .このため,心病
のある心臓サルコイドーシスを認める場合には治療を検
変の有無を早期に診断し,遅滞なくステロイド加療を行
討すべきと考える.本症例でも2011年7月の診断時点で
うことが重要である 4).しかし,心臓サルコイドーシスは,
心臓MRIと 18F-FDG PETを施行していれば,活動性のあ
心内膜心筋生検の組織診断率が低く 5),いまだ診断に難渋
る心臓サルコイドーシスを認めた可能性があると考える.
する疾患であり,画像診断が重要である.心臓サルコイ
この場合,心臓MRIと 18F-FDG PETで異常所見を認めて
ドーシスの画像検査には,従来の心エコーや心臓核医学
も,現在の診断基準 2) では高度房室ブロック等の主徴候
検査に加えて, 近年, 心臓MRIと 18F-FDG PETがあり.
をきたす前には心臓サルコイドーシスの診断には至らな
各々に特徴がある.心エコーは,侵襲性がなく繰り返し
いが,重篤な不整脈や心ポンプ機能低下をきたす前にス
施行でき,心臓サルコイドーシスに特徴的な心室中隔基
テロイド療法を導入し,病変の進行を抑えることは重要
部の菲薄化の検出に役立つ 6, 7).しかし,心エコーで検出
であると考える.
3)
可能な菲薄化や心室瘤などの心病変は,心筋での肉芽腫
性炎症が線維化へ移行すると現れる変化で,ある程度病
結論
変が進行しないと認められず,心臓サルコイドーシスの
本例は,サルコイドーシス診断時には心エコーや 67Gaシ
早期診断には適さない.心臓核医学検査としては, Tl
ンチグラムで異常を認めなかったが,Adams-Stokes症候
像や I-BMIPP像では炎症や組織瘢痕化が欠損像として
群を合併し,一時的ペーシング挿入後いったん抜去して
描出され, Ga像では炎症や肉芽腫の部位に異常集積する
施行した心臓MRIと 18F-FDG PETで心病変の同定とその
8, 9)
.しかし,いずれの核種でも心臓サルコイドーシスに
活動性の評価が可能であった点が貴重である.心臓サル
特異的な所見はなく,また空間分解能も低いため病変の
コイドーシスはいまだ診断に難渋する疾患であるが,条
同定が困難な場合が少なくない.一方,心臓MRIは,空
件付きMRI対応ペースメーカが使用可能となり,18F-FDG
間分解能に優れ,心病変検出に有効とされ 10, 11),LGEは
PETがサルコイドーシスで保険償還されるようになった
サルコイドーシス診断の感度100%,特異度78%と報告さ
今,これらの複数の画像検査を駆使して心病変をより早
れている
期に検出し,治療につなげることが重要である.
201
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.また,LGEの存在が予後に関連する可能性
12)
日サ会誌 2013, 33(1)
心臓MRIと 18F-FDG PETが診断に有用であった心臓サルコイドーシスの1例
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〔症例報告〕
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