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Master's Thesis / 修士論文
衝撃荷重を受けた積層複合材料の振動特性
を利用した損傷同定に関する研究
川村, 涼
三重大学, 2014.
三重大学大学院教育学研究科教育科学専攻 理数・生活系教育領域
http://hdl.handle.net/10076/14055
三重大学大学院教育学研究科修士論文
衝撃荷重を受けた積層複合材料の
振動特性を利用した損傷同定に関する研究
三重大学大学院教育学研究科教育科学専攻
理数・生活系教育領域
2014年 2月 1
3日
川村涼
目
第1章
1.1
1.2
第2章
次
序論
本研究の目的
本論文の構成
有限要素法及び一次せん断変形理論による減衰性能同定法
2.1 複合材料のモデル化
2.1.1 複合材料の力学的特性
2.1.2 複合材料の応力-ひずみ関係
2.1.3 複合材料の破壊形態
2.2 有限要素固有値解析法
2.2.1 有限要素法の基礎理論
2.2.2 固有値解析法
2.3 一次せん断変形理論
2.3.1 応力-ひずみ関係マトリックス
2.3.2 ひずみ-節点変位関係マトリックス
2.3.3 剛性マトリックス
2.3.4 質量マトリックス
2.3.5 振動減衰モデルの定式化
2.4 結言
第3章
…1
…3
…4
…8
…11
…15
…19
…25
…27
…35
…40
…44
…48
積層複合材料の損傷位置同定手法
3.1 損傷位置同定
3.1.1 損傷位置同定の必要性
3.1.2 損傷評価についての現状
3.2 損傷位置同定手法
3.2.1 損傷時の固有値問題
3.2.2 損傷ベクトル
3.2.3 損傷位置評価法
3.2.4 損傷表示プログラム
3.3 損傷理論を考慮した損傷同定法の提案
3.3.1 損傷理論を考慮した積層複合材料モデル
3.3.2 損傷同定結果
3.4 結言
…49
…50
…52
…53
…54
…55
…61
…66
…70
第4章
複合材料を用いた振動による振動減衰特性の評価
4.1 損傷による振動減衰特性の評価
4.1.1 自由支持打撃加振試験
4.1.2 試験片について
4.1.3 実験結果
4.1.4 考察
4.2 結言
第5章
参考文献
謝辞
結論
…71
…73
…75
…81
…82
…83
1.1 本研究の目的
第1章
1.1
序論
本研究の目的
航空機をはじめとした様々な大型構造物は,安全を確保した上,長期にわ
たって使用することが求められている .設計寿命を迎えつつある構造物の安
全な運用のためには,経年劣化した構造物に対しての安全性や信頼性の評価
と保証が不可欠である.そして,材料内部の欠陥や表面の微小な傷を ,検査
物を破壊することなく検出する方法である非破壊検査は,その設備検査の中
でも重要な支援技術であり,様々な非破壊試験法が研究,提案されている.
一方,複合材料は高い比強度と比剛性を持ち ,耐疲労特性にも優れること
から,航空機などの大型構造物にも用いられるようになり, 産業界で重要な
役割を果たしている.複合材料の一つである繊維強化プラスチックは,材料
を構成する繊維が方向性を持つため,製作段階において繊維方向を変えて積
層される.そのため,内部層で繊維破断や トランスバースクラック,層間剝
離といった損傷をしていたとしても表面ではわからず,こうした複合材料に
おける損傷同定では,目に見えない損傷を検知する方法が必要となる .
近年,複合材料が航空機部材のような安全性を重視される用途に適用され
る例が増えるに伴い,複合材料に対する非破壊検査の要求も高まってきてい
る.
このような背景から,非破壊による損傷同定法のための多くの研究がおこな
われてきた.轟・小林らは炭素繊維強化複合材料の強化剤である炭素繊維の
導電性を利用し,積層板内部の層間はく離を定量的に同定している. [1] [2]
黒木らは建物が損傷を受けた際の安全性の検証のため,拡張カルマンフィル
タのアルゴリズムに一般化伝達剛性係数法を導入した高精度な損傷同定法を
提案している.[3]構造物の健全性が何らかの要因によって損なわれた場合 ,
損傷した部材の剛性や場合によっては質量が変化し ,健全な構造物と異なる
振動特性が現れる.東・水口らは大型化した機械構造物のき裂等の損傷を検
知するため,き裂の発生に伴って変化する固有振動数に着目している. [4]振
動試験は非破壊で内部の損傷を評価することができるメリットがあり,本研
究では,こうした構造物の振動特性を利用した損傷同定手法を開発すること
を最終的な目的としている.
本研究ではまず,Zimmerman, D.C.らの構造損傷検出法[5]より,有限要素モ
デルを用いて,固有値解析による損傷同定手法について述べる.損傷時の固
有値問題から損傷同定理論をまとめ,損傷位置を示す指標として損傷ベクト
ルを定義する.損傷ベクトルを求めることよって損傷位置同定をすることが
でき,損傷ベクトルを求めるプログラムを損傷位置同定プログラムとする.
次に,求めた損傷ベクトルを視覚化するための損傷表示プログラムを構築す
る.損傷表示プログラムでは,損傷ベクトルの数値的な取扱いについてまと
-1-
1.1 本研究の目的
め,損傷ベクトルの分布を示す.最後に精度検証,2 種類の開発プログラムの
整合性を示した.
また,損傷同定には様々な手法があるが積層複合材料について研究を行っ
ているものは少ない.そこで本研究では,積層複合材料モデルによる損傷同
定を扱う.積層複合材料の持つ力学的異方性と損傷形態を考慮し,損傷力学
に基づいて,損傷時の剛性マトリックスの作成を行う.繊維破断やトランス
バースクラックといった損傷を考慮した剛性マトリックスと有限要素モデル
を用いて固有値解析,損傷位置同定を行い,開発プログラムの積層複合材料
を想定した場合の結果を示し,同定精度について述べる .
一方,航空機のような大型構造物では精密な測定には多くの時間とコスト
を要するため,すべての構造物に常に損傷同定を行うことは困難である.損
傷位置同定・損傷表示プログラムを導入する前に,まずは損傷の有無を判断
する手法が必要であると考える.
損傷同定を行うかどうかを判断するための指標として,固有値解析で得ら
れる固有振動数と振動モードを利用することがあげられる.損傷によって構
造物の剛性が変化したと考えれば,理論上固有振動数は低下するので損傷前
後の変化として指標にすることができる.しかし,目視では認識することが
困難な損傷に対しては,ほとんど固有振動数には変化が表れないため,損傷
有無の指標として固有振動数を扱うことは困難である. そこで本研究では,
振動特性の一つである減衰比に注目し,損傷が積層複合材料の振動減衰にど
のような影響を及ぼすのかを自由支持加振試験によって実験的に調査する.
それにより,振動減衰を損傷同定の指標とすることが可能かどうかについて
述べる.
-2-
1.2 本論文の構成
1.2
本論文の構成
本論文は全 5 章で構成されている.
第 2 章では,まず複合材料の力学的特性から応力-ひずみ関係についてまと
め,複合材料の破壊形態について述べた後,損傷力学の定式化により,複合材
料の損傷をどのように有限要素モデルに落とし込むかを述べる .
次に,有限要素法の基礎理論および固有値解析法について述べる.変位,ひ
ずみの定義から,それぞれの関係式,要素の剛性マトリックスについてまとめ
る.また,弾性・減衰特性同定法の基礎となる有限要素固有値解析法の定式化
について述べる.
最後に,一次せん断変形理論を導入したシェル要素の応力-ひずみ関係マト
リックス,ひずみ-節点変位関係マトリックスについて述べ,剛性マトリック
ス,質量マトリックスの導出を行う.また,ひずみエネルギー理論を適用して,
一次せん断変形理論を導入したシェル要素を用いて複合材料の応力-ひずみ関
係の定式化を行う.
第 3 章では,まず損傷位置同定の必要性や損傷評価技術の現状について述べ,
本研究との比較をし,意義や位置づけについて述べる.
次に,固有値解析による損傷同定理論によって,損傷部の剛性低下が構造全
体の振動特性を変化させることを示し,構造物の損傷位置を示すものとして損
傷ベクトルを定義する.損傷ベクトルの算出方法について述べ,算出した損傷
ベクトルは,損傷表示プログラムによって視覚化を行う.損傷表示プログラム
では,節点ごとに得られる損傷ベクトルから要素ごとの損傷ベクトルを算出し,
変位成分や振動モードごとに和をとることで,損傷個所と損傷表示プログラム
の整合性をとる.
最後に,損傷を考慮した剛性マトリックスを用いて固有値解析,損傷同定を
行う.損傷を考慮した剛性マトリックスでは,繊維破断やトランスバースクラ
ックなどの損傷形態に応じた剛性マトリックスを損傷力学に基づいて作成をす
る.繊維配向方向と損傷を考慮した一方向性複合材料モデルをつくり,開発し
たプログラムで固有値解析,損傷同定を扱い,プログラムの精度,有効性につ
いて述べる.
第 4 章では,衝撃荷重を受けた積層複合材料の振動特性の評価を行う.まず,
自由支持打撃加振試験法について述べ,固有振動数と減衰比の算出方法につい
て述べる.
次に,実験を行った積層複合材料の積層構成と損傷形態についてまとめ,試
験片ごと振動特性の結果を示す.
最後に得られた実験結果について損傷と振動特性の関係について考察を述べ
る.
第 5 章では,本研究の結論を述べる.
-3-
2.1.1 複合材料の力学的特性
第2章
2.1
2.1.1
有限要素法及び一次せん断変形理論による振動特性評価法
複合材料のモデル化
複合材料の力学的特性
複合材料は,複数の構成素材を物理的に混合した構造材料で,軽量,高剛性,
高強度などの優れた材料特性を有する.また,分散相・マトリックス相の構成
素材,分散相の形態,体積含有率を変化させることにより材料設計を行うこと
が可能で,軽量化,高機能化,多機能化を実現する構造材料として,多くの工
業分野で応用され実用化に至っている.分散相には微小系で高機能・高強度の
構成素材,マトリックス相には成形性に優れた低剛性・低強度の構成素材が適
用され,これらを混合することにより,複合材料全体として複数の材料特性を
得ることができる.また,それぞれの構成素材が有する材料特性だけでなく,
相乗効果により,構成素材単独にはない優れた材料特性が得られる可能性もあ
る.
構造材料の材料特性に対する要求は,剛性,強度,軽量性,遮音性,耐久性,
耐熱性,耐震性,耐食性,耐摩耗性など複雑化,多様化している.しかしなが
ら,金属材料のような単一材料の材料特性には限界があり,単一材料のみで,
材料特性に対する要求を完全に満たすことは困難である.これに対して,材料
設計が可能な複合材料の材料特性には無限の可能性があり,材料設計により,
構造材料の材料特性に対する要求に適合する材料特性を任意に設計することが
できる.
複合材料の材料特性は,分散相の材料特性に支配されるため,複合材料の分
類は,分散相の構成素材・形態に対して行われる.複合材料は,分散相の構成
素材により粒子分散複合材料,繊維強化複合材料に分類され,さらに繊維強化
複合材料は,分散相の形態により不連続繊維強化複合材料,連続繊維複合材料,
多方向連続繊維複合材料に分類される.繊維強化複合材料を実構造物に応用す
る場合には,繊維強化複合材料を積層して,複合効果により材料特性を向上さ
せた積層複合材料が適用される.本研究では,連続繊維複合材料を一方向性材
料,多方向連続繊維複合材料をクロス配向材料と表記する.
繊維強化複合材料は,分散相である微小系繊維と,マトリックス相である樹
脂を複合した構造材料で,その材料特性は,繊維・樹脂の構成素材,繊維形態,
繊維含有率により決定される.繊維には,ガラス繊維,炭素繊維,ケブラー繊
維,金属繊維などがあり,特に,GFRP(ガラス繊維強化プラスチック),CFRP
(炭素繊維強化プラスチック)が広範囲,広領域で適用されている.ガラス繊
維,金属繊維は,繊維の直径が微小であるほど,確率的に内部損傷が減少し,
剛性,強度が増大する.
繊維強化複合材料は,繊維と樹脂を複合形成するため,単一材料とは異なり
不均質性,材料異方性を示す.そのため,弾性定数の測定には繊維配向角の異
-4-
2.1.1 複合材料の力学的特性
なる数種類の試験片が必要となる.また,局所的な変形,破壊が生じる可能性
があり,材料試験により弾性定数を測定することは困難である.繊維強化複合
材料の繊維方向の材料特性は,繊維の材料特性に支配され,板厚方向の材料特
性は,樹脂の材料特性に支配される.したがって,繊維強化複合材料は相対的
にせん断剛性が低くなり,薄肉構造においても板厚方向のせん断変形が生じる
可能性がある.
繊維強化複合材料を実構造物に応用する場合には,高剛性,高強度,高減衰
能などの優れた材料特性を十分に発揮させ,高機能性,多機能性を実現するた
めに,その材料特性を明らかにする必要がある.以下では,図 2.1 のようなラン
ダム配向材料,一方向性材料.クロス配向材料に力学的特性と,複合則につい
て述べる.
V
T
L
(a) ランダム配向材料
図 2.1
(b) 一方向性材料
(c) クロス配向材料
繊維強化複合材料
(1)ランダム配向材料
ランダム配向材料は,樹脂に,不連続繊維をランダムに混入して成形した繊
維強化複合材料である.ランダム配向材料の力学的特性は,繊維・樹脂の構成
素材,繊維形態,繊維含有率,繊維分布状態などにより決定される.また,ラ
ンダム配向材料は,繊維が完全にランダムに配向されている場合には,繊維配
向面内において面内等方性を示すが,完全にランダムに配向されていない場合
には,繊維の強化効率が低下し,繊維配向面内において面内異方性を示す.
ランダム配向材料の弾性定数には次式のような関係がある.
EL  ET
(2.1)
GTV  GVL
(2.2)
GLT 
EL
2(1   LT )
(2.3)
-5-
2.1.1 複合材料の力学的特性
(2)一方向性材料
一方向性材料は,繊維を平行に配向させ,樹脂を混入して成形した繊維強化
複合材料である.一方向性材料の力学的特性は,繊維・樹脂の構成素材,繊維
形態,繊維含有率,繊維配向角などにより決定される.また,一方向性材料は,
繊維配向面内だけではなく繊維配向側面においても材料異方性を示す.繊維は,
円形断面,同一直径であり,正方形配列,六角形配列などの配列方法がある.
一方向性材料の弾性定数には次式のような関係がある.
EL  EV
(2.4)
GLT  GVL
(2.5)
GTV 
ET
2(1   TV )
(2.6)
また,一方向性材料のせん断弾性係数 GLT は 45°方向の縦弾性係数を ELT とする
と
1
4
1
1 2vLT




GLT ELT EL ET
EL
(2.7)
の関係より
GLT 
EL ET ELT
4 EL ET  EL ELT  ET ELT  2vLT ET ELT
(2.8)
で求められる.
(3)クロス配向材
クロス配向材は,繊維を織物状に配向させ,樹脂を混入して成形した繊維強
化複合材料である.したがって,クロス配向材の繊維含有率は,一方向性材料
に比べて小さくなる.クロス配向材料の力学的特性は,繊維・樹脂の構成素材,
繊維形態,繊維含有率,繊維配向角のほかに縦繊維方向と横繊維方向の角度,
間隔などにより決定される.
-6-
2.1.1 複合材料の力学的特性
クロス配向材料は繊維を織物状に配向しているため,繊維配向面内において
面内等方性を示す.クロス配向材料のせん断弾性係数は,幾何学的変形を考慮
して,ランダム配向材料の 20%として近似することができる.
クロス配向材料の弾性定数には次式のような関係がある.
EL ET
(2.9)
GTV  GVL
(2.10)
GLT 
2.0EL
1(2 LT )
(2.11)
(4)複合則
繊維強化複合材料の縦弾性係数 EL , ET は,複合則を適用すると,近似的に次
式で求められる.
EL
EVf f EVmm

EVf f Em 1(V f )
ET 
(2.12)
EEf m
(2.13)
EVf m EVm f
ここで,E f ,Vf は繊維の縦弾性係数,体積含有率であり, Em , Vm は樹脂の縦弾
性係数,体積含有率である.特に,Vf は繊維含有率と呼ばれる.  は繊維の形
態により決定される係数で,ランダム配向材料の場合   3 / 8 ,一方向性材料の
場合   1.0 ,クロス配向材料の場合   0.5 となる.
複合則により求められる縦弾性係数 EL , ET は,数値的厳密解ではない.しか
しながら, EL は実験的検証により,数値的近似解として適用できることが明ら
かにされている.一方, ET は実験的検証により,繊維含有率 V f が大きい場合に
は適用できないことが明らかにされている.その場合,ポアソン効果を考慮し
て,樹脂の縦弾性係数 Em* を
Em* 
Em
1  vm2
(2.14)
とすることにより,複合則が適用可能となる.
-7-
2.1.2 複合材料の応力-ひずみ関係
複合則は,界面効果,ポアソン効果,繊維と樹脂の相互干渉を無視している
ため,繊維と樹脂の材料特性が極端に異なる場合には適用できない.
2.1.2
複合材料の応力-ひずみ関係
複合材料の力学的挙動解析には,微視力学的な解析と巨視力学的な解析があ
る.微視力学的な解析とは,分散相構成素材とマトリックス相構成素材の力学
的挙動を考える解析であり,巨視力学的な解析とは,複合材料全体の力学的挙
動を考える解析である.複合材料は,分散相とマトリックス相を複合成形した
微視的不均質材料であるが,複合材料全体の力学的挙動を考える場合には,分
散相構成素材とマトリックス相構成素材の相互干渉を無視して,巨視的均質材
料としてみなすことができる.本研究では,繊維強化複合材料を巨視的均質材
料とみなして,積層複合材料の巨視的力学的挙動解析を行う.
繊維強化複合材料は,繊維・樹脂の構成素材,繊維形態,繊維含有率,積層
構成を変化させることにより材料設計を行うことが可能で,その設計条件によ
り弾性特性,振動特性,振動減衰特性が著しく変化して複雑な力学的挙動を示
す.繊維強化複合材料の複雑な力学的学的特性は,繊維強化複合材料を巨視的
均質材料とみなすことにより,材料座標系におけるラミナの応力-ひずみ関係
マトリックスでモデル化することができる.したがって,繊維強化複合材料の
材料異方性は,材料座標系におけるラミナの応力-ひずみ関係マトリックスに
反映されることになる.
繊維強化複合材料のような異方性材料は,等方性材料に比べて,材料座標系
におけるラミナの応力-ひずみ関係マトリックスが複雑化する.したがって,
繊維強化複合材料の複雑な力学的特性を,材料座標系におけるラミナの応力-
ひずみ関係でモデル化するためには,繊維強化複合材料の弾性定数を正確に把
握しなければならない.
一次せん断変形理論を導入したシェル要素を用いて繊維強化複合材料の巨視
力学的挙動解析を行う際には,繊維強化複合材料の力学的特性に応じて,二次
元化問題として平面応力問題,平面ひずみ問題,繊維強化複合材料の方向とし
てエッジ方向,フラット方向など,繊維強化複合材料の種類を正確に選択する
必要がある.これにより,弾性定数と,材料座標系におけるラミナの応力-ひ
ずみ関係マトリックスが変化し,繊維強化複合材料の複雑な力学的特性を巨視
的均質異方性材料として近似することができる.本研究では,二次元化問題と
して平面応力問題,平面ひずみ問題,繊維強化複合材料の方向としてエッジ方
向,フラット方向,繊維強化複合材料の種類として等方性材料,ランダム配向
材料,一方向性材料,クロス配向材料を定義し,各条件に対して,繊維強化複
合材料の力学的特性に応じた弾性定数を決定している.
以下では,二次元化問題として平面応力問題,平面ひずみ問題,繊維強化複
-8-
2.1.2 複合材料の応力-ひずみ関係
合材料の方向として,エッジ方向,フラット方向について述べ,さらに各条件
に対して,繊維強化複合材料の力学的特性に応じた弾性定数を示す.
(1)平面応力問題,平面ひずみ問題
材料座標系におけるラミナの応力-ひずみ関係マトリックス Q は次式で表さ
れる.
0
0 
Q11 Q12 Q13 0
Q Q
Q23 0
0
0 
22
 12
Q Q23 Q33 0
0
0 
Q   13

0
0 Q44 0
0 
 0
 0
0
0
0 Q55 0 


0
0
0
0 Q66 
 0
(2.15)
平面応力問題とは,解析対象物の板厚が小さい場合の解析方法であり,板厚
方向の応力  Z を 0 とする.平面応力問題において, Qij は次式で与えられる.
Q11 
EL2
2
EL  ET vLT
(2.16)
EL ET vLT
2
EL  ET vLT
EL ET
Q22 
2
EL  ET vLT
Q12 
(2.17)
(2.18)
Q44  GTV , Q55  GVL , Q66  GLT
(2.19)
平面ひずみ問題は,解析対象物の板厚が大きい場合の解析法であり,板厚方
向のひずみ  Z を 0 とする.平面ひずみ問題において, Qij は次式で与えられる.
2
1  1 vTV


EL  EV ET
Q11 
A



(2.20)
-9-
2.1.2 複合材料の応力-ひずみ関係
Q12 
Q13 
1
EV
1
EV
 vLT vTV vVL 



ET 
 EV
A
(2.21)
2
 1 vVL




 EL EV 
A
(2.22)
Q44  GTV , Q55  GVL , Q66  GLT
(2.23)
ただし,
A
1
EL ET EV

E 2
E 2 ET 2 
1  2vTV vVL vLT  V vTV
 L vVL

vLT 
ET
EV
EL


(2.24)
である.
(2)エッジ方向,フラット方向
本研究では,図 2.2 のように,xy 平面が繊維配向面となる場合をエッジ方向,
zx 面が繊維配向面となる場合をフラット方向として定義する.
z
y
x
(a) エッジ方向
図 2.2
(b) フラット方向
繊維強化複合材料の方向
- 10 -
2.1.3 複合材料の損傷形態
2.1.3
複合材料の損傷形態
複合材料の破壊及び強度特性の予測のため,多くの仮説が提唱されている.
破壊基準として最大応力説及び最大ひずみ説がよく用いられるが,これらは材
料主軸方向の応力成分の相互作用が無視されており,面内荷重を受ける積層材
の端部など,多軸応力状態となる場合には妥当性に乏しい.そこで、本研究に
おける力学的挙動解析では,各損傷形態の発生は Hoffman の破壊則により決定
することとする.
複合材料は力学的特性に異方性を有するために,発生する損傷も異方性とな
る.例えば,FRP は繊維方向強度と比較してせん断強度や繊維直角方向強度が
著しく低いなど,強度の異方性を示すため,負荷を受ける構造物には,繊維破
断,トランスバースクラック,樹脂破壊,層間はく離などの損傷が発生する.
以下に各損傷形態について示す.
(a) 繊維破断
繊維強化複合材料の繊維方向の引張負荷による破断で,その材料にとって最
も強い抵抗を示すモードである.
(b) トランスバースクラック
マトリックス破壊ともいい,局所的に潜在する欠陥や,繊維と母材のはく離
から生じたき裂が母材内を横断し,繊維との界面に達する.
(c) 樹脂破壊
マトリックスの破壊が起こっている点はトランスバースクラックと同じであ
るが,VL 方向にき裂が発生している.
(d) 層間はく離
積層した各層の間は,接着剤のみで強度は低く初めからよく接着していない
場合もある.曲げや衝撃,圧縮負荷などにより層の間がはく離することがある.
各モデルの損傷の様子を図 2.3 に示す.
- 11 -
2.1.3 複合材料の損傷形態
V
L
T
(a) 繊維破断モデル
V
L
T
(b) トランスバースクラックモデル
V
L
(c) 樹脂破壊モデル
図 2.3
損傷形態
- 12 -
T
2.1.3 複合材料の損傷形態
V
L
T
(d) 層間はく離モデル
図 2.3
損傷形態
有限要素法による破壊挙動解析では,破壊要素を取り除いたり,破壊要素の
剛性を低下させ,破壊後の挙動を取り扱うのが一般的である.損傷力学による
定式化により,巨視的に直交異方性材料と見なせるラミナの損傷状態での剛性
マトリックスを導出したものを以下に示す.
損傷状態の応力-ひずみ関係式は, σ LTV , ε LTV をひずみベクトル,応力ベクト
ルとして,
σ LTV  QLTV ε LTV
(2.25)
と表せる.このとき損傷状態の剛性マトリックス
Q LTV
QLTV
は
 (1  DL ) 2 Q11
(1  DL )(1  DT )Q12 (1  DV )(1  DL )Q13 0
0
0 


(1  DT ) 2 Q22
(1  DT )(1  DV )Q23 0
0
0 
(1  DL )(1  DT )Q12
(1  DV )(1  DL )Q13 (1  DT )(1  DV )Q23
(1  DV ) 2 Q33
0
0
0 


0
0
0
Q44 0
0 


0
0
0
0 Q55 0 


0
0
0
0
0 Q66 

4(1  DT ) 2 (1  DV ) 2 Q44
4(1  DV ) 2 (1  DL ) 2 Q55
4(1  DL ) 2 (1  DT ) 2 Q66
Q44 
, Q55 
, Q66 
(1  DT )(1  DV )
(1  DV )(1  DL )
(1  DL )(1  DT )
(2.26)
- 13 -
2.1.3 複合材料の損傷形態
で表現でき,
Qij
は初期状態の剛性マトリックス Q の成分を表す.D L ,D T ,D V
は,損傷テンソルの主値を表す.式(2.26)により,材料損傷は材料の剛性低下に
よって表現でき,また損傷に異方性が存在する場合には,材料が等方性か異方
性にかかわらず材料の剛性低下も異方性の表現とする必要があることがわかる.
本研究では,損傷同定を行う際,有限要素法による固有値解析を利用してい
るが,式(2.153)に基づいて,繊維破断ならば D L ,トランスバースクラックなら
ば D T ,樹脂破壊ならば D T ,D V ,層間剥離ならば D V を含む成分値を変更するこ
とによって解析モデルを表現することとする.
- 14 -
2.2.1 有限要素法の基礎理論
2.2
2.2.1
有限要素固有値解析法
有限要素法の基礎理論
有限要素法は,無限自由度の全体領域を有限自由度の部分領域の集合体とし
て近似し,数学的な連立方程式の解法を用いて,物理的近似解を求める数値解
析法である.
有限要素法では,全体領域を部分領域に分割して離散的近似を行う.この離
散化により,部分領域の連立方程式を構成し,その総和として全体領域の連立
方程式を導出することができる.有限要素法の連立方程式の解法には,変位法
に基づく偏微分方程式が用いられることが多い.そのため,有限要素法は,物
理的には近似解を,数学的には厳密解を求める解析法ということになる.
(1)剛性マトリックス
有限要素法では,節点を用いて全体領域を離散化し,その離散的な節点間を
補間関数により連続化することで,部分領域である要素を構成する.
節点変位を未知数とする変位型有限要素法では,節点変位により全体領域の
力学的挙動を表現する.また,要素内部の変位,ひずみ,応力は,節点変位の
関数として定義することができる.
要素内部の任意点における変位 u は,節点変位 δe の関数として
u  Nδe
(2.27)
で求められる.ここで, N は形状関数である.
要素内部の任意点におけるひずみ ε は,節点変位 δe の関数として
ε  Bδe
(2.28)
で求められる.ここで, B はひずみ-節点変位関係マトリックスである.
要素内部の任意点における応力  は,節点変位 δe の関数として
σ  Dε
 DBδe
(2.29)
で求められる.ここで, D は応力-ひずみ関係マトリックスである.
部分領域の連立方程式である要素の剛性方程式は,要素における節点力 Fe と
- 15 -
2.2.1 有限要素法の基礎理論
節点変位 δe の関係を表し,要素の剛性マトリックス K e を用いて次式で定義され
る.
K e δe  Fe
(2.30)
要素の剛性マトリックス K e は,仮想仕事の原理を利用すると次式で求められる.
Ke   BT DBdV
(2.31)
また,全体領域の連立方程式である構造全体の剛性方程式は,構造全体にお
ける節点力 F と節点変位 δ の関係を表し,構造全体の剛性マトリックス K を用
いて次式で定義される.
Kδ  F
(2.32)
構造全体の剛性マトリックス K は,重ね合わせの原理及び仮想仕事の原理を適
用すると,要素の剛性マトリックス K e の総和として次式で求められる.
K   Ke
(2.33)
(2)質量マトリックス
非減衰強制振動問題における要素の運動方程式は,要素の質量マトリックス
M e を用いて次式で定義される.
Me δe  K e δe  Fe
(2.34)
要素の質量マトリックス M e は,ダランベールの原理を適用すると次式で求めら
れる.
M e   N T N dV
(2.35)
- 16 -
2.2.1 有限要素法の基礎理論
ここで,  は密度である.
また,非減衰強制振動問題における構造全体運動方程式は,構造全体の質量
マトリックス M を用いて次式で定義される.
Mδ  Kδ  F
(2.36)
同様に,非減衰自由振動問題における構造全体の質量マトリックス M を用いて
次式で定義される.
Mδ  Kδ  0
(2.37)
構造全体の質量マトリックス M は,重ね合わせの原理及びダランベールの原理
を適用すると,要素の質量マトリックス M e の総和として次式で求められる.
M   Me
(2.38)
(3)スカイライン法
式(2.32)の構造全体の剛性方程式,式(2.36)の非減衰強制振動問題における構
造全体の運動方程式,式(2.37)の非減衰自由振動問題における構造全体の運動方
程式は,多元の連立方程式となる.したがって,連立方程式の解法は,有限要
素法の解析精度,解析速度に大きな影響を及ぼすことになる.
有限要素法の剛性マトリックス,質量マトリックスは対称マトリックスであ
り,また対角成分付近に非零成分が集中するという特徴を有する.本研究では,
連立方程式の解法として,これらの特性を利用した,コレスキー分解法に基づ
くスカイライン法を適用する.スカイライン法は,剛性マトリックス,質量マ
トリックスの各列において,対角成分から非零成分までのバンド幅を設定し,
バンド幅内の成分のみを記憶して,記憶領域の効率化と解析速度の向上を図る
解法である.未知数である節点変位は,スカイライン法により効率化された連
立方程式を,コレスキー分解法を適用して解くことにより求めることができる.
剛性マトリックス K は対称マトリックスであるため,下三角形マトリックス
L ,上三角形マトリックス U ,対角マトリックス D を用いて,次式のように分
解することができる.
K  LDLT
 LU
(2.39)
- 17 -
2.2.1 有限要素法の基礎理論
構造全体の剛性方程式は,式(2.6)に式(2.13)を代入すると
LUδ  F
(2.40)
となり,さらに未知ベクトル y を介在させると次式で表すことができる.
Ly  F
y  Uδ
(2.41)
i 行 j 列における剛性マトリックスの成分を K ij とすると,下三角形マトリック
スの成分 Lij ,上三角形マトリックスの成分 U ij は
U11  K11
i 1
U ij  K ij  U kj Lik
k 1
Lij 
U ij
U ii
j 1
U jj  K jj  U kj L jk



 (i  1, 2,   , j  1)






 ( j  2, 3,  , n)



(2.42)
k 1
で求められる.ここで, n は列数で n  自由度×要素数である.
未知ベクトルの成分 yi は
y1  F1
j 1
yj 
Fj  U kj yk
k 1
U jj
(2.43)
( j  2, 3,  , n)
で求められ,さらに節点変位の成分  j は
j 1
 j  y j  U kj k
( j  n,    3, 2)
(2.44)
k 1
1  y1
で求められる.
- 18 -
2.2.2 固有値解析法
2.2.2
固有値解析法
構造物の振動特性は剛性,質量により決定され,振動減衰特性は剛性,質量,
減衰により決定される.しかしながら,減衰は複雑な非線形現象であるため,
減衰マトリックスを構成して,構造物の振動減衰特性を減衰振動問題として定
式化することは非常に困難である.したがって,構造物の動的挙動を考える場
合には,構造物の振動特性を表す固有値および固有ベクトルを算出する.
非減衰自由振動問題における構造全体の運動方程式は,一般固有値問題とし
て
Kx  Mx
(2.45)
と書ける.ここで,  は固有値, x は固有ベクトルである.固有ベクトル x は節
点変位 δ と同義であり,自由振動状態における振幅の相対比を表す.
固有値  ,固有角振動数  ,固有振動数 f ,固有周期 T には,それぞれ次式の
ような関係がある.
   2  4 2 f 2 
4 2
T2
(2.46)
2
T
1

T
1

f
    2f 
 

2 2
2 2
T

 
f 
(2.47)
(2.48)
(2.49)
(1)サブスペース法
本研究では,全体空間における一般固有値問題の解法として,サブスペース
法を適用する.サブスペース法は,大規模な一般固有値問題の小規模化を図り,
任意数の固有値及び固有ベクトルを同時に求める解法である.サブスペース法
では,最小固有値を求める逆反復法と,任意数の固有値を同時に求める同時反
復法を併用しており,反復操作を行うことにより,固有ベクトル相互の独立性
を保持しながら,未知数である固有ベクトルを収束させることができる.
最小固有値から m 個の固有値と,それに対応する m 個の固有ベクトルを求め
るとき,第 n ステップの固有ベクトル列 X n を次式で定義する.
X n  x1 , x2 ,   , xm  n
(2.50)
- 19 -
2.2.2 固有値解析法
第 n ステップの固有ベクトル列 X n に,逆反復法を適用して
Z n  MX n
(2.51)
を求め,さらに連立方程式
KYn  Z n
(2.52)
を解いて Yn を求める.初期ステップにおいては,固有ベクトル列が未知である
ため,仮想的に初期固有ベクトル列 X 0 を設定する.連立方程式の解法には,コ
レスキー分解法に基づくスカイライン法を適用する.
大規模な一般固有値問題の小規模化を図るために,全体空間における一般固
有値問題を部分空間における一般固有値問題に帰着させる.一般固有値問題を
全体空間から部分空間に射影することで,同時反復法を適用して,任意数の固
有値及び固有ベクトルを同時に求めることが可能となる.
部分空間における第 n ステップの剛性マトリクス k n ,質量マトリックス mn は,
全体空間における剛性マトリックス K ,質量マトリックス M を直交化すること
により次式で求められる.
kn  YnT KYn  YnT Z
(2.53)
mn  YnT MYn
(2.54)
この直交化操作により得られた部分空間における一般固有値問題
kn tn  λn mn tn
(2.55)
を解くことにより,部分空間における第 n ステップの固有値 n ,固有ベクトル
列 t n を求めることができる.部分空間における一般固有値問題の解法には,一
般化ヤコビ法を適用する.部分空間における第 n ステップの剛性マトリックス
k n ,質量マトリックス mn ,固有ベクトル列 t n は m 行 m 列の対称マトリックスで
ある.
全体空間における第 n  1 ステップの固有ベクトル列 X n 1 は,部分空間におけ
る第 n ステップの固有ベクトル列 t n を,部分空間から全体空間に射影することに
より次式で求められる.
- 20 -
2.2.2 固有値解析法
X n 1  Yn tn
( n  0,1, 2  )
(2.56)
式(2.51)以下の反復操作を行うことにより,固有ベクトル列 X を収束させ, m
個の固有値と,それに対応する m 個の固有ベクトルを求める.収束した場合,K ,
M はともに対角マトリックスとなり, X , Y はともに固有ベクトル列となる.
(2)一般化ヤコビ法
本研究では,部分空間における一般化固有値問題の解法として,一般化ヤコ
ビ法を適用する.一般化ヤコビ法は,すべての固有値及び固有ベクトルを同時
の求める解法である.
一般化ヤコビ法の初期設定として,部分空間における固有ベクトル列 t を単位
マトリックスとして初期化する.
部分空間における剛性マトリックス k ,質量マトリックス m の,絶対値最大
の非対角成分をそれぞれ kij , mij とし
kij2
(2.57)
kii2  k 2jj
mij2
(2.58)
mii2  m 2jj
を求める.式(2.57)と式(2.58)を比較し,大きい方の行番号を p ,列番号を q とし
て
a  k ppm pq  k pqm pp
b  k ppmqq  kqqm pp
(2.59)
c  k pqmqq  kqqm pq
を求め,さらに二次方程式
x 2  bx  ac  0
(2.60)
を解いて x を求める.二次方程式の解を比較し,絶対値が大きい方の解を x とし
て,非対角成分 k pq , m pq が 0 となるような  ,  を次式により決定する.
- 21 -
2.2.2 固有値解析法
c
x
a

x

(2.61)
部分空間における剛性マトリックス k ,質量マトリックス m に対して,次式
の列間操作を行う.
k pj  k pj   kqj
kqj  k pj   kqj
m pj  m pj   mqj
( j  1, 2,  , m)
(2.62)
m pj  m pj   mqj
同様に,部分空間における剛性マトリックス k ,質量マトリックス m に対し
て,次式の行間操作を行い,さらに固有ベクトル列 t を更新する.
kip  kip   kip
kiq  kiq   kiq
mip  mip   mip
miq  miq   miq
( i  1, 2,  , m)
(2.63)
tip  tip   tip
tiq  tiq   tiq
式(2.57)以下の反復操作を行うことにより,固有ベクトル列 t を収束させ,m 個
の固有値と,それに対応する m 個の固有ベクトルを求める.収束した場合, k ,
m はともに対角マトリックスとなり, t は単位マトリックスとなる.
部分空間における固有ベクトル列 t は
 t11 t12
t
t
t  t1 t 2    t m    21 22



tm1 tm 2
 t1m 
 t21 
  

 tmm 
(2.64)
で表され,式(2.64)の t を,式(2.56)の t n に代入すると,全体空間における固有ベ
クトル列 X が求められる.
- 22 -
2.2.2 固有値解析法
全体空間及び部分空間における i 次の固有値 i は,レイリー商を適用すると
i 
kii
mii
( i  1, 2,  , m)
(2.65)
で求められる.全体空間における固有値と部分空間における固有値は同一であ
る.また,式(2.48)に, i 次の固有値 i を代入すると, i 次の固有振動数 f i が求め
られる.
- 23 -
2.3.1 応力-ひずみ関係マトリックス
2.3
2.3.1
一次せん断変形理論による振動特性解析法
応力-ひずみ関係マトリックス
本研究では,有限要素に,薄肉構造物に対応する一次せん断変形理論を導入
したシェル要素を適用し,積層複合材料の振動減衰モデルの定式化を行う.
シェル要素では,一次せん断変形理論を導入して積層複合材料の板厚方向に
対して等価剛性を求めることで,三次元構造を二次元構造として近似している.
構造物は本質的に三次元構造であるが,薄肉構造の場合,応力状態,ひずみ状
態が板厚方向に対して直線分布すると仮定して,板厚方向の変形を無視するこ
とができる.薄肉構造物の構造解析を行う場合には,このような積層理論を適
用することにより,大幅な自由度の低減と解析速度の向上を図ることができる.
シェル要素の座標系として,全体座標系 XYZ ,要素座標系 xyz ,材料座標系 LTV
は,繊維方向を L 軸,xy 平面内で L 軸から反時計回りに 90°回転した繊維直角
方向を T 軸としたラミナの座標系である.
シェル要素は,全体座標系 XYZ において, x , y , z ,  x ,  y ,  z の 6 自由度
を有する.しかしながら,積層複合材料は相対的にせん断剛性が低いため,薄
肉構造においても板厚方向のせん断変形が生じる可能性がある.また,せん断
変形による振動減衰は,積層複合材料の振動減衰に大きな影響を及ぼすため,
積層複合材料の振動減衰特性をシェル要素でモデル化する際には,板厚方向の
せん断変形を考慮しなければならない.そこで,本研究では,一次せん断変形
理論を導入してシェル要素にせん断変形成分  yz ,  zx ,  xy を付加し,板厚方向
のせん断変形を一次式で近似する.
これにより,一次せん断変形理論を導入したシェル要素は,全体座標系 XYZ に
おいて, x , y , z , x , y , z , yz , zx ,  xy の 9 自由度を有することになる.
図 2.4
シェル要素の座標系
- 24 -
2.3.1 応力-ひずみ関係マトリックス
積層複合材料の総板厚を h ,総積層数を n ,積層複合材料中央面から k 番目の
ラミナ上面までの距離を hk ,その層の繊維配向角を  k とする.
材料座標系におけるラミナの応力-ひずみ関係は
0
0   L 
 L  Q11 Q12 0
  Q Q
0
0
0    T 
22
 T   21
 
0 Q33 0
0   TV 
 TV    0

   0
0
0 Q44 0   VL 
 VL  
 
 LT k  0
0
0
0 Q55  k  LT k
(2.66)
 k  Qk  k
(2.67)
で表される. (Qij ) k は,ラミナの弾性定数により決定される剛性定数である.
要素座標系におけるラミナの応力-ひずみ関係マトリックス Qk は,材料座標
系におけるラミナの応力-ひずみ関係マトリックス Qk を座標変換して
Qk  TkT Qk Tk
(2.68)
で求められる.ここで, Tk は,材料座標系と要素座標系の座標変換マトリック
スであり,次式で求められる.
 c2
s2
 2
c2
 s
Tk   0
0

0
 0
 2cs 2cs

0
0
c
s
0
cs 

0
 cs 
s
0 

c
0 
0 c 2  s 2 
0
(2.69)
ただし, c  cos  k , s  sin k である.
シェル要素では,積層複合材料の材料特性をラミナの材料特性の線形和とし
て定義し,板厚方向に対して等価剛性を求めることで,三次元構造を二次元構
造として近似している.したがって,積層複合材料の応力-ひずみ関係は,ラ
ミナの応力-ひずみ関係の線形和で表される.また,非積層複合材料の場合,
積層複合材料の中央面でのつり合いを保つ必要があり,積層複合材料の応力-
ひずみ関係をシェル要素でモデル化する際には,面内力と面外力のカップリン
グ剛性を考慮しなければならない.カップリング剛性は,ラミナが等方性材料
の場合にも存在し,積層複合材料中央面に対して,ラミナの材料特性,積層構
成が完全に対称である場合のみ 0 となる.
- 25 -
2.3.1 応力-ひずみ関係マトリックス
要素座標系における積層複合材料の応力-ひずみ関係は
 P   DP
  
 B    DC
   0
 S 
DC
DB
0
0   P 
 
0   B 
DS   S 
(2.70)
σ  Dε
(2.71)
で表される.  P ,  B ,  S は,それぞれの合応力,合モーメント,合せん断応力
を表し,  P ,  B ,  S は,それぞれ中央面ひずみ,曲率,せん断ひずみを表す .
また, DP , DB , DS , DC は,それぞれ面内変形問題,面外変形問題,せん断変
形問題,カップリングにおける応力-ひずみ関係マトリックスであり,その成
分は次式で与えられる.
n
DPij   (Qij ) k hk  hk 1 
(i, j  1, 2, 6)
(2.72)
(i, j  1, 2, 6)
(2.73)
(i, j  4, 5)
(2.74)
(i, j  1, 2, 6)
(2.75)
k 1
DBij 

1 n
(Qij )k hk3  hk31

3 k 1

n
DSij    (Qij )k hk  hk 1 
DCij 
k 1
n

1
(Qij ) k hk2  hk21

2 k 1

ここで,  は,一次せん断変形理論で用いられるせん断補正係数である.せん
断補正係数は   5 6 , 2 12 ,2 3 などの数値が用いられているが,本研究では,
せん断応力分布から理論的に導出される   5 6 を適用する.
- 26 -
2.3.2 ひずみ-節点変位関係マトリックス
ひずみ-節点変位関係マトリックス
2.3.2
一次せん断変形理論を導入したシェル要素は,全体座標系において, x , y ,
z ,  x ,  y ,  z ,  yz ,  zx ,  xy の 9 自由度を有する.しかしながら,要素座標
系においては,  z ,  xy の成分がなく, x , y , z ,  x ,  y ,  yz ,  zx の 7 自由度
となる.これらは x , y 成分の面内変形問題, z ,  x ,  y 成分の面外変形問題,
 yz ,  zx 成分のせん断変形問題に分けられ,それぞれの問題は,変形が微小であ
ると仮定することにより独立して扱うことができる.したがって,積層複合材
料の変位-節点関係マトリックスについて述べ,その後,一次せん断変形理論
を挿入して面外変形問題とせん断変形問題をと統一し,せん断変形を考慮した
面外変形問題における形状関数,ひずみ-節点変位関係マトリックスについて
述べる.
(1)面内変形問題における形状関数
要素内部の任意点における x 方向変位 u , y 方向変位 v を変位関数として次式
で定義する.
 3 y
u  
1 2 x
(2.76)
v   4  5 x  6 y
ここで,節点変位 i , j , k における節点座標を ( xi , yi ) , ( x j , y j ) , ( xk , yk ) とする
と,節点変位 (ui , vi ) , (u j , v j ) , (uk , vk ) は
ui

1 
2 x
i  3 yi
vi
 4  
5 x
i  6 yi
uj

1 
2 jx   3 y j
vj
 4  
5 jx   6 y j
uk

1 
2 kx   3 yk
vk
 4  
5 kx   6 yk
(2.77)
で求められる.
式(2.77)を未知数 1 ,  2 ,  3 ,  4 ,  5 ,  6 について解くと,面内変形問題に
おける変位-節点変位関係は,面内変形問題における形状関数 N P を用いて次式
で表される.
- 27 -
2.3.2 ひずみ-節点変位関係マトリックス
u   N i
 
v  0
Nj
0
Ni
0
0
Nj
Nk
0
ui 
v 
 i
0  u j 
 
N k  v j 
u 
 k
vk 
uP  N P δP
(2.78)
(2.79)
面内変形問題における形状関数の成分 N i , N j , N k は次式で求められる.
Ni 
Nj 
ai  bi x  ci y
2
a j  bj x  c j y
(2.80)
2
a  b x  ck y
Nk  k k
2
ただし
ai  x j y k  x k y j ,
a j  xk yi  xi y k ,
ak  xi y j  x j yi
bi  y j  y k ,
b j  y k  yi ,
bk  yi  y j
ci  xk  x j ,
c j  xi  xk ,
ck  x j  xi
1 xi
1
  1 xj
2
1 xk
(2.81)
yi
yj
(2.82)
yk
である.ここで,  は,節点 i , j , k を反時計回りに設定したときの要素の面
積である.
- 28 -
2.3.2 ひずみ-節点変位関係マトリックス
(2)面内変形問題におけるひずみ-節点変位関係マトリックス
要素内部の任意点におけるひずみ  x ,  y ,  xy を次式で定義する.
u
x
v
y 
y
u v
 xy 

y x
x 
(2.83)
(2.84)
(2.85)
式(2.83)~(2.85)に式(2.78)を代入すると,面内変形問題におけるひずみ-節点
変位関係は,面内変形問題におけるひずみ-節点変位マトリックス BP を用いて
次式で表される.
 u   Ni

 
  x   x   x
   v  
 0
 y   
 
   y  
 xy  v u
    Ni
 x y   y
0
N i
y
N i
x
N j
x
0
0
N j
N j
y
N j
y
x
εP  BP δP
N k
x
0
N k
y
  ui 
0   vi 
 
N k  u j 
 
y  v j 

N k  uk 
x  v 
 k
(2.86)
(2.87)
さらに,式(2.86)に式(2.80)を代入すると,面内変形問題におけるひずみ-節点
変位関係は次式で表される.
x 
bi 0 b j
  1 
 y  
 0 ci 0
2

 
ci bi c j
 xy 

0
cj
bj
bk
0
ck
 ui 
v 
0  i 
 u 
ck   j 
v
bk   j 
uk 
 
vk 
- 29 -
(2.88)
2.3.2 ひずみ-節点変位関係マトリックス
(3)せん断変形問題を考慮した面外変形問題における形状関数
一次せん断変形理論を導入して, z ,  x ,  y 成分の面外変形問題と  yz ,  zx 成
分のせん断変形問題を統一し,せん断変形を考慮した面外変形問題として変位
-節点変位関係を考える.
要素内部の任意点における

 11 w
L33 (4L12
22
 (6
2
2
 (8
2
3
1
L
2
1

2
1

2
1
LL
2
1

LL( 7 223 LL
3LL )12
3L
2
1

LL( 9 312 LL
1 LL )12
3L
2
2
LL )12
LL(
3L
2
5 12
LL1L23 )
LL1L23 )
(2.89)
LL1L23 )
 yz  13L1  14L2  15L3
(2.90)
 zx  10L1  11L2  12L3
(2.91)
また,  x 方向変位  x ,  y 方向変位  y を,変位関数として次式で定義する.
x 
w
  yz
y
y  
(2.92)
w
  zx
x
(2.93)
ここで, x , y は平均的回転角, yz , zx は平均的せん断ひずみであり,L1 ,L2 ,
L3 は面積座標である.
式(2.89)~(2.93)を解くと,せん断変形を考慮した面外変形問題における変位
uF と,未知数 α の関係は次式で表される.
- 30 -
2.3.2 ひずみ-節点変位関係マトリックス
L2
L3
 w   L1
    c 2
c j 2
ck 2
 x   i
  y    bi 2  b j 2  bk 2
   0
0
0
 yz  
 zx   0
0
0


0
0
0
0
  L1  L2
 0
0
 L1
L2
0
0
0
L1
0
L2
 L3
0
L3
0
L1
0
0
L2
0
 1 
 
 2
3 
0  

L3   
10 
0    (2.94)
 
L3   11 
 
0   12 
13 
 
 14 
15 
uF  Pα
(2.95)
ただし
w

y
i
cw
cw
cw
 j
 k
2L
2
1
L2 2L3
(2.96)
w

x
i
bw
bw
bw
 j
 k
2L
2
1
L2 2L3
(2.97)
である.
ここで,節点 i , j , k における面積座標を i (1, 0 , 0 ) , j (1, 0 , 0 ) , k (1, 0 , 0 ) とす
ると,せん断変形を考慮した面外変形問題における節点変位 δF と未知数 α の関
係は次式で決定される.
 wi  
  
 xi  
  yi  
  
   
  zxj  
 
 wk  
  xk  
  
  yk  
  
 yzk  
 zxk  
1
ci 2
b
i 2

0
0
ci 2
b
i 2
0
0
0
c j 2
0
ck 2


0
0
0
0
b j 2  bk 2   1 0


  


0
0
1
0
c j 2
ck 2 
b j 2  bk 2 
0
0
0
0


0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
- 31 -
0 0 0   1 
1 0 0   2 
0 0 0 0   3 
 
      
0 0 0 0 10 
 
0 0 0 0 11 
0 0 0 1 12 
 
 1 0 0 0 13 
0 0 0 1 14 
 
1 0 0 0 15 
0
0
(2.98)
2.3.2 ひずみ-節点変位関係マトリックス
δF  Cα
(2.99)
式(2.99)より,未知数 α は
α  C 1δF
(2.100)
で求められ,式(2.100)を式(2.95)に代入すると,せん断変形を考慮した面外変形
問題における変位-節点変位関係は,せん断変形を考慮した面外変形問題にお
ける形状関数 N F を用いて次式で表される.
uF  PC 1δF
(2.101)
 N F δF
(4)せん断変形を考慮した面外変形問題における
ひずみ-節点変位関係マトリックス
一次せん断変形理論を導入して, z ,  x ,  y 成分の面外変形問題と,  yz ,  zx
成分のせん断変形問題を統一し,せん断変形を考慮した面外変形問題としてひ
ずみ-節点変位関係を考える.
要素内部の任意点における曲率  x ,  y ,  z ,せん断ひずみ  yz ,  zx を次式で
定義する.
x  
 2 w  zx

x 2
x
(2.102)
y  
 2 w  yz

y 2
y
(2.103)
 xy  2
 2 w  zx  yz


xy y
x
(2.104)
 yz   yz
(2.105)
 zx   zx
(2.106)
- 32 -
2.3.2 ひずみ-節点変位関係マトリックス
式(2.102)~(2.106)を解くと,せん断変形を考慮した面外変形問題におけるひ
ずみ ε F と,未知数 α の関係は次式で表される.
  x  0
   0
 y  
 xy   0
  0
 yz  
 zx  0
0 0 
0 0 
0 0 
0 0 
0 0 
 1 
 
 2
3 
0
0
0  
 bi 2  b j 2  bk 2

0
0
0
 ci 2  c j 2  ck 2   
10 
ci 2
c j 2
ck 2
bi 2
b j 2
bk 2   
 
0
0
0
 L1
 L2
 L3   11 
 
0
0
0   12 
 L1
 L2
 L3
13 
 
 14 
15 
(2.107)
ε  Rα
(2.108)
F
ただし
2
2
b ib 2 w

b
2w
j w
i
kb w 



x 2
2 2 L1L1 2 L1L2 2 L1L3 
2
2

b j  ib 2 w
b
j w
kb w





2 2 L2L1 2 L2L2 2 L2L3 
2
b
b b 2 w
b 2 w 
j w
 k i

 k
2 2 L3L1 2 L3L2 2 L3L3 
(2.109)
2
2
c ic 2 w

2w
jc w
i
kc w 



2
y
2 2 L1L1 2 L1L2 2 L1L3 
2
c 
c 2 w
c 2 w 
jc w
 j  i

 k
2 2 L2L1 2 L2L2 2 L2L3 
2
2
 ic 2 w

jc w
kc
kc w





2 2 L3L1 2 L3L2 2 L3L3 
(2.110)
- 33 -
2.3.2 ひずみ-節点変位関係マトリックス
bj2w
2w
ci  bi  2 w
bk  2 w 



xy 2  2L1L1 2L1L2 2L1L3 
c  b 2w
bj2w
b  2 w 
 j  i

 k
2  2L2L1 2L2L2 2L2L3 
bj2w
ck  bi  2 w
bk  2 w 



2  2L3L1 2L3L2 2L3L3 
(2.111)
 zx bi  zx b j  zx bk  zx



x
2L1 2L2 2L3
(2.112)
 yz
y

ci  yz
2L1

c j  yz
2L2

ck  yz
(2.113)
2L3
 zx  yz ci  zx c j  zx ck  zx bi  yz b j  yz bk  yz







y
x
2L1 2L2 2L3 2L1 2L2 2L3
(2.114)
である.
式(2.100)を式(2.108)に代入すると,せん断変形を考慮した面外変形問題にお
けるひずみ-節点変位関係は,せん断変形を考慮した面外変形問題におけるひ
ずみ-節点変位関係マトリックス BF を用いて次式で表される.
 F  RC 1δF
(2.115)
 BF δF
- 34 -
2.3.3 剛性マトリックス
2.3.3
剛性マトリックス
要素座標系における要素の剛性マトリックスは,面内変形問題における剛性
マトリックス,せん断変形を考慮した面外変形問題における剛性マトリックス,
面内変形問題と面外変形問題のカップリング剛性,仮想回転・せん断剛性を合
成して構成することができる.
要素座標系には,  z ,  xy 成分がなく, z ,  xy 成分に対応する剛性は不定であ
る.  z ,  xy 成分に対応する剛性は 0 として,要素座標系における要素の剛性マ
トリックスを構成することもあるが,その場合,連立方程式を解くことが非常
に困難となる.そこで,本研究では,数値解析的な困難を回避するために,仮
想回転・せん断剛性として,仮想的に  z ,  xy 成分に対応する剛性を付加する.
面内変形問題における剛性マトリックス K P は,面内変形問題における応力-
ひずみ関係マトリックス DP ,ひずみ-節点変位関係マトリックス BP を用いて次
式で求められる.
K P   BPT D B
P P dS
(2.116)
 BPT D B
PP
通常,要素の剛性マトリックスを求める際には,体積に対して積分を行う.し
かしながら,本研究では,応力-ひずみ関係マトリックスを求める際に,板厚
に対して積分を行っているため,式(2.116)では,面積に対してのみ積分を行う
ことになる.
せん断変形を考慮した面外変形問題における剛性マトリックス K F は,せん断
変形を考慮した面外変形問題における応力-ひずみ関係マトリックス DF ,ひず
み-節点変位関係マトリックス BF を用いて次式で求められる.
K P   BFT DF B F dS
(2.117)
ただし,
D
DF   B
0
0
DS 
(2.118)
B 
BF   B 
 BS 
(2.119)
である.式(2.117)の積分は,面積座標を利用したガウス積分を適用することに
- 35 -
2.3.3 剛性マトリックス
より単純化することができる.ガウスの積分点は各辺の中点であり,その面積
座標 ( L1 , L2 , L3 ) は 1(1/2,1/2,0),2(0,1/2,1/2),3(1/2,0,1/2)となる.ガウスの積分公
式を適用すると,せん断変形を考慮した面外変形におけるひずみ-節点変位関
係マトリックス BF を,各積分点の面積座標を代入して求めたひずみを-節点変
位関係マトリックスの線形和として定義することができる.これにより,せん
断 変 形 を考慮した面外変形問題における剛性マトリックス K F は次式で求めら
れる.
3
1
K F   BFT DF BF
1 3
(2.120)
ここで,1/3 は積分点の重みである.
面内変形問題と面外変形問題のカップリング剛性 K C は,カップリングにおけ
る応力-ひずみ関係マトリックス DC を用いて次式で求められる.
K C   BPT DC BP dS
(2.121)
 BPT DC BP
仮想回転・せん断剛性 K , K  は次式で定義される.
 0.5  0.5
 1

K  K   Eh  0.5
1
 0.5
 0.5  0.5
1 
(2.123)
ここで,  は任意係数であり,本研究では   0.005 を適用する.仮想回転・せ
ん断剛性は,任意の数値を設定することができ,その力学的根拠は薄い.
図 2.5 に面内変形問題における剛性マトリックス K P ,図 2.6 にせん断変形を
考慮した面外変形問題における剛性マトリックス K F ,図 2.7 に面内変形問題と
面外変形問題のカップリング剛性 K C を示す. K P は 6×6, K F は 15×15, K C は
6×9 の対称マトリックスとなる.せん断変形を考慮した面外変形問題における
剛性マトリックス K F は図 2.6 のように,面外変形問題における剛性マトリック
ス K B ,せん断変形問題における剛性マトリックス K S ,面外変形問題とせん断
変形問題のカップリング剛性 K BS に分解することができる.
K P , K B , K S , K BS , K C , K , K  を,図 2.8 のように合成すると,要素座標
系における要素の剛性マトリックス K L を構成することができる. K L は 27×27
の対称マトリックスとなる.
構造全体を要素の集合体として近似するためには,要素座標系における要素
- 36 -
2.3.3 剛性マトリックス
の剛性マトリックス K L を,要素座標系から全体座標系へ座標変換して,座標系
の統一を図る必要がある.全体座標系における要素の剛性マトリックス K G は,
要素座標系と全体座標系の座標変換マトリックス L を用いて次式で求められる.
G
K
T
(2.124)
LK
LL
全体座標系における構造全体の剛性マトリックス K は,全体座標系における
要素の剛性マトリックス K G の総和として次式で求められる.
K  K G
(2.125)
j
k
x y x yx y
x
y
j
iKp
Kん Kp
x
Kp
j Kんk
Kp=
=jy
x
Kp
k
y
図 2.5
面内変形問題における剛性マトリックス
- 37 -
2.3.3 剛性マトリックス
図 2.6
せん断変形を考慮した面外変形問題における剛性マトリックス
図 2.7
面内変形問題と面外変形問題のカップリング剛性
- 38 -
2.3.3 剛性マトリックス
図 2.8
要素座標系における要素の剛性マトリックス
- 39 -
2.3.4 質量マトリックス
2.3.4
質量マトリックス
要素座標系における要素の質量マトリックスは, x , y 成分面内変形問題にお
ける質量マトリックス z ,  x ,  y ,  yz ,  zx 成分のせん断変形を考慮した面外変
形問題における質量マトリックス,仮想回転・せん断質量を合成して構成する
ことができる.
本研究では,数値解析的な困難を回避するために,仮想回転・せん断質量と
して,仮想的に  z ,  xy 成分に対応する質量を付加する.
面内変形問題における質量マトリックス M P は,面内変形問題における形状関
数 N P を用いて次式で求められる.
M P   Ν PT  P Ν P dS
(2.126)
   P Ν PT Ν P
ここで,面内変形問題における  P は次式で与えられる.
n
 P   k hk  hk 1 
(2.127)
k 1
式(2.126)を解くと,面内変形問題における質量マトリックス M P ,一意的に次式
で表される.
2
0

 P 1
MP 

12 0
1

0
0
2
0
1
0
1
1
0
2
0
1
0
0
1
0
2
0
1
1
0
1
0
2
0
0
1 
0

1
0

2
(2.128)
せん断変形を考慮した面外変形問題における質量マトリックス M F は,せん断
変形を考慮した面外変形問題における形状関数 N F を用いて次式で求められる.
M F   Ν PT  P Ν P dS
(2.129)
せん断変形を考慮した面外変形問題における  F は,並進慣性,回転慣性,せん
断弾性を考慮すると,対角マトリックスとして次式で与えられる.
- 40 -
2.3.4 質量マトリックス
n
 F    k hk  hk 1 
11
k 1
 F   BS 


 F   BS


22
44
33
55
1 n
 k hk3  hk31

3 k 1
1 n
   k hk2  hk21
2 k 1
(2.130)
ただし
N 
NF   B 
NS 
(2.131)
である.式(2.129)の積分は,面積座標を利用したガウス積分を適用することに
より単純化することができる.ガウスの積分公式を適用すると,せん断変形を
考慮した面外変形問題における形状関数 N F を,各積分点の面積座標を代入して
求めた形状関数の線形和として定義することができる.これにより,せん断変
形を考慮した面外変形問題における質量マトリックス M F は次式で求められる.
1
1
M F   Ν F  F Ν F
3 3
(2.132)
仮想回転・せん断質量 M , M  は次式で定義される.
1 1 1
 P 

M  M  
1 1 1
12
(2.133)
1 1 1
ここで,  は任意係数であり,本研究では   1.0 1020 を適用する.仮想回転・
せん断剛性は,任意の数値を設定することができ,その力学的根拠は薄い.
図 2.9 に面内変形問題における質量マトリックス M P ,図 2.10 にせん断変形を
考慮した面外変形問題における質量マトリックス M F を示す.M P は 6×6,M F は
15×15 の対称マトリックスとなる.せん断変形を考慮した面外変形問題におけ
る質量マトリックス M F は図 2.10 のように,面外変形問題における質量マトリ
ックス M B ,せん断変形問題における質量マトリックス M S ,面外変形問題とせ
ん断変形問題のカップリング質量 M BS に分解することができる.
M P , M B , M S , M BS , M , M  を,図 2.1 のように合成すると,要素座標
- 41 -
2.3.4 質量マトリックス
系における要素の剛性マトリックス M L を構成することができる. M L は 27×27
の対称マトリックスとなる.
構造全体を要素の集合体として近似するためには,要素座標系における要素
の質量マトリックス M L を,要素座標系から全体座標系へ座標変換して,座標系
の統一を図る必要がある.全体座標系における要素の剛性マトリックス M G は,
要素座標系と全体座標系の座標変換マトリックス L を用いて次式で求められる.
MG  LT M L L
(2.134)
全体座標系における構造全体の剛性マトリックス M は,全体座標系における
要素の剛性マトリックス M G の総和として次式で求められる.
M   MG
(2.135)
図 2.9
面内変形問題における質量マトリックス
- 42 -
2.3.4 質量マトリックス
図 2.10
せん断変形を考慮した面外変形問題における質量マトリックス
- 43 -
2.3.5 振動減衰モデルの定式化
図 2.11
2.3.5
要素座標系における要素の質量マトリックス
振動減衰モデルの定式化
本項では,ひずみエネルギー理論を適用して,一次せん断変形理論を導入し
たシェル要素の振動減衰モデルの定式化を行う.この振動減衰モデルを用いれ
ば,ラミナの減衰定数から積層複合材料の減衰比を算出し,積層複合材料の振
動減衰特性を正確に表現することができる.
積層複合材料の減衰比  は,構造全体のひずみエネルギー U ,構造全体の消
散ひずみエネルギー U を用いて次式で定義される.
 
1 U

4 U
(2.136)
- 44 -
2.3.5 振動減衰モデルの定式化
構造全体の最大ひずみエネルギー U ,構造全体の消散ひずみエネルギー U は,
重ね合わせの原理を適用することにより,要素の最大ひずみエネルギー U e ,構
造全体の消散ひずみエネルギー U e の総和として次式で求められる.
U  U e
(2.137)
U   U e
(2.138)
さらに,要素の最大ひずみエネルギー U e ,構造全体の消散ひずみエネルギー U e
は,
1 T T
δe B DB dV δe
2 
1
U e  δeT  BT Ψ DB dV δe
2
Ue 
(2.139)
(2.140)
で求められる.
式(2.139)における D は,要素座標系における積層複合材料の応力-ひずみ関
係マトリックスに該当し
 DP
D   DC
 0
DC
DB
0
0
0 
DS 
(2.141)
で表される. DP , DB , DS , DC は,それぞれ面内変形問題,面外変形問題,せ
ん断変形問題,カップリングにおける応力-ひずみ関係マトリックスであり,
その成分は次式で与えられる.
- 45 -
2.3.5 振動減衰モデルの定式化
n
DPij   (Qij ) k hk  hk 1 
(i, j  1, 2, 6)
(2.142)
(i, j  1, 2, 6)
(2.143)
(i, j  4, 5)
(2.144)
(i, j  1, 2, 6)
(2.145)
k 1
DBij 

1 n
 (Qij )k hk3  hk31
3 k 1

n
DSij    (Qij )k hk  hk 1 
DCij 
k 1
n

1
(Qij ) k hk2  hk21

2 k 1

ここで,要素座標系におけるラミナの応力-ひずみ関係マトリックス Qk は
Qk  TkT K kTk
(2.146)
で求められる.
ラミナの減衰定数 Ψ k は次式で定義される.
0 
 L


T



Ψk  
 TV


 VL


 0
 LT 
(2.147)
 L ,  T は,各軸方向の面内変形に関する減衰定数,  TV ,  VL ,  LT は各座標面
のせん断変形に関する減衰定数である.減衰定数は,ひずみに対する減衰能を
表す.
要素座標系におけるラミナの減衰マトリックス Ψ k は
Ψ k  TkT Ψ k Qk Tk
(2.148)
で求められる.
式(2.113)における Ψ D は,要素座標系における積層複合材料の減衰能マトリ
ックス Ψ D に該当し
Ψ P Ψ C 0 
Ψ D  Ψ C Ψ B 0 
 0
0 Ψ S 
(2.149)
- 46 -
2.3.5 振動減衰モデルの定式化
で表される. Ψ P , Ψ B , Ψ S , Ψ C は,それぞれ面内変形問題,面外変形問題,せ
ん断変形問題,カップリングにおける減衰能マトリックスであり,その成分は
次式で与えられる.
n
 Pij   (Qij )k hk  hk 1 
(i, j  1, 2, 6)
(2.150)
k 1
 Bij 

1 n
(Qij ) k hk3  hk31

3 k 1

n
 Sij    (Qij ) k hk  hk 1 
Cij 
k 1
n

1
(Qij ) k hk2  hk21

2 k 1

(i, j  1, 2, 6)
(2.151)
(i, j  4, 5)
(2.152)
(i, j  1, 2, 6)
(2.153)
要素座標系における積層複合材料の応力-ひずみ関係マトリックス D と,要
素座標系における積層複合材料の減衰能マトリックス Ψ D を用いると,要素の最
大ひずみエネルギー U e ,要素の消散ひずみエネルギー U e は,
1 T T T
xe L  B D B dS Lxe
2
1
U e  xeT LT  BTΨ D B dS Lxe
2
Ue 
(2.154)
(2.155)
で求められる.さらに,式(2.127)は,全体座標系における要素の剛性マトリッ
クス K G を用いて
Ue 
1 T
xe K G xe
2
(2.156)
と書き換えられる.
3 項と 4 項で導出した全体座標系における構造全体の剛性マトリックス,質量
マトリックスを用いると,非減衰自由振動問題における一般固有値問題を定式
化して,固有値及び固有ベクトルを導出することができる.本研究では,有限
要素固有値解析法を利用しているため,節点変位 δe に固有ベクトル xe を代入し
て,積層複合材料の減衰比を算出する.したがって,有限要素解析で得られる
任意数の固有ベクトルを代入すれば,それに対応する任意数の減衰比を算出す
ることができる.
要 素 座標系における積層複合材料の減衰能マトリックス Ψ D は非対称マトリ
ックスとなるため,スカイライン法を適用して,構造全体の最大ひずみエネル
ギー U ,構造全体の消散ひずみエネルギー U を求めることは不可能である.し
たがって,積層複合材料の減衰比を算出する場合には,各要素において要素の
- 47 -
2.4 結言
最大ひずみエネルギー U e ,要素の消散ひずみエネルギー U e を求め,それらの
総和として構造全体の最大ひずみエネルギー U ,構造全体の消散ひずみエネル
ギー U を求めなければならない.
2.4
結言
本章ではまず,複合材料の力学的特性から応力-ひずみ関係についてまとめ,
複合材料の破壊形態について述べた後,複合材料の損傷をどのように有限要素
モデルに落とし込むかを述べた.
次に,有限要素法の基礎理論および固有値解析法について述べ,弾性・減衰
特性同定法の基礎となる有限要素固有値解析法の定式化を行った.また,弾性・
減衰特性同定法の基礎となる有限要素固有値解析法の定式化について述べた.
最後に,一次せん断変形理論を導入したシェル要素の応力-ひずみ関係マト
リックス,ひずみ-節点変位関係マトリックスについて述べ,剛性マトリック
ス,質量マトリックスの導出を行った.また,ひずみエネルギー理論を適用し
て,一次せん断変形理論を導入したシェル要素を用いて複合材料の応力-ひず
み関係の定式化を行った.
- 48 -
3.1.1 損傷同定の必要性
第3章
3.1
3.1.1
積層複合材料の損傷位置同定手法
損傷位置同定とは
損傷位置同定の必要性
設備の大型化,高齢化が進んでいる一方,ひとたび事故が起これば,被害は
それに比例するように大きくなってきた.ここでいう被害とは,長期にわたる
活動の停止,設備の修復や後進による損失,損害補償や社会的イメージダウン
等,直接的なものから間接的なものまで多岐にわたる損失をいう.そこで,設
備診断技術を使用し,設備や構造物内部に発生している欠陥を発見し,さらに
常時監視することにより,従来は廃棄してきた設備を一年でも二年でも長く,
強度ぎりぎりまで使用する設備の極限有効利用も可能となってきた.つまり,
前もって損傷を検知することにより,以下のような定量的効果がある.
①休止損失の減少
計画的に設備の停止ができるようになるので,最小の停止期間で修復可能
となる.
②修繕費の削減
修理前にまず修理する必要があるのかを判定し,修理が必要なときのみ行
える.また,修理を行う場合にも,修理個所を指定することにより作業時
間を短縮できる.また,正常な箇所の点検する費用の削減が可能となる.
③設備費の削減
設備の老朽化を定量的に捉え,逐次修正を施すことで極限的な有効利用を
可能にする.さらに突発的な故障により構造物に過大なストレ スが作用し,
破損することを防ぐ.
また,次のような定性的効果もあげられる.
①設備の保安が確保できる.
②技術者の定量化ができる.
③修理品質や購入品のチェックができる.
④予備品の管理ができる.
⑤判別不可能な不良の検出ができるようになる.
⑥運転員及び保全員の意識が変わる.
近年は構造物の大型化がますます進行しており,その設備や構造物における
破損の発見がますます困難となることを意味している.そこで,製造時や試用
期間中における非破壊検査を含む設備診断技術と,その評価が重要な意味を持
つことになる.
- 49 -
3.1.2 損傷評価についての現状
3.1.2
損傷評価についての現状
構造物を振動特性や変位などの外部反応から構造物中の損傷位置及び程度を
同定する方法の研究が盛んに行われており,実時間の非破壊評価法としての可
能性が期待されている.例えば,剛性マトリックスの逆行列であるフレキシビ
リティーマトリックスに基づく方法,不平衡力として残差力に基づく方法,固
有振動数のみを用いた非破壊試験法,ニューラルネットワークを用いた損傷同
定等が提案されている.また,超音波探傷試験法,破粉探傷試験法,アコース
ティック・エミッション法等,開発された方法の中にはすでに実用化されてい
るものもある.
以下に,損傷・劣化の非破壊的計測・評価についての現状を述べ,本研究の
意義について述べる.
(a) CFRP の損傷同定
CFRP は比剛性,非強度の力学特性が優れているが,層間強度が弱いため,弱
い衝撃で外側から目視できない層間剥離が容易に発生し,圧縮特性が著しく低
下する.そのため,CFRP の活用上層間剥離の有無の評価は,構造安全性の保証
の観点から非常に重要とされている.
轟・小林らは CFRP に強化繊維として埋め込まれている炭素繊維の導電性に
着目し,電気ポテンシャル法によって損傷を検知する手法の有効性を実験的に
示してきた.[1]この手法を実施する上では,測定された電気抵抗変化とはく離
の位置,寸法を結び付ける逆問題手法が必要不可欠であるが,逆問題解析に多
くの計算コスト・人的コストを要求するため,逆問題解析の容易な損傷同定法
の構築が必要となってくる.
そこで層間はく離を,電気ポテンシャル変化をパラメータとして用いたマハ
ラノビス距離による判断分析により定量的に検出することを試み,従来のニュ
ーラルネットワークによる損傷同定法に比べ高い同定精度であることを示して
いる.
(b) 機械構造物の損傷同定
船舶や航空機など多くの機械構造物においては,大型化,複雑化が進んでい
る.損傷の発生場所によっては,損傷の発生を目視で確認できるが,機械構造
物の運転状態において,き裂等の損傷のすべてについて検知することは非常に
困難である.
き裂の同定に関する研究は,対象物がはりなどの簡単な場合が多く,平板の
場合には複雑さが増すことからあまり行われていない.しかし,構造物の固有
振動数が,き裂の発生によって変化するということはこれまでに行われている
多くの報告により明らかである.そこで東,水口らは,試験対象を平板とし,
平板に幅が非常に狭く直線状のき裂が発生した場合を考え,このき裂の発生に
伴って変化する固有振動数に着目し,き裂の発生位置や大きさを同定する方法
- 50 -
3.1.2 損傷評価についての現状
について検討を行った.結果,提案手法によって亀裂の発生位置や大きさなど
の同定可能性を,数値解析によって同定が可能であることを示しているが,実
験の際に生じる測定誤差に対する同定制度の向上に関して,さらに研究の必要
性が必要であることも明らかとなった.[4]
(c) 建築構造物の損傷同定
建物や構造物が損傷を受けた際の安全性を検証するためには,損傷部位や損
傷程度を非破壊検査的に同定することが求められる.同定逆問題の解析法とし
て,フィルタ理論を用いた物性値同定法があるが,構造物の損傷同定問題に対
して解析法を適用する場合,振動解析などの順解析をフィルタリング計算過程
においてくり返し実行する必要がある.このため,通常の解析では各層ごとに
質点モデルを単純化して計算コストを低減させることが多いが,質点系モデル
では部材レベルでの損傷同定を行うことは困難である.
そこで黒木らは,拡張カルマンフィルタのアルゴリズムに一般化伝達剛性係
数法を導入した高性能な損傷同定法を提案し,大自由度を要する有限要素モデ
ルに対しても非常に効率よく順解析を実行することを試みている.その適用例
として,はり構造物の複数損傷同定問題を対象として解析アルゴリズムの定式
化を行うとともに,具体的な数値計算例に基づいて本手法の有効性を示してい
る.[3]
損傷評価に関する研究において共通していることは,試験対象が極端に微少
もしくは巨大である点,それらの試験対象の表面的に確認することができない
損傷を検知するために開発されている点があげられる.また,課題として理論
的に評価することができても,実機との関連を踏まえて合理的な損傷同定に至
っていない点,損傷同定を行うのに多くの計算コストがかかる点があげられる.
本研究では対象を積層複合材料とし,損傷同定手法に振動特性を利用してい
る.振動試験では,試験対象の内部の損傷を非破壊で検査できるメリットがあ
り,これまで振動特性を利用した損傷同定手法や積層複合材料を対象とした研
究は少ないため,本研究では,振動特性を利用した積層複合材料の損傷同定手
法を行うこととする.
- 51 -
3.2.1 損傷時の固有値問題
3.2
3.2.1
損傷位置同定手法
損傷時の固有値問題
前章で定義した固有値問題を損傷前の固有値問題とすると,健全時の固有値
問題は,次式のようになる.
Kδ  Mδ  0
(3.1)
この式を満たすような 0 でない  と δ を求める問題を,固有値問題と呼ぶ.式が
δ  0 の解をもつためには,マトリックス ( K  M ) の行列式が 0,すなわち
d e Kt ( M )  0
(3.2)
でなければならない.
すなわち,式を満たす  と δ には, n 個の組み合わせ (i , x i ) (i  1, 2 , 3 , , n) が
存在する.このうち 1 組 (i , δi ) のことを i 次の固有ペアという. i は正の実数で
あり, i 次の固有値といわれる. δi は実ベクトルであり,固有ベクトルといわれ
る.この固有ペアを用いると,    2 より, i  i であるから,
xi (t )   i c o si(t  i ) (i  1, 2 , 3 , , n)
(3.3)
は,いずれも微分方程式 M x  Kx  0 の解になる.
構造物に何らかの損傷が発生し,構造物の剛性が K から K  K に低下したと
仮定する.健全時の固有値問題の式(3.1)において K を K  K とすると,剛性低
下後,つまり損傷後の固有値問題は次式のように表せる.
( K  K )δ  Mδ  0
(3.4)
さらに, δ を δd , を d として式(3.4)の損傷前の固有値問題と区別するために次
式のように表す.なお,質量マトリックス M は損傷前後で変化しない.
( K  K )δd  d Mδd  0
(3.5)
ここで, K は損傷による剛性低下を表すマトリックスである.また, d , δd は
それぞれ,損傷発生時に観測される第 n 次の固有値と固有ベクトルである.
- 52 -
3.2.2 損傷ベクトル
3.2.2
損傷ベクトル
損傷部分の剛性低下が構造全体の振動特性を変化させることを前項において
示したが,その振動特性により損傷位置を同定する必要がある.そこで,構造
物の損傷位置を示すものとして,振動特性の変化を利用した損傷ベクトルとい
うものを定義し,損傷ベクトルを求めることによって構造物の損傷位置同定を
行う.ここでは,損傷ベクトルの算出方法について述べる.
式(3.5)を展開すると次式になる.
Kδd  Kδd  d Mδd  0
(3.6)
これを移項すると次式が成立する.
Kδd  Kδd  d Mδd
(3.7)
K は損傷部分のみ非零成分とするマトリックスであることは式 (3.7)よりわか
る.よって,式(3.7)の左辺を,
d  Kδd
(3.8)
とすると,d は損傷部のみ成分を持つベクトルであり,その非零成分の位置を求
めることで損傷位置を同定できることになる.この d を損傷ベクトルと定義する.
しかし実際には, K は未知であるため,損傷ベクトルは式(3.7)の右辺より次
式のように求められる.
d  Kδd  Kδd  d Mδd
(3.9)
つまり,損傷前の剛性マトリックス K 及び質量マトリックス M と損傷時に観測
される固有値 d ,固有ベクトル δd により損傷ベクトルが求められ,この損傷ベ
クトルを用いることにより,損傷位置同定が可能であることがわかる.
したがって,具体的な損傷位置同定の流れは図 3.1 のようになる.まず,損傷
前の解析対象物の基本データを読み込み,それにより剛性マトリックス K と質
量マトリックス M を作成する.次に損傷後の観測データより,固有値 d ,固有
ベクトル δd を読み込む.これらのデータを用い,式(3.9)より損傷ベクトル d が算
出される.
- 53 -
3.2.3 損傷位置評価法
図 3.1
3.2.3
損傷ベクトル算出のフローチャート
損傷位置評価法
前項の式(3.9)で求められた損傷ベクトル d は,各モードに各節点に対応した個
数存在する.そこで,第 n 次の i 番目の節点の損傷ベクトルを d in とする.本研
究では,各節点での損傷ベクトル値を用い,各モードにおいて損傷位置や程度
を評価する.したがって,モードごとに求められている各節点に対応する損傷
ベクトルに,一定の基準を設けるために正規化を次式で行う.
ein 
d in
(3.10)
N T J
 (d
i 1
n 2
i
)
ここで,ein は正規化した第 n 次の i 番目の節点の損傷ベクトルである.また,NTJ
は総節点数を表している.式(3.10)で表される方法で正規化を行うことにより,
同じモードの損傷度合を比較することができる.
- 54 -
3.2.4 損傷表示プログラム
3.2.4
損傷表示プログラム
解析により算出された損傷ベクトルを視覚化するため,Visual Basic で損傷表
示プログラムを構築した.
損傷表示プログラムではまず,節点ごとに出力された損傷ベクトルを要素ご
との損傷ベクトルへ変換を行う.各要素を構成する節点の損傷ベクトルの成分
値を足し合わせて,要素ごとにおける損傷ベクトルの平均値を算出し,各モー
ドや x , y , z ,  x ,  y ,  z ,  yz ,  zx ,  xy などの成分に応じて損傷が大きい要
素を色で識別できるようにした.
同定結果の精度検証として,図 3.2 のような中央部に損傷したモデルについて
同定を行った.境界条件は,x,y,z に完全拘束を行った.解析に用いた物性値
については表 3.1 にまとめる.また,構築した損傷表示プログラムの表示方法に
ついても述べる.
健全部
損傷部(剛性 10%down)
図 3.2
表 3.1
有限要素モデル
解析に用いた物性値
物性値
健全部
損傷部
ヤング率 E [GPa]
せん断弾性係数 G [GPa]
ポアソン比 ν
密度 ρ [kg/m3 ]
210
80.0
189
72.0
- 55 -
0.3
7900
3.2.4 損傷表示プログラム
図 3.2 の同定結果を 1 次の振動モードの x,y,z の変位成分ごとに損傷ベクト
ルの表示を行うと図 3.3 のようになる.変位成分ごとの表示では,節点ごとに出
力された損傷ベクトルを第 1 次から第 n 次まで同じ節点について和をとったも
のを表示している.この表示モードでは,振動モードに応じてどの成分に注目
すべきかを調べることができる.
x 成分
y 成分
z 成分
図 3.3
変位成分ごとの損傷ベクトル表示(1 次)
- 56 -
3.2.4 損傷表示プログラム
次に,振動モードごとに 1 次,2 次,3 次の結果を比較すると,図 3.4 のよう
な結果になる.振動モードごとの出力では,同じ節点番号の x~Gxy の 9 つの損
傷ベクトルの成分値の和をとったものを表示している.この表示方法では,x~
Gxy の選択表示はなく,どのモードについて損傷ベクトルが顕著かを調べるこ
とができる.
1次
2次
3次
図 3.4
振動モードごとの損傷ベクトル表示
- 57 -
3.2.4 損傷表示プログラム
あらかじめ設定した損傷箇所とグラフィックのカラーリングが一致していな
いのは,損傷ベクトルの理論式(3.9)より,計算結果がおもに損傷後の変位成分
の影響を受けるため,損傷によって剛性が低下したとしても,変位が小さい成
分の場合や,振動モードにおいて節となる部分では,損傷していても結果がう
まく表示されないためである.
そこで,前述した変位成分ごとの表示法と振動モードごとの表示法を組み合
わせて表示する方法をとることにした.x~Gxy の変位成分や振動モードの結果
をすべてたし合わせてから要素ごとの損傷ベクトルの大きさを求めることで,
図 3.5 のように損傷ベクトルが大きい結果がグラフィックに反映されるように
した.出力された結果をすべて統合することで,あらかじめ与えた損傷との整
合性が確認できたので,本研究では損傷ベクトルの表示を行うときにはこの方
法を用いることにする.
図 3.5
変位成分と振動モードを統合した損傷ベクトル表示結果(1 次)
- 58 -
3.2.4 損傷表示プログラム
次に,剛性低下率が 10%より小さい場合でも損傷同定プログラムがどの程度
有効なのか検証を行った.剛性を 5%,1%低下させたときの同定結果を図 3.6(A),
(B)に示す.なお,振動モードは 1 次のものである.
(A)剛性低下率 5%
図 3.6
(B)剛性低下率 1%
剛性低下率(A)5%と(B)1%のときの同定表示結果(1 次)
図 3.6 より,損傷ベクトルによる損傷位置同定では,損傷を模擬した剛性低下
率を 10%から 5%,1%に低下させた場合でも,ほぼ同じ精度で同定を行えるこ
とが確認できた.
最後に,損傷程度を剛性低下 1%にし,損傷個所を狭めた場合と,損傷が両端
に分布していた場合について同定精度を検証した.以下に表示結果を示す.損
傷個所を示した有限要素モデルを図 3.7,同定結果を図 3.8 として示す.なお,
振動モードは 1 次のものである.
- 59 -
3.2.4 損傷表示プログラム
健全部
損傷部(剛性 1%down)
中央部損傷
両端損傷
図 3.7
有限要素モデル
中央部損傷
両端損傷
図 3.8
同定表示結果(1 次)
- 60 -
3.3.1 損傷を考慮した積層複合材料モデル
図 3.8 より,損傷個所を小さくしても本プログラムでの損傷同定が有効である
ことがわかった.両端損傷のときは,有限要素モデルの周囲に境界条件が完全
固定にされているため,本来剛性低下させた要素よりも内側の損傷ベクトルが
大きく反映されてしまったことが原因と考えられる.
3.3
3.3.1
損傷理論を考慮した損傷同定法の提案
損傷を考慮した積層複合材料モデル
前節の損傷位置同定・表示プログラムの有効性の検証では,プログラムの整
合性を保証することはできたが,同定を行ったモデルは積層複合材料の異方性
を考慮したものではなかった.金属のような等方性材料であれば,損傷をヤン
グ率やせん断弾性係数の一様な減少によって表現することができるが,本研究
で用いる積層複合材料は,力学的特性や損傷にも異方性を有する.そのため前
節の有限要素モデルでは複合材料独特の損傷を表現することができないため,
積層複合材料の損傷を考慮したモデルを製作し評価しなければならない.そこ
で本項では,積層複合材料の異方性及び損傷形態を考慮した解析モデルを用い
て損傷同定を行い,積層複合材料を対象にした場合の結果について述べる.
損傷位置同定・表示プログラムの有効性の検証では,損傷を要素の剛性低下
によって表現していたが,2 章の損傷力学の定式化で示した式(2.26)に従うと,
各損傷状態での剛性マトリックス
QLTV
は,以下のようになる.
・繊維破断
Q LTV
 Q11 Q12 Q13
Q
Q23
 12 Q22
Q
Q23
Q33
  13
0
0
 0
 0
0
0

0
0
 0
0
0
0 
0
0
0 
0
0
0 

Q44
0
0 
0 Q55
0 

0
0
Q66 
- 61 -
(3.11)
3.3.1 損傷を考慮した積層複合材料モデル
・トランスバースクラック
Q LTV
0
 Q11 Q12 Q13
Q
0
 12 Q22 Q23
Q
Q23 Q33
0
  13
Q44
0
0
 0
 0
0
0
0

0
0
0
 0
0
0 
0
0 
0
0 

0
0 
Q55
0 

0 Q66 
(3.12)
0
0 
0
0 
0
0 

0
0 
Q55
0 

Q66 
0
(3.13)
・樹脂破壊
Q LTV
0
 Q11 Q12 Q13
Q
0
 12 Q22 Q23
Q
Q23 Q33
0
  13
Q44
0
0
 0
 0
0
0
0

0
0
0
 0
・層間はく離
Q LTV
Q12 Q13
0
0
 Q11
Q
Q22 Q23
0
0
 12
Q Q23 Q33
0
0
  13
0
0
Q44
0
 0
 0
0
0
0
Q55

0
0
0
0
 0
1
10000
1

100
3.92
 
10000
0 
0 
0 

0 
0 

Q66 
(3.14)

(3.15)
- 62 -
3.3.1 損傷を考慮した積層複合材料モデル
Q
式(3.11)~(3.14)において, ij は初期状態の剛性マトリックス Q の成分を表し,
 ,  ,  ,には式(3.15)の値が入る.
固 有 値 解 析 プ ロ グ ラ ム の 剛 性 マ ト リ ッ ク ス を 損 傷 形 態 に 応 じ て 式 (3.11) ~
(3.14)に変更し,損傷個所の要素には剛性マトリックス Q の式で計算を行うよう
にする.先ほど述べた損傷同定手法を行うため,まず固有値解析を行う.
固有値解析に用いた炭素繊維強化複合材料(以下 CFRP)の物性値と積層構成
を表 3.2,3.3,固有値解析を行った有限要素モデルを図 3.9 に示す.なお,積層
構成の 0°は y 方向に繊維が配向されており,境界条件は周辺を完全固定とする.
表 3.2
物性値(CFRP)
E L [GPa]
E T ,E V [GPa]
G TV [GPa]
せん断弾性係数
G VL ,G LT [GPa]
ポアソン比 ν
密度 ρ [kg/m3 ]
ヤング率
表 3.3
構成材料
積層構成
厚み[mm]
積層構成
一方向 CFRP
04
1.0
- 63 -
172.7
7.2
3.76
2.5
0.3
1530
3.3.1 損傷を考慮した積層複合材料モデル
図 3.9
有限要素モデル
- 64 -
3.3.1 損傷を考慮した積層複合材料モデル
次に損傷形態を考慮し,損傷個所を示した有限要素モデル示す.図 3.10 では
繊維破断,図 3.11 ではトランスバースクラックを考慮している.図のように(A),
(B),(C)の順に損傷個所を広く設定し,繊維破断では繊維配向方向に対して 90°,
トランスバースクラックでは繊維配向方向に平行に損傷が発生するものとした.
(A)
図 3.10
(A)
図 3.11
(B)
繊維破断を考慮した有限要素モデル
(C)
(B)
(C)
トランスバースクラックを考慮した有限要素モデル
- 65 -
3.3.2 損傷同定結果
3.3.2
損傷同定結果
前項の損傷を考慮した積層複合材料モデルで固有値解析を行い,固有振動数
の結果を表 3.4 に示す.また,損傷なしのときと比較したときの差をまとめたも
のを表 3.5 とする.
表 3.4
損傷形態ごとの固有振動数の比較
固有振動数[Hz]
損傷形態
損傷なし
繊維破断
トランスバース
クラック
表 3.5
(A)
(B)
(C)
(A)
(B)
(C)
トランスバース
クラック
2次
196.8
169.0
188.7
196.6
195.5
195.9
196.7
3次
313.4
298.3
303.9
312.9
278.6
310.1
313.4
4次
365.7
347.1
363.6
365.7
362.3
365.2
365.7
5次
392.2
365.6
384.7
392.0
389.5
390.9
392.1
損傷なしと比較したときの固有振動数の差[%]
損傷形態
繊維破断
1次
142.7
115.6
139.6
142.7
140.1
142.5
142.7
(A)
(B)
(C)
(A)
(B)
(C)
1次
-19.0
-2.1
0.0
-1.8
-0.2
0.0
2次
-14.1
-4.1
-0.1
-0.6
-0.4
0.0
- 66 -
3次
-4.8
-3.0
-0.1
-11.1
-1.0
0.0
4次
-5.1
-0.6
0.0
-0.9
-0.1
0.0
5次
-6.8
-1.9
-0.1
-0.7
-0.3
0.0
3.3.2 損傷同定結果
表 3.4 で得られた結果より,開発した損傷同定プログラムの有効性の検証を行
った.損傷部でのデータは,固有振動数の比較を行った先程の固有値解析で得
られた固有値と固有ベクトルを用いた.
図 3.12 と図 3.13 にそれぞれ,繊維破断とトランスバースクラックが発生した
場合の損傷同定結果として,損傷ベクトル表示を行った結果を示す.
(A)
(B)
(C)
図 3.12
繊維破断モデルにおける損傷同定結果
- 67 -
3.3.2 損傷同定結果
(A)
(B)
(C)
図 3.13
トランスバースクラックモデルにおける損傷同定結果
- 68 -
3.3.2 損傷同定結果
固有値解析の結果では,損傷を模擬したモデルの固有振動数は,結果損傷な
しの結果と比較して低下する傾向があった.また,損傷の影響によってモード
の順序が変化することはなかった.
繊維破断モデルの方がトランスバースクラックモデルよりも固有振動数の低
下が大きく表れているが,繊維方向が y 方向なので,繊維破断モデルは,板全
体の剛性が大きく低下するような損傷であり,トランスバースクラックモデル
は,板の剛性にそれほど影響を与えない損傷ということになる.また理論上,
剛性低下は固有振動数を低下させるので,表 3.4 で得られた結果は信頼できるも
のと考えられる.
損傷表示結果では前節同様,モデルの周辺節点を完全固定しているため,損
傷個所を構成する要素に拘束点が含まれていると,相対的に損傷を検知しにく
くなってしまう結果となった.モード図を確認してみても,2 次,3 次ではトラ
ンスバースクラックモデル,4 次,5 次では繊維破断モデルの損傷個所付近に節
が表れていることがわかる.そのため,損傷範囲が最も小さいモデル (C)では,
損傷要素との差が表れにくくなってしまったことが原因と考えられる.
図 10,11 と図 11,12 で損傷個所と損傷表示結果を比較してみると,損傷し
ている要素は損傷していない要素に比べて高い損傷ベクトルを有していること
が表示結果より確認できた.この結果より,損傷を考慮した剛性マトリックス
を取り入れることによって積層複合材料独特の損傷形態を表現し,異方性を持
つ積層複合材料モデルでも同精度の損傷同定が可能であることを示すことがで
きた,
しかし,本プログラムで損傷同定を行うためには,試験対象の精密な振動モ
ードの測定が必要になってくるという課題がある.精密な測定には多くの時間
とコストを要するため,実構造物ではまず測定を実施するかどうかの判断が必
要であり,そのためには損傷の発生を確実に発見する手法が必要であるといえ
る.
- 69 -
3.4 結言
3.4
結言
本章では,まず固有値解析による損傷同定理論について述べた.損傷部の剛
性低下が構造全体の振動特性を変化させることを理論的に説明し,構造物の損
傷位置を示すものとして損傷ベクトルを定義した.そして,損傷ベクトルの算
出方法について述べ,損傷前の剛性マトリックスと質量マトリックス,損傷後
の固有値と固有ベクトルを用いることで,損傷ベクトルを導出することを示し
た.
次に,損傷位置同定プログラムで算出した損傷ベクトルを,損傷表示プログ
ラムによって視覚化を行った.要素ごとの損傷ベクトルを算出し, x~Gxy の変
位成分や振動モードごとに損傷ベクトルの和をとることで,損傷個所と損傷表
示プログラムの整合性をとった.
最後に,損傷を考慮した剛性マトリックスを用いて固有値解析,損傷同定を
行った.損傷を考慮した剛性マトリックスによって固有値解析の結果がどのよ
うに変化するかを確認し,固有値解析の精度を保証した.そして,一方向積層
複合材料モデルを作成し,繊維破断とトランスバースクラックの損傷形態に応
じた損傷同定を扱い,開発したプログラムの精度,有効性について検証を行っ
た.結果,損傷同定・表示プログラムに,よってわずかな損傷でも損傷位置を
正確に同定できることがわかった.
しかし,本プログラムで損傷同定を行うためには,試験対象の精密な振動モ
ードの測定が必要になってくるという課題がある.精密な測定には多くの時間
とコストを要するため,実構造物ではまず測定を実施するかどうかの判断が必
要であり,そのためには損傷の発生を確実に発見する手法が必要と考える.
- 70 -
4.1.1 自由支持打撃加振試験
第4章
4.1
複合材料を用いた振動による減衰特性の評価
損傷による振動減衰特性の評価
3 章では,損傷同定・表示プログラムによって 損傷位置を同定できることを実
証することできたが,本プログラムで損傷同定を行うためには,振動モードを
精密に測定しなければならないという課題がある.航空機のような大型構造物
では精密な測定には,多くセンサを用いて固有ベクトルや振動モードを測定し
なければならないため多くの時間とコストを要してしまう.そこでまず測定を
実施するかどうかの判断が必要であり,そのためには損傷の発生を確実に発見
することが重要である.損傷の有無を 固有振動数の変化を判断指標とする場合,
3 章の有限要素モデルでは,繊維破断やトランスバースクラックといった損傷が
発生しても固有振動数の差はほとんどが 10%以下である.実際の試験において,
試験対象の個体差や実験における測定誤差を考慮すると,固有振動数を判断指
標として損傷の有無を判断ことは困難であると考えられる.
そこで本章では,損傷同定の指標として振動特性の 1 つである減衰比に注目
する.自由支持打撃加振試験を行い,試験片の損傷前後で,減衰比にどのよう
な変化があるのかを調査,比較を行った結果を述べる.
4.1.1
自由支持打撃加振試験
実験に使用した装置を表 4.1 に示す.図 4.1 のように糸で吊るした試験片に加
速度ピックアップを取り付け,FFT アナライザ,インパルスハンマをつなぐ.
インパルスハンマで試験片を加振し,図 4.2 のような振動伝達関数から,健全状
態と損傷状態における振動モード,固有振動数,減衰比をそれぞれ測定した.
表 4.1
FFT アナライザ
インパルスハンマ
加速度ピックアップ
実験装置
ONO SOKKI DS-3200
ONO SOKKI GK-2110
PCB PIEZOTRONICS 352C22 SN LW153638
- 71 -
4.1.1 自由支持打撃加振試験
FFT アナライザ
試験片
加速度
ピックアップ
インパルスハンマ
図 4.1
自由支持加振試験
ゲイン [dB]
90
60
30
0
0
200
400
600
固有振動数[Hz]
図 4.2
振動伝達関数
- 72 -
800
1000
4.1.2 試験片について
4.1.2
試験片について
積層複合材料の損傷前後における振動減衰特性を評価するため,同じ積層の
順序,積層数,繊維配向角(まとめて積層構成という)を持つ 5 種類の試験片
A~E を用意した.それぞれ損傷前の試験片を「健全」とし,錘を落下させて衝
撃試験を行った試験片を「落錘」,静的押し込み試験を行い,損傷した試験片を
「静的押し込み」と呼ぶことにする.落錘の試験片では衝撃荷重,静的押し込
みの試験片では静的荷重を受けたときの損傷について評価することができる.
試験片の寸法は,100mm×100mm の正方形で,表 4.2 に実験を行った試験片
の物性値を示す.試験片 A~E は最外層に CFRP,内部層にアラミド繊維強化複
合材料(以下 AFRP),ポリアリレート繊維(株式会社クラレ製 Vectran)を強化
繊維とした複合材料(以下 VFRP)のいずれかを積層していて,一方向性材料,
クロス配向材料を組み合わせて作られている.
試験片 A,B,C は内部層の AFRP は共通しており,最外層が一方向性材料,
クロス配向材料,開繊織物となっているので最外層の影響について結果を比較
することができる.
試験片 C,D,E は最外層の CFRP は共通しており,内部層が AFRP の一方向
性材料とクロス配向材料,VFRP となっているので内部層の影響について結果を
比較することができる.
- 73 -
4.1.2 試験片について
表 4.2
試験片
番号
重量[g]
構成材料
積層構成
積層数
厚み[mm]
試験片
番号
重量[g]
構成材料
積層構成
積層数
厚み[mm]
試験片
番号
重量[g]
構成材料
積層構成
積層数
厚み[mm]
物性値
A
健全
落錘
静的押込み
14.40
14.60
14.65
CFUD2 層+AFUD2 層
+AFUD2 層+CFUD2 層
[(0/90) 2 ] S
8
1.148
B
健全
落錘
静的押込み
13.90
13.45
13.45
CF 織物 1 層+AFUD4 層
+CF 織物 1 層
[0/(0/90) 2 ] S
6
1.148
C
健全
落錘
静的押込み
16.50
16.50
16.50
CF 開繊 3 層+AFUD4 層
+CF 開繊 3 層
[0 3/(0/90) 2 ] s
10
1.248
D
健全
落錘
静的押込み
17.00
16.75
16.70
CF 開繊 3 層+AF クロス 2 層
+CF 開繊 3 層
[0 3 /0] s
8
1.168
E
健全
落錘
静的押込み
14.85
15.45
14.70
CF 開繊 3 層+VF クロス 2 層
+CF 開繊 3 層
[0 3/0] s
8
1.296
- 74 -
4.1.3 実験結果
4.1.3
実験結果と考察
自由支持打撃加振試験により得られた固有モード,固有振動数,減衰比の結
果を試験片ごとにまとめたものを表 4.3,モードごとの固有振動数と減衰比の関
係をグラフにしたものをそれぞれ図 4.3 として示す.
表 4.3
損傷による振動特性の評価
試験片 A(健全)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
184
0.66
2nd
540
0.15
3rd
643
0.32
4th
742
0.18
5th
820
0.28
3rd
672
0.31
4th
748
0.28
5th
847
0.38
4th
527
0.21
5th
654
0.23
試験片 A(落錘)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
199
0.79
2nd
535
0.25
試験片 A(静的押し込み)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
208
1.06
2nd
676
0.40
- 75 -
3rd
829
0.27
4.1.3 実験結果
表 4.3
損傷による振動特性の評価
試験片 B(健全)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
171
1.05
2nd
550
0.29
3rd
603
0.38
4th
681
0.52
5th
713
0.31
3rd
671
0.32
4th
726
0.51
5th
807
0.38
3rd
666
0.25
4th
732
0.51
5th
776
0.44
3rd
752
0.27
4th
806
0.24
5th
867
0.27
試験片 B(落錘)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
196
0.97
2nd
587
0.31
試験片 B(静的押し込み)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
208
0.77
2nd
601
0.31
試験片 C(健全)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
213
0.76
2nd
672
0.16
- 76 -
4.1.3 実験結果
表 4.3
損傷による振動特性の評価
試験片 C(落錘)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
246
0.56
2nd
718
0.46
3rd
743
0.36
4th
858
0.25
5th
890
0.31
3rd
743
0.45
4th
847
0.25
5th
860
0.37
3rd
760
0.22
4th
841
0.22
5th
870
0.26
3rd
725
0.26
4th
859
0.24
5th
898
0.29
試験片 C(静的押し込み)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
235
0.78
2nd
708
0.28
試験片 D(健全)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
218
0.70
2nd
714
0.18
試験片 D(落錘)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
228
0.62
2nd
690
0.14
- 77 -
4.1.3 実験結果
表 4.3
損傷による振動特性の評価
試験片 D(静的押し込み)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
232
0.64
2nd
700
0.15
3rd
744
0.16
4th
844
0.22
5th
881
0.33
3rd
693
0.44
4th
755
0.30
5th
842
0.37
3rd
621
0.47
4th
738
0.32
5th
768
0.31
4th
816
0.26
5th
865
0.29
試験片 E(健全)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
199
1.10
2nd
631
0.25
試験片 E(落錘)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
192
0.89
2nd
595
0.82
試験片 E(静的押し込み)
モード
固有振動数[Hz]
減衰比[%]
1st
220
0.88
2nd
682
0.21
- 78 -
3rd
719
0.30
4.1.3 実験結果
1000
800
1.20
健全
健全
落錘
1.00
落錘
静的押し込み
0.80
静的押し込み
600
0.60
400
0.40
200
0.20
0
0.00
1st
2nd
3rd
4th
1st
5th
2nd
固有振動数[Hz]
3rd
4th
5th
減衰比[%]
試験片 A
1000
800
1.20
健全
健全
落錘
1.00
落錘
静的押し込み
0.80
静的押し込み
600
0.60
400
0.40
200
0.20
0
0.00
1st
2nd
3rd
4th
5th
1st
2nd
固有振動数[Hz]
3rd
4th
5th
減衰比[%]
試験片 B
1000
1.00
健全
800
600
健全
0.80
落錘
落錘
静的押し込み
静的押し込み
0.60
400
0.40
200
0.20
0
0.00
1st
2nd
3rd
4th
5th
1st
固有振動数[Hz]
2nd
3rd
減衰比[%]
試験片 C
図 4.3
4th
損傷による固有振動数と減衰比の変化
- 79 -
5th
4.1.3 実験結果
1000
800
0.80
健全
健全
落錘
落錘
0.60
静的押し込み
静的押し込み
600
0.40
400
0.20
200
0
0.00
1st
2nd
3rd
4th
5th
1st
2nd
固有振動数[Hz]
3rd
4th
5th
減衰比[%]
試験片 D
1000
1.20
健全
健全
800
落錘
1.00
落錘
静的押し込み
0.80
静的押し込み
600
0.60
400
0.40
200
0.20
0
0.00
1st
2nd
3rd
4th
5th
1st
固有振動数[Hz]
2nd
3rd
減衰比[%]
試験片 E
図 4.3
4th
損傷による固有振動数と減衰比の変化
- 80 -
5th
4.1.4 考察
4.1.4
考察
試験片ごとの試験結果についでまとめると,試験片 A では,低次のモードと
曲げモードのときに減衰比が大きくなる傾向があることがわかった.試験片 B
では,A のような傾向はないが,「健全」と「損傷」の単位で比較してみると,
「健全」の減衰比が比較的高く出ることがわかった.試験片 C では,曲げの 2
次,3 次,ねじりの 5 次については損傷前後で減衰比が大きくなる傾向があるこ
とがわかった.試験片 D では,ねじりの 5 次については損傷前後で減衰比が大
きくなる傾向があるが,その他の場合では,損傷前後の減衰比にあまり変化が
ない.試験片 E では,
「落錘」の結果が「健全」より大きくなっている場合が多
いが,「静的押し込み」ではそういった傾向は見られなかった.
試験片ごとに何らかの傾向を見受けることができるが,積層複合材料として
全体的に共通した傾向を見受けることはできない.今回の実験結果においては,
損傷の受け方や積層構成によって減衰比の変化に影響はないと考えられる.可
能ならば,振動減衰比を損傷有無の判断指標とするための実験であったが,固
有振動数と同様,減衰比を損傷有無の明確な指標にすることは困難であると考
えられる.
今回,自由支持加振試験に用いた試験片は寸法が小さく軽量であるため,加
速度ピックアップの重さによって振動が抑えられてしまい,結果に影響を及ぼ
してしまった可能性がある.加振による本来の振動が抑制されてしまった影響
で,結果に一定の傾向が得られなかったことが考えられるため,今後実験を行
うにあたり,今回よりも大きな寸法の試験片を用いることが望ましい.また,
同じ積層構成の試験片であっても,健全状態と損傷をうけた試験片はそれぞれ
が別の試験片であったため,同じ試験片の損傷前後における振動減衰特性を調
べるべきである.
- 81 -
4.2 結言
4.2
結言
本章では,損傷による振動特性の変化を調査するため,損傷前の試験片であ
る「健全」,錘を落下させて衝撃試験を行った試験片である「落錘」,静的押し
込み試験を行い,損傷した試験片である「静的押し込み」の 3 種類の状態の積
層複合材料の試験片を用意し,自由支持打撃加振試験を行った.
まず自由支持打撃加振試験法と,固有モード,固有振動数,減衰比の算出法
について述べ,実験を行他積層複合材料の試験片についてまとめた.試験片は,
最外層が CFRP の一方向性材料,クロス材料,開繊材料のいずれかで,内部層
が AFRP の一方向性材料,クロス材料か VFRP のクロス材料で構成されている
ものであった.試験片ごとの結果を比べることで,振動減衰を損傷有無の指標
とすることへの是非や,積層構成の違いによって損傷が振動特性への影響を比
較することが期待できたが,実験結果では,固有振動数,振動モード,減衰比
のいずれに関しても損傷前後で一定の傾向を見つけることはできなかった.試
験片の重量に関して実験精度への影響が考えられたが,本章の目的であった減
衰比による損傷有無の判断は実現困難であることが明らかとなった.
- 82 -
5章
結論
本研究では,積層複合材料の損傷同定法を開発することを目的とし,損傷位
置同定プログラムと損傷表示プログラムの構築及び有効性の検証を行った.ま
た,損傷形態を考慮した剛性マトリックスと有限要素モデルの作成を行い,積
層複合材料の異方性を考慮した損傷同定問題を扱った.以下に本研究の結論を
述べる.
第 2 章では,本研究の対象である複合材料の力学的特性から応力-ひずみ関
係についてまとめ,異方性を有する複合材料の破壊形態について述べた.そし
て,損傷力学の定式化により,複合材料の損傷を考慮した剛性マトリックスを
作成し有限要素モデルに落とし込むことで表現することにした.
次に,損傷同定手法の構成理論である有限要素法の基礎理論および固有値解
析法について述べた.変位,ひずみの定義から,それぞれの関係式,要素の剛
性マトリックスについてまとめ,弾性・減衰特性同定法の基礎となる有限要素
固有値解析法の定式化について述べた.
最後に,一次せん断変形理論を導入したシェル要素の応力-ひずみ関係マト
リックス,ひずみ-節点変位関係マトリックスについて述べ,剛性マトリック
ス,質量マトリックスの導出を行った.また,ひずみエネルギー理論を適用し
て,一次せん断変形理論を導入したシェル要素を用いて複合材料の応力-ひず
み関係の定式化を行った.
第 3 章では,まず損傷位置同定の必要性や損傷評価技術の現状について述べ,
損傷同定問題が抱える課題を踏まえて,本研究の意義や特徴について述べた.
次に,固有値解析による損傷同定理論によって,構造物の損傷位置を示すも
のとして損傷ベクトルを定義し,損傷ベクトルを求めることで構造物の損傷位
置同定が可能であることを理論的に示した.そして,損傷ベクトル算出のため
の損傷位置同定プログラムと損傷位置の視覚化を行うための損傷表示プログラ
ムを開発し,精度検証を行った.損傷表示プログラムでは,節点ごとに得られ
る損傷ベクトルから要素ごとの損傷ベクトルを算出し,変位成分や振動モード
ごとに和をとること損傷個所を表現するようにし,損傷個所と損傷表示プログ
ラムの整合性を確かめた.
最後に,積層複合材料独特の損傷を考慮した剛性マトリックスと有限要素モ
デルを用いて固有値解析,損傷同定を行った.繊維破断やトランスバースクラ
ックなどの損傷を考慮した剛性マトリックスを損傷力学の定式化から導き,具
体的な損傷形態に応じて剛性マトリックスをどのように変更すべきかを示した.
そして,繊維配向方向と損傷を考慮した一方向性複合材料モデルをつくり,開
発したプログラムで固有値解析,損傷同定を扱い,損傷を考慮した積層複合材
料でも開発したプログラムが有効であることを示した.
第 4 章では,衝撃荷重を受けた積層複合材料の振動特性の評価を行った.前
章で述べた損傷位置同定プログラムの課題として,精密な振動モードの測定が
必要であることから,まず損傷の有無を明らかにすることが重要であることを
述べた.そこで,振動特性の一つである減衰比に注目し,減衰比を損傷有無の
指標とすることが可能かどうかを調査するため,自由支持打撃加振試験によっ
て,損傷前後における積層複合材料の振動特性を実験的に評価することにした.
次に,自由支持打撃加振試験法と,固有振動数と減衰比の算出方法について
述べ,実験を行った積層複合材料の積層構成と損傷形態についてまとめた.異
なる損傷形態や積層構成を持つ試験片の振動特性を比較することで,積層構成
の違いによって損傷前後で振動特性にどのような関係があるのか調べたが,実
験結果から試験片の損傷や積層構成によって一定の傾向を見受けることはでき
なかった.したがって,減衰比の変化によって損傷の有無を判断することは困
難であることが明らかとなった.
しかし,固有値解析によって得られる損傷ベクトルと損傷を考慮した剛性マ
トリックスを用いることで,損傷した積層複合材料でも損傷位置同定プログラ
ムと損傷表示プログラムの有効性を示すことができた.今後の課題として,本
プログラムを活用するための損傷の有無を判断するための手法を考案すること
があげられる.
参考文献
[1]轟 章,大平博通,島村佳伸,厚板 CFRP 積層板の損傷同定への電気インピー
ダンス法の適用,日本機械学会論文集,(2002)
[2]岩崎篤,轟 章,島村佳伸,小林英男,電気ポテンシャル法を用いた統計的診
断手法による CFRP 損傷同定法,日本機械学会論文集,(2002)
[3]黒木宏之,近藤孝広,盆子原康博,坂本裕一郎 ,はり構造物に対するフィル
タ理論を援用した複数損傷同定解析手法の提案(E1 機械力学(計測・評価)),日本
機械学会論文集,(2009)
[4]東明彦,水口文洋,固有振動数による薄板の損傷同定に関する研究(機械力学,
計測,自動制御),日本機械学会論文集,(2004)
[5]Zimmerman, D.C.,Kaouk,M.,Structural damage detection using a minimum rank
update theory,Journal of Vibration and Acoustics, Transactions of the
ASME(ISSN1048-9002), vol. 116, no.2, p.222-231,(1994)
[6]座古勝,数値複合材料力学,養賢堂,(1989)
[7]藤井太一,座古勝,複合材料の破壊と力学,実教出版,(1982)
[8]D.Hull,複合材料入門,培風館,(1985)
[9]津村卓也,損傷力学に基づく繊維強化複合材料の力学的挙動解析手法に関す
る研究,(1995)
[10]三好俊郎,有限要素法入門,培風館,(1994)
[11]座古勝,松本金矢,複合材料の挙動解析,朝倉書店,(1998)
[12]鈴木浩平,ポイントを学ぶ振動工学,丸善,(1996)
謝辞
本研究を行うにあたり,三重大学教育学部松本金矢教授,中西康雅准教授よ
りご指導頂いたことをここに記し,厚く感謝の意を表します.御二方には日頃
から研究内容や研究方針について御助言を賜りました.
また,機械工学研究室学生諸氏には多大な御協力をいただきました.深く感
謝の意を表します.
最後に,研究・日常生活を支えてくれた家族に感謝いたします.