(4)富山県の地下水涵養と流動に関する研究(Ⅱ) (概要)

(4)富山県の地下水涵養と流動に関する研究(Ⅱ)
(概要)
溝口俊明 早坂英明 松本卓大 笹島武司
1 はじめに
富山県の豊富で清浄な地下水は、生活用水
や工業用水として県民の生活基盤を支えてお
り、県民共有の貴重な財産である。しかし、
近年の都市化の進展や水田の減少に伴い、地
下水涵養量の減少及び冬期間の地下水位の低
下等の地下水障害の発生が懸念される。この
ため、当センターでは平成23年度から「富山
県の地下水涵養と流動に関する研究」を開始
し、高岡・砺波地域の地下水流動モデルの構
築を目指している。現在作成しているモデル
が示した結果と現況が一致しているか確認す
るために、(1)自噴範囲の確認、(2)地下水水
質調査、(3)モデルと地下水観測井の水位との
比較を行ったのでその結果について報告する。
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方法
2.1 調査地点
高岡市、砺波市、小矢部市及び南砺市の庄川
及び小矢部川に挟まれた地域において約450地
点の地下水を採取した。
2.2 測定項目
測定項目は、pH、電気伝導率(EC)、重炭酸イ
オン、溶存成分(Na+,Ca2+,Cl-,SO42-等)、溶性ケイ
酸である。重炭酸イオン濃度は、pH4.8のアルカ
リ度滴定法により得られた炭酸イオン濃度から
算出した。溶性ケイ酸は、モリブデン黄吸光光
度法により、また、溶存イオン成分はイオンク
ロマト(IC)分析法により濃度を求めた。また、
現地において、井戸の深さについて聞き取りし、
自噴している場合は、自噴量を測定した。
2.3 地下水モデル
地下水モデルは、米国地質調査所が開発した
MODFLOWを用いた。モデルは400×300メッシュ(1
メッシュ:92m×111m)で7層のレイヤーからな
る。
調査結果と比較したところ、ほぼ一致しており、
変化していないものと考えられた(図1)。
泉が丘の30~50mにある被圧第一帯水層は自
噴しないが、60~80mにある被圧第二帯水層は自
噴することがわかった(※深さについては聞き
取り調査によるもの)。
3.2 地下水質調査
地下水の主成分は主にカルシウム重炭酸塩型
であった。溶存イオンの総量を示すECは60~
7,500μS/cmの範囲内であった。庄川流域と比べ
小矢部川流域の地下水が高い傾向であった。砺
波地域は、深さによるECの違いはほとんどみら
れなかった。地質調査において粘土層がほとん
ど存在しないことからも帯水層は基本的に同じ
ものと考えられた。高岡地域は、深さによるEC
の違いがみられ、地表面から地下100mまでに存
在している帯水層は、深いほどECが低い傾向が
みられた。ECの濃度分布図から庄川及び小矢部
川の背後にある丘陵地等からの涵養範囲を把握
することができた (図2)。高岡地域下流域は、
上流域と比べECが高いが調査井戸も少ないため、
より一層データを収集して評価していく必要が
ある。
3.3 モデル計算結果と観測井の実測値との比較
冬季の消雪稼働時間のデータを入手できた平
成18年4月から19年3月までの1年間を対象に
モデルを用いてシミュレーションを行い、地下
水位の計算値と実測値の比較を行った(図3)。
比較には浅層地下水を観測している二塚観測井
(深さ40m)と深層地下水を観測している上関観
測井(深さ260m)を用いた。その結果、二塚観
測井では、冬季の消雪設備の影響による推移変
化が捉えられ概ね良好な結果が得られた。一方、
上関観測井では、計算値と実測値が一致しない
状況でありモデルの地質情報(透水係数、レイ
ヤー構造等)の改善が必要と考えられた。
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3
結果及び考察
3.1 自噴範囲の確認
調査地域のうち自噴していたのは、高岡市の
佐野、木津、藤平蔵、小勢等であった。自噴の
有無を昭和55年に高岡市農協青年部が実施した
成果の活用
モデルを活用することにより、新規揚水設備
の設置が周辺の地下水位に及ぼす影響について
評価することができる。
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昭和 55 年自噴範囲
自噴あり(現在)
自噴なし(現在)
出典:高岡市農協青年部組織結成20周年記念誌に加筆
図1
昭和 55 年と現在の自噴範囲の状況
採水地点
図2
高岡・砺波地域の電気伝導率の濃度分布
図3
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実測値と計算値の比較