はじめに • 当院厨房では、嚥下調整食のとろみ付けに関する 明確な基準が無く、とろみ剤の計量は感覚的に行う など各々の方法があり、調理後に栄養士が硬さの 最終チェックをしている. • 回復期リハビリ病棟には飲料用のとろみ付けの基準 はあるが、病棟と厨房でとろみの粘度を比較検討した 経験がない. • 昨年、当院看護師が学会分類2013とろみの3段階に 準じたとろみ水を作成して粘度測定を行った結果、 とろみ水の粘度は経験年数で有意な差を認めなかっ た. 目 的 当院の厨房で調理された嚥下調整食ムース食の「あん」 調理師・栄養士・言語聴覚士が作成したとろみを音叉型 振動式粘度計 SV-10を用いて粘度を測定し、とろみ付け に関する問題点を検討したので報告する. 主な粘度計の特徴 音叉型振動式粘度計 特徴 測定 方法 • • • • B型、E型回転式粘度計 振動子が往復振動 • 回転数を変えることにより試料に 低粘度(0.3mPa・s)から測定可能 与える流れを変えることができる 測定物に対して侵襲性が低い • 操作が簡単で簡易測定に向いて 正確な温度が測定可能 いるため広く使用されている 流体中で振動子を一定の振幅で 振動させるための駆動電流から 粘度を読み取る 液体中で円筒または円盤を回転 させたとき、円筒・円盤に働く 液体の粘性抵抗トルクを測る 方 法 測定材料 ①:果物缶の汁(1人分 50g)にとろみ剤「つるりんこ Quickly」を使用して「学会分類2013とろみ 段階3」の 粘度に調整したとろみ ②:当院で提供される嚥下調整食(学会分類2013食事 コード2・3)の果物缶のあん「学会分類2013とろみ段階3」 の粘度をSV-10で測定した. なお、とろみ調整後の放置時間と温度は食事提供時と 同様の条件に設定した. ①について調理師5名、栄養士5名、言語聴覚士5名に 調整してもらい、測定した粘度値について検討した. 調理師が付けたとろみの粘度 A B 1回目 粘度 (mPa・s) 844 1010 2回目 粘度 (mPa・s) 904 724 3回目 粘度 (mPa・s) 538 849 平均 粘度 (mPa・s) 762±196 861±143 C D E 954 925 642 1210 701 2120 1440 1000 1930 1201±243 875±156 1564±804 栄養士が付けたとろみの粘度 A 1回目 粘度 (mPa・s) 506 2回目 粘度 (mPa・s) 1310 3回目 粘度 (mPa・s) 1400 平均 粘度 (mPa・s) 1072±492 B C D 777 689 322 446 1190 450 692 895 650 638±172 925±252 474±165 E 366 850 835 684±275 言語聴覚士が付けたとろみの粘度 粘度(mPa・s) A 782 B 712 C 729 D 764 E 745 平均 749±30 嚥下調整食ムース食の「あん」の粘度 粘度(mPa・s) A 488 B 642 C 366 D 724 E 527 平均 549±138 粘度の平均の比較 1 粘度(mPa・s) * 1600 *:p<0.05 1400 1200 1000 800 600 1053±154 759±197 400 549±139 200 0 調理師 栄養士 嚥下調整食のあん 粘度の平均の比較 2 粘度(mPa・s) *:p<0.05 考 察 1 • 調理師が作成したとろみと嚥下調整食ムース食の 「あん」の粘度に有意な差を認めた. • 調理師と栄養士において有意な差を認めなかったが、 個人のばらつきがあった. • 調理者と一回の調理量に関わらず一定の粘度にとろ みを調整するためには、性状の説明を理解するだけで は不十分であると考えられた. • 厨房の皆が統一した粘度を認識するために、定期的 に数値化された粘度を確認する必要がある. 考 察 2 言語聴覚士が作成したとろみと嚥下調整食ムース食 「あん」の粘度に有意な差を認めた. • 適正と考えるとろみの粘度に、調理師・栄養士と言語 聴覚士の間で、感覚的な違いがあると考えられた. • 勉強会や検食を重ねとろみの粘度に共通理解を深め る必要がある. • 院内で統一された食事を提供するために、多職種と 連携して適正な粘度を設定していく必要がある. 学会分類2013(とろみ) 早見表 性状の説明 (飲んだ時) 段階1 薄いとろみ 段階2 中間のとろみ 段階3 濃いとろみ • 「drink」するという 表現が適切なとろ みの粘度 • 口に入れると口腔 内に広がる • 液体の種類・味や 温度によっては、と ろみがついている ことがあまり気にな らない場合もある • 飲み込む際に大き な力を要しない • ストローで容易に 吸うことができる • 明らかにとろみが あることを感じ、 「drink」するという 表現が適切なとろ みの粘度 • 口腔内での動態は ゆっくりですぐには 広がらない • 舌の上でまとめや すい • ストローで吸うのは 抵抗がある • 明らかにとろみ がついていて、 まとまりが良い • 送り込むのに力 が必要 • スプーンで「eat」 するという表現 が適切な程度 • ストローで吸うこ とが困難 学会分類2013(とろみ) 早見表 段階1 薄いとろみ 段階2 中間のとろみ 段階3 濃いとろみ • スプーンを傾けると • スプーンを傾けると • スプーンを傾けて すっと流れおちる とろとろと流れる も、形状がある程 • フォークの歯の間 • フォークの歯の間 度保たれ、流れ から素早く流れ からゆっくりと流れ にくい 性状の説明 落ちる 落ちる • フォークの歯の間 (見た時) • カップを傾け、流れ • カップを傾け、流れ から流れ出ない 出た後には、うっす 出た後には、全体 • カップを傾けても らと跡が残る程度 にコーティングした 流れ出ない(ゆっ の付着 ように付着 くりと塊となって落 ちる) 粘度 (mPa・s) 50-150 150-300 300-500 LST値(min) 36-43 32-36 30-32
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