家畜排せつ物法施行後における 風蓮湖流域河川の水質環境変化について

家畜排せつ物法施行後における風蓮湖流域河川の水質環境変化について
家畜排せつ物法施行後における
風蓮湖流域河川の水質環境変化について
三上英敏、五十嵐聖貴
要 約
風蓮湖流域河川を対象として、家畜排せつ物法施行前後の水質環境を比較した結果、2013年度の調査結果
から以下のようなことがわかった。幾つかの牛密度が異なる小流域調査において、一般に直線関係のある牛
密度と河川硝酸態窒素濃度との関係について、法施行によってその勾配の減少(牛密度上昇に伴う濃度増加
量の減少)は見られなかった。また、モニタリングデータによる下流部での長期的水質経年傾向では、全窒
素濃度に関してあまり減少傾向が見られないのに対して、表面流出の寄与が大きくなりやすいBOD、COD
及び全リン濃度に関して改善傾向が見られた。下流部の全窒素濃度は、硝酸態窒素の基底流出の寄与が大き
いため、あまり変化しなかったと推察された。
Key Words:家畜排せつ物法、水質変化、硝酸態窒素、牛密度、風蓮湖流域
1.はじめに
の沈積した有機物は、堆積物表層で分解する際に、溶存酸
素を消費して底生生物の生息環境を損なう原因ともなって
風蓮湖は、北海道東部に位置する、湖面積56.38km2、最
いることを示唆している。
大水深11.0m、平均水深1.0mの浅い汽水湖である。風蓮湖
ところで、2004年11月から、
「家畜排せつ物の管理の適
では、干満などにより様々な塩分環境が出現し、多種多様
正化及び利用の促進に関する法律」
(以後、
「家畜排せつ物
な魚介類が生息しているため、昔から様々な魚種を対象と
法」と略)が完全施行されている。従って、現在では、家
した漁業が営まれている1)。
畜排せつ物を保管する際、不浸透性の材料で構築された床
風蓮湖の流域は広大であり、なおかつ、自衛隊矢臼別演
に適切な覆いと側壁を有する施設にて管理することが義務
習場以外のほとんどの流域で、乳牛飼育による酪農が営ま
づけられているため、以前より、降雨時において、家畜排
れており、それ以外の農業形態はほとんど見られない。本
せつ物に由来する成分が河川へ流出しにくい環境になって
流域は、1980年代前半頃に、急速に牧草地面積が増加し、
きていると思われる。今後の風蓮湖及びその流域対策を適
1990年代前半には、ほぼ現在と同様なレベルまで酪農開発
切に検討していくためには、この家畜排せつ物法施行によ
2)
が進んだ 。
って、どのように水質環境が変化してきているかを把握す
一方、風蓮湖内では、1971年以降1988年まで、平均して
る必要があると考えられる。
毎年100トン以上のシジミの漁獲があったが、1985年をピー
三上ら2) は、家畜排せつ物法の完全施行前の1998年か
クに減少した。2000年以降、禁漁の措置がとられているに
ら2年間、本流域の水質特性について調査し結果を報告し
も関わらず、現在でも、その資源回復の兆候は見られてい
ている。それによると、風蓮湖流域河川水の硝酸態窒素、
ない。このシジミ漁獲の激減と、流域酪農地増加の時期が
重炭酸イオン、及びカルシウムイオン濃度は、その流域に
リンクしており、その環境影響が懸念されてきた2),3)。
飼育されている牛密度とほぼ直線的な関係があることが示
風蓮湖に流入してくる河川は、その酪農土地利用による
されている。また、降雨時には、家畜排せつ物の成分に多
影響を受けており、家畜排せつ物に由来する栄養塩負荷や、
く含まれるカリウムイオン、懸濁態炭素、懸濁態窒素、懸
降雨時の牧場土壌の流出にともなう懸濁物質の負荷等が、
濁態リン、溶存有機態窒素、アンモニア態窒素等の河川水
風蓮湖の環境に影響を及ぼしていると思われる。門谷ら4)
中での濃度の上昇が確認されている。
によると、風蓮湖北西側の最奥部の堆積環境について、流
そこで、我々は、平成25年度から3カ年計画で、本流域
域陸起源粒子の堆積や、流域からの栄養塩負荷に伴う植物
を含めて家畜排せつ物法施行前の詳細な調査結果のある流
プランクトンの増殖とその沈降堆積の寄与が考えられ、そ
域において、その法施行後の現在、同様な調査を実施し、
37
環境科学研究センター所報 第4号 2014
家畜排せつ物法施行前後の酪農流域河川の水質変動傾向を
年降水量について、全体で760 ~ 1800mmで推移してい
検証することとした。
た。年平均気温については、1988年までは、4.8 ~ 5.4℃の
本報告では、初年度の結果について簡潔にまとめる目的
範囲で推移していたが、1989年に6℃を超えるようになっ
で、風蓮湖流域における家畜排せつ物法完全施行前後にお
てから、年平均気温が上昇した傾向が見られ、近年の2004
ける、河川水質の長期的水質経年傾向の特徴と、流域牛密
年から2013年の10年間では5.2 ~ 6.4℃の範囲で推移してい
度と硝酸態窒素濃度等との関連性についての変化について
る。
まとめ、その法施行による水質環境変化について検討する
風蓮湖流域の水質調査地点に関して、位置を図2に、地
ことを目的としている。
点の詳細について表1に示した。ところで、西フッポウシ
川の地点「X-1」は、風蓮湖流域河川では無いが、その流
2.調査地域の概要と調査方法
域に農業活動が無いことと、風蓮湖流域に隣接していると
いった理由で比較のために地点を設けている。
2.
1 調査地域の概要
本調査地域は、夏期は日照時間が少なく気温も低く、冬
2000
12
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数ある。そのため、本地域では乳牛飼育による酪農業が非
1800
常に盛んであり、他の農業形態はほとんどみられない。
1600
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8
1000
7
800
6
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5
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4
200
3
0
2
図1 風蓮湖流域の年降水量と年平均気温
(アメダス「厚床」による)
図2 調査地点位置図
38
2012
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
10
1990
1988
1986
1984
1978
いて示した。
1982
おける1978年から2013年までの年降水量と年平均気温につ
1980
に
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図1に、風蓮湖流域内のアメダス観測地点「厚床」
11
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ᐕᐔဋ᳇᷷ [͠]
期は雪が少なく晴天が多いものの寒さが厳しく真冬日も多
家畜排せつ物法施行後における風蓮湖流域河川の水質環境変化について
2.
4 小流域水質調査の概要と方法
表1 調査地点一覧
風蓮湖流域および近郊の比較的小さな流域をもつ河川地
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点にて、過去と同様にそれぞれの流域の牛密度と河川水質
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の関係を再把握し、その関係の変化を検討することによっ
て流域環境の変化を考察する目的で調査を実施した。調査
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は、
2013年6月から10月まで3回実施した。
(ただし、
「X-1」
は1回欠測した。
)
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採水は、ステンレス採水缶を用いて行った。採水後、
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直ちに、水温とpHを測定した。採水直後、一部試料は、
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GF/Fフィルターにて濾液試料を得た。未濾過試料(原水
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を行った。
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水質分析は、硝酸態窒素(NO3-N)
、全窒素(TN)
、リ
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ン酸態リン(PO4-P)
、全リン(TP)
、主要アニオン(HCO3-、
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試料)及び濾液試料は冷蔵環境にて持ち帰り、直ちに分析
Cl-、SO42-) 及 び 主 要 カ チ オ ン(Na+、K+、Ca2+、Mg2+)
に つ い て 行 っ た。NO3-N、TN、PO4-P、TPの 各 濃 度 は、
BLTEC社 製 の 窒 素 リ ン 同 時 分 解 装 置 が 連 結 さ れ た
QuAAtro2-HRにて定量した。HCO3-は、
濾液試料を用いて、
pH4.8アルカリ度を定量し、中性付近では、HCO3-濃度とア
2.
2 流域の飼育牛密度の解析
ルカリ度は、ほぼ同値であることから6)、その値をそのま
三上ら2)は、家畜排せつ物法施行前の流域の牛の飼育頭
ま 適 用 し た。Cl-、SO42-、Na+、K+、Ca2+、Mg2+は、 濾 液
数やその密度について整理している。しかしながら、家畜
試料をイオンクロマトグラフ(DIONEX社製 ICS-2100)
排せつ物法施行前後の水質環境を比較するためには、でき
にて定量した。
る限り流域の家畜飼育の情報も最新なものもあった方が良
3.結果と考察
い。
家畜排せつ物法施行後の流域の牛頭数については、過去
に実施された調査と同様に、各農家別の飼育頭数の情報か
3.
1 飼育牛密度
ら整理して、各水質地点の流域別に割り振られた各農家の
風蓮湖流域全体、経年傾向考察地点である風蓮川「風蓮
飼育頭数を更新することによって、家畜排せつ物法施行後
橋(F-8)」、小流域調査の各地点における、集水域面積、
(2012年現在)の各調査地点流域の牛密度について計算し
1997年及び2012年の牛頭数、1997年及び2012年の牛密度に
た。なお、過去の調査と同様、各農家家屋位置に飼育され
ついて表2に示した。風蓮湖の湖面を除く全流域面積は、
ている牛が存在すると仮定し、流域界にその農家位置があ
998.45km2であり、1997年当時と2012年現在の風蓮湖全流
る場合は、その農家の飼育牛頭数を該当する複数の小流域
域で飼育されている牛の頭数は、
63110頭と62881頭であり、
に分割して積算したため、各地点の牛飼育頭数には端数が
ほとんど変わっていない。ただし、各小流域の地点におい
ありうる。
ては、
増加や減少の割合がやや大きな地点も存在している。
小流域地点では2012年現在、全く飼育されていない流域を
2.
3 水質経年傾向の考察(下流部モニタリング地点)
含め2615頭までの範囲で牛が飼育されており、その中で、
家畜排せつ物法施行前後の水質変化を検討するために、
1997年時から増加傾向にあるのは、風蓮川「F-1」、中風蓮
長期的モニタリングデータのある地点での水質の経年傾向
川「C-1」
、三郎川「S-1」
、ノコベリベツ川「N-1」の流域
の考察は非常に有効である。風蓮湖最大流入河川である風
であった。2012年現在、各小流域地点の流域牛密度は、0
蓮川の下流部「風蓮橋(F-8)」は、公共用水域のモニタリ
~ 287.6[頭/km2]の範囲内であった。
ング観測地点となっており、これまで蓄積されたデータは
公開されている。BODやCODについては1975年より、全
3.
2 水質経年傾向(下流部モニタリング地点)
窒素(TN)や全リン(TP)については、2002年よりデー
図3に、
「F-8」における、BOD濃度、COD濃度、TN濃
タが蓄積されている。そこで、それらのデータの経年傾向
度及びTP濃度の公共用水域測定結果による経年傾向につ
を検討することによって、家畜排せつ物法施行による水質
いて示した。
変化について検討した。
BOD濃度について、かつて1[mgO/L]を超える環境
39
環境科学研究センター所報 第4号 2014
が多く見られたが、近年はその状況が見られていないこと
がわかった。COD濃度についても、かつて、風蓮湖の環
境基準値である5[mgO/L]を超える時が大半を占め、
表2 風蓮湖流域の各地域における集水域面積、
飼育牛頭数、飼育牛密度一覧 ࿾ὐฬ
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近年では2~6[mgO/L]の間で推移している傾向が見
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㪈㪐㪐㪎ᐕ
られている。TNやTP濃度においては、2002年度からしか
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データは無いが、TN濃度は横ばい傾向であるが、TP濃度
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については減少傾向が見られている。そこで、家畜排せつ
㪍㪊㪅㪉
㪍㪊㪅㪇
データとで、各項目の算術平均値の差を検定した結果、
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㪥㪈㪐㪐㪎
㪐㪐㪏㪅㪋㪌
10[mgO/L]を超える高濃度の時も多く見られていたが、
㪍㪊㪈㪈㪉㪅㪍㪎 㪍㪉㪏㪏㪈㪅㪈㪎
㪉㪇㪈㪉ᐕ
物法が完全施行された2004年までのデータと2005年以降の
BOD、COD及びTP濃度において、有意水準5%で違いが
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認められ、法施行後有意に濃度が減少していることがわか
った。
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㪈㪐㪉㪅㪈
㪉㪏㪎㪅㪍
以上の結果から、BOD、COD及びTP濃度に関して改善
傾向が認められ、家畜排せつ物法の完全施行の効果が現れ
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㪈㪍㪅㪐㪇
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㪎㪌㪅㪍
それは、家畜排せつ物が流出せずに流域にストックされ
る量や期間が増加する関係で、基底流出の寄与が大きな
㪘㪄㪈
㪏㪅㪐㪉
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㪇㪅㪇㪇
㪇㪅㪇
㪇㪅㪇
ていると考えられた。
一方、TN濃度については減少傾向が見られなかった。
NO3-Nの影響があまり減少しないためと考えられた。
5
16
14
12
3
COD [mgO/L]
BOD [mgO/L]
4
2
10
8
6
4
1
2
0
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’80
’85
’90
’95
’00
’05
0
‘10
1.8
’85
’90
’95
’00
’05
‘10
0.10
1.6
1.4
0.08
1.2
TP [mgP/L]
TN [mgP/L]
’80
0.12
2.0
1.0
0.8
0.6
0.4
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0.04
0.02
0.2
0.0
’75
‘02
‘03
‘04
‘05
‘06
‘07
‘08
‘09
‘10
0.00
‘11
‘02
‘03
図3 風蓮川「F-8」の水質経年傾向
40
‘04
‘05
‘06
‘07
‘08
‘09
‘10
‘11
家畜排せつ物法施行後における風蓮湖流域河川の水質環境変化について
3.
3 小流域水質調査
反映していると考えられた。牛密度とNO3-N濃度との直線
表3に、家畜排せつ物法施行前後における、流域牛密度
関係に関する勾配については、その法施行前後でほとんど
と、NO3-N、TN、PO4-P、TP及び主要アニオンと主要カ
同じであった。すなわち、家畜排せつ物法施行による牛密
チオンの各濃度(地点別平均値)との相関係数を示した。
度増加に対するNO3-N濃度の増加率はほとんど変わってい
ところで、過去の解析では、牛密度と各種水質の負荷量と
なかった。
の相関は、濃度との相関に比べてはるかに悪く、それは各
その理由は、その法施行によって、表面流出によって陸
地点間の比流量の違いが大きく影響しているためとわかっ
域から水域へ流出していく窒素量が減少傾向にあると推察
2)
ている
されることから、地下浸透経由で硝化されて流出していく
ことから、負荷量との相関については、今回は議
NO3-Nについては、その流出量の減少がほとんど無い結果
論しない。
家畜排せつ物法施行前の調査においては、牛密度と特に
-
と推察された。
2+
関係が高い項目は、NO3-Nの他HCO3 とCa であった。そ
HCO3-濃度について、NO3-N濃度に比べると、調査間で
の理由は、流域の牛密度が高くなればなるほど、有機物酸
のバラツキは大きいが、2013年においても、ある程度牛密
化、硝化、脱窒が行われる量が大きくなるためと理論的に
度と関連性が見られた。しかしながら、家畜排せつ物法施
理由づけられている2)。
行前に比べてその勾配にやや変化が見られ、牛が存在しな
い流域においてもその濃度が上昇している傾向も見られ
家畜排せつ物法施行後においても、NO3-Nについては、
-
2+
同様な関係が見られた。また、HCO3 やCa については、
た。HCO3-濃度は、硝化や脱窒だけでなく有機物分解に伴
法施行前にくらべてやや関連性が弱くなっている傾向も示
っても水中に増加してくることから、牛がいない流域にお
唆されるが、詳細は不明である。
いて、あるいは牛に関係無く生成してくるHCO3-が増加し
牛密度とNO3-N、HCO3-及びCa2+濃度との関連性につい
てきているのかも知れない。枯葉や土壌などの有機物分解
て、家畜排せつ物法施行前後を比較してモル濃度にて図4
は、温度にも影響することから、近年の年平均気温上昇も
に示した。
関連していることかもしれない。
NO3-N濃度に関して、1999年と同様に2013年についても、
Ca2+濃度について、2013年においても、HCO3-よりも牛
各調査間でのばらつきが小さかった。牛密度の高い地点で
密度と良好な関係が見られているが、家畜排せつ物法施行
は、家畜排せつ物法施行後において、基本的に濃度は上昇
前に比べると、HCO3-と同様に関連性が弱くなってきてい
していたが、流域牛密度も上昇していたので、その法施行
る。これも硝化や脱窒だけでなく有機物分解に伴って水中
による影響というよりも、おそらく牛密度の増加の影響を
に負荷されてくる成分であることから、HCO3-と同様な傾
向を示していると考えられる。
三上らの報告2) によると、牛密度と各濃度との傾き、
表3 家畜排せつ物法施行前後の牛密度と各種水質濃度
(平均値)との相関係数 ΔCNO3 / ΔD、 ΔCHCO3 / ΔD、 ΔCCa / ΔDに つ い て、
有機物分解、硝化、脱窒の過程から理論的に導きだされた
結果、そのモル比は、おおよそ、ΔCNO3 /ΔD:ΔCHCO3 /
㧝㧕‐ኒᐲ㧔1997㧕ߣฦỚᐲ㧔1999㧕ߣߩ⋧㑐ଥᢙ㧔n=12㧕
ΔD:ΔCCa /ΔD = 0 ~ 1:1 ~ 6:1となり、家畜排せ
㪥㪦㪊㪄㪥
㪫㪥
㪧㪦㪋㪄㪧
㪫㪧
つ物法施行前のその比は、0.3:1.8:1であったことが報告
㪇㪅㪏㪏㪈
㪇㪅㪌㪐㪋
㪇㪅㪋㪊㪏
㪄㪇㪅㪇㪈㪌
されている。法施行後である2013年の調査結果では、その
㪚㫃㪄
㪪㪦㪋㪉㪄
㪟㪚㪦㪊㪄
㪇㪅㪌㪏㪇
㪇㪅㪉㪉㪈
㪇㪅㪏㪌㪈
㪥㪸㪂
㪢㪂
㪚㪸㪉㪂
㪤㪾㪉㪂
㪇㪅㪍㪈㪏
㪇㪅㪈㪊㪇
㪇㪅㪏㪐㪎
㪇㪅㪋㪊㪐
比は、0.5:1.7:1と計算され、有機物の分解の傾向が少し
変わってきている可能性はあるかも知れないが、理論的な
範囲内での河川水質の形成が確認されていると考えられた。
4.まとめ
㧞㧕‐ኒᐲ㧔2012㧕ߣฦỚᐲ㧔2013㧕ߣߩ⋧㑐ଥᢙ㧔n=12㧕
㪥㪦㪊㪄㪥
㪫㪥
㪧㪦 㪋㪄㪧
㪫㪧
2004年に家畜排せつ物法が完全施行されて以来、風蓮湖
㪇㪅㪏㪍㪌
㪇㪅㪏㪌㪋
㪇㪅㪍㪈㪊
㪇㪅㪍㪈㪈
流域の600戸以上ある全農家で、適切な管理施設を設けて
㪚㫃㪄
㪪㪦㪋㪉㪄
㪟㪚㪦㪊㪄
㪇㪅㪌㪐㪍
㪇㪅㪋㪇㪇
㪇㪅㪌㪈㪊
㪥㪸㪂
㪢㪂
㪚㪸㪉㪂
㪤㪾㪉㪂
㪇㪅㪊㪊㪊
㪇㪅㪌㪉㪇
㪇㪅㪎㪊㪋
㪇㪅㪊㪋㪉
おり、降雨などによって河川へ家畜排せつ物が直接流出し
ない状況に管理が進んでいると推察された。
下流部モニタリング地点
「F-8」
の水質経年傾向を見ても、
BOD、COD及びTP濃度で改善傾向が示唆されている。こ
れらの水質項目は、表面流出等による家畜排せつ物の流出
41
環境科学研究センター所報 第4号 2014
0.20
2013ᐕ 䋨 ‐ኒᐲ2012ᐕ 䋩
CNO3= 0.00054䊶D + 0.016
r = 0.865
NO3-NỚᐲ [mM] 䋨 CNO3 䋩
0.18
0.16
0.14
0.12
0.10
1999ᐕ 䋨 ‐ኒᐲ1997ᐕ 䋩
CNO3= 0.00056䊶D + 0.005
r = 0.881
0.08
0.06
0.04
0.02
0.00
0
50
100
150
200
250
300
ᵹၞ‐ኒᐲ [㗡/km2] 䋨 D 䋩
2.0
1.8
HCO3-Ớᐲ [mM] 䋨CHCO3䋩
1.6
1999ᐕ 䋨 ‐ኒᐲ1997ᐕ 䋩
CHCO3= 0.0036䊶D + 0.55
r = 0.851
1.4
1.2
1.0
2013ᐕ 䋨 ‐ኒᐲ2012ᐕ 䋩
CHCO3= 0.0018䊶D + 0.76
r = 0.513
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
50
100
0.8
200
250
300
1999ᐕ 䋨 ‐ኒᐲ1997ᐕ 䋩
CCa= 0.0019䊶D + 0.15
r = 0.897
0.6
Ca2+Ớᐲ [mM] 䋨 Cca 䋩
図4 家畜排せつ物法施行
前後における流域牛密
度と河川NO3-N、
HCO3-、Ca2+濃度
(平均値)との関係
■:法施行前
●:法施行後
各マーカーのエラー
バーは、最大値と最小
値を示す。
点線及び実線は、法施
行前及び後の回帰直線
を示す。
150
ᵹၞ‐ኒᐲ [㗡/km2] 䋨D䋩
0.4
2013ᐕ 䋨 ‐ኒᐲ2012ᐕ 䋩
CCa= 0.0011䊶D + 0.22
r = 0.734
0.2
0.0
0
50
100
150
ᵹၞ‐ኒᐲ [㗡/km2] 䋨D䋩
42
200
250
300
家畜排せつ物法施行後における風蓮湖流域河川の水質環境変化について
影響を大きく受ける項目であることから考えても、流域農
6)Stumm, W., Morgan, J. J.“Aquatic chemistry 3rd
家における家畜排せつ物の管理がそれなりに適切に行なわ
edition”, p148-205, Wiley-Interscience., 1995.
れており、このことに由来する負荷量は減少してきている
と推察される。
一方、
「F-8」のTN濃度の経年傾向で減少傾向が見られ
Water quality changes in rivers within the basin
ないのは、排せつ物の表面流出等に起因する有機態窒素や
of Lake Furen after the introduction of the Act on
懸濁態窒素等の窒素流出はかなり抑制されていると思われ
Livestock Manure
たが、流域内に排せつ物がストックされる量や期間が増加
したことによって、NO3-Nの基底流出量が減少していない
Hidetoshi Mikami and Seiki Igarashi
ためと推察された。このことは、流域牛密度とNO3-N濃度
Abstract
との関連について、家畜排せつ物法施行前後においてほと
んど差異は無かったことからも説明できた。
This study concerned the observation of rivers in the
しかしながら、風蓮湖への負荷量を考慮するとき、出水
basin of Lake Furen during 2013, for the comparison
時の影響が大きいことから、家畜排せつ物法施行前後にお
of water quality before and after the introduction of
ける、出水時の負荷特性の変化について、さらに検討を進
the Act on the Appropriate Treatment and Promotion
めることが、今後の課題である。
of Utilization of Livestock Manure(Act on Livestock
また、小流域調査において、牛の飼育と関係無い流域に
Manure). The results showed that reduction in the
おいて、有機物分解がより促進している可能性が考えられ
slope of linear relationship between cattle density and
た。このことは、温暖化や家畜排せつ物法施行以外の何ら
river nitrate concentration with small basin, resulting
かの影響によっても、過去に比べて幾分水質が変化してき
from the introduction of the concerned act, was not
ている可能性を示唆している。それ故、酪農開発の進んだ
observed. Although the total nitrogen concentration did
流域においては、家畜排せつ物法施行による水質変化の影
not exhibit a downwards tendency, concentrations of
響と合わせて、気象変動の影響も加味して、流域全体の水
BOD, COD, and total phosphorus appeared to decline
質変化を把握することも重要と考えられる。
within the lower reaches of the Furen River, as based
on long-term observational water quality data. It was
5.謝辞
surmised that this was caused by the reduction of
surface runoff with introduction of the Act, and the
北海道環境生活部環境局環境推進課水環境グループ(現
concentration of total nitrogen in the lower river sections
環境保全グループ)の皆様、及び根室振興局・釧路総合振
was subject to minimal change, because of a large
興局の環境生活課地域環境係の皆様には、風蓮湖流域の概
contribution of nitrate through base runoff.
況の状況につきまして、データ収集のご協力を頂きました。
記して謝意を表します。
6.引用文献
1)北海道環境科学研究センター「北海道の湖沼改訂版」
p46-51,2005.
2)三上英敏,坂田康一,藤田隆男:酪農地帯、風蓮湖流
域河川の水質特性,北海道環境科学研究センター所
報,Vol.34,pp19-40,2008.
3)風蓮湖流入河川連絡協議会:風蓮湖流域水環境保全計
画,2012.
4)門谷茂,真名垣友樹,柴沼成一郎:酪農業の進展と
風蓮湖の生物生産構造変化,沿岸海洋研究,Vol.49,
NO.1,pp59-67,2011.
5)気象庁:アメダス過去データ,
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/
43