太陽活動の衰退に伴って太陽風の南北非対称性が顕著になることを発見 【概要】 太 陽 からは常 時 高 速 のプラズマ流「太 陽 風 」が吹 き出しています。この太 陽 風 の吹 き方は 緯 度 ・経 度 や太 陽 活 動 の状 態 によって大 きく異 なり、時 には北 半 球 と南 半 球で速 度 が大 きく 異なることがあります。我々は、太陽地球環境研 究所(STE 研)で長期間 にわたって取得され ている太陽風データを使って太陽風の南北非対 称性について解析を行いました。 その結 果 、南 北 非 対 称 性 は太 陽 活 動と密 接 に関 連していること、そして最 近 太 陽 活 動 が 衰退しているのに伴って南北非対称 性が顕著になっていることを発見しました。 【背景】 太陽面上に出現する太陽黒点の数は、約 11 年の周期で増減します。現在は太陽黒点が ピークとなる時期(極大期)ですが、今極大期は太陽黒点の発生が 100 年来の少なさです。 このことは太 陽 の磁 場 をつくるメカニズム(太 陽 ダイナモ機 構 )に何 か異 変 が発 生 しているの ではないかと考 えられおり、研 究 者 の関 心 が集 まっています。太 陽 観 測 衛 星 「ひので」による 観測から、最近の太陽 磁場が南北 非対 称な特 性を持っていることが報 告されました。このよう な磁場 の南 北非 対 称性 は太陽ダイナモ機 構を考える上で重 要な要 素 です。また、太陽 活 動 の衰 退 によって周 辺 の宇 宙 空 間 にどのような変 化 が浮 かれるかも興 味 ある課 題 となっていま す。17 世紀には約 50 年にわたって太陽黒点はほとんど観測されない期間(マウンダー極小 期)があり、その時に地球の気候が寒冷 化していたことが知られています。太陽活 動と地球気 候 のつながりは未 解 明 であり、現 在 の太 陽 活 動 の衰 退 がその謎 を解 く手 がかりを与 えると期 待されています。 【研究の内容】 本研究では、1985 年から 2013 年までの期間に取得された STE 研の太陽風観測データ を使って太 陽 風 の南 北 非 対 称 性 を調 査 しました。南 北 非 対 称 性 を調 べるには、高 緯 度 を含 む広 い範 囲 を 連 続 的 に観 測 する必 要 がありますが、それは探 査 機 では困 難 なことでした。 STE 研の太 陽風 観測は、天体電 波源 のまたたき現象(惑 星間 空間シンチレーション IPS)を 利 用したもので、高 緯 度 を含む広い領 域について太 陽 風 速 度を精 度よく決定 することができ、 約 30 年間のデータが利用可能です。調査の結果、極大期の高緯度において太陽風の分布 が南 北 非 対 称 になること、北 極 の変 化 が先 行 する傾 向 があること、さらに太 陽 活 動 の衰 退 に 伴 って大 きな南 北 非 対 称 性 が長 期 間 出 現 していることが判 明 しました。これらの事 実 は太 陽 磁 場 の南 北 非 対 称 性 と密 接 に関 係 しており、特 に後 者 は磁 場 の双 極 子 成 分 に対 して四 重 極子成分が優勢になっていることを反映したものと考えられます。 【成果の意義】 太陽風全体の構造が太 陽活動とともに如何に変 化しているかは、観測が困難なため十分 な知見 が得 られていなかった。この情報は銀 塊宇 宙線 の伝 搬や地球 周 辺 の宇 宙環 境(宇 宙 天 気)の変 動を理 解する上で不 可 欠であり、さらには銀 河 宇 宙 線・宇宙 天 気への影 響を通じ て地 球 気 候にまで影響 している可 能性 が指 摘されている。特 に、本 研究 で明らかになった太 陽活動の衰 退に伴う太 陽風の変化はマウンダー極小期などの期間にも起こっていたと考えら れ、太陽活動と地球気候のつながりを解明する上で重要な示唆を与えている。 【用語説明】 太陽風 :高温の太陽大気(コロナ)が超音速で流れ出している現象。速度は 300~800 km/s、 地球軌道付近での密度は 1cc 当たり数個~10 個程度である。高温のため、太陽風の粒 子はすべてイオンと電子の状態に電離されている。 太 陽 黒 点 :太 陽 面 上 で磁 場 が集 中 した領 域 。強 い磁 場 により熱 エネルギーの伝 達 が抑 制 さ れ周囲より暗く見える。 惑 星 間 空 間 シンチレーション:太 陽 風 中 の密 度 揺 らぎによって生 じる電 波 の“またたき”現 象 。 見かけの大きさが小さい電波源についてのみ観測される。この現象を使って地上から太陽 風の速度を測ることができる。 銀 河 宇 宙 線 :超 新 星 爆 発などで生 成した高エネルギー粒 子 が銀 河 系 内 を飛び交っているも の。 宇 宙 天 気 :太 陽 風や太 陽面 の爆 発 現 象の影響 により変 化する地 球周 辺 の宇 宙環 境や超 高 層 大 気 の状 態を指す。宇 宙 天 気 の擾 乱は、人 工 衛 星や無 線 通 信 などに重 大な障 害をも たらすこともある。 四重極 子(磁場):N 極、S 極の対が2組存在する磁場 構造。通常は N 極、S 極の対が 1 組の 双極子磁場が卓越している 【論 文 名 】 題 目 : North-South Asymmetry in Global Distribution of the Solar Wind Speed During 1985-2013 著 者:徳 丸 宗 利 、藤 木謙 一 、伊 集朝 哉 (名 古 屋大 学 太 陽 地 球環 境 研 究 所 ) 掲 載 誌:Journal of Geophysical Research –Space Physics (米 国 地 球 物 理 学 連 合 学 会 誌-宇 宙 空 間 物 理 学分 野 )受 理済 み、2015 年 掲 載 予 定 名 古 屋 大 学太 陽 地 球 環 境 研 究 所 富士 観 測 所 (左 )および木 曽 観 測 施 設(右)に設 置 された太 陽 風 観 測 専用の大 型 アンテナ。このアンテナを含 め4台の大 型アンテナで同 時に惑 星 間 空 間 シ ンチレーションを観 測 することで地 上から太 陽 風の測 定を行 っている。本 研 究では、本 装 置によっ て取得 された太 陽 風データが用いられた。 1983 年から 2013 年までの期 間に太 陽 地 球 環 境 研 究 所の IPS 観測 から得 られた太 陽 風 速 度の 全 球 的な分 布 。横 軸:時 間 、縦 軸:太 陽 面 緯 度。図 中 時 間は右から左に進 むことに注 意。色 は 太 陽 風 速 度を表す。青 色 :高 速 風 、赤 色:低 速 風 。(Tokumaru et al., J. Geophys. Res., 2015 よ り引 用)。 1985~2013 年における北 極 域(中 段)と南極 域 (下 段)の太 陽 風 速 度の分 布と高 速 風/低 速 風 の南 北非 対 称 性 (上段 )。青 色は高 速 風 、赤 色は低 速 風のデータを示す。上 段の図中 、太 陽 活 動の極大 期に低 速 風と高 速 風の非 対 称 性が増 大 している(赤 色と青 色の矢 印)。また、高 速 風 の非 対称 性 は、2000 年 以 降に顕 著になっている(破 線 矢 印)。(Tokumaru et al., J. Geophys. Res., 2015 より引用 )
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