日時: 2007年6月15日(金) 場所: 大阪国際会議場 潰瘍性大腸炎治療における 顆粒球吸着療法の臨床的意義 第52回 日本透析医学会学術集会・総会/ランチョンセミナー はじめに 座長 太田医学研究所 太田 和夫 先生 2000年4月、顆粒球吸着療法に用いられる 吸着療法の臨床的意義」と題してセミナーを アダカラム®が、潰瘍性大腸炎を適応疾患とし 開催することとなった。 て保険収載され、すでに7年が経過した。アダ 本日は、特定医療法人北楡会 札幌北楡病 カラム®登場前の潰瘍性大腸炎治療は、ステロ 院臨床工学技術部 土濃塚広樹先生に、顆粒 イド剤を中心とした薬物療法や外科療法のみ 球吸着療法の臨床成績および潰瘍性大腸炎 が選択肢であったが、現在では、 アダカラム®に 患者に対する体外循環療法施行時の注意点に よる体外循環療法が治療の選択肢のひとつと ついて、また東京女子医科大学消化器内科 飯 して位置付けられている。これに伴い、消化器 塚文瑛先生より、ステロイド抵抗性・依存性の 専門医のみならず、腎臓内科医や臨床工学技 潰瘍性大腸炎の問題点、および体外循環療法 士が、潰瘍性大腸炎治療に寄与する割合も確 の位置付けなどについてご講演いただく。 実に増加している。 本セミナーは、透析療法の最先端を行く そこで、 「潰瘍性大腸炎治療における顆粒球 ものと自負している。 Contents 潰瘍性大腸炎患者に対する 体外循環療法施行時の注意点 特定医療法人北楡会 札幌北楡病院臨床工学技術部 土濃塚 広樹 先生 潰瘍性大腸炎治療における 顆粒球吸着除去療法の位置付けと現状 ーステロイド抵抗性・依存性 潰瘍性大腸炎治療の問題点ー 東京女子医科大学消化器内科 飯塚 文瑛 先生 潰瘍性大腸炎患者に対する 体外循環療法施行時の 注意点 特定医療法人北楡会 札幌北楡病院臨床工学技術部 土濃塚 広樹 先生 GCAPは、患者からポンプを用いて脱血し、カラムを通して 札幌北楡病院における アダカラム®を用いたGCAP 患者に戻す直接血液灌流法(direct hemoperfusion; DHP)で ある。GCAPに用いるアダカラム®には、直径約2mmの酢酸セル 札幌 北 楡 病院では、人 工 臓 器センター(artificial organ ロースビーズが充填されており、顆粒球および単球を選択的に center: 外来74床、入 院14床)の一 角に、アフェレシス専用 吸着する。カラムのプライミング量は130mLと少量である (図1) 。 ベッドが3床設置されている。ここでは、プラズマフェレシ 当院で施行したGCAPは12例と少ないが、緩解33.3%、改善 ス(plasmapheresis)や、末梢血幹細胞、リンパ球などのcell 66.7%と全例に改善効果が認められた(図2)。 collect、また潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis; UC)の治療を アダカラム®治療を行う際は、通常アダモニターという専用装 目的とした顆粒球吸着療法(GCAP)および白血球除去療法 置(図3)を使用するが、30mL/分の血液流量を安定して確保で (LCAP)が行われている。 きるものであれば、透析装置での代用も十分可能である。 図1. アダカラム®の仕様と吸着特性 図2. 札幌北楡病院におけるGCAPの治療成績 アダカラムの吸着特性 吸着数(× 10 9cells) 吸着効率(%) 顆粒球 2.5 0.24 24.9 単球 0.1 0.02 19.5 リンパ球 0.2 0.04 6.6 1.90 1W 1クール 5W 6W 10W 2クール 2.47 1.27 (%)100 (N=12) 日本アフェレシス学会雑誌 1999;18(1) :117-131より引用 80 G C A P 治 療 成 績 アダカラムの仕様 吸着担体 酢酸セルロースビーズ 担体量 220g 容器・材質 ポリカーボネート サイズ 60mmø × 206mm 充填液 生理食塩水 プライミングボリューム 130mL 滅菌方法 高圧蒸気滅菌 60 40 33.3 33.3 20 0 0 2mm JIMRO社内資料 2 66.7 66.7 緩解 改善 不変 (N=4) (N=8) (N=0) 札幌北楡病院,2007 潰瘍性大腸炎治療における顆粒球吸着療法の臨床的意義 アダカラム®の使用方法 バスキュラーアクセス GCAPの抗凝固剤としてへパリンを使用する場合、体外循 バスキュラーアクセスは、肘部の正中皮静脈が太く穿刺しや 環開始時の単回投与量は1,000∼3,000U、持続投与量は500∼ すいため、両腕で脱血・返血するV-V方式が採用されている。 1,500U/hrである。一方、メシル酸ナファモスタットを使用する場 UC患者は、激しい下痢や下血による脱水状態が進行している 合は、回路内を20mg/500mL生理食塩水で充填してから体外 場合が多いので、バスキュラーアクセスの確保や血流量確保が 循環を開始し、持続投与量は20∼50mg/hrの範囲とされている。 困難な症例ではカテーテル挿入も考慮する。ただし、入院患者 当院では、出血傾向が著しい患者を除き、ヘパリンを使用し では中心静脈栄養(IVH)を挿入した状態の症例も多いが、血 ている。生理食塩水1,500mLにて洗浄・充填後、生理食塩水 栓ができた場合は処置が困難なため、IVHを使用したアクセス 500mLにヘパリン2,000Uを添加した液で置換する。体外循環 はしないほうがよい。 開始時の単回投与量はヘパリン1,000Uとし、持続投与量はヘ パリン1,000∼1,500U/hrまたは生理食塩水500mLにヘパリン モニタリング 1,000U/hrとしている。ヘパリンを支持する理由として、血液透 析で使用していることから、使い慣れており、取り扱いがしやす いことが挙げられる。さらに、UC患者は凝固能が亢進している GCAPでは頻度は低いが、体外循環療法では動脈または静 ことが多く、深部静脈血栓症などの合併が多数報告されている 脈チャンバー内で、血餅やフィブリン塊による圧上昇、いわゆる ことや、抗炎症効果を有するヘパリンの使用により白血球浸潤 通行障害が起こる場合があるため、当院ではDHP用の器械を を阻害し、腸管上皮の修復を促進する可能性があると報告され 用いて、入口圧、返血圧をモニターしている。そのほか、クリット ていることも、ヘパリンを選択する理由である。 ラインモニターを用いた血管内のボリュームの観察や、活性化 図3. GCAPの回路図とモニター アダモニター アダシステムの外観 治療風景 抗凝固剤 札幌北楡病院,2007 3 全血凝固時間(ACT)または活性化部分トロンボプラスチン時 返血する際はカラムの上下を逆にし、生理食塩水を用いる 間(APTT)などの凝固時間の測定も行っている。 が、空気誤入を避けるよう注意しなければならない。また、フ 抗凝固剤の投与量・方法の違いによるACTの推移を観察し ラッシング行為など、 カラムへ振動を与えないことも重要である。 た。ヘパリンの体外循環開始時の単回投与量は1,000U、持続 投与量をそれぞれ750U、1,000U、2,000Uおよび2,000 U+生理 GCAP施行中の異常 食塩水500mL/hrとして比較したところ、持続投与量を体外循 環開始時の単回投与量よりも下げた750U/hrの場合、後半に ACTの短縮が生じた(図4)。また、同様の条件で通行障害が 治療中の異常としては、脱血不良、静脈圧上昇などが考えら 生じない場合は、動脈圧・静脈圧に変化はみられなかった。 れる(表1)。また、アダカラム®の臨床試験データ(59例)による クリットラインモニターによる体内の水分環境の観察も重要 と、GCAP施行時の副作用は、頭痛、立ちくらみ、めまい、嘔気 である。GCAP 2回目の時点で排便回数が10∼15回/日であっ 各1件、発熱、顔面発赤各2例であり(表2)、副作用の少ない治 た症例に対し、体内水分環境が濃縮傾向に傾いていると考え、 療法といえる。 ヘパリン2,000U+生理食塩水500mL/hrを持続投与量とした (図5)。その結果、GCAP 9回目には排便回数が4回/日となっ まとめ たため、体内水分環境は正常域に近づいてきていると判断し、 持続投与量をシリンジポンプを用いてのヘパリン2,000U/hrに 変更した。このように体内水分環境を考慮して、腎機能が正常 GCAPは重篤な副作用が少なく、また抗凝固剤の選択肢 であれば補液を併用し、血液の粘性を低下させながら処理量 が広いこと、循環時の体外流出ボリュームがカラム単体で約 まで施行することが重要と考えられる。 130mL程度、専用回路を入れても約200mLと少ないなど、簡便 図4. GCAP施行時のACTの推移(抗凝固剤の投与量・投与方法別) (秒)250 (秒)250 1,000U 持続投与量 1,000U/hr 体外循環開始時の単回投与量 A C T 150 A C T 100 施行前 30 分 施行前 30 分 施行後 (秒)250 体外循環開始時の単回投与量 1,000U 持続投与量 2,000U/hr 200 150 50 体外循環開始時の単回投与量 1,000U 持続投与量 750U/hr 200 A C T 100 0 100 0 施行後 (秒)250 A C T 150 50 50 0 1,000U 2,000U+生食500mL/hr 体外循環開始時の単回投与量 持続投与量 200 200 150 100 50 施行前 30 分 施行後 0 施行前 30 分 施行後 札幌北楡病院,2007 4 潰瘍性大腸炎治療における顆粒球吸着療法の臨床的意義 に施行できる優れた治療法である。また透析装置での代用も するV-V方式が適している。留置しているIVHは使用せず、必要 十分に可能である。ただし、動脈圧・静脈圧をよく観察し、ACT であれば新たなダブルルーメンカテーテルの挿入を考慮すべき などを適宜モニタリングする必要がある。 であろう。 抗凝固剤に関しては、著しい出血傾向がない場合はヘパ われわれ臨床工学技士は、法的制約はあるにしろ、血液透 リンが適しており、脱水傾向が強い症例には生理食塩水による 析の技術を基本として発展したアフェレシスのような治療法に 補正、投与も考慮すべきである。アクセスは両腕の静脈を確保 積極的に関与していくことが重要と考えている。 図5. 体内水分環境に応じた抗凝固剤投与方法の調整 GCAP (2回目) (%)−25 排便回数 : 循環血液量 −20 体外循環開始時の単回投与量 : 1,000U 持続投与量 : 2,000U+生食500mL/hr 体内水分環境: 濃縮傾向 −15 −10 腎機能が正常であれば、補液を併用し血液の粘性を低下させながら処理量まで施行。 −5 0 GCAP (9回目) ヘパリン 10~15回/日 0 0.5 1 (%)−25 ヘパリン 排便回数 : 4 回 /日 循環血液量 −20 体外循環開始時の単回投与量 持続投与量 : 2,000U/hr 体内水分環境: 正常域 : 1,000U −15 −10 −5 0 0 0.5 1 時間(hr) 表1. GCAP施行中の異常原因と対処法 ・動脈回路のクランプが閉じていないか確認する 札幌北楡病院,2007 表2. 臨床試験時の副作用一覧 副作用発現件数 ・動脈の針先がうまく血管内に挿入されていない場合 脱血不良時 には、針先を再固定してみる ・駆血してみる 循環器・ 呼吸器系 ・動脈側の腕を温める ・血流を下げる 消化器系 ・静脈回路のクランプが閉じていないか確認する 過敏症系 ・静脈の針先がうまく血管内に挿入されていない場合 静脈圧 上昇時 には、再穿刺を行う ・警報設定が低くないか確認する ・静脈圧の段階的な上昇がある場合は、回路内凝固 8件 頭痛 1件 立ちくらみ 1件 めまい 1件 嘔気 1件 発熱 2件 顔面発赤 2件 副作用の発現は59例中5例であった。 下山孝ら, 日本アフェレシス学会雑誌 1999; 18(1): 117-131 を起こしていないか確認し、抗凝固剤を増量する 著明な場合には速やかに返血する ・体外循環治療による副作用 その他の 注意点 ・抗凝固剤による副作用 ・血管迷走神経反応(VVR) ・体外循環部の凝固 宮川浩之,早川 洋:日本アフェレシス学会雑誌 2006;25(3):240‐243 5 潰瘍性大腸炎治療における 顆粒球吸着除去療法の 位置付けと現状 ̶ステロイド抵抗性・依存性潰瘍性大腸炎治療の問題点 ̶ 東京女子医科大学消化器内科 飯塚 文瑛 先生 剤が有用であることがわかっている。 潰瘍性大腸炎とは UCは、クローン病とは病態がまったく異なるが、皮膚炎、ぶど う膜炎、関節炎など共通の併発症を有している。皮膚炎にはス 近 年、潰 瘍 性 大 腸 炎(ulcerative colitis; UC)患者は、年 テロイド剤や血球成分除去療法(CAP療法)が有効であるが、 間約4,000人ずつ増加しており、現在の患者数は10万人弱と UCによる壊疽性膿皮症は皮膚科医でも診断が難しく、化膿性 考えられている。UCは、クローン病とともに炎症性 腸疾患 炎症と誤診して抗生物質を投与し、改善がみられないために不 (inflammatory bowel disease; IBD)と総称される、多因子性 適切な皮膚移植に至る例もある。 の原因で生じる免疫異常により発症する、慢性・再燃性の腸炎 潰瘍性大腸炎とクローン病との鑑別診断 である。患者の8割は花粉症などのアレルギー性疾患を有して おり、体質が関連していると考えられている。また、風邪などの 感染症が引き金となることがある。治療法としては、ステロイド クローン病とUCの鑑別点を図1に示した。まず、クローン病 は口から肛門までの消化管に不連 図1. 潰瘍性大腸炎とクローン病の鑑別 続な病変が起こり、肛門の難治性 病変、腸管の狭窄、腹腔内や膀胱 潰瘍性大腸炎 クローン病 症状 粘血便、下痢、腹痛、発熱 下痢、発熱、腹痛、下血、やせ 分布 大腸(直腸を必ず含む) 連続性 肛門輪直上より口側へ 連続性、びまん性 十二指腸 食道 また、UCは、下痢や粘血便が特徴 アフタ 縦列潰瘍 不整形潰瘍 mm sm 正常 アフタ 杯細胞 の減少 腺数の減少 配列の乱れ 陰窩膿瘍 pm m>sm 粘膜・粘膜下層 縦走潰瘍 だが、クローン病は下痢、腹痛、大 瘻孔 潰瘍 m mm m sm 狭窄 量下血に加え、栄養吸収障害によ るやせが激しいのが特徴である。 SM層の増大 非乾酪性類上皮細胞肉芽腫 UCとクローン病を鑑 別する際 は、薬剤性、虚血性、放射線性の腸 不均衡炎症 sm>m 全層性 炎、結核やO-157、赤痢アメーバな 東京女子医科大学,2007 6 一方、UCは肛門輪直上より口側へ 連続性・びまん性の潰瘍性病変が 非連続性、区域性 炎症側隆起 pm 病巣 > 大腸に限局して生じる疾患である。 均一性 初期 再燃時 ↓ 再燃時 組織像 虫垂開口部病変 大腸 肛門 > 回腸・空腸 口腔 および皮膚との瘻孔などを生じる。 どの感染性腸炎を完全に除外した 潰瘍性大腸炎治療における顆粒球吸着療法の臨床的意義 後、内視鏡像で病変の形状・部位・分布・連続性などにより判定 わなくても、内視鏡検査で重症度判定し、その後の腹部X線検 することが必要である。重要なのは、常に微生物の関連を考慮 査で罹患範囲がわかる。ただし、重篤な腸炎症例では出血する することと、内視鏡による再評価を行っていくことである。 恐れがあるため、内視鏡検査はS状結腸下部までにとどめる。 臨床症状の重症度分類は、下痢の程度や血便、発熱、脈拍、貧 潰瘍性大腸炎の診断 血および赤沈により判定するよう記載されているが、最近では、 赤沈の代わりにCRPを測定することが多い。また、腹痛および 2006年に策定された厚生労働省研究班の『潰瘍性大腸炎 低蛋白血症の有無もよい指標となる。 の診療ガイドライン』では、UC治療に向けた診断手順が示され 潰瘍性大腸炎治療の基本 ている(図2)。本ガイドラインでは、確定診断後に病変の範囲 および重症度の判定を行うとされているが、これは治療法を選 択する上で非常に重要である。 UC治療の目標は、急性期から緩解期への早期導入および 病変の範囲は、注腸造影により確認できる。造影検査を行 緩解の長期維持にある。抗炎症療法の基本は5-アミノサリチ ル酸製剤(5-ASA)であるが、これは主と 図2. 潰瘍性大腸炎の診療ガイドライン: 潰瘍性大腸炎治療に向けた診断的アプローチ ■ 推奨グレード Ⅰ 病歴① 病歴② 主症状: 持続性・反復性の血性下痢・粘血便 最近の海外渡航歴、服薬、喫煙、家族歴等を聴取 身体所見 貧血、体重減少の徴候、腹部診察、直腸診察 診断的検査 重症例では病状安定まで待機を考慮。 施設の状況により、注腸X線造影で代用も可。 大腸内視鏡検査 して軽症および緩解期に有効であり、中 等症以上ではステロイド剤を用いること が多い。ステロイド剤は坐薬から、1日に 1,000mg投与されるパルス療法まで、非 常に広範囲に使用される有用な薬剤であ るが、問題点も少なくない。また、免疫抑 状況把握と鑑別診断 病変範囲 制剤のアザチオプリン(AZA)やメルカ CBC、CRP、腹部X線等の一般検査 細菌学的・寄生虫学的検査 「直腸炎型」、 「 遠位大腸炎型」、 「左側大腸炎型」、 「全大腸炎型」 プトプリン(6-MP)、重症例にはシクロス 重症度 ポリンや抗TNF-α抗体(国内未承認)も 「軽症」、 「中等症」、 「重症」 他疾患 潰瘍性大腸炎 使用される。注意しなければならないの 潰瘍性大腸炎の診療ガイドライン 2006年1月 は、下痢に対して、止瀉薬としてロペラマ 図3. 潰瘍性大腸炎の診療ガイドライン: 軽症∼中等症の左側・全大腸炎型、潰瘍性大腸炎の緩解導入療法 全大腸炎型 ■ 推奨グレード A 左側大腸炎型 ■ 推奨グレード B イドなどの腸管運動抑制薬を使用しない ことである。腸管運動抑制薬は中毒性 巨大 結腸症を誘発し、腹 膜炎を起こす ■ 推奨グレード Ⅰ 恐れがある。 経口5-ASA 2g/日以上 or SASP(サラゾピリン)2∼6g/日 安全性では5-ASA優位 SASP不耐例・授精希望 男性例では5-ASA使用 経済性ではSASP優位 改善なし or 迅速な治療必要 単独 or 併用 5-ASA注腸1g/日or ステロイド注腸 栄養補助療法 魚油脂肪酸 GBF(発芽大麦) 5-ASA注腸はステロイド 注腸より効果に優れる 5-ASA注腸は経口ASA 製剤よりも効果的 薬物療法では十分な効果が得られない難 治性UCで、治療開始時に中等症の症例や ステロイド抵抗性、またはステロイド漸減 白血球除去療法 改善 or 緩解 経口PSL 30∼40mg/日 PSL 60mg/日は40mgより 効果的だが副作用が多い ステロイド不応例・離脱困難例 CAP療法が適応となるのは、これらの 緩解維持治療に移行 ある。 『潰瘍性大腸炎診療ガイドライン』 でも、5-アミノサリチル酸製剤が無効の場 白血球除去療法 免疫抑制剤(AZA・6-MP) *これらの保存的治療により効果が得られない例では外科治療を考慮する 中に再燃するステロイド依存性の症例で 潰瘍性大腸炎の診療ガイドライン 2006年1月 合や、ステロイド不応例・離脱困難例に対 しCAP療法が推奨されている(図3)。 7 き薬剤であり、挙児希望女性もまた同様の配慮が必要である。 難治例に対するステロイド剤 および免疫抑制剤投与の問題点 ヨーロッパと日本では、妊婦への投与は禁忌となっている。 また、ステロイド剤の代わりに免疫抑制剤の選択も考えられ UC治療では、重症例は2∼3日、また中等症なら1∼2週間、軽 るが、妊婦に対しては、免疫抑制剤もFDA分類ではDで禁忌と 症なら1ヵ月ほどで効果を評価し、次の治療法を決定すべきで されている。このように、妊婦に薬物療法を行うのは非常に困 ある。従来、重症UCではステロイド剤を中心とした治療が行わ 難であるため、CAP療法が有用な選択肢となる。 れてきた。しかし、ステロイド剤を大量に使用すると、蛋白異化 さらに、 ステロイド剤を投与すると、体内のコルチゾールが分泌 作用や耐糖能異常、また、IVHを行っている症例では感染症を されなくなり、コルチゾール分泌を刺激する下垂体ホルモンも同 起こしやすくなる、さらに、精神が高揚し夜眠れなくなるなど、さ 時に分泌されなくなる。この状態のままステロイド剤を中止する まざま問題が生じる。 と、副腎皮質機能不全、下垂体ホルモンである副腎皮質刺激ホ 現在、もっとも注目されている問題は、骨粗鬆症と大腿骨頭 ルモン(ACTH)機能不全となる(図4) 。副腎皮質機能不全は、 壊死である。骨粗鬆症は閉経後の女性の問題と思われている 数ヵ月で回復する例もあれば、全大腸を切除後1年半経過して、 が、若者でも1日1gほどのステロイド剤を使用すると、2∼3日で大 ようやく正常化する例もある。したがって、ステロイド剤を投与す 腿骨頭壊死を起こす場合がある。2004年に『ステロイド性骨 る場合は、副腎、下垂体の状態も観察し続ける必要がある。 * 粗鬆症の管理と治療のガイドライン』が日本骨代謝学会により CAP療法の実際 策定された。本ガイドラインでは、これまで骨折がなく、骨密度 が正常な患者であっても、1日5mg以上のプレドニゾロン(PSL) を3ヵ月以上使用、または使用予定の場合は治療(第一選択薬: CAP療法には、顆粒球吸着療法(GCAP)、白血球除去療 ビスフォスフォネート)を要する、と記されており、年齢は不問で 法(LCAP)およびリンパ球除去療法(LCA)がある(表1)。 ある。この記載に従うと、IBDでステロイド剤を使用している症 これらの治療法により、IBD促進性のサイトカイン(TNF、IL- 例の多くが当てはまることになる。ビスフォスフォネート薬は優 1β、IL-6、IL-12、IL-8、IL-4、IFN-γ)を減少させ、抑制性サイ れた薬剤ではあるが、動物試験による母動物死亡や胎児の骨 トカイン(IL-10、TGFβ、IL-1ra、IL-13)と抑制性ケミカルメディ 軟化症が報告されており、また単回投与により1%が吸収されて エーター(PGE2、PGJ2)を上昇させることが知られている。実 骨に蓄積され、 3年間ほどその作用が残存する。妊婦は避けるべ 際に、アダカラム®を用いてGCAPを行い、有効例と無効例の大 * J Bone Miner Metab. 2005;23(2):105-109 腸粘膜のサイトカインのmRNAを 図4. ステロイド剤中止による副腎皮質機能不全とホルモン濃度の推移 測定したところ、IL-8のmRNAが 高値の症例に効果が高いことが (pg/mL) 示された(図5)。 ACTH 55.7 正常範囲 当院では、10年前から 『 UC手帳』 7.4 を企画、作成し、他施設やUCの患 (μg/dL) 18.3 者会にも使用されている。この手 正常範囲 帳は便通状態を1時間単位で記入 4.0 Cortisol するもので、 いつ、 どのような性状の 副腎皮質機能不全 便が1日何回出たのか、腹痛はある ACTH ACTH Cortisol Cortisol 両方低値 両方正常 により、ひと目で1週間の便通がわ 東京女子医科大学,2007 8 か、などという情報を記入すること かるように作られている。現在は、 潰瘍性大腸炎治療における顆粒球吸着療法の臨床的意義 患者とも情報を共有する時代であり、医療関係者だけでなく、 め、ステロイド剤の増減を繰り返したが、生涯使用量が14gまで 患者も医療チームの一員として加わることが重要である。UC手 達したことから、GCAPを施行し、ステロイド剤の減量を実現で 帳では患者が書き込むだけでなく、内視鏡所見のスコアなども きた。通常、免疫抑制剤の処方によりステロイド剤の減量を試 手帳に書き込めるようになっており、患者が自身の状態をよく理 みることが多いが、本症例では免疫抑制剤の服用を拒否したこ 解し、よりよい治療を実現するために有用と考えている。 とから、GCAPを選択した(図6) 。免疫抑制剤を併用している にもかかわらず、ステロイド剤を減量すると再燃する場合や、副 症例提示 作用のためステロイド剤が服用できない場合も、GCAPが施行 される。 UC患者の症例を示す。 症例2は、腸管外合併症として糖尿病を併発しているため、 ス 症例1は罹病期間10年のステロイド依存性の症例であり、ステ テロイド剤内服を避けたい症例である(図7)。免疫抑制剤の ロイド剤を10mg/日以下に減量すると再燃がみられる。そのた 投与とGCAPによる治療を主とし、ベタメタゾン坐剤を併用して 表1. CAP療法の種類 図6. 症例1: 難治性潰瘍性大腸炎 CAP療法(血球成分除去療法)の種類 1 難治性潰瘍性大腸炎 GCAP頻回(3回/年)施行例 顆粒球除去療法 (Granulocytapheresis,GCAP) 2 61歳・男性 免疫抑制剤の服用拒否 罹病期間: 10年 左側大腸炎型 中等症 ステロイド: 生涯投与量14g ステロイド依存性 酢酸セルロースビーズカラム(アダカラム®)による吸着 白血球除去療法(Leukocytapheresis,LCAP) GCAP ポリエステルファイバーカラム(セルソーバ®)による吸着 PSL 3 リンパ球除去療法(Lymphocytapheresis,LCA) 遠心分離法によるリンパ球除去 (mg/日) SASP (mg/日) 顆粒球除去療法の治療時間と保険内容(アダカラム®) 治療時間 保険内容 1回60分 治 療 回 数: 週1回×5週 間(これが1セット、2セットまで可能) 材料価格: 125,000円/本 処置料: 2,000点 特定疾患医療費助成 本治療に対する特別な負担なし を受けている方 非登録患者さん負担額 145,000円の3割負担 (行/日) 絶食 高カロリー輪液 ■ 普通 ■軟 10 ■ 水様∼泥状 ■ 泥状∼軟 5 0 血 便 腹 痛 CRP ’03/11/28 ’04/1/30 3/2 (±) (−) 5/1 (±) (−) 無し 1.48 1.09 6/16 8/6 10/8 11/5 (−) ’05/1/7 (−) 無し 無し 無し 1.6 0.05 0.7 1.2 0.2 1年 東京女子医科大学,2007 図5. GCAPによるIBD促進性・抑制性サイトカイン濃度の変化 末梢血中のIBD抑制性 サイトカイン濃度 返血側 排便回数 40 30 20 10 0 400 200 0 15 白血球のIBD促進性 サイトカイン産生能 図7. 症例2: ステロイド使用不適切例 ステロイド使用不適切 AZA併用 “再燃” 56歳・男性 罹病期間: 13年 左側大腸炎型 中等症 腸管外合併症: DM(糖尿病): インスリン治療 GCAP AZA(50 mg/日) 併用薬 IL-1ra/IL-1β 5-ASA(2,250 mg/日) ベタメタゾン坐剤 TNF-α IL-1β IL-6 IL-8 ■ 普通 ■ 水様 10 排便回数 ■ 水様∼泥状 ■ 粘液 5 (行/日) 脱血側 0 血 便 大腸粘膜mRNA: IL-8↑症例に有用 血液ポンプ 東京女子医科大学,2007 腹 痛 CRP 2003/6/24 7/8 (+) 中 0.38 7/22 8/12 (−) 弱 無し 0.4 東京女子医科大学,2007 9 れ、有効63%(29例)であった。GCAP有効性の評価はDAI*の 図8. 症例3: サイトメガロウイルス感染 変法により臨床症状(排便回数、血便および全般的評価)を4 CMV感染後悪化例(他施設) “多量のステロイド剤投与例” 段階で評価して合計し(表2)、治療前後で3点以上減少すれば 57歳・男性 「有効」と判定した。GCAP有効例における効果発現までの平 GCAP 均施行回数は1.9回であり(図10)、施行回数2回以内に効果が 1,000 メチル プレドニゾロン (mg/日) 発現している症例が86%に達したことから、CAP療法は比較的 500 早期に効果が発現することが示された。 ソルメドール(mg/日) また、内視鏡的活動度を易出血性、潰瘍の深さおよび密度、 0 ガンシクロビル (0.5∼1g/日) 排便回数 (行/日) ■ 普通 ■ 水様 10 ■ 水様∼泥状 ■ 泥状∼有形 心筋梗塞 発作 5 2+∼3+ 0 腹 痛 ■ 下血 2007/5 5/9 5/16 全大腸 摘出手術 5/23 5/28 6/1 東京女子医科大学に転院 有り *CMV感染 血管像の3つの評価項目に分け、DAI法と同様に4段階で評価 し、その合計スコアを比較した。その結果、DAI法での成績と 同様に、GCAP 2回終了時点でスコアが大きく低下した。GCAP 5回前後の内視鏡像を比較しても、粘膜の治癒が得られ臨床的 緩解に近づいていることが示された(図11)。 従来は、ステロイド抵抗性症例はただちに腸管切除術の適 緩解導入した。 応とされたが、現在は、サイトメガロウイルス抗原検査を実施 他施設例であるが、強力なパルス療法とGCAPを施行していた し、必要に応じ、抗ウイルス薬を併用しながらCAP療法を行う 症例(図8)を示す。ステロイド大量投与によりサイトメガロウイ ことにより、腸管の切除を免れる可能性があると考えられる。 ルス感染症が発症し、UCの病状も悪化した。抗ウイルス薬の投 現在のUCの治療法としては、5-アミノサリチル酸製剤が無 与後に、ステロイドを減量したが改善せず、心筋梗塞も発症した 効の中等症例に対してGCAPを選択するのが適しているといえ ため、当院にて全大腸摘出術に至った。腸炎の治療は、全身を る。一方、重症例に対しては、以前は強力なステロイドパルス療 総合的に診療していくことが重要であることを示す例といえる。 法を実施し、無効例にはシクロスポリン、さらに抗ウイルス薬も ステロイド抵抗性および 依存性症例に対するGCAPの成績 検討するという方法が一般的であったが、現在はステロイド強 力静注無効例に当初からシクロスポリン持続点滴を選択する 症例も増えている。 * Am J Gastroenterol, 1993;88(5):640-645 1996∼2002年にGCAPを施行したステロイド抵抗性および 依存性症例の臨床成績をレビューする。 まず、GCAP施行のタイミングを比較する。1997年、GCAP5回 終了時の粘膜像をみると、偽ポリポーシスが平坦化し、改善が 図9. GCAP施行のタイミング 偽ポリポーシス型: 有効時・無効時の比較 56歳・女性 ’ 97年7月 有効 ’ 98年6月 無効 再燃後すぐにGCAP開始 再燃1ヵ月後にGCAP開始 認められた(図9)。その後再発した同一症例に対して、1998年 にGCAPを施行し、同様に5回終了時の内視鏡像をみると、初 回治療時のような改善効果は認められなかった。これは、初回 治療時は再燃してすぐにCAP療法を開始したため有用であっ たが、2回目の治療は再燃して1ヵ月経過後に開始したためと考 えられ、同一症例に対して治療を行う場合も、タイミングが重要 であることが示された。 次に、1996∼2002年の6年間の成績を解析した。GCAPは46 例(ステロイド抵抗性重症31例、依存性中等症15例)に施行さ 10 東京女子医科大学,2007 潰瘍性大腸炎治療における顆粒球吸着療法の臨床的意義 表2. GCAPの有効性評価: DAI法 図10. GCAP有効例のDAI (点) 9 有効: GCAP 治療(5回 or 10回)の前後でDAIが3点以上減少 8 7 効果の発現時期: 6 GCAP開始前と比べてDAIが2点以上減少した時期 5 DAI = A+B+C(スコア: 0∼9) スコア 効果発現までの平均回数は 4 3 2 1 0 A 排便回数 3+ 2+ 1+ − B 血便 3+ 2+ 1+ − C 全般的評価 重症 中等症 軽症 − 1.9回 3 効果発現までの回数が 2回以内の症例は 2 86% 1 ※DAI法の評価項目の1つである「内視鏡による粘膜所見」を除く、上記3項目で 評価した。 GCAPの回数; 1回/週 0 東京女子医科大学,2007 1 2 3 4 5(回) 東京女子医科大学,2007 図11. GCAP前後の内視鏡像(GCAP 5回施行) 偽ポリポーシス型 びらん・潰瘍型 深掘れ潰瘍型 東京女子医科大学,2007 免疫抑制剤による副作用が発現する場合などもアダカラム®の アダカラム®の適応 適応と考えられる。これらの難治症例にGCAPという治療法が 残されていることは、非常に心強いといえよう。 ® 以上より、アダカラム の適応としては、まず5-アミノサリチル ただし、貧血のある症例では血管内脱水が重篤になり、腸内 酸製剤が無効の中等症例で、特に糖尿病、骨粗鬆症、著明な に虚血による縦走潰瘍病変ができる可能性がある。また、個人 低蛋白血症など、ステロイド剤使用や増量が不適切な症例が挙 的にはヘモグロビン9g/dL未満の場合にはGCAPなどの体外循 げられる。また、ステロイド不応例、ステロイド依存・離脱困難 環療法を施行すべきではないと考えている。 例の再燃時に免疫抑制剤を併用しても再燃がみられた場合や、 11 おわりに 太田医学研究所 太田 和夫 先生 最近、血液細胞を対象とした体外循環療法の研究が進みつつあり、臨床応用 も広がっている。本日の講演にもあった通り、血液浄化による治療は、今、まさに 新しい展開の時期を迎えようとしているといえよう。 本日のセミナーでは、豊富な経験に基づく貴重な講演を賜り、学ぶところが大 きかった。土濃塚先生からは、臨床工学技士の立場より、アダカラム®の使用方 法や抗凝固剤の選択方法、および顆粒球吸着療法(GCAP)施行時の注意点に ついて、非常に具体的なお話をいただいた。また飯塚先生からは、潰瘍性大腸炎 とは、から始まり、診断方法および薬物療法、GCAPの適応、さらに症例紹介など をしていただいた。本日の講演により、GCAPは、潰瘍性大腸炎に対する非常に 有望な治療方法であることがご理解いただけたと思う。日常診療で潰瘍性大腸 炎に遭遇した場合は、GCAPを念頭においた診療をぜひ行っていただければと 願っている。 本セミナーが、先生方の日常診療に少しでもお役に立てば幸いである。 AD200710FICS 2007年12月作成
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