dviu2(eln)

調査研究 2
『長野県内の病院における外科医師数についての調査』
要旨
長野県内の外科診療科を有する 54 病院を対象とし、医師数、診療実態、医師構成、医師不足数
の調査を行った。49 病院より回答があり、回収率は 91%であった。調査結果は、①長野県内の 49
病院における外科医の総数はこの 6 年間でわずかに増加している。②外科専門科別では、一般消化
器外科医のみが減少している。③外科医が増加している病院は全体の 37%であり、その大部分が
規模の大きな病院である。④長野県内の病院勤務外科医、特に一般消化器外科医の年齢構成が不均
衡であり、40~50 歳代の外科医の割合が全国より高い。⑤各病院の外科医の不足数の積み上げ数
の総計は 120 であり、うち一般消化器外科医数は 58 であった。⑥今後 5 年以内に、長野県内の外
科医が 21 名減少する可能性がある。と要約された。
はじめに
近年、医師の診療科偏在が問題となっている。ある報告によると、全医師数は 1994 年から 2006
年の間に 19.3%、約 4 万 3000 人増加しているものの、この 12 年間の医師数の増減は、診療科に
より大きく異なっており、外科系一般は 2.6%減、一般・消化器外科に限ると 12.7%の減少とされ
る。同じ期間、整形外科は 21.1%、小児科は 10.1%。麻酔科は 32.6%増加しており、産婦人科は
4.9%の減少であった。また、29 歳以下の医師数は 1996 年から 2004 年まで毎年 2 万 6000 人から 2
万 7000 人で大きな変動なく推移しているものの、この 8 年間に一般・消化器外科医のみ 1000 人規
模で減少していた。
この外科医師不足・外科崩壊の危機的状況を危惧し、平成 19 年の日本外科学会総会におけ
る大阪大学門田教授の、外科医減少についての会長講演に始まり、平成 20 年と平成 21 年において
も同総会において外科医減少対策の特別企画やシンポジウムが組まれるようになった。さらにこれ
らに引き続いて、外科医減少に関しての新聞記事あるいは雑誌の特集記事も目につくようになりつ
つある。しかしながら、一般においては、小児科医・産科医・麻酔科医減少ほどの強い関心が見ら
れないのが現状である。この調査は、長野県内の外科医師数の現状と見込みを明らかにすることを
目標としている。
対象と方法
調査実施者は、信州大学医学部地域医療推進学講座と長野県衛生部医療政策課医師確保対策室
(現、長野県健康福祉部医療推進課医師確保対策室)とし、資料 1 の調査票を平成 21 年 9 月 15
日に長野県内の外科診療科を有する 54 病院へ発送した。調査票返却締め切りは同年 10 月 5 日と
した。
調査項目は、医師数に関する項目として病院の総医師数、外科専門科別医師数、初期研修医数、
外科専門研修医数、病院の診療実績等に関する項目としては、年間延べ入院患者数、年間延べ外来
患者数、外科専門科別年間全身麻酔手術数とした。外科医師の構成に関する調査では、個々の外科
医師の年齢、専門科、勤務形態、今後見込まれる医師の増減とし、外科医師の不足数に関して専門
診療科別の不足数と、自由意見の記入(資料 2)をお願いした。
さらに、平成 21 年 12 月厚生労働省発表の平成 20 年医師、歯科医師、薬剤師調査のデータを用
いた検討ならびに、全国と長野県との比較を行った。
1
結果
 平成 15 年度と平成 21 年度の総医師数
平成 21 年度における総医師数が、平成 15 年度よりも減少した病院は 49 病院中 18 病院あり、そ
の減少数は 1 人から 21 人であった。一方、変わらなかった病院数は 6 であり、25 病院では増加し
ていた。
総医師数が減少した 18 病院の設立背景については、公的病院が最も多く 8 病院であった。以下、
公立病院 4、国立病院機構 3、県立病院 2、私立病院 1 であった。総医師数が減少した 18 病院は、
長野県内 10 医療圏すべてに分布していた。

平成 15 年度と平成 21 年度の外科医師数
平成 21 年度における外科医師数が、平成 15 年度よりも減少した病院は 49 病院中 19 病院あり、
その減少数は 1 人から 3 人であった(1 人減少:9 病院、2 人減少:病院、3 人減少:7 病院)。一
方、変わらなかった病院の数は 14 であり、16 病院では増加していた。減少した 19 病院の設立背
景については、公立病院が最も多く 6 病院であり、以下公的病院の 5 病院、県立病院・私立病院が
3 病院、国立病院機構が 2 病院であった。長野県内 10 医療圏のうち、北信と佐久でこの 6 年間で
外科医師が減少した病院はなかったが、長野で 5 病院、以下飯伊 4 病院、上小と松本で 3 病院、大
北・諏訪・上伊那・木曽でそれぞれ 1 病院において減少していた。また、平成 21 年度に常勤の外
科医師が 0 となった病院が 1 病院あり、外科医が 1 人のみの病院数は 6 であった。
外科医が増加した 16 病院すべてが病床数 100 以上の病院であり、300 床以上の病院が 11 病院で
あった。これら外科医が増加した 16 病院中、平成 15 年度に比し 20 年度の全身麻酔手術数が増加
した病院が 11 病院あり、4 病院ではほぼ変化なく、1 病院でのみ手術数は減少していた。外科医数
に変化のなかった 14 病院中 11 病院で平成 15 年度と 20 年度の手術数の比較が可能であったが、平
成 15 年度に比し 20 年度の手術数が増加した病院が 5 病院あり、2 病院ではほぼ変化なく、4 病院
では手術数は減少していた。

県内 49 病院における全身麻酔下手術数の推移(図 1)
県内 49 病院における平成 20 年度の全身麻酔下手術数は、平成 15 年度に比し一般消化器外科、
心血管外科、乳腺内分泌外科において増加していた。合計では約 1300 例の増加であった。

長野県内の外科医数の変化と専門科別外科医数
長野県内の大学病院以外の 49 病院の専門科別外科医数の推移を図 2 に示した。勤務外科医総数
は平成 15 年度に比し平成 21 年度においては 10 人増加していた。心血管(3 人)
・呼吸器(6 人)・
乳腺内分泌(4 人)・小児外科医(1 人)は増加しており、一般消化器外科医は 4 人減少していた。
長野県内 49 病院の外科医の勤務形態としては、その 85%が常勤医であり、大学より派遣された
医師は全体(235 人)の 11%であった。また、他が 4%であった。49 病院と信州大学を合わせた
外科医 304 人中 294 人の性別は、女性が 16 人、男性が 278 人であった。
平成 21 年度の長野県内 49 病院と信州大学を合わせた専門科別外科医の割合を図 3 に示した。平
成 21 年度の県内 49 病院ならびに信州大学医学部附属病院に所属する全医師 304 名の外科専門科内
訳は、一般消化器外科が 62%の 191 人、以下心臓血管外科 14%の 43 人、呼吸器外科 11%33 人、
乳腺内分泌外科 9%27 人、小児外科 4%の 10 人であった。

長野県内の外科専門研修医数の推移
2
卒後 3 年目から 5 年目の外科専門研修医総数は平成 15 年度に比し、平成 21 年度において増加し
ていた。平成 15 年度においては、専門研修 1 年目、2 年目、3 年目の医師数はそれぞれ 4、9、6
人であり、平成 21 年度においては、それぞれ 4、11、13 人であった。平成 21 年度の外科専門研
修医の内訳では、専門研修 1 年目では 3 人、2 年目と 3 年目ではそれぞれ 9 人が病院独自のプログ
ラムによる専門研修医であった。他は大学よりの派遣であった。

外科医の年齢別構成
平成 21 年の長野県病院勤務外科医 294 人(全 304 人中)の年齢別構成を図 4 に示した。長野県
内の 49 病院と信州大学医学部附属病院勤務の外科医 294 人の年齢別の構成数の検討では、35~39
歳と 45~49 歳に二峰性ピークがあり、50~59 歳の間に急激な数の減少が認められた。平均年齢は
44.6 歳であった。一般消化器外科医の数が優勢なため、長野県外科医全体の傾向は、一般消化器
外科医の傾向にほぼ一致していた(図 5)。年齢群の構成割合では、一般消化器外科医において 44
歳以下の年齢の医師の割合が最も低かった。全専門科を通じて年齢群間の医師数割合の増減が顕著
であった(図 6)。

長野県における外科医の不足数(表 1)
 乳腺外科医の不足の現状
年間全身麻酔下乳腺内分泌外科手術症例が 10 以上の施設は 21 施設あり、そのうち 11
病院においては乳腺外科医が 1~2 人(2 人:7 病院、1 人:4 病院)常勤し年間 28~183
の乳腺外科手術を行っていた。うち 9 病院においては 1~2 人不足との回答を得た。また
10 施設においては乳腺外科医が常勤せず、一般消化器外科医がその診療と年間 10~50 の
乳腺外科手術を行っていた。各病院記載の乳腺内分泌外科医の不足数の積み上げ数は 28
人であった。
 小児外科医の不足の現状
年間全身麻酔下小児外科手術症例が 10 以上の施設は 7 施設あった。4 病院においては小
児外科医が 1~4 人常勤しており年間 23~358 の全身麻酔小児外科手術を施行していた。う
ち 2 病院においては 1 人不足との回答を得た。また 3 施設においては小児外科医が常勤せ
ず、一般消化器外科医が診療と年間 13~24 例の手術を施行していた。各病院記載の小児外
科医の不足数の積み上げ数は 7 人であった。
 心臓血管外科医の不足の現状
年間 100 例以上の心臓血管外科手術施行の 8 病院中、6 病院が医師数に不足なしとの回
答であった。各病院記載の心臓血管外科医の不足数の積み上げ数は 7 人であった。
 呼吸器外科医の不足の現状
不足なしと回答した病院は 6 病院であり、うち呼吸器外科医 3 人の病院が 2 病院、2 人
の病院が 2 病院、1 人の病院は 2 病院であった。このうち 3 施設(常勤医 3 人が 1 施設、2
人が 2 施設)での年間呼吸器外科手術数は 100 以上(103~190)であった。
各病院記載の呼吸器外科医の不足数の合計は 20 人であったが、呼吸器外科医が常勤せず
1~2 人不足と回答した病院が 7 病院あり、1 人の呼吸器外科医が常勤し 1~2 人不足とした
病院が 8 病院あり、3 人の常勤呼吸器外科医を有するも 1 人不足とした病院が 1 つあった。
 一般消化器外科医の不足の現状
各病院記載の一般消化器外科医の不足数の積み上げ数は 58 人であった。また、図 7 に示
すように、6 医療圏(飯伊 5 病、下伊那 3 病院、諏訪 4 病院、長野市 6 病院、北信 2 病院、
3
上小 4 病院)における平成 21 年度の消化器外科医数と現時点の消化器外科医不足数の合計
(理想消化器外科医数)と平成 20 年度の消化器外科全身麻酔手術数の間に極めて良好な相
関関係が認められた。これによると全県平成 20 年の消化器外科手術数が 9388 例より、理
想の一般消化器外科医数は約 182 人と計算された。平成 21 年の一般消化器外科医総数 159
人とすると 23 人不足と予測できる。

今後 5 年以内に予定される外科医数の増減(表 2)
今後 5 年以内に 21 病院において 37 人の外科医の減少が予想され、10 病院で 16 人の外科医の確
保が予定されている。現状では 21 名の外科医の減少の可能性があることが明らかとなった。

平成 20 年医師、歯科医師、薬剤師調査のデータを用いた検討
全国病院勤務外科医専門科別数の推移については(参考図 1)、平成 18 年調査までの外科(一般
外科)、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科の 4 科が、平成 20 年調査においては、新たに消化器
外科(胃腸外科)と乳腺外科が加わり 6 科の外科、消化器外科(胃腸外科)、心臓血管外科、呼吸
器外科、乳腺外科、小児外科となった。このため、平成 18 年までの外科に相当する人数は、平成
20 年においては、外科、消化器外科と乳腺外科医の数を加えたものとした。
小児外科医数と心臓血管外科医数は平成 18 年にわずかに減少したものの、この 10 年間でゆっく
りとした増加が認められている。また、呼吸器外科医は一貫して増加している一方、外科(一般外
科)医数は平成 8 年をピークに減少し平成 18 年までに 10 年間で約 2400 人の減少を示している。
平成 20 年には平成 18 年に比べ約 650 人の増加となるが、前述したように集計・分類された外科専
門科が平成 20 年はそれ以前と異なるため増減の評価が正確でない可能性がある。
全国病院勤務外科医専門科別医師数(参考図 2)の検討では、全病院勤務外科医に占める心臓血
管外科医と小児外科医の割合は長野県内のそれらとほぼ同じである。呼吸器外科医数と乳腺外科医
数の割合は長野県内のそれらよりも小さく、一般外科医と消化器外科医数を合計した割合は、長野
県内のそれよりも大きな割合を占めている。一般外科医の中には、長野県と同様に乳腺外科にも従
事する外科医が含まれている可能性がある。
全国の病院勤務外科医の年齢別の構成数は(参考図 3)、40~44 歳にピークがあり、その後年齢
が上昇するとともになだらかに減少していた。平均年齢は 42.9 歳と長野県より低かった。長野県
勤務外科医と全国勤務外科医の年齢構成の割合を比較した(参考図 4)。長野県においては、45~
49 歳の外科医数の割合が高く、40 代~50 代の外科医の割合が全国に比し高いことが示された。
全国病院勤務外科医専門科別年齢構成数では(参考図 5)、年齢構成のピークは外科、消化器外
科においては一峰性であり、それぞれ 40~44 歳、35~39 歳に認められた。各専門科の医師数は 45
歳以降比較的なだらかな減少を示した。全国病院勤務外科医専門科別年齢構成割合(参考図 6)で
は、一般外科医において 44 歳以下の医師の割合が最も低かった。全専門科を通じて 54 歳以下の年
齢群間において医師数割合の変動は軽度であった。
4
考察
地域医療崩壊の背景の一つとして地方における医師不足がある。この医師不足は、その原因によ
り医師養成数の抑制による絶対的不足と、医師の何らかの分布の偏りによる相対的不足に分けられ
る。この絶対的不足に対する施策として平成 20 年から医学部入学定員の増員が実施されたが、現
状においては 6 万人~12 万人の医師が不足しているとの報告もあり、何百人単位の医学部定員の
増員が将来どのくらい有効性を発揮できるかが問題と考えられる。さらに、医師の教育・養成に
10 年以上要することを考慮すると、増員による効果が出るのには、かなりの時間を要することを
念頭におく必要がある。一方、相対的な医師不足の原因として、医師の診療科偏在、地域偏在、開
業医へのシフト、女性医師の増加、診療科の専門細分化などが挙げられる。医師数は毎年 3000 人
から 4000 人増加する一方で医師不足に陥る病院も存在するという 2 つの相反した現実は、この相
対的な医師不足が地方の医師不足に非常に大きな影響を及ぼしていることを示唆している。
診療科偏在の一つとしての、外科医不足・外科医志望者減少が近年顕在化している。この外科
医志望者減少は、最近の若手医師の意識の変化に大きく影響されていると言われている。生活のク
オリティーやワークライフバランスを重視する傾向が強まっており、それに反する「過剰な労働量」
「労働に見合わない低い診療報酬・給与」、
「治療上の責任が重く、かつ訴訟のリスクも高い」、
「徒
弟制度がいまだに根強く、若い医師では、いわゆる下働きが必要となる」などの外科の現状は、外
科敬遠の要因となっている。また、現役外科医の意識も外科医減少に関与している可能性がある。
2006 年に日本外科学会が施行した 35 歳以下の若手外科医 265 人を対象とした全国アンケートでは、
「外科医を続けたい」とした人は、
「強く思う」と「そう思う」を合わせて 70%弱であったが、
「後
輩に外科医を勧めるか」の質問に対しては、
「強く思う」と「そう思う」を合わせて 30%弱にとど
まっていた。
“自分は外科医であり、外科医を続けたいが、後輩には勧められない”、とは、すなわ
ち外科医自身が様々な理由で疲弊し、外科の魅力を若い医師へ発信できなくなりつつある現状を示
しているものと考えられる。
今回の調査では、①長野県内の 49 病院における外科医の総数はこの 6 年間でわずかに増加し
ている。②外科専門科別では、一般消化器外科医のみが減少している。③外科医が増加している病
院は全体の 37%であり、その大部分が規模の大きな病院である。④長野県内の病院勤務外科医、
特に一般消化器外科医の年齢構成が不均衡であり、40~50 歳代の外科医の割合が全国より高い。
⑤各病院の外科医の不足数の積み上げ数の総計は 120 であり、うち一般消化器外科医数は 58 であ
った。⑥今後 5 年以内に、長野県内の外科医が約 21 名減少する可能性がある。との結果を得た。
これらの結果を解釈するに際して忘れてならないのはベースとなっている外科医数が絶対的に不
足している状況にあり、県内外科医師総数のわずかな増加は、実質的な増加を意味しないと考える
べきである点と、適正な地域の医師総数あるいは専門医師数が未だ明らかでなく不足・充足の客観
的判断が困難であり、不足数については各病院の不足数を積み上げた数になった点である。これま
での本邦における医師不足の議論の問題点として、診療実績ならびに地域での受療動向など、需
要・供給予測、実証的検討の欠如が指摘されている。今回、需要のパラメーター・診療実績として
の全身麻酔手術数を用いて、県内の不足消化器外科医数を試算したが、試算に基づいた不足消化器
外科医数と各病院記載の不足数積み上げ合計の差が 35 人と大きく、この結果からも医師の過不足
の評価の難しさが示されたものと考えられる。また、県内の外科医の年齢構成から、県内の外科医
師の高齢化が全国より早く進んでいる現実に注目する必要がある。年代別の医師数の大きな変化は、
世代ごとの役割分担のバランスが崩れる危険性をはらんでおり、突然の勤務医への負担増が外科医
の減少に拍車をかける可能性がある。
外科医不足の対策はどうあるべきであろうか。これらは、行政が立案すべき予算と規制からな
5
る行政施策と、医師の自律性にまかせた、より身近な誘導的施策に分けられると考えられる。前者
の予算を要する解決策としては、フィジシャンアシスタントなどの導入による外科医業の分業化・
労働生産性の向上、処遇改善と産科医療補償制度と同様な医療事故に対する仕組みなどが挙げられ
る。処遇改善として、診療報酬増、ドクターフィー導入、休日・時間外勤務への適切な支払いが考
えられるが、このうち診療報酬に関してはこの 4 月の診療報酬改定により難易度の高い手術の手術
料が 30~50%引き上げられるに至っている。一方で、国あるいは公的機関による規制的な診療科
調整についても議論が一部で行われているが、弊害が多いことが指摘されている。
後者では、大学における卒前教育、大学・県内病院における初期研修でいかに外科の面白さと
やりがいを教えることができるかが鍵になる。このためには、大学、県内の病院の外科医が、教育
と診療において学生と研修医の良きロールモデルとなるべく意識することが重要と考えられる。特
に大学においては、はつらつと働く若手外科医の背中を学生、研修医に見せることができれば必ず
や外科医を希望する若者が増加するに違いない。初期研修医は、学生のロールモデルとなるため大
学での初期研修医獲得も重要な要素である。また、学生・研修医教育の参画に対する医員あるいは
大学院生へのインセンティブ(手当)の導入や教官への任用増なども考慮すべきと考えられる。さ
らに、卒後 3 年目以降の後期研修・その後の外科医としての研修プログラムを、最近の医師のキャ
リアパスの変化・多様化に則して、柔軟かつ明確でより魅力のあるものにして行く必要がある。こ
れは、外科医の質を担保する点においても極めて重要と考えられる。地域で必要とされるのは、医
師の数ではなく、良医である。魅力あるプログラムは、県外出身、他大学出身者を呼び込み、長野
県に定着する医師を増加させるとともに長野県医療の様々な面における活性化効果を有している
ものと考えられる。
未だに、多くの国民が、欧米の成績を凌駕する良好な結果を残している本邦の外科医療が、外
科医の犠牲的努力の賜物であるとの認識に乏しいと言わざるを得ない。長野県においても、信州大
学外科に入局する若手医師がピーク時の約 3 分の 1 まで減少しており、地域病院からの外科医師派
遣の要求に応えられない現状を考慮すれば、ベテラン外科医のまさに骨身を削って地域外科医療を
守る姿は想像に難くない。長野県内の外科医と外科医療を守るためには、外科医療の現状を把握し、
それを県内の医療者、県民、学生、研修医へ訴えて行くことがまず必要である。
6
図と表
表 1:長野県における外科医の不足数(各病院よりの積み上げ数)
専門科
不足数
一般消化器
心血管
呼吸器
乳腺内分泌
小児
58
7
20
28
7
計
120
表2:今後 5 年以内に予定される外科医数の増減
外科医が減少(21 病院)
人数
他の病院への移動
退職
開業
大学への帰局
17
10
3
7
計
37
外科医を確保(10 病院)
人数
独自の養成
大学への依頼
求人活動
8
4
4
計
16
7
図 1:県内 49 病院における全身麻酔下手術総数の推移
16000
13948
14000
12688
12000
年
間
手
術
数
9388
10000
8268
8000
6000
4000
2000
1271
1637
931 917
799
1234
788 726
0
一般消化器
心血管
呼吸器
平成15年度
乳腺内分泌
小児
計
平成20年度
図 2:長野県内の専門科別外科医数の推移(49 病院)
平成21年度
159
平成15年度
163
0
50
35
32
100
150
25
17 9
19 13 8
200
250
乳腺内分泌
小児
人数
一般消化器
心血管
呼吸器
8
300
図 3:平成 21 年度の長野県内の専門科別外科医数(49 病院+信州大学)
小児, 10
乳腺
内分泌, 27
呼吸器, 33
心血管, 43
一般外科・
消化器, 191
図 4:6 医療圏における理想外科医数(平成 21 年度外科医数+不足数)と年間全身麻酔下手術数の
関係(一般消化器外科)
平成21年度消化器外科医数+不足数
50
y = 0.0188x + 5.1051
R² = 0.9658
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0
500
1000
1500
2000
平成20年度消化器外科全身麻酔手術数
9
2500
図 5:長野県病院勤務外科医年齢別構成数(平成 21 年)294 人/304 人
70
60
50
40
人
数
30
20
10
0
30-34
35-39
40-44
45-49
50-54
55-59
60-64
65-69
70-74
年齢群
図 6:長野県病院勤務外科医専門科別年齢構成(平成 21 年)
50
45
40
35
30
人 25
数
20
小児
乳腺内分泌
呼吸器
15
心臓血管
10
一般消化器
5
0
30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70-74
年齢群
10
図 7:長野県病院勤務外科医専門科別年齢構成割合(平成 21 年)
30-34
一般消化器
35-39
40-44
心臓血管
45-49
呼吸器
50-54
55-59
乳腺内分泌
60-64
65-69
小児
0%
20%
40%
60%
80%
100%
70-74
年齢群
11
参考図1:全国病院勤務外科医専門科別数の推移
4000
19,500
人
3500 数
(
19,000
3000 小
2500 児
・
2000 心
臓
1500 血
1000 管
・
500
呼
吸
0
器
外
科
(
18,500
人
数 18,000
17,500
外
科 17,000
)
16,500
16,000
平成20年
平成18年
平成16年
平成14年
平成12年
平成10年
平成8年
)
平成6年
15,500
年
参考図 2:全国病院勤務外科医専門科別医師数(平成 20 年)
呼吸器,
1427
乳腺, 757
小児, 633
心血管,
2823
消化器外科,
3899
外科, 12734
12
外科
呼吸器外科
心臓血管
小児外科
外科
参考図 3:全国病院勤務外科医年齢別構成数(平成 20 年)
4500
4000
3500
3000
人 2500
数 2000
1500
1000
500
0
30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70-74
年齢群
参考図 4:長野県勤務外科医と全国勤務外科医の年齢構成の比較
30-34
長野県勤務外科医(平成21年)
35-39
40-44
45-49
50-54
55-59
全国病院勤務外科医(平成20年)
60-64
65-69
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
70-74
年齢群
13
参考図 5:全国病院勤務外科医専門科別年齢構成数(平成 20 年)
2000
1800
1600
1400
外
1200
心臓血管 外科
1000
乳腺外科
科
800
消化器 外科
600
呼吸器 外科
400
小児外科
200
0
30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70-74
参考図 6:全国病院勤務外科医専門科別年齢構成割合(平成 20 年)
外
科
消化器
30-34
35-39
心臓血管
40-44
45-49
50-54
呼吸器
55-59
60-64
乳腺外科
65-69
70-74
小児外科
0%
20%
40%
60%
80%
100%
14
年齢群
資料 1
【長野県内の病院における外科医師数についての調査】
パート 1:医師数に関する調査
1. 病院名:
2. 御記入者のご役職:
3. 病院の病床数:
4. 病院の全医師総数(4 月~6 月の同一時点)をご記入ください。
医師総数
平成 15 年度
平成 20 年度
平成 21 年度
5. 外科専門科別医師数と総外科医師数(4 月~6 月の同一時点、卒後 6 年目以上)をご記入くだ
さい。
一般・消化器
外科
心血管外科
呼吸器外科
乳腺内分泌
小児外科
総数
平成 15 年度
平成 20 年度
平成 21 年度
6. 初期研修医数(各年度同一時点)をご記入ください。
卒後 1 年目
卒後 2 年目
平成 15 年度
平成 20 年度
平成 21 年度
15
7. 外科専門研修医(卒後 3-5 年目の外科医師)数(各年度同一時点)をご記入ください。
卒後 3 年目
卒後 4 年目
卒後 5 年目
平成 15 年度
平成 20 年度
平成 21 年度
各空欄には、それぞれ卒後 3 年目・4 年目・5 年目の外科に所属する医師の数の記入をお願いしま
す。専門研修プログラムによる研修医師と大学病院から派遣で関連病院研修中の医師を含みます。
8. 上記 7 の平成 21 年度の外科専門研修医(卒後 3-5 年目の外科医師)の構成についてそれぞ
れの人数をご記入ください。
卒後 3 年目
卒後 4 年目
卒後 5 年目
病院独自の専門研修
プログラムによる
研修医師数
人
人
人
大学より派遣され関
連病院研修を
行っている医師数
人
人
人
卒後 6 年目より貴院
のスタッフになる可
能性のある医師数
人
人
人
16
パート 2:病院の診療実績等に関する調査
1. 病院全体の年間延べ入院患者数、延べ外来患者数をご記入ください。
年間延べ外来患者数
年間延べ入院患者数
平成 15 年度
平成 20 年度
2. 外科専門科別年間全身麻酔手術数をご記入ください。
一般・消化器
外科
心血管外科
呼吸器外科
乳腺内分泌
総数
小児外科
平成 15 年度
平成 20 年度
3. 貴院での定年は何歳ですか
(
)歳
4. 貴院では、外科当直業務は何歳くらいまで行っていますか
(
)歳
17
パート 3:外科医師の構成に関する調査
1. 個々の外科の先生方(卒後 6 年目以上)の年齢および勤務形態などについてお答ください。
医師
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
年齢
性別
男・女
男・女
男・女
男・女
男・女
男・女
男・女
男・女
男・女
男・女
専門科
勤務形態
一般消化器

常勤職員
心血・呼吸器

大学からの派遣
乳内・小児

他(
一般消化器

常勤職員
心血・呼吸器

大学からの派遣
乳内・小児

他(
一般消化器

常勤職員
心血・呼吸器

大学からの派遣
乳内・小児

他(
一般消化器

常勤職員
心血・呼吸器

大学からの派遣
乳内・小児

他(
一般消化器

常勤職員
心血・呼吸器

大学からの派遣
乳内・小児

他(
一般消化器

常勤職員
心血・呼吸器

大学からの派遣
乳内・小児

他(
一般消化器

常勤職員
心血・呼吸器

大学からの派遣
乳内・小児

他(
一般消化器

常勤職員
心血・呼吸器

大学からの派遣
乳内・小児

他(
一般消化器

常勤職員
心血・呼吸器

大学からの派遣
乳内・小児

他(
一般消化器

常勤職員
心血・呼吸器

大学からの派遣
乳内・小児

他(
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
18
2. パート 3 の質問 1 の先生方の中に今後 5 年間のうちに病院を退職、移動、開業、休職する先生
はいますか。
① いる

②いない
前の質問で『いる』と答えた場合、その理由別の人数ならびに何年後かお書きください。
人数
何年後
退職
他の病院へ移動
開業
休職
大学への帰局
他(理由:
)
3. 今後 5 年間のうちに外科医師(卒後 6 年目以上)の貴院へのスタッフとしての就職は見込まれ
ますか。(一部パート 1 の質問 8 に内容が重複します。)
① 見込まれる

②見込まれない
前の質問で『見込まれる』と答えた場合、どのようにして外科医の就職が可能となったかその
方法別の人数ならびに何年後かお書きください。
人数
何年後
病院独自の外科医養成
様々な求人活動の成果
他院(系列病院)への依頼
大学への派遣依頼
他(理由:
)
19
パート 4:外科医師の不足数関する調査
1. 現在の様々な状況を考慮し、先生の病院で、さらに必要な(不足している)外科医師(卒後 6-10
年目以上を目安)のおおよその人数お書きください(専門科別)。
一般・消化器
外科
心血管外科
呼吸器外科
乳腺内分泌
小児外科
追加必要人数
(不足人数)
総数では
すべての外科
追加必要人数の総数
(不足人数の総数)
2.『医師不足、外科医師不足』について以下にご意見をお書きください。
ご協力ありがとうございました。
20
資料 2「長野県内の病院における外科医師数の調査」自由回答欄に記載された意見














外科医になるための修練期が長い、技術修得が大きなウエ-トを占めるので徒弟関係になりや
すいなどについて検討する必要がある(きっちりしたプログラムを作り、そのプロセスを保証
し評価するなど)。
常勤医の平均年齢 45 歳と高齢化に伴い、労働力の低下が見える。
地域唯一の総合病院として地域医療を担ってきたが、産婦人科、精神科に続いて外科常勤医不
足となり、医療崩壊が進行しつつある。消化器内科、麻酔科のスタッフはいるが、外科医不足
でモチベ-ションが下がってしまいがちである。
大学医局に魅力がなければ外科医は集まらない。医局の在り方を考えるべきだ。医師を志して
いる以上、始めから苦労することは嫌だとする人は少ないと思う。外科医の養成について再検
討が必要。
①当院の外科医師の高齢化が進行しており、高度な手術が出来なくなりつつあり、若年の外科
医師との連携が不可欠となりつつある。この点においても若手外科医師不足が大きな問題であ
る。②地方の中小病院へ赴任する外科医師は少なく、大学からの関連も稀薄となっている状況
で地域での外科医療の対応に苦慮している。
医師数がいくら増えても、へき地医療の改善は見込めず、役立つ医師の増加はないと考える。
医療従事者たるものはと指導できる機関や人材が必要。
社会問題化している医師不足、外科医師不足に対して、医師の偏在をなくし、地域の小規模病
院にも必要な医師の派遣が可能となるように国に要望していきたい。
外科医師不足への対応として、給与・処遇の改善が必要である。
外科医の業務が多過ぎる。外科医ができるだけ手術に専念できる体制を作るべきである。術後
の管理などは内科医にまかせられるようなシステムが必要である。また、外科医の専門性を高
め、できるだけ手術の数を多くこなせるようなシステムを作るべきである。集約も必要になっ
てくるではないかと思う。外科医のランク付け(手術件数・手術成績などによる)も必要にな
るのではないか。また、それに対する報酬も UP すべき。
原因の一つとして労働環境が整っていないことがあると思います。医師も労働基準法で守られ
るべきです。管理者(施設長)は医師を労働基準法で守るべきであり、この点について国民に
も理解を求めるようプロパガンダする責任があると思います。
医師不足の一つの要因として専門医制度が大きい。大学や大きな病院で専門医をすすめるのは
わかるが、地域のまた地方の病院の勤務医にとって専門医の維持は困難であり、どうしても症
例の豊富な大都会へ流れてしまう。一人の医師の専門は一つで、その標榜は大学病院等に限る
などの規制が必要である。
外傷や外科的治療を必要とする患者が減少していない状況です。外科医数の減少は負担を増加
させ、研修医の外科ばなれを増加させ悪循環となっている。対策としては、各病院における治
療対象疾患を整理し、必要なスタッフを揃えることで負担を軽減する必要がある。病院に応じ
た医師の適正配置を推進すべきでしょう。
若い医師での外科離れのため、地域の病院での将来像が描けない状況となっています。
①医学部学生に対して、外科医師が積極的に勧誘することが大事だと思います。大学あるいは
臨床実習の施設で外科医の魅力を多いに伝えるべきとおもいます。②社会的に外科専門医等を
21
もっと認めさせて、例えば診療報酬上に反映させる等の処置が必要と考えます。
外科医の診療報酬を上げることは必須である。医療事故にかかわる保証制度を充実させることも必
要である。また専門分野の改革が必要。即ち臓器別の専門科とし、例えば泌尿器科のように、消化
器科であれば外科・内科の区別なく、消化器の専門であれば診断から治療(手術も含めて)全てを
カバーできるようにす
22
23
24
25
26
27