野辺山 45-m 鏡を用いた超新星残骸 Cassiopeia A の CO 観測

野辺山 45-m 鏡を用いた超新星残骸 Cassiopeia A の CO 観測
第32回 NROユーザーズミーティング
⃝ 佐野栄俊 (Hidetoshi SANO, [email protected])
伊藤万記生, 福田達也,吉池智史,服部有祐,榎谷玲依,長谷川敬亮,臼井僚,服部桃,立原研悟,福井康雄 (名古屋大学)
Abstract
Cassiopeia A は,TeV-GeVガンマ線やX線で明るく輝く年齢330年程度の若い超新星残骸(SNR)であり,宇宙線加速の面から注目される.特にそのガンマ線放射は,
SNR 衝撃波で加速された宇宙線陽子と,周辺の星間ガスとの相互作用による陽子起源ガンマ線とされており,宇宙線陽子の起源を探るうえで興味深い.相互作用
する星間ガスが特定できれば,宇宙線の全エネルギーなどを定量することができる.
しかし,
これまで Cassiopeia A に付随する星間ガスは特定されていなかった.
我々は,野辺山 45-m を用いた高感度・高角度分解能 CO 観測を遂行し,SNR Cassiopeia A に付随する分子ガスの有力な候補を初めて同定した.興味深いことに,
この分子ガスは
~3.5 km s の膨張シェル構造を呈しており,blue shift 成分 (SNR に対して視線方向手前側) は,低エネルギーX線の吸収構造と完全に一致して
48
いる.
これらの結果から,相互作用している分子ガスの平均密度は nH 600 cm と計算でき,Cassiopeia A の宇宙線陽子の全エネルギーは W
erg と求まった.
Introduction
Observations & Data Reduction
年に
によって宇宙線 (高エネルギー陽子/電子/原子核) が発見
されてから 年が経過したいまでも,その主要成分である陽子の加速現場は
議論が続いている.E
eV の宇宙線については,銀河系内 SNR における
衝撃波統計加速
が有力であり,宇宙線電子については,SNRからのシン
クロトロンX線検出によって,既にその加速が明らかになっている[
].一方,
宇宙線陽子については,SNR からのガンマ線がその加速の を握っている.
⃝ 野辺山
による
観測
図4: 野辺山 45-m 電波望遠鏡
CO J
smoothing)
(
B
00
-0
.0
5
F:
W p:
n:
d: SNR
CMB, infrared
ガンマ線が陽子起源なら,そのフラックスは星間ガス密度に比例する (図1).
我々はこれまで4つのSNRについて付随する星間ガスを同定,
ガンマ線との空間
一致から宇宙線陽子加速を観測的に実証し,
その加速効率を定量してきた(表1)
年齢
(b) Velocity Range:
(a) Velocity Range:
)
図1: 宇宙線陽子/電子からの高エネルギー放射模式図.
天体名
積分強度図と Position-Velocity Diagrams
0.
F
Wp n
2
d
-
F
2
05
+
X
0
)
0.
(
Results
距離
半径
ガス密度
Wp (加速効率)
Ref.
48
-50
様々な年齢の SNRs について,
上記研究を拡張することは,SNR
における宇宙線陽子加速を理解
する上で必須となる.なぜなら,
観測されたガンマ線スペクトル
が,SNR の年齢によって変化して
いるように見えるからだ(図
.
そこで我々は,次のターゲット
として,年齢 340年の非常に若い
Cassiopeia A (Cas A) に着目した.
-40
-50
0.05
-0.05
Blue shift 成分と Soft band X-rays の反相関
4
3
図
におけるガンマ線スペクトルとモデル曲線 [7].
は,銀河
系内で 番目に若いSNRであり,多波長によ
る研究が最も進んでいる天体の つである.
- 重力崩壊型 SNR (core-collapse).
- 年齢 333年
に
- 距離
半径
- GeV-TeV ガンマ線の検出
⇒ 宇宙線陽子起源のガンマ線
References
0.00
図5: (a-b) CO積強度図にX線コン
トア
を重ねたもの.
3つの短冊は,位置速度図の積
分範囲.
位置速度図.
(運動学的距離 ~3.4 kpc, Cas A の距離に対応)を
視線速度
境に,分子ガスの膨張シェル構造 ( ~3.5 km s ) を初めて発見 (図5eの楕円).
ただし,
のガスも関係している可能性はある.今後の高励起線
観測による輝線強度比分布などから,付随の有無が明らかになるとみられる.
SNR Cassiopeia A
図3: SNR Cassiopeia A の composite image.
Chandra
Spitzer
-35
-35
-45
つの 陽子起源ガンマ線 SNRs における物理量. Wp は宇宙線陽子の全エネルギーを示す.
-40
(e) Offset-Velocity
48
表
-45
の観測はあるものの,SNR と相互
作用している成分の特定はされていない
.
0
分子ガスの膨張シェルのうち,blue shift し
ている成分と,
線の強度が低く
なっている領域が,完全に一致している.
SNRのすぐ手前側にある分子ガスによる
光電吸収の影響とみられる.SNRと膨張
シェルの位置関係はコンシステント.
← 図6: Cassiopeia A の
線イメージ
に,図5a の分子ガスをコントアで重ねたもの.
宇宙線陽子の全エネルギーと加速効率
Cassiopeia A と相互作用する分子ガスの質量は,一般的なX-factorを用いると
Mo,
また,
シェルの厚みを
とすると,平均密度 nH 600 cm となる.
48
ここで,W
(
/ nH)
より,W
erg (加速効率
Summary & Future Works
野辺山 45-m による Cas A の CO 観測によって,初めて分子ガスの膨張シェル
構造を発見した.X線との比較からSNRとの位置関係も矛盾はない.また,Wp
48
erg (加速効率
と定量できた.今後は
他を用いた高角度分解能+
多輝線観測を遂行し,星間ガスの物理状態や,X線放射との関係を明らかにする.